著者
谷崎 勝朗 周藤 真康 貴谷 光 荒木 洋行
出版者
岡山大学医学部附属環境病態研究施設, 岡山大学医学部附属病院三朝分院
雑誌
環境病態研報告 (ISSN:09133771)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.6-13, 1989-07

1988年1月より12月までの1年間に当院へ入院した慢性呼吸器疾患患者62例を対象に,背景因子,臨床的特徴および温泉療法の臨床効果について検討を加えた。1.対象62例のうちわけは,気管支喘息49例,瀰漫性汎細気管支炎4例,肺気腫4例,アレルギー性肉芽腫性血管炎3例,肺結核,気管支拡張症各1例であった。2.これら62症例のうち,温泉療法を受けた症例は41例(66.1%)であった。3.温泉療法を受けた症例の地域分布では,鳥取県からの入院症例32例では14例(43.8%)であり,同様に岡山県からの入院症例17例では15例(88.2%),その他の県からの入院症例13例では12例(92.3%)であった。4.温泉療法の臨床効果は,気管支喘息では33例中著効12例,有効15例,やや有効5例,無効1例で,明らかな有効例は27例(81.9%)であった。また温泉療法は瀰漫性汎細気管支炎,アレルギー性肉芽腫性血管炎などに対しても有効であった。Backgrounds, immpnological characteristics and clinical effects of spa therapy were examined in patients with chronic respiratory disease admitted at Misasa Branch Hospital in 1988. 1. Sixty two patients with chronic respiratory disease comprised 49 patients with brohchial asthma, 4 with diffuse panbronchiolitis, 4 with pulmonary emphysema, 3 with allergic granulomatous angitis, each 1 with lung tuberculosis and with bronchiectasia. 2. Forty one patients (66.1%) out of the 62 cases had spa therapy. 3. Out of 32 patients coming from Tottori prefecture, 14 cases (43.8%) received spa therapy. On the other hand, spa therapy was carried out for 15 cases (88.2%) out of the 17 cases from Okayama prefecture, and for 12 cases (92.3%) out of the 13 cases from the other prefectures (long distant areas). 4. Spa therapy was effective in 27 cases (81.9%) out of the 33 patients with bronchial asthma. Spa therapy also effective for patients with diffuse panbronchiolitis, and allergic granulomatous angitis.

1 0 0 0 OA 小腸腫瘍8例

著者
江里口 直文 西田 博之 久保田 治秀 原 雅雄 吉田 浩晃 星野 弘也 木通 隆行 中山 和道 大石 喜六
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.10, pp.2438-2441, 1990-10-01

今回11年間(1977年〜1987年)の小腸腫瘍自験例8例について検討し,また本邦における5年間(1981年〜1985年)の剖検例の検討を行なう機会をえたので報告する.8症例のうちわけは悪性リンパ腫3例,平滑筋肉腫1例,未分化癌1例,脂肪腫2例,平滑筋腫1例であった.症例の検討では穿孔例(悪性リンパ腫3例,平滑筋肉腫1例)を除く4例の主訴は,脂肪腫の2例で腹部膨満感および下腹部痛のように比較的軽度な症状を示し,平滑筋腫では下血を,また未分化癌では悪心,嘔吐および高度の腹痛であった.いずれも経口的小腸透視で術前病巣診断が可能で,病変部はTreitz靭帯近傍および回腸末端部であった. 日本病理剖検輯報少こよると発生頻度は0.2%〜0.4%と非常に低く年次的推移に特徴的なものはなく,組織型では癌腫,悪性リンパ腫,筋原性腫瘍が多かった.
著者
小國 英一 永田 博司
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.79-83, 1999-03

Machado-Joseph病に認められた特異な顔貌について生理学的解析を行った。これは, 片側閉眼と対側の前頭筋が収縮し, これまでの文献では不随意運動の一種と推測されている。症例は58歳男性で, 30年前に失調性歩行で発症し, 10年前に診断が確定した。神経学的には, 両側眼瞼下垂, 両眼性復視, 眼球運動障害, 構音・嚥下障害, 運動失調, 寡動, 筋萎縮, 筋力低下, 神経因性膀胱を認めた。解析には瞬目反射(BR), ビデオカメラによる運動記録(KR), 両側眼輪筋・前頭筋からの表面筋電図(sEMG)を用いた。 BRでは検出し得る異常はなく, KRでは顔面筋の随意性は保たれており, sEMGではこの顔貌と随意的片側閉眼の筋活動パターンが一致していた。これらの結果から, この顔貌は不随意運動ではなく, 眼瞼下垂と復視の随意的代償と考えられた。随意的代償運動が不随意運動に類似する例は他でも知られており, 障害評価の際には神経生理学的手法を用いた客観データを収集し解析する事が重要である。
著者
小泉 洋一
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

