著者
田辺 信介 國頭 恭 岩田 久人 本田 克久 中田 晴彦
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、野生の高等動物に蓄積している内分泌かく乱物質の汚染と影響を地球的視点で解明し、化学物質の安全な利用と生態系保全のための指針を提示することを目的とした。まず、アジアの先進国および途上国で捕獲した野生の留鳥について有機塩素化合物および有機スズ化合物の汚染実態を調べたところ、PCB等の工業用材料として利用された化学物質は先進国および旧社会主義国で汚染が顕在化しているのに対し、DDTやHCH(ヘキサクロロシクロヘキサン)などの有機塩素系農薬は途上国で著しい汚染が確認された。また、アジア地域を飛翔する渡り鳥は、越冬地や繁殖地で地域固有の汚染暴露を受けることが判明し、南方地域で汚染を受け体内に蓄積した有害物質の影響が、北方地域で営まれる繁殖活動時に現れること、すなわち内分泌かく乱物質の影響は汚染の発生源のみならず遠隔地つまり汚染とは無縁な場所でも発現することが示唆された。さらに、アザラシやカワウを対象に、ダイオキシン類の汚染と影響を検証したところ、毒性の閾値を越えるきわめて高濃度の蓄積がみられ、そのリスクは高いと推察された。CdやHgなどの毒性元素は、陸域に比べ海洋の高等動物で高濃度蓄積がみられ、その細胞内分布や解毒機能の種特異性が示唆された。ところで、鰭脚類や鯨類ではCYP酵素の活性や血中性ホルモン濃度と有機塩素化合物濃度との間に相関関係がみられた。アザラシやカワウの場合、毒性の強いダイオキシン類異性体ほど肝臓に集積しやすい傾向がみられ、AhR関与の毒性に対し本種は敏感であることが示唆された。さらにリンパ球の生育阻害は30-40ng/gの血中ブチルスズ化合物濃度で起こることが明らかとなり、一部の沿岸性鯨類ではこの閾値を超える汚染が認められた。以上の結果を総合すると、生物蓄積性内分泌かく乱物質による野生生物のリスクは水棲哺乳類および魚食性鳥類で高いと推察された。
著者
箸本 健二
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、地方都市の中心市街地活性化が直面する諸問題のうち、(1)郊外型SCへの行政の対応、(2)ホームページを用いた情報発信、(3)タウンマネジメントをめぐるセクタ間の対立を検討した。(1)については、群馬県太田市と栃木県佐野市を対象とした分析を行い、消費の流失を阻止すると同時に、税収と雇用の確保するため、大規模モールの進出を自治体が事実上「誘致」している点を指摘した。(2)については、大阪市42商店街の34サイトを分析し、買回り品を中心とする商店街が広域情報発信や電子商取引機能を重視するのに対して、最寄り品を中心とする近隣型商店街は地域情報の発信機能を重視すること、自治体のIT対応補助金が導入時期を規定していることなどを明らかにした。(3)については、広島県呉市で実態調査を行い、専任のTMを常駐させることが、新規創業者の定着に大きな効果を持つこと、既得権者である旧来の商業者との調整を図る機関が必要であること等を指摘した。
著者
平野 俊夫 村上 正晃 山下 晋 石原 克彦
出版者
大阪大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2003

サイトカインは、免疫応答、急性期反応、造血、炎症性反応に重要な役割を果たしている生理活性分子である。我々が作成した、シグナル特異的な変異を導入したgp130を発現しているノックインマウスは関節リウマチ様自己免疫疾患を自然に発症する。このマウスに見られるT細胞や樹状細胞の免疫学的機能異常のメカニズムを明らかにすることにより、逆にサイトカインシグナルによる正常の免疫応答の制御機構の一端を明らかにする。さらに、踏み込んでサイトカインのシグナル異常によって生じる自己免疫疾患に普遍的な機構を明らかにすることを目的とした。以下の2つの概念を証明することができた。1. サイトカイン刺激による非免疫系組織の活性化が別のサイトカインを介してCD4+T細胞の活性化を引き起こして自己免疫につながる。2. 非免疫系細胞にはIL-17とIL-6の刺激を引き金とするIL-6の正のフィードバックループが正常状態でも存在して生体のIL-6量を制御している。F759マウスではIL-6刺激後正常状態ならば働くはずのSOCS3による負のフィードバックループが働かずにIL-6の正のフィードバックループが暴走し、過剰なIL-6発現が自己免疫性の関節炎を引き起こす。さらに、本研究の過程で発見された亜鉛シグナルの存在を証明して免疫反応との関連を研究して成果を出すことができた。
