著者
東元 幾代
出版者
佐賀大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

手掌多汗症は、精神的緊張により手掌の過剰発汗(精神性発汗)を生じる疾患である。0.6〜1%の頻度で生じ、幼小児期〜思春期に発症することが多い。これまでに当院でETSを受けた手掌多汗症患者において、約半数で家族発症が認められたことから、患者約400名に対し家系調査を行った。その結果、完全に把握できた家系では、環境因子の関与、多因子遺伝の可能性もあるが、常染色体優性遺伝、つまり単一遺伝子病の可能性が高いことがわかった。我々は32家系178人の血液又は爪からDNA抽出を行い、そのうち三世代以上の比較的大きな家系を用いて全ゲノム解析を行った(ABI PRISM Mapping Set使用)。その結果、LOD scoreが高値を示す10カ所のマーカーをピックアップした。さらにhaplotype解析を行い、三家系に共通して、D14S283周囲に疾患遺伝子があると予測された。(二点解析にてLOD score 2.92)また、その他の家系において、6番染色体、7番染色体にもLOD scoreが高値を示す部分を認めた。多数の家系に共通する新たな遺伝子座を決定するため、さらに三世代以上のサンプルが得られる家系3家系を集めた。内、1家系は手掌多汗症と足底多汗症が合併した患者が混在しており、解析に不適当であったため、除外された。残る2家系をLOD scoreが高値を示す10カ所のマーカーについて解析を行ったが、同部位でのLOD scoreは低値で、連鎖は認められず、今回行った解析部以外の原因遺伝子の関与が考えられた。そのため、多因子遺伝の可能性も否定できなかった。
著者
小林 正人 藤森 智
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震では,津波により沿岸部に壊滅的な被害が生じた。本研究では,免震建物について南海トラフ地震を想定した津波浸水予想に関する調査および分析を行った。さらに,津波荷重に対する免震建物の構造安全性の判定手法を提案するとともに,その適用性を検証した。加えて,津波荷重の動的な作用と免震建物の応答の関係について弾性理論解および時刻歴応答解析により分析を行った。
著者
石崎 雅人 野呂 幾久子 小林 伶
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、化学療法の受診を検討し、実際に受診した対象者426名に対して、患者主導型/共同意思決定型/医師主導型の意思決定方法の特徴を明らかにした。それぞれの意思決定方法ではそのプロセスに差があることが明らかになったが、共同意思決定と意思決定方法への納得度、治療全体への満足度の関連は認められなかった。しかし、希望していた方法で意思決定を行った患者は、そうでない患者に比べ、治療全体への満足度が高かった。
著者
藤波 芳
出版者
独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター)
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

遺伝性網膜疾患は先進国において最も頻度の高い失明原因となっている。Stargardt病(STGD)、網膜色素変性症、黄斑ジストロフィ、錐体桿体ジストロフィをはじめ多くの疾患がABCA4異常に起因し、ABCA4関連網膜症の病態理解、治療導入が急務である。本研究の目的は、東京医療センター(NISO)、英国UCL、米国NIH、STGD国際共同プロジェクト(ProgSTAR)の連携の下、3大陸を跨いだ形でのABCA4関連網膜症国際コホート・共有データベースを作成する事である。さらに、変異構造解析を用いた遺伝子型・表現型関連解析、頻出変異の大陸間比較を行うことで、大陸・民族間の病態差異を理解した上での世界規模での治療導入の考案・個別化医療の実践を目指す。本研究は1)臨床診断・患者リクルート、2)遺伝子検索、3)国際データベース・コホート作成、4)変異インパクトスコア算出、5)遺伝子型・表現型関連解析、(6)コホート間変異頻度比較、(7)治療法考案、の七段階で遂行される。平成30年4月現在、NISOではABCA4関連網膜症155症例における臨床検査・診断、患者リクルートが終了し、現在までに20例について36のABCA4変異が同定されている。