著者
松原 和夫 清水 恵子 田崎 嘉一
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

標準的なパーキンソン病治療は、ドパミン受容体刺激薬あるいはドパミン前駆体であるL-DOPAの投薬である。特に、L-DOPAは極めて優れた抗パーキンソン効果を示すが、長期間の使用によって効果が減弱する上に、様々な副作用を引き起こす。そのため、L-DOPAによる長期治療のために、幾つかの薬剤が開発されているが、全てL-DOPAの効果を持続させドパミン神経を興奮させるものである。従って、非ドパミン系神経に作用する従来とは全く作用機序の異なる抗パーキンソン病薬の開発が望まれる。パーキンソン病における運動機能の異常は、いわゆる大脳基底核を介した「直接路」あるいは「間接路」の神経伝達経路の不均衡として発現する。直接路は入力部である線条体と出力部である淡蒼球内節や黒質網様部の間を直接つなぎ、抑制性アミノ酸作動性の神経である。一方、間接路は介在部である淡蒼球外節と視床下核を経由して両者を間接的につなぎ、抑制性アミノ酸作動性と興奮性アミノ酸作動性神経が組み合わされている。従って、これらの経路の非ドパミン神経の不均衡を改善すれば、パーキンソン病治療の有効な補助薬となると考えられる。セロトニン1A(5-HT1A)受容体は、抗うつ薬や抗不安薬が作用する重要な部位であると考えられている。5-HT作動性神経は、縫線核を起始部として基底核にも投射している。また、5-HT1A受容体は、縫線核および海馬と同様に皮質、視床下核および淡蒼球内節に高密度に発現している。本研究は、5-HT1A受容体刺激薬の抗パーキンソン病効果を行動薬理学的に評価し、その効果が基底核における運動神経回路の不均衡改善であることを神経化学的に証明した。これらの5-HT1A受容体が発現している基底核は、興奮性アミノ酸作動神経であり、5-HT1A受容体の刺激はこれら神経を抑制することが知られている。従って、パーキンソン病では興奮状態であるこれら基底核の5-HT1A受容体を刺激することによって、運動能の改善に寄与するものと考えられた。この知見は、新たな作用機序を有する抗パーキンソン病治療薬の開発に有用であると考えられる。
著者
下林 典正
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ヒスイ輝石に共生する鉱物の合成実験から、ヒスイの生成条件をさらに絞り込もうというのが当初の目的であったが、試行錯誤を繰り返したあげくに合成実験が成功せず、結局は天然のヒスイの産状から生成環境を考察することに切り替えた。天然試料の観察においては、特に脈状ヒスイに着目して研究を行った。国内外各地からヒスイやその関連岩を切るヒスイ脈が報告されており、ヒスイの熱水起源説の根拠の一つとされている。これらのヒスイ脈では、ヒスイ輝石は脈の壁に対して垂直に伸長していることが共通の特徴であったが、兵庫県大屋地域から、脈に平行に伸長したヒスイ輝石結晶からなる脈状ヒスイを新たに見出し、その詳細な観察を行った。
著者
升屋 勇人 戸田 武 市原 優 森山 裕充 景山 幸二 古屋 廣光
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

全国の天然林、人工林において樹木疫病菌の調査を行った。特に渓流のリターを中心に調査を行うとともに、枯死木があればその根圏土壌からの分離を行った。その結果、現時点で約1000菌株以上を確立した。これらの中にはP. cinnamomiなどの重要病害も含まれている。これらの菌株の詳細については、現在DNA解析と形態観察を継続して行っている。これまでに国内では約20種程度の種数が確認されていたが、そのほとんどは畑地であり、森林において多くの種類が検出される点は新規性が高く、日本における本病害のリスクを正確に把握するための一助となる。また、当年度は関西においてヒノキ幼木の枯死に樹木疫病菌が関係している可能性が考えられ、今後詳細な接種試験が必要である。さらにイチョウの集団的な枯損にも樹木疫病菌が関与しているか可能性があり、より詳細な現地調査を行っているところである。本年度はP. cinnamomi、P. cambivora、P. castaneaeを各種ブナ科樹木苗木の樹皮に有傷での接種試験を行った。その結果、クリではP. castaneaeが特に強い病原力を有すると考えられた。またその他の樹種に対してもそれぞれ病原性を有することが確認され、感染すれば十分に各樹種に損害を与えることが明らかとなった。特にコナラ、ミズナラ、クリは本病害に対して感受性が高い可能性がある。これらの成果は、これまで原因不明であった枯死のいくつかに本病原菌が関与する可能性を示すものである。
著者
竹内 努
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