著者
志村 賢男 長沼 信之
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

従来、土地持ち労働者は農地のもつ所得補充、生活保障機能に注目されて資本にとって好都合な労働者類型として捉えられてきた。しかし、そうした評価は今や充分ではない。今日の労働者の再階層化現象の中で捉えることが必要である。その理由の1つは、階級分解の国際化の進展によるものである。地場産業や伝統的製造業における労働者の不安定就労者化は、産業、生産的業務の輸出によってもたらされたとみるべきである。労働者の再階層化現象もこうした日本の工業制度の国際的拡張の中に位置づけられる必要がある。第2は、戦後日本の社会構造的特徴とみなされてきた「階層システムの欠除」の動揺に関わる。近年、中小零細企業労働者を中心に階層化の進展がみられ、それを強調する見解も多いが「階層社会」への逆転を一面的に強調するのには、やゝ問題がある。とくに、こうした再階層化の中で土地持ち労働者がもっとも生活不安を擁する階層として析出しているかといえば、決してそうではない。彼らが、とくに福祉社会の谷間にあるとはいえない。むしろ土地持ち労働者にとって問題なのは、その平準化が農政の側面的支持に深く依存していた点にこそある。この政策費用は、現在の福祉社会補強の中心となっている「企業福祉」の場合と違って、労働生産性の向上によって報われることが少ない。それ故に農政=財政側からその支柱が漸次、撤去されてゆく可能性はあり、その意味で近い将来「平準化」した階層から転落する可能性がないとはいえない。とはいえ、より基本的問題は、現在まで東南アジア諸国を巻き込んで成立してきた日本の工業化制度がどこまで持続しうるかにある。土地持ち労働者も製造過程の熟練、半熟練的労働者と運命を共にする存在を見た方がよい。
著者
和田 雄二 塚原 保徳 山内 智央
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

ゼオライト細孔中へ機能を待った物質を導入することにより、それら個々の機能とは異なった新規の機能を創製するナノハイブリッドゼオライトは、光化学、光触媒、発光材料などの観点から注目されている。そこで我々は、溶液中とゼオライト細孔内における4-acetylbiphenylの光物性について、共存する金属イオンの効果の観点から系統的に調べた。4-acetylbiphenylのBlue発光は、単独溶液系やゼオライト細孔内に導入しただけでは発現しないことが明らかとなった。また、4-acetylbiphenylは共存金属イオンによってその光物性を変え、ゼオライト細孔内で特定の金属イオン(Gd(III))と共存した場合のみ、Blue発光(蛍光)とりん光を同時に室温において与えた。4-acetylbiphenylの光物性を詳細に検討することで、複雑なRGB発光機構の解析を行うことができ、なおやつこの系の発光色制御、しいては光を操るナノハイブリッド系の構築に結び付けたいと考える。さらに、ホスト材料して2次元制限空間を有する層状ケイ酸塩を用いて、構造と4-acetylbiphenyl発光挙動について検討したところ、層状ケイ酸塩のケイ酸骨格構造の変化が発光スペクトルに影響していることが分かった。また、層状ケイ酸塩に導入した4-acetylbiphenylは、室温下・空気雰囲気下でりん光発光を示した。
著者
萩原 守
出版者
神戸商船大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

