著者
二村 克行
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、子どもの「社会性・相互性」の成長・発達が、メディア依存を深めることで阻害されているのかどうかを明らかにすることにある。結果として、テレビ・ゲーム機器に多くの時間を費やすことで、友人や、家族との協調的な関係を築くことに消極的なってはいない(交流に時間や機会が減少しているとはいえない)こと、さらに、食事や買い物を共にする機会の有無に関連することを明らかにした。
著者
兼田 繁
出版者
福島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究では、わが国最大の原発集中立地地域である福島県浜通り地方を対象として、原発立地による地域社会の変動を、地元各自治体の対応経過、住民生活と住民意識の変化、住民運動の形成・展開過程を中心に、実証的に明らかにしようとした。そのために、数次にわたる地元自治体、原発関連諸機関、住民運動リ-ダ-、住民各層に対する聞き取り調査及び楢葉町住民を対象としたアンケ-ト調査を実施した。また、最近の東北地方における地域振興と原発関連施設立地をめぐる問題状況を把握するために、青森県下北半島の核燃料サイクル施設、岩手県釜石市の核廃棄物地下実験施設、宮城県女川町の原発増設に関する動行について、現地視察を実施した。さらに福島第2原発事故をめぐる新聞報道や原発推進政策及び全国各地での原発立地をめぐる住民の動きに関するテレビ等の特集番組の収集を行った。これらの調査分析から、1.原発関連施設の誘致の理由として、地域の側から共通して挙げられているのが、出稼ぎの解消など、過疎脱却の地域振興への期待であること、2.原発立地による地域振興への地元自治体の過大な期待が原発の安全性確保のマイナス要因となっていること、3.原発立地後の住民運動が、誘致段階に比べて停滞する傾向があり、原子力行政の民主化が進んでいないこと、4.市町村民所得の向上や電源三法による自治体財政規模の増大が住民生活の豊かさに直結していないこと、5.原発立地による経済効果が建設段階を中心に一過的であるうえに地域産業の主体条件を急速に堀崩しているために、自立的な地域振興が困難となっていること、等が明らかになっている。以上は、これまでの国家プロジェクト及び大企業依存型の地域振興に共通する側面をもっており、今後この点での比較研究が課題である。
著者
蘆田 徹郎
出版者
熊本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

今年度(最終年度)は、平成3年度(初年度)の実績(昭和天皇の重態と死去に際しての祭りやイベントの「自粛」をめぐるマスコミ資料の収集、博多山笠・長崎くんち・唐津くんち等九州地域の比較的大規模な都市の祭りについての文献資料の収集、熊本県下の「村おこし」における祭りやイベントの位置づけについての行政資料の収集といくらかの観察調査)を踏まえ、収集資料の整理・分析・考察に当てるとともに、現在も大変な賑わいを見せ、昭和天皇の重態に際しても「自粛」をしなかった伝統的な都市の祭礼「間津くんち」に焦点を絞り、今日における祭りの意味と意義についてのかなり綿密な調査研究を集中的に実施した。「唐津くんち」調査では、平成4年8月25日から同30日にかけての祭り関係者からの聞き取り調査と、祭り当日およびその前後(11月1〜5日)にかけての(参与)観察調査によって、詳細なデ-タを手に入れることができた。そのほか、平成5年3月には東京に出張し、全国的な祭り・イベント状況についての情報を収集した。こうした調査研究を通じて、「競争原理」と「合理化」が極限的なまでに進展したはずの現代社会において、たとえ潜在的であれ強烈な「共同性志向」と「非日常性願望」とが確かに存在するという当初の研究仮説を実証できる地平には達することができたと思う。残された課題は、現在の祭りやイベントのブ-ム的状況に顕現している「共同性志向」や「非日常性願望」が、ポスト・モダンが云々される現代日本においていかなる「意味」をもっているのかを確定することである。
著者
宇都宮 京子 稲木 哲郎 北條 英勝 佐藤 壮広 横山 寿世理
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、「初詣をする」、「豆まきをする」など無宗教を自認する日本人によっても行われ、伝統的な宗教や慣習との関連で説明されてきた多くの行為を、「呪術」的要素と関係づけて説明するということであった。その際、この「呪術」的要素を前近代の残滓として扱うのではなく、「近代的思惟や近代諸学の視点(「世俗化」論や「呪術からの解放」論)においては看過されてきた諸問題を可視化させる装置」として位置づけたところに本研究の特徴がある。具体的手順としては、まず平成16年度は、沖縄において、民間巫者のユタの存在に注目しながら現代社会になお残っている呪術的要素の実態を主にインタビュー調査を通して確認した。次に平成17年度は、その結果得られた視点を生かしつつ、「呪術的なるもの」という概念を作成し、東京都23区在住者を対象に社会意識調査を行った(1200票配布、回収調査票数724票、回収率60.3%(サンプル数比))。平成18年度は、過去2年間の研究成果や調査データの理論的かつ実証的に分析・検討した。その結果、東京都23区調査の結果として以下のような諸見解を得た。まず、呪術的なものに親和性を示す人々は、伝統的なものを守るという保守的な面も持ち合わせるが、ただ因習に従って堪え忍ぶといった消極的で受け身的な傾向は弱く、むしろ、幸せと身の安全のためにはあらゆる知識や方法を活用する傾向が強い。また、「高齢者の方により呪術否定的な傾向が見られがちである」、「現状に満足している人ほど呪術肯定的である」、「男性よりも女性の方が呪術肯定的である」など、呪術的なものをめぐる人々の態度には、従来の人間観では説明できない一定の特徴があることが分かった。以上、このような諸傾向を説明するには、科学的=合理的=脱呪術的=自立した近代的人間という従来からの図式を超える新しい図式が必要であることが確認された。
著者
佐藤 丈寛
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