英国UCLからは190症例、米国NEI/NIH、ProgStar studiesからは193症例が登録され、計518例のABCA4関連網膜症がデータベースに登録された。現在までに同定された37の高頻度ミスセンス変異に対して、molecular modelingによるインパクトスコア算出が終了し、本スコアが遺伝子型・表現型相関解析に利用されている。公開データベースより得られた各民族正常者コホートにおけるABCA4変異頻度比較が可能となるインハウスデータブラウザの構築が完了しており、コホート・民族間変異頻度比較に活用されている。
著者
吉永 明弘 寺本 剛 山本 剛史 熊坂 元大
出版者
江戸川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

学術雑誌『環境倫理』を発行した。2016年度に、小平の住民運動、福島第一原発事故後の双葉町長の避難に関する諸問題、吉野川河口堰に関する住民投票について、キーパーソンにインタビューを行い、ローカルな環境倫理を現場から掘り起こすことを試みた。それらを今年度は原稿にまとめ、解題もつけて雑誌に掲載した。並行して、勁草書房より、吉永明弘『ブックガイド環境倫理』と吉永明弘・福永真弓編『未来の環境倫理学』を刊行した。これらによって、過去の環境倫理学や環境論をレビューすること、最先端の環境倫理学の議論を紹介すること(原発に対する応答、世代間倫理、環境徳倫理、未来倫理、気候工学、環境正義、人新世における倫理など)が達成された。1年間に3冊の本を刊行することができ、関係者に献本したところ、たいへん好評だった。
著者
樹林 千尋 阿部 秀樹 山崎 直毅 青柳 榮
出版者
東京薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

エクアドル産ヤドクガエルから発見されたエピバチジンは、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に結合することによってモルヒネの200倍の極めて強力な非オピオイド性鎮痛作用を示すことが判明し、本化合物が画期的な非麻薬性物質であることが確認された。しかし、エピバチジンの臨床応用についてはその毒性が問題となっており、エピバチジンのアナログ開発は毒性克服の観点から重要な課題となっている。エピバチジンの活性発現には、ファーマコフォーとして2-クロロピリジル基及び脂肪族2級アミンの存在が必要であると指摘されているが、これ以外に窒素原子間距離が活性と毒性の発現に深く関わっている可能性がある。そこでわれわれは、エピバチジンのシンN-N及びアンチN-N配座固定アナログを合成し、両者のnAChRに対する親和性を比較することにより、エピバチジン立体配座と鎮痛活性の相関性を明らかにする目的で本研究を行い、次の結果を得た。アシルニトロソ化合物のヘテロDiels-Alder反応を鍵反応としてエピバチジンの合成中間体であるアザビシクロケトン体を合成し、2-クロロピリジル基を導入後分子内環状エーテル化によりスピロ化合物とすることによりシンN-N及びアンチN-N配座固定アナログの合成を達成した。次いで、これらのアナログについて中枢性nAChR(ラット)に対する親和性を測定したところ、シンN-NアナログはアンチN-Nアナログよりも受容体親和性が少なくとも2倍以上高いことが明かとなり、エピバチジンの活性配座がシンN-N配座であることを示す最初の実験例を示すことができた。
著者
冨山 一郎
出版者
同志社大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