清代モンゴルの法制史は、ヨーロッパやモンゴル国でのモンゴル文文書主体の文献学的文書研究と日本や中国での漢文法典主体の法制史研究とがすれ違いに終わっており、筆者は双方をつなぐ研究をしたい。例えば文書書式の唯一の研究者ノロブサンボー氏も、清代モンゴルの文書書式を13世紀以来のモンゴル固有の伝統的書式とし、諸外国、特に中国からの影響を無視している。しかし実際には、清代のモンゴル文公文書書式は、13世紀の文書とも16〜17世紀初めの文書とも全く共通せず、モンゴルの伝統を受け継いだだけの物とは認めがたい。清代モンゴルの公文書書式としては、冒頭で発送者、次いで宛先が明示され、その後文書の最終用件が提示された後、ようやく本題部分が始まる。文中では多くの文書が何重にも直接引用された後結論が述べられる。文書の末尾にも定型文言があり、最後に発送年月日が記される。文中では拾頭・平田・閾字等が見られ、口供を記録した別紙が最後に添付されることもある。犯人や証人の口供や甘結の後には、しばしば指紋の押捺等の画押が取られる。さらに法律条文は直接引用され、文書の端々に定型化した特定の細かい言い回しが多数見られる。以上のいずれの書式も、むしろ清代の中国本土での漢文文言とことごとく共通している。従って清代モンゴルの裁判文書を初めとする公文書書式は、モンゴル伝来の書式というより、満州文文書を介して中国本土から導入されたと考えるべきである。そのことは、「必要的覆審制度」や「州県自理の案」の存在、「検尿をsirqaci(?作)が『洗冤録』を用いて行う点」等々、裁判制度面におけるモンゴルと中国本土との共通性からも確認でき、文書書式と制度とが一括して導入された可能性が高い。その導入時期の問題はいまだ不明なので、次の課題となろう。
著者
滝口 昇
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度は、マウスのにおい識別ルールの解明をさらに進め、バイオプロセスへの適用をおこなうために、昨年度の結果をふまえた上で以下の内容を実施した。(1)難易度の高い課題において見られる個体差を解析するために、Y字迷路に適用可能なビデオイメージング解析法を構築した。この方法により各種行動パラメータに基づいた個体差のクラスタ解析が可能となり、個体差とアテンションとの関係を検討する基盤を確立することが出来た。(2)脳内の各部位における情報の伝達量が、学習によりどのように変容しているのかをMAPK(ERK1/2)のリン酸化を指標にDotBlqttingを用いて調べた。その結果、複合臭刺激に対してにおい情報の入ロである嗅球では情報伝達量が増大しているのに対し、嗅皮質に伝達される段階もしくは嗅皮質において不必要な情報が削減されていた。この結果は、嗅球から嗅皮質への情報の伝達過程においてアテンションが存在する事を示唆している。(3)また、嗅球および嗅皮質前方部の活動についてより詳細に調べるため、神経可塑性関連遺伝子であるc-fosにより発現するタンパク質を免疫染色により解析した。単一におい物質に対する学習前後での嗅球糸球体の反応パターン変化を調べたところ、パターンの変化が単純な簡略化ではないことが明かとなった。(4)におい識別情報処理系のモデル化と新規プロセス制御系構築のために、マウス嗅覚情報処理系の物理的構造に基づいたコンピュータモデルの検討をおこなった。まなにおい識別情報処理系の培養バイオプロセスへの適用のため、pH、温度、DO、撹拝速度をモニターする制御系への組み込みを試みた。このようなデータの結果をふまえ、今後は、個体差について行動解析だけではなく、飼育環境やグループ内の順位等を手がかりに解析するとともに、アテンション形成との関連性についても解析していく。またにおい識別情報処理系の培養バイオプロセスへの適用についてさらに検討を進めたい。
著者
川崎 浩二 高木 興氏 飯島 洋一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

目的:1)小・中・高校生における顎関節症状の実態を明らかにする。2)生活習慣・習癖などの諸要因と顎関節症症状との関連性を明らかにする。3)定期的な習慣習癖の改善を目的としたカウンセリング等の指導によって,顎関節症状がどのように改善するかを把握する。調査対象と方法:1)長崎市内の小・中・高校生4502名を対象に,Helkimoの顎関節問診をベースにして習癖の実態も含めたアンケートを実施した。2)中・高校生を対象に実施した顎関節症の7自覚症状ならびに習癖等に関するアンケートから,各自覚症状の有無を目的変数に習癖等の18項目を説明変数として多重ロジスティック分析を用いて自覚症状に関わる要因分析をおこなった。