著者
利部 慎
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、世界的にも新しい年代トレーサーであるクリプトン85(85Kr)を用いた湧水・地下水の年齢を、従来の測定システムの改良により、高い時間分解能で推定することに成功した。熊本地域や都城盆地などの複数の研究地域で現地調査を実施し、一連の分析手法の確立と85Kr法の実用化に成功した。さらに他の年代トレーサーと同時に用いて年代推定のクロスチェックを実施することで、85Kr法の有効性の検証も行うことができた。地下水の流動過程における弱点のない85Kr法の確立により、年代測定分野に新たなインパクトを与える研究となった。
著者
岡本 竜哉 赤池 孝章 伊藤 隆明
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

マウスインフルエンザウイルス急性肺傷害モデルを用いて、一酸化窒素と活性酸素種によるニトロ化ストレスが、病態に及ぼす影響ついて解析を行った。その結果、ニトロ化ストレスにより、感染肺局所にて8-ニトロ-cGMPが生じ、HO-1をはじめとする酸化ストPレス応答を制御するシグナル分子として、肺傷害や肺線維化の病態形成に関与している可能性が示唆された。今後、この知見を間質性肺炎の新たな治療戦略へ応用することが期待される。
著者
向山 昌利 中島 信博
出版者
流通経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、ラグビーワールドカップ釜石開催を対象として、ラグビーワールドカップと震災復興の接合から開催に至るまでの過程を多様な被災住民の立場から重層的に解明することである。本研究は、スポーツ・メガイベントと震災復興の関係性を被災地の文脈からとらえる数少ない研究のひとつである。また、被災地でのスポーツ・メガイベント開催という現在進行形の事例を対象とする本研究は、「スポーツ・メガイベントを契機とする震災復興」という今日的課題を是正するために欠かせない知見を浮き彫りにできると考えられる。被災地の現状を俯瞰しながら多様な住民の位置取りを確認した昨年度の調査をもとに、本年度は複数の組織や個人へのインタビュー調査を実施した。特に、行政(釜石市役所)へのインタビュー調査を集中的に重ねた。調査の結果、次の点が明らかとなった。まず、行政が復旧・復興のための資源を獲得するひとつの選択肢として釜石固有の文脈から紡ぎだされたラグビーワールドカップ開催を目指したこと。次に、行政がラグビーワールドカップ開催を目指す中で、理念的かつ感情的な開催意義を紡ぎだすことで、より多くの共感を獲得していったこと。すなわち、行政の復興戦略のが具体化されたひとつの事例が、「震災復興」が正当性となるラグビーワールドカップの開催であったことが明らかとなった。しかしながら、自然災害によって破壊された社会構造や生活構造が、ラグビーワールドカップ開催に関する議論を難しくする点にラグビーワールドカップと震災復興の関係性における課題があるように見受けられた。2015年3月にラグビーワールドカップ開催都市のひとつとして釜石市が決定した今、ラグビーワールドカップ開催をめぐる行政と住民の意識の溝を乗り越える作業が、行政だけでなく住民にとっても喫緊の課題となると考えられる。
著者
山内 晋次
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究課題では、10~16世紀頃のアジアにおける、火薬原料としての硫黄の国際的な流通構造の推移を、日本産の硫黄も含めて、全体的に考察することをねらいとした。その結果、10~13世紀頃のアジアにおいては、当時世界で唯一、火薬・火器技術を保持していた中国に向けて、その原料としての硫黄が一極集中的に流れ込んでいく、という国際的な流通構造がみられたことが明らかになった。そして、続く14~16世紀頃になると、中国による火薬・火器技術の独占が崩れ、アジア各地にその技術が伝播したことに伴い、中国も含めた複数の地域を流入の核とする多極的な国際流通へと、大きく構造が変化したことがわかった。
著者
高野 文英 桜田 誓
出版者
日本薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

防己はツヅラフジ科を基原とし、リウマチなどの痛みに有効性を示すが、その作用機序は未解明である。防己黄耆湯およびこれに含まれるシノメニンは、熱刺激や化学刺激による痛みに鎮痛作用を示すとともに坐骨神経を結紮した臨床に近い痛みに対しても効果があった。シノメニンは麻薬性鎮痛薬のモルヒネに構造が類似するが、痛みを抑える機序はモルヒネとは異なることも分かった。さらに詳細な検討を加えた結果、炎症性を抑えるメカニズムが関与している一部に関与している可能性が考えられた。防己黄耆湯および主成分のシノメニンは、麻薬性鎮痛薬とは異なるタイプの痛み止めになり、慢性的な痛みに対して有効である可能性が考えられた。
著者
田辺 俊介 松谷 満 永吉 希久子 濱田 国佑 丸山 真央 米田 幸弘 斉藤 裕哉 張 潔 五十嵐 彰 伊藤 理史 桑名 祐樹 阪口 祐介
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

