著者
永瀬 伸子 LEE S.J.
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

韓国における経済的資源配分とそれに関わる意思決定のメカニズムからみられる夫妻関係を把握するツールとして妻のためにつかうお金に注目し、分析を行った。その際、妻の就業形態変化を軸として、妻と夫個々人のために経済的資源がどのように配分されるのかに注目し、夫妻間の生活水準の変化を追った。夫妻の生活水準、夫妻間の生活水準の格差を把握する指標としては、家計費のなかで個人に配分される「個人のために使うお金」を用いた。分析に用いるデータは、F-GENS韓国パネル調査データであり、分析対象は736世帯である。分析は、就業形態変化パターン別の個人別消費、個人別貯蓄を、1)時系列推移、2)世帯年収増減、妻年収増減との関係、3)夫妻間格差の変化の三つの分析軸に沿って検討した。分析結果は以下のとおりである。第1に、妻の無職化グループにおいては、妻費および妻貯蓄を減少させるとともに、妻と夫のためにつかうお金における夫妻間格差を拡大させることが確認された。第2に、妻の有職化グループにおいて妻費と夫費の関係をみると、働きはじめて2年目の時点での夫費と妻費の差は観察された期間のなかでもっとも差が少なく、夫を100とした夫妻比からも夫妻間の格差がもっとも少ない。つまり、妻の有職化によって、夫妻間格差が改善されたことが確認された。第3に、無職から有職になったときの就業形態に注目して、妻費と夫費、妻貯蓄と夫貯蓄の関係をみたところ、妻が専業主婦からフルタイムとして働き始めた直後は、妻費、妻貯蓄は増加、夫費、夫貯蓄は減少している。また、その増加率が描くカーブは妻年収の世帯年収に占める割合とも動きが同様である。つまり、無職からフルタイムになったグループにおいて、妻費には妻年収の増加の影響および、働いていることの両方が影響しているといえよう。
著者
木村 敬子 小杉 洋子
出版者
聖徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

研究の総まとめと補充研究を行い研究成果報告書を作成した。報告書の構成は次のようになっている。まず、第1章では放課後児童施設「学童保育」設置率と高齢化率、産業別就業人口比率の関連を、1581自治体について調べた結果を述べた。設置率は高齢化率、第一次産業就業人口比率と関連があることが分った。第2章は「学童保育」在籍児童対象の調査分析である。高学年も含む児童へのアンケート調査によって、放課後の生活や学童保育観をきいた。学童保育での子ども達の生活は多彩で、仲間との遊びを楽しんでいる様子が見える反面、時には自由にしていたいという種類の答もあり、より深い面接調査の必要性が明らかになった。第3章は保護者調査である。私たちがこれまで蓄積してきた調査をさらに改訂し、東京都内で実施した。3年生までの児童の保護者である。子どもを学童保育へ行かせてよかったと思う点は「集団生活の効果」、親のしつけとは異なる指導員の「指導」を受けられる点などであること、そして改善の必要性は「保育活動・保育内容」ど「保護者活動」の側面にあると考えていることが、いずれも因子分析から明らかになった。自由に選べるとしたらどのようなことを重視するかをたずねると、「行き帰りが安全」であること、「指導員の人柄がよいこと」、「家から近いこと」などが選ばれている。最後の第4章は保護者調査と同じ放課後施設の指導員調査の結果である。指導員は、保護者が安心して働けるように子どもを保育しているという認識を明確に持ち、学童保育には子どもたちが集団生活を経験することの効用、指導員による指導の効果があることを、保護者と同様に、認識していることがわかった。
著者
副田 あけみ 山田 裕子
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