3)某女子中学校生徒全員291名を対象に,4月に顎関節に関するアンケートを実施し,自覚症状を有する合計53名に対して7月,10月,2月の年3回,顎関節に関する保健指導を実施しながら,症状の経過を経時的に評価した。結果:1)顎関節に自覚症状を有している者の割合は,小学校低学年で3.5%,小学校高学年で7.7%,中学生で19.8%,高校生で22.8%であった。2)顎関節症の7自覚症状のうち6つが「顎を動かして遊ぶ」という習癖と有意な関連が認められた。中学生においては4自覚症状が「くいしばり」と有意な関連が認められた。3)調査開始の4月における顎関節自覚症状を有する者の割合は中学1年生:13.1%,2年生:16.1%,3年生:29.3%であった。1年間の指導後の予後は治癒,改善,不変,進行の順で1年生:54.5%,27.3%,9.1%,9.1%,2年生:18.8%,62.5%,18.8%,0.0%,3年生:61.5%,15.4%,15.4%,7.7%であった。指導による治癒・改善率は約75%〜80%であった。
著者
中野 和彦 杉本 太造 平沼 謙二 蛭川 登夫
出版者
愛知学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

サクソフォン、クラリネットなどの木管楽器吹奏時には、下顎前歯と楽器のマウスピースの間に下唇を巻き込むため、大多数の奏者では、長時間の演奏を行うと下唇に前歯の圧痕ができ、しばしば疼痛が生じる。また、裂傷が発生する場合もある。このため、下顎前歯部の切縁と下唇の間に紙やビニールなどを介在させ吹奏するもの、市販の保護材料で保護するもの、また少数であるが歯科医の製作によるリップシールドを使用している奏者などがいる。このリップシールドは下顎前歯を被覆する形態であり、歯列の不整を一時的に修正した形状となるため、音程が取りやすい、音色が良くなる、高音がでやすくなるなどの副次的な効果も報告されている。しかし、その形状・材質について研究・報告されたものはない。本研究は、このリップシールドの形状・材質とその音響学的影響について検討し、さらに下顎位の状態などより有効な条件を抽出・解明して理想的なリップシールドを開発することを目的とした。実験方法は、種々の形態と材質によりリップシールドを作製し、使用時の吹奏者(音の立ち上がり時・一定音になっているとき)を、楽器に取付けた加速度ピックアップを通して、アンプで増幅した後、FFTアナライザーに入力した。それをパワースペクトルに変更して、解析し有効なものの抽出を行った。その結果、形状では下顎切歯切縁上部中央がやや盛り上がったいわゆる「中野式リップシールド」では、疼痛は軽減され、奏者自身の吹奏感もよく、客観的にみても音色は向上し、音色の安定性が増した。材質では、歯科用レジンで作製したものが、他のものより、音色の向上と安定性が増加することが認められたので、リップシールドの形態、材質について有効な指標が得られた。
著者
手塚 和彰 村山 真維 岩間 昭道 中窪 裕也 木村 琢麿 金原 恭子 野村 芳正 柿原 和夫
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

経済の国際化(グローバル化)は、日本を含む先進国の経済構造と雇用構造を根本的に変えることとなった。第一は、使用者と労働者の関係が、両者のほかに、派遣業者や職業紹介業者などが介在し、二面構造から、三面構造へと変化した。この構造をどのように法的に整備するのかに関しては、労働法的規制の少ない英米と、規制を、労使関係(労使の交渉、協約)により強めて来たドイツ、フランスなど大陸諸国も欧州のグローバル化により規制緩和を進めている。我が国も、いわゆるバブル経済の崩壊後、製造業をはじめとして、リストラを進め、正社員の減、従来の年功序列による賃金体系を業績評価による体系に変更した。他方、パートタイマーや派遣労働者はますます比重を高めてきている。第二に、このような雇用構造変化は、日本の先端技術・技能における我が国の国際競争力を低下させている。従前の研究開発システムは、従業員発明制度の不備もあって、新規開発に遅れ、付加価値をつけることのできない企業を低迷、倒産の危機に追い込んでいるが、この点でも本研究は学界に先鞭をつけた問題提起を行なうこととなった。第三に、本研究は、人口、雇用の将来予測を独自に行い、このような少子高齢化の中での、労働市場、雇用の将来でのあり方を探った。とりわけ、高齢者の雇用と年金のあり方を探り、今後の我が国の雇用のあり方とそれを支える法制につき具体的な展望を行なった。さらに、WTO体制の元に進捗する経済のグローバル化と、人口減少にともない、外国人労働者の導入が現実的な課題となってきている。実際に、現在200万人の外国人が日本で就労しているが、その社会的な受け入れの体制や、法制度上の問題は極めて多い。この点に関しても本研究は先端的な分析と方向付けをすることができた。
