著者
江口 和洋
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.141-148, 1990-03-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
11

1982年2月より1985年5月まで熊本県上益城郡矢部町の緑川水系五老ヶ滝川と笹原川流域においてカワガラスの営巣習性についての研究を行った.1)造巣行動は8月から4月までみられ,とくに12月と1月に頻度が高かった.8-10月の造巣行動は初期段階で終息し,12月以降の造巣のみが産卵以上のステージにまで進んだ.2)造巣への雌雄の貢献度はほぼ等しく,両性間での分業は見られなかった.3)発見された53巣のうち,橋(26巣,49%),崖や石垣(13巣,25%)への営巣が多く,ほかに暗渠の中,排水口,岩,滝の裏などに造られていた.人造物への営巣が多かった(64%).橋への営巣は4年間で増加し,崖•石垣の利用は減った.4)2回目繁殖では巣の再利用が多かったが,経年使用は稀であった.営巣場所は毎年繰り返し利用される傾向が強かった.5)営巣場所による繁殖成功率の有意な差はみられなかった.6)繁殖つがい数は1982年の6つがいから1985年には13つがいまで漸増した.7)4年間で潜在的な営巣可能場所は変化しなかったが,河川拡張工事により採餌に好適な平瀬が増えたことが,繁殖個体数の増加をもたらしたものと思われる.
著者
笠井 淳司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.5, pp.198-202, 2012 (Released:2012-05-10)
参考文献数
34
被引用文献数
1

近年,ヒトや他の動物種の遺伝子配列が解読され,それに伴い新たなGタンパク質共役型受容体(GPCR)が発見され,これらの大部分が内因性のリガンドが不明なオーファンGPCRであることが明らかになってきた.本稿では,その中の一つで1998年に脱オーファン化したGタンパク質共役型受容体APJとその内因性リガンドであるアペリンのこれまでの研究について概説する.アペリンは13アミノ酸からなるペプチドで,その配列はマウスからヒトまで保存されている.APJはアンジオテンシンII受容体AT1とヘテロダイマーを形成することでアンジオテンシンIIの血圧上昇作用を阻害する内因性の拮抗システムとして機能していることが示されている.その他,アペリン–APJシステムは,血管内皮細胞に対し強力な増殖作用を示し,様々な生理的な血管形成および,病態時の血管新生に関与していることが明らかになってきた.さらに,既存の血管内皮増殖因子(VEGF)によりAPJの発現が,塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF2)やアンジオポエチン/Tie2システムによりアペリンの発現がそれぞれ上昇することから,既存の主要な血管新生因子とのクロストークが示されている.一方で,細胞内シグナルでは,VEGFなどのPKC/Raf/MEK経路とは独立してAkt/mTOR/p70S6キナーゼを介して細胞増殖作用を示すことが報告されている.また,アペリンは低酸素に誘導されることや,糖尿病網膜症などのマウスモデルにおいて発現上昇が生理的な血管形成時よりも劇的に高いことから,虚血性血管新生が関与する病態形成に強く関与することが考えられる.これらの疾患では抗VEGF中和抗体が臨床応用され始めたが,それに伴いいくつかの問題点が挙げられている.そのためVEGFシグナルとは独立した経路を持つアペリン–APJシステムを標的とした新規治療薬がこの問題点を解決できる可能性が考えられる.

4 0 0 0 OA EXOS系衛星

著者
伊藤 富造
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会誌 (ISSN:00214663)
巻号頁・発行日
vol.26, no.298, pp.580-585, 1978-11-05 (Released:2009-07-09)
参考文献数
3
著者
山内 加奈子 斉藤 功 加藤 匡宏 谷川 武 小林 敏生
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.537-547, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
43
被引用文献数
3

