著者
上村 佳孝
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

昆虫の中でも比較的原始的な特徴を多く残すハサミムシ類(革翅目)は、そのペニスの本数に多様性が認められる。すなわち、左右一対2本のペニスを持つグループ(祖先的)と、中央に1本のペニスを持つグループ(派生的)である。前者の中には左右ペニスをほぼ均等に使用する種と、「利き手」(=使用頻度の偏り)が見られる種がある。ハサミムシ類のペニスの本数と利き手の進化史を、形態解析・機能解析・系統推定といった多面的アプローチにより解明し、「利き手の進化とボディプランの進化の関係」を探る。
著者
冨島 義幸
出版者
滋賀県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

古代・中世の浄土信仰にもとづく建築のなかでも、本年度は中尊寺金色堂を中心に空間構成理念の調査・研究をおこなった。また、阿弥陀堂など浄土信仰の建築の本尊となる阿弥陀如来像をはじめとする仏像の調査をおこない、そこにこめられた密教的意味を明らかにした。主たる成果は以下のとおりである。1. 中尊寺金色堂における密教の影響:金色堂の四天柱には密教の尊像が描かれ、これまでこられの尊像は浄土教の阿弥陀四十八願にもとづくとする説と、密教の胎蔵界曼荼羅にもとづくとする説の二説があったが、五十二身像という密教の阿弥陀曼荼羅にもとづくとする新たな説を提示した。また、従来、金色堂の須弥壇に安置された奥州藤原氏三代の遺体は、東北地方のミイラ信仰と結びつけてとらえられてきたが、棺におさめられた曳覆曼荼羅などの副葬品を調査・検討し、同時代の京都の貴族と同じ密教による葬送であったとする説を提示した。この成果は冨島義幸「中尊寺金色堂再考」(入間田宣夫編『兵たちの時代III兵たちの極楽浄土』高志書院)として発表した。2. 仏像と密教修法:仏教建築の本尊として安置された仏像は、その建築空間の宗教的な意味を決定づける、きわめて重要な要素である。阿弥陀如来像や観音菩薩像など、いわゆる浄土教にもとづく造像とされてきた仏像でも、その胎内にその像の種子を書いた月輪が納入されるなど、密教の要素が認められることが指摘されてきたが、その具体的な意味については明確にされていなかった。本年度は、仏像胎内の月輪や内部に直接書き付けられた本尊種子について、現存作品・記録・聖教を総合的に調査・検討し、こうした月輪種子が密教修法にもとづくものであること、すなわちこうした月輪種子を胎内におさめる仏像が、密教修法の本尊となっていたことを明らかにした。本研究の成果は冨島義幸「修法と仏像-胎内の月輪種子を手がかりとして-」として発表した。
著者
郷原 佳以
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

