著者
三浦 麻子 稲増 一憲 中村 早希 福沢 愛
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.174-186, 2017

<p>This research applies spatial statistics to examine proximal factors affecting the political behavior of voters in a regional election in Japan, particularly, voter proximity to the election campaigns of the candidates. During the mayoral election in Akō City, Hyōgo Prefecture, voters' political behavior, attitudes, and awareness of politics were measured using a social survey, the spatial location information relating to candidates' election campaigns being measured using GPS. Voters' favorable perception of a certain candidate was positively correlated to the degree of contact with his election campaign of voters themselves or that of their neighborhood, but not to spatial proximity with his campaign. On the other hand, both the degree of contact and spatial proximity with his election campaign of voters themselves led them to cast their votes for the candidate, even controlling for favorability. It was revealed that there is a possibility for proximal factors to be treated more precisely by applying spatial statistics.</p>
著者
三浦 悌二
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Special, pp.1-6, 1992-11-30 (Released:2010-10-13)
参考文献数
23

生まれ月により, 疾患の罹患率, 正常の生理現象, 行動の決定などに違いが見られ, 胎児期に受けた環境の影響が生涯続いて, いわゆる体質や気質の形成に関与していることが示唆された.医学部の卒業生で, 30年後の生存率を見ると, 1910―1923年生まれの世代では夏生まれの者で生存率が低かった.老人施設入居者で75歳からの生存率でも, 男では同じ傾向があった.これは成人病の死亡率に生まれ月による差があるためと思われる.肺結核の死亡退院者の割合, 若年性慢性関節リウマチの罹患率は女で高く, かつ生まれ月での違いが大きい.こうした体質には, 胎児期の環境が強く影響していると思われる.夫婦の生まれ月と血液型には平均以上の一致が見られた.献血者, 那覇マラソンの参加者の割合には生まれ月によって対照人口とは偏りがあった.行動の決定に関する気質の形成にも生まれ月が関係していることが示唆された.将来の気候変動は胎児期の環境を変化させて, 人類の体質や気質に変化を及ぼす可能性がある.
著者
尾関 昌幸 大江 礼三郎 三浦 定俊
出版者
JAPAN TECHNICAL ASSOCIATION OF THE PULP AND PAPER INDUSTRY
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.233-242, 1985-02-01 (Released:2009-11-16)
参考文献数
4
被引用文献数
3 3

Durability of papers, such as acid and neutral wood free papers, Japanese Kozo (Broussonetia papyrifera) and Gampi (Wikstroemia retusa) papers, as well as handsheets from Mitsumata (Edgeworthia papyrifera), Kozo, Manila hemp and softwood sulphate pulps, were compared by means of degradation rate or relative durability obtained from Arrhenius plots of folding endurance at various temperatures and relative humidities. It was confirmed that papers or handsheets from bast fibres for Japanese paper-making were less degradable compared with those from wood pulps.Influences of acidity and sulphate ion concentration at handsheet making were also investigated. It was not perceivable that sulfate ion concentration was adversely so effective to durability of paper as acidity, which deteriorated properties of papers from bast fibres as well as from wood pulp.
著者
三浦 尚子
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.1-21, 2016
被引用文献数
1

<p>本稿は,障害者自立支援法施行に伴って制度化された東京都の通過型グループホームが,精神障害者の地域ケアにおいて果たす役割について,R 自治体内における通過型グループホームの事業者および入居者に対する質的調査に基づき,「ケア空間」「あいだの空間」という分析概念を用いて検討した。その結果,以下の知見が得られた。通過型グループホームの入居者は,精神科病院の退院条件であるか,家族との関係が悪い場合が多く居住地を選べない,ほかに生活環境を転換する術をもたないことを入居の理由としており,必ずしも本意に基づく選択ではないことが明らかとなった。しかし入所後,入居者は施設内に設置された交流室にて,職員や他入居者との間で無条件の肯定的配慮や共感的理解の態度で形成される「ケア空間」を通して,新たな主体性を出現させて自尊を獲得し,生への希望を見出していた。事業者は通過型グループホームを「あいだの空間」と位置づけ,単身生活への移行を障害者の自立とみなす国や行政機関の見解に即してその役割に肯定的であったが,入居者にとっては別の希望の空間へと向かうために重要な物理的・社会的な空間であるといえる。</p>
著者
岡田 伊策 齋藤 稔 大和 裕幸 稗方 和夫 笈田 佳彰 三浦 慎也
巻号頁・発行日
2012-06-14

