著者
黒田 由衣 Yui Kuroda
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.138, pp.143-163, 2021-09-30

本研究の目的は,日本的自己観から要介護高齢者の主体性を把握することにより,入所施設の入居者における主体性発揮への支援についての示唆を得ることである。社会福祉分野における主体性は,他者に依存することなく,個人の意思や選択に基づいた判断や決定,行動等,個のありようが重視されていた。一方,日本的自己観に基づいて主体性を把握した場合,日本人の主体性は,他者との関係や,周囲の状況により導かれるものであった。ゆえに,他者からの支援に頼らなければ生活することが困難な入所施設の要介護高齢者の主体性発揮への支援においては,その生活の場における他者との関係や周囲の状況を視野に入れた支援が重要であることが示唆された。論文(Article)
著者
山田 伸一
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

今年度は主に、『日本外交文書』や外務省外交史料館所蔵史料など外交関係史料の調査と、北海道立文書館所蔵の開拓使文書・佐藤正克日記(北海道立図書館所蔵)や阿部正己文庫(鶴岡市立図書館所蔵)中の松本十郎関係文書の分析を進めた。既往の研究の成果を基本的には再確認し事実関係をより詳細に把握できた諸点以外に、今回特に確認できたのは次の点である。なお、樺太アイヌの石狩地方移住後の状況については分析が十分に進んでおらず、今後に課題を残している。1)1875年の樺太千島交換条約の交渉過程においては、先住民族の帰属をめぐる問題は無視されていたに等しく、条約締結後の東京での日露間の交渉で、先住民族にのみ国籍と居住地の合致を義務づけることを再確認したものである。2)樺太アイヌの対雁への移住は、アイヌ自身の意向や開拓使札幌本庁の意見を押し切って開拓長官黒田清隆が断行したものである。3)移住に際して開拓使は、樺太で漁業経営を請け負っていた商人とアイヌとの間の慣習や人間関係を利用しつつ、アイヌと商人との関係の断絶・官への直接の依存を図っていった。4)北海道へ移住させられたアイヌの樺太への帰還は、1905年の日露講和条約以前から活発だったが、郷土で生計を立てようにも日本国籍を持つ故に漁業経営から制度的に排除される点で不利な立場に置かれる一方、北海道へ移住しなかったアイヌは比較的有利な立場にあった。南樺太が日本領になるとその立場が逆転する。1875年の条約締結時に同民族内に生じさせられた分断は、日本領時代は日本岡籍の有無の差として存在し、長く影響を与えた。
著者
サイエンスポータル編集部
出版者
Japan Science and Technology Agency
雑誌
サイエンスウィンドウ (ISSN:18817807)
巻号頁・発行日
vol.16, no.E14, pp.202216E14, 2023-03-31 (Released:2023-03-07)

Science Window is a magazine that introduces science and technology. Both adults and children can enjoy it. Let's think about the relationship between science and technology and society to realize a better future. ―SDGs Special Issue 2022: The Age of Diversity― A Driving Force to Accelerate Innovation - Interview with Yoko Nameki The 'Daredemo Piano (The Auto-Accompanied Piano),' Born from the Wish of a High School Student - Interview with Oko Arai Unearthing the Latent Abilities of People with Disabilities COLUMN: Improving Society Through Gender Equality - Interview with Narie Sasaki COLUMN: The Challenge to Remove Fuel Debris - Interview with Misaki Iwabuchi Positive Childbirth Boosted by Appropriate Information Sharing An Underwater Drone Developed by a Pair Who Studied Worldwide Constructing a Story and Sharing It with Many People - Interview with Shun Kawakubo Making More Use of Rainwater in Daily Life COLUMN: Exciting Futures on the World Stage - Interview with the Recipients of the Maria Sklodowska Curie Award for Young Women in Research 'STI for SDGs' Award 2022 Awarded Initiatives
著者
玉木,雅子
出版者
日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, 2003-01-15