東アジアとシベリアの境界領域の東端にあたる北海道北部とサハリンでは、日本列島に由来する縄文系の文化が栄えた時期、東シベリアに起源をもつとされるオホーツク文化が栄えた 時期、そしてそれらの文化が混交した時期があることが考古学的研究により示唆されている。本研究では、古人骨のゲノム解析によって当該領域における人類集団の 変遷を解明することを目的とする。特に、シベリアに起源をもつと考えられるオホーツク文化人が在来の縄文系集団と混血していった過程をゲノムデータから明らかにするとともに、これまで一括りにされてきた「オホーツク文化人」が単一の起源をもつ集団なのかについて検証する。
著者
鈴木 窓香
出版者
東京理科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究では,マスク着用時の室内温度と二酸化炭素濃度の身体への影響を,実験により自律神経系の指標と血液中の酸素飽和度を測定し明らかにする. 評価には,接触型の心電図計を用い,心拍数と心拍変動から自律神経の状態を解析する.また,パルスオキシメーターを用いて血液中の酸素量の指標である酸素飽和度(SpO2)を測定し,マスク着用による酸素供給量への影響を評価する.これにより,室内の二酸化炭素濃度と温度の適切な制御によるストレスや疲労の軽減を目指す.検討の際,質問票による聞き取り調査により,個々の感じ方を把握する.また,室内温度や二酸化炭素濃度に対する感受性の個人差,年齢差,性別の違いを評価する.
著者
亀崎 直樹 源 利文 高橋 亮雄 鈴木 大
出版者
岡山理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

岡山平野において淡水カメ相の遷移について研究を行った。文献・芸術資料や遺跡から出土する骨の分析によって、少なくとも中世から1900年頃まではニホンイシガメが優占していたが、1990年になるとクサガメが置き換わったことが明らかとなった。今回の225ヶ所の捕獲調査で、クサガメ:1267個体(70.5%)、アカミミガメ:484個体(26.9%)、イシガメ:35個体(1.9%)等が捕獲され、環境DNAの調査結果も含め現在でもクサガメが優占し、イシガメは急激に減少し絶滅寸前である。また、河川を中心にアカミミガメの個体数も増加しており、その分布の状態から、海から川を介して侵入しているものと考えられた。
著者
山田 正俊 田副 博文
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

