著者
真田 信治 二階堂 整 岸江 信介 陣内 正敬 吉岡 泰夫 井上 史雄 高橋 顕志 下野 雅昭
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

日本の地域言語における現今の最大のテーマは、方言と標準語の接触、干渉にかかわる問題である。標準語の干渉のプロセスで、従来の伝統的方言(純粋方言)にはなかった新しいスピーチスタイル(ネオ方言)が各地で生まれ、そして青年層に定着しつつある。このプロジェクトでは、このネオ方言をめぐって、各地の研究者が集い、新しい観点から、西日本の主要な地点におけるその実態と動向とを詳細に調査し、データを社会言語学的な視角から総合的に分析した。1996年度には、報告書『西日本におけるネオ方言の実態に関する調査研究』を公刊し、各地の状況をそれぞれに分析、地域言語の将来を予測した。また、1996年度には、重点地点での、これまでの調査の結果をまとめた『五箇山・白川郷の言語調査報告』(真田信治編)、および『長野県木曽福島町・開田村言語調査報告 資料篇』(井上文子編)を成果報告書として公刊した。なお、この研究の一環として、九州各地域の中核都市において活発に展開している言語変化の動態を明らかにすることを目的としたパーセントグロットグラム調査の結果を、データ集の形で示し、それぞれのトピックを解説、分析した報告書『九州におけるネオ方言の実態』を1997年度に公刊した。
著者
岩佐 亮明
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

相対代数的K理論の研究を行った。スキームXとその閉部分スキームDのペア(X,D)を考える。興味の対象は、K理論スペクトラム間のK(X)からK(D)への標準写像のホモトピーファイバーK(X,D)である。[Relative $K_0$ and relative cycle class map]ではDがアフィンの時にK_0(X,D)の構造を完全複体の言葉で記述し、応用としてモデュラス付きChow群CH_*(X|D)からK_0(X,D)の適当な部分商へのサイクル写像を構成し、これが全射であることを示した。また、このサイクル写像の核がトーションである証明のアイデアもある。高次の相対K群とモデュラス付き高次Chow群の関係は分かっていることは少ないが、Krishna氏との共著[Relative homotopy K-theory and algebraic cycles with moduli]にて、ホモトピーK理論(WeibelのKH理論)に関しては相対ホモトピーK理論KH(X,D)とモデュラス付きサイクル理論との関係を満足のいく形で確立することができた。すなわち、Atiya-Hirzebruch型のスペクトル系列が存在することを証明した。
著者
齋藤 政彦
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

稲場道明と確定特異点のスペクトル型を固定した安定放物接続のモジュライ空間を、非特異シンプレクテック代数多様体として構成し、その次元公式を各特異点の留数行列の固有値の重複度で書き表した。また対応するモノドロミー保存変形の方程式のパンルヴェ性を示した。 S.Szaboと接続およびHiggs束に対する見かけの特異点理論を開発し、モジュライ空間の詳細な構造を記述する方法を開発した。光明新と共同で射影直線上の階数2、5点の確定特異点を持つ接続のモジュライ空間の詳細な記述をした。上記のモジュライ空間の詳細な記述を用いて、幾何学的ラングランズ対応をフーリエ・向井変換として実現するという研究を進めている。
著者
中島 俊樹
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

1990年頃京都大学数理解析研究所の柏原氏により発見された結晶基底の理論と、1991年にロシアの数理物理学者フレンケルとレシェティヒンにより発見されたq-頂点作用素の理論は量子群、格子模型、共形場理論などに特に大きな影響を及ぼした。申請者は、結晶基底を記述するために柏原氏により導入された柏原代数に対しq-頂点作用素の類似物を定義しその2点関数が、いわゆる量子R行列と一致することを示した。申請者の目的としては、2点関数のみならず、Nが2より大きい場合にN点関数の具体的な記述を与えるということがあった。申請者は、まず、柏原代数に対するq-頂点作用素の双対的な描写として現れる、変形された量子群の結晶基底の構造をリー環sl_2の場合に明らかにした。そこでは、変形された量子群の結晶基底が、道空間表示としうものを用いて、最も単純な2次元アファイン結晶のテンソル積のアファイン化の無限直和の形で表されることを示した。これは、フレンケルとレシェティヒンのq-頂点作用素の理論を用いて、京都大学の神保氏らによって解析されたXXZ模型の場合の結晶基底による描写のある種の極限に相当することが分かった。これらをもとにして、N点関数の具体的な記述に対しては、R行列の積に関係したものであるという予想が立つが、これは今後の大きな課題である。R行列の解析は、現在なお世界中の多くの研究者達が追求する大きなテーマであり、量子R行列が柏原代数に付随したq-頂点作用素と深い関係をもつということは、量子R行列に新しい解釈を与えたと言え、他のR行列の解析に役立つものと期待できる。
著者
養老 真一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