現代宇宙論はビッグバン宇宙論の骨子をほぼ確立し, ビッグバンに先行する急激な膨張期であるインフレーションの検証へと向かっている. インフレーション理論は第一原理から完全に決定することは難しく, 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光のBモード成分を精密に解析することによって初めてシナリオを絞り込むことができる. しかし, 現実的には銀河系や系外銀河などのCMBの前景放射が重なるため, CMBゆらぎの抽出は極めて困難である. CMBゆらぎの観測は飛躍的進歩を遂げたが, 観測精度の向上, 特に偏光ゆらぎの精密化に伴って, CMBと前景成分を分離するための本質的に新しい統計的解析方法が必要になってきている. これが領域A04のメインテーマである。本研究では、これまで天文学分野ではほとんど用いられていなかった自己組織化状態空間モデルという統計的方法を発展させ、Planck衛星のデータをCMBのゆらぎ、銀河系外前景放射、銀河系前景放射、ノイズの4成分に分解し、CMBゆらぎを精密に解析することで初期宇宙の情報を抽出する方法を構築する。前年度はまずこの状態空間モデルで用いる前景放射の各成分の統計的性質を明らかにするため、独立成分分析(ICA)を用いた成分分離法を確立し、分子輝線成分、連続波成分のパワースペクトルを求めた。この成果は学術論文として公表済みである。この統計的性質を仮定することで、状態空間の決定ができる。前年度末にPlanckのデータが公表され、本年度にかけて関連論文も出版されているが、現時点では前景放射の様々な不確定要素が決定していない状態である。このため、H25年度は不定性を含んだ状態で統計的推定を行う自由度を残した解析コードを準備した。新しい観測的制限がつき次第完成できる。当初の目的は達成したと考えているが、新しい銀河系星間物質観測をインプットとし、Planck, BICEP2など次世代データへの応用を引き続き試みていく。
著者
加藤 正晴
出版者
日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,画像注視時の乳児の視線パタンに着目し,顔認知の発達過程を検討した.視線パタンの類似度を定量化する手法を開発し,生後6ヵ月から13.5ヵ月までの乳児を対象として視線パタンを分析したところ (1)顔画像に対する視線パタンは発達と被験者間で共に互いに類似してくること,(2)家画像に対してはその変化がみられなかったことが示された.このことは,顔特有の認知的処理が発達と共に習熟化・効率化してくる様を捉えたと考えられる.また健常な成人及び自閉症スペクトラム障害者(ASD)に複数の顔画像を見せたところ,(3) ASDは顔特有の認知的処理が健常者ほど習熟化・効率化していないことが示唆された.
著者
北村 裕美 矢野 博己
出版者
流通科学大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は肥満の予防改善に対する運動の分子メカニズム的効果をオートファジーに着目して検討することであった。KO5マウスでは,20週間の自発運動により副睾丸周囲脂肪量や肝脂肪滴が顕著に減少した。脂肪組織中mRNA発現は,Atg5, Atg7が自発運動により増強し,LC3bが減弱した。脂肪組織中LC3-Ⅱ/LC3-Ⅰ比は自発運動によりWTマウスでは減弱し,KO5マウスでは増強した。KO5マウスでは,自発運動により腸内細菌多様性が低下し,Firmicutes門が減少した。オートファジー関連因子とFirmicutes門やBacteroidetes門との間に有意な関係は確認されなかった。
著者
佐伯 盛久
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2009

