著者
松本 佐保 廣部 泉
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究補助金の成果として、研究代表者は、英国における国際関係史学会で、18年度にThe Yellow Peril and the Russo-Japanese war-The Racial question and Anglo-Japanese relations-, 19年度にJapanese Pan-Asianism and the West, 1894-1919, 20年度にAustralian defense policy and White Australian policy, 1901-1921という題目で三回学会発表、また日本では日本オーストラリア学界で20年6月に「オーストラリア移民規制問題と大英帝国の問題、1894-1924年」という課題で白豪主義と日系移民の問題について成果発表を行った。本発表はインドという英国にとって重要な植民地からの白人自治領への移民問題がインド・ナショナリズムを生み、これが後にインドがアジア主義運動に関わるきっかけになったなど、次なる研究への発展にもつながった。なお、The Yellow Peril and the Russo-Japanese war-The Racial question and Anglo-Japanese relations-は『中京大学紀要』(2007年)、Japanese Pan-Asianism and the West,1894-1919は『東北学院大学紀要』(2008年)に論文として、オーストラリア学会での報告は『西洋史学』(2008年)の学会発表報告という形で掲載された。またこれら成果の集大成として、英国の高水準の学術書出版社と知られるオックフォード大学出版会から共著、The Diplomats' World, a cultural history of diplomacy, 1851-1914として2008年の12月に出版された。以上の経緯から本研究は人種問題を国際関係などの政治・外交研究において位置付け、外交文化史研究という新しい研究分野を切り開き、学会への多大なる貢献となった。
著者
安達 修一 大山 正幸 辻野 喜夫 小田 美光 亀田 貴之
出版者
相模女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

日本へ-来する黄砂粒子について、成分の化学分析、肺に-着した-の生物学的影響などを調べた。その結果、大阪と韓国ソウルで集めた黄砂粒子から大気汚染物質が検出され、-来する過程で都市や工業地帯の汚染物質を付着したと考えられる。肺に入った-の影響は、汚染のない黄砂粒子に比べて強く、付着した成分が健康影響を及ぼすことを予測させる結果である。黄砂粒子に含まれる発がん物質の量は、これだけで肺がんを発生するとは考えにくい量であるものの、要因の一つになることが考えられ、今後検討すべき課題である。
著者
原 由香里 佐竹 晋輔 鵜野 伊津志 竹村 俊彦
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.719-728, 2004-10-31
参考文献数
16
被引用文献数
3

2000年から2002年にかけて日本における黄砂観測日数は急激な増加傾向を見せたが,2003年は一転して非常に観測日数の少ない年となった.このような黄砂現象の年々変動のメカニズムを明らかにするため,領域ダスト輸送モデルを用い,1993〜2003年の11年間の春季)2月20日から4月30日)を対象に黄砂の発生・輸送過程のシミュレーションを行った.黄砂観測日数データやTOMS Aerosol Indexを用いた比較から,モデル結果は観測された年々変動を再現していることが確認された.また,シミュレートされた黄砂現象の年々変動から,黄砂多発年と非多発年の間には大気境界層内の輸送経路や輸送量に明らかな違いが見られた.更に,ECMWF客観解析データを用いた気象場の解析から,モデル結果の発生量と発生源域の強風発生頻度の間には強い相関が見られ,ジオポテンシャル高度のアノマリー解析から発生源域の強風発生頻度や輸送経路が説明されることが明らかとなった.