東京都の単独事業である子ども家庭支援センター事業は、現在17の区市で実施されている。本調査対象とした府中市子ども家庭支援センターしらとりは、支援センター事業と子ども家庭在宅サービス事業とを統合的に実施し、総合的な子育ての支援センターとして機能するとともに、家庭が問題を抱えてしまわないよう、予防福祉の機能を担っていることが、利用者データの分析、資料の検討、面接調査等の結果、明らかとなった。(1)電話相談の件数は年間約300件であるが、相談者も「専業主婦」、「共働き世帯の母親」、「母子世帯の母親」、「父子世帯の父親」、「子ども本人」、「親戚・知人」等と多様であるだけでなく、相談内容も「出産時や病気時の子どものケア]、「育児不安」、「子どもの躾・健康」、「残業時の子どものケア」、「ドメステック・ヴァイオレンス」、「性の悩み」等々幅広く、地域の子ども家庭に対する総合的な相談機能を果たしている。(2)相談者に対するきめ細かなアセスメントとサービス援助計画の作成、サービス利用者と提供者へのサポート活動というケースマネジメントサービスを、相談者の約35%に提供している。(3)ショートステイは「専業主婦」の「出産」や「病気」時等における一時保育サービスとして、トワイライトは「母子世帯」や「父子世帯」、「共働き世帯の母親」の「遅い終業」や「残業」、「出張」時等における夜間保育サービスとして機能し、交流事業は「専業主婦」に対するストレス緩和と予防相談の機能を果たしている。(4)ショートステイやトワイライトのサービス提供を通して、職員は夫婦間等のコミュニケーションや相互支援の促進援助を図ったり、親子、とくにひとり親家庭の親と子どもとの関係の調整援助を行い、ファミリーソーシャルワーク機能を果たしている。
著者
長岡 顕 楠 貞義 深沢 安博 戸門 一衛 間宮 勇 松橋 公治 中川 功
出版者
明治大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

スペインのEU加盟とGATT体制の強化と発展の結果、外資の導入を主軸として産業構造の再編が進んだ。貿易体制の整備や非関税障壁の撤廃にともなう国内法制度の改廃も、EUの中では遅い方に属しながらも進捗している。それと平行してスペイン経済はEU経済に強く組み込まれるに至り、その結果として国内工業生産力は上昇した。VWなどの資本引上げ問題が発生しているものの、自動車産業は南欧向け低価格車の生産拠点化という特徴を明確にした。またME化の浸透による外国の情報処理メーカーの進出も顕著であった。電気通信部門はEU統合の最大の目的の一つといわれている。ヨーロッパレベルでのスケールメリットの実現に向けて、スペインの同部門の大幅な資本構成と技術の調整が予定されている。農業部門は、南部と地中海沿岸部における施設農業化と果実蔬菜生産への特化が実現し、EU域内向けの新主産地が形成された。しかし生産性が低い北部の小規模牧畜生産やカスティーリャの穀物地帯は淘汰されつつある。EU加盟は一般的にはスペインにはプラスになったが、加盟以前の社会経済問題が解決したわけではない。80年代後半に経験した経済成長は、一時的には雇用の改善に貢献したが、「雇用なき成長」であったために、失業率は90年代に入って再び上昇した。アンダルシアに至っては30%台を推移している。価格競争にともなうコスト抑制も大きな課題であり、高失業率の一方で、労働集約性の高い紡績業や季節性が強い農業部門には外国人労働者が受け入れられ、送り出し国から、受け入れ国へと変わった。スペインの各地域の不均等発展も改善はみられないままである。日本企業のスペイン進出地域分布をみても、二大拠点であるカタル-ニャとマドリードに集中している。外資を地域開発へと組み込ませる政策も進行させたが、順調だとはいえない。こうした不均等発展の解消のために、自治州への分権化の過程も進んだが、運営のための財源問題などは未解決となっている。
著者
餅原 尚子
出版者
鹿児島純心女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1.平成15年度に引き続き、新たに、警察官854名、救急救命士200名を対象に、災害ストレス(PTSD、CIS)、そしてその緩和要因等に関するアンケート調査を実施した(久留一郎氏の協力による)。その結果を、消防職員356名、海上保安官80名の結果とともにSPSSを用いて、以下の視点を中心に、統計処理を行った。その結果、警察官に比較し、消防職員や海上保安官、救急救命士のストレスが高いことが明らかになった。また、救援者全体のクロス集計においては、惨事状況によって、直後にあらわれるストレス(CIS)、しばらく経ってから現れるストレス(PTSD)、直後およびしばらく経過してから現れるストレスが明らかになった。また、そのストレスを予防、あるいは緩和する要因として、自分自身でできること、職場や家庭でできることなどを抽出することができた。2.アンケート調査の結果をもとに、災害ストレスを緩和(予防)するためのガイドラインを作成した。その際、研究協力者(災害ストレス研究〔PTSDなど〕の第一人者である久留一郎氏〔日本臨床心理士会被害者支援専門委員〕)からの支援をもらうことができた。ガイドラインは、本人や職場の同僚、家族等がポケットに入れられるサイズで作成(三つ折り)し、常時携帯できるよう工夫した。また、救援者のみならず、彼らの上司・同僚を含めた全職員、そして家族等へガイドラインを配布し、今後の救援活動に役立てられるよう配慮した。3.今回の結果を冊子にまとめ、調査対象者(消防職員、海上保安官、警察官、救急救命士)へフィードバックした。また、研究会や研修会等で、本研究の報告・発表をし、啓発を行った。
著者
彦坂 佳宣
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

