著者
竹内 啓
出版者
社会技術研究会
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-11, 2004-10-29 (Released:2007-12-21)
参考文献数
3

リスク管理の問題と社会技術の観点から考えるとき, 「不運」にも「確率の小さい」災厄が生じてしまったときの「事後処理」の問題も重要である. それは「不運」である限り, 完全に「合理的な」解決は存在しない. それは「不運の納得できる分配」と考えることに帰着し, 「責任」や「賠償」の問題もその程度から考えられる. そこでは社会的倫理観や, 関係者の関与の性格等を詳しく評価することが必要であるが, 結局「感情問題」を避けることはできない.同時に「不幸」な事件から, 有益な「教訓」を引き出すことも大切であり, そのためにも「感情問題」を含め適切な「事後処理」の方法が確立されなければならない.
著者
圖師 一文 松添 直隆 吉田 敏 筑紫 二郎
出版者
日本生物環境工学会
雑誌
植物環境工学 (ISSN:18802028)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.128-136, 2005 (Released:2006-09-05)
参考文献数
30
被引用文献数
11 20

Water and salinity stresses have been applied to improve the tomato fruit quality. To produce high-quality tomato fruit, the effect of stresses on chemical contents and physiological response must be known. We examined the chemical contents (sugar, organic acid, amino acid and inorganic ions) and osmotic potentials of tomato fruit (Lycopersicon esculentum Mill.) grown under water stress and salinity stress. For the two water stress treatments, the irrigation water amounts were fixed at 50% of the control (13% of soil water content), and 25% of the control. For salinity stress, the concentration of irrigation water was adjusted by mixing additional fertilizer, until it had the 2.5-fold electric conductivity of control (1.6 dSmu-1). Comparing both stresses, which had similar levels of leaf water potential, sugar and organic acid contents on a fresh weight basis were enhanced by the salinity stress, but not by the water stress. Amino acid contents on a fresh weight basis, except for proline and γ-aminobutylic acid, were not affected for water stress, while most of the amino acid contents for the salinity stress were higher than those for the control. The high contents of amino acids could not be caused by the concentration effects such as sugar and organic acid. Furthermore, the mechanisms of osmotic adjustment were different between both stresses. We conclude that the changes in chemical contents and the physiological responses were different between both stresses, and that the use of the salinity stress was more efficient rather than the use of the water stress to produce a high quality tomato fruit.
著者
ジョハン エルニ 松枝 直人 逸見 彰男
出版者
一般社団法人日本粘土学会
雑誌
粘土科学討論会講演要旨集 第51回 粘土科学討論会発表抄録 (ISSN:24330566)
巻号頁・発行日
pp.94, 2007 (Released:2008-02-02)

We synthesized TiO2-Zeolites nanocomposite from pure chemical reagents. The synthesis product was applied for acetaldehyde gas adsorption. The result indicated that adsorption and decomposition of acetaldehyde occurred when UV (365nm) irradiation was introduced. The decomposition is due to photocatalytic activity of TiO2.
著者
小西 哲之 時松 宏治
出版者
社団法人 プラズマ・核融合学会
雑誌
プラズマ・核融合学会誌 (ISSN:09187928)
巻号頁・発行日
vol.78, no.11, pp.1192-1198, 2002 (Released:2005-12-08)
参考文献数
7

Energy model analysis estimates the significant contribution of fusion in the latter half of the century under the global environment constraints if it will be successfully developed and introduced into the market. The total possible economical impact of fusion is investigated from the aspect of energy cost savings, sales, and its effects on Gross Domestic Products. Considerable economical possibility will be found in the markets for fusion related devices, of currently developing countries, and for synthesized fuel. The value of fusion development could be evaluated from these possible economic impact in comparison with its necessary investment.
著者
國安 理奈子 森川 和子
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.95-103, 2006-08-20 (Released:2008-03-21)
参考文献数
19