インターネット上で検索エンジンを利用すれば多くの法情報が得られるが、そこには多くの不要な情報(ノイズ)が含まれているのが現状である。これらから法情報のみを取り出し、さらに自動的にカテゴリーに分類し提供できれば、利用者の検索効率を上げることができるであろう。本研究では、Support Vector Machine(以下、SVM)と呼ばれる手法を使ってコンピュータによる法情報の自動分類を試み、これが効率的な法情報検索を支援する手段として利用できないか、検討した。まず、平成18年度において、研究に必要な実験を行うためのシステムの開発を行った。このシステムは分類さた、学習用のデータを用意しておけば、形態素解析、文書ベクトルの生成、SVMによる学習までを自動的に行う。学習結果に基づいて、文書が適切に分類されるかどうかについても、別途、判別用のデータを用意しておけば、学習結果に基づいて正解率を自動的に計算する。平成19年度は、実際に法情報の自動分類の実験を行なった。その結果は以下のとおりである。まず、一般の法情報以外の情報と法情報の分類実験をおこなった。具体的には一般の情報のサンプルとして新聞記事のデータを、法情報として判例や法令の情報を収集して実験をおこなった。その結果、かなりの精度で一般情報と法情報を分類することができた。この結果はインターネットから法情報のみを選択的に収集する可能性を開くものである。
著者
宿里 充穗
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

Cyclooxygenase(COX)イメージング剤の開発を目的として、非ステロイド性抗炎症薬のうち2-アリールプロピオン酸類を中心に11C標識PETプローブ化を行い、LPS誘発脳内炎症モデルラットを用いたPET撮像の結果、COX-1選択的なケトプロフェンの誘導体の11C標識体(11C-KTP-Me)が特に炎症領域の特異的描出に優れることを見出した。さらに、11C-KTP-Meはミクログリアの活性化に伴うCOX-1の変化を特異的に認識し、ミクログリア特異的マーカーとして有用である可能性が示唆された。また、サルにおいても同様に脳内炎症への集積が確認され、代謝動態もプロとレーサーとして適切なものであったため、今後、ヒトを対象とした臨床応用が期待される。
著者
楢崎 洋子 阿部 正樹 橋本 遼平
出版者
武蔵野音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

オーケストラ作品や器楽作品にオリジナルな作風が認められるとともに、声楽作品やオペラ作品も書いている日本の作曲家の作品を対象に考察すると、たとえばオペラ作品において言葉に声、オーケストラが重なって、複数のメディアの複合的というよりも一元的な関係が認められるため、その関係を表す適切なジャンル名称の必要性を示唆する。
著者
金川 哲也
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ポンプの中を流れる水中において、しばしば、衝撃波という「危険な」波が形成される。これを、ソリトンという「安全な」波に変換できれば、ポンプの損傷を抑制することが可能となる。本研究の目的は、この革新的技術開発のための理論的基盤の創成にある。気泡流中において、水中音速1,500 m/sを超えて伝播するという、水の圧縮性の効果が招く高速伝播圧力波を用いて、ソリトン遷移した衝撃波をポンプ内から速やかに逃がすという着想に基づき、高速伝播圧力波の非線形伝播の理論解析および数値解析を行った。今後、本理論の実験的検証研究や、次世代のポンプへの実装を目指した産学連携研究といった、さらなる進展が期待されるだろう。
著者
田川 佳代子
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