特定宗教が社会において圧倒的な支配力を持つフランスおよびトルコでは、公的領域から宗教を排除することによって政教分離を憲法原則とした。両国ともその際国家による宗教統制を伴いながらそれが行われた。フランスでは宗教の自由が尊重されるとともに社会における宗教的多様性が進むとともに国家の宗教的中立性が重視されたが、トルコでは国家による宗教統制を伴う国家の非宗教性に重点が置かれ、今日でも国家の宗教的中立性は軽視されている。わが国の神道指令と日本国憲法における政教分離を分析する際には、国家の非宗教性および宗教的中立性に注目することが有益である。
著者
福田 治久
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

医療界では安全水準を測定することが極めて困難であるために,安全活動の効果の検証もまた至難な状況下にある.本研究は,航空業界・化学業界・製造業界を対象にヒューマンエラーの未然防止の上で高い効果が期待できる安全活動についてヒアリングし,その活動を医療界に応用することを目的に調査を行った.その結果,インシデント報告に対する非懲罰化,報告の簡素化を進めることで報告件数が増加する傾向にあることが確認された.しかしながら,調査対象企業においては,安全活動の効果を検証可能な余地を認めたものの,定量的な実証には未だ至っておらず,今後さらなる研究を進めることの必要性が見出された.一方で,病院感染領域では,病院感染の発生を不安全な状態と捉え,感染による追加的治療コストの測定が可能である.また,当該コスト推計値は,感染対策の重要性を訴求する根拠として,さらに,感染防止方策の経済評価研究の参照値として活用可能なデータにもなりうる.しかしながら,当該コストの推計値は推計方法に大きく依存するという問題がある.そのため,第三者が活用する際には,報告された推計値の自施設・自国における外挿可能性を考慮する必要性が生じ,その検証には推計方法の正確性や推計結果の透明性の視点が不可欠となる.本研究は,2000年〜2006年に報告された英語原著論文を対象に,病院感染による治療コストを推計した論文を抽出し,平成19年度に開発したフレームワークに基づいて推計値の質を評価した.その結果,病院感染による追加的治療コストを推計した研究は50論文が確認され,そのうちわずか7報のみが,透明性・正確性を共に備えた推計値を報告していた.当該コスト研究は,感染対策に向けた資源配分の意思決定を大きく左右するために,第三者が転用可能な結果を報告することが極めて重要になる.本研究は,経済評価研究の新たな視点を呈示するものである.
著者
万代 道子 秋元 正行 高橋 政代 小杉 眞司
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