2017年度の研究実績の概要は以下のとおりである。①奄美大島の名瀬にある名瀬教育会館に所蔵してある、社会運動家である松田清氏が収集した、奄美復帰運動関係資料の調査と整理を複数にわたっておこなった。また資料整理の中で、資料目録を作成し、資料のアーカイブ化を行った。さらに新たに奄美における国語教育関係の資料も発見した。②上記の調査と整理の過程において、奄美郷土研究会のメンバーとの交流、ならびに研究会を催す事ができた。具体的には、2018年1月27日に、奄美大島とりわけ名瀬を記録したドキュメンタリーを同研究会のメンバーとともに鑑賞したのち、そこで描かれている1950年代の名瀬及び奄美に関わる情報を明確化し、討議を行った。③韓国における反基地運動の関係者と意見交換を行い、本研究課題にかかわる共同研究の準備を進めた。具体的には、2017年11月25日に、ソウルで活動する研究集団<スユノモ104>との交流をおこなった。その中で、歴史を自己言及的に語ることについての、共同研究の在り方、語り口などについて討議を行った。④韓国ソウルにて、2017年10月28日、日本植民地主義の研究者である車承棋氏(韓国光州市朝鮮大学校)らと沖縄近現代史にかかわるワークショップを開いた。そこでは、沖縄近現代史を戒厳状態としてとらえ、こうした戒厳状態にかかわる歴史記述をめぐる方法論的な討議が行われた。⑤研究課題にそくした研究会を恒常的に行い、そこでの議論を、論文集としてまとめる作業を行った。この論文集は2017年度中には刊行できなかったが、すでに出版済みである。冨山一郎/鄭柚鎮編著『軍事的暴力を問う』青弓社、2018年。④その他、研究課題にかかわる資料収取と書籍購入を行った。
著者
楯 直子
出版者
武蔵野大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

近年、アルツハイマー病患者の脳の老人斑を構成するアミロイドβペプチド(Aβ)の中に通常のL-体から異性化したD-アスパラギン酸(D-Asp)が確認されている。Aβはアミノ酸42残基より成り、1、7、23位にAspが存在する。AspがD-体に異性化した各種D-Asp含有Aβについて、構造と線維化、凝集体形成について解析し、[D-Asp23] Aβは線維化・凝集体形成速度が顕著に大きくなることを明らかにした。また、老人斑中では正常型Aβと各種D-Asp含有Aβが混在しているが、互いに線維化や凝集体形成の速度や進行度に影響を及ぼすことはないことも解明した。さらにD-Asp含有N末端フラグメントAβ1-23は全長Aβの線維化・凝集体形成を促進することを見出した。以上の結果より、アルツハイマー病発症に関わるAβ凝集現象の制御において、Aβ-23部位が重要な鍵を握っていることが明らかとなった。
著者
荒牧 勇
出版者
中京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

スポーツと脳の構造の関係を明らかにするために、3つの研究を行った。1. 陸上競技の短距離選手と長距離選手の脳の構造画像を比較した結果、長距離選手は尾状核が発達していた。2.ハンドボール選手の試合中のミスの数と島皮質の灰白質ボリュームの大きさが相関していた。3.サッカーのリフティングを練習すると、物体の動きを知覚するMT/V5と左半身の運動を制御する左小脳が発達した。以上の研究結果から、1.競技種目ごとに特徴的な脳構造があること、2.個人の競技能力を予測する脳部位があること、3.スポーツの訓練により脳構造が発達することが明らかとなった。
著者
内堀 朝子 小林 ゆきの 上田 由紀子 原 大介 今西 祐介
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度は本研究プロジェクト3年間のうち1年目として,文末指さしを含む日本手話文のデータ収集に取り掛かった。特に,研究体制として設定した二つの研究グループのうち,「話題要素担当グループ」によるデータ収集に重点を置き,日本手話母語話者の協力のもと調査を行った。調査では,第一に,文頭に話題化非手指標識を伴う要素と,その要素を指示対象とする文末指さしの両方を含む文が,日本手話母語話者にとって自然であると判断される文脈,つまり,その文が文法的かつ談話上適切であるような文脈を設定した。第二に,それと同じ文脈のもとで文頭の話題化要素を省略し,かつ,その要素を指示対象とする文末指さしが許されるかどうか,日本手話母語話者の内省・直観による判断を調べた。なお,第二のデータは,もう一方の研究グループである「非項/陰在的項担当グループ」の収集対象と合致するものが含まれることとなった。調査の結果,日本手話において以下の二つの可能性があることが確認された。すなわち,①話題化要素が省略される可能性(もしくは,空の話題要素が現われる可能性)があること,および②文末指さしが音声化されていない話題要素を指示対象とする可能性である。したがって,この調査は,「研究の目的」で述べた,本研究プロジェクトの課題のひとつである「問題Ⅰ:話題要素を含む文における文末指さしは,何を指示対象とすることができるのか?」に対する肯定的な回答を与えるものと言える。さらに,この調査は,「研究の目的」で述べた,文末指さしを持つ手話言語の類型に関わる問題に対して,日本手話が,文末指さしが主語を指すアメリカ手話と,話題要素を指すオランダ手話の両方の性格を併せ持つことを示唆するものであった。