タマネギを充分に褐変するまでいためたときの性状の変化を調べた。(1)タマネギを長時間炒めると水分の蒸発とともに,色,味,香りが変化した。できあがり量が40%から20%へと減少する過程で色調が急激に変化し,刺激臭も消失,甘く香ばしい香りへと変化した。炒めることにより甘味だけでなく酸味や苦味も生じた。(2)タマネギの色が褐色に変化するまで炒めると,グルコース,フルクトースおよび遊離糖総量が減少した。(3)炒め時間の異なるタマネギからスープを調整すると,材料となる炒めタマネギとは味や香りの感じ方が異なり,フレーバーの優れるスープを調整するためには炒めたタマネギよりも長時間の炒め操作が必要であった。(4)炒めタマネギやオニオンスープの糖含有量と,官能評価による甘味の強さとは対応しなかった。
著者
尾澤 重知 森 裕生 江木 啓訓
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, no.Suppl., pp.41-44, 2012-12-20 (Released:2016-08-09)
参考文献数
8
被引用文献数
1

Wikipediaは誰もが編集に参加できる世界最大の百科事典である.本研究では,大学教育の授業実践において,日本語版Wikipediaの編集を目指す活動を取り入れた授業をデザインした.授業ではWikipediaの編集方針でもある「中立的」「検証可能」な項目の検討を含め,研究活動で必要なスキルの育成を目指した.量的・質的分析の結果,学生の約半数が実際にWikipediaに投稿したこと,文献による根拠づけなど研究活動でも必要なスキルの習得につながったこと,投稿にあたって授業内BBSでのメンターや教員からのコメントや,学生間のやりとりが有用だったことなどを示した.一方,既存記事の削除を伴う編集の少なさなど課題も明らかになった.
著者
角田 裕之 長塚 隆 原田 智子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.8, pp.410-415, 2017-08-01 (Released:2017-08-01)

鶴見大学が2015年9月より開講している履修証明プログラム図書館員リカレント教育コースは,司書資格を有する現職の図書館員のために最新の知識や技術を学習するプログラムである。図書館員に対する研修は,国立国会図書館や日本図書館協会における研修があり,一部の大学でもリカレント教育が実施されているが十分とはいえない。本学では春季(4月~7月)と秋季(9月~2月)に各6科目ないし7科目を履修できるように開講している。6科目の単位取得が認められると計120時間になり,文部科学省が推奨する履修証明制度の条件を満たし,本学学長名の履修証明書(専門司書)を取得できる。授業は火・木曜日の夜間と土曜日の午後に行い,4名の教員が担当している。開講して2年が経過するが,現職の図書館員への教育プログラムをさらに浸透させてゆくためにはその内容をさらに見直し拡充することが必要と思われる。
著者
武部 健一
出版者
成城大学
雑誌
成城国文学 (ISSN:09110941)
巻号頁・発行日
no.23, pp.73-97, 2007-03
著者
有元 伸子
出版者
広島大学国語国文学会
雑誌
国文学攷 (ISSN:02873362)
巻号頁・発行日
no.228, pp.13-26, 2016-03

本研究はJSPS科研費 (26370238) 助成による成果の一部である。
著者
Toshiki Yagi Akiyuki Toda Muneyoshi Ichikawa Genji Kurisu
出版者
The Biophysical Society of Japan
雑誌
Biophysics and Physicobiology (ISSN:21894779)
巻号頁・発行日
pp.e200008, (Released:2023-02-08)

Ciliary bending movements are powered by motor protein axonemal dyneins. They are largely classified into two groups, inner-arm dynein and outer-arm dynein. Outer-arm dynein, which is important for the elevation of ciliary beat frequency, has three heavy chains (α, β, and γ), two intermediate chains, and more than 10 light chains in green algae, Chlamydomonas. Most of intermediate chains and light chains bind to the tail regions of heavy chains. In contrast, the light chain LC1 was found to bind to the ATP-dependent microtubule-binding domain of outer-arm dynein γ-heavy chain. Interestingly, LC1 was also found to interact with microtubules directly, but it reduces the affinity of the microtubule-binding domain of γ-heavy chain for microtubules, suggesting the possibility that LC1 may control ciliary movement by regulating the affinity of outer-arm dyneins for microtubules. This hypothesis is supported by the LC1 mutant studies in Chlamydomonas and Planaria showing that ciliary movements in LC1 mutants were disordered with low coordination of beating and low beat frequency. To understand the molecular mechanism of the regulation of outer-arm dynein motor activity by LC1, X-ray crystallography and cryo-electron microscopy have been used to determine the structure of the light chain bound to the microtubule-binding domain of γ-heavy chain. In this review article, we show the recent progress of structural studies of LC1, and suggest the regulatory role of LC1 in the motor activity of outer-arm dyneins. This review article is an extended version of the Japanese article, The Complex of Outer-arm Dynein Light Chain-1 and the Microtubule-binding Domain of the Heavy Chain Shows How Axonemal Dynein Tunes Ciliary Beating, published in SEIBUTSU BUTSURI Vol. 61, p.20-22 (2021).
著者
河田 光博 山田 俊児 谷田 任司 時田 美和子 坂本 浩隆 松田 賢一 高浪 景子 大矢 未来 李 美花
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

