著者
三宅 康博 永谷 幸則 吉田 光宏 林崎 規託 荻津 透 大西 純一 鳥養 映子
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2017-05-31

透過ミュオン顕微鏡に用いる超低速ミュオンに厚い試料への透過能をもたせるための再加速装置である5MeVミュオンサイクロトロンが完成した。本年度、サイクロトロンの主磁石を作成するとともに、サーチコイルを用いた超精密(10(-5)精度)かつ高勾配(10%/cm)の磁場を計測可能な3次元磁場測定装置を開発し、これらを用いて精密磁場測定、磁場計算と磁極調整(シミング)をくりかえし、目標とする最大0.5T強度で10(-5)精度の等時性磁場の形成に成功した。磁場測定装置の開発では、低膨張ガラス立方体にコイルを巻き、超低ドリフトアンプ、24bitADC、14bitロータリーエンコーダー、FPGA処理装置を組み合わせ、必要な精度を得た。また、サイクロトロンに高安定な108MHzと324MHzの電磁波(RF)を供給する発振器、プリアンプ、パワーアンプ等も開発した。GPS原子時計に同期した源発信をPLLにより上記周波数に変換し、複素変調器、複素復調器、ADC、DACとFPGAを組み合わせたフルデジタルなRF制御系の開発も進めた。並行して、透過ミュオン顕微鏡に用いる超伝導対物レンズの超伝導コイルのヘリウム冷却・起動試験を実施し、目論見通りの磁場(最高4.2T)分布が得られる事を確認した。また、ミュオン回折実験のデーター解析も進めた。
著者
岡崎 仁昭 長嶋 孝夫 佐藤 英智 平田 大介
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

【目的】スタチン類はHMG-CoA還元酵素抑制によるコレステロール低下作用以外にも様々な多面的効果(pleiotropic effect)を持ち、近年、免疫抑制作用を有することが注目されている。我々はスタチン類の免疫抑制作用の機序をアポトーシス誘導作用の観点から研究を進め、脂溶性スタチンのフルバスタチンは活性化T細胞と培養RA滑膜細胞に対してアポトーシス誘導能を有し、その機序としてprotein prenylation阻害に基づくことを見出した。今回はスタチン類がループスモデルマウス(MRL-lpr/lpr)に対して治療効果を示すか否かを検討した。【結果】既に自己免疫病を発症している生後4か月齢のMRL-lpr/lprマウス計60匹をコントロール群、フルバスタチン投与群(10mg/kg)、副腎皮質ステロイド投与群(10mg/kg)の3群に分け、週3回腹腔内継続投与した。(1)投与開始4か月後の生存率:コントロール(C)群(50%)、フルバスタチン(F)投与群(55%)、副腎皮質ステロイド(S)投与群(90%)(2)尿所見:C群1.3±0.4、F群0.4±0.2、S群0.6±0.2(3)血清抗ds-DNA抗体価(EU):C群62.9±24.9、F群178.6±88.6、S群17.7±5.3(4)血清INF-γ(ng/ml):C群45.1±12.7、F群34.4±5.7、S群16.0±3.9【考察】今回のフルバスタチン投与実験(投与量と期間)では蛋白尿減少作用を認めたが、長期的生存率は上昇させなかった。血清抗ds-DNA抗体価はフルバスタチン投与群では逆に上昇傾向であった。スタチンには薬剤誘発性ループスの症例報告もあり、全身性エリテマトーデス(SLE)患者に投与する場合には注意を要すると考えられた。【臨床への応用】リウマチ膠原病患者は動脈硬化を合併しやすいことが報告されている。スタチン類がその抗動脈硬化作用に加えて、免疫調節作用をも有していれば、リウマチ膠原病に対する新たな治療薬となり得ることが期待される。
著者
石嶌 純男
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