著者
手嶋 大侑
出版者
名古屋市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

平成29年度は、平安時代中期における皇族・貴族の荘園と国司の任命権である年官の関係を分析した。その結果、平安時代中期における皇族・貴族は、年官を利用することによって、地方有力者との人的ネットワークを形成・良好化し、彼らに荘園管理を任せることで、安定した荘園経営を実現させていたことを明らかにした。これまで、平安時代中期の地方社会の説明は、国司長官による支配という文脈で語られてきた。しかし、本研究の成果により、これまで不明瞭であった平安時代中期における皇族・貴族領荘園の様相が具体的に明らかになったことで、当該時期における地方社会の在り方に対する従来の理解に新たな知見を提供することができた。この点は大変意義あることだと思われる。それと同時に、この研究では、中央と地方を一体的に捉えて荘園を検討しており、中央と地方の連関を具体的に実証した点にも意義がある。これは、これまでの学説に再検討を迫る意味を持っている。また、本研究では、任官史料と荘園史料を組み合わせて考察する方法を採用しており、この研究方法はこれまで無かったものである。そして、この研究方法によって成果が得られたことにより、この方法が有効であることを実証することができた。このことは、近年、停滞気味であった平安時代の荘園研究に新たな研究視角・方法を提供したことになり、これによって、荘園研究が進むことが予想される。この点においても、本研究の成果は重要であると考えている。
著者
牛山 美奈
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

「痛み」は、実質的または潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはこのような損傷を表わす言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験であると定義されており(世界疼痛会議)、この定義に基づき、ぶつけたり、転んだり、つねった痛さを「感覚としての痛み」、痛みに伴うさまざまな感情、感情に伴って起きた痛みは「感情としての痛み」として分類される。「感覚としての痛み」は、損傷した組織から放出されたカリウムイオンやブラジキニンなどの化学物質が痛覚神経の末端にある痛覚受容器を刺激して引き起こされ、鎮痛には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs)が用いられる。アセトアミノフェンは、中枢性(脳および脊髄内)のCOXを阻害し、疼痛閾値を上昇させることにより鎮痛効果を発揮する薬剤であり、末梢性のCOXの阻害作用を示さないことから消化器障害や腎障害、血圧低下、喘息発作の誘発等の副作用を生じないなどの利点を有するが、鎮痛作用を示すアセトアミノフェンの用量は個人により異なり、その用量は1日あたり2,400-4,000mgと幅があるため、いわゆる'医師のさじ加減'によって決定されているのが現状である。これらのことから本申請研究では、確実な鎮痛効果が得られ、かつ安全なアセトアミノフェンの投与量について解析し、アセトアミノフェンによる確実で安全な鎮痛を得るための科学的根拠を得ることを目的として研究を行った。当院入院中の患者で鎮痛剤としてアセトアミノフェンを1日あたり1500mg以上使用している患者を対象とし、アセトアミノフェン服用前とアセトアミノフェン服用1時間後にアセトアミノフェン血中濃度を測定した。文献やアセトアミノフェンのインタビューフォームを参考にその有効血中濃度を5-20ng/mLとした。アセトアミノフェンを1日あたり3000mgまたは2400mgを朝・昼・夕食後の3回に分けて服用している患者において、朝の服用前の血中濃度は2ng/mL以下であり、服用後は7-16ng/mLであった。一方、1日あたり3600mgを朝・昼・夕食後の3回に分けて服用している患者の昼の服用前の血中濃度は7.2mg/mLであり、これは夜の服用時間から翌朝の服用時間までの間隔が朝の服用時間から昼の服用時間までの間隔に比較して長いことが原因と考えられた。これらのことから、安定した血中濃度を維持し、鎮痛効果を持続するためには、投与量だけでなく投与間隔にも注意が必要であることが明らかとなった。
