著者
満島 直子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本年度は、政治、道徳論に関する著作を中心に「怪物」の種類や扱いを調査することで、社会的次元の問題へ考察を進めた。この分野での怪物概念は、個人の内面、社会のシステム、真、善、美の三位一体論等のテーマを中心に、統一性(ユニテ)の理想を前提とするなどの基本的特徴を保ちつつ、自然科学や美学思想の変化と連動しながら、年代毎に推移していくことを確認できた。特に、目的論的理神論から唯物論的一元論への移行後、宗教的道徳基準が消失すると、様々な「怪物」の例が、理論の可能性や限界を見極める思考方法として利用されていくことになる。ディドロの著作において、通常と異なる性質をもつ人物の一部は、支配的立場や、非現実的立場に意義を申し立てるという形で著者の思考を活性化させたり、人間の自然な性質を取り戻させるオリジナリティを持つ人物、人類を進歩させる天才等として評価される。また、通常の多くの人間も、複数の矛盾する傾向を持つ点で怪物と考えられており、そうした矛盾の起源と考えられる、個人の自然な性質と社会との軋轢をなくすためには、自然法、宗教法、市民法の一致が必要とされる。しかしその実現は難しく、街、国家などの団体もまた怪物とされる事がある。ディドロは悪人への憧れももつ一方で、基本的には社会の為になる行動を評価し、種の幸福を顧みない人間は、賞罰などで修正不能な場合、共同体からの追放や抹殺が正当化されていく。但し、善悪の区別は困難で、ディドロ自身、自分が怪物なのだと考える一面があり、価値基準の設定の難しさが示されている。自然論において、稀な形も現象の必然的結果と説明されるようになると、必然のものに善悪はないとの発想から、身体や環境によって悪行へ決定付けられる個人への責任追求や、共通道徳の基礎付けが困難となる。このためディドロの怪物概念は、規範学において大きな問題を提起するテーマであることが明らかになった。
著者
梅垣 高士 戸田 善朝 鈴木 喬 門間 英毅 安江 任 荒井 康夫
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

リン酸塩類の水和およびその生成物について、研究・調査を行い、下記のような成果を得た。1)ポルトランドセメントや石膏から得られる水和硬化体は、多孔体となるため、曲げ強度が充分でない。リン酸カルシウム類の水和硬化体も同じ欠点を持っているので、硬化体の密度を増加させることと水和生成物粒子同士の結合強度を増加させる目的で、水和反応時に水溶性の高分子化合物を添加して、硬化体の調製を行っている。現在のところ、硬化体の密度の増加は、十分でないものの、曲げ強度は、改善された。(梅垣高士,山下仁大)2)アパタイト水和硬化体を調製する際に、出発物質として、非晶質リン酸カルシウムの利用を試み、また、有機酸を添加してその効果をしらべた。(安江任、荒井康夫)3)骨生理学上重要な各種カチオンを共存させて水酸アパタイトを電析させて、その生成結晶について、詳細な検討を行った。(門間英毅)4)水酸アパタイトを無機イオン交換体への応用についての検討を行った。その結果、鉛、カドウミウムなどの有害イオンを除去できる可能性を認めた。(鈴木喬)5)コバルト、ニッケルなどのリン酸塩類水和物を合成し、顔料として応用の検討を行い、合成法は、簡便で、従来の顔料と比較しても遜色ないものが得られることを認めた。(戸田善朝)
著者
富来 礼次
出版者
大分大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、建築材料の吸音性能を評価する最重要の指標の一つである残響室法吸音率について、近年急速に発展している波動音響に基づく非定常音場シミュレーションを駆使し、残響室法吸音率測定値の変動要因と測定誤差の関係の明確化、および残響室法吸音率補正手法の開発と適用範囲の検証を行った。室形状,周波数,測定試料の吸音率・面積の異なる72種の測定音場を対象に有限要素法による非定常音場シミュレーションを実施し、全壁面へ入射する音のエネルギに対する試料へ入射する音のエネルギの割合(r(t))を用いて補正した残響室法吸音率が、補正しない残響室法吸音率と比較し、理想値をより捉えることを示した。
著者
中丸 禎子 川島 隆 加藤 敦子 田中 琢三 兼岡 理恵 中島 亜紀 秋草 俊一郎
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