近年の日本のナショナリズムの時点間比較として、前回調査の2009年全国調査データと本科研費によって得た2013年全国調査データを用い、2時点間の比較分析を行った。その結果、愛国主義については大きな変化は見られず、純化主義は一定程度強まる傾向が示された。また排外主義は、対中国・対韓国に対するものと他の外国人に対するものの2種類に分けられた上で、対中国・韓国への排外主義については日本型愛国主義の影響力が強まっていた。この点は、尖閣/釣魚諸島沖衝突事件(2010年)や李 明博大統領の竹島/独島上陸(2012年)ような国家レベルの紛争が、人々の抱く排外主義にも影響した結果と考えられる。
著者
根本 裕史
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、ゲルク派の創始者ツォンカパの時間論と業報思想についての考察を通じて彼がインド仏教中観帰謬派の思想体系をどのように解釈しているか明らかにすることである。本年度はまず彼の『中論大註』および講義録『現量章疏』に依拠して、時間に関する表現の問題について検討した。彼は未来を「事物の未生起状態」と定義し、過去を「事物の消滅状態」と定義する。その結果、三つの時間は話者の属する時間とは無関係に措定され、無時制的な時間表現が可能となる。以上のことを英語論文"Tsong kha pa on the Three Times: New Light on the Buddhist Theory of Time"としてまとめた。つぎに、ツォンカパの『密意解明』に依拠して、彼が自身の時間論を応用して独自の業報思想解釈を展開している点を解明した。彼によれば過去になされた業は「業の消滅状態」として存在しており、その消滅状態が中観帰謬派の学説では効果的事物(結果を生み出す能力を具えた存在)とされる。それゆえ、ツォンカパが理解する帰謬派の学説では、唯識派が説くようなアーラヤ識の存在を前提とする業異熟の理論ではなく、業の消滅状態そのものが果をもたらすのだという独特の理論が採用される。以上のことを英語論文"Tsong kha pa on the Madhyamakavatara VI 39"として発表した。ツォンカパや後代のゲルク派の時間論を解明するためには、チベット語意味論の観点からの分析が必要である。本年度は「ドゥラ」とよばれる問答の手引書を精査し、チベット語の限定詞kho naが適用された場合にどのような命題解釈ができるか、特にrtag pa kho na(「常住なものだけ」)の有無をめぐる議論について考察した。その成果を第14回世界サンスクリット学会にて発表した。
著者
池田 裕
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

第一に、当該年度は日本における争点態度の構造を検討した。「政治と科学に関する意識調査」(PIAS調査)のデータを用いた分析によれば、憲法改正・原子力発電所・集団的自衛権・靖国神社・尖閣諸島・道徳教育・生活保護・女性管理職・保育サービス・夫婦別姓・同性結婚のなかで、最も人気があるのは尖閣諸島・生活保護であり、最も人気がないのは原子力発電所・靖国神社である。11項目の争点態度は、自民党政治・伝統的秩序・社会的平等・家族多様性の四つの次元を構成する。この四つの次元は、互いに独立しているのではなく、互いに関連している。加えて、保革自己イメージは四つの因子のすべてを有意に予測する。具体的には、自身を保守的だと考える人ほど、自民党政治と伝統的秩序に好意的で、社会的平等と家族多様性に好意的でない。第二に、当該年度は保革自己イメージと政府支出への支持の関係を検討した。日本版総合的社会調査(JGSS)のデータを用いた分析によれば、環境保護・犯罪取締・教育・安全保障・社会保障・雇用対策のなかで、最も人気があるのは社会保障であり、最も人気がないのは安全保障である。6項目のあいだの相関は、単一因子によって十分に説明される。線形回帰モデルにおいて、政府支出への支持に対する保守主義の効果は統計的に有意でない。しかし、分位点回帰の結果は、条件付き分布の中位の分位点に対して、保守主義が有意な負の効果を持つことを示している。それゆえに、自身を保守的だと考える人ほど、政府支出の増加を支持する傾向が弱いという仮説は部分的に支持される。日本では、有権者のイデオロギー的立場が、社会福祉への選好や小さな政府への選好とほとんど相関しないとされている。それに対して、本研究の結果は、社会的平等や政府支出に関して、保守と革新のあいだに意見の隔たりがあることを示している。保守と革新の対立は深刻でないが、無視することはできない。
著者
北岡 祐
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