神経系の発達臨界期における性差形成のメカニズムと、性分化が進んだ成熟期における行動の性差を生み出す回路、および行動入力の形態科学、ならびに性ホルモン受容体の分子イメージングを行った。行動の性差には臨界期におけるヒストンアセチル化などのエピジェネティックス機構間に階層性が存在し、また性ホルモン受容体の機能活性は臨界期ステージによって神経系の構造形成と行動相関を必ずしも一致させないことをはじめ、性行動の出力相の神経回路や性ホルモン依存的感覚(痒覚)のシナプス様相の解明、性ホルモン受容体の分子相関などを明らかにした。これらから、特定の分子を基盤に性差をもたらす行動神経内分泌機構の解明がなされた。
著者
森 慶子
出版者
日本読書学会
雑誌
読書科学 (ISSN:0387284X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.89-100, 2015-01-31 (Released:2017-02-08)
参考文献数
51
被引用文献数
2

The purpose of this paper is to analyze the effects of picture-book storytelling in terms of brain science. The adopted method is to measure the brain activities associated with reading picture books silently, reading them aloud, and listening to them read by others, by means of near-infrared spectroscopy (NIRS), and compare and analyze them with reference to previous studies. The measured point is the bilateral prefrontal cortex. The prefrontal cortex has the management function of doing things rationally. The task of reading a picture book aloud increased blood flow, while the task of listening to reading of a picture book decreased it. From the results and independent reports that listening to a picture book reading has a relaxing effect, and looking at pleasant pictures reduces blood flow, it is considered that while passively listening to a picture book reading, one feels “comfort”. That is, brain-scientifically, picture-book storytelling has been found to have the potential for “healing”.
著者
竹内 麻貴
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.93-107, 2018 (Released:2019-05-11)
参考文献数
26
被引用文献数
1

労働力不足の解消・出生力の回復・低成長時代での家族形成という超高齢社会の日本が抱える政策的課題へ対応するには、男性稼ぎ手モデルから脱却することが必要とされている。本稿ではそれを阻む要因として考えられる、母親であることが低賃金に結びつくMotherhood Penalty(以下、MP)について検証した。男女の賃金格差の要因としてMPを盛んに研究してきた欧米に比べ、日本での蓄積はまだ浅い。そこで本稿では、最新の大規模パネル調査を用い、現代日本におけるMPの計量的検証を行った。被説明変数を時間あたり賃金、主な説明変数を子ども変数とした固定効果推定の結果、子ども1人につき約4%のMPが確認された。また、子どもが2人いると約12%、就学前の子ども1人につき約4~6%、子どもがいない女性よりも賃金が低いことが明らかになった。とくにMPの検出において、労働環境の質的特性が重要であることが示唆された。ただし、MPに関連する要因を統制することでMPを検出することはできたが、MPのメカニズムはそれらの要因によって説明されなかった。この結果には出産・育児離職によるセレクションが日本で大きいことが背景にあると考えられる。本稿で確認されたMPを予期し出産をしない女性や出産前に離職する女性が存在している可能性も鑑みれば、単に女性の労働参加を促すだけでなくMPを小さくすることが政策的に重要である。
著者
秋友 達哉 光畑 智恵子 太刀掛 銘子 新里 法子 岩本 優子 達川 伸行 櫻井 薫 香西 克之
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.374-381, 2019-06-25 (Released:2020-01-31)
参考文献数
9

