著者
松尾 真一郎 森山 大輔 﨑山 一男
出版者
独立行政法人情報通信研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

RFIDタグやセンサーなど計算能力やメモリが制限されていて、パソコンやサーバ向けに設計された暗号化や認証のための技術が利用できないデバイスにおいても、安全な通信や認証を行うために、安全性が証明されるとともに実際のデバイスにも実装可能な軽量な暗号プロトコルを設計し実装するための研究を行った。その成果として、PUFと呼ばれる、デバイスの製造時の物理的差異を用いた暗号プロトコルを設計し、その安全性を証明するとともに、実際のデバイスにおける安全性を統計学的に示した。また、RFID用の認証プロトコルを実装する際のハードウエア実装の性能評価を行い、実用に向けた技術的な目安を示した。
著者
玉木 宏樹
出版者
島根大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

【研究目的】去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の標準治療としてドセタキセル(DTX)が使用されるが、徐々に耐性を示し予後不良となる。当院では、DTX耐性CRPCに対し、DTXにサリドマイド(Tha)を併用することで再び前立腺特異抗原の低下を認めた症例を経験している。既に我々はヒト前立腺癌PC3細胞(PC3)を用いた曝露実験において、Tha単剤では抗腫瘍効果がほとんど認められないにも関らず、Tha/DTX併用においてはDTX単剤と比較して抗腫瘍効果が増強することを報告している。また、併用による抗腫瘍効果の増強と抗癌剤の細胞外排出機構ならびに耐性化に関与するとされている多剤耐性遺伝子1(MDR1)との関連性は低いことを報告している。本研究では、抗癌剤による癌細胞の細胞死に関連している内因性アポトーシスに及ぼすサリドマイドの影響を検討する目的にて、PC3ならびにDTX耐性PC3(DR-PC3)を用いた研究を行った。【研究方法】DR-PC3はPC3をDTX50nMで4ヶ月以上培養することで確立した。Cell viabilityの測定はWST-8を用いて行った。アポトーシスの解析はAnnexin V-FITC/PI染色後、FACS Calibur flowcytometerにより行った。目的とするタンパク質の発現はイムノブロットで確認した。アポトーシス抑制タンパク質であるBcl-2、Bcl-xLとの関連性は、これらに対するsiRNAのトランスフェクションによりタンパク質の発現を選択的に抑制した状態で確認した。【研究成果】DR-PC3に対するDTXのIC_<50>(Half maximal inhibitory concentration)は800nMでありPC3におけるIC_<50>6.25nMと比較して約100倍の抵抗性を示した。PC3においてsiRNAのトランスフェクションによりBcl-xLの発現を抑制した結果、DTXによるcell viabilityの有意な低下ならびにアポトーシスの著明な増加を認めた。これらの結果、Bcl-xLがPC3のDTX感受性の増強に関与していることが示唆された。現在、ThaがBcl-xLの阻害に影響を及ぼしている可能性について、PC3ならびにDR-PC3を用いて検討を行っている。これらの検討により、DTX耐性CRPCのDTX感受性を回復するための薬剤としてのThaの有用性が明らかとなる。
著者
三橋 伸夫 佐藤 栄治 黎 庶旌 本庄 宏行 望月 瞬 宇賀神 直彬 榊 京太郎 陶 鋒 斉藤 太紀
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

中国広州市の城中村および近郊農村を対象に、急速な経済成長を背景として行われた都市化、高密度住宅化を防止するための産業振興および居住環境整備の方策について検討した。その結果、これら農村集落がその歴史文化的,産業的な特性を生かした経済的振興と居住環境整備を両立させることには多くの障がいがあることが明らかとなった。不安定な外部経済への依存は持続的な集落経営に結びつかず,村(村民委員会)による将来計画の策定が望まれる。広州市は近郊農村の農業・観光産業育成に向けた技術的支援と資金提供を行うべきことを提言する。
著者
荒川 薫 伊藤 節子
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