運動により、骨格筋においてミトコンドリア新生に関わる遺伝子の発現が高まることが知られている。本研究では、DNAのメチル化状態の変化が運動による骨格筋の適応に重要な役割を果たす可能性について検討した。DNAメチルトランスフェラーゼのタンパク質量は、トレーニングによる変化はみられなかった一方で、除神経によって増加したことから、DNAのメチル化は不活動による骨格筋の適応に関与する可能性が示唆された。
著者
富原 一哉 小川 園子
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

女性は男性の2倍程度抑うつや不安などの情動障害に罹患しやすく,その発症にはエストロゲンなどの性腺ホルモンが深く関与すると考えられている。我々は,妊娠期に相当する高用量のエストロゲンの長期慢性投与がメスマウスの情動行動を亢進させることを確認した。さらには,ERαアゴニスト投与も高用量エストロゲン投与と同様にメスマウスの不安様行動が増大するが,ERβアゴニストの長期慢性投与は,逆に不安を抑制することも明らかとなった。今回得られた知見は,「マタニティー・ブルー」や「産後うつ」などの女性特有の感情障害の神経内分泌メカニズムの解明に大きく貢献するものと考えられる。
著者
高橋 伸一郎
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

成長ホルモン(GH)は、インスリン様成長因子の産生を介した成長促進活性を有するが、同時にインスリン抵抗性をはじめとした種々の代謝制御活性を示し、GHの長期連用は糖尿病を誘発する可能性があるなど、臨床上問題となっている。しかし、GHによるインスリン抵抗性の発生機構は、全く明らかとなっていない。本年度、本研究では、3T3-L1脂肪細胞をGHで長時間処理後インスリン処理し、インスリンの細胞内シグナルを詳細に検討した。その結果、GH前処理により、インスリン受容体のチロシンキナーゼ活性や基質のひとつであるIRS-1のチロシンリン酸化は変化しないにも関わらず、もうひとつの受容体キナーゼ基質IRS-2のインスリン依存性チロシンリン酸化が抑制され、更に下流シグナル分子Aktのインスリン依存性活性化も抑制されることを見出した。そこで、恒常的に活性化しているAktを3T3-L1脂肪細胞に強制発現させたところ、GH前処理によるインスリン依存性糖取り込みの抑制が解除され、他の結果も併せると、GH前処理によりIRS-2を介したシグナルが抑制され、GLUT4は細胞膜に移行するのに関わらず、その糖輸送活性が阻害されていると結論された。そこで、GH前処理後のインスリン処理に応答してGLUT4に何らかの分子内修飾が起こっているか、二次元電気泳動を用いて検討したところ、GLUT4の分子内修飾は認められなかった。現在、GLUT4に結合し、GLUT4の糖輸送活性を修飾するような分子の同定を進めている。一方、ヒトGHを高発現するトランスジェニックラットより調製した脂肪細胞では、3T3-L1脂肪細胞と同様に、インスリン依存性糖取り込みの抑制が観察されたが、この糖取り込み抑制は、肝臓でのインスリンシグナルが強められ、インスリン依存性脂肪・グリコーゲン合成が増強されることで補償されることも明らかとなった。
著者
朝長 啓造
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、ボルナ病ウイルス(BDV)の病原性を利用してグリア細胞、特にアストロサイトの未知なる機能の解明を行うものである。BDVは、感染によりアストロサイトの機能障害を誘導することが示唆されており、グリア細胞機能異常による神経疾患の発症モデルとして広く用いられている。BDV感染によるグリア細胞の機能異常とその分子機序を総合的に解析することで、新たな視点でグリア細胞機能の本質に迫ることができると考えた。そこで、BDVによるアストログリア細胞の機能障害について詳細な解析を行った。前年度までに、BDVの病原遺伝子であるP遺伝子を発現させたC6グリオーマ細胞において68個の宿主遺伝子が有意な発現変化を示すことを明らかにした。そこで本年度、同定された遺伝子の中で、発現量の上昇が大きく、神経疾患との関連性が示唆されているIGFBP3に注目して解析を進めた。リアルタイムPCRを用いた解析の結果、BDVのP遺伝子をアストログリアで発現するトランスジェニックマウス(P-Tg)脳由来グリア細胞においてもIGFBP3 mRNAの発現が顕著に増加していることが確認された。野生型マウスより分離した神経初代培養に適量のIGFBP3を添加し、抗カルビンジン抗体で染色される神経細胞の生存数について経時的な観察を行った。その結果、IGFBP3を添加した神経細胞では培養10日目において生存数が顕著に減少していることが明らかとなった。また、P-Tg小脳ではインスリン様成長因子受容体のリン酸化が顕著に低下しており、P-Tg小脳におけるインスリン関連シグナルの異常が示された。このことから、IGFBP3には神経細胞脱落を誘導する活性があることが明らかとなり、アストログリア由来のIGFBP3の発現意義について明らかになった。
著者
仲井 まどか 高務 淳
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