表面の物理的構造が異なる2種類の自然礫, 泥岩と砂岩に生息する付着微生物群集について, 分離した細菌株の生理学的性質とLV-SEMによる付着状態を比較した。付着微生物群集の採取は表層部とクラック (孔隙) 深部を区分するため, 超音波処理により分画採取した。礫当たりのコロニー形成細菌数は, クラックサイズの大きい砂岩の試料で高い傾向にあった。超音波処理時間の違いによる分画毎の細菌数は, 泥岩では表層部の分画において高く, 砂岩では下層分画において高かった。分離細菌株の種類構成は泥岩・砂岩とも分画毎に異なり, 上層から順次剥離している様子がうかがえた。砂岩の下層分画の細菌株は単一種類と見られ, クラック内で増殖した可能性が考えられた。また, 砂岩の表層部と泥岩のクラック深部の種類構成が類似していることが明らかにされ, 下層分画に生息する細菌株は両礫間で異なった。LV-SEMによる礫表面の観察からも, 超音波処理による付着微生物群集の剥離のされかたは礫種により異なり, 礫に形成される付着微生物群集は基層となる礫の表面構造を反映してパイオニア微生物が規定される可能性が示唆された。
著者
Hau-Jie Shiu Ken-ichi Tokita Emiko Morishita Emiko Hiraoka Yinyin Wu Hiroshi Nakamura Hiroyoshi Higuchi
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
ORNITHOLOGICAL SCIENCE (ISSN:13470558)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.151-156, 2006 (Released:2007-02-01)
参考文献数
21
被引用文献数
24

In order to examine fidelity to migration route, breeding, wintering, and stopover sites, we analyzed the migration of two adult Grey-faced Buzzards Butastur indicus and an adult Honey-buzzard Pernis apivorus that were satellite-tracked in East Asia for more than two migration seasons. The Grey-faced Buzzards showed a high degree of route fidelity across seasons and years. On the other hand, the migration routes of the Honey-buzzard were distinctly different between fall and spring seasons, whereas, within each season they were roughly similar between years. All three raptors were strictly faithful to their breeding and wintering sites. They also showed fidelity to several stopover sites in which the raptors stayed for relatively long periods to replenish energy. Our findings have important implications for the conservation of the migratory raptors.
著者
平井 義彦
出版者
一般社団法人 表面技術協会
雑誌
表面技術 (ISSN:09151869)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.642, 2008 (Released:2009-05-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1
著者
柴田 晃宏 芳本 晃大朗 府中 拓也 是永 美樹
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.73, no.630, pp.1833-1838, 2008-08-30 (Released:2009-09-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2 1

This study is intended to clarify the architect's vocabulary of Facade design in nonresidential works of Kiyosi Seike focusing on the relationship between the expression of beams and columns and "ma". Facades are defined by the composition of sites and buildings, and the representation of beams and columns. The way to express beams and columns on the Facade and the way to compose the arrangement of "ma" is analyzed in relation to the symmetrical property of such elements. As the result of classification, 9 types of compositional schemes of elevation are identified, and moreover by analyzing, these schemes are classified into 4 types of Facade design. Analyzing the relationship between the expression of beams and columns and "ma", it is clarified that Facade design is represented by his sence of symmetry includeding Asymmetry in Symmetry.
著者
柳下 有理香 前川 武雄
出版者
日本皮膚悪性腫瘍学会
雑誌
Skin Cancer (ISSN:09153535)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.367-371, 2010 (Released:2011-05-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

76歳女性。2年前に外陰部の紅斑を自覚,半年前から急速に増大した。初診時,中央部に結節を伴う紅色局面が左大陰唇から肛門にかけて存在し,両側鼠径リンパ節を触知した。生検にてPaget細胞が真皮全層に浸潤していることを確認した。CT上,両側鼠径から大動脈周囲リンパ節までのリンパ節転移がみられ,stage IV(T4N2M1)と診断した。特殊染色にてHER2強陽性であったため,原発巣切除後,weekly docetaxel,trastuzumabによる化学療法を行った。7クール終了時点から8週後の評価でCRと判定した。経過中みられた副作用はいずれもgrade1の軽度のものであり,QOLを保ちながら,非常に奏効した。Trastuzumabとdocetaxelの併用療法は,HER2陽性乳房外Paget病において,少ない副作用と高い治療効果を併せ持った,非常に有用な治療法になり得ると考え報告する。
著者
辻本 浩子 王 寧 肴倉 宏史 大迫 政浩
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会論文誌 (ISSN:18835856)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.86-93, 2010 (Released:2010-04-15)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