著者
福浦 厚子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

喜捨や慈善という社会に深く関わる行為を、モースの互酬性の概念を一つの手掛かりとして検討した。シンガポールの喜捨と慈善の特徴の一つは、近隣諸国からも関心が寄せられるほど活発な点である。その仕組みと社会における機能を明らかにした。またもう一つの特徴として2004年にシンガポール全国腎臓基金で起こった慈善に関わる一連の出来事と、慈善に対する市民からの理解おけるパラダイムシフトを取り上げ、合わせて検討した。
著者
川西 琢也 福浦 清 花木 啓祐 林 良茂
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は,土壌浸透水からの硝酸態窒素を直接除去する技術の開発を目指すものである。土壌に,その場の浸透水量とほぼ等しい飽和透水係数をもった土壌(低透水性土壌層と呼ぶ)を設置し,その下層に硫黄等の電子供与体を投入しておくと,水が浸透した場合に,低透水性土壌層の水分飽和度が上昇し,酸素拡散が抑制される。開発上の一番の難点は低透水性土壌層をどのように調整するかという点にあったが,試行錯誤の結果,砂とシルト土壌を混合することにより,0.01md^<-1>〜0.lmd^<-1>程度の浸透水量に対応できることが明らかになった。低透水性土壌層として,宇ノ気産の砂と平均粒子径(メーカー値)0.01mmのシルトを3:1に混合したものを用い,内径0.15m,高さ0.8mのカラムを2本用意し,1本には低透水性土壌層と硫黄と中和剤である炭酸カルシウムを投入し,もう一本には,硫黄と炭酸カルシウムのみを投入,供給水量0.025,0.05,0.1md^<-1>で硝酸カリウムを添加して約20mg-Nl^1とした水道水を供給したところ,それぞれ79%,84%,94%の窒素除去率が得られた。このように,本研究で開発を目指していた方法についてはフィージビリティが示され,なおかつ,その最も重要なポイントである低透水性土壌層について,現場の代表的浸透水量に等しい飽和透水係数をもつ土壌を用いればよいこと,さらには,そのような土壌層を得るため,粒子径の異なる士壌を混合すればよいことなどが明らかとなった。また,土壌水流,酸素拡散に関するモデルを作成し,現場におけるパラメーターが得られれば,流量と酸素供給抑制効果との関係が計算できることを明らかにした。今後,実際の場への適用に関しては,流量変動にいかに対応するか,また,さらに低流量の場合にいかに窒素除去を行うかが課題となるが,まずは当面の目的をほぼ達成したと考えられる。
著者
南 保輔
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1990年から91年にかけてアメリカにある日本語補習授業校に子どもを在籍させた海外帰国家族の「その後」を調べた。教育経歴を見ると、海外生活で獲得した英語力を生かしたり帰国子女枠を使ったりして日本の有名大学に在籍した子どもが多かった。他方、大学卒業後の職業経歴には大きなばらつきがあった。国際的に活躍している人もいれば、「ふつうの日本人」としてその職業を務めている人もいた。海外生活経験をどのように位置づけているか、その見方は本人も父母も分かれた。アイデンティティや人生設計において中核を占めるものと考えている人がいる一方、それほど大きく考えていない人もいた。いずれの場合も、海外で培った英語運用能力が、人生行路上の選択をする際に顔を出すということがうかがえた。ただ、海外生活経験ゆえに「一生懸命がんばる」ようになったかという点については、価値質問紙調査の結果において差違はとくに見られなかった。調査結果の分析を通じて、追跡調査で収集した情報の適正な評価と使用ということが問題点として浮かび上がった。