網膜色素変性の病態理解を深めるために、遺伝学的、免疫学的、各種臨床検査の結果などのデータを蓄積することにより、多面的な病態解析を試みた。まず、変性HPLCに基づくスクリーニング及び直接シークエンスによる確認を行うことにより、労力、経費を効率化して30に及ぶ原因候補遺伝子を網羅的に調べる遺伝子診断システムを確立した。この方法を用いて、典型的な色素変性患者250名を対象に遺伝子診断を行い、これまでに30症例において、疾患原因候補の遺伝子変異を検出した。これは、遺伝形式には無関係に遺伝子診断を行ったが、原因遺伝子の検出頻度が最も高いとさえる優性遺伝に限定した報告とほぼ同頻度の良好な検出率であった。また、検出された遺伝子のプロファイルもこれまでのわが国における報告と相同性が高く、スクリーニングとしての機能は十分果たしていると思われた。また、免疫学的アプローチとして網膜色素変性類縁疾患である自己免疫網膜症の原因の一つともされるリカバリン血清抗体価を加齢黄斑変患者を対照群として調べたところ、網膜色素変性患者において抗体価の上昇がみられた。特に抗体価の高い症例においては眼底所見に比べ強度の視野狭窄の進行や一時的に急激な悪化時期の存在など、二次的な自己免疫機序が網膜色素変性の進行をさらに修飾している可能性が示唆された。さらに臨床画像診断の多面的解析において、色素変性患者では、健常な色素上皮細胞の存在を示唆する自発蛍光を有する領域が、高解像度網膜光干渉断層像(OCT)で観察される健常な視細胞領域と一致するものと一致しないものとが観察され、前者では色素上皮と視細胞の変性がほぼ同時進行していると考えられるのに対し、後者においては視細胞の変性が先行し、変性の激しい領域で色素上皮からの自発蛍光が高輝度となっている可能性が考えられた。これらは色素変性において相互依存的である「視細胞-色素上皮」コンプレックスとしての変性過程が一様でないことを示唆していると思われた。
著者
半澤 直人 玉手 英利 中内 祐二
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ウケクチウグイは、分布が南東北の日本海に流入河川に局限され、生息密度が低いために生態や行動などが不明の絶滅危惧種である。本研究では、ウケクチウグイと比較対象のウグイが生息する山形県最上川水系と28年前に同種を調べた福島県阿賀野川水系を調査地として、ウケクチウグイの生息調査、飼育実験、およびDNA多型に基づく集団解析により、生態や集団構造を推定して絶滅の危険性を判定し、保全の方策を検討した。漁協、国交省河川事務所などの協力によりウケクチウグイの調査を進めた結果、最上川下流、阿賀野川上流ではかなりの個体数を確認したが、最上川上流ではほとんど確認できなかった。特に、唯一ウケクチウグイの産卵が確認されている最上川上流の産卵場では、平成18、19年春は前の冬が異常な暖冬だったせいか、産卵が確認できなかった。野外や飼育下での観察により、ウケクチウグイは魚食性が強いことが確認され、生息密度が低いのはこの食性に起因していると推察された。ミトコンドリアDNA解析では、最上川水系と阿賀野川水系のウケクチウグイ集団は明らかに遺伝的に分化し、全てのウケクチウグイ集団でウグイ集団より遺伝的多様性が著しく低かった。マイクロサテライト解析でもウケクチウグイ集団の遺伝的多様性は著しく低かった。2つの異なるDNAマーカーにより、最上川下流で始めてウケクチウグイとウグイの交雑個体が発見された。以上より、両水系のウケクチウグイ集団の個体数は激減して近親交配が進み、一部では種間交雑も生じて個体の適応度が低下し、絶滅の危険性がより高まっていると推察された。今後は、両水系のウケクチウグイ集団をそれぞれ別な保全単位として、産卵場や生息場所の保全対策を緊急に進めるべきである。
著者
沢田 壮兵
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.95-101, 1984-12-25

十勝地方に適したサイレージ用トウモロコシ品種の早晩性にっいて,帯広の過去33年間(1951〜1983年)の気温から検討した。サイレージ原料の適正な植物体乾物率は25〜35%とされている。戸沢(1981)が報告した乾物率が30%になるのに必要な播種からの単純積算温度を用いて,早中晩生の各品種を5月10,15および20日に播種した場合に,いつ絹糸を抽出し,乾物率が30%になるかを求めた。その結果,早生種は5月20日までに播種すると約70%の年で,帯広の平年初霜日である10月4日までに乾物率が30%となった。これに対し,晩生種は5月10日に播種しても,乾物率30%となる日は33年間のうちわずかに3年のみであった。中生種を5月10日に播種した場合には,初霜日までに乾物率30%となる年の割合は36%であった。無霜期間が短かくて,初霜の早い十勝地方では,中晩生種は生体収量は高いものの,熟度がすすまないため,栄養収量は低く,良質のサイレージ原料を得ることは困難である。従って,十勝地方でのサイレージ用トウモロコシ品種としては早生種の栽培が望ましいと考えられた。
著者
冨田 隆史 葛西 真治
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