市民をサービス利用者、消費者、顧客と捉え、市場としてサービスの供給を進め、経営管理主義の台頭があるなかで、ソーシャルワークにおける社会正義への責任や平等主義への志向は後退した。主流のソーシャルワークは、システムの変革よりも秩序の維持・適応を目標に据え、社会構造の歪から生じる諸問題を解消する観点は乏しい。そうした脈絡において、次の観点からクリティカル・ソーシャルワークの構想を試みた。(1)抑圧の個人的経験を広範な政治的理解と関連づける構造分析、(2)抑圧や支配を除去し、搾取や社会的不正義を克服するのにふさわしい社会正義への志向、(3)批判理論、ポストモダニズム、ポスト構造主義の思考。
著者
水島 郁子 山下 眞弘 原 弘明 地神 亮佑
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、労働法と会社法の総合的理論的検討を行うことにより、両者の間隙を埋め、労働法と会社法の連携調和を図ることを目的とする。労働法も会社法も実務に近い学問であり、理論的検討の際には法実務と乖離しないことが必要である。大企業実務では法務、人事労務、経営管理を、それぞれ別のセクションが取り扱うのに対し、中小企業では経営者や幹部役員がそれらすべてを担うことが少なくない。労働法と会社法の連携調和を図り、法理論と法実務の連携を模索するには、中小企業法実務に着目することが有用である。本研究は学界の成果とするだけでなく、実務家や経営者に役立つ情報を提供し、ひいては中小企業労働者を守ることをねらいとする。「比較法を含めた理論的検討」は、主として文献調査の方法で行った。後述の研究会で、研究分担者が「労働保険における労働者の「従前業務」に対する法的評価-アメリカ法を参考に」の題目で報告を行った。「実務との対話」は、研究会を6回開催した(5月13日、8月5日、9月30日、11月11日、12月23日、2月3日)。研究分担者および研究代表者が報告したほか、研究者(教員)や実務家に報告を依頼し、それぞれの立場から検討を行い、多角的に意見交換をした。研究分担者および研究代表者の報告タイトルは、前述のほか、以下のとおり:「企業再編と労働者の処遇-会社法と労働法の交錯」「障害に対する配慮の合意と会社分割による承継」「障害者雇用-障害労働者に対する合理的配慮をめぐる最近の事例」。
著者
森山 茂徳 浅野 豊美 原田 環 堀 和生 永島 広紀 姜 東局 長田 彰文 長田 彰文 新城 道彦 小林 玲子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、日露戦後の大韓帝国の国際的地位が何ゆえ如何に変化したのかを、日韓両国間の研究者ネットワークに基づき、日本、韓国、および関係各国の史料の収集による実証的かつ斬新な視角による総合的研究である。成果は、(1)包括的史料収集によって新たな決定的史料集完成への展望を開き、(2)2010年8月29日に「韓国併合に関する国際的シンポジウム」(非公開)を開催し、(3)この成果を2011年度中に論文集として、史料集と併せて刊行する予定である。
著者
秋山 武和
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

大脳の高次機能の中で論理的判断および美的判断の中枢の局在を明らかにすることを目標とした。近年の脳画像研究では、こうした判断を行っているときの脳神経活動が主に機能的MRIを用いて検討されてきた。しかし、先行研究はいずれも機能的MRIしか用いておらず、時間分解能などの点で不明な点が多い。論理的思考の神経相関を調べた研究では、ロンドン大学神経科学研究所のGoelらのグループが、三段論法の課題を遂行に関わる脳部位の同定(Goel et al.,2000;Goel&Dolan,2001)、信念バイアスの影響(Goel&Dolan,2003)、演繹的推論と帰納的推論に関わる脳部位の違い(Goel&Dolan,2004)などについて研究を行っている。また、美的判断についてはKawabata&Zeki(2004)が、眼窩前頭前野、前帯状皮質、運動野などヒトの感性情報処理に関わる脳部位の同定を行っている。本研究では、機能的MRIに加えて、脳磁図(MEG)や経頭蓋磁気刺激装置(TMS)を用いて、より詳細な分析を行うことを目的とした。20-30歳台の若年健常人を対象とした。論理的判断の中枢に関する研究で成果が見られた。三段論法解決時に大脳皮質運動野に単発経頭蓋磁気刺激を与えることにより、演繹的推論時における両側大脳皮質運動野の興奮性変化を調べた。PET、機能的MRIを用いた研究では、演繹的推論時には両側頭頂葉、後頭葉および左外側側頭葉、前頭前野の大脳皮質活性化が報告されているが、本研究では演繹的推論時には右大脳皮質運動野の興奮性が増加し、左大脳皮質運動野の興奮性は変化しない傾向がみられた。
著者
長崎 晃一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