環境試料中の238Pu/239+240Pu比を調べることにより,放出されたプルトニウムの起源を同定することができる。土壌中の238Pu/239+240Pu比を測定し,福島第一原発事故由来のプルトニウムの寄与率を推定した。福島県内の表層土壌中の238Pu/239+240Pu比は0.03~1.27であり,福島第一原発事故由来のプルトニウムの存在を確認した。その寄与率は,最大で42%であった。
著者
吉藤 元
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

IgG4関連疾患は、血清IgG4濃度上昇を特徴とする疾患であり、進行すると臓器障害をきたす。ステロイドが有効であるが、中止困難であり副作用が問題となるため、抗CD20抗体などの新薬の開発による脱・ステロイドが望まれている。申請者らは「ヒトIgG4ノックインマウス」を作成した。本研究では、本モデルのさらなる改良を行った上で、in vitroでのIgG4の機能解析実験と、in vivoでの本モデルを用いた新薬(抗CD20抗体など)投与実験を行い、血清IgG4濃度や病理所見の改善を検討し、将来の治験につながる基礎データを得る。
著者
川原 正博 水野 大
出版者
武蔵野大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

カルノシン(βアラニル ヒスチジン)の神経保護作用メカニズムを検討した結果、カルノシンおよびその誘導体であるアンセリンは、小胞体ストレスを抑制することによって亜鉛の神経毒性を軽減することが判明した。さらに、thapsigarginやtunicamycinなどの小胞体ストレス誘導剤による細胞死に対しても保護作用を示すことも判明した。さらに、カルノシンの経口投与はlipopolyssccharide誘発性の肺疾患に関しても保護作用を示すことが判明した。カルノシン及び類縁化合物のHPLCを用いる簡便な定量系を開発しており、神経疾患の予防・治療薬としてのカルノシンの活用の可能性が明らかとなった。
著者
佐藤 孝雄 澤田 純明 澤浦 亮平 米田 穣 河村 愛 鈴木 敏彦 増田 隆一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

縄文時代晩期まで日本列島に棲息していたとみられるオオヤマネコについて多角的かつ領域横断的な調査・研究を行う。動物考古学、古生物学、生物系統地理学、考古科学の手法を駆使し、申請者の管理下にある青森県尻労安部洞窟、岩手県獺沢貝塚、愛媛県上黒岩岩陰遺跡の出土遺体などを精査。放射性炭素年代も測定しつつ、古代DNA(aDNA)解析や炭素・窒素安定同位体分析も試みることで、同種の系統や生態を明らかにするとともに、その絶滅要因についても知見を深める。
著者
半田 康 吉岡 英治 佐々木 成子 岸 玲子
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

食肉中のエストロゲン濃度について、日本産とフィリピン産、アメリカ産の牛肉、鶏肉を対象として国別に比較を行った。エストラジオール濃度、エストロン濃度ともに牛肉ではアメリカ産、フィリピン産、日本産の順に高濃度で、鶏肉ではアメリカ産、日本産、フィリピン産の順に最も高濃度だった。フィリピン産牛肉の脂肪部位のエスラジオール濃度は日本産よりも8倍高濃度で、日本産鶏肉の脂肪部位のエストロン濃度はフィリピン産の鶏肉よりも12倍高濃度だった。これらの違いは外的に投与されたホルモン剤の残留によると考えられた。ヒトの脂肪組織中エストロゲン濃度の比較は日本とフィリピンの2カ国で行った。閉経後女性の皮下脂肪中のエストロン濃度、エストラジオール濃度は、フィリピン人女性(n=6)が日本人女性(n=15)よりも高濃度であった。食事頻度調査においては、日本、フィリピンの2国間で食肉摂取の違いが見られた。このヒトの皮下脂肪中エストロゲン濃度の違いは、食肉中エストロゲン濃度、食事頻度調査のみからは説明が困難で、症例数が少ないためBMIの違いを補正できないことに起因する可能性を否定できなかった。本研究では、ホルモン剤使用食肉の摂取とヒト組織中エストロゲン蓄積との関連、ホルモン依存性癌の発生率の関連について、結論を出すことはできなかった。今後、ヒトの検体数を増やして再度検討を行う必要がある。
著者
高嶋 美穂 谷口 陽子
出版者
独立行政法人国立美術館国立西洋美術館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、美術作品や歴史資料に用いられている膠着材(展色材、接着剤)の同定を目的とした研究である。これまでに研究を進めてきたELISA法(酵素結合免疫吸着法)、LC-QqQ/MS法(液体クロマトグラフ-三連四重極型質量分析法)の改善と検出不可能なパターンの把握に加え、新たに高感度LC-QTOF/MS法(液体クロマトグラフ-四重極飛行時間型質量分析法)の導入、樹脂フィルムを用いたサンプリング法の検討などを行い、同定の精度を上げるとともに必要サンプル量を減らす。さらに国立西洋美術館所蔵の美術作品や、遺跡における壁画、そのほか歴史資料の膠着剤分析を実施をする。
著者
臼田 春樹 和田 孝一郎 岡本 貴行 田中 徹也 新林 友美
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