『方言文法全国地図』の文法地図のうち、(1)意志・推量表現(2)原因・理由の条件表現(3)仮定条件表現(4)格助詞ノ・ガ(5)準体助詞(6)活用事象を中心に、言語地理学的研究と過去の方言文献による突合せとをおこない、そこから全国方言における伝播類型をさぐったものである。伝播類型としては、(1)〜(4)は方言周圏論的な型であり、(1)(2)の一面は東西対立型の面もある。(4)(5)は方言周圏論的な型とも言えるが、個別事象が分散的に分布する型という面も強い。(6体系の点では逆方言周圏論的な型として、辺境地域で新しい傾向が強くみられるものもある。(1)の方言周圏論的型に東西対立的な模様も見られるものは、古くから中央である近畿地方からの変化の放射が西日本には頻繁に届くのに対し、東日本には緩慢である動向によると思われる。この東西対立的な傾向は(2)にも一部見られる。分散的分布は、各地に独自の変化が見られて、分布が孤立的・分散的になるものである。これは文法事象が地域独自の変化方向に従ったからと考えられる。その例の(5)準体助詞は、九州ト、土佐・北陸ガ、新潟ガン、東北日本海側ナなどがあり、ガに着目すれば方言周圏論的型とも言えるが、全体としては出自の違うものが固有の変化を遂げたものと考えられる。分布類型がこれだけではないが、主要な型はここに現れていると考える。
著者
川口 由彦
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