目的 地域高齢者における 5 年間の縦断的研究により主観的健康感の低下に影響を及ぼす心理・社会活動要因について明らかにすることを目的とする。方法 愛媛県東温市に在住する65歳以上の高齢者7,413人全員に「高齢者総合健康調査」を実施し,85歳以上または日常生活動作で介助を必要とする者および 5 年間における死亡・異動等を除く4,372人を追跡対象者とし,3,358人を分析対象者とした(追跡率76.8%)。主観的健康感は「普段,自分を健康だと思いますか」に 4 件法で回答を求め,さらに「非常に健康である」,「まあ健康である」を主観的健康感の健康群,「あまり健康でない」,「健康でない」を非健康群に分類した。この 2 群について,5 年間追跡することで,主観的健康感の変化およびそのパターン別の割合を検討した。次に,初回調査時における主観的健康感の健康群を対象とし,5 年後の主観的健康感が健康か非健康かを目的変数として交絡因子を調整の上,初回調査時の老研式活動能力指標,生活満足度尺度 K,認知症傾向,うつ傾向の心理・社会活動指標の各因子との関連についてロジスティック回帰分析を用いて検討した。結果 5 年間の追跡調査後に,主観的健康感の健康群は男女ともに減少した。追跡期間中に健康を維持した者の割合は,男女とも,前期高齢者では約 6 割,後期高齢者では約 4 割であった。前期高齢者においては,初回調査時の生活満足度が高いことの低いことに対する 5 年後の主観的健康感が非健康であるオッズ比は,男性で0.85(95%信頼区間:0.77-0.93),女性で0.79(95% CI: 0.72-0.87)とそれぞれ有意に低く,さらにうつ傾向有のうつ傾向無に対するオッズ比は女性でのみ1.68(95% CI: 1.11-2.56)と有意に高かった。後期高齢者においては,生活満足度が高いことの低いことに対する 5 年後の主観的健康感が非健康であるオッズ比は,男性で0.87(95% CI: 0.77-1.00),女性で0.89(95% CI: 0.80-0.99)と有意に低く,さらに老研式活動能力が高いことの低いことに対するオッズ比は,男性で0.80(95% CI: 0.70-0.91),女性で0.88(95% CI: 0.80-0.97)と有意に低かった。結論 本研究から,地域高齢者の主観的健康感の低下を防ぐためには,男女ともに生活満足感を高めることが必要と考えられた。加えて,前期高齢者の女性においてうつ傾向がないこと,および後期高齢者では,男女共に日常生活活動能力を維持することが,主観的健康感の維持のためには重要と考えられる。
著者
小池 文人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.2101, 2021-05-24 (Released:2021-07-12)
参考文献数
3

世界的に学術雑誌のオープンアクセス化が進んでいる。「保全生態学研究」も誰でも論文を読むことができるようになったが、 2020年 4月の投稿規定からは著作権を著者自身が持ち、 CC BY 4.0のライセンスを遵守すれば許諾を得ずに、自由に図表等をオンライン授業や講義、不特定多数の市民向け公開講座などの資料として配布して利用することができるようになった。同時に掲載料を有料とすることで、会員以外にもひろがる生態学の関連分野の専門家や実務家の投稿を可能とした。ただし筆頭著者が生態学会会員であれば一定のページ数まで出版料を免除することで会員サービスは従来と同等である。保全生態学研究では「読者にとって知る価値のある情報であるか」を中心的な指標として新しい生態学論文のスタイルを開発してゆきたい。
著者
森岡 耕作
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.31-42, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
21

異質な顧客ニーズに対応できる有効な製品戦略であるマス・カスタマイゼーション(MC)の中でも,顧客の構成負担を軽減しうるソリューション提示型カスタマイゼーション(CvSS)が注目を集めており,その有効性が吟味されている。しかしながら,このCvSSに関する既存研究は,第一に,MCについて顧客が知覚する価値のうち限られた種類の価値にしか注目しておらず,第二に,そのシステムを利用する顧客のデザイン・スキルにおける異質性を考慮していない,という問題を抱えている。そこで本論は,第一に,顧客が知覚するMC価値の構造を特定化し,第二に,その価値構造を前提に,CvSSの効果を吟味しようと試みた。サーベイ・データを利用して行った分析(分析1)の結果,享楽性と過程努力とによって構成されるMC過程価値が,選好合致と自己表現性とによって構成されるMC製品価値を高めるということを見出した。そして,実験データを利用して行った分析(分析2)の結果,デザイン・スキルの低い顧客より,デザイン・スキルの高い顧客の方が,MC過程においてソリューションが提示された時に知覚する享楽性が低いということを見出した。
著者
日合 あかね
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.96-107, 2005-05-28 (Released:2017-09-22)