一般に昆虫の雌成虫体内では,卵巣発育のためにエクジステロイドが分泌される。エクジステロイド合成系と性ホルモン合成系に関与するチトクロムP450の特定を目的として,マイクロアレイ法により86個のキイロショウジョウバエ全P450遺伝子の発現量を雌雄間で比較した。発現量に性差があった15種類のP450遺伝子につき,定量PCR法による検証を行った。エクダイソン合成系への関与が既知のCyp302a1とCyp315a1や機能不明なCYP6A19の遺伝子が雌成虫体内で約20倍多く発現していることを明らかにした。逆に,Cyp312a1は,雄成虫で数十倍多く発現していることが明らかになった。Cyp312a1遺伝子の多くは腹部で発現し,蛹期より徐々に増大し成虫5日目でピークに達していることから,この酵素は雄生殖器管内で働いている可能性が高い。フェノバルビタール(PB)はほ乳類,昆虫類,菌類などさまざまな生物種でP450の一般的な誘導剤として知られている。P450遺伝子の転写機構を解明する目的で,PBの誘導を受けるP450遺伝子をマイクロアレイ法により特定した。PB処理により10数種のP450が成虫体内で誘導されることを明らかにした。これらの中には殺虫剤抵抗性バエでDDT解毒作用を示すことが知られているCYP6G1の遺伝子も含まれていた。
著者
高宮 信三郎 進藤 典子
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.回虫成虫体壁および自活性線虫C.elegansのミトコンドリア蛋白のプロテオーム解析(1)大気圧下の好気的環境に生息する自活性線虫C.elegansと、宿主の腸腔という酸素分圧の低い環境に生息するブタ回虫の体壁から、高純度のミトコンドリアを単離する方法を確立した。(2)C.elegansとブタ回虫体壁からのミトコンドリア蛋白を二次元電気泳動で展開し、そのパターンを比較したところミトコンドリア蛋白の組成が両者間で著しく異なっていた。特に分子量45および31kDa付近において顕著な相違がみられた。C.elegansの蛋白の主要スポット18を切り出し、In-gel digestion後、質量分析計により解析した。C.elegans由来と確定された14スポットのうち11が、ミトコンドリアに局在する蛋白として同定された。そのうちわけをみると、ATP合成酵素のサブユニット(atp-2)、ヒートショックプロテイン(hsp-60)、プロピオニルCoAカルボキシラーゼのα、βサブユニット、TCA回路の構成酵素であるリンゴ酸脱水素酵素およびアコニターゼ、グルタミン酸脱水素酵素であった。また、ミトコンドリア外膜に局在するポーリン様の蛋白も見いだされている。2.回虫呼吸鎖複合体および酸化還元蛋白の分子特性解析(1)回虫成虫体壁のシトクロムb5前駆体を大腸菌で発現させたところ、native蛋白と同一な性質を有した蛋白がペリプラズムに輸送された。本蛋白はワンステップのイオン交換クロマトで精製され,大量調製に適した発現系である。(2)回虫L3複合体II CybSサブユニットの分子クローニングを行ったところ、成虫のものとは異なったものであることが明らかとなった。3.今後の展望:計画した項目は一部未達成であるが、上述のように、比較的少量の材料から高純度のミトコンドリアを調製する方法を確立し、ミトコンドリア蛋白を一部マッピングできたことの意義は大きく、今後,回虫成虫と幼虫の解析を飛躍的に進めたい。
著者
井ノ口 順一
出版者
宇都宮大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1)2003年に発表した論文Minimal surfaces in 3-dimensional solvable Lie groups, Chinise Annals of Mathematics B24(2003),73-84において3次元ユークリッド空間・3次元双曲空間・双曲平面と直線の直積,これらをすべて含む3次元等質空間の2径数族を構成した。族内の空間はすべて可解リー群である。この2経数族に属する各空間内の極小曲面に対するガウス写像の満たす積分可能条件を求めた.この積分可能条件を用いて,ガウス写像とある複素数値函数の組が極小曲面を定めるための必要十分条件である偏微分方程式系を導出した.その偏微分方程式の解から極小曲面を与える積分表示公式を与えた。この公式はユークリッド空間内の極小曲面に対するWeierstrass-Enneper公式を一般化したものである。論文:Minimal surfaces in 3-dimensional solvable Lie groups IIとしてBullentin of the Australian Mathematical society誌に掲載が決定した。2)極小はめこみ・調和写像の拡張概念である重調和写像・重調和はめ込みの具体例の構成を研究した。3次元双曲空間・3次元ユークリッド空間には極小でない重調和曲面が存在せず,3次元球面には極小でない重調和曲面は特定の半径をもつ小球のみであることが知られている。これらの事実に立脚し,極小でない重調和曲線・重調和曲面を許容する3次元等質空間を考察した。とくに3次元既約標準簡約等質空間内の重調和曲線を分類した。この成果はJong Taek Cho氏,Jin-Eum Lee氏との共著論文Biharmonic curves in 3-dimensional Sasakain space formsとしてAnnali di Matematica et pura Applicata誌に掲載が決定した。