マウスSwiss 3T3線維芽細胞を増殖刺激すると、早期に細胞内遊離Mg^<2+>濃度が上昇する。このMg^<2+>の増加は10秒以内に起こる一過性の初期相と、大部分は細胞の外からのMg^<2+>流入による30-60分後の第2相との二相性を示す。ここでは刺激直後に起こる一過性のMg^<2+>濃度上昇に焦点を絞り、細胞内でのMg^<2+>の遊離機構を解析した。遊離Mg^<2+>濃度の測定は、蛍光色素mag-fura-2と蛍光顕微画像解析装置Argus-100を用いて単一細胞レベルで行った。刺激は主として、ボンベシン-Swiss 3T3細胞系を用いた。1.細胞内Mg^<2+>遊離機構。細胞質内Mgの90%以上は各種のリガンド、特に40%はATPと可逆的に結合して存在する。しかし刺激後2分以内にATP濃度変化はみられず、Mg^<2+>上昇はATPよるものではない。さらにボンベシンにより細胞内はアルカリ化するが、弱塩基添加により細胞内をアルカリ化してもMg^<2+>濃度はほとんど変化せず、ボンベシンによるMg^<2+>上昇にも影響を与えなかった。一方、イオノフォアの一種であるイオノマイシンを加えるとMg^<2+>上昇がみられたが、ボンベシンあるいはイオノマイシンを加え2分後に他方を加えても二度目のMg^<2+>上昇はみられなかった。これは両者が同じMgプール、おそらくは膜系よりMg^<2+>を遊離させたことをしめしている。3.細胞外Ca^<2+>の役割。外液のCa^<2+>を除くとボンベシンによるMg^<2+>上昇の程度は六十%低下し、Caチャンネルブロッカーであるニカルジピンを加えるとMg^<2+>上昇は90%阻害された。このニカルジピンによるMg^<2+>上昇の低下は、外液のCa^<2+>濃度を上げることにより部分的に回復した。以上の結果は、ボンベシンが、細胞外Ca^<2+>に依存して早期に細胞内プールからMg^<2+>を動員することを示している。
著者
鈴木 俊夫
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

原子核のスピン応答を正確に記述し、崩壊線近傍までの殻進化を再現できる殻模型ハミルトニアンを用いて、高温、高圧の天体環境条件下での電子捕獲率、β崩壊率の精密な評価を、sd殻核、pf殻核から二主殻が関係するsd-pf殻、pf-gds殻の核領域に研究対象を拡張して行う。 また、19Fの合成に重要なニュートリノ-20Ne 核反応の再評価を行う。元素合成および核Urca過程による星の冷却の計算に必要な精密な核データの蓄積を系統的に範囲を拡げて提供することによって、原子核分野での不安定核の研究、核構造研究の精密化の成果を、天体での元素合成、星の進化の分野の研究に有効に反映させる。
著者
新谷 朋子
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

小児の睡眠障害はアデノイド・扁桃肥大が原因となる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS : Obstructive Sleep Apnea Syndrome)が主である。アデノイド・扁桃摘出術によって、口呼吸、いびき、無呼吸、睡眠中の陥没呼吸、胸郭変形、夜尿、起床時の不機嫌、成長発育不良などが著明に改善することが臨床的に経験されるが、近年OSASによる行動異常(多動や攻撃性)、学習障害、ADHD(注意欠陥・多動性障害)との関連が指摘されている。終夜睡眠ポリグラフ、簡易検査であるヒプノPTT、行動評価としてアクティウオッチ、OSA-18を用いて、小児OSASの病態について検討した。簡易検査であるヒプノPTTを終夜睡眠ポリグラフに加えることによって、呼吸努力の評価が可能であった。OSA-18では睡眠や日中の行動、保護者の不安が有意に改善して、手術療法の効果が見られた。アクティウオッチは少数例にしか施行できず、24時間の使用が困難で十分な評価は難しかった。
著者
滝沢 翼
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

片頭痛は若年者に好発する慢性頭痛疾患であり、有病率(約10%)、生活支障度ともに高い。片頭痛患者の一部ではストレス、生活習慣、天候の変化など何らかの頭痛発作の誘発因子を有している。本研究では片頭痛の誘発因子の実態について調査を行い、科学的な検討を試みる。最終的には片頭痛患者のQOL向上を目指す。
著者
多々良 源 河野 浩 柴田 絢也
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