本研究では報告者が最近考案した「レーザー微粒子化による元素分離回収法」の、難分離性元素の1つである白金族元素群の相互分離への適用可能性について探った。その結果、紫外レーザーを白金族元素水溶液に照射した時、微粒子化効率の照射レーザー波長依存性は元素間で類似しているが、照射レーザー強度依存性は元素間で違いがあることを発見した。そして照射強度調節によりPd, Rh混合塩酸溶液において相互分離をすることに成功した。
著者
鎌尾 浩行
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

日本の主要な失明原因の一つである脈絡膜萎縮に対する治療法はない。これに対して、網膜色素上皮細胞(RPE)と血管内皮細胞(HUVEC)を移植することで脈絡膜の再生が得られるか研究を行った。RPEとHUVECを同時に移植するため、iPS細胞から作製したRPE細胞シートとHUVECを共培養することで、HUVECが接着したiPS-RPE細胞シートを作製することに成功した。しかし、脈絡膜萎縮したウサギ網膜にHUVECが接着したiPS-RPE細胞シートを移植したが、脈絡膜の再生は得られなかった。
著者
小西 潤子
出版者
静岡大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

まず、昨年度の日本国内およびパラオにおける調査結果をさらに整理し、平成15年6月に英語による口頭発表"The adoption of Micronesian song and Dance by Ogasawara Islanders"(Seventh Annual Asian Studies Conference Japan、上智大学市谷キャンパス)を行った。また、昨年度のチュークにおける予備調査結果を受けて、中央〜東カロリン諸島における日本植民地教育の実態調査の必要性を感じ、8月にポナペおよびチュークで聞き取り調査を行った。その結果、行進踊りそもののの発祥地が東カロリン諸島周辺である可能性が明らかになり、日本統治時代にこの芸能に日本語混じりの歌が取り入れられていった経緯が明らかになった。またボナペでは、現在も日本語混じりの歌を伴う行進踊りが継承されているのに対して、チュークでは教会関係の行事を除くと、踊りの機会すらないことがわかった。これらと、昨年度のパラオにおける調査結果を合わせ、「海のルートと循環するルーツ-歌と踊りによるミクロネシアとの交流」(季刊誌『I-Bo』)で紹介するとともに、「行進踊りと日本語混じりの歌-ミクロネシアの民俗芸能に見る日本の植民地教育の影響に関する歴史的研究-」(『静岡大学教育学部研究報告』)としてまとめた。さらに、3月には1930年代にミクロネシアの行進踊りが伝播した小笠原諸島を訪問し、その後の日本文文化の様相について調査を行った。
著者
小西 潤子
出版者
沖縄県立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、文献調査、沖縄県内および現地の関係者への聞き取り調査、録音・録画を含む情報収集によって、沖縄音楽芸能史において看過されてきた戦前南洋群島の沖縄移民社会での音楽芸能と交流の実態を明らかにした。戦前南洋群島の沖縄移民社会では、古典音楽・舞踊と民俗芸能の接合やそれらの要素を融合した作品が成立し、豊かな音楽文化が展開された。また、沖縄県内各地にミクロネシア発祥の行進踊りが伝播し、現在でも余興として演じられている地域もあることがわかった。
著者
米谷 俊彦 田中丸 重美 菅谷 博 柴田 昇平
出版者
岡山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