本稿の目的は、女性の性的自立の可能性について探究を行うことにある。そのために、通常は女性の性的自立と対立するものとされるマゾヒズムを取り上げ、女性のマゾヒズムが性的自立に導きうる可能性を検討する。女性の積極的なマゾヒズムの実践が現状の権力構造を脱構築する可能性を検討し、あわせて、マゾヒズムのより深い理解へ至るよう努める。ジェンダーの文化的偏向によって、男性のそれとは異なり、女性のマゾヒズムは自然本性的なものとされてきた。自然に依拠したこの種の議論は、当然のことながら再吟味されねばならない。しかしまたこのことは、必ずしも女性の性的なマゾヒズムが日常の権力関係を単純に反映していることを意味しない。サドマゾヒズムが権力関係を利用するというように考えると、パット・カリフィアのように、サドマゾヒズムは「権力関係のパロディ」と定義することもできよう。そこで本稿では、パット・カリフィアのこの考え方を、女性のマゾヒズムの十全な理解と現在のジェンダー構造を脱構築する手立てとして取り上げ、そこから女性の性的自立を再定義する方向性を提示することを試みた。これと関連して、ジュディス・バトラーの「ジェンダー・トラブル」の概念や、男性のマゾヒズムを近代的主体の派生形態と捉えるジョン・K・ノイズの議論をも検討した。
著者
安中 進
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.19-39, 2019 (Released:2020-01-29)
参考文献数
59

本研究は政治体制と栄養不足の関係を考察する。本研究は飢饉と異なり学問的蓄積の乏しい栄養不足を対象に、状況が最も深刻だと考えられているサブサハラ・アフリカにおいて、1991年から2014年にいたるTime-Series-Cross-Section(TSCS)データを用いた統計的分析によって、民主主義国家が他の変数を統制した上で民主主義自体の効果で栄養不足の改善に好ましい影響を与えているという分析結果を報告した。これは民主主義の好ましい影響が特に貧しい国々において見られることを意味し、これまで民主主義は貧しい国々では、うまく機能しないとした先行研究とは異なる結果である。また、貧困国のマラウイを対象にした事例分析によって、民主化後の農業を中心とする政策が栄養不足減少に寄与したメカニズムを説明した。

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著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1937年12月24日, 1937-12-24
著者
ボエ ルイ-ジャン ヴァレ ナタリー シュワルツ ジャン-リュック アブリィ クリスチャン
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.450-458, 2002-07-01 (Released:2017-06-02)
参考文献数
22

世界の言語における母音体系の普遍性を研究する枠組として,分散集束理論(Dispersion-Focalization Theory:DFT)による母音体系予測の仕組みを紹介する。更に,その予測結果をUPSID(UCLA音素目録データベース)所収の実データとの比較により検証し,モデルによる母音体系予測研究の可能性を論じる。DFTは言語で用いられる母音体系がどのように選択され得るかを予測する理論である。母音ホルマント間の知覚的距離を想定した二つのコストが最小となる系が選ばれるとされる。二つのコストとは,(i)母音間距離の拡散度(分散コスト)と(ii)各母音内のホルマント周波数の近接度(集束コスト)であり,前者は母音体系全体の安定性に,後者は個々の母音の安定性に寄与する。DFTによる予測は二つの自由パラメータλとαで制御される。前者は分散コストにおける第1ホルマントに対する高次ホルマントへの相対加重,後者は分散コストに対する集束コストへの相対加重である。最後に,3〜7母音の体系に対して得られた予測結果とUPSID所収の母音体系との比較により,実在の音素目録にうまく適合するλ-α空間の領域を示す。その領域では,現存する母音体系中最頻の系が予測されるだけでなく,ある母音体系の中で生じ得る変異系がその変異が許される程度と共に示される。
著者
林 成多
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.105, no.9, pp.609-624, 1999-09-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

新潟県三島郡和島村の大武遺跡において, 泥炭質堆積物からなる完新統から8種のネクイハムシ類を含む多様な甲虫化石群集が得られた.ネクイハムシ類について化石群集の産状を7つに区分した層相を基に検討した結果, 種構成と層相には対応関係があることがわかった.さらに, 新潟県を中心に東日本でのネクイハムシ類の現生調査から生息環境をまとめた結果, ネクイハムシ類が示す古環境と層相などから推定される古環境はよく一致し, ネクイハムシ類の化石群を解析することにより詳細な水辺~湿地環境を推定できること明らかにした.ネクイハムシ化石群の解析結果や他の化石, 産出層準の層相から, 大武遺跡の埋没谷は流水の影響下で砂質堆積物がまず堆積し, その後に浮葉植物群落を伴う止水域が出現した.止水域はやがて湿性植物が繁茂する湿地となった.この湿地は層準により止水域を伴う場合や, スゲ類やヨシが優占するなど環境が変化したという, 古環境変遷が推定される.