著者
中野 一茂 人見 優子 Kazushige Nakano Hitomi Yuko
巻号頁・発行日
no.26, pp.39-53, 2010-03-31

介護の現場では、2000 年の介護保険法導入を契機に、施設ではより多くの介護福祉士を求め、そのニーズは高まっている。しかし現実には、施設における介護職員の確保は非常に困難な状況にあり、介護職の労働条件・労働環境の整備の劣悪化による離職者が多いと予測される。この介護者の離職問題にふれる場合、「利用者・家族の介護職員に対する暴力」の問題もその関連する要因の一つに考えられる。本研究では、高齢者施設の介護現場において利用者・家族の暴力が関連してどのような問題が生じているのかを把握するために介護職員を対象とした実態調査をおこない、高齢者福祉施設における介護職員の心身に関連した労働環境について考察した。 その結果、施設内で利用者から介護職員が何らかの暴力を振るわれている実態が明らかで、他国をみても特異な結果ではないことが明らかとなった。また何らかの暴力を受けている介護職員は、それを個人的要因あるいは、利用者の疾病に起因するものや自分の中の問題として内包してしまう傾向が強い。内面の自己の価値基準を抑圧することにより、自己の感情を操作し、介護業務を行っている実態があり、感情労働との関連が深かった。またそのことは、離職問題へと発展することが予測された。 今後は、介護業務を感情労働と位置づける研究の蓄積、さらなる実態調査からの結果蓄積による「施設内暴力」の定義・指針作りが急務であると示唆された。
著者
玉置 佳菜子
雑誌
表現文化
巻号頁・発行日
vol.8, pp.67-82, 2014-03
著者
今井 瞳良
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.137-154, 2019

<p>本稿は、白川和子が主演した日活ロマンポルノの団地妻シリーズ『団地妻昼下りの情事』( 西村昭五郎監督、1971 年 ) と『団地妻 しのび逢い』(西村昭五郎監督、1972 年)の分析を通して、「団地妻」が「密室に籠る団地妻」からの解放を模索していたことを明らかにする。団地妻は憧れのライフスタイルであるとともに、社会から隔絶され、孤立した「密室に籠る団地妻」としてイメージされてきた。ところが、団地妻イメージとして絶大な影響力を持った白川主演の「団地妻映画」は、「密室に籠る団地妻」からの解放を模索する「団地妻」と、会社に組み込まれた不安定な「団地夫」の夫婦を定型としている。「団地妻映画」は、「密室に籠る団地妻」というイメージにはあてはまらない作品であったのだ。ところが、結婚して本物の団地妻となり引退した白川和子は、「団地妻映画」と「密室に籠る団地妻」という相反するイメージを接続させ、遡行的に団地妻イメージの起源となっていく。白川が「団地妻」を演じた『昼下りの情事』と『しのび逢い』は、「密室に籠る団地妻」からの解放を模索する「団地妻映画」であったにもかかわらず、団地妻イメージの起源として捏造されたのである。</p>
著者
柴田 哲雄
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 = Monthly journal of Chinese affairs (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.30-39, 2015-07

福建省在任時期に習近平が抱懐していた外交政策の原像は,毛沢東の「独立自主」の思想の影響を受け,「韜光養晦,有所作為」に対して異を唱え,安全保障や主権・領土の問題に比重を置くものであった。また同時期に習近平が推進しようとした福建省独自の対台湾政策は,同省の経済発展を第一の目的として,台湾との経済交流などの強化を図る一方で,台湾独立を掲げる民進党の陳水扁への批判を抑制するものであった。現在の習近平政権の対外政策は,概ねのところ彼の外交政策の原像が反映されたものだと言える。また同政権の対台湾政策は,福建省独自の対台湾政策の影響が見出されていたものの,2014年9月の習近平による「一国二制度」適用の発言以降は流動的になっており,さらなる注視が必要になっている。
著者
丹治 光浩 Mitsuhiro Tanji 花園大学社会福祉学部 THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.17, pp.1-11, 2009-03