10年以上の期間をおいて実施したふたつのインタビューの内容から、どんな観察・洞察を引き出すのが妥当であり、信頼できることなのだろうか。本研究においては、インタビューでの発言に徹底的にこだわるという戦略を取った。それほど多数ではないが、本人が「自分は変わった」と語ることがあったが、これがどのようになされているかを談話分析・会話分析法を活用して分析した。追跡調査においては調査の倫理が問題となった。最初の調査の報告書を送付して感想をうかがう機会があったのだが、その内容などをきっかけに追跡調査への協力を拒否された事例があった。海外経験が生活においてほとんど感じられていない家族の場合、調査の、「お役に立たない」からと調査協力を辞退するという論理もうかがえた。これらは、調査知見の一般化可能性・代表性を評価する基盤となるという議論をおこなった。
著者
浅川 学
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

魚類寄生性カイアシ類(動物プランクトン)は魚類の組織、血液などを栄養源とし、特にフグ養殖業に大きな損害を与えていることから、安全な駆虫剤の開発が急務とされている。海藻を対象にフグ寄生性カイアシ類Pseudocaligus fuguに対する駆虫物質の探索研究を行い、マクリ"海人草"Diginea simplex(紅藻類)の水抽出物から二つの駆虫活性成分を単離することができた。一つは興奮性アミノ酸の一種であるカイニン酸(C_<10>H_<15>NO_4, 分子量; 213)であり、もう一つは、高速液体クロマトグラフ及び質量分析などの機器分析の結果からカイニン酸と同様の分子量をもつ新たな異性体であることが推定された。
著者
園田 恭一 喜多川 豊宇 朝倉 隆司 島田 知二 喜多川 豊宇 園田 恭一
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

「日系ブラジル人の定住化に関する調査研究」今回の研究費によっては、主として以下の3つの調査研究が実施された。第1は、喜多川豊宇を中心として群馬県大泉町、浜松市、および名古屋市で行われた『日系ブラジル人の定住化』であり、そこでは在日日系ブラジル人の35%が日本への定住を、47%が半定住化の意向をもっているという調査結果が示された。日本は慢性的な不況が続き、就業は厳しい状況にあるが、日本への定住および半定住意向は、前回まで過去8年間の調査データと比べてもむしろ強まってきていることが明らかとなった。しかし、第2の、園田恭一と朝倉隆司らで進められた、同じく大泉町およびその周辺での『滞日日系ブラジル人の生活と健康』調査のうちでの「エスニック・アイデンティティ」に関する項目においては、滞日日系ブラジル人の「日本に住む」とか「日本人である」とかの意識は弱く、「ブラジルに住む」とか「ブラシル人である」とかの意識が強いという結果が示された。なお、これら日系ブラジル人と対比する意味で、ほぼ同一のワーディングで関東地方に居住している「中国帰国者」を対象として実施された、園川恭一、藤沼敏子らによる第3の「中国帰国者の生活分析」調査での『定住』に関する項目においては、(1)「今後ずっと日本に住み続けようと思う」は来日直後は30%、現在は37%、(2)「何年か住んでみてよければ住み続ける」は、来日直後は27%、現在は11%、(3)「日本を中心に暮らしながら、時々中国に帰る」は、来日直後は19%、現在は22%、(4)「中国を中心に暮らしながら、時々日本に来る」は、来日直後は0、現在は2%、(5)「できる限り早く中国に帰ろうと思う」は、来日直後も現在も2%となっていて、「中国帰国者」の永住志向が強まって来ていることが明らかとなった。今後は、これらの比較分析や時系列調査をもとに、より一層の理論的検討を深めたい。
著者
東 正彦
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