腸粘膜バリアの慢性的な低下(leaky gut syndrome: LGS)は全身疾患の発症に深く関与することが示唆されている。しかし、ヒトに使用可能で適切にLGSを評価する方法は確立していない。本研究では、軽度、中等度、重度のLGSを呈するマウスモデルを確立し、これらを用いてLGSの新規診断指標(試薬K)を確立した。また、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)とクローン病を誘発したマウスでは、発症初期の段階でLGSが生じることが試薬Kによって判明した。特にクローン病の小腸ではLGS状態と炎症の両方に関連する内因性因子の発現が増加しており、LGSがクローン病の発症に関与する可能性が示唆された。
著者
山森 邦夫 松居 隆 河原 栄二郎 天野 勝文
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

タイ国ではカブトガニ類の卵巣を食べる習慣があり、これに伴う食中毒死事件がたまに起こる。原因毒はフグ毒(TTX)や麻痺性貝毒(PSP)などの麻痺性毒である。カブトガニ類は原始的な節足動物であり、世界には3属4種が現存している。アメリカカブトガニ、カブトガニ、ミナミカブトガニ、マルオカブトガニである。タイには後2者が生息しているが、食中毒はもっぱらマルオカブトガニによるものであり、ミナミカブトガニによる中毒例はない。そこで本研究ではマルオカブトガニの毒化機構を明らかにする研究の一部として、カブトガニ類のTTXおよびサキシトキシン(STX)に対する抵抗性を調べ、比較検討した。TTX投与時の最小致死量は、ミナミカブトガニ成体では60〜150MU/20g 体重、アメリカカブトガニ幼体では50〜100MU/20g体重のかなり高い抵抗性を示したが、マルオカブトガニ成体では約900MU/20g体重、幼体では3600MU/20g体重以上となり、前2者を大きく上回った。一方、STXに対する抵抗性はマルオカブトガニ幼体およびアメリカカブトガニ幼体のいずれにおいても100〜200MU/20g体重とかなり高いが、差はなかった。TTX結合タンパク質がクサフグの血漿からDEAEセルロース処理、硫酸アンモニウム分画、Sephad exゲル濾過,Sephacryl S-200とCellulofine A-500によるカラムクロマトグラフィーを経て精製された。TSK G-3000SLカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーによる最終精製物は単一のタンパク質ピークを示した。そのタンパク質の分子量はSDS-PAGEおよびmass spectrometryで、それぞれ、116,000および96,000と推定された。精製されたタンパク質のアミノ末端側アミノ酸配列はAla-Pro-Ser-Pro-?-?-?-His-?-Leu-The-Lys-Pro-Val-と推定された。
著者
山田 正俊 田副 博文 楊 国勝
出版者
弘前大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

