著者
早矢仕 有子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2036, (Released:2022-04-15)
参考文献数
31

絶滅危惧種シマフクロウ Ketupa blakistoniに対する国の保護増殖事業は、 1984年の事業開始時から一貫して生息地を非公開とすることで、バードウォッチャーや写真撮影者の接近がシマフクロウの採餌や繁殖に悪影響を及ぼす危険性を回避しようとしてきた。しかし、接近が容易な一部の生息地では次第に人の入り込みが増加し、とくに 2010年代に急増した。シマフクロウを餌付けして観察や撮影の場を提供している宿泊施設も複数存在し、生息情報が拡散し続けている。インターネット上に公開されているシマフクロウの写真を掲載した個人のブログを検索すると、 47.4%に撮影地が明記されており、シマフクロウが見られることを宣伝材料にしている宿泊施設で撮影されていた。これら 4軒の宿泊施設のうち 3軒はシマフクロウを餌付けしており、残りの 1軒は、宿を取り囲む国有林で採餌や繁殖している個体を見せていた。インスタグラムでは 55.1%の投稿で撮影地が記載されており、そのすべてがシマフクロウを餌付けしている宿であった。ブログに掲載されている写真の 87.3%は夜間に撮影されており、光源にはストロボあるいは宿泊施設が撮影や観察のために設置した照明を使用していた。昼間に自然光の下で撮影された写真は全体の 12.7%で、そのうち 32.9%は飛翔能力の未熟な巣立雛とそれを守る親鳥に接近して撮影していた。野生個体の生息地訪問者は、動物園でシマフクロウを見るガイドツアーに参加していた来園者と比較すると北海道外に居住する年長の男性が多かった。国の保護増殖事業内容についての認知度を比較すると、野生個体生息地の訪問者は、生息地で実施されている保護施策への知識があり、逆に動物園来園者は、飼育下で実施されている保護施策をより知っていた。さらに、野生個体生息地訪問者は、動物園訪問者よりも撮影や観察にまつわる行為がシマフクロウに及ぼす影響を小さいと考える傾向があり、とくに餌付けを問題視しない者が多数を占めた。本研究結果より、現状のシマフクロウ野生個体の観光利用については以下の問題点が導き出された。すなわち、 1)生息地情報の拡散、 2)餌付け、 3)人工照明の使用、 4)人工的環境への馴化、 5)保護増殖事業との軋轢、である。

689 0 0 0 OA 顔ニューロン

著者
山根 茂
出版者
日本医用画像工学会
雑誌
Medical Imaging Technology (ISSN:0288450X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.6, pp.694, 1994 (Released:2016-03-19)
著者
伊藤 謙一 川嶋 和晴 大庭 芳和 播谷 亮 木村 享史 板倉 智敏
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.523-526, 1997-09-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

岡県の一観光牧場で, 9日間に成兎60羽中53羽 (88.3%) が沈うつ症状を示して発症後数時間で死亡し, 死亡3例について病理学的に検索したところ, 兎出血病 (Rabbit hemorrhagic disease: RHD) に特微的な病変が認められた. すなわち, 組織学的に壊死性肝炎, 肺・腎臓における播種性血管内凝固が認められ, 抗RHDウィルスIgGによる免疫染色で肝細胞に陽性反応が認められた. また, 電子顕微鏡学的には, 壊死肝細胞細胞質にカリシウイルス様粒子が観察された. 死亡例の肝臓乳剤を接種された2羽の兎で本病の再現がなされ, 肝臓からカリシウイルス粒子が精製された. 今回の例は1994年 (北海道) に続いてわが国における第2件目であった.
著者
加藤 将 種市 幸二 松林 圭二
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.688-688, 2004-12-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
4
被引用文献数
12 18

A patient died of fulminant hepatitis E in our hospital. To our surprise, a son of the patient was also infected with HEV. By executing a family study, it was revealed that 7 out of 13 relatives of the patient, all of whom had participated in a Yakiniku party, had infection markers for HEV. Our results corroborate previous report suggesting pig liver to be an important infection source in Hokkaido, Japan.
著者
市川 寛也
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.73-80, 2016 (Released:2017-03-31)
参考文献数
52