“C-N balance"アイデアに基づき、以下の成果をえた。1.シロアリ共生系(1)シロアリの“C-N balance"機構には「Nをinput側に加える」「Cを選択的にoutputする」の二通りがあることを示し、シロアリの共生生物との相互作用のうち、この二つの“C-N balance"法として機能するものをまとめた。(2)“C-N balance"の能力に見合う程度にしか食料資源を利用できないことを見い出し、ワンピース(巣をなした枯れ木を食糧源にする)タイプよりセパレーツ(巣と食糧源を分離する)タイプの方がより繁栄している現象、およびセパレーツ・タイプにしか真のワーカー(不妊の職蟻)が存在しない現象を説明した。2.生態系の栄養動態(1)水域生態系で、植物がとり込めるNに対応する以上に光合成によって作り出してしまう余剰のCを、EOC(細胞外排出炭素)として「垂れ流す」ことに着目することによって、通常のgrazing food chain、microbialgrazing food chain、detrital food chainの相対的な発達の度合いを左右する機構を示した。(2)生態系における“C-N balance"プロセスに着目することによって、森林、草原、水域の生態系機能における構造的差異を浮き彫りにできることを示した。3.生態系の発達機構に関して(1)植物生産者と分解者の間の「協同進化」によって生態系の発達過程が進むこと理論的に示した。(2)珊瑚礁生態系の発達機構を“C-N balance"のアイデアに基づいて説明する理論モデルを得た。以上の成果は、“C-N balance model"の一般的有効性、一つのパラダイムとして発展する可能性を示唆するものと言えよう。
著者
沖原 謙 松本 光弘 柳原 英兒 塩川 満久 菅 輝 磨井 祥夫
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

以下に研究成果について概説する。本研究の目的は、モダンサッカー戦術の獲得過程と応用範囲について客観的なデータをもとに分析することである。具体的には、ユース年代から熟年選手になるまでにモダンサッカーのコンパクトな状態を保った上での速い攻守の切り替えにどのように適応して行くかについて考察を加えた。本研究で用いた比較(ユース年代と代表クラス)研究対象は、選手のスピードの変化、相手選手とボールに対する対応、そして両チームの図心(チームの重心)問の距離に関する3要素であった。そして、これらの結果を以下に示した。選手のスピードの変化は、熟年選手の方がトップスピードの頻度が高くなり、低いスピードでの移動時間も長い。つまり、試合における選手の動きは、熟練されるに従ってスピードの変化が多くなる。相手選手とボールに対する対応について、ピッチの縦成分と横成分に分けて分析した。その結果、代表クラスの選手は、縦と横の動きに対する対応は、相関係数が高い。ユース年代では縦に関する相関係数は高い。そして、横に対する相関は、低い。興味深いことに、この年に日本一に輝いたサンフレッチェ・ユースは、代表クラスの選手と同等な数値を示した。個々の動きは、熟年選手になるまでに横の動きに対する対応がスムーズになると考えられる。両チームの図心間の距離は、ユース年代より代表クラスの方が長い。しかし代表クラスの試合は、ユース年代の試合と比較して、モダンサッカーの特徴であるコンパクトな状態を保っている。この意味は、レベルの高い試合ではコンパクトな状態を保ちつつ、お互いのチームが相手陣地に入れない状態でゲームが進行する頻度が高いことを示している。モダンサッカー戦術として獲得してゆく要素一側面としてコンパクトに保たれた密集の中では、動きの量ではなく、緻密な横の対応と動き(スピード)の変化、そして相手チームの中に入り込むチャンスが少ない中での的確な判断力であるといえる。
著者
中川 重康 西村 萬平
出版者
舞鶴工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

シミュレーションにより予測誤差30%以下であれば、日射量予測による効果が現れ、数日先の日射量を予測することにより、さらに経済的な運用が可能であることが明らかとなった。一方、舞鶴において、全天日射量、傾斜面日射量、気温、風向および風速を1999年5月から測定した。日射量は太平洋側地域に劣らない量であったが、冬季にはかなり低い値となった。特に平成11年度は舞鶴海洋気象台史上初の積雪量となり、ファン付き日射計も埋もれることとなった。過去の気象庁気象データから舞鶴における天気に基づく全天日射量の推定誤差率を求めた所、6月を除く4月〜10月において10〜15%の範囲に収まるが、それ以外の月では15〜20%の範囲となった。