温暖化対策のためには、気候資源を利用した省エネを目指した技術開発を行い、特色ある産地作りなどの地域の多様な農業戦略の確立が急がれている。本研究では、中山間地域の傾斜地の地形と自然のエネルギー(地温)を生かした夏季の施設内冷却システムを開発し、善通寺市生野地区の大麻山の傾斜角度約20度の斜面において、長さ5m、内径60cmの土木排水管用外圧管を連結して、2m以下の地中に約70mに亘って埋設した。埋設したパイプが人工の風穴となり、夏季には、地中で冷却された空気を、傾斜地下部に設置した傾斜ハウスに送り込んで、施設内を換気冷却する。また、ハウス内部で暖められた空気は、ハウスの最上部に設置した煙突部から排出する。このシステムは、傾斜地の地下の地温で冷却された冷気と地上部の暖気の密度差をポンプの駆動力にした冷却システム(夏季に風穴からの冷気の吹き出しと類似)である。初期のパイプ埋設経費のみで、冷房機の運転に要するコストが不要なため、省エネシステムとして有望と考えられる。特にハウス内の気温が高温になる日中の午後に流量が大きくなって冷却効果が高まり、気温が低くなる夜間には流量が減少する特性を有している。工事が遅れたため、本研究期間には、暖候期の10月中旬と3月下旬のデータが僅かに得られただけであるが、晴れた日中に冷気がハウスに流入し、10℃程度冷却する事が確かめられている。一方、冬季には、気流の向きが逆転し、傾斜地上部から暖気が吹き出すことが確かめられており、上部にハウスなどを設置すれば、暖気を暖房用としても利用できることが証明されている。2006年7月に「傾斜地利用型環境調節システム」を特許出願し、2007年3月に岡山県内の2企業と技術移転の契約を行った。今後は、ハウス内の配管法などを工夫しながら、種々のデータを蓄積して、傾斜地利用型環境調節システムの開発、改良を進める予定である。
著者
奥山 光彦
出版者
旭川医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

十分にインフォームドコンセントが得られた症例に対して、乳酸菌が及ぼすシュウ酸カルシウム結石形成抑制効果や尿路結石形成に関与しているか否かについて検討した。ヒト健康成人男性を用いて検討を開始した。乳酸菌投与中は特に食事制限や飲水制限などなく、通常の生活を送ってもらった。先述の健康男性に10日間乳酸菌製剤の内服をさせ、腸内細菌叢を改善させて、乳酸菌製剤の投与前後で24時間尿を採取し、各種尿検査を行う。検討項目 尿検査:24時間尿量、pH、BUN、Cr、Na、Ca、P、Mg、シュウ酸、クエン酸排泄量を検討した。実験結果:各群間で尿中生化学検査値に有意差は認めなかった。尿中シュウ酸、クエン酸排泄量にも変化を認めなかった。乳酸菌内服後の尿量が有意に増加しており、検討項目に有意差を認めなかった要因になっている可能性が示唆された。今後、乳酸菌が及ぼす尿路結石形成抑制効果については、内服前後での条件(飲水量、摂取カロリー等)を一定にさせたり、乳酸菌製剤の内服期間や内服量を変化させ、さらに検討を要すると思われた。乳酸菌は腸内細菌叢を改善させることにより、腸管からのシュウ酸吸収を減少させ、結果として尿中シュウ酸排泄量を減少させることにより、尿路結石症の治療ないし、再発予防に使用できる可能性があり、さらに検討する必要があると思われた。また、腸内細菌叢の異常に起因する便通異常を有する尿路結石患者に対する乳酸菌製剤の臨床的効果についても検討を行う必要性があると思われた。
著者
冨尾 賢介
出版者
埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

子宮内膜症は慢性炎症性疾患であり新規治療法が待たれる。本研究では、オメガ3脂肪酸(以下ω3FA)の子宮内膜症抑制効果をin vitroで検証した。子宮内膜症患者の培養腹腔マクロファージ(以下Mφ)をω3FA処理下にLPSで刺激したが、TNF-α産生は抑制されなかった。そこでω3FAがMφのインフラマソーム活性を抑制し、IL-1β産生を抑制することに着目した。ω3FA処理下では、ニゲリシン刺激(インフラマソーム活性化の試薬)に対する培養腹腔MφからのIL-1β産生は抑制された。ω3FA はMφのインフラマソーム活性を抑制することで子宮内膜症の炎症を抑制し、新規治療戦略に繋がる可能性が示唆された。
著者
山肩 葉子
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