溶融飛灰中の重金属の溶出を抑制させる方法として,液体キレート剤を用いた薬剤処理法が主流であるが,処理飛灰中の金属キレート化合物の長期安定性が懸念されている。本研究では,溶融飛灰のみ埋立処分を行い埋立開始から8年経過した最終処分場を対象に,表層から深さ5mまでの飛灰試料を採取し,金属キレート化合物の存在量の変化および重金属の溶出特性について調査した。その結果,埋立後の試料では金属キレート化合物の存在量の減少はPbで著しく,処理直後の10%以下となった試料も確認され,埋立後に金属キレート化合物が分解した可能性が高いことが示された。しかし,溶出試験でのPbの溶出濃度および処分場浸出水の実測値はすべて0.031mg/L以下と極めて低かった。pH依存性試験を実施したところ,pH14の条件でも鉛の溶出率は全含有量の10%以下であり,キレート化合物から分解したPbは強アルカリ性でも溶出しにくい化学形態であると推測された。
著者
北村 彰浩 猪原 匡史 内田 司 鷲田 和夫 長谷 佳樹 小森 美華 山田 真人 眞木 崇州 高橋 良輔
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.384-389, 2010-07-25 (Released:2010-09-14)
参考文献数
12

【症例】52歳女性.高血圧,高脂血症,肥満あり.約1週間の経過で徐々に発動性低下が進行した.麻痺等の局所神経症状はなくNIHSS 0点であったため,当初はうつ病も疑われたが,頭部MRIで左内包膝部に脳梗塞像を認め左中大脳動脈穿通枝のbranch atheromatous disease (BAD)と診断した.神経心理学的検査や脳波検査から,軽度のうつ状態,認知機能障害,左前頭葉の機能低下を認めた.抗血栓療法等で徐々に症状は改善し約2カ月で職場復帰した.【考察】内包膝部は視床と大脳皮質を結ぶ種々の神経経路が通過する要所である.本例では前頭葉と視床との機能連絡の遮断により前頭葉機能が低下し発動性低下を来たしたと考えられた.また,BADは進行性の運動麻痺を呈しやすいことで知られるが,本例のように明らかな局所神経症状が無く発動性低下が亜急性に進行する症例でも内包膝部のBADが重要な鑑別になると考えられた.
著者
大槻 明 川上 あゆみ 林 剛 川村 雅義
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.213-219, 2010-05-28 (Released:2011-06-25)
被引用文献数
1