1)日本で見つかったアスコウイルス分離株には寄生蜂致死タンパク質(PKT)のホモログが複数存在していた。2)日本産アスコウイルスのベクター(伝播者)は、ギンケハラボソコマユバチであることが明らかになった。3)日本産アスコウイルス感染虫よりギンケハラボソコマユバチは、脱出できたので、このウイルスのゲノムにPKTがコードされている理由は、「ベクター自身の排除ではなく、ベクターの競争相手となる寄生蜂を排除することによりウイルスの適応度を上がるため」という仮説が考えられた。
著者
川野 光興
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

精子では転写が行われていないため、今まで精子を用いた大規模なcDNA配列解析はなされていない。しかし最近の報告により、精子内にもRNAが存在していることが明らかになった。よって本研究では、精子中に存在する転写産物の網羅的同定を塩基配列決定により行い、新規の機能性RNA分子を探索することを目的とした。精子は体細胞とは異なり全体的に非常に凝集したクロマチン構造をとっている。そのような状況下において存在しているRNAの生理機能を解析することにより、精子における遺伝子サイレンシングやゲノム構造の維持機構に関する理解を深められる。これらのデータは、RNAが遺伝物質として機能するという仮説の上に立った候補RNAを探索する基礎データにもなりうると考えられる。今年度の具体的な研究内容を以下に述べる。始めにマウスおよびチンパンジーから運動能力のある精子を採取して全RNAを精製した。今回の解析では、小分子RNAを含むできるだけ多くの転写産物の同定を行えるようにするため、RNAの長さおよび末端の形状に依存しない両末端タグ法を用いてcDNAを調整した。454シークエンサーを用いてcDNAの塩基配列決定を行い、マウスは約45万、チンパンジーは約5万のcDNAタグを得た。生物情報学的解析により、cDNAのゲノムへのマッピングを行いRNAの分類をした。その結果、マウスおよびチンパンジーの精子中にはrRNA、tRNA、mRNAの断片やmiRNA、piRNA、snoRNAなどの機能性RNAが存在することを明らかにすることができた。mRNAとmiRNAの幾つかのものについては、実際に精子中にRNAが存在することをTaqMan qRT-PCR法を用いて確認した。さらに、マウスの精子から新規miRNAの候補を複数同定した。今後は、マウスとチンパンジーの精子RNAプロファイルを比較解析する。
著者
鈴木 正寿
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