スタートレックとは、22~24世紀の宇宙を舞台にした冒険物語である。その魅力は、最新の宇宙論を取り入れたリアルな未来世界の構築に止まらず、登場人物が織り成す人間関係や精神哲学にあることはいうまでもない。一般に芸術作品には作者の個人的な心理が反映されると同時に、さまざまな形で現実社会が反映されることが少なくない。たとえば、スタートレックにおいて人類が出会うさまざまな異星人は我々人間の一面をデフォルメして表現されたものであり、人類と異星人との間に生じるさまざまな誤解や葛藤は、そのまま現代社会における国家間の対立や人種問題の反映と考えることができる。本論では、臨床心理学的視点からTNG第9話を心の構造、TNG第79話を児童虐待、TNG第111話をPTSDとして解釈した。映画「GENERATION」は対象喪失と喪の作業として解釈し、平行宇宙はユング心理学における「影」として解釈した。そして、ボーグは無意識、ボーグドローンから人間世界への再適応は精神疾患の治療プロセスとして解釈した。Star Trek is a space adventure movie series set in the 22nd~24th century. Needless to say, the series highlights interesting aspects of interpersonal relationships and the philosophy of various space-traveling characters, in addition to constructing a realistic future world based on the latest cosmology. In general, the producer's mind and the social reality are reflected to a large extent in different art forms. For instance, in Star Trek, it is possible that various space aliens that humans encounter are expressions of different aspects of the human character. Moreover, different misunderstandings and conflicts between humans and aliens are reflections of the confrontations between nations and races in contemporary society. In this paper, the 9th episode of the series The Next Generation (TNG) is interpreted as the structure of the mind, the 79th episode is interpreted as child abuse, and the 111th episode is interpreted as PTSD. The movie "GENERATION" can be interpreted as object loss and mourning work. The parallel universe can be interpreted as "Shadow." And the borg society is interpreted as the unconscious, whereas the re-adjustment of a borg drone to the human world is interpreted as the process of treating mental illnesses.
著者
山田 奨治
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
no.19, pp.15-34, 1999-06

オイゲン・ヘリゲル著『弓と禅』は、日本文化論として広く読まれている。この論文では、ヘリゲルのテクストやその周辺資料を読み直し、再構成することによって、『弓と禅』の神話が創出されていった過程を整理した。はじめに弓術略史を示し、ヘリゲルが弓術を習った時点の弓術史上の位置づけを行った。ついでヘリゲルの師であった阿波研造の生涯を要約した。ヘリゲルが入門したのは、阿波が自身の神秘体験をもとに特異な思想を形成し始めた時期であった。阿波自身は禅の経験がなく、無条件に禅を肯定していたわけでもなかった。一方ヘリゲルは禅的なものを求めて来日し、禅の予備門として弓術を選んだ。続いて『弓と禅』の中で中心的かつ神秘的な二つのエピソードを選んで批判的検討を加えた。そこで明らかになったことは、阿波―ヘリゲル間の言語障壁の問題であった。『弓と禅』で語られている神秘的で難解なエピソードは、通訳が不在の時に起きているか、通訳の意図的な意訳を通してヘリゲルに理解されたものであったことが、通訳の証言などから裏付けられた。単なる偶然によって生じた事象や、通訳の過程で生じた意味のずれに、禅的なものを求めたいというヘリゲル個人の意志が働いたことにより、『弓と禅』の神話が生まれた。ヘリゲルとナチズムの関係、阿波―ヘリゲルの弓術思想が伝統的なものと錯覚されて、日本に逆輸入、伝播されていった過程を明らかにすることが今後の研究課題である。
著者
浅見 雅一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.219-261, 1990-07

論文一 はじめに二 教会史料を中心とした史料系統三 四川支配の経緯 (一) 四川侵攻と大西政権の成立 (二) 漢中後略の失敗 (三) 四川破壊 : いわゆる「屠蜀」について (四) 四川放棄から壊滅迄四 結び
著者
磯野 直秀
出版者
慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会
雑誌
慶應義塾大学日吉紀要 自然科学 (ISSN:09117237)
巻号頁・発行日
no.39, pp.53-79, 2006