著者
前岡 浩
出版者
畿央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は不快感や不安感といった痛みの情動的側面について、特に非特異的慢性腰痛者を対象に脳機能および自律神経機能の側面から明らかにし,さらに,痛みの情動的側面に対する有効な治療手段についても検討することである.平成29年度は,まず平成28年度に実施した痛みの情動的側面に対する有効な治療手段についてさらに詳細に検証した.内容は,情動喚起画像を使用し,受動的に画像内の痛みの部位が消去されるのを観察する条件と被験者自らが積極的に画像内の痛みの部位を消去する条件を比較した.その際,心拍変動を測定することで自律神経系の変化も評価した.その結果,痛み閾値と耐性の増加,強度と不快感の減少,さらに交感神経活動の減少も認められ,痛みの情動的側面に対する有効なアプローチとして可能性を示すことができた.次に,非特異的腰痛者に対する経頭蓋直流電気刺激の痛みの情動的側面における有効性と鎮痛効果について検証した.腰痛を有する50名を無作為に5群に割り付け,左右一次運動野,左右背外側前頭前野への陽極刺激および左背外側前頭前野へのsham刺激の5条件を設定した.評価項目は圧痛の閾値と耐性,腰痛における日常生活の影響,破局的思考,特性および状態不安,痛みの強度および質,不快感の強度とした.その結果,圧痛閾値では左背外側前頭前野への刺激によりsham群と比較して有意な増加が認められた.刺激1週間後における破局的思考では,右一次運動野への刺激により左背外側前頭前野と比較し有意に減少した.腰痛の強度は,左一次運動野において,刺激直後と比較して24時間後に有意な減少を認めた.今回の結果から,有効な刺激部位の特定には至っていないが,一次運動野は痛みの感覚的側面,背外側前頭前野が痛みの感覚的側面および情動的側面の鎮痛に関与している可能性が示唆された.
著者
鈴木 健弘
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

生体のエネルギー産生(ATP合成)と酸化ストレスの発生源として重要なミトコンドリアの機能異常によるミトコンドリア病は確立した治療法のない難病である。我々はミトコンドリア病患者細胞でATP産生を増加させて酸化ストレスを減少し、細胞の生存率を改善するミトコンドリア特異的機能改善薬 MA-5を開発した。MA-5はミトコンドリアの構造と機能維持に重要なミトコンドリア内膜蛋白質のMitofilinと結合してATP合成酵素の重合化を促進することでATP増加と酸化ストレス減少効果を発揮し、ミトコンドリア病マウスと急性腎障害モデルマウスで心臓と腎臓のミトコンドリア機能と腎障害を改善することが明らかとなった。
著者
柏木 宏子
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

SAPROF日本語版の予測妥当性と評価者間信頼性の後方視的コホート研究の結果を英文誌に論文発表した。対象は、2008年4月から2012年11月までに、国立精神・神経医療研究センター病院の医療観察法病棟に入院した対象者の中で、入院期間が1年以上の者とした。SAPROFは、入院後2週間の診療録、医療観察法鑑定書、生活環境調査書をもとに評価した。入院後6カ月間および1年間の暴力の発生の有無を診療録で調査した。この他、評価者間信頼性を調査するため、二人の評価者が30名の対象者を評価した。解析は、暴力の予測妥当性については、ROC曲線を、評価者間信頼性はICCにて解析した。結果は、95名が参加(男性83名)、診断は統合失調症圏が73.7%であった。対象行為(入院のきっかけとなった他害行為)は、殺人、傷害、放火の順で多かった。6カ月以内に、11名、1年間に17名の暴力が見られた。