著者
佐藤 佳郎 高田 肇 片山 順
出版者
京都府立大学
雑誌
京都府立大学学術報告. 人間環境学・農学 (ISSN:13433954)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.75-86, 1998-12-25

コレマンアブラバチ(Aphidius colemani)とショクガタマバエ(Aphidoletes aphidimyza)が, ワタアブラムシの生物的防除素材として, 1998年4月に農薬登録された。京都府京都乙訓農業改良普及センターは京都市上賀茂のキュウリ栽培ビニルハウス(側面開放型, 網なし)において, これら2種天敵昆虫を1997年5月2日から1週間間隔で計4回放飼して防除試験をおこなった。著者らはワタアブラムシとその天敵昆虫の発生量, 特に捕食寄生バチ類の動態を調査した。ワタアブラムシは5月中旬に1か所(数株)で大発生し, 6月にはそこからハウスのほぼ全域に広がり, 天敵からのエスケープ状態となった。サンプリングしたアブラムシの捕食寄生バチによる寄生率は平均67%(解剖による), コレマンアブラバチは一次捕食寄生バチの81%を占めた。サンプリングした茶褐色丸型マミーから, コレマンアブラバチは13%しか羽化しなかったのに対し, 4科8種にわたる二次捕食寄生バチが39%も羽化した。黄色粘着板トラップにはコレマンアブラバチより在来のアブラバチLipolexis gracilisが18%多く捕獲された。本試験の結果から, 天敵昆虫を有効に利用する方法を考察した。
著者
植田 宏文 藤原 秀夫 丸茂 俊彦 五百旗頭 真吾 林田 秀樹
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、資産の証券化を通じた市場型間接金融の拡大等に代表される金融システムの変革が、どのような経路を通じて経済の成長に資するのか、さらにその問題点は何かについて理論・実証的に明らかにすることを目的として分析を継続してきた。これらの分析は、現在における経済諸問題の背景を明確化させ、混迷を深める今日において将来のあるべき方向性を示す上でたいへん意義があるものと言える。
著者
田中 美栄子 田伏 正佳
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究では人工知能の基礎となるような複雑系科学に的を絞り、経済系、脳の解明に応用数学の経験と計算能力を投入することを目的とした。主テーマは経済情報物理学、人間乱数のHMMモデル、非侵襲的診断へのニューラルネットワーク応用、エージェントの協調、であるが、経済情報物理学の占める割合が特に大きかった。初年度は協力者田伏との共同研究で、次年度以降は代表者田中が単独で、学部学生9名の卒業研究テーマとしても用いながら行い、モデルと実データの解析から様々の新たな知見を得ることができた。後半には研究の重点を複雑系としての経済現象にしぼり、「経済物理学」と「人工市場」の二つ研究グループと接触を保ちながら、経済物理学はポジティブフィードバックによるマルチエージェント・シミュレーションから、パラメータ空間が二つの相に分かれその臨界点に対応する値でちょうど実際の高頻度金融データと同じ統計性を示すことを具体的な形で明らかにした。結果の前半は2001年4月発行のINFORMATION誌第4巻に、後半はEmpirical Science of Financial Fluctuations(Springer,2002)に掲載された。また、高頻度金融(TICK)データの性質を高速コンピュータ解析で扱い、スケール不変な統計性から乱流との類似、細かな動きの予測可能性、および多国間の為替の同時取引を仮想的に行った場合の裁定機会とその緩和時間について具体的な知見を多く得た。最後に複雑系経済学の国際的な研究センターの一つであるサンタフェ研究所を2月に訪問して意見交換を行った。人間乱数の研究は実データの時系列解析により個人の性格に対応した特徴をパラメータに取り入れることが可能であることを明らかにした。非侵襲的診断へのニューラルネットワーク応用は吉田氏の開発した計測機器と共に特許申請した。
著者
北山 斡人
出版者
福岡工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

焼結助剤としてランタノイド中最もイオン半径の大きなLaと最も小さなLuの酸化物を選択し、(1-x)La_2O_3+xLu_2O_3(x=0,0,1,0.2,0.3,…,1)の混合比で窒化ケイ素焼結体を作製し、その…転移の活性化エネルギーを決定した。その結果、x=0.3でx=1の値にほぼ等しくなった。このことは、イオン半径の小さな希土類元素が、より強く窒化ケイ素粒界界面に結合することを強く示唆する。
著者
竹谷 和之 アンドレス オルティス・ 武内 旬子 東谷 頴人 ORTIZ-OSES Anders オセス アンドレス・オル アンドレス オルティス.