スピン伝導現象と制御(スピントロニクス)は基礎科学と応用の両面で緊急かつ重要な課題である。本研究ではスピントロニクス現象において本質的な役割を担っているスピンに作用する有効電場及び有効磁場に関する理論的解析をおこなった。その結果、それらの場は電荷に作用する通常の電磁気現象と同様の数学的構造をもち、これによりエレクトロニクスと同等な信頼性をもつデバイス設計が可能であることが明らかになった。また、スピンの運ぶ情報を電荷情報に変換するためにはスピン軌道相互作用が重要な役割をしていることもわかった。この変換をスピンの電磁気学の観点でみると、磁化の運動からモノポールが誘起されアンペール則により起電力が発生するという新たな現象であることがわかった。このことはスピントロニクスをエレクトロニクスに融合させる上での新たな可能性を示唆している。
著者
田口 茂
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

第一に、現象学的観点から見た「現実の手応え」とも言える明証論を追究し、現実を自然に生きる態度と、それについての「超越論的な気づき」との間の密接な関係を明らかにした。第二に、田辺元の「媒介」概念の研究により、現象学を媒介論的に展開するアイデアを複数の論文等で発表した。第三に、神経科学者、数学者、認知科学者との共同研究により、「意識」の学際的研究を推し進め、量子論とも整合的で、数学の「圏論」のアイデアを採り入れた新しい現実観を書籍等で提示することができた。
著者
水野谷 祥子 (澤野 祥子)
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

遅筋と速筋に発現する脂質代謝関連遺伝子を網羅的に解析し、その発現量の比較を行った。遅筋モデルとしてsoleus、速筋モデルとしてEDLを用い、各々の筋組織からRNAを抽出・処理した後、次世代シーケンサーを用いたRNA-Seq解析に供した。得られたデータセットの品質評価・マッピング・発現量の正規化を行い、遅筋(soleus)と速筋(EDL)に発現する遺伝子の差異について検討した。遅筋と速筋それぞれに発現する全ての遺伝子を比較した結果、558個の遺伝子について有意な発現量の差異が認められた。そのうち遅筋における発現が多い遺伝子は230個であり、遅筋タイプの筋線維マーカーであるMyHC1をはじめ、β酸化・TCA回路関連遺伝子を中心に有意に発現量が高かった。速筋における発現が多い遺伝子は228個であり、糖代謝に関わる遺伝子発現量が有意に高いことが分かった。遅筋に多く発現する脂質代謝遺伝子について詳細に解析した結果、脂質酸化系に関連する遺伝子だけでなく、脂肪酸取込に関わるCD36 (fatty acid translocase)および、トリグリセリド合成に関わる遺伝子についても有意に多く発現していた。これらの脂質合成系の遺伝子発現量の増加はreal time RT-PCRにおいても認められた。したがって、当初の推測通り、遅筋においては、酸化によるエネルギー燃焼を行いつつ合成系の働きも亢進しエネルギー枯渇を防いでいることが示唆された。
著者
室崎 生子 小伊藤 亜希子 中島 明子 上野 勝代 吉村 恵 松尾 光洋
出版者
平安女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

建築・都市計画分野における女性の専門職比率、昇格実態などを把握するために、14年度に都道府県を対象に、15年度には、東京23区を対象に、アンケート調査を実施し、社会進出状況と昇格における男女差の実態を把握した。建築・都市計画分野における女性の専門職の採用は近年、増加の傾向にあることは把握できたが、建築・都市計画分野における女子学生の増加率に比べれば、その増加を反映したものとはなっていないといえる。また、昇格に対しては男女差別が存在しており、等しく昇格試験が受けられる自治体と不明瞭なところとがある。大学における教員比率についても、女子学生の増加に対応したものとなっていないこともわかっており、採用や昇格における改善はエンパワメント政策上の課題であることが確認できた。また、国外比較事例として、1年度は韓国、2年度はイギリス、フィンランドを対象とし、ジェンダーエンパワメントの実態を調査した。いずれの国でも建築・都市計画分野において女性が増加してきており、先進的に活躍する女性たちが存在することが感じられたが、いずれの国においてもジェンダーによる影響が皆無ということはなく、引き続き国際的にも課題であることも確認できた。女性政策や社会の発展からすると後発とも言える韓国は、民主化政策の中で急速に女性政策が進展した国である。韓国調査からは、有効な政策を打つことで、エンパワメントがはかれることが示唆された。ジェンダーエンパワメントが高いフィンランドでは、福祉制度や女性政策が進んでおり、働く環境がととのっていることが、初期から中期のポストでの差がない状態を生んでいることが理解できた。また、養成課程での女性比率が社会進出に反映するなどエンパワメントの実態を目の当たりにすることができた。イギリスにおいては、女子学生の増加に見合った女性建築職の進出の場や活躍の場が少ないなど日本の状況とにており、社会的に活躍できにくい状況の解明調査に取り組んでいるところであった。民間企業に勤める建築専門職の実態調査等が、今後の課題としてのこった。労働政策、福祉政策、女性政策等の連携なしに建築専門職分野のエンパワメントもありえず、総合的視野からの改善ときめ細かなところからの支援改善を連携する提言をしていくことが課題である。
著者
平山 久雄
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