デリダにおける「自伝の脱構築」のありようを明らかにするという目的に沿って、主として以下の研究を行った。(1)デリダがテクストに虚構的かつ単独的な動物たちを登場させ、虚構的かつ自伝的なテクストを書いたのは、他者性における単独性と普遍性のアポリアを限界まで思考するためであったことを明らかにした。(2)デリダにおける自伝的・詩的テクストの展開と晩年まで続いた「灰」モチーフとの関連を精査し、両者に大いなる関係があることを突き止めた。『火ここになき灰』、「送る言葉」、「プラトンのパルマケイアー」を精査することで、「灰」モチーフの登場がデリダにおける自伝的・詩的テクストの端緒を徴づけていることを示した。
著者
田中 智彦 小嶋 博巳
出版者
聖徳学園岐阜教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、六十六部廻国行者の実態を解明するため、六十六部廻国供養塔資料を収集し、そのデータベースを作成するための基礎研究である。調査対象地域として兵庫県・岡山県を選択し、収集した資料の総数は合計539例に及んだ。これらの資料は様々な情報を含み、そのうち建立年・所在地・立地・像容・銘文などがデータベースに盛り込む情報として必要だと考えた。廻国供養塔のデータベース作成に関しては、当初市販のデータベースソフトの利用を想定し、この方針に沿ってデータベースを試作した。しかし、データベースソフトなど同一の環境がない場合、田中・小嶋両者の間でもデータ交換に支障が生じる結果となった。そのため急遽、市販のソフトの利用を放棄し、作成およびその利用が容易であるとの見地から、CSV形式のテキストファイルでのデータベース作成を目指した。完成したデータベースを試験的に利用した結果、廻国供養塔造立年代・造立目的・種子の種類とその出現件数などを統計的に分析することが可能となった。さらに資料の銘文のうち、願主と助力者に関しては、特定の人物が複数の廻国供養塔造立に関与している事例が14例みられ、しかも彼らの中には遠方の者も含むことから、廻国供養を補佐する情報ネットワーク、さらには組織さえあったのではないかと推測できた。このようにして全国的に廻国供養塔資料のデータベース化ができれば、六部の活動もかなりの範囲で解明できるものと思われた。
著者
橋本 健志
出版者
立命館大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、運動効果の分子機序としての乳酸が、認知機能などの脳機能にどのような影響をもたらすかを探究し、認知症改善への応用を目指すものである。そして、認知症の予防または改善に効果的な運動・栄養処方の確立のための学術的基礎の構築を目的とした。神経細胞に対する乳酸添加や、実験動物に対する運動と乳酸サプリメント併用の結果から、乳酸が脳機能の亢進に寄与する可能性を示唆する結果を得た。また、ヒトを対象とした実験から、乳酸代謝と神経活動の亢進が認知機能亢進に重要である可能性が示唆された。
著者
宮本 忠吉 上田 真也 中原 英博
出版者
森ノ宮医療大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、高次脳機構を介した循環制御の生理学的意義を明らかにすることであった。実験の結果、運動準備期における呼吸循環応答の量的・時間的動態は、その後に実施される運動の負荷強度に依存して予測的・見込み的に変化すること、また、運動予測なく突然、運動を開始させると、予測がある場合と比較して、強度依存性に呼吸循環系応答のダイナミクスに変化が生じることが判明した。以上より、高位中枢による予測的・見込み的な呼吸循環制御は、生体へ加わる短時間高負荷運動に対する生理学的ストレスを軽減し作業効率の改善に役立っていることや、学習や記憶といった高次脳神経機構の生体恒常性に果たす役割の重要性が示された。
著者
新田 哲夫 木部 暢子 久保 智之
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究期間を通じて、福岡県宗像市鐘崎から移住し、閉鎖的な社会を保ってきた輪島市海士町の「言語の島」の様子について、海士町のルーツ問題、アスペクト形式「ヨル」、語末母音と助詞の母音融合、アクセント体系、人称詞等について、考察を行った。移住と言語の関係について、ルーツの側の言語がどんどん変化していく一方で、移住先の言語がむしろ古形を保存する興味深い現象が見られた。その一方で能登方言の特徴を取り込みながら、閉鎖的な社会の中で独自の変化を遂げた特徴の存在も明らかになった。
著者
森 大毅 有本 泰子 能勢 隆 永田 智洋
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

(1) 叫び声を誘発しやすいオンラインゲームをプレイする状況のコーパスを開発した。このコーパスには既存コーパスの10倍以上の頻度で叫び声が含まれている。叫び声の音響分析により、通常語彙や感動詞との音響的特性の違いを明らかにした。(2) 感情表出系感動詞の形態を分類し、多様な形態を持つ「あ」を合成した。合成音声を用いた知覚実験により、形態とパラ言語情報との関係を明らかにした。(3) 自然対話コーパスから笑い声の構成要素の変動要因を明らかにするとともに、コーパスベース音声合成を応用した多様な笑い声合成を実現した。知覚実験により、定義した変動要因を考慮することにより自然性が向上することがわかった。
著者
中尾 篤人
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