言語・時代の枠組みを超えた文学の超領域的研究と、教養教育・社会人教育における研究成果の還元モデルの確立を目的に、各研究者がアンデルセン『人魚姫』に内包される諸テーマを緩やかに共有した。個々の研究者が「人魚姫」「世界文学」「教養教育」などのテーマで成果を発表した。また、ブース発表「「人魚」文学を扱う授業の実践報告―多言語文学間の共同研究と教養教育への還元モデル」、シンポジウム「異界との交流」、シンポジウム「高畑勲の《世界》と《日本》」(映画監督・高畑勲氏を招聘)において、共同・連名で成果を発表した。
著者
工藤 値英子
出版者
岡山大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

一般市中病院に肺炎のため入院した患者を対象として,肺炎と歯周病との関連性について統計学的に検討した。歯周病が重度であるほど肺炎に罹患しやすく,特に,誤嚥性肺炎になりやすい可能性があることが示唆された。これまでに私が参加した研究から,歯周病細菌感染度検査である病歯周病細菌に対する血中IgG抗体価が,歯周病重症度と有意に正の相関があることが分かっている。従って,この歯周病細菌に対する血中IgG抗体価による細菌学的評価が肺炎患者の早期スクリーニング検査に有効かもしれない。
著者
海谷 治彦
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

情報システムの要求定義段階において,システムアーキテクチャに基づき,発生しうる脆弱性と,その対策群を予測するモデリング手法とツールを開発した.システム内の重要資産(アセット)の依存関係に基づきモデルは構築され,脆弱性と対策は,その依存関係グラフの構造的な特徴に基づき系統的に予測できる.ツールは独自のモデル検査エンジンによる予測の自動化と,予測結果の可視化を行う.これによって,セキュリティ分析者を含むシステム開発関係者が,予測結果の妥当性を吟味することが可能となった.
著者
松田 昌史
出版者
日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

ビデオ通信環境における利用者間の位置関係の共有が,対人印象形成に与える影響を調べることを目標とする.一般的なビデオチャット・システムでは,利用者間の物理的な位置関係が抽象化されるため,自然な身振りや視線といった非言語行動で会話の調整を行うことが難しい.ゆえに,非言語行動を発話による言語行動で補償する.そのような不自然な発話行動は利用者本人の印象を悪化させることになることを実験によって実証した.
著者
高後 裕 加藤 淳二 越田 吉一 新津 洋司郎 茂木 良弘
出版者
札幌医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

Long-Evans Cinnamon(LEC)ラットは金属(銅および鉄)代謝異常を有し、肝炎・肝癌を自然発症することが知られている。本研究では申請当初、長期エタノール摂取の中止による肝癌発症に与える影響を検討することを目的として本ラットにエタノールを投与したが、数日以内に死亡することが判明したため、平成5年度は本ラットに存在するエタノール代謝異常について検討した。LECラットの腹腔内にエタノールを投与し(2g/kg体重),血中エタノールおよびアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフィーで測定すると,両者の血中濃度は,対照に比べエタノール投与4時間後まで約2倍遅延していた。次にLECラット肝のエタノール代謝関連酵素解析を行った結果、アルコール脱水素酵素(ADH)およびアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)活性(とくにlow KmALDH活性)は,対照のWistarラットに比べ約25%低下していた。そこで両酵素の活性低下の原因を明らかにする目的で、LECラット肝のADH-1遺伝子およびALDH-2遺伝子を解析した結果、LECラット肝ADH-1遺伝子の第1イントロンに16塩基のinsertionが存在するとともに、ALDH-2遺伝子の第67codonにCAG→CGG(Gin→Arg)の点突然変異が存在することを見い出した。すなわち、LECラット肝のADH-1およびALDH-2遺伝子は異常を有しているためにこれらの2つの酵素が不活性型となっているものと考えられた。
著者
宮崎 清恵 高梨 薫
出版者
神戸学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