Ca^<2+>/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)は、中枢神経系に豊富に存在し、様々な蛋白質をリン酸化することにより、その蛋白質の機能を修飾するプロテインキナーゼとして、神経活動の制御やシナプス可塑性に深く関わり、学習・記憶を始めとする高次脳機能にも重要な働きをすると考えられている。本申請者は、CaMKIIα(前脳におけるCaMKIIの主要なサブユニット)の持つ3つの機能、(1)他の蛋白質をリン酸化するプロテインキナーゼとしての機能、(2)Ca2+結合蛋白であるカルモジュリンを結合する機能、(3)CaMKIIサブユニット同士が結合して、あるいは他の蛋白質と結合して構造蛋白として働く機能、のうち(1)のプロテインキナーゼ活性のみを欠損させた特異性の高い「機能的ノックアウトマウス」をノックインの手法を用いて作成した。このマウス脳では、CaMKIIαのプロテインキナーゼ活性のみが選択的に消失するが、蛋白としての発現は維持されており、シナプス可塑性との関連が示唆されるmRNAの樹状突起への局在も保たれていた。電気生理学的、形態学的解析によって、海馬におけるシナプス可塑性の異常が観察され、また、それに対応するように、海馬依存性の学習行動にも異常が生じていた。これらのことから、CaMKIIαのプロテインキナーゼとしての活性自体が、正常な海馬機能の維持に不可欠であることが明らかとなった。今後このマウスは、これらの機能維持に関わるリン酸化蛋白基質の検索・特定に大変有用であると考えられる。
著者
志磨 裕彦 中内 伸光 吉村 浩 牧野 哲 北本 卓也 小宮 克弘 内藤 博夫 菊政 勲 幡谷 泰史
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

多様体M上に平坦接続DとRiemann計量gが与えられて,gがDに関するHesse形式で表せるとき,その組(D,g)をHesse構造といい,Hesse構造が与えられた多様体MをHesse多様体というHesse幾何学とはHesse多様体に関する幾何学のことである.Hesse幾何学は情報幾何学,アファイン微分幾何学,Kahler幾何学等と密接に関連する.甘利と長岡は確率分布族に双対接続という微分幾何学的構造が本来的に備わっていることを発見し,数理情報をこの双対接続の見地から研究するべく情報幾何学を提唱した.双対接続が平坦な場合がHesse構造で,正規分布族や多項分布族など多くの重要な確率分布族が双対平坦接続,すなわちHesse構造を有していることが知られている.また双対接続の概念はアファイン微分幾何学においても非退化アファイン超曲面はめ込みとその余法線はめ込みの組を考えることにより得られていた.更にはHesse多様体の接ベクトル束がKahler多様体になることから,Hesse幾何学はKahler幾何学とも親戚関係にある.本研究ではHesse幾何学をこれら3つの幾何学との関連を踏まえながら総合的に研究した.1.情報幾何学の方法を用いて,新しいHesse計量を構成し,逆に微分幾何学的手法を用いて,新しい確率分布族を構成した.2.Hesse構造のポテンシャルの等位曲面のアファイン微分幾何学を展開し,勾配写像のラプラシアンを考察することにより,アファインBernstein問題の類似が解決した.3.Kahler幾何学との関連でいえば,Kahler幾何学における消滅定理や双対定理に類似する結果が,Hesse幾何学でも成り立つことが示された.4.Hesse構造の自然な拡張であるCodazzi構造が定義できるが,これが定曲率で等質ならばそれは1次元高い等質Hesse構造から導かれることが分った.これらの諸結果は"Geometry of Hessian structures"として,World Scientific社より出版予定である.
著者
明神 勲
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.本研究は、教職追放政策の変化が教育改革の実施過程に及ぼした影響の分析及び「逆コース論」の理論的検討を通じて、通説とされてきた「逆コース」論の再検証を目的としたものである。2.「逆コース」論の理論的検討をつうじて、この論が教育政策の転換を論ずる際に、その転換が「何から何への変化・転換なのか」、「その変化・転換の性格はどのようなものか」について説得的な論拠を示し得ていないと問題点を明らかにした。3.教育改革の実施過程に及ぼした影響を明らかにするために、ケース・スタディとして東京を対象に分析をおこなった。1948年から1950年の間の東京軍政部及び関東民事部月例活動報告書をもとに教育改革の実施過程の分析を行い、この間の改革に変化・転換があったかどうかを検討した。その結果、変化は一部(教員組合や共産主義に対する政策)に見られたが、基本的には「教育民主化」という政策で一貫していたことを明らかにした。4.以上の検討により、(1)通説である教育「逆コース」論とそれに基づき構築された戦後教育史像には大きな問題点があり、批判的な再検討が必要なこと、(2)そのために、理論的検討と同時に、GHQレベルはWeekly Reportの分析、地方レベルではさらに多数の府県の軍政部民事部が作成した月例活動報告書の分析による実証的研究が必要であること、を提起した。
著者
高木 伸之 王 道洪 ウ ティン
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では風力発電での落雷による被害を現状の数分の一に削減するための新たな安価な落雷の予知技術の開発を行った。この落雷による被害低減技術は風車先端からの放電に伴う電波を落雷の30秒前に検知して風車を停止させるという方法である。風車を停止させれば避雷回数を80%以上低減できる。風車先端からの放電に伴う電波を落雷発生の30秒以上前にほぼ100%検知できることを確認した。さらに開発した電波放射源3次元可視化システムを用いて多くの新たな知見を得ている。
著者
堀 直人
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、(1)リボソームを中心とするタンパク質生合成システム作動原理の構造に立脚した理解と、(2)そのために必要な巨大分子シミュレーション技術の確立である。前年度までに、目的(2)に対応するRNA一タンパク質複合体の粗視化モデルの構築を完了している。また、目的(1)の達成に向けて、リボソーム-tRNA複合体の計算を開始しており、本年度は計算結果の解析や論文出版へのまとめ作業を行った。リボソームの翻訳伸長時には、結合した2つのtRNAが正確に1コドン分移動する。この際、(a)リボソームサブユニット間の回転運動、(b)L1ストークの動き、(c)tRNAのハイブリッド状態形成という3つの特徴的運動が実験的に観察されている。しかし、それらがどのように共役しているかなど、メカニズムの詳細は分かっていない。そこで、状態の異なる2つのリボソーム構造を用いて、Aサイト、Pサイト、または両方にtRNAが結合した状態でシミュレーションを行い、tRNAの移動過程とリボソーム構造の関係性について調べた。解析結果から、リボソーム構造に関わらずPサイトtRNAはハイブリッド状態をとるが、サブユニット回転後の構造においてより安定であることが分かった。一方、AサイトtRNAは比較的ハイブリッド状態を形成しにくく、A・P両方にtRNAがある場合は、"ハイブリッド2(P/E,A/A)"と呼ばれる状態が安定であった。さらに、実験的に関連が示唆されているA-sitefinger(ASF)について、変異型リボソームでのシミュレーションを行い、ASFがAサイトtRNAのハイブリッド状態形成を抑制していることが確認できた。一連の計算は、原子数としても時間スケールとしても一般的な全原子MD計算では困難なものであり、本研究において粗視化モデルを適用して進めたことで初めて可能となった。
著者
阿久津 智子 櫻田 宏一 横田 勲
出版者
科学警察研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