著者
小林 優 間藤 徹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ペクチンは植物細胞壁を構成する主要成分のひとつであり,荷電した親水性ゲルとしてプロトプラストを取り巻く微小環境の維持,外部環境からの養分吸収等に重要な役割を果たすと考えられている.本研究ではペクチンの生理機能をより詳しく理解するため,ペクチンの部分領域であるラムノガラクツロナンII(RG-II)に構造変異を導入しその表現型を解析することを試みた.変異導入部位としてRG-IIの特異的構成糖KDOに着目し,その生合成に必要な酵素CTP:KDOシチジル酸転移酵素(CKS)のT-DNA挿入変異株を探索したが,ホモ変異株は得られなかった.今年度はこの原因について解析を進めた結果,cks変異は花粉の形成・発芽には影響しない一方,花粉管伸長を著しく阻害することを明らかにした.In vitro発芽させた変異型花粉は花粉管が短く径方向に膨れていた.この結果は,通常の細胞分裂・伸長過程では変異型RG-IIでも致命的な機能欠損が起こらないが,花粉管のように急速に伸長する組織ではKDOを含む完全なRG-IIが必須であることを示唆し,生殖成長過程におけるペクチンの重要性が示された.ペクチンと結合する受容体型キナーゼの一種,細胞壁結合型キナーゼ(WAK)の機能研究を行った.タバコのWAKホモログNtWAKL1にアフィニティ精製タグを付した融合タンパク質をタバコ培養細胞で発現させ,界面活性剤で可溶化・アフィニティ精製した標品をblue native PAGEに供した.NtWAKL1の見掛けの分子量は500kD程度となり,複合体として可溶化されていることが示唆された.この標品を二次元電気泳動に供し検出されたスポット1種類の質量分析を行った結果,機能未知のタンパク質が検出された.今後より多くのスポットを分析することでWAKの相互作用分子が明らかとなり,機能に関する手がかりが得られると期待される.
著者
大丸 利沙
出版者
国際医療福祉専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的:片脚落下着地動作時の膝関節外反および内旋は,膝前十字靭帯(ACL)損傷の危険肢位とされるが,足部の状態と膝関節の関係を検討した報告は少ない.そこで,足部回内可動性の評価であるnavicular drop test(NDT)と着地動作時の膝関節との関係および内側アーチサポート(アーチサポート)による着地動作時の膝関節への影響を検討した.○研究方法:対象は健常成人女性14名とした.まず,非荷重時と荷重時の舟状骨高の差を値とするNDTを測定し,得られた中央値を境に高値群(8名)と低値群(6名)に分類した.着地動作の課題は,30cmの台上より左片脚にて台の前方へ着地することとし,アーチサポートの影響を検討するため,裸足とアーチサポート装着の2つの試行条件で測定を行い,それぞれ3回の成功試行を採用した.動作中の各関節角度は三次元動作解析装置を用い,着地直後より52ms間の股関節内外転・内外旋,膝関節内外反・内外旋,足関節回内外の角度変化量を算出し,3回の平均値を解析値とした.各関節にかかる外力によるモーメントは床反力計を用いて測定し,解析項目は膝関節内外反・内外旋とした.統計学的分析は同一被験者のアーチサポートによる影響にはt検定を行い,NDTの群間比較には等分散の検定を行った後,対応のないt検定あるいはWelchの検定を行った.有意水準は,0.05未満とした.○研究成果:アーチサポートの有無による比較では,NDTの低値群においてアーチサポートを装着した方が着地後32ms~52ms間の膝内反モーメントの最小値が有意に大きくなった.NDTによる比較では,高値群が低値群に比べて着地後52ms間の膝関節内旋角度変化量が有意に大きく,膝関節内旋角度変化量が有意に小さくなった.本研究の結果から,片脚落下着地動作においてNDTの値が小さい場合,アーチサポートを装着することで外反モーメントの発生を回避できる可能性があることが示唆された.またNDTの値が大きい場合,片脚落下着地動作においてACL損傷リスクが高くなることが示唆された.
著者
浜岡 隆文 伊坂 忠夫 藤田 聡 高波 嘉一
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