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

本研究ではバスク民族スポーツの分布地域を都市部(平成8年度)、山間部(平成9年度)および海岸部(平成10年度)に区分し調査・研究を実施した。都市部(主にビルバオ市やビトリア市)ではバスク経済の発展とともに、新しい価値意識が浸透しており、バスク人の民族スポーツに対する深い思い入れは希薄になりつつある。しかしスペクタクル性の高いバスクスポーツ(ペロタ)には多くの人が観戦に赴き、勝敗に賭けることにより昔ながらの「スポーツ」を維持している。形態は近代化してはいるもののバスク人のアイデンティティを確認する装置として機能している。守護聖人祭では、プログラムの中にバスクスポーツのエキシビションが組み込まれているが、これは観光としてのスペクタクルである。山間部(スペイン・ナバラ県北部、フランスバスク東部)では都市部のような急激な変化は見られないものの、経済中心社会の影響は徐々にではあるがバスクスポーツにも及んでいる。余暇や娯楽が少ない地域ではバスクスポーツに多くの人々が集まる。これは民族スポーツが伝承されてきた自然環境の中で行われることに意味があると思われる。つまりバスクスポーツの原初形態である労働が残存している地域ではまだその価値は失せていない。労働がよく理解できるからこそより人々の関心が集中するのである。海岸部(スペイン・ギプスコア県やフランス・ラブール地方)では動物を使用した儀礼的なスポーツが多く見られることである。とくに「ガチョウ」「アヒル」といった名称で知られているスポーツは、水、船、落下及び耐久力などが構成要素であり、参加者の勇気と「残酷性」をあわせもった内容となっている。この残酷性を除去する方法として、都市近郊の村落ではこれらの動物の代わりにボールが使用される。ここでは動物使用の本来の意味は消失し、単なるスポーツへと変容しているのである。伝統を重んじるとされるバスク人の価値基準が変化していることもここで確認することができる。これらのスポーツに共通するのは、民族スポーツに固有の精神的側面が見られないことである。キリスト教の普及により、バスクスポーツはキリスト教文化に組み込まれているのである。
著者
横川 宗彦 大竹 浩靖
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

環境保護の観点から,油剤を使用しないセミドライMQL加工やドライ冷風加工などにおいて,空気単層流の加工点の冷却メカニズム,加工熱と供給空気冷却との熱収支限界の基礎関係を把握するための実験と解析をし,また実際のCBN研削により確認した.赤外線加熱器によって,想定した加工熱を工作物に与え,その加熱点に与える空気の供給状態を変化させ実験を行い,また加工点の空気除熱伝熱関係を逆問題解析し,種々の供給条件における冷却特性を求めた.供給空気の流速が速く,低温になるほど,加工点および周囲の冷却性が高くなるとわかった.また,CBNホイールで高能率冷風円筒研削を行い,工作物の表面組織状態,硬さ分布,残留応力分布を測定した.0.2Nm^3/min,-60℃の冷風で,高能率研削でも油剤と同じ冷却効果が得られることを確認した.さらに,高速空気流の中に水滴ミストを混入させ,ミスト添加による乱れの増加や潜熱による冷却性向上を目的に基礎実験と解析を行い,その効果を明らかにした.流速をレーザドップラー流速計で測定し,加熱点における液滴や液膜の状態を高速CCDカメラによって測定,観察した.加熱点温度は電圧制御され,定常状態にし,外挿値により加熱表面温度をフーリエの法則を用いて壁面熱流束を求めた.水滴を添加させたことによる気相の攪乱効果よりも液膜形成による潜熱効果が大きいことがわかった.水滴量0.3L/hでは,空気単層流の約3倍であり,水滴量に比例して冷却性効果があった.また,水滴速度が速い方が熱伝達率が高くなることがわかった.しかし,冷却性を高めるためにはある程度以上の水滴量が必要とわかった.以上のように,空気単層流でも流量を少なくしても,流速を向上させることにより熱伝達率が向上し,冷却性が向上する.また水滴を圧縮空気とともに供給することによって,潜熱から冷却性が高くなることがわかった.
著者
木下 博雄 渡邊 健夫 格内 敏 YASHIRODA Yoko YOSHIDA Yukiko KAMEMURA Kazuo 新部 正人