この手法を文字放送から得た天気予報に適用し、日射量予測を実施した。その結果、冬季および春季の"晴れ"という予報以外において、天気予報による日射量予測が70%以上の確率で予測誤差30%以下を達成することが分った。太陽熱/電力給湯システムにおいて、市販集熱器と市販深夜電力給湯器との組み合わせを検討した結果、貯湯タンクを1つにした構成が本研究に適当であることが分かり、これを新たに設計し、校内に設置した。集熱器、貯湯タンク、配管などにセンサーを取り付け温度を計測した結果、天気が安定した場合における集熱特性および放熱損失が明らかとなった。以上のように、システムの稼動状況の記録およびパラメータの決定を行った。日射量予測値に基づいて深夜電力により加熱を行う試験運用を行った。このデータから日射量予測の効果を確認した。また、本システムは本校武道場シャワー室に設置したため、実際の給湯負荷に対する実験に発展させる予定である。
著者
若桑 みどり 池田 忍 北原 恵 吉岡 愛子 柚木 理子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本課題は、20世紀において、男性が支配する国家が起こした世界戦争において、主導権を持たない女性が、ただに「被害者」となったのではなく、さまざまな方法で、戦争遂行に「利用」され、そのことによって一層その隷属性を悪質化したことを明らかにした。以下、代表および分担者の研究成果の要旨を個別に簡略に述べる。若桑は、南京の性暴力の「言説史」を中心課題として研究し、南京で性暴力を受けた被害者に関する日本ナショナリスト男性の「歴史記述」がこの被害を隠蔽したばかりでなく、この性暴力を批判した女性たちをも攻撃し、その言論を封殺したことを明らかにした。これは被害者としての女性への性暴力のみならず、女性の被害を記録する「女性の告発」をも抹消する行為であった。池田は、民族服の女性表象に着目し、アジア・太平洋戦争期における植民地・侵略地への帝国の眼差しを分析した。総力戦体制下の女性服めぐる言説と表象は、国家による女性の身体の管理と動員に深くかかわっていることを明らかにした。北原は、第一次世界大戦期にアメリカ合衆国で制作された戦争プロパガンダポスターに焦点をあて、女性が、男性を戦争へと誘惑する強力な徴発者として利用されたことを明らかにした。この誘惑する女性を媒介としてこれを「守る」男性性が「真のアメリカ人」として構築された。吉岡は中国入スターとして使用された日本人女優李香蘭の仮装と国籍の移動(バッシング)を分析し、植民地と宗主国の国境を逸脱する女が戦略的に植民地民衆の慰撫に利用されたことを明らかにした。
著者
山名 淳
出版者
東京学芸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

研究計画の最終年度となる平成18年度は、論文「『もじゃもじゃペーター群』の教育学的分析(前半)-絵本に描かれる「悪い子たち」の境界づけをめぐるライナー・リューレの試みとその妥当性について」(『東京学芸大学紀要第一部門 教育科学』第57集、2006年3月、47-62頁)において特定した教育学的に重要な『もじゃもじゃペーター』の類似本の一覧にもとついて、引き続きドイツの類似本収集家たち(とりわけ、代表的な収集家であるライナー・リューレ氏、ヴァルター・ザウアー氏、ディーター・ザロモン氏)と郵便およびメールのやりとりを通じて未収集であった類似本の情報および複写を入手した。考察対象の候補としてリスト・アップした182冊の作品のうち、収集した類似本は、約81パーセントの155冊(約1,250話)である。それらを対象として、各物語の内容を確認した後に、(1)主人公の性別、(2)具体的な特徴および行為(3)忠告の有無(4)忠告の与え手、(5)行為の帰結、(6)懲罰の種類、(7)懲罰の与え手、(8)推奨されるモラル、(9)危険の区別(危険としての子ども/危険としての環境)、について分析を加え、それにもとついて物語の歴史的な変遷について検討を行った。その結果、時代の変遷とともに、戒めの多様化、危険な時間帯および空間の変遷、物語における親の役割の普遍性、偏見への配慮の増大、などの傾向が見られることを確認した。これらの結果を「文明化」理論に依拠しつつ解釈した。本研究の成果については単著の形で公刊する予定であり、現在、その準備を進めている。