上田正『切韻諸本反切総覧』に復元推定されている原本『切韻』の反切を,吟味を加えつつカ-ド化し,反切上字の韻母・反切下字の声母の全体的分布に関する詳しい統計表を作成した。これは随唐音韻史の基礎である『切韻』の音韻体系に関する考察を進める際の基本資料として永く役立つものである。現代諸方言の調査資料についても鋭意収集し,音韻の地理的分布について知見を増すことができた。これらの資料を用いて,従来から議論の多い随唐音韻史上の諸問題について考察し,自分として一応納得のゆく結論に達した。「舌上音」の音価については現在有力なretroflex説を否定しpalatal説を支持する結論を得た。「重紐」については声母によって音価のニュアンスが異なること,喉音韻尾については円唇性の弱化と口蓋性の強化とが随唐音韻史の経過において相互に関連すること,などを立証しえた。声調に関しては,方言資料・文献資料および押韻資料の分析を通じて,上古音より随唐を経て現代官話諸方言に至る声調調値価変化の大筋を初めて描くことができた。その結果,上古音時期には音韻論的な意味での声調はまだ存在せず,主母音・韻尾における喉頭緊張の有無が声調の区別に転化したとの結論を得た。これは中国語とチベット語との親近性に一つの追証をもたらすものである。以上のような中国語音韻史に関する新知見を織り込みながら,研究代表者の旧稿「中古漢語の音韻」(大修館『中国文化叢書』所収)を大幅に改訂補充した「中古音講義」なる原稿をほぼ完成した。更に多少の改訂を加えて出版を考える予定である。
著者
津崎 実 川上 央
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

次元コンピュータ・グラフィックスでの人体モデルに人間らしい動作をつける際に,モーションキャプチャーシステムを使う場合には測定上の誤差に対する後処理的な修正が必要となることが多い。本報告ではダンス動作をキャプチャーした際の誤差修正の手段として,足先の接地状態を補助的な視覚映像に基づいて施すことの効果について,バイオロジカル・モーション刺激を用いた対比較による強制選択法による知覚評価実験と,fMRIによる脳活動計測を実施した。その結果として,修正による変化は確実に存在し,修正版を良いと判断した評価者がいる一方で,修正版は躍動感という点においては無修正版よりも低下することを示唆する結果を得た。
著者
NORI Franco (2010 2012) NORI FRANCO (2011) GIAVARAS Georgios ジャバラス ギョルゴス
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