光陰矢の如し―私が初めて磯採集に足を運んだのは大学に入学した1955年の初夏,半世紀も昔の話になる。それまで磯には縁の無かった私がそこで目にした生きものは,ほとんどが初顔だった―潮だまりには黒くて大きなアメフラシ,赤い花を咲かせているケヤリムシやウメボシイソギンチャク,岩陰から黒いトゲを覗かせているムラサキウニ,大きめの石の裏にはアオウミウシやクモヒトデ……。その世界の多彩な生きものたちの魅力に取りつかれて,たびたび葉山や三崎の磯を訪れるようになり,やがては無脊椎動物の発生学に進み,三崎臨海実験所で大学院時代を過ごすことにもなった。 磯採集でもっとも興味をもったものの一つは,さまざまな形態を示す棘皮動物だった。これはヒトデやウニの仲間で,基本的に5を単位とする放射相称の海産動物。これが本稿に登場する役者たちなので,馴染みの薄い方々のために,海浜でよく目にする種類をグループ別にざっと紹介しておく(図1参照)。(1)ヒトデ類:多くは☆型で,中央の「盤」(本体)のまわりに5本の「腕」が伸びている。マヒトデ(図1-(a))が典型的だが,筋目のある縁取りをもつモミジガイ,腕が8本あるヤツデヒトデ,糸巻に似たイトマキヒトデ((b))などもいる。なお,本報では「ヒトデ」を類名に用い,明治期文献のAsterias amurensis(旧称ヒトデ)は「マヒトデ」とした。(2)クモヒトデ類:ヒトデに似ているが,腕が細長く,盤と腕の区別が明確((c))。腕が枝分かれして複雑になっているテヅルモヅル類((d))も見られる。(3)ウニ類:よくイラストに描かれているように,半球状の殻からトゲが沢山出てイガグリのような形をしている普通のウニ((e))のほかに,一見ウニとは思えない姿をしたウニがある。以前は歪形類(不正形類)と呼ばれていたグループで,殻の上面に花形の模様(花紋)が見える。たとえば,円い皿型のカシパン類((f)),その一種で,下面に蓮の葉脈のような溝が見えるハスノハカシパン,5つの穴があるスカシカシパン((g))がある。ほかに,楕円型でやや厚みがあり,殻も頑丈なタコノマクラ((h)),卵形で殻の薄いブンブク類もいる。(4)ウミユリ類:花のような「冠」と,それを支える「茎」がある((i))ので,「ウミユリ」(海百合)の名がついた。これはみな深海性だが,浅い所にはウミシダ(海羊歯)類が生息する。ウミシダは「茎」が無く,盤のまわりにシダの葉に似た腕が10~数10本出ており,盤の下の巻枝で岩にしがみついている((j))。ウミユリもウミシダも,初めて見たら植物と思うに違いない姿である。(5)ナマコ類:サツマイモのような形((k))で,ウニやヒトデとはまったく異なるが,これも棘皮動物。食用にするので名が通っている。「このわた」は,その内臓の塩辛。 上記のウニの仲間に,タコノマクラ(蛸ノ枕,図1-(h))という種類を挙げた。変わった名称なので,何時ごろからそう呼ばれているのだろうと気になっていたが,誰に聞いても知らないし,書物を見てもわからない。仕方なく,そのままになっていた。 1980年代の初め,私は動物発生学から大転換して歴史の方面に道を変えたが,そのとき最初に取り組んだのは,三崎臨海実験所の歴史だった。この実験所は明治19年(1886)に創立されたアジア最初の常設臨海実験所で,日本の動物学発祥の地と言っても過言ではない。そこで,実験所設立後まもなく動物学会が発刊した『動物学雑誌』の報文や記事を調べはじめたのだが,妙なことに気がついた。 当時の『動物学雑誌』には三崎などでの海産動物採集報告が少なくないが,それに登場する「タコノマクラ」が現在のタコノマクラとは違う場合があるのだ。しかも,事は込み入っていて,ある報文ではウニの仲間のカシパン,別の報文ではヒトデ,さらに別の報文ではクモヒトデを指している。もちろん,現在のタコノマクラを指す場合もある。一体全体どうなっているのか,さっぱりわからないままに数年が過ぎた。 そのうち江戸時代に足を踏み込んで,いろいろな資料を調べ始め,そのなかで「タコノマクラ」の名称に再会することになった。そして,「タコノマクラ」の名の混乱は江戸時代にさかのぼることが明らかになってきたので,棘皮動物―当時は「介類」や「魚類」に含められていたが―の記事に出会うたびにメモを取っておいた。 最近そのメモを見直してみると,信頼できる江戸時代資料が40件ほどあり,それに含まれる棘皮動物の記載例は数百に達する。そこで,それをまとめておこうと考えて筆を取ったのが本報である。稿末の表に示した事例は,図あるいは注記の記載内容から現在のどの類に当たるかが判明する場合に限った。また,ナマコは古くから「コ」「ナマコ」と呼ばれ,それ以外の名称はあまり無かったので,本稿には入れなかった。 以下の部分では,この稿末の表に基いてヒトデやカシパンなどが江戸時代に何と呼ばれていたかをまず検討し,最後に「タコノマクラ」の呼称の変遷を考察する。文中の「資料」は,番号にMがつくか,とくに明治期資料と断らない限り,すべて江戸時代資料である。資料名に付した( )中の番号は稿末表の資料番号,西暦年は同表に示した刊年・成立年。 なお,生物名の語源解釈はコジツケになりがちなので,私は原則的に触れないのを基本方針としているが,本稿ではその方針を棚上げして語源に踏み込むことにしたい。それによって,江戸時代の人々の命名の由来がわかるし,また命名の巧みさを感じ取ってほしいと思うからである。
著者
松本 敏治 菊地 一文
出版者
植草学園大学
雑誌
植草学園大学研究紀要 (ISSN:18835988)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.5-15, 2019