乳幼児は言葉を持たず、「泣く」という行為によって何らかの不快感を人に訴えようとする。母親はこの音声(啼泣)を聞き、不快の原因を取り除こうとするが、一般に乳幼児の音声やその状況を観察しただけでは、その原因を理解することが困難である。すなわち、啼泣の原因には、空腹、眠い、痛い、寂しい、不安など複数の要素があるが、乳幼児の観察からこの原因を特定することは難しい。従って母親は種々の原因を想定して様々な対処を試行錯誤的に試みるが、対処が不適切であると乳幼児の啼泣は続き、これが母親の育児ノイローゼを引き起こしたり、さらには昨今問題となる乳幼児虐待をも引き起こすことになる。そこで、乳幼児の音声を計算機で解析して啼泣原因を推定・表示することができれば、母親は容易に適切な対処を選択して子供の啼泣を早く止めることができ、種々の育児トラブルを軽減できると考えられる。本研究では、このように言葉を話せない乳幼児の音声が持つ意味情報を計算機処理により解析し、啼泣原因を推定する情報処理システムを提案する。特に、乳幼児の啼泣原因として最も一般的な、「空腹」と「眠い」を主に取り上げ、空腹時と眠いときの泣き声を自動的に識別するための特徴量抽出や推定ルールの構築を行った。実際の乳幼児の泣き声に本システムを適用し、およそ8割の精度でこれらの泣き声の自動識別を行うことができた。また、注射をした後の痛いときの泣き声についても検討を行った。さらに、乳幼児の音声処理の前処理として必要な、音声に混入する雑音除去のための新しい非線形ディジタルフィルタを提案し、その有効性を示した。
著者
和泉 ちえ
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、古典期アテナイにおいてフィロソフィアをはじめとするギリシア的諸学問を巡る系譜論的視座が如何に形成され変容したのか、その諸展開の細部を文献学的論拠と共に全面的に再検討した。ペリパトス学派に由来する哲学史の枠組みを敢えて前提に据えずに原典資料を精査することを通して、【1】フィロソフィアの起源をイオニアに求めるペリパトス学派的哲学史の形成過程とその特異性を明らかにすると共に、【2】アカデメイアをはじめとする他の諸学派が展開する学問系譜論の各々と詳細に比較分析し、【3】ギリシア世界における学問文化勢力地図の変容の細部を,古典期アテナイという文脈に則して詳述し総合的に検討した。
著者
無藤 隆 佐久間 路子 掘越 紀香 砂上 史子 齋藤 久美子
出版者
白梅学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、幼稚園の一つのクラスで週に1回ないし2回、3歳から5歳までの3年間の縦断的なビデオ観察を行い、その記録を分析することを中心とした。また並行して、各々の分担者がそのフィールドで行った観察を元に検討した。幼児教育を貫く3つの軸として「協同的な学び」や自己制御、学習の芽生えを取り上げ、それらを、構成遊び、ごっこ遊び、製作活動、クラスのグループの話し合い活動等を通して、「目的を志向する傾向」が成り立つ過程として位置づけられることを見いだした。
著者
寺久保 繁美 中島 秀喜 竹村 弘 金本 大成
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