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、次世代リソグラフィ技術である極端紫外線露光法を2009年までに実用化するために、その課題の一つであるマスク基板の無欠陥化を目標とする。このため、多層膜が形成されたガラス基板上の欠陥を露光光と同一のEUV光で直接観察し、さらにミラウ型の位相差干渉顕微鏡の構築により、サブナノメートル(0,03nm)の微細な表面界面の3次元像の形成を実現させる。当該研究機関において、1)EUV顕微鏡の製作、2)ビームスプリッタの製作技術、3)プログラム欠陥をもつ位相欠陥マスクの製作と評価、を進めた。1)については、形状精度、表面粗さともに、0.3nm以下を満足させるNA0.3、30倍のシュバルツシュルト光学系を入手し、ニュースバルビームライン3に設置した。2)については、厚さ100nm以下のメンブレン構造とせねばならないことから、膜応力の低減、均一化など、さまざまな改良を進めているが、未だに干渉実験に供するものが出来上がっていない。3)のプログラム欠陥に対しては、HOYAの協力を求め、高さ5nm、幅90nm〜500nmの凹凸欠陥をもつガラス基板に多層膜を形成したマスクにて評価を進めた。この結果、凹、凸とも5nmの高さで90nmの幅をもつ立相欠陥の観察に世界で初めて実現できた。本研究課題の位相差型顕微鏡の開発は、ビームスプリッタの製作の困難さから、現時点では実現できなかった。しかしながら、極端紫外線領域での顕微鏡により位相欠陥の観察が可能となり、ほぼ初期目標を満足させることが出来たと考えている。この種の位相欠陥の観察として、ゾーンプレートを用いる方式も米国Berkeley研究所で行われているが、本方式が解像度、観察領域ともに優れている。今後、この成果は、極端紫外線リソグラフィ用のマスク評価として、HOYA、旭硝子、Seleteの国内機関の他、Samsung電子等に解放し、利用研究が進められる。
著者
三浦 泰之
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究課題では、近世中後期から近世近代移行期における北海道・東北・北陸(以下、北日本と呼ぶ)の各地域で行われた芸能興行について基礎的なデータを集積し、芸能者・芸能集団の移動とそれぞれの地域における興行主の動向や存在形態及び興行主間のネットワークに着目することで、当該期の北日本に展開した芸能興行をめぐる政治的・社会的・文化的な状況を明らかにすることを目的としている。本年度は、前年度までの調査で重要性を把握した青森県内に重点を置いて調査を進めた。具体的な内容は以下の通りである。1、前年度に引き続いて、弘前藩庁の日記である『弘前藩御国日記』(弘前市立弘前図書館所蔵)の記載から、弘前藩領内における芸能興行に関わる内容を抽出し、データベース化を実施した。具体的には、城下町弘前や青森・鰺ケ沢などの地方都市における芸能興行の実態や興行主の動向、弘前藩領を往来した、松前・秋田・仙台・江戸・大坂などに出自をもつ旅芸人の存在形態を具体的に示す史料を収集した。同日記は、寛文元年(1661)から元治元年(1864)の間、全3300冊余が残されているが、芸能興行に関わる主な記事は抽出することが出来たと考えている。2、青森県立図書館所蔵の菊池家文書(南部藩の給人で代々、下北半島の田名部代官所下役)と西谷家文書(弘前藩の支藩、黒石藩領内の商人)の調査も行い、芸能興行に関わる記述を抽出した。今後は、本研究課題で集積した史料をもとに、松前・蝦夷地に視座を置きつつ、当該期の北日本社会における芸能興行の様相、北日本社会を往来した芸能者・芸能集団の動向、興行主間のネットワークなどについて考察を深め、北日本社会の構造や文化的特質の解明を進めていきたいと考えている。
著者
高橋 信雄
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1,親の意識は、音反応出現後に安堵感を示し、その後、就学前までは聴覚とことばを意識していた。就学後は、聾学校の場合には手話を、通常小学校の場合には子どもの得意とするコミュニケーションを心がけているが、聴覚への意識が十分には持続できないことが多かった。教師側は、聾学校では聴覚活用の意識が十分でなく、通常小学校では聴覚的な配慮が十分ではなかった。2,対象児の変容:(1)コミュニケーション様式の変容:通常学校に通う児の場合、聴覚口話が多いが、十分には通じないと思われる児では、手話を併用している。この場合、親も子も手話が十分でなく、簡単な日常生活程度の簡単な手話しか使用されず、コミュニケーションが不十分となるだけでなく、意味概念上の深まりが極めて浅いことがわかった。(2)聴覚情報処理上の変容:コミュニケーションモードの種類に係わらず、術後の年数と共に向上していった。音声情報処理能力は、電極の挿入具合ばかりでなく、術前の聴覚的な活用能力が大きく影響していると思われる。(3)言語能力の変容:小学校の低学年では、読字力、語彙力、文法力、読解・鑑賞力の各領域において学年相応の力を持っているが、聴覚的情報受容力が十分でない群では、読字力以外の領域の力は、学年があがるにつれて伸びが鈍くなった。(4)話しことばの変容:構音は、年数と共に改善が認められたが、聴取能力に依存するところが大きく、個人差が大きかった。また、聴取能力の向上だけでは、一部の音は歪んだり、鼻音化することも多く、発音指導が必要であった。手指コミュニケーションモードの児ほどその傾向は強かった。(5)聾学校では、体系的なリハビリプログラムがなく(93%)、病院・リハビリ施設・学校との連携したプログラムが必要と思われた。いずれの項目も、個人差が大きく、リハビリ後の親や教師などの意識が、術後の成績に大きく関連すると思われた。