周産期医療施設766施設においてソーシャルワーク業務を担当している職員に対するアンケート調査、事例研究、および文献研究をおこなった。それらの分析により、極低出生体重児へのソーシャルワーク実践モデルを開発した。実践モデルは(1)実践理論、(2)実践の対象、(3)実践の意義、(4)援助の手続き、(5)必要な知識・価値・技能、(6)業務環境で構成される。今回の研究では、それぞれの項目の内容を明確にした。
著者
石田 雅春
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年は、(1)戦後地方における教育の展開、(2)講和独立後の教育政策について研究した。(1)については、前年度に引き続き地方軍政部の史料を分析するとともに、広島県を事例に新規史料の調査・整理に取り組んだ。具体的には、共同で竹下虎之助氏(前広島県知事)、平岡敬氏(前広島市長)のオーラル・ヒストリーを行うとともに、関係史料の整理・分析に中心となって取り組んだ。(1)残念ながら教育の分野ではあまり収穫がなかったが、オーラル・ヒストリーの成果については編集を行い、広島大学文書館編『聞き書き平岡敬平和回想録』(広島大学文書館、2005年11月)、竹下虎之助『竹下虎之助回顧録-広島県政五十年の軌跡-』(現代史料出版、2006年5月発行予定)という形で公開する。(2)整理した史料(被爆朝鮮人・韓国人に関するものが中心)については解題を附して、広島大学文書館編『平岡敬関係文書目録第1集』(IPSHU研究報告シリーズNo.34、2005年7月、広島大学平和科学研究センター)を発行した。(2)については、逆コース期の史料収集・分析を進めると共に、高度経済成長期の史料についても調査・研究を進めた。その一環として『大平正芳関係文書』 (大平正芳記念館蔵)の調査・研究を行った。史料は政局に関する文書が中心で、残念ながら教育に関する史料がほとんどなかった。しかし調査の成果をもとに「三木内閣の経済政策と大平正芳蔵相の役割-「三木おろし」の政策的背景に関する一考察」をまとめた。本論文では、三木武夫首相と大平正芳蔵相・福田赴夫副総理の間の政策認識の差を明らかにし、政局の観点のみで「三木おろし」を説明してきた通説に対して、政策の観点から再評価する見方を示した。
著者
武川 直樹 木村 直樹 井上 智雄 湯浅 将英
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

人が共に食事をする「共食」を例題に会話コミュニケーションを分析し,日常的コミュニケーションの相互行為の仕組みを明らかにし,共食支援システムを実現する研究を実施した.共食評価用会話コーパスを作成し,書き起こしたデータから共食中の会話の順番交替,食事動作の構造を解明した.たとえば,聞き手は会話への関与の度合いに応じて摂食タイミングを調整しコミュニケーションの構築に寄与していることを明らかにした.また,人と共食をするエージェントSurrogate Diner,ビデオメッセージを通じて疑似的に非同期な共食をするKIZUNAシステムを開発した.共食コミュニケーションに改善効果があることを明らかにした.
著者
範 江林 小池 智也 柴田 信光 手塚 英夫
出版者
山梨大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

疾患関連遺伝子の解析や治療標的候補蛋白の同定には、遺伝子導入動物(特に遺伝子改変マウス)の使用は医学分野において不可欠な研究手法である。しかし、汎用されているマウスの脂質代謝系と心臓血管系がヒトとは大いに異なっているため、高脂血症や動脈硬化といった脂質代謝異常、心臓血管疾患の研究に不適当であることが指摘されてきた。本研究ではウサギCETP遺伝子をターゲットし、核移植によりCETP・ノックアウトウサギを作製することを試みた。
著者
島田 周平
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