百日咳、麻疹、風疹はワクチン接種により予防可能な感染症である。近年、我が国ではこれらの疾患の成人発症例が増加している。その原因として抗体低下が考えられる。今回、若年成人(医学生)の抗体価を測定した。百日咳抗体価は28.3%(194/686名)が感染防御レベル(10EU/ml以上)を満たしていなかった。麻疹抗体価は55.6%(322/579名)が感染予防の基準(16以上)を満たしていなかった。風疹抗体価は27.5%(159/579名)が感染予防の基準(8以上)を満たしていなかった。感染予防対策のためにも医学生に対するワクチン接種を積極的に推進する必要があると考える。
著者
具志堅 美智子 オムラー 由起子 宇都宮 典子 呉屋 秀憲 糸数 ちえみ 益崎 裕章 辻野 久美子 砂川 博司 与儀 洋和 比嘉 盛丈 喜瀬 道子
出版者
琉球大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究(1)では2型糖尿病者6名を対象としてCGMS装着者にインタビュを行い、グラウンテッド・セオリー・アプローチにて分析した。CGMS装着体験は自らの病と真摯に対峙する機会となり、偏った食行動の気づきを得ていた。気づきは食行動改善のモチベーションを高めていた。研究(2)では20名を対象としてCGMS前後の糖尿病負担感情調査(PAID)の測定にて検証した。PAID総点数の平均はCGMS前25.62±16.2後21.8±14.9で有意差は認められないものの負担感情は軽減傾向にあった。患者背景因子との関連では有職群において「糖尿病の治療」の負担感情が有意に軽減していた(p<0.05)。
著者
原 真志
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

第1に,集積内と集積間の関係を総合的に取り扱い,また,企業から独立したプロジェクトリーダーチームが意思決定を行う場合があるコンテンツプロジェクトを説明するためには従来の組織論,組織間関係論,境界連結単位を超えるプロジェクトの理論が必要であり,申請者のこれまでの研究成果と他の既存研究の再検討を通して,「プロジェクトの空間デザイン」の研究フレームの構築作業を進めた。第2に,「プロジェクトの空間デザイン」の研究フレームを具体的に検証するため,ハリウッドにおけるVFXプロジェクトの総括責任者であるVFXスーパーバイザーへのヒアリングを行った。具体的にはKevin Tod Haug氏,John Bruno氏,John Dykstra氏を対象に,担当したVFXプロジェクトでの,要求内容に応じた企業選択の要因を,分業内容,企業や集積の評価(コストとクリエイティビティ),過去のプロジェクト経験,監督やプロデューサーの意向などの点について詳細にヒアリングを実施した。第3に,プロジェクトリーダーであるハリウッドのVFXスーパーバイザーを対象に調査した内容を,連携するハリウッド外の視点から検証するために,ハリウッド映画の参加実績を持つロンドンとプラハに立地するVFX企業を対象とした現地調査を行った.第4に,日本におけるアニメの事例として,東京のサンライズ社を中心とする日本で初めてのフル3DのCGによるテレビアニメシリーズ「SDガンダムフォース」プロジェクトにおけるコミュニケーションとイノベーションに関する調査を実施した。第5に,日本における実写の事例として,円谷プロとNHKの共同制作によるデジタル衛星放送用のハイディフィニションテレビSFシリーズ「WoO」を取り上げ,VFXスーパーバイザーである松野美茂氏を対象に1週間の参加観察を実施し,コミュニケーション行動のデータ収集を行って分析した.
著者
日野 晶也 河合 忍 出川 洋介
出版者
神奈川大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究ではイトマキヒトデの精子中心体の分画から発見した新奇DNAが、ヒトデ以外の生物にも保存される中心体特有のDNAであり、中心体を有する多くの真核生物にも同様に相同な塩基配列のDNAが存在すると考えた。また、広く真核生物に共通の分子マーカーとしても貢献すると考えた。そこで、中心体を有する真核生物からの網羅的な探索を試みた。その結果、海綿動物から脊索動物まで、96%以上の相同性が検出された。また、アメーボゾアの粘菌からも96%以上の相同性のあるDNAが検出された。更にコケ植物など、植物からも95%以上の相同配列が確認されたことから、真核生物に広く保存されるDNAであることが示唆された。
著者
三宅 紀子
出版者
首都大学東京
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