花粉症や喘息などのアレルギー性疾患を根本的に予防する方法は未だ得られていない。欧米における疫学的な研究から、母乳中に含有するサイトカインの1つであるTGF-βがアトピー性皮膚炎や喘息などの乳幼児のアレルギー性疾患の発症を抑制する可能性が指摘されてきた。しかしながら、経口的に摂取されたタンパク質の多くは、胃酸や消化酵素などによる分解を受けることが知られており、実際に、母乳中あるいは経口的に摂取されたTGF-βが腸管内でその活性を保ちうるのか否か、また活性を保てたとしても本当に免疫系に影響を及ぼすことができるか否か、については、ほとんど明らかになっておらず、それら疫学研究の真偽については不明な点が多かった。我々はこの問題に着目し、経口的に投与したTGF-βが全身免疫系に及ぼす作用について食物アレルギーの動物モデルを使い検討した。その結果、TGF-βの経口投与によって経口アレルゲンに対するIgE抗体産生やアナフィラキシー反応などの食物アレルギー反応がアレルゲン特異的に抑制されることを見出した(Int Immunol 2005、特許申請中、平成17年度本研究成果)。さらに、我々は、野生型マウスやTGF-βシグナルに反応するレポーター遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを使って、経口的に摂取されたTGF-βは腸管内においてその活性を保っており、かつ経口免疫寛容の成立を増強させることを証明した(J Allergy Clin Immunol submitted、平成18年度本研究成果)。これらの知見は、乳幼児や成人の摂る飲食物にTGF-βを含有させるというような簡便な方法によってアレルギー性疾患を効率的かつ根本的に予防し、わが国の保健医療に貢献できる可能性を強く示唆する。
著者
河西 宏祐 松戸 武彦 三宅 明正
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1 本研究は, 日本における産業別労働組織が,どのような構造的, 機能的特質をもっているかを, 歴史的, 実態的に解明することを目的とした.2 まず歴史的研究についてみれば, 戦後の主要労働争議に関して, 数多くの文書資料を収集した他, 当時の関係者から証言を収集した. これらを分析, 検討を加えた結果, 次の諸点が明らかとなった.(1)日本では戦後の約10年間, 企業別組合よりも産業別組合が運動思想における主流の位置を占め, 産業別労使関係が主たる労使関係制度を作りだしていた.(2)1955年前後, 主要な産業において大争議が瀕発し, それを契機として産業別組合の解体, そして企業別組合の時代へと推移している. したがって日本において企業別組合が制度として定着するのは, 1955年以降である.3 1955年以降の現在に至る「企業別組合主義」の時代について, 海運, 造船, 私鉄などの各産業の産業別組織について実態調査を行なった結果, 次のことが明らかとなった.(1)これら, 日本の産業構造の中軸を支えてきた各産業においては, 現在においても, 産業別労災組織の影響力がきわめて強い.(2)最近, 労働運動の停滞がいわれる中にあって, これらの産業では, むしろ逆に組合運動の活性化の傾向がみられる.(3)各産業における組合運動の活性化の条件は, 次のものである. <1>産業別組織が産業政策を作成し, 経営者側団体との交渉, 協議を通じて, その実現に成功している. <2>産業別組織が労働条件に関するモデル水準を設定しそのための到達闘争を指導する他, 強力な産業別機能を展開している. <3>産業別組織が労働管理制度を平等原理によって再構成し, その中の人事考課の余地を少なくしている.
著者
大石 祐一 奥本 貴裕
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

Ultraviolet B(UVB)照射がアミノ酸代謝に及ぼす影響を検討した。UVB照射により、皮膚中システイン量、グルタミン酸量、グルタチオン量が増加し、タウリン量が減少した。UVB照射により増加した活性酸素除去のため皮膚中にグルタチオンが蓄積したことが推察された。また、システインからタウリンへの合成が抑制され、システインが蓄積したと考えられ、その結果、タウリンが減少し皮膚機能悪化を引き起こす一つの要因になったことが示唆された。UVB照射により肝臓中グルタミン量が増加し、3つの分岐鎖アミノ酸量が減少した。このことからUVB照射は肝臓のアミノ酸代謝にも影響を及ぼす可能性が示唆された。
著者
山下 剛範
出版者
鈴鹿医療科学大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

我々は4.5Gy全身X線照射後のマウス小腸損傷に対するタウリン投与を検討した。タウリンは放射線曝露後の小腸におけるタウリントランスポーター発現の減少を抑制した。さらに、タウリンは放射線誘発による酸化的損傷を抑制した。これらの結果は、タウリンがタウリントランスポーターを介してタウリンの損失を補い、おそらくサイトカインやROSによって引き起こされる炎症を抑制することにより、放射線誘発性の小腸損傷からの回復に寄与することを示唆している。
著者
加藤 讓 野津 和己 古家 寛司 谷川 敬一郎
出版者
島根医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