今回の研究では非局所演算子としてインターフェースの上に埋め込まれたトフーフト演算子について調べた。この演算子は超弦理論側では数枚のD1 ブレーンとして記述できる。多数のD3 ブレーンが重なった系にこのD1ブレーンが端を持つように入れるとD1ブレーンはこのD3ブレーンの世界体積上の磁場と見る事ができる。N枚のD3ブレーンが重なった世界体積上に実現されるゲージ理論はゲージ群SU(N)を持った非可換ゲージ理論になるが、その上に存在する磁荷はYoung 図で表され、それはトフーフト演算子の表現に相当する。この系ではD1 ブレーンの枚数が磁荷、Young 図でいうと箱の数に対応している訳であるが、一般に箱の数を決めてもそれに対応するYoung 図は複数構成できる。こういったことから弦理論側のブレーンの図からは見ることが難しいブレーンの詳細な情報がこのYoung図の表現により調べられるのではないかと期待できる。ここではトフーフト演算子を含んだD5ブレーンをプローブとしてD3-D5系を発展させた系からトフーフト演算子を調べることを考えた。 結果、D3ブレーン上の磁場を積分する事によって得られるチャージとYoung図を構成する箱の数に確かに対応がつけられる事を確かめた。さらにAdS/CFT対応についての検証を進めるため、次のようなゲージ理論を考えた。ゲージ理論をリーマン面上にコンパクト化した理論が最近活発に研究されている。例えばBeniniたちは中心電荷の計算をリーマン面にコンパクト化した理論において計算している。私はこの理論においてリーマン面上に境界がある場合への一般化を試みた。そして超対称性がN=(2,2)という場合において't Hooftアノマリーとの関係から中心電荷を求める事に成功した。また境界条件としてGaiottoとWittenが提案したNS5-境界条件がリーマン面の境界においても可能である事を確認した。
著者
片岡 智哉
出版者
東京理科大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,河川流況及び流域情報を考慮した河川におけるマイクロプラスチック(MP)の輸送モデルを開発するものである.初年度には,江戸川野田橋(河口から39km)において河川水中におけるMP濃度の横断分布及び鉛直分布計測を行った.なお,MP濃度は橋梁から簡易プランクトンネットを用いて採取したMPの数量と質量をネット開口部に取り付けた瀘水計による計測濾水量で除すことで算定する.MP濃度の横断分布及び鉛直分布観測は平常時を対象とし,横断分布観測を3回(2017/5/31, 7/26, 9/15)と鉛直分布観測を1回(2017/6/22)実施した.MP鉛直分布観測の結果,単位濾水量当たりのMP個数(以下,MP数密度)は,水深が深くなるにつれて指数関数的に減少していた.そこで,浮遊砂量の評価式の一つであるLane-Kalinskeの式に基づき,MP濃度の鉛直一次元拡散方程式でモデル化した.一方,MP数密度は,河川横断方向において両岸で高く,流芯付近で極小値をとるように分布し,水深平均流速と逆相関の関係にあった.流速が大きな流芯付近ではMPが鉛直混合するため,相対的に水表面におけるMP数密度が小さくなったと推察される.MP濃度の横断・鉛直分布によるMP輸送量評価への影響を調べるため,MP横断分布計測結果に基づき,3つのケース(表層1点,表層3点,鉛直平均)でMP輸送量を評価・比較した.表層1点及び3点のケースでは,MP数密度が水深方向に指数関数的に減少する鉛直分布を考慮できていないため,軒並み過大評価された.一方,鉛直平均のケースでは,横断方向における採取点の選択により誤差が生じることがあるが,MP輸送量の評価誤差が相対的に小さい.このことから,MP輸送量評価においてMP鉛直分布を考慮することが重要であることが示唆された.
著者
福田 眞人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究においては、性病、とりわけ梅毒とエイズの文化史的研究を目的として、それらの全体史の外観から入った。問題の項目を明確にするために、まず梅毒に限定して、その歴史的・社会史的および文化史的観点の整理につとめ、その問題点の洗い出しに務めた。実はまだ未解決の問題が山積していることがその過程で明らかになったのであるが、たとえば梅毒の起源、その感染ルートさえ定説があるわけではない。一応、従来から定説とされてきたアメリカ大陸起源、コロンブスのアメリカ大陸到達時での旧大陸ヨーロッパへの伝播節を取りつつ、他の可能性についても完全には排除していない。それは、たとえば小アジア(トルコ)での風土病であるといった可能性である。文化史的問題として、性病の社会的意味付けがある。忌むべき病気として完全に社会から差別を受け、隔離され、忌避されたのかどうか。そこに現代では考えられない性病に対する肯定的意味付けがあった可能性を否定できない。さらに日本という地区を限定して語るとき、16世紀に輸入された梅毒が、そのまま19世紀まで特段の対策も取られないまま放置されたのはなぜか、という問題が残る。それが、外国の駐留軍の安全のために検毒が開始されたことも、当時の日本における性病の認識のあり方を示していよう。19世紀以降、西洋諸国で取られた性病対策は、まず売春婦の検査から始まったが、その検査がもたらした社会的影響の問題も未解決である。そこにあらたに始まった衛生運動と共に、政府官憲による道徳の管理という問題もあろう。しかし、生殖・性に関する問題は個人の秘密に属する部分であり、隠蔽される可能性が高い。それゆえに性病も潜在化することが多く、その罹患者数、死亡者数の実数を把握するのは困難であろう。こうした諸々の問題を通して、性病の実態とその対策に供する文化的資料を提供するのが最終的な目的であり意義である。
著者
藤田 治彦 井口 壽乃 近藤 存志 川島 洋一 池上 英洋 加須屋 明子 井田 靖子 橋本 啓子 天貝 義教 高木 陽子 高安 啓介 加嶋 章博 朝倉 三枝 三木 順子 永田 靖 塚田 耕一
出版者
神戸芸術工科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