福島第一原子力発電所事故後の環境試料中の236U濃度と236U/238U同位体比をモニタリングするために、誘導結合プラズマ質量分析装置による環境試料中の236U分析法の開発を行った。開発した分析法の信頼性は認証標準物質を用いて評価した。福島原発事故により汚染された46土壌試料中の236U濃度及び236U/238U同位体比を測定した。その結果、236U濃度は(0.469-24.4)×10-5 Bq kg-1、236U/238U同位体比は(0.099-1.35)×10-7であった。これをPu同位体の結果とともに解析して、福島原発事故により極微量ではあるが236Uが放出されたことを明らかにした。
著者
伊藤 孝
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ミトコンドリアは栄養代謝、エネルギー産生やアポトーシス制御等の生命の根幹を担う。栄養代謝・ミトコンドリア異常が疾患や個体の老化に関わる一方で、ミトコンドリアを標的にする効果的な治療法開発・社会実装には至っていない。我々は特定の乳酸菌により、ミトコンドリア異常を改善できること、モデル生物の寿命を延長できることを見つけた。本研究は外部環境由来因子である乳酸菌がミトコンドリアと個体老化を制御する機構を解明する。進化上細胞内共生する元微生物であるミトコンドリアと、外で共生する腸内微生物がどう宿主健康寿命への役割を共有し、また競合関係にあるのか、その問いにも考察を与える。
著者
荻野 均 善甫 宣哉 松田 均 湊谷 謙司 東 信良 古森 公浩 大北 裕 本村 昇 志水 秀行 藤吉 俊毅
出版者
東京医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

突然に発症し致死率の高い急性大動脈解離に関して、全国規模の診療データベースがなく、診療エビデンスも少ない。本研究においては、心臓血管外科に関する全国規模の悉皆性データベースであるNCD内のJCVSDと血管外科データベースに期間限定で追加項目を設定し、さらにステントグラフト実施基準管理委員会のデータも加え、急性大動脈解離の外科治療に特化したデータベースを作成し外科診療の実態を把握する。重篤かつ致死的な急性大動脈解離の克服のための全国規模の網羅的診療基盤データとして初めての試みであり、「脳卒中・循環器対策基本法」の対象疾患である急性大動脈解離の救急診療体制作りの基礎データとして有用と考える.
著者
吉田 学
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

多くの生物の受精時において、精子は卵へ走化性運動を示す。この現象は、卵を中心とした濃度勾配を形成している誘引物質を関知する精子上のセンサー分子が運動を制御していると考えられるが、分子機構に関してはまだごく一部しか解っていない。研究代表者の吉田らは、原索動物カタユウレイボヤの精子活性化・誘引物質が新奇の硫酸化ステロイドであることを明らかにし、SAAFと命名した。しかし我々の研究も含め、精子が誘引物質を認識するセンサーメカニズムについてはまだほとんど何も解っていない。そこで、これまでの知見及び構築した実験手法を用いて、受精時に見られる精子走化性現象において、精子がどのように空間勾配を形成する誘引物質を感知し、運動機能を変化させているかを解明することを目的とする。実験材料としては、既に誘引物質が我々の手で同定され、さらにゲノム解読も既に終了している原索動物カタユウレイボヤを用いる。今年度は特に精子誘引物質SAAFをセンサーする分子である精子上のSAAF受容体の同定に取り組んだ。まず候補分子として見つかっている370kDaタンパク質(P370)の精製法の改善行い、多量に精製することに成功した。そして、p370の同定をMALDI TOF-MSによって同定を行ったところ、細胞膜型カルシウムポンプであるPMCAであることを明らかにし、カタユウレイボヤPMCA(CiPMCA)を同定した。また、CiPMCA遺伝子はゲノム上1つで哺乳類と相同性が高く、少なくとも2つのsplicing variantがあった。このうち精子で高発現しているvariantを同定した。
著者
長谷 耕二 河村 由紀 田久保 圭誉 松田 幹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

申請者はこれまで、絶食時にはパイエル板の免疫応答はシャットダウンされ、抗原にまだ暴露されていないナイーブB細胞は骨髄へ移行して再摂食時までリザーブされる事実を見出している。このようなパイエル板の絶食応答は、免疫応答に伴うエネルギーコストを削減する上で重要であるとともに、胚中心細胞の消失による免疫記憶のリセットといった副次的作用をもたらす。本研究では、主に絶食-再摂食モデルを用いて、栄養シグナルによる免疫制御機構や腸管-骨髄連関を担う分子群の同定を試みる。さらに絶食により自己免疫に関わる免疫記憶をリセットすることで、自己免疫疾患における新たな治療法の確立を試みる。