本研究は,1950年代から60年代にかけての野外彫刻の場として公園が果たしてきた役割を考察することを目的とするものである。この時期の両者の関係に着目すると,①公園を背景として彫刻を設置する事例と,②公園の構成要素として彫刻を取り込んでいる事例とに大別できる。前者は,戦後の街頭美化運動と結びつきながら,企業による社会貢献事業として推進されてきた側面が大きく,個人の作品が鑑賞されることに重きが置かれる。一方で,後者は特定の機能を持った構造物として設置されるため,使用されることに本質がある。その中でも,本稿ではプレイ・スカルプチャーの受容に焦点を当てた。北欧から世界に広がっていったこの遊具は,抽象彫刻の造形性を取り入れながら,児童が遊び方を創造することが重視される。結果的にこれらは遊具としての機能に特化されていったのだが,ここにはもうひとつの野外彫刻のあり方を見出すことができる。
著者
Yutaka Tahara Katsuya Obara
出版者
Japan Poultry Science Association
雑誌
The Journal of Poultry Science (ISSN:13467395)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.307-312, 2014-07-25 (Released:2014-07-25)
参考文献数
14
被引用文献数
26 33

The development of shell-less culture methods for bird embryos with high hatchability would be useful for the efficient generation of transgenic chickens, embryo manipulations, tissue engineering, and basic studies in regenerative medicine. To date, studies of culture methods for bird embryos include the whole embryo culture using narrow windowed eggshells, surrogate eggshells, and an artificial vessel using a gas-permeable membrane. However, there are no reports achieving high hatchability of >50% using completely artificial vessels. To establish a simple method for culturing chick embryos with high hatchability, we examined various culture conditions, including methods for calcium supplementation and oxygen aeration. In the embryo cultures where the embryos were transferred to the culture vessel after 55-56 h incubation, more than 90% of embryos survived until day 17 when a polymethylpentene film was used as a culture vessel with calcium lactate and distilled water supplementations. The aeration of pure oxygen to the surviving embryos from day 17 yielded a hatchability of 57.1% (8 out of 14). Thus, we successfully achieved a high hatchability with this method in chicken embryo culture using an artificial vessel.
著者
岸本 真治 立石 順久 奥 怜子 橋口 直貴 中西 加寿也
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.207-211, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
10

心筋炎など呼吸不全以外のCOVID-19に伴う病態についてはいまだ不明な点が多い。今回, 呼吸不全を伴わない重症心筋炎症例を経験したので報告する。症例は新型コロナウイルスワクチン未接種の47歳, 女性。倦怠感を主訴に来院した。SARS-CoV-2関連検査が陽性で, 血液検査や心臓超音波, 心電図, 冠動脈造影検査の結果からCOVID-19関連心筋炎と臨床的に診断した。来院時ショック状態でVA-ECMOでの補助を要したが, 次第に心機能は回復し離脱できた。なお経過中, 呼吸状態は安定していた。COVID-19には呼吸不全を伴わない心筋炎のみの症例も存在することに留意し, ショックを呈する症例では, 心筋障害を評価する目的で心筋トロポニンを測定することがCOVID-19早期発見のために有用と考えられる。またCOVID-19関連心筋炎は急速に劇症化し得ることから, 早い段階から集学的治療が可能な医療機関での治療が望ましい。
著者
渡辺 勝子 鴻巣 章二
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.96-103, 1989-02-25 (Released:2009-05-25)
参考文献数
11
被引用文献数
4 3
著者
高橋 砂織
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.9, pp.636-648, 2015 (Released:2018-05-18)
参考文献数
24

味噌の効能に関する研究は多く,抗酸化性や抗腫瘍性など多くの論文が報告されている。著者らは,ここ10年ほど味噌中の血圧調節作用物質に注目し,レニン,キマーゼ,アンギオテンシン変換酵素やアンギオテンシン変換酵素2阻害物質の探索を行った。その結果,味噌には複数の血圧関連酵素阻害物質が存在することを見出された。味噌の効能に新たな可能性が期待されている。
著者
中野 佑一
出版者
Japan Association for Urban Sociology
雑誌
日本都市社会学会年報 (ISSN:13414585)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.33, pp.39-54, 2015-09-05 (Released:2016-10-09)
参考文献数
26