この研究は、近代日本の地主的土地所有に変容が生じる1920年代に焦点を当て、これが日本の土地所有権構造にどのような変動をもたらしたかを追究するものである。具体的には、中央の立法資料でなく、地方で生じた変動を県庁文書や村役場文書をもとに検証していくという方法をとる。そのような考察対象として、群馬県山田郡毛里田村という村に焦点を絞り、ここでの地主小作関係と小作争議の収拾のあり方を分析してきた。この研究には、群馬県内での毛里田村の位置を問題とせねばならないため、毛里田村だけでなく、近隣の新田郡強戸村、同郡生品村、同郡木崎町等の地域も視野におさめる必要があり、現地調査を含め、資料調査を行った。毛里田村、強戸村は、現在は群馬県太田市域にありこ生品村、木崎町は、現在は新田町地域にある。毛里田村の資料に限っていうと、群馬県立文書館に小作調停・小作争議関係の県庁資料が膨大に所蔵されている。小作争議や小作調停が、県小作官を介して県にあがっていった場合は、これらの資料により、その概要を把握出来る。さらに、毛里田村役場資料にあたることで、毛里田村での微細な動きも把握出来ると考えた。この毛里田村役場資料は、第2次大戦後、毛里田村等の太田町周辺町村が「太田市」として合併されたとき市立図書館に保存され、現在は、太田市教育委員会が所蔵している。また、強戸村役場資料も同様の過程をたどっている。そこで、太田市教育委員会に資料閲覧と撮影を申請し、毛里田村と強戸村について膨大な役場資料を収集した。また、毛里田村の特徴をさらに鮮明にするため、群馬県以外の地方での小作調停資料を見る必要があり、秋田県、京都府、香川県、山口県の資料を検討した。これら4府県については、以前比較分析をして論文として発表したこともあり、調査は補充的なものとなった。毛里田村は、全村的に小作争議が起こり、この収拾方法として、村内すべての小作地に「査定小作料額」を農会主導で決定するという、全国的にもきわめて珍しいことを行った村である。このことを調べていくうちに、小作争議の収拾にあたって、当初村役場は、各区ごとの農事実行組合によって「査定」をするとしていたところ、小作側がこれを拒否し、各区ごとでなく、全村的に農会の手で査定すべきだと主張していったという興味深い事実が出てきた。小作調停もこれを前提とした独特の内容をもつ。そのことを比較・分析し、この3年間の研究をまとめた次第である。
著者
吉岡 みね子 KOVITHAVATATTAPHONG Chotiros
出版者
天理大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

平成14年度〜平成17年度実施計画にそって研究を実施し、目的としていた極めて貴重な以下の研究成果を得た。また本研究成果を基盤にしたさらに高次元の課題で、本研究の集大成化を図る今後の研究方針が得られたことは、今後の国の内外の研究に少なからず資するものと確信する。1.学術資料としての文芸誌の調査、収集、再評価を図る実証的研究、及び研究対象の原本、文学作品、関連文学作品、文献史料の調査、収集の成果所在不明であった当該文芸誌『アクソーンサーン』や『ワンナカディーサーン』について、その所在、内容(発行年、巻、号数等)の確認ができ、マイクロジャケットで入手後、CD化した。また関連文芸誌『エーカチョン』、『スパープブルット』、『セーナースックサー・レ・ペーウィッタヤーサート』、『ラックウィッタヤー』をマイクロフィルムで入手、研究対象の原本、文学作品、関連文学作品、文献史料についても調査と収集を積極的に図り、成果を充実化させた。2.タイ側共同研究者、及び国の内外の専門家より助言、レクチャーを聴講資料の入手、分析、考察、研究成果の公開等についてタイ、及びイギリスの専門家より助言、レクチャーを拝受し、また意見交換を行った。3.思想、文化、歴史観点からの新しい研究アプローチによる分析、考察、及び研究成果の公開上記入手資料を分析、考察し、成果の一部を英文で執筆した。また研究内容の充実と国際化を図るため、研究過程での成果、及び関連作家について国の内外で発表した(2003年、タイ国立開発行政大学院大学他)。さらに国際学会EUROSEA(2004年)をはじめ、国の内外の学会、研究会に積極的に参加し、研究の視野を広げ、学際研究の向上に努めた。4.関連作家の文学活動追究:セーニー・サオワポン作『敗者の勝利』の翻訳出版学術界のみならず、研究成果の社会への還元、及びタイ、日本両国の友好と文化理解促進という観点から、タイ文学史上の上記名作を翻訳出版した。
著者
濱野 保樹 小泉 真理子 田中 康之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

コンテンツ産業はコスト病の発症を先延ばしさせるため、複製技術で市場を拡大し、ウインドウと呼ばれる流通に関する技術革新で、新たな市場を作り出してきた。それらの市場が飽和すると、労働集約的であるため、再びコスト病に陥ってしまうが、アメリカは海外市場拡大で、また日本は制作費抑制で、コスト病発生を先伸ばしできた。しかし、日本のコンテンツ産業において生産性の向上ができないとすれば、制作費を抑制できなくなり、コスト病に陥る可能性が高い。
著者
山本 順寛 加柴 美里 吉村 眞一
出版者
東京工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