SAPROF日本語版の評価者間信頼性は、SAPROF総得点、内的要因、動機付け要因、外的要因、最終判断のそれぞれにおいて中等度から良好との結果が得られた。また、SAPROF日本語版のSAPROF総得点、内的要因、動機付け要因、外的要因、最終判断のそれぞれにおいて、6ヶ月後と12ヶ月後の暴力の発生がないことへの高い予測妥当性が得られた。本研究で得られた結果は、暴力のリスクアセスメントにおいて、本人の強みとなる部分、すなわち保護要因に着目することの妥当性が示されたとともに、海外との比較において重要な資料を提供できる。今後は、通院対象者や、刑務所、一般精神科などの別の集団におけるSAPROFの予測妥当性を確かめることが必要である。
著者
相見 則郎 PONGLUX D. OBITZ P. STOCKIGT J. 北島 満里子 高山 廣光 坂井 進一郎 STOCKIGT Joachim PONGLUX Dhavadee DHAVADEE Pon CARL M Ruyte JOACHIM Stoe
出版者
千葉大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

多くの生物種が医薬品資源としての潜在的価値を持ったまま環境破壊などのため姿を消して行く現在、「遺伝子資源の持続可能な利用」は極めて緊急度の高い研究課題である。本課題研究に於いては、ドイツ、タイとの緊密な協力態勢のもと、主として熱帯産のアルカロイド含有医薬資源植物について細胞培養による物質生産を目的とする国際共同研究を行った。1.キョウチクトウ科植物に関する研究-(1)Rauwolfia serpentinaとRhazya strictaのプロトプラスト融合細胞の生産アルカロイド-標記懸濁培養細胞について生産アルカロイドの精密分離を行った結果モノテルペノイドインドールアルカロイド2種(16(R)-18,19-E-Isositosirikineと5(S)-5-Carbomethoxystrictosidine)、β-カルボリン系化合物3種、(β-Carboline,1-Acetyl-β-carboline,1-carbomethoxy-β-carboline)、を得た。この結果種間融合細胞に於いてもアルカロイド生産機能が保持されていることを明確にすることが出来た。(2).タイ産キョウチクトウ科植物Hunteria zeylanicaの含有アルカロイド-本植物の葉部配糖体画分から、新規アルカロイドHunteriosideを得た。本物質は、Strictosidinic acidの糖部6'位に更にもう一分子のD-グルコースがα-型に結合しているものであることを明らかにした。Strictosidineはモノテルペンインドールアルカロイドの共通生合成中間体で古くから注目されているところであり、現在ではその生合成酵素の精製を経てc-DNAのクローニングまで行われている。Strictosidine関連の天然アルカロイドは現在まで30種以上知られているが、その糖部分に二糖結合を有するものは全く知られていず、今回のHunteriosideの天然界からの単離は極めて興味ある事実である。Hunteria zeylanicaにはHunterioside以外にも同系列の配糖体アルカロイド数種の存在が認められており、それらの追求、或いはHunteriosideの化学合成、更に植物からのカルス誘導などが今後の研究課題となる。2.アカネ科Ophiorrhiza属植物のアルカロイド-(1)アカネ科Ophiorrhiza属植物含有アルカロイド-チャボイナモリ(Ophiorrhiza pumila)はわが国鹿児島県島嶼部から沖縄県琉球列島にかけて分布する小型草本であるが、我々は先にこの植物にカンプトテシンが含有されることを明らかにした。沖縄県石垣島の一部に自生するクロタキカズラ科の木本植物、クサミズキと並んで、我国の貴重なカンプトテシン含有植物である。チャボイナモリについて特に注目されるもう一つの点は、カンプトテシン生合成の仮想中間体として存在が予想されながら天然から見出されないできた鍵分子を特異的に含有することである。1992年に本植物から得られた新規物質Chabosideについて全合成を達成した。