下垂体成長ホルモンならびにプロラクチンの分泌は視床下部に存在するセロトニンによって促進的に調節されている。セロトニンは下垂体に直接作用するのではなく、視床下部の成長ホルモン分泌促進因子(GRF)を介して成長ホルモン分泌を促進し、プロラクチン分泌促進因子の1つであるVIPを介してプロラクチン分泌を促進する。我々はVIPの分泌に視床下部ガラニンが関与することを見出した。本研究ではセロトニンとガラニンとの関係についてラットを用いて詳細に検討した。ラットの脳室内にセロトニンやガラニンを注入すると血漿プロラクチンは用量反応的に増加した。しかしガラニンの投与はセロトニンによるプロラクチン分泌に相加的な影響を与えなかった。セロトニンのH_1受容体拮抗剤メチセルジドの前投与はガラニンによるプロラクチン分泌を部分的に抑制した。しかしセロトニンH_2ならびにH_3受容体拮抗剤の前投与はガラニンによるプロラクチン分泌に影響を与えなかった。セロトニン合成阻害剤であるパラクロロフェニ-ルアラニンの前投与はガラニンによるプロラクチン分泌を明らかに増強した。この効果はセロトニン神経阻害剤5、6ジハイドロトリプタミンの投与によって部分的に抑制された。パラクロロフェニ-ルアラニンはセロトニンによるプロラクチン分泌を増強させた。この効果はセロトニン受容体の感受性の増大によると考えられた。従ってガラニンによるプロラクチン分泌にセロトニン受容体が少なくとも部分的に関与することが示唆される。次に成長にホルモン分泌は視床下部ソマトスタチンニよって抑制されるが、ソマトスタチンノ誘導体である酢酸オクとレオチドはより強力かつ待続的な下垂体成長ホルモン分泌抑制作用を示した。従って視床下部ペプチドの誘導体ないし拮抗剤による成長ホルモンやプロラクチン分泌の抑制効果は、これらの神経ペプチドが下垂体腫瘍に対する薬物療法に応用可能である。
著者
柴田 浩行 岩渕 好治
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

クルクミンアナログGO-Y030、及びGO-Y078が各種mRNAやmiRNAに与える影響を調べた。大腸癌細胞株では41,058種のmRNAのうち、GO-Y030で発現が増減するものにBCL-2, c-Myc, TP53などが含まれる。また、2,669種のmiRNAのうち、GO-Y030で28種、GO-Y078で11種の発現増強を認めた。GO-Y078によって血管内皮細胞株で発現が変動するmRNAは200%以上の発現増強が470種、50%以下の発現低下が243種あった。GO-Y030でhas-miR-19b-3pの発現が亢進した。また、GO-Y078によって5種類のmiRNAの発現が低下した。
著者
鈴木 宗徳 折原 浩
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、マックス・ヴェーバー研究における全ての二次文献を、その年代・主題・言語を問わず網羅的に収集し、整理することにある。1905年から1964年までの邦文文献の収集にあたっては、東洋大学非常勤講師・三笘利幸氏による協力が、また、欧語文献の収集にあたっては、テュービンゲン大学教授・コンスタンツ・ザイファート教授による協力があった。研究代表者である鈴木宗徳は1964年以降の邦文文献の収集にあたり、研究分担者である折原浩は目録全体の編纂について監修を行なった。二年の研究期間のうちに、公表に値する網羅性と正確性を備えた目録として完成したのは、1905年から1964年までの邦文文献の目録のみである。われわれは本研究を継続し、最終的には目録全体をデータベースとして出版したい。研究の過程で明らかとなったもっと重要な成果は、黎明期における日本のヴェーバー研究の重要文献が数多く発見されたことである。ドイツにおいても日本のヴェーバー研究に関心が向けられている現在、本研究がもつ意義は小さくない。また近年のヴェーバー研究については、専門分化の傾向にもかかわらず、公刊された文献全体の数は依然増加していることが明らかとなった。
著者
菅野 早紀
出版者
大東文化大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、高齢者を対象とした個票パネルデータを用いて、高齢期の資産の状況とその推移を明らかにする。高齢になるほど、その影響があると考えられる(1)介護、(2)医療、(3)自然災害、(4)家族の形態の変化の4つのリスクに直面した時に、高齢者はどのように資産を変化させているだろうか。また、年金や医療保険、介護保険といった社会保障制度がこれらのリスクに対して資産変動を防ぐ機能を果たしているか実証的に検証する。
著者
加藤 智章 新田 秀樹 西田 和弘 石田 道彦 稲森 公嘉 田中 伸至 石畝 剛士 国京 則幸 関 ふ佐子 原田 啓一郎 水島 郁子 石畝 剛士 片桐 由喜
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の研究成果として、各国の診療報酬体系は原価計算に基づく報酬設定というスタイルを取っていない点で共通であるという知見を得た。ここで日本の診療報酬体系は統一的で極めて精緻なシステムを構築していることが理解できたものの、医療保障を実現するための供給サイドに対しては、診療報酬に偏重しているため、医療施設等のスクラップアンドビルドに柔軟性を欠くとの仮説を獲得するに至った。このため、本研究はテーマを、医療施設をはじめとする医療保障体制全般にシフトチェンジし、基盤(A)の研究に転換することとした。
著者
小暮 厚之
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