電磁場を組み合わせて形成させたグラフェン量子ドットの性質を詳細に研究した。電場により、ゲート電極を使用して発生させることができるであろう滑らかな量子井戸ポテンシャルが生成される。単層グラフェン内でのクライントンネル効果のために、量子井戸ポテンシャルの状態は振動的な漸近依存性をもち、したがってこの井戸のみでは電子を閉じ込めることはできない。しかしながら、均一な磁場がグラフェンシートに直交するように印加される場合は、この状態は閉じ込めに必要なように漸近的に減少する。我々は電場がランダウギャップ内にエネルギーレベルを誘起することにより、ランダウレベルのスペクトルを変化させることを見出した。これらのエネルギーレベルに対応する状態は、外場に束縛されており、その外場で調節することが可能である。これらの状態数は電場の強度に比例する。状態密度の計算結果によれば、量子状態は低密度領域内に存在し、従って量子状態は電子輸送測定を利用して実験的に探査することが可能であろう。更に我々は、スピンがブロックされたダブル量子ドットにおける電子輸送を研究した。スピン・軌道相互作用の強度を調節することにより、ダブルドットを通過する電流は、ゼロ磁場で落ち込む、あるいは2つの電子エネルギーが反交差するような磁場でピーク値になることを示した。この振舞いは、磁場およびスピン・軌道振幅による1重項と3重項との混合に依存するためである。我々は、電流の近似表現を、輸送サイクルに含まれる状態の振幅の関数として導出した。また、有限個数の核スピンを考慮した別のモデルを考え、電子と核スピンとの間にこのモデルの結果として生じる動力学を研究した。我々は、スピンアンサンブルが熱状態にあれば、一時的な電流の規則的な振動とそれに続いて、熱的ジェインズ・カミングスモデルで見られるものと類似する準カオスのリバイバルが存在することを示した。
著者
宗岡 光彰 小森谷 久美 村上 康二郎
出版者
東京工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、「情報アクセシビリティ」を基本的人権の一つとして位置づけ、その実現に困難があると想定される障害者の情報利用、とくにインターネットの利用に焦点を当て、その実態を把握し、障害者の情報アクセシビリティ保障のための方策を探ることを目的としている。研究は平成14年度、15年度の2年度に亘って行った。研究の初年度(平成14年度)には、基本的文献の研究および質問紙法による障害者の情報利用の実態調査を行った。とくに、障害者のITおよびインターネットを活用しての情報の取得・利用やコミュニケーション、社会参加の手段としての利用の実態把握に重点をおいて調査を実施した。この調査により、障害者の情報アクセシビリティの現状や問題点を把握することができた。最終年度の平成15年度は、文献研究の継続、前年度の実態調査結果の詳細分析、障害者の情報アクセス・情報利用の事例研究、技術分野の専門家へのインタビュー調査、アメリカの関連法の調査を実施した。これらの研究調査結果を整理、分析、考察し、さらに、前年度の研究結果を融合して、研究のまとめを行った。研究結果の内容は、まず、障害者の現況、支援政策の最近の動向を整理した。次いで、前年度に実施した障害者の情報利用の実態調査データの詳細分析を行い、携帯電話、インターネットの保有・利用状況、つまり、メディア行動を分析するとともに、問題点・課題を把握した。続いて、障害者の情報化サポートの施策、実状、関連技術の動向をまとめた。また、障害者の情報アクセシビリティの保障のためには、法的、制度的バックアップが欠かせないことから、アメリカの関連法の分析を行い、わが国への示唆を得た。さらに、情報アクセシビリティの経済的問題点について考察を行った。以上の結果を踏まえ、障害者の情報アクセシビリティの問題点と課題を整理し、障害者の情報アクセシビリティの保障のための方策をまとめた。
著者
伊藤 武 浅羽 祐樹 川村 晃一 菊池 啓一 久保 慶一 中井 遼 成廣 孝 西川 賢
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

米欧アジアにおけるプライマリーの実証的分析を行う本研究は、地域・手法を重層的に横 断した研究体制に基づいて、4カ年 計画で議員サー ベイを含むデータ収集、量的・質的な比較分析を行い、引き出した仮説をサーベイ実験で検証する。データベー ス・成果は国内外の 研究者に 公開して、プライマリー関連研究の進展に貢献する企図である。進捗管理と予測できない事態へ の対応も含めて、メンバー間での研究会を実 施する。計画2年目に当たる2019年度は、初年度に整理した海外調査のデータとそれを基にした分析をまとめて、英語または邦語で論文を執筆した。代表者及び分担者は、国内外の学術誌における査読論文(Party Politics等)、国内外の学会発表等(Council for European Studies, Midwest Political Science Association , International Political Science Associationなど)を通じて、積極的に成果を発信した。また2019年度は在外研究の研究資金処理の関係で分担者を外れざるを得なかった菊池氏についても、研究上の連携を維持し、関連論文の執筆及び次年度のサーベイに向けた研究を実施した。データ収集・調査については、各自の担当地域について、関連資金も利用しながら調査を行った。研究打ち合わせは、国内学会の開催に合わせて随時実施していたが、年度末に予定してた成果取りまとめと論文集作成のための研究会、その前のいくつかの海外調査については、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う移動制限によって断念せざるを得なかった。
著者
阿南 透 谷部 真吾 中里 亮平
出版者
江戸川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