哺乳動物の脳には形態的・機能的雌雄差が存在する。本研究は、周生期のラットの脳の性分化に直接重要な役割を果たす性分化誘導因子として考えられているグラニュリンに着目し、そのニューロンに対する作用を分子生物学的及び細胞生物学的に解明することを目的とした。本年度では、イン・ビボにおけるグラニュリンの視床下部ニューロンの構築に対する作用の検討として、抗グラニュリン前駆体ウサギ血清を用いて、脳内におけるグラニュリン発現分布を免疫組織化学的に検討した。その結果、脳全体において広範な発現が確認されたものの、特に大脳皮質、海馬、視床下部脳室周囲核や弓状核、中脳黒質などでの強い発現が観察された。さらにこれらの領域においてgrn前駆体蛋白を発現する細胞は神経細胞であった。以上の結果は、神経細胞において産生されるgrnが、オートクライン・パラクライン的に神経細胞やグリア細胞に作用し、細胞増殖・分化を制御している可能性を示唆するものであった。さらにマウスグラニュリン遺伝子のゲノム配列を用いて、プロモーターでの転写調節機能の解析やノックアウトマウスの作成を現在進行している。特にノックアウトマウス作成については、現在グラニュリン遺伝子の欠損した胚性幹(ES)細胞の選択が終了し、キメラマウスの作成の段階である。また脳の性分化の誘導される新生期において、エストロジェンを処置し、その後経時的に視床下部を採取し、新生ラット視床下部におけるエストロジェン、アンドロジェンおよびアロマターゼ遺伝子の発現を検討した。エストロジェン投与によりERα遺伝子発現は減少したが、ERβ、AR、AROM遺伝子の発現は増加した。これらの遺伝子発現の雌雄差、および性ステロイドに依存した発現制御は、ラットの脳の性分化において重要な役割を果たすものと考えられた。
著者
小野 泰教
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究では清末開明知識人郭嵩〓(1818-1891)らが中国社会最大の問題点として、当時の「官権」の在り方(官僚・官僚制の在り方)に関心を有していたことに注目し、彼らの間の二つの官権観-一つは従来の政治主体としての士大夫官僚を活性化させるべきとするもの、もう一つは民の意思を実現する行政専門家としての官僚を創出すべきとするもの-の葛藤から清宋政治思想史を描き出すことを目標とした。本研究は三部構成で、第一部は、従来の官権の在り方への懐疑や前述の二つの官権観が西洋認識とともに出現する段階(郭嵩〓・劉錫鴻の議論)、第二部はこつの官権観が地方行政の改革に反映されていく段階(陳宝箴・黄遵憲の議論)、第三部は科挙の是非を中心に国政の改革につながっていく段階(張之洞・袁世凱の議論)である。本年度は、1.第二部につき、従来-地方行政改革とされてきた湖南戊戌変法が、実は本研究第一部から続く官権観の議論の実現として捉えることが可能であることを明らかにし、第一部と第こ部を連結させた。2.研究に着手してまもない第三部につき、中国社会科学院により洛陽で開催された「第三届中国近代思想史国際学術研討会」に参加、第一線の中国人研究者から直接指導を受けた。3.第一部から第三部を俯瞰するため、郭嵩〓を起点として1890年代までの士大夫官僚と専門技術者との関係を考察し、この時期一貫して、旧来型士大夫官僚を重視する官権観と、専門技能を有する官僚を重視する官権観との対立があったことを明らかにした。4.知識人の言説に加え事績をも再検討し、研究の精度を高めた。本研究の起点であり、旧来型の士大夫官僚の在り方を重視した郭嵩〓の事績を分析し、彼が財政、外交、民衆教化に同時にかかわっていたことを指摘、専門性を超えた旧来型士大夫官僚の能力を重視する郭の官権観の意義を確認した。研究代表者は本年度(初年度)で日本学術振興会特別研究員DC2を辞退した。
著者
鈴木 真
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、幸福とその測定に関する哲学研究を、経験科学における研究と接続することを試みた。とりわけ、哲学、特に倫理学において重要な、誰かにとっての善としての幸福(福利)とは何かという問を再考し、その意味の幸福が自然界ではどのような物事に存しているかを、心理学や脳神経科学などの経験科学の知見にもよりながら検討し、福利に関する一種の反応依存説(好み依存説)を擁護した。また、心的状態が経験に適応するという事態が反応依存説に問題を引き起こすという批判を論駁した。そして、各人の幸福が測定や比較が可能なものとして存在すると主張するには、誰かにとっての善に関する想定を現実を踏まえて弱める必要があると論じた。
著者
島田 和典 内藤 久士 岩渕 和久
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

M1とM2 マクロファージは酸化LDL刺激による反応が異なり、主にM1がNF-kB経路に関連して反応した。大動脈瘤モデルの動脈瘤部および腹腔マクロファージはM1優位であった。動脈硬化モデルでは、骨格筋の炎症性細胞浸潤が確認された。動脈硬化病変は、強制的運動や自発的運動により抑制され、その機序としてマクロファージ動員や炎症の抑制が考えられた。嫌気性代謝閾値に基づいた運動処方を含む心臓リハビリテーションにより、筋量、筋力、運動耐容能は有意に改善し、運動耐容能の低下は予後と関連した。以上より、高強度運動のみならず身体活動維持の運動介入においても炎症抑制により動脈硬化病変を抑制する可能性が示唆された。
著者
武田 昌子 高崎 一朗 高崎 一朗
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

帯状疱疹後痛を発症したマウスにおいて、帯状疱疹発症の場である脊髄後根神経節を免疫組織染色法を用いて研究した結果、CD4陽性T細胞ガ帯状疱疹後痛の病態により関与している可能性が示唆された。しかしCD4欠損マウスを用いた研究からは帯状疱疹から帯状疱疹後痛への発症に関してCD4陽性T細胞は、直接関与しているわけではないことが示唆された。このことから帯状庖疹後痛の発症にはMHC遺伝子そのものが関与している可能性が示唆された。