<p> 松本・崎原・菊地・佐藤(2014)は,「自閉症は方言を話さない」とする印象が全国で普遍的であることを報告している。しかしながら,共通語を使用してきたASD が学齢期あるいは青年期において方言を使用するようになる事例が存在するとの報告が教員・保護者からあった。該当する5 事例について,方言使用開始時期および対人的認知スキルに関する55 項目についての質問紙を実施した。方言使用開始時期は,7 歳,9 歳,16 歳,16 歳,18 歳で事例によって差がみられた。獲得されているとされた対人的認知スキルのうち,方言使用開始前後の時期に獲得されたとする項目数の割合は,26%〜97%であった。また,それ以前に獲得されていた項目数と方言使用開始時期に獲得された項目数の割合を領域別で求めたところ,意図理解および会話の領域での伸びが顕著であった。これらの結果にもとづいて,ASD の方言使用と対人認知の関連について議論した。</p>
著者
梅谷 健彦
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.23-27, 1994-12

著者は低価格(1本当り約200円)で入手しやすい試薬を用いたカラーリバーサルフィルムの自家現像処理法を考案し,比較的良好な結果を得ているので紹介する。フィルムの現像処理は28℃の温度下で以下の手順で行う。1.第1現像液(フェニドン0.6g,ハイドロキノン8g,無水亜硫酸ナトリウム40g,炭酸ナトリウム1水塩46.8g,臭化カリウム2g,チオシアン酸ナトリウム2g,O.2%硝酸6ニトロベンズイミダゾール水溶液15mlを蒸留水に溶解して1000mlにした液), 13分。2. 流水で水洗5分。3.反転露光。4. 発色現像液(燐酸3ナトリウム12水塩40g,水酸化ナトリウム1Og,ベンジールアルコール5ml,硫酸エチレンジアミン6g,シトラジン酸2g,硫酸ジエチルパラフェニレンジアミン4gを蒸留水に溶解して1000mlにした液),15分5.流水で水洗,5分。6. 清浄液(メタ重亜硫酸カリウム20gを蒸留水に溶解して1000mlにした液),5分。7.流水で水洗,5分。8. 漂白液(フェリシアン化カリウム80g,臭化カリウム2g,燐酸2ナトリウム12水塩25.3g,炭酸ナトリウム1水塩4gを蒸留水に溶解して1000mlにした液),8分。9.流水で水洗,5分。10. 定着液(ハイポ160g,メタ重亜硫酸カリウム10g,燐酸1ナトリウム2水塩11.6gを蒸留水に溶解して1000mlにした液),6分。11.流水で水洗8分。12. 安定液(ホルマリン6ml, ドライウェルなどの湿潤剤1Omlを蒸溜水に加えて1000mlにした液),1分。
著者
依光 朋子 山﨑 裕司 萩野 智美 酒井 寿美 平賀 康嗣 稲田 勤 川上 佳久 西野 愛
出版者
高知リハビリテーション学院
雑誌
高知リハビリテーション学院紀要 (ISSN:13455648)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.23-25, 2012

図書館利用者数,貸出冊数を増加させる目的でポイントカードを導入し,その効果について検討した. 対象は平成22年度本学院在学生520名,平成23年度本学院在学生523名である. 平成23年10月から,図書館利用者にポイントカードを配布した.ポイントは,図書の貸出機会,返却機会,国家試験問題への挑戦について2ポイント,文献相互貸借申込について6ポイントが付与された.合計10ポイントで,借用可能な図書数を1冊増加,あるいは漫画本3冊の貸出という特典を準備した.さらに30ポイントで,漫画本10冊の貸出という特典を付与した.平成23年10月から平成24年2月までの期間における来館者数,貸出図書冊数を平成22年度の同時期と比較した. 平成22年度と23年度を比較すると,11月13.1%,12月11.4%,1月11.8%,2月39.5%の有意な増加を認めた.しかし,貸出冊数には,有意な変化を認めなかった. ポイントカードの導入は,利用者数を増加させるうえで有効に機能したものと考えられた.