(2)チャボイナモリの組織培養、懸濁細胞培養と器官再分化の研究-ドイツ側分担者Stoeckigt博士との共同研究の結果、本植物のカルス化、組織培養、つづいて懸濁細胞培養の条件確立に成功した。更に最近カルスの器官再分化により幼植物体を得る試みに成功した。この結果はチャボイナモリの大量増殖に道を開くものであり、更にウイルスフリー株の取得などを通して関連研究への展開が期待される。(3)チャボイナモリ培養細胞のアルカロイド生産機能の発現に関する研究-マインツ大学に於いて取得された培養細胞について千葉大学で二次代謝産物の究明研究を行ったところ期待されたカンプトテシン関連含窒素化合物の検知には成功せず、代わりにアントラキノン系色素3種を得た。これらアントラキノンは野生種には全く含有されない物質であった。類似の事実が同じくアカネ科の資源植物Chinchona属植物の培養細胞についても報告されていて両者の類似性に興味が持たれる。現在この培養細胞系について、アルカロイド生成機能の発現に関する研究を継続して行っている。
著者
金森 絵里 兵藤 友博 小久保 みどり 中瀬 哲史 佐野 正博 山崎 文徳 慈道 裕治 横田 陽子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では福島第一原発事故がなぜ起こってしまったのかを領域横断的に分析し,以下の点を明らかにした。1.被爆国日本が原子力を社会的に受容したのは夢のエネルギーだという考え方が浸透していたからである。2.原子力政策は日本学術会議などの議論を十分に反映しなかった。3.大型化・連続化による経済性追求が安全性軽視につながった。4.歴史的に形成された「国家との戦い」「企業を護る」という意識と経営行動が事故につながった。5.緊急時における組織的対応が不十分だった。6.原発は総括原価方式のもとで電力会社経営を安定化したが,事故やバックエンドのコスト議論は自主的自律的におこなわれなかった。
著者
石井 豊 荒井 迅
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、2変数複素力学系に現れるジュリア集合などの重要な数学的オブジェクトを実3次元可視化技術を用いて表現し、そこから数学的に有用な予想を抽出したり、現在まで断片的にしか得られてこなかった(しかも表現が困難な)知見を理解可能な形でアーカイブ化することで、2変数の複素力学系における可視化と数学的理論との良好な関係を構築することにあった。本研究における具体的な成果としては、以下の3点が挙げられる。(1) 4次元から3次元への射影とレンダリングの非可換性。(2) 点集合として得られたジュリア集合の力学系的な補間法の確立。(3) 既存のジュリア集合の画像データを保存するシステムの構築。
著者
村上 照夫 森 信博 宇根 瑞穂 横大路 智治
出版者
広島国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では安全な耐性克服剤の第一候補化合物として、単独でも抗腫瘍効果を有しかつ健康増進にも益するゲニステインを耐性克服剤の原料として使用することに着目した。ゲニステインは、大豆製品に高濃度に含まれる化合物であり、安全性とかつ健康増進剤としての有効性は広く認識されている。また、アポトーシス誘導作用や細胞増殖抑制作用および血管新生阻害作用を有し、乳癌や前立腺癌,胃癌の予防に有効である。ゲニステインのP-gp,MRP阻害活性を検討するとともに、ラットを用い、ゲニステインの体内動態を精査した。さらに、耐性克服剤としての活性をさらに増強する目的で、ゲニステインにメチル化修飾を施し、P-gp阻害活性の増強を種々試みたが、化学的修飾により水溶性低下をきたす事などから、目的とする化合物を得るには至らなかった。関連する研究として、クルクミン類、グアバやツルダチスズメナスビのエタノール抽出物を用い、そのP-gp阻害活性を、Caco-2細胞やラット消化管を用い検討したところ、前2者は、強いP-gp阻害活性を示すことを明らかにした。また、大黄抽出物のP-gp機能に及ぼす影響についてラット消化管で検討し、通常投与量の大黄によりP-gp基質薬物の消化管吸収は増大しP-gp機能が抑制されることを認めた。また、バンウコン根茎抽出物のP-gp機能阻害効果を培養細胞で検討し、フェノール基がメトキシ基になっているフラボン化合物が特に強い阻害活性を示すことを明らかにした。