今年度は身体描画法の量的指標以外のその他の指標を深層心理学的に分析する活用法について検討した。個別の事例を取り上げ、身体描画法により得られた描画の質的な分析結果と被検者との面接により聴取された情報との対応・一致の程度を吟味し、身体描画に表出した被検者の身体に対する感情や態度等を検討した。事例を挙げると、不安定な対人関係の経験があり、病的痩せにより無月経となり、婦人科の処方薬を飲んで月経を起こさせている被検者Aさんは、大きな頭、細く長い首、異常に長い脚を描いた。面接では「お腹が空いた感じがわからない。」「私は時間で食事をしている。」と話した。この事例は、自然に感じられる空腹感がわからず、大きな頭で食事をコントロールしているが、頭を支える首が細いために頭がグラグラとして、頭のコントロールも不安定になりがちなAさんの様子が描画に反映されたものと考察された。また、体重増加の懸念や痩身願望が強く、大食や自発嘔吐を繰り返すという非常に不安定な摂食態度を持つBさんは身体の輪郭が曖昧で、足部(正面画、横向き画の両方)と腕および手(横向き画)がない不完全な身体を描いた。面接では、「食べちゃいけない、という反動で食べちゃう。」「夜にたくさん食べてしまい、これではいけない、吐かなきゃ、と毎日のように吐くこともある。」と話した。先行研究より、腕なしは不適応感や無力感を表わし、足なしは自立心の欠如を表わすとされるが、Bさんの描画はBさんの摂食に対する不適応感や食欲に抵抗する無力感、摂食コントロールの自律性の無さを表わすものと推察された。このような事例より、描画には被検者が意識しているか、否かに関わらず、被検者の身体に対する感情や態度などの内面が表出していることが認められた。これにより一般的に身体像を測定するために身体描画法を用いるだけではなく、言語による自己表現能力が低い生徒や学生を理解するための方法、あるいは恣意的な回答を避けるための身体像測定方法として身体描画法が適用可能であることが確認された。
著者
五十嵐 泰正
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

現在、日本の諸都市では、地域イメージ戦略を核としたまちづくり運動が盛んであり、多くの場合その中では、地域の固有性や多様性を称揚する理念が謳われるこが、グローバルな流動性を前提とした現代においては、それらは非常に大きな困難を抱え込んでいる。このパラドクスとそこからの脱却の模索を、千葉県柏市における数量調査・インタビュー調査や東京都上野地区におけるインタビュー調査などから明らかにした。
著者
官田 光史
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、太平洋戦争期における多様な主体の「非常体制」構想とその相互関係を実証的に検討することで、危機における明治憲法の解釈と運用のあり方を総合的に解明しようとするものである。本年度は、2つ視角、すなわち1日本国憲法制定時の国家緊急権をめぐる議論の展開、2「非常体制」構想の産物としての「応召代議士」という視角から研究を進めた。1では、防衛研究所図書館、国立国会図書館憲政資料室、国立公文書館などに赴き、史料調査を行った。これらの史料をとおして、(1)敗戦直後における法制局部内研究の動向、(2)憲法問題調査委員会における議論の動向、(3)GHQ(民政局)と法制局の折衝、(4)帝国議会における議論の動向、(5)講和後における非常事態法制定論の論理を明らかにすることができた。この成果については、現在、「国家緊急権という言葉」として、学会報告を準備中である。2では、秋田県大仙市の強首樅峰苑(小山田家資料館)などに赴き、史料調査を行った。これらの史料をとおして、(1)「応召代議士」(秋田2区選出の小山田義孝ら)の法的措置をめぐる政府と軍部の動向、(2)小山田の召集経緯、(3)小山田の戦地体験を明らかにすることができた。この成果については、現在、「褌に虱はびこる夏の陣-衆議院議員・小山田義孝の出征から帰還まで-」として、学術雑誌への投稿を準備中である。さらに、一昨年度から本年度の成果をまとめて、「太平洋戦争期の戒厳施行問題」として、学術雑誌への投稿を準備している。この原稿を執筆するなかで、1945年8月10日に植民地の関東州で臨時戒厳が施行されたことも確認することができた。
著者
牧野 淳一郎 船渡 陽子 中里 直人 和田 桂一 吉田 直紀
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

新しく開発した、衝突系、無衝突系双方に利用できるParticle-Particle Particle Tree法で使うことを考慮した重力多体問題専用計算機GRAPE-8を開発した。プロセッサチップ単体では40Gflops/Wと現在の汎用マイクロプロセッサの30倍以上の電力効率を実現し、システムとしても6Gflops/W程度を実現した。この結果、大規模な天体物理シミュレーションのために必要な電力コストを大きく削減できた。
著者
岡本 徹
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

日本脳炎ウイルス感染によってアポトーシスを抑制するタンパク質Mcl1が顕著にプロテアソームによって分解を受けることを示しCRISPR/Cas9を用いた遺伝子破壊技術を用いてヒトの肝癌由来細胞株であるHuh7で、Mcl1欠損細胞とBcl-x欠損細胞を作製し、各ウイルス感染における細胞死の変化を調べた。すると、日本脳炎ウイルス感染では、Bcl-x欠損細胞で顕著に細胞死が亢進したが、Mcl1欠損細胞では野生型のHuh7と同程度だった。Bcl-x欠損細胞では、その生存がMcl1に依存しているため、日本脳炎ウイルス感染によってMcl1が分解され、死に至ったと考えられた。
著者
山本 結花
出版者
岡山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

真社会性ハチ目やシロアリ目に見られる不妊カーストがどのように進化したのか。これは、ダーウィンの自然選択理論における最大の難点であった。ハチ目は半倍数性であり、血縁度に雌雄非対称性が生じるため、血縁選択説によって社会性の進化を説明することが出来る。一方、シロアリ目は倍数性である故に血縁選択説による社会性の進化を説明できず、真社会性シロアリ目の存在は、血縁選択だけでは説明しきれない部分を浮き彫りにしている。シロアリの真社会性はハチ目の真社会性とは全く独立に進化したものであり、シロアリの研究が進むことによって、昆虫における社会性の進化を総合的に理解することが可能になる。候補者は真社会性昆虫の最大の特徴である繁殖分業に着目し、以下の研究を行った。これまでに、二次女王の分化を抑制する女王フェロモンの成分がヤマトシロアリにおいて特定されていた。本研究では、シロアリの女王フェロモンにおける種間交差活性試験を同属7種のシロアリ(R. speratus, R. amaminanus, R. miyatakei, R. yaeyamanus, R. okinawanus, R. flavipes and R. virginicus)を用いて行った。その結果、ヤマトシロアリR. speratusの女王フェロモン成分は近縁の2種(R. amamianusと、R. miyatakei)においても女王分化を抑制する効果を持ち、これら2種ではヤマトシロアリと同じ成分が女王フェロモンとして利用されていることが示唆された。さらに、他の同属他種に対する抑制効果の有無と種間の系統関係から、フェロモンの分化は単に系統学的な要因だけではなく、生態学的な要因の両者から影響を受けていることが示唆された。本研究は、女王フェロモンの種間交差活性に対する初めての報告であり、女王フェロモンの進化過程を理解する上で重要な知見となる。
著者
杉万 俊夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

「住民主導による教育・医療」を軸とした地域コミュニティ活性化の可能性を、当事者との協同的実践を推進、貴重な実例をつくりつつ検討した。同時に、「閉鎖的な専門的組織・専門家集団への依存」を前提に運営されてきた教育・医療制度を、住民の主体的参加を前提にした制度へと転換する方途について、Y.Engestromの活動理論(activity theory)を理論的枠組みにして考察した。具体的なフィールドには、(1)住民主導の教育実践として、大阪府寝屋川市で展開されている「寺子屋Neyagawa」の活動(毎週土曜に学校を舞台に住民が手作りの教育をする活動)、(2)住民主導の医療実践として、京都市小野郷地区における「地域医療の拠点づくり」の活動(無医地区に住民主体で診療所を設営・運営する活動)をとりあげた。いずれにおいても、研究者が当事者と共に活動を推進しつつ、その経過を追尾し、問題点や失敗経験をも含めて発信した(著書「コミュニティのグループ・ダイナミックス」)。とくに、(1)に関しては、学校側の抵抗に抗して敢えて学校を活動の場とすることによって、学校そのもののあり方を問い直し、地域の教育機能を復権させる可能性を指摘した。(2)に関しては、「医者と患者(住民)の上下関係を是認した上で、医者が患者重視の医療サービスを提供すること」をもって理想的な医療とみなす風潮の中、「住民主体の地域医療」という理念に理解を得ること自体が、最初に乗り越えるべき大きな壁として立ちはだかっていること、また、高齢化した地域における住民主体の診療所運営は、医療以外の領域でも住民が地域活性化に積極的に取り組み出す起爆剤になりうることを指摘した。
著者
川北 眞紀子 伊吹 勇亮
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ニュースのサプライチェーンという考え方で広報活動を捉えたときに見えてきたのは、ニュース素材の仲介者としての品揃え形成活動のあり方であった。広報部門はニュース素材の分散活動だけでなく収集活動をも行う場であり、相対的には収集活動がより重要な役割であることが示された。観光協会への質問紙調査では、広報部門の情報品揃えの程度が高いほど、メディア・リレーションズの広報成果は高いという仮説が概ね支持された。最後に、ジャーナリストたちが発信活動よりも情報品揃え活動を重視しているという仮説をたて、ウエブ調査で実証した。結果は、取材決定時にも報道決定時にも、発信活動よりも品揃え活動が重視されることが検証された。
著者
西前 出
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

途上国における自然災害による農業生産の被害を軽減するために,地域資源を再考することを通じて新しい開発援助の在り方についてミクロ,マクロの双方の視点から研究を行った。フィールド調査,アンケート調査,GIS分析を通じて研究を実施し,住民目線では災害に対する正しい認識の欠如,行政の支援とニーズの不一致などが主たる課題として挙げられ,都市部では経済的な発展度合いによる災害への適切な対応が必要不可欠であることが定量的に明らかとなった。
著者
古川 勝哉
出版者
上越市立中郷小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

「発達適合的再現」と「誇張」を視点とし,系統性と競争課題を明確にした「ベースボール型」ゲームの単元を提案するとともに,「ベースボール型」ゲームの教材的可能性を探ることとを研究の目的とし,(1)発達適合的再現を視点としたゲームの工夫,(2)「誇張」を視点とした競争課題の明確化,(3)子どもの学びから「ベースボール型」ゲームの教材的可能性を探ることを研究内容とした成果を次の4点にまとめる。○「ベースボール型」ゲームにおいて,「発達適合的再現」と「誇張」の両方の視点からゲームを修正することによって,「ベースボール型」ゲーム本来の面白さを損なうことなく,学習内容を確実にかつ楽しく学ぶことができる。○「ベースボール型」ゲームを初めて学習する第3学年の子どもでは,1塁ベースと本塁だけを設定したゲームから始めることによって,「打者がボールを打った後,1塁ベースを経由して本塁(ゴール)を目指す」という進塁の原理を理解することができるようになる。○第6学年の子どもでは,主に「誇張」の視点からゲームを修正し,段階的に競争課題を示していくことにより,自分で状況を判断しプレーすることができるようになる。○打者(走者)と守備が次の塁に到着(送球)するまでの速さを競う二次ゲームにおいて,打者(走者)をどこでアウトにするか判断したり,次の塁を陥れる/阻止するといった攻守の作戦を考えたりすることは,「ゴール型」の他のゲームに戦術や技能が転移する可能性がある。また,「ベースボール型」ゲームは,他の「型」にはない「進塁すること」を学習することができる唯一の教材である。このことから,「ベースボール型」ゲームは,教材的価値が非常に高いと判断できる。