アフリカ各地で起きている地域紛争は、地域の歴史や文化を反映した特殊性を持っている。しかしそれらは、最近のグローバルな経済社会変動の中で起きているという同時代性も持っている。アフリカ諸国の多くは、1980年代に、債務問題から脱却するために構造調整計画を実施した。ベルリンの壁崩壊は、西側諸国のアフリカ地域に対する関心を低下させたものの、アフリカの政治的民主化を推し進める効果をもっていた。そして2001年9月11日以降の対テロ戦争は、アフリカ諸国に一層の民主化と市場自由化を迫った。本研究で私は、ニジェール・デルタ地域の歴史と最新の地域紛争の実情に関する研究を行った。その結果、長期に及ぶ政府による無視や圧政がこの地域の人々、とりわけ若者達に絶望的感情を抱かせてきた経緯が明らかになった。また、日常生活を破壊された農漁民は、脆弱性を増大し、そのことが一層多国籍企業や政府に対する反撥を強めてきたことも明らかとなった。そして、人々の不満のはけ口は、地元の伝統的権威や政治家にも向けられるようになってきた。伝統的権威や政治家は、人々の苦しみを和らげるために仲介者としての役割を期待されたがうまく機能しなかった。時あたかも、シエラレオーネ、リベリア、コートジボワールで内戦が終熄し、西アフリカで大量の武器が流通する事態が生じ、これが紛争をより過激なものとした。以上の結果は、ニジェール・デルタで頻発する「新しい紛争」が、地域的要因とグローバルな要因との相互作用や相乗作用の結果起きてきていることを示している。2009年に開始された(停戦のための)恩赦政策の成否も、このような地域的および国際的要因の両方から判断する必要があると思われる。
著者
中嶋 悠一朗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

発生や病態にて観察される組織リモデリングは細胞の増殖、分化、移動、そして死といった様々な細胞の振る舞いを統合した現象である。その中で、細胞の「死」と「増殖」は最も基本的な振る舞いであり、組織を再構築し、恒常性を維持する上で互いに協調し合った両者のバランスが重要である。したがって細胞の死と増殖のバランスの破綻は発生異常にとどまらず、がんや神経変性といった疾患への関与が想定される。近年、組織リモデリングにおいて、カスパーゼの活性化を介した細胞死「アポトーシス」と細胞増殖が密接に関連し合うこと、その重要性が示唆されている。一方で、生理的条件下でアポトーシスと細胞増殖をつなぐメカニズムに焦点をあわせた研究はほとんどなく、生体内での両者の協調における細胞レベルの振る舞いや分子メカニズムに関して多くが未だ不明である。本研究では生理的に起こるアポトーシスを単一細胞レベルの解像度で可視化する系を構築し、組織内での時空間的なカスパーゼ活性化パターンを明らかにすることで、リモデリングにおけるアポトーシスの制御機構、そして周辺細胞との相互作用を解明することを目指した。これまでにショウジョウバエ蛹期における腹部表皮再構築を系として、FRET型のカスパーゼ活性化検出プローブを用いたカスパーゼ活性化パターンの詳細な記述を行った。本年度は、遺伝学的および人工的に周辺の増殖細胞に操作を施すことで、死にゆく細胞のカスパーゼ活性化パターンが増殖細胞との局所的な相互作用により制御されている可能性について検討し、実験的にその存在を示した。さらに増殖細胞の時空間的な細胞周期ダイナミクスとの相関を知るために、S/G2/M期をモニターする蛍光タンパク質プローブを導入し、細胞周期のS/G2期からM、G1期への進行が細胞非自律なアポトーシスを誘導するのに必要であることを見出した。本研究は組織リモデリングにおける細胞増殖とアポトーシスを結びつける細胞間協調の仕組みに新たなコンセプトを提示した。
著者
大島 徹 塚 正彦
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