代表者らはサポシンBがCoQ10結合蛋白質であることを報告してきた.サポシンB前駆体タンパク質プロサポシンのノックアウトマウスでは,CoQ投与食添加後の血漿中や臓器中の外因性CoQ量が低下し,外因性のCoQがミトコンドリアに到達しないことを見出した.ヒト肝がん由来HepG2細胞のプロサポシン発現量改変株解析の結果,高発現株ではCoQ10量が増加し,ノックダウン株では減少することを見出した.以上の知見から,サポシン類は,CoQ10量の維持に必須のタンパク質であると考えられた.
著者
加藤 直樹 村瀬 康一郎 益子 典文 松原 正也 伊藤 宗親 興戸 律子
出版者
岐阜大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

情報通信手段を活用した学校改善のための課題解決方略を,高等教育の取組を事例として検討し,より一般的な教育改善に対する教育経営工学の枠組みを検討した。このために,高等教育の取組として,岐阜大学の教育経営戦略について新たに調査分析を行い,学校教育でのこれまでの調査結果と比較検討して,教育改善を効果的に推進するための方略を検討した。具体的には,以下のように実施した。(1)高等教育における情報通信手段を活用した戦略的な取り組みについての調査分析とくに,教育改善の視点から導入された情報通信手段を中核にして検討し,学生や教員等の意識の変容等についての調査を試み,とくに学生からの取組期待が高く,指導者側の意識改革が肝要となることを指摘した。(2)教育課題に対して,情報通信手段に対する利用実態と期待の分析高等教育での取組は,組織的な教育改善と情報通信手段の位置づけ,及び具体的な方略を分析し,総合的な教育改善を支援するシステムとしての重要性が増していることがしてきされた。さらに,学校教育への適用の可能性について検討し,過去の取組経緯と照らしてCMIの取組を近年の情報通信技術の進展に対応させて検討する枠組みの構成が重要となることを示した。(3)情報通信手段の活用による教育改善の方略のための経営的モデルの検討情報通信手段は,情報共有,組織構成員及び関係者のコミュニケーションなどを支援する手法として活用されるが,学校教育における従来からの取組は基本的な枠組に大きな変化はないことから,過去の事例を「課題解決型の学校経営に関する教育工学的アプローチの開発」として研究資料に整理した。
著者
森野 聡子
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

同じケルト諸語地域であっても,民衆の口承文化に民族的ルーツを求めるスコットランドやアイルランドとは対照的に,宮廷詩と写本文化を文学的規規範としたウェールズで散文説話マビノーギオンが国文学として正典化される過程を調査し,ウェールズ国文学観の変遷とその背景にある我々意識について考察した.その結果,アーサー王ロマンスに代表されるヨーロッパ文芸の祖,原ヨーロッパの神話としてマビノーギオンを定義するウェールズ知識層のアイデンティティ・ポリティクスが検証された.ローマの書記文化の洗礼を受け,イングランドとも接触の多いウェールズのナショナリズムが,他のケルト地域とは異なる表出を見たことが確認された.
著者
小林 恒夫
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