2012年度人工知能学会全国大会(第26回) JSAI2012 (The 26th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2012), 2012年6月12日(火)-6月15日(金), 山口県教育会館他, 山口
著者
三浦 浩治 佐々木 成朗 石川 誠 板村 賢明
出版者
公益社団法人 日本表面科学会
雑誌
表面科学 (ISSN:03885321)
巻号頁・発行日
vol.30, no.10, pp.554-559, 2009-10-10 (Released:2009-10-22)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

We systematically discuss frictional properties occurring in atomic-force microscope (AFM) tip on graphite system, the graphite/C60/graphite system, and the C60 intercalated graphite system. Several possible mechanism to induced superlubricity of C60 intercalated graphite system are proposed and discussed. It can be expected that the superlubricity is induced by internal sliding between close-packed C60 monolayers and graphite layers. Our results propose one of the simple guidelines of designing practical superlubric system—reduction of the contact area between intercalated C60 and graphite sheet to the point-like contact. We anticipate our novel lubrication system to be a startpoint for developing more practical superlubricant using intercalated graphite, which will contribute to solving the energy and environmental problems.
著者
永山 勝也 三浦 一郎 河越 景史
出版者
国際生命情報科学会
雑誌
Journal of International Society of Life Information Science (ISSN:13419226)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.199-204, 2014-09-01

指先血管の画像処理による評価法についての研究を行った.指先毛細血管の臨床画像を用いて,特徴点抽出により指先血管の輪郭の抽出を試みた.また,臨床画像より指先血管の状態について数値化を行い,自動的にパラメータを算出するプログラムを作成したことで処理の簡易化を実現した.さらに,画像処理により血管形状のパラメータを測定しその測定結果をサプリメントの性能評価に役立てることができた.We examined the evaluation method by image processing of the fingertip blood vessels. Using the clinical Figures of the nailfold capillary, we tried to clear characteristics of the fingertip capillaries by the feature point extraction. Also it has been realized to simplify the process by performing the numerical values for the state of the fingertip blood vessel from the clinical picture, to prepare a program for calculating the parameters automatically. Further, it could be useful to evaluate the performance of supplementation measuring the parameters of the microcapillary shape by image processing.
著者
村山 綾 三浦 麻子
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.24-33, 2013 (Released:2017-06-02)

本研究の目的は、刑事裁判における有罪・無罪判断と批判的思考態度の関連性について、テキストデータ分析から明らかにすることである。144名の大学生・大学院生が、(1)覚せい剤密輸事件を題材とした、無罪判断が妥当な公判シナリオを読み、(2)有罪・無罪判断、(3)判断の理由(自由記述方式)、(4)批判的思考態度尺度について回答した。判断の理由を対象に頻出語を抽出し、有罪・無罪判断×批判的思考態度高群・低群を属性としたコレスポンデンス分析を行った。その結果、無罪判断で批判的思考態度得点が高い場合は、物的証拠の欠如といったメタな理由づけをしている一方、有罪判断で批判的思考態度得点が低い場合は法廷での証言や発言などについて言及すると同時に、「おかしい」や「不自然」「信用」といった主観的評価が判断理由に含まれることが示された。
著者
三浦 和 勝平 純司 黒澤 和生
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.683-687, 2014 (Released:2014-10-30)
参考文献数
16

〔目的〕ヒラメ筋の痙縮抑制に効果的な圧迫強度と時間を明らかにすることである.〔対象〕地域在住の慢性期の脳血管障害片麻痺者18名.〔方法〕H波,M波の閾値と最大値の測定をヒラメ筋に対し軟性サポーターを用いた5つの強度(0,20,30,40,50 mmHg)と3つの時間(1,3,5分間)の組み合わせで施行した.臨床で行われているヒラメ筋の6つの痙縮評価も実施した.〔結果〕麻痺側の脊髄運動神経興奮性は,非麻痺側と比較し有意な亢進を示し,これとクローヌス数の間に有意な相関が認められた.40 mmHgで5分と30 mmHgで3分での圧迫により麻痺側の脊髄運動