平均寿命の増加は,介護状態に陥る可能性の増大を伴う.我が国を始め高齢化を迎えている諸国では,いわゆる「長寿リスク」に加え「介護リスク」に直面している.介護リスクを考察する上で,死亡率がいかに健康状態(要介護度)と関連するかを把握することが重要となる.しかし,関連するデータの欠如によって,死亡率と健康状態のダイナミックな関係に関する研究は乏しい.本研究では,要介護状態別の死亡数データは欠如しているという想定の下で,要介護状態に応じた死亡率を予測する新たなモデルを提案し,ベイズ法による予測の枠組みを構築した.この手法を我が国の介護年金制度のデータに適用し,要介護状態別の死亡率の予測を行った.
著者
菅原 慎矢
出版者
東京理科大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

制度開始から15年以上がすぎ、介護保険は様々な問題を孕みながらも進展を広げてきた。しかしその実態と効果に関しては、データの不足を背景として、十分な実証分析がなされてきたとは言いづらい。この状況に対して、2015年以降、国際的にみても珍しい規模のビッグデータである介護レセプトデータが、研究者に提供されることになった。本研究は、まずこのデータへの先進的なデータサイエンス手法の応用を通じ、エビデンスに基づく効果的な科学的介護を提案する。さらにこの知見を社会実装するための考察を行う。2019年度の研究内容としては、動学パネルモデルの一つであるPanel VARモデルを用いて、介護サービスへの支出と要介護度の動学的な関係を明らかにする研究を、大阪経済大学石原庸博氏と共同で行った。本研究については、東京経済大学におけるセミナー発表と、関西計量経済学研究会における発表を行った。本研究については英語論文を投稿準備中である。また、2018年に行っていた、この論文は介護レセプトを用いて介護保険サービスの組み合わ せの効果を検証した論文"What composes desirable formal at-home elder care? An analysis for multiple service combinations"が査読付き英文誌 Japanese Economic Reviewに受理された。また、最近の研究から得られた知見を日本語でまとめた論文「わが国における高齢者介護制度の課題と展望」を、季刊個人金融に掲載した。一方で、2020年度における研究のためにデータの申請を行い、介護DBに関して利用の許可を得た。
著者
尾崎 祐介 小川 一仁 中村 恒 藤井 陽一朗
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

少子高齢化と長寿化の進展によって、「老後の備え」が社会的に重要な問題となっている。豊かな老後を送るためには、金融面だけではなく、健康面も重要である。つまり、老後の備えは、金融面と健康面の両方を考える必要がある。本研究では、曖昧性と後悔という概念を用いて、将来の不確実な健康を健康不安として捉えることを提案する。そして、理論と実験を統合して、健康不安を取り入れた家計ファイナンスの構築を目指す。