3カ年の研究をまとめると以下のようになる。モチ米の生産面では、これまでのモチ米の主産地は大きく変化し、今日でも変動過程にあるが、大きく整理するならば、1960年代までは、北関東が最大のモチ米産地であり、そこでは主として陸稲モチ米が栽培されていた。もう1つの産地は古くから稲作産地であった新潟県であった。しかし、米過剰・稲作生産調整が開始される1970年代以降、陸稲モチ米産地であった北関東の産地は大きく後退した。それに対し、新たな産地として北海道と佐賀県が台頭してきた。そして今日、北海道、佐賀県及び新潟県が三大産地となっている。しかし近年、岩手県が生産量では新潟県を上回るに至り、また熊本県の生産量が新潟県に接近してきているという新しい状況も生まれてきており、モチ米主産地は常に変動のさなかにおかれている。加工面で見ると、モチ米の二大加工用途は米菓と包装餅であり、その業界は共に新潟県に集中している。うち、米菓は、亀田製菓によるガリバー型寡占構造を、包装餅は佐藤食品による同様の構造が形成されている。ただ、包装餅は農家グループや米屋による加工・販売も広範に見られ、直売所の増加等と結びついているという特徴が見られる。こうして、包装餅の市場構造は、いわば二重構造を呈している。流通面では、上記の北海道産モチ米は主として東日本へ、佐賀県産モチ米は主として西日本中心に流通している。一方、加工品の米菓は全国流通を基本としているが、包装餅には一定の棲み分けが存在している。消費面では、食の多様化の中で、米菓はスナック食品に押され、包装餅の消費も減少傾向にある。また、見過ごせない状況として、1993年米凶作を契機とするモチ粉調整品や米菓の輸入量増加、95年からのミニマムアクセス米の受け入れに伴うモチ米の輸入量の増加によって、モチ米も輸入物との競争が激化し、我が国のモチ米市場はますます激変する時代へと突入している。
著者
門脇 基二 藤村 忍
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

A.オートファジーに対するアミノ酸のシグナリング機構の解析1)アミノ酸シグナルのターゲットとしてのLC3の解析:肝細胞でオートファジー開始段階のマーカータンパク質であるLC3の不活性型(I型、遊離型)から活性型(II型、膜結合型)への変換がアミノ酸の刺激に応じて抑制的に制御することが示され、アミノ酸作用のターゲットがオートファゴソーム上のこの分子であることが証明された。細胞内分画をしたところ、細胞質画分にもII型の存在が認められた。この予想外の結果を追求したところ、Phase Partition法および特異的な酵素Atg4B法によるLC3のlipidationを検討したところ、いずれも否定的な結果となり、この細胞質に存在するLC3-II(LC3-Ils)は通常のもの(LC3-IIm)とは違う新しい型であると結論した。B.食品成分によるオートファジーの調節1)ビタミンCのオートファジー活性化機構アスコルビン酸(AsA)のオートファジー促進作用はアミノ酸の共存下でのみ証明された。その作用機構として、デヒドロアスコルビン酸(酸化型)も同様に効果を示したことから、その還元性は直接関与しない可能性が示された。また、AsA合成不能のODSラット肝細胞を用いて、細胞内AsAをゼロにした状態でも細胞外AsAはオートファジー促進能を維持し、またAsAの細胞内への特異的輸送を阻害してもその促進能は影響しなかったことから、AsAは細胞外から作用している可能性が示された。2)抗酸化剤とオートファジーの関係AsAとともにビタミンEも促進能を示したが、アミノ酸の共存は影響せず、両者の作用は異なることが示された。上記のAsAの結果から、単純に抗酸化性が有効であるとは考えられなくなった。さらに茶成分であるEpigallocatechin gallateにもこの促進能が認められ、広汎な食品成分にオートファジーの制御物質が存在することが強く示唆された。
著者
田中 雄次 加藤 幹郎
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.本研究の目的:1919年-1933年におけるワイマール期のドイツ国民映画の変容と展開を、主要な作品の分析とともにハリウッドとの関係において検討することであった。2.実施した研究計画の概要(1)2006年および2007年の7月に研究代表者と研究分担者が、熊本大学においてそれぞれの年度の研究に関して事前調査の打ち合わせを行った。(2)研究代表者は、2006年度及び2007年度の8月下旬から9月上旬にかけてドイツのフランクフルト映画博物館及びベルリンの映画博物館において学芸員の協力を得て、主要な研究対象であるワイマール中期(1924-1927)の映画作品に関する資料収集を行った。研究分担者は、おもに東京国立近代美術館フィルムセンターとアテネフランセにおいて、フィルムセンター研究員の板倉史明氏の協力を得てワイマール後期(1928-1933)の映画研究を行った。(3)研究代表者は、2007年12月1日(土)に開催された第3回日本映画学会(於:京都大学)において、「ドイツ国民映画の典型としての『ニーベルンゲン』(1922-1924)」の講演を行った。3.研究の意義とその重要性:研究代表者は2008年3月に『ワイマール映画研究-ドイツ国民映画の展開と変容』(熊本出版文化会館)を出版した。本書は、日本におけるワイマール映画に関する本格的な研究であり、今後の研究の基本図書になりうると確信している。
著者
森 和憲 南 貴之 東田 洋次 村上 純一 小野 安季良 長岡 史郎 高吉 清文
出版者
詫間電波工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