まず、前年度までの成果である血液・唾液・精液multiplex RT-PCR系に、膣液multiplex RT-PCR系を統合し、さらに鼻汁マーカー1種を加えた、5種の体液に対する16-plex RT-PCR系を構築した。標準的な体液試料を用いて16マーカーの増幅バランスを確認したところ、血液マーカー1種および膣液マーカー1種の増幅が著しく低下していた。両プライマーの配列から、プライマーダイマーが形成されることが判明したため、血液マーカーのプライマーを再設計したところ、増幅バランスが改善した。つづいて、新たに整備されたジェネティックアナライザーSeqStudioを用いたフラグメント解析による、16-plex RT-PCR法の増幅産物の検出を試みた。検出条件の最適化のため、PCR産物の希釈、プライマーの希釈、PCRサイクルの調整等を行ったところ、PCR増幅産物を適宜希釈することで、PCR条件を改変することなく、SeqStudioによるフラグメント解析にも対応可能であることが確認できた。併せて、フラグメント解析・ジェノタイピング用ソフトウェアGenemapperによる解析条件も決定した。決定した分析・解析条件により、標準的な各種体液試料における16-plex RT-PCR法の増幅産物をSeqStudioで解析し、各マーカーの特異性を確認した。その結果、各マーカーは、概ね想定される体液に対して特異的であったが、一部のマーカーで他の体液との交差性が認められた。