広島大学病院は2013年9月に医科歯科それぞれの外来を統合し,より緊密な医科歯科連携が可能となった。この度,外来診療棟移転後である2015年度に当院小児歯科を受診した知的障害児(者)を対象に,歯科治療の実態調査を行い,移転前である2004年度および2009年度における当科の実態と比較し,以下の結果を得た。1.2015年度に来院した知的障害児(者)は312名(男児214名,女児98名),延べ1,538名であった。そのうち147名については,2009年度より当科を継続的に受診していた。2.年齢分布は7歳~12歳が35.5%と最も多く,次いで13歳~18歳が33.6%であり,2004年度および2009年度と著変なかった。3.患児(者)の障害の種類は,自閉症が41.9%と最も多く,次いで知的障害のみが34.6%,Down症10.8%,脳性麻痺10.2%であった。2009年度と比較し知的障害のみの占める割合が増加した。4.診療内容は歯科衛生実地指導が34.8%,歯石除去が24.3%,形成充填が14.8%であった。過去の調査と比較し,歯科衛生実地指導が顕著に増加した一方,形成充填・既製冠修復は減少していた。5.対象者の58.1%に対し,体動コントロールを行っていた。行動変容法においては,視覚支援の使用が経年的に増加していた。
著者
下村 理雄 磯野 正太郎 船瀬 新王 内匠 逸
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.Annual60, no.Abstract, pp.147_2, 2022 (Released:2022-12-01)

集中力の向上を目的として,ハチマキを頭部に装着することがある.しかし,ハチマキによる集中力への影響は未だ解明されていない.そこで我々はハチマキが集中力へどのような影響を与えるのかについて研究を行ってきている.本研究においては,集中力は課題への作業効率と正確性に反映されると仮定する.本稿は連続加算課題を行った際のハチマキが作業効率及び正確性に影響を与えるか明らかにする.連続加算課題とは,2つの数字を画面に表示し,それらの和の一の位を連続して解答するものである.本課題では作業効率は課題の解答数及び正答数,正確性は課題の誤答率と定義する.本実験では被験者8名に対し,連続加算課題を6回行う.作業効率について,ハチマキの有無を分類し全被験者の全6回の課題中の解答数と正答数の平均に対してt検定を行った結果,ハチマキ有の方が有意に高いことを確認した.また,各被験者の全6回の課題の結果より,ハチマキに対して好影響または悪影響を受ける群に分類した.ハチマキに対して好影響を受ける群は,課題の序盤においてハチマキの影響を受けるが,終盤においてはハチマキの影響を受けないことを確認した.正確性について,ハチマキの有無を分類し,全被験者の全6回の課題中の誤答率に対してt検定を行った結果,ハチマキ有の方が有意に低いことを確認した.本結果はハチマキの装着により作業効率と正確性が向上することを示唆している.
著者
山崎 晋
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.169-175, 1992-08-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
20

アオオサムシ(Carabus insulicola insulicola)を卵期から3齢脱皮まで,T28, T24, T21, LLの4種の光周条件下でそれぞれ飼育し,続く3齢幼虫期の活動リズムを記録・解析した。T24とT21にはすべての個体が同調したが,T28にはすべての個体が同調できなかった。同調様式は,夜行性と昼行性の中間的な特異的活動パターンを示した。T24区では,暗期開始2.6時間から活動を開始し,その活動が明期開始後4.5時間まで続いた。T21区では同様に消灯後4.0時間から点灯後7.0時間まで活動がみられた。両光周条件下において活動時間(α)の暗期中の活動量は低く,間欠的であるのに対し,明期中の活動量は高く,連続的であった。明暗サイクルと活動位相との位相角関係は,環境周期(T)に依存した一定の関係を示し,Tが長くなると前進した。同調しなかったT28区では,半数の個体が26.6h(平均)の周期を示した。この場合,αと明期が一致している間は活動量は増加した。残りの半数では,リズムは不明瞭であった。T21で飼育した3齢幼虫の自由継続周期(τ)は,T24で飼育した幼虫に比べ約1時間短くなった。しかしT28で飼育した幼虫は,T24と有意な差がなかった。