平成17年度、18年度の開発と実践により完成されたビデオ教材、練習問題を一つのパッケージとして、教材化し、DVDおよびインターネットを通じて配布した。作成された教材は以下の通りである。(1):情報通信工学、電子工学、電子制御工学、情報工学、数学、物理学に関するビデオ教材それぞれ5タイトル、計30タイトル(2):各ビデオに登場する新出・重要英単語の学習教材、内容に関する質問、および重要文法項目・英語表現を理解する教材(3):(1)および(2)を通常の授業で指導できるようにしたパワーポイントのスライドセット(4):(1)および(2)をインターネット上で学習できるようにしたウェブサイトの公開当研究の研究成果は全国高等専門学校英語教育学会等の学会で発表され、査読つき論文は『高専教育』第31号に採用された。さらに、勤務校と提携しているDONYANG TECHNICAL COLLEGEの取り計らいにより、韓国最大の電子機器の国際見本市の一つであるKorean Electronic Show 2007で研究成果の一部を展示・発表することが出来、おおむね好評を得た。
著者
菊地 夏野
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

外国籍(フィリピン)女性の当事者コミュニテイ活動について継続的にフィールドワーク調査を行った。必要に応じてインタビュー調査を行い、当事者の経歴、ライフコースや意識を探った。とくに、当事者たちの法廷闘争に着目し、画期的な判決を出した国籍法改正裁判について調査した。当事者(原告の母)たちのインタビュー調査と、支援団体(NGO)のインタビュー調査を行い、裁判の経緯を調べた。その上で、この闘争が持った社会的意義を考察した。
著者
安松 みゆき
出版者
別府大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、ドイツ第三帝国時において日本美術がどのように受容されたのか、その展開を考察するものである。近代のドイツにおいて最も日本と緊密な関係を保持したのは、日本と同盟を結んだドイツ第三帝国の時期であった。この時期にドイツは美術や文化を政治戦略に組み入れており、第一次大戦時には帝国であった日本のイメージを変えるためにも日本美術もその戦略と無関係ではなかったはずだが、そうした問題意識が従来認められず、研究にはいたっていなかった。本考察では、特に政治戦略の問題に焦点をあてて検討をすすめた。その結果は、学術雑誌にまとめているように、つぎのような内容となった。第一に、1939年に日本美術受容の最大のイベントとなったベルリンでの日本古美術展覧会が開催されたのち、ドイツでは、民衆をキーワードとして、美術をとおした交流でなく、映画などの文化という、より幅の広い分野において日本との密接な関係を保持していったことが、ドイツの美術史家ルムプフと日独文化協会の活動によって明らかになった。第二に、文化協定の下で開催された展覧会の再考をとおして、美術品が政治性を担うことでその意味と質を変えていくことを確認し得た。その際に、展覧会が政治性を強く帯びるのは、ドイツ政府が後援となったときよりも、ドイツの宣伝省がかかわった例であったことが把握できた。第三に、第三帝国時の主要都市であるベルリンとミュンヒェンの文化的歴史をふまえて考察することから、日本美術がベルリンでは美術史家の中心的活動によって、西洋美術と同等の価値を与えられて理解されたのに対して、ミュンヒェンでは、美術をも包括する民族学の文脈で把握されていたことを確認し得た。第四に、日本美術を、西洋美術と同等のレヴェルで評価した研究は、ユダヤ人の日本美術研究者の成果に多くを追うことを理解した。第四に、新たに入手した映像資料をとおして、メディアを活用して日本美術が政治的に利用されたことを確認した。
著者
小林 誠 日笠 健一 萩原 薫 湯川 哲之 清水 韶光 菅原 寛孝 大川 正典
出版者
高エネルギー物理学研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