熱中症及び熱傷性ショックで死亡したグループ(第1群)と,機械的窒息で死亡したグループ(第2群)に分けて,細胞数の比較検討を行ない,病理組織学的観察を行ったところ,機械的窒息死事例の肺組織においては,高温の悪影響による熱中症や熱傷性ショック死事例と比べて,単球及び多核巨細胞が多数認められた。また,一酸化炭素中毒死のグループ(第3群)にもマクロファージ及び多核巨細胞減少の傾向が認められ,遊走する数はある程度,浸出物の多寡と相関する傾向にあった。法医診断において,単球系細胞の観察によって,以上3群間の鑑別診断の精度が上がるものと考えられた。
著者
岡内 一樹
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究全体の目的は、第二次世界大戦後の西ドイツ・ルール地方における環境意識の変容を、一次資料の分析によって明らかにすることである。本年度は、1960年代後半から80年代前半までの時期の森林行政・自然保護行政関連文書を、主な分析対象とした。分析の結果として、散策・保養地としての森林に対するルール地方住民の関心が、1960年代にとりわけ高まったことを明らかにした。この動向は、モータリゼーションの進展と週5日労働制(週休2日制)の普及によって、市民が手軽な移動手段と多くの余暇時間を手に入れたことを背景としていた。これを受けて、ルール地方を含む州であるノルトライン=ヴェストファーレン州では1969年に森林法が改正され、第三者の私有林に散策・保養目的で立ち入ることが法的に認められるに至った。同法は、これに続いて制定ないし改正された他州の森林法、さらには1975年に制定された西ドイツ森林法にも、少なからず影響を与えた。この分析結果の学術的な意義は、先行研究とはやや異なる歴史解釈を提示できたことにある。1960年代末から70年代にかけての西ドイツにおける様々な環境立法の整備については、同時期の国際的な環境保護運動の高まりを受けた動向と解釈されるのが、通例であった。この時期の環境保護運動は、自然環境を人間社会の発展によって失われていく存在と捉え、前者を後者から隔絶して「保護」することを重視する傾向にあった。しかしながら森林法の整備においては、それに先立つ60年代からの、市民の散策・保養地として森林を「利用」するという議論が、契機となっていたのである。また、このようなドイツにおける歴史的経緯を明らかにしたことは、狭義の林業(木材生産)という論点に縛られがちな、現代の日本における森林関連諸法をめぐる議論を再考するにあたっても、重要な視座をもたらしうると考えられる。
著者
駒瀬 裕子 山本 崇人
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

喘息患者において病薬診が連携することは地域における喘息治療の質を高める上で重要である。すなわち、1)病〓ことができ、その結果、より重い患者は専門医においてより専門的な治療を受け、より軽い患者は地域の非専門医において安定して継続加療を受けることが可能である。本研究では、インターネットを用いることで服薬指導をスムーズに行い、患者のアドヒアランスが高まるかどうか、薬剤師の専門知識が高まるかどうかに着いても検討した。本年度は、1年半にわたってインターネットを用いた薬剤指導の成果に関してデータ整理を行った。結果:この間にインターネットを通じて薬剤指導を依頼した患者数は66名であった。依頼に関して、薬局を訪れて服薬指導を受けたものは61名で、5名は服薬指導を受けなかった。さらに、61名のうち、薬局から指導に関して返答がなかったものが11例であった。服薬指導を受けた50名の指導依頼内容は(複数回答)、吸入方法が44名、ステロイド薬の指導が21名、アドヒアランスの確認が19名、その他の薬剤についてが7名、副作用や相互作用についてが4名であった。結果および考察:インターネットによる服薬指導の依頼および回答は当院のように門前薬局を持たず、広域で薬局の指導を行っている地域では報告が早いなど一定の利点があった。欠点として1)薬剤師によるインターネットの操作が必要、2)経費がかかるなどがあげられた。今後この方式を広めるためには、システムの維持費の問題と、セキュリティーの問題が解決されなければならない。
著者
根本 到
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

労働法における公法的規制と私法的規制の関係について研究を行った。高年齢者雇用安定法や労働者派遣法のように、その規範に違反した場合の効果について公法的特質のみを強調する法規が現れている。こうした法分野に考察を加えた結果、私法的規制と認定される場合の判断基準とともに、採用の自由論の限界などが明らかになった。労働法においては、古くから妥当する公法私法二元論が大きな影響力を有しているが、これよりも公法私法相互依存論の方が適切であると結論づけた。
著者
岩井 淳
出版者
群馬大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