学術俯瞰の分野における最近の研究動向は,参考文献の引用分析により実現するサイテーションマップが主流であり、ネットワーク構築やクラスタ化までの自動化はなされているが、各クラスタがどのような集団であるかの意味付けまでの自動化はなされておらず、専門家が手動で分析している現状である.ゆえに、各クラスタの自動解釈を最終的な目的として,本発表では各クラスタの主要論文の自動抽出を目指す。具体的には、論文をノード、引用をエッジとする有向グラフと考え、各ノードに発表年数を持たせたうえで、あるノードに入るエッジの元ノードの発表年数の分散を調べることでそれぞれの重要度の計算を試みる。そして、それらの重要度を基に、時間軸を持つ可視化グラフの構築を目指す。
著者
奥村 裕 金指 美帆 金澤 佑治 藤田 直人 近藤 浩代 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2069, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】廃用性筋萎縮が起こると筋線維毎の毛細血管数や毛細血管径が減少する。このような毛細血管の退行には活性酸素種が関与していると考えられている。活性酸素により毛細血管の退行が生じれば、骨格筋細胞の代謝活性に影響を与える。一方、筋萎縮に伴う骨格筋毛細血管の退行に対する酸化ストレスを軽減させる方法や毛細血管退行と骨格筋細胞の代謝活性を考慮した研究はみられない。そこで、本研究では骨格筋線維と毛細血管のクロストークに焦点をあて、抗酸化力の高い抗酸化物質摂取による毛細血管への影響と骨格筋細胞の代謝という観点から、廃用性筋萎縮筋の筋線維タイプ別の毛細血管及び酸化的リン酸化系の代謝変化について検討した。【方法】12週齢のWistar系雄ラットを対照群(Cont群)、栄養サポートのみを行った群(CA群)、一週間の後肢懸垂を行った群(HU群)、及び後肢懸垂期間中に栄養サポートを行った群(HA群)の4群に区分した。栄養サポートにはアスタキサンチン(富士化学工業株式会社より提供)を毎日50mg/kgを1日2回経口摂取させた。実験期間終了後、足底筋を摘出し、急速凍結して保存した。摘出した筋試料は10μm厚に薄切し、ミオシンATPase染色(pH4.3)、アルカリフォスファターゼ(AP)染色、コハク酸脱水素酵素(SDH)染色後に光学顕微鏡で観察を行った。ATPase染色像を用いて足底筋を遅筋線維の多い深層部と速筋線維の多い浅層部に分別し、筋線維毎の毛細血管数の割合、単一筋線維の周囲の毛細血管数、筋線維のSDH活性を計測した。統計処理は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を行い、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】一週間の後肢懸垂によりラット足底筋の筋湿重量は12%減少した。また、後肢懸垂期間中にアスタキサンチンを摂取したHA群においても同様に減少した。一方、深層部における筋線維毎の毛細血管数は、HU群ではCont群に比べ有意に減少を認めた。しかし、アスタキサンチンを経口摂取したCA群及びHA群は、それぞれCont群、HU群と比較して有意な増加を認めた。また、浅層部では4群間における有意な差は認められず、後肢懸垂の影響、アスタキサンチンの摂取有無に関係はみられなかった。また、単一筋線維周囲の毛細血管数は、遅筋線維ではCont群に比べHU群では有意な減少を認めたが、アスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では、単一筋線維周囲の毛細血管数の有意な増加を認めた。一方、速筋線維は4群間における有意な差は認められなかった。SDH活性をみると深層部の遅筋線維はCont群に比べHU群では有意に減少を認め、アスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では有意に増加を認めた。これらの結果からアスタキサンチンは遅筋線維のSDH活性を増加させ、廃用に伴う遅筋周囲の毛細血管退行を減衰させるものと考えられる。【考察】一週間の後肢懸垂により足底筋の深層部では、筋線維毎の毛細血管数や遅筋線維周囲の毛細血管数の減少、SDH活性の低下を認めた。これらの結果は、後肢懸垂で筋活動が低下し、筋細胞内のミトコンドリアにおけるエネルギー代謝が低下したために生じる現象であると考えられる。廃用性筋萎縮により骨格筋内の活性酸素種産生が増加するが、アスタキサンチン摂取により活性酸素種の産生を抑制し、酸化ストレスを減少できるとの報告がみられる。(Wolf, 2010)。本研究では、足底筋の深層部でアスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では、筋線維毎の毛細血管数や単一筋線維周囲の毛細血管数の有意な増加を認めた。また、遅筋線維でSDH活性の増加を認めた。これはアスタキサンチン摂取により活性酸素種が減少し、骨格筋線維周囲の毛細血管退行を防止できたために骨格筋細胞の代謝が阻害されなかったものと考えられる。また、その裏付けとして毛細血管の退行を抑制できた遅筋線維ではSDH活性が増加した。本研究では、速筋線維周囲の毛細血管には変化がなく、遅筋線維周囲で廃用の影響や毛細血管の変化が観察された。この結果は、遅筋線維の方が酸化的リン酸化による代謝に依存して、毛細血管からの酸素の供給に影響されることに起因するものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】骨格筋における毛細血管ネットワークは骨格筋細胞への酸素供給や糖・代謝産物輸送に重要である。骨格筋細胞の環境を最適化するために毛細血管の役割は必要不可欠である。また、本研究から、抗酸化物質を用いた栄養サポートは骨格筋の毛細血管退行に予防的な効果を示した。長期臥床などに伴う筋力増強運動などを実施する際に栄養面でのサポートを組み合わせて行っていく必要性があると考える。
著者
森島 義行 芝野 俊郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.2, pp.83-87, 2010 (Released:2010-08-10)
参考文献数
11