筋不動化(21日間の上肢ギプス固定)期間中の運動トレーニング(握力の30%強度の持久トレーニングと握力の70%での筋力トレーニング)やサプリメント投与(クレアチン10g/日)が、筋および血管の形態・機能に及ほす効果の検討を目的とした。測定の結果、運動トレーニングにより筋不動化中の各機能の低下は抑制できたが、クレアチン投与は、固定による各種機能の低下を改善することは確認てきなかった。最大下運動時のクレアチンリン酸の回復には筋血流は関与しなかった。
著者
内藤 林 森 淳彦 箕浦 旨彦 高木 健 別所 正利 一色 浩
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

次の研究成果を得た。1)船首可動翼の制御について考察を深め、可動翼を制御するための入力信号を明確にすることが必要であることから、船首船底圧力を制御信号に選定することにし、その可能性を調べる実験を行った結果、船首船底圧力と、翼への流入迎角の間には明確な相関関係があることが実験的にも明らかになった。船首船底圧力の計測は容易であり、圧力計測装置は安価なことから、良い制御信号であるとの結論を得た。2)船首船底圧力と、翼への流入迎角の間の周波数応答関数(A)を求めた。更に、その結果を使い時間領域のインパルス応答関数(A)を求めた。それを使い、規則波中で予測した流入迎角と、その実測値を比較し、船首船底圧力を使って船首翼への流入迎角を十分な精度で予測できることを示した。3)船首船底圧力を使って不規則波中における船首翼制御の初歩的な検討を、下記の手順で計算機シュミレーションを行い、検討した。(1)船首翼が最も推力を出す場合の、船首船底圧力と翼への流入迎角の間の周波数応答関数(B)を求める。(2)それの時間領域の表現である、インパルス応答関数(B)を求める。(3)船首船底圧力の実測値とインパルス応答関数(B)から求められた信号をリファレンス信号とし、船首船底圧力の実測値とインパルス応答関数(A)から求められた信号の差を補償する制御回路を設計した。(4)船首固定翼の場合と可動翼の場合について推力を計算比較した所、可動翼にすることで固定翼が発生する推力の1.5倍以上の効果があることがシミュレーション上で確認できた。(5)翼への流入迎角が15度以上になった時、翼は失速するが、その影響は統計的等価線形化手法を使って考慮した。本来、失速しないように制御することが可能であり、今後その制御法を考察する。4)船首翼を制御することで、推力発生だけでなく大幅な横揺れを軽減できることを昨年の研究で示した。更に、コンテナー船等の場合、ラッシングレスコンテナーにすることの可能性について検討を行い、その可能性が大きいことを示した。これはアンチローリングフィンは船体中央に設置することよりは、改良を加えて船首に設置する方が、よりフィンの有効性を拡大することになり、効果的であることを示すものである。5)波エネルギーの有効利用の可能性をより一層広げるために、船首にムーンプールを作り、そこに設置したウェールズタービンでエネルギーを吸収し、それを船内電源に利用する方法に関する基礎的検討を行った。ムーンプールを作るために船内空間を一部使用することになる経済的損失との兼ね合いがあるが、一つの大きな可能性を示すものである。
著者
浜岡隆文
雑誌
日本ME学会雑誌, 特集 運動時の代謝量の測定
巻号頁・発行日
vol.8, no.11, pp.22-29, 1994
被引用文献数
21
著者
近藤 ふさえ 中島 亨 鈴木 麻美 田中 伸一郎 田中 利明 下山 達宏 半田 桂子 浅間 泉 古賀 良彦 石田 均
出版者
国際生命情報科学会
雑誌
Journal of International Society of Life Information Science (ISSN:13419226)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.435-443, 2006-09-01

本研究は、T2DMを対象に携帯型身体活動測定器(以後Actigraphと略す)を用いて測定した。睡眠時活動量とPittsburgh睡眠調査票(PSQI)、起床時睡眠調査票AM版(OSA)、およびHbA_<1c> を分析した。その結果、T2DMでは高齢者よりも非活動期(睡眠期)時の活動量(mG)が多く、入眠時の活動と中途覚醒による活動が推察された。HbA_<1c>が高いほどGlobal scoreは高くなる傾向はあるが、有意な差は認めなかった(r=0.30, p=0.304)。また、OSAでは「I起床時眠気」「II入眠と睡眠時間」で平均より低かった。T2DMは「眠れない」と自覚する以前に睡眠障害が出現している可能性が示唆された。