The purpose of this paper is to clarify the safety consciousness of Security Town residents in what is called a “Japanese gated community”. Gated communities, residential areas that limit the entrance to the inside by enclosing the area with fencing, using security guards and installing CCTVs, are widespread throughout the world. Recently, Security Towns are increasing in Japan, highlighting growing security needs. We investigated the consciousness of security of Security Town residents in survey and through interviews, and analyzed the data. This paper highlights the three findings. First, 76% of Security Town residents emphasize crime prevention in choosing their residence. However, residential motivations are different, and security is not considered the top motive. Second, Security Town residents have not eliminated their fear of crime, especially compared to national data. However more than eliminating their fear of crime, living in such an area serves as a warning to suspicious persons or strangers. Finally, Security Town residents put a certain confidence in the security, which is maintained by regional council.
著者
原中 喜源
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.68-78, 2010-02-15 (Released:2011-02-14)
参考文献数
12

大きな横加速度で旋回中の車両に緩制動を加えると,オーバーステア方向のヨーレート変化量が大きくなりスピンを生じやすく緊急事態に至る危険がある.この高横加速度旋回中の緩制動はスピンの危険がある反面,サーキットのコーナー進入で車両の重心まわりの回転運動を誘発し,旋回運動をよりすみやかに発生させるには有利な可能性もある.本実験ではサーキットのコーナー進入で旋回制動中のプロドライバと一般ドライバの緩制動に関する運転挙動を中心に調べた.その結果,プロドライバは一般ドライバにくらべ,旋回制動中に緩制動を多用し必要に応じてスピンを調節しながら,より小さな速度変化量で,より大きな横加速度を車両に与え,車両の方向をよりコーナーの内側へ向ける傾向を示した.一方,一般ドライバは緩制動よりも強制動を用い,車両にプロドライバほどの大きな横加速度を与えないなどの傾向を示した.
著者
井上 美穂
出版者
Primate Society of Japan
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.103-111, 1987 (Released:2009-09-07)
参考文献数
13
被引用文献数
16 14

Soil-eating (geophagy) behaviors of Japanese macaques were observed at Arashiyama Monkey Park, Kyoto. They eat soils about once a day or so and seem to prefer rather young soils to mature or senile soils. The soil samples for chemical analysis were collected from Arashiyama, as well as from Takasakiyama and Kohshima monkey parks. Their pH, electrical conductivity, cation exchange capacity, organic matter, inorganic phosphorus and extractable minerals, i. e. calcium, magnesium, sodium, potassium and iron contents were measured. Mineral contents of the soil samples are low and the differences in their values among samples at eating spots and those at non-eating spots in the same monkey park are not detected. Moreover, the differences among monkey parks exceed those between eating and non-eating soil samples.Japanese macaques often eat soils together with another individuals. In such co-eating episodes, intimate individuals, such as a mother and her infant, or two or more juveniles of the same age often form co-eating party. It is expected that Japanese macaques eat soils at the selected spots because of their co-feeding custom and that the supply of minerals such as calcium, magnesium and sodium is not so seriously important, although the possibility of intake of essential rare minerals is not ruled out.
著者
相沢 秀俊
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.240-244, 1969 (Released:2009-11-16)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

トリフェニールメタン系食用色素5種とウシ血漿アルブミンの結合を, 最大結合数および結合のΔFの点で調べ, その化学構造との関係を求めた。最大結合数はpHの上昇によって減少するものと, pHの変動と増減が一定の方向を示さないものに分かれた。前者に属するものにO-位にスルホン基を有するブリリアントブルーとファーストグリーンがある。後者にはギネアグリーン, ライトグリーン, アシドバイオレットが入る。また, 中心炭素のフェニール基に置換墓のないギネアグリーンに対し, P-位にスルホン基をもつライトグリーンは結合のΔFが減少する。これはスルホン基の結合力に対するマイナス効果で, 他の系統の色素の結果とも一致する。しかしO-位にスルホン基をもつブリリアントブルーでは結合力に余り差がない。この点スルホン基の位置も関係することが判る。またこの色素の場合, 結合力に差がなくともO-位のスルホン基のため最大結合数の減少することもある。さらにブリリアントブルーのP-位に水酸基を入れるとファーストグリーンになるが, 水酸基の導入によって結合数は増すが結合のΔFが減少した。アシドバイオレットは実験条件で陽荷電しているためか, 結合数は少なかった。一般的にはこれらの色素は結合数が少ない。特に低い濃度条件の結果は少なかったが, 結合の少ない場合は結合のΔFは大きくなる。これは色素のタンパク質に対する付き方および染着色素間の相互作用によると考えられる。また結合のΔFは-6, 300~-7, 500 cal/mole程度で, 実験条件でかなり差異があった。
著者
鈴木 眞一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.70-76, 2018 (Released:2018-08-24)
参考文献数
17
被引用文献数
1