美術、建築も含めた広い意味でのデザイン教育の歴史をおもなテーマにした国際会議、第1回ACDHT(Asian Conference of Design History and Theory)を本研究開始の平成27年10月に大阪大学で開催、平成29年9月には第2回ACDHTを東京の津田塾大学で開催した。その研究内容は同国際会議での発表論文を査読して掲載する ACDHT Journal の”Design Education beyond Boundaries”に掲載され、同国際会議ウェブサイトでも閲覧可能にしている。研究代表者と13名の研究分担者は、全員、積極的に調査研究を進めている。平成29年度は、特にインド、スペイン、ドイツ、中欧、イギリス(スコットランド)の研究成果が注目された。第2回ACDHTでは、第1回ACDHT以上に、本科研プロジェクト以外の研究発表者も国内外から参加し、このデザイン教育史研究を通じての国際交流を高めている。本研究は、各国のデザイン史、美術史、建築史等を専門とする日本の代表的研究者が研究分担者となり関連国、関連地域の独自の調査研究を進め、国際会議での発表でも高く評価されているているが、全世界を視野に入れれば専門の研究分担者のいない国や地域も多く、それが「デザイン教育史の国際的比較研究」の目的を達成するには唯一の欠点でもあった。研究代表者は、その欠点を十分に補って研究を総括する立場にあり、第1、第2年度には、担当する研究分担者のいない中国、東南アジア、インド等の調査を行い、平成29年度にはオランダと北米(アメリカ東部とカナダ)および南米(アルゼンチンとチリ)等で調査研究を行った。調査のために訪問した各国の主要教育機関からは多くの場合、重要な関連資料を提供され、旅費は必要だが、図書購入費は節約可能で、順調に調査研究を進めている。
著者
藤井 聡 谷口 綾子 羽鳥 剛史
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本年度は,土木計画における公共受容や合意形成の問題を考える上で,個人の心理的傾向性として「大衆性」に着目した.そして,オルテガの政治哲学理論を踏まえ,行政行為が一切変化しない状況でも,公衆が大衆化することで公共事業に対する合意形成が困難となるであろうという仮説を理論的に措定した.そして,大学生100名を対象としたアンケート調査を通じて,その仮説を実証的に検証した.その際,大衆社会論の代表的古典であるオルテガ著「大衆の反逆」(1930)を基にして構成された個人の大衆性尺度を用い,それら尺度が,政府・行政や公共事業に対する態度に及ぼす影響を分析した.その結果,本研究の仮説が支持され.大衆性が公共事業に対する合意形成を阻害する可能性が示された.以上の結果は,人々の大衆性が昨今の行政不信と公共事業を巡る合意形成問題をもたらし得る本質的な原因であり,そうした問題の解消にあたっては,人々の大衆性を低減することが本質的課題であることを示唆するものである.次に,以上の先行研究を受けて,個人の大衆性を低減するための方途を探ることを目的として,人々とのコミュニケーションを通じた態度変容施策の一つとして,「読書」の効果について実証的に検討した.そして,内村鑑三著「代表的日本人」(1908)に着目し,本書を通読することによって,人々の大衆性が低減するという仮定を措定し,実証実験を通じて本仮説を検証した.その結果,本研究の仮説が支持され,「代表的日本人」を通読することによって,人々の大衆性が低減し得る可能性が示された.
著者
島田 雅晴 小野 雄一 長野 明子 山村 崇斗
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