血栓症の予防・治療薬として用いられる抗血栓薬の研究戦略および経口血液凝固Xa因子(FXa)阻害薬エドキサバンの薬効薬理について述べる.血栓症とは何らかの原因で血管内の血液が固まり,血管をふさぐことによってその下流の組織に虚血や梗塞が引き起こされる疾患である.血栓には動脈血栓(脳梗塞や心筋梗塞など)と静脈血栓(静脈血栓塞栓症など)の2種類があり,動脈血栓には抗血小板薬が,静脈血栓には抗凝固薬が主に使用される.抗凝固薬の研究戦略として,50年以上臨床で使用されてきたワルファリンやヘパリンの欠点を解消した経口投与可能な抗凝固薬を獲得することを目標に設定した.創薬の標的分子として血液凝固カスケードの中のFXaを選択し,FXaを競合的・選択的に阻害する低分子化合物をスクリーニングした.経口吸収性がテーマ最大の難問であり,サルを用いた経口投与でのPK/PD試験を化合物評価の重点項目として研究を進め,エドキサバンの獲得に至った.エドキサバンはFXaを競合的・選択的に高い阻害活性で抑制した.ラットの病態モデルにおいてエドキサバンは既存の抗凝固薬と同等の抗血栓効果を示すとともに,既存抗凝固薬の欠点の克服が可能なプロフィールを示した.エドキサバンの対象疾患として,心房細動患者における脳塞栓症の予防,整形外科手術後の静脈血栓塞栓症の予防,および静脈血栓塞栓症の再発予防を選択した.整形外科手術後の静脈血栓塞栓症の予防は国内で製造販売承認申請を行い,心房細動患者における脳塞栓症の予防および静脈血栓塞栓症の再発予防は第三相臨床試験を実施中である.エドキサバンはワルファリン以来の日本初の経口抗凝固薬として,今後の医療に大きく貢献できると期待する.
著者
小西 典子 廣江 克彦 川村 正起
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.2, pp.88-92, 2010 (Released:2010-08-10)
参考文献数
16

これまでワルファリンは半世紀にわたり,唯一の経口抗凝固薬として世界中で使用されてきた.近年,活性化血液凝固第X因子(factor Xa, FXa)阻害薬が,ワルファリンの欠点を克服した新たな経口抗凝固薬の候補として注目されている.FXa阻害薬の適応症としては,静脈血栓症である深部静脈血栓症や肺塞栓症,動脈血栓症である急性冠動脈疾患,そのほか心原性脳塞栓症が挙げられ,これらの疾患を想定した種々動物モデルでの薬効および出血に関する成績が数多く報告されている.臨床開発段階にある経口FXa阻害薬,TAK-442(当社),リバロキサバン(バイエル−ジョンソン・エンド・ジョンソン),アピキサバン(ブリストル・マイヤーズ スクイブ−ファイザー)およびエドキサバン(第一三共)については,静脈血栓症モデルにおいて,出血時間を延長しない用量から抗血栓作用を示すこと,抗血栓作用と出血時間延長との安全閾はワルファリンよりも広いことが報告されている.また,動脈血栓症モデルにおいても,アピキサバンは出血時間の延長を伴わずに抗血栓作用を示すこと,臨床での併用が想定される抗血小板薬との組み合わせでその薬効を増強させることが確認されている.さらにラット脳塞栓症モデルにおいて,FXa阻害薬,DPC602(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)は,血栓の自然溶解を促進して脳血流を改善し,脳梗塞巣や神経脱落症状を改善することが示されている.よりヒトの臨床病態に近いモデルを指向して筆者らが作成したサル血栓性脳塞栓症モデルにおいても,FXa阻害薬TAK-239は神経脱落症状の改善を示した.これらの前臨床成績は,経口FXa阻害薬がワルファリンよりも優れた画期的な次世代経口抗凝固薬となることを示唆し,現在進行中の複数の臨床試験でのその有効性,安全性評価が待たれている.