トリスタン加速器による電子・陽電子衝突実験は昭和62年度より本格化した. 昭和62年中に, ビームエネルギー25.0, 26.0, 27.5GeVでの実験を終え, 28.0GeVでの実験が進行中である.こうした状況のもとで, 本課題ではトリスタン・エネルギー領域での現象論を種々の観点から行ったが, 特に輻射補正と超対称性理論に基づく現象論に力点を置いた.輻射補正では, 電子・陽電子衝突における軽粒子対生成, 光子対生成, トップ・クォーク対生成, ジェット生成などの過程に対する補正の計算を行ったほか, ニュートリノの種類数を調べるのに有効なニュートリノ対+光子の過程に対する補正の計算を行った. これによって, トリスタンにおける基本的な過程の輻射補正の計算は一応完成した.またこの研究の一環としてファイマン図の計算機による自動生成, 自動計算の開発を行った.超対称理論の関連では, トリスタンにおいて超対称性を検証する可能性について種々の検討を行った. 超重力理論ではスカラー・トップが特別に軽く, トリスタン領域に存在する可能性が指摘されている. 従ってその性質を調べることは重要であるが, 本課題では軽いスカラー・トップ・クォークの崩壊幅の計算を行い, その結果, 従来のスカラー・トップの崩壊幅の計算にはいくつかの重要な見落としがあることが判明した. そのほか, 超強理論から予想される新しいタイプの相互作用の検証の可能性について検討を行った. また陽子・反陽子衝突器による実験との関連を調べた.
著者
加藤 房雄
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

「東エルベ農村社会とドイツ農村・都市関係史とりわけ都市近郊農村史の実証的比較研究」に関する研究経過と成果は、およそ以下とおりである。(1)図書整備については、とりわけ「ベルリン圏の都市近郊農村史」に着目して、エッシャーのブランデンブルク史論、あるいは、ホーフマンの自治体論に関する新刊書や基本文献の収集と整理に努めた。(2)文書館・図書館調査は、計画どおり、主としてポツダム・アルヒーフとベルリン国立図書館を中心に行った。アルヒーフ調査に際しては、「ドイツ学術交流会」の財政的援助も得ることができた。(3)研究発表としては、平成12年6月4日、「プロイセン都市近郊農村史とベルリン」をテーマとして、「ドイツ資本主義研究会」で報告するとともに、翌平成13年5月12日には、「ベルリン圏の都市化と近郊農村の地方自治」と題する学会発表を、「土地制度史学会中四国部会研究会」において行った。(4)研究論文の主要な成果としては、「プロイセン都市近郊農村史とベルリン-テルトウ郡の鉄道建設と世襲財産所領」(『土地制度史学』第172号所収)を公表することができた。また、新稿「ベルリン圏の都市化と近郊ゲマインデの自治-19世紀末〜20世紀初頭期テルトウ郡の実態に即して」の『社会経済史学』第68巻第1号への掲載が、決定している。平成2年刊の拙著『ドイツ世襲財産と帝国主義-プロイセン農業・土地問題の史的考察』以降、10年有余の間、積み重ねてきた成果の一つの集成として、現在、新著『都市史と農村史のあいだ-ドイツ都市近郊農村史論序説』(仮題)の出版を計画している。同書は、前編 ドイツ大土地所有の歴史的役割、そして、本研究の主要な成果が系統的に展開される後編 ドイツ都市近郊農村の史的個性、の2編構成をとる予定である。