前年度に引き続き、料理レシピサイトをコーパスとして、普遍文法の観点から日英語を対象に言語接触の研究を推進した。島田は大学院生のリサーチアシスタントとともに、対象とする英語の前置詞をon、inのほかにwithも加え、データ収集と分析を行った。長野は言語接触理論の文献調査をかなり深いところまで行い、独自の理論構築を行った。小野は言語処理技術を用いて、大学院生とグループを作り、データの抽出と分類、分析を行った。山村は日本語における前置詞の借用一般について調査し、論考をまとめた。研究推進の一環として、6月にリヨン第2大学のVincent Renner氏、高知県立大学の向井真樹子氏を迎え、Tukuba Morphology Meetingという国際ワークショップを2日間にわたり筑波大学で開催し、代表者、分担者のメンバー全員が発表した。また、9月には筑波大学主催のつくばグローバルサイエンスウィークの中で九州大学の廣川佐千男氏、埼玉大学名誉教授の仁科弘之氏、クックパッド株式会社の原島純氏を迎え、Industry-Academia Collaboration among Pure, Applied, and Commercialization Researches Based on Linguistic Dataという国際ワークショップを開催した。また、研究成果の社会への還元を目的として、大学院生とともに、代表者、分担者全員が参加して、中学生を対象にして「ひらめき☆ときめきサイエンス」で講座を開講した。主な研究成果としては、長野と島田が共著で、言語接触に関する理論の提案と具体的な日英語接触についての分析を行った論文を刊行した。また、島田がリサーチアシスタントと共に国立情報学研究所で行った研究発表が「企業賞:クックパット賞」を受賞した。
著者
鎌田 博行
出版者
宮城教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、コンパクト複素曲面におけるスカラー平坦不定値ケーラー計量(自己双対な不定値ケーラー計量)の存在問題に端を発す。その研究過程の中で、板東・カラビ・二木の障害と呼ばれるスカラー曲率が一定な正定値ケーラー計量の存在に対する障害を、不定値の場合に一般化する必要があり、その障害のケーラー類に対するwell-defined性は、正定値の場合に比べて、幾つかの余分な条件が仮走することによって保証される。具体的には、ケーラー類と正則ベクトル場に対する次の条件(i)(ii)が要請された:(i)「ケーラー類が有理的であり、正則線束の第一チャーン類の実数倍として実現される。」(ii)「(i)の正則線束上に正則ベクトル場が正則に持ち上がる。」これまでこの障害を用いて、スカラー平坦不定値ケーラー計量、さらにスカラー曲率一定の不定値ケーラー計量の存在問題を考察してきたが、特に、ヒルツェブルフ曲面と呼ばれる有理曲面におけるスカラー曲率が一定な(不定値)ケーラー計量の存在に対する必要十分条件として、そのランクが0、即ち、複素射影直線の直積に双正則でなければならないことを示した。その際、有理的とは限らないケーラー類に対して板東・カラビ・二木の障害をさらに一般化する必要があったが、今年度は、不定値の場合へ板東・カラビ・二木の障害を一般化するために仮定した幾つかの条件について、それらの役割などを精査することにより、これまでの結果の高次元化を考察した。これらについては、先に述べたヒルツェブルフ曲面に対する結果と共にプレプリントとしてまとめてある。
著者
祐成 保志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

米国におけるハウジングの社会学において,L. ワースらによって提示された「政治経済学」と,R. K. マートンらによって探求された「社会心理学」の系譜が,H. ガンズに至って「エスノグラフィ」を介して接続され,「いかにして実効的環境を記述・分析するのか」という理論的・方法的な基本問題にたどり着いた。このプロセスを追跡できたことが本研究課題の第一の成果である。こうした方法史的な検討を経て,複合的な行為・状態としての「住むこと」をいかに保障するかという,社会政策としての住宅政策における基本問題を明確にできたことは,本研究課題のもう一つの成果である。