日本の都市祭礼を対象に、祭礼の中で起こる事故や暴力の解決法とその変化について、8つの祭礼を例に研究した。以前は祭礼における暴力が当然視され、当事者によって解決する慣例が存在したが、戦後は警察と行政の関与を招いた。このため多くの祭礼は暴力を抑制する方向に変化したが、一部の祭礼は、高度成長期以後、場所と時間とルールを決めて対戦する「競技化」の方向に変化したことが明らかになった。
著者
奥平 准之
出版者
明海大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ヒトゲノム解読以降、ジャンク配列とされてきたtransposable遺伝子(転移遺伝子)の機能解明に様々な分野から注目が集まっている。中でも、1細胞中に約52万コピー(全ゲノムの約17 %)存在するLong Interspersed Element-1(LINE-1以下L1)は特徴的で、80-100コピーは正常細胞中でも転移機能を有している(retrotransposition以下RTP)。L1-RTP誘導のメカニズムは不明な点が多く、疾患発症との繋がりも指摘されている。本研究では、社会問題化している乱用薬物の依存形成にL1が関与している可能性を考え、薬物とL1-RTP誘導能を解析した。
著者
増田 久美子
出版者
駿河台大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、ドメスティシティという概念がいかに広範に19世紀米国社会の文化形成にかかわっていたかを検討するため、「白人女性文化」という支配的枠組みに抗して、黒人男性作家の家庭小説にみられるドメスティシティ分析を主眼とした。その結果、ドメスティック・イデオロギーが人種・ジエンダー・階級を横断して多様な人びとに共有あるいは流用されていたこと、また。このイデオロギーが個別の場において特殊な文化的政治性を持ちうることが論証された。
著者
茶谷 直人
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

本年度は前年度に引き続き、アナロギア(アナロジー・類比)概念をキーワードに、アリストテレス哲学における解釈上の諸問題の解決、古代・中世哲学史の連続的把握、応用倫理学上の諸問題への新たな視点の提供を目指す、といった長期的展望のもとに研究を進めた。それにより、主に次の研究成果を生み出した。1.前年度からの継続課題として、アリストテレス『形而上学』Θ巻における二つのデュナミス(能力と可能態)の内実と関係、およびΘ6におけるアナロギアの意義を探った。両デュナミスの差異は排他的でなくパースペクティブ上のものであるがΘ3で両者の連続性が見出されること、Θ巻前半で提示される<能力:運動>というデュナミス:エネルゲイア図式は、Θ6でアナロギア(<現実態:可能態>関係の類比的説明)を展開する上で方法論的意義を有すること、などを示した。なお本研究については、日本哲学会編『哲学』へ論文を投稿の結果、審査を通過し掲載が決定した(論文題目:「アリストテレス『形而上学』Θ巻におけるアナロギアと二つのデュナミヌ」、本年3月公刊)。2.類比概念を、論証的知識から一歩距離を置きつつも単なる話術や修辞にも留まらない独特な知の様式として捉え評価し応用倫理学上の諸問題にアプローチする、という作業の一環として、インフォームド・コンセント(IC)に関し独自の観点からの考察を行った。そこではICについて、「医師の開示内容についての患者の有効な理解を如何に導得るか」という観点から検討し、それを実現する説明様式の一つとして、「アナロジーによる説明」を提示した。これは、高度に専門化された事象について患者の理解を促す策との一つとして有効である。本研究は、昨年11月に日本生命倫理学会大会において発表された(題目:「インフォームド・コンセントにおける<情報開示>と<理解>の関わりをめぐって--アナロジーの可能性」)。