東日本大震災後の原発事故による放射線の健康影響を見るために,福島県では大規模な超音波検診が開始された。甲状腺検診を実施するとスクリーニング効果から一度に多くの症例が発見されるが,過剰診断にならないように,検診の基準を設定した。5mm以下の結節は二次検査にならず,二次検査後の精査基準も10ミリ以下の小さいものにはより厳格な基準を設けて,過剰診断を防ぐことを準備した上で検診を行った。その結果発見治療された甲状腺癌は,スクリーニング効果からハイリスクは少なく,かつ非手術的経過観察の対象となる様な被胞型乳頭がんは認められず,微小癌症例でも全例浸潤型でリンパ節転移や甲状腺被膜外浸潤を伴っていた。したがって,一次検査の判定基準,二次検査での精査基準さらに手術適応に関する基準などから,超音波検診による不利益は極めて少ないものと思われた。一方で発見甲状腺癌は過剰診断ではないのであれば,放射線の影響による甲状腺癌の増加ではと危惧されるが,現時点ではその影響を示唆する様な事象は得られていない。以上より,放射線被曝という特殊状況下で検診を余儀なくされたにも関わらず,厳格な基準を設定しこれを遵守しながら実施することによって,過剰診断という不利益を極力回避できていることがわかった。
著者
Satsuki Aochi Masaaki Uehara Motohisa Yamamoto
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
pp.1125-22, (Released:2023-03-08)
参考文献数
22
被引用文献数
1 9

A 78-year-old Japanese woman with no history of rheumatic disease received 2 doses of the BNT162b2 COVID-19 mRNA vaccine. Two weeks later, she noticed bilateral swelling in the submandibular region. Blood tests showed hyper-immunoglobulin (Ig)G4emia, and 18F-fluorodeoxyglucose (FDG)-positron emission tomography (PET) revealed the strong accumulation of FDG in the enlarged pancreas. She was diagnosed with IgG4-related disease (IgG4-RD) according to the American College of Rheumatology (ACR)/the European League Against Rheumatism (EULAR) classification criteria. Treatment was started with prednisolone at 30 mg/day, and the organ enlargement improved. We herein report a case of IgG4-RD that may have been associated with an mRNA vaccine.
著者
榛沢 理 藤江 俊秀 高野 聡子 稲瀬 直彦
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.405-409, 2016-09-25 (Released:2016-10-08)
参考文献数
7

背景.慢性活動性EBウイルス感染症(chronic active Epstein-Barr virus infection;CAEBV)と,それに伴うEBウイルス関連NK/T細胞リンパ増殖症は稀な疾患であり,肺病変に関する報告は少数のみである.症例.37歳女性.発熱,頸部リンパ節腫大および肝逸脱酵素上昇に対して精査され,末梢血中のEBウイルスDNAの増加からCAEBVと診断された.約1か月後,咳嗽と呼吸困難を自覚し,急性呼吸不全を認め入院した.胸部CTでびまん性すりガラス影があり,BAL液のCD4陽性細胞の増多とEBウイルスDNA増加を認めた.末梢血中にEBウイルス感染T細胞の腫瘍性増殖があり,EBウイルス関連T細胞リンパ増殖症(EBV+T LPD)およびその肺病変と診断した.結論.気管支鏡検査がEBV+T LPDの肺病変の診断に有用であった症例を経験した.