実験用匿名保証型DSSを以下の形式的仕様で構築した(主にWeb技術とRDBを基礎に用いた)。参加者集合M(Mn,n=1..N),ハンドルネーム集合H(Hn,n=1..N),発言集合D(Dx,x=1..d_max),評価選択肢集合C(Cy,y=1..c_max)とし(括弧は要素),HnのDxへのz回目の評価をEz(Hn,Dx)とする(型はCの要素の組。最新のEz(Hn,Dy)をEont(Hn,Dy)とする)。MとH間の1対1対応は管理者を含め隠蔽される。Dの要素別に各Hnの評価系列を公開するが,特にEont(Hn,Dy)を整形して表示する形式とした。前提する過程は以下の通り。1)テーマ設定,2)多数案に対する「検討保証」等の価値設定,3)協力者へのハンドルネームのランダム設定,4)討議(署名評価)。匿名保証型DSSの議論の質への貢献をA)反対案や代替案の提出が増し,B)無責任な発言が抑制されるか否かの観点から実験的に検討した。商工会議所(意見提出先等でなく全職員の討議参加)等の協力で市民対象の利用実験を3度行った。協力者はファシリテータを除き計132名。この他に各132名の学生実験を2度行った。学生実験も含め,結果過程から以下の点を見出した。a)意見総数は増加しなかった,b)他者の意見への評価傾向が同様の実名実験と比べ変化した(本心の評価と判断される),c)無責任な問題発言は生じなかった。以上,従来理論のみであった匿名保証型DSSの最初の実験データを得た。A)に弱く,B)に強い肯定的結果となった。実験結果に関して,ハンドルネームを用いた署名評価とその公表には,匿名でも品行方正を促す効果と,自然な発言を抑制する効果の双方があると仮説を立てた。また,後者の抑制は,対立点の強調を避ける心理の表れであり,意見相互の収斂支援の技術を加えることで改善できると予想した。同技術は今後の課題である。本研究のDSS設計は現時点でも国際的に独創性が高く,実用化の見込も大きい。また,プライバシ保全技術としての応用可能性も現れている。
著者
諸岡 晴美
出版者
富山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では,サ-ポトタイプパンティストッキング(以下,PSとする)の適切な圧力分布に対する具体的な設計指針を得ることを目的として,下肢部の圧縮特性,衣服圧の個人差,下肢各部の衣服圧分布,動作に伴う衣服圧変化,圧快適性と衣服圧との関係,等々について明らかにした。以下に研究成果の概要を示す。1.人体は衣服圧によって変形し,曲率が変化する。そこで,はじめに下肢部とウェスト部の人体表面の圧縮特性を測定し,その特徴と体型との関係を明らかにした。2.次に,できるだけ体型差のある被験者を用い,静立位時のPSによる圧迫の範囲と体型との関係を明らかにした。また,動作に伴う衣服圧変化および強い衣服圧は快適性を低下させることなどを明らかにした。3.PS素材の引張特性から予測される衣服圧は,剛体であるマネキンでは一致度が高い。しかし,圧縮柔らかい人体では計算値と実測値とが必ずしも一致せず,衣服圧と着衣基体の圧縮特性との関わりが示唆された。4.従来より,PSの研究は下肢部に限られており,パンティ部についてみられない。そこで,本研究では、ウェストバンドの圧迫についても検討した。市販ウェストバンドの形態と引張特性を明らかにするとともに,着用時のウェストバンドの伸び変形を測定し,体型および衣服圧との関係を明らかにした。5.PSは,着用中に“ずり"を生じ,皮膚刺激を生む。その刺激の程度は,PSからの圧迫に依存するため,パラフィン法による観測方法を検討した。本研究において,人体の圧縮柔らかさが衣服圧の重要な因子の一つであることが示唆された。そこで今後は,皮膚表面の弾性腺維が減少する中高年齢層の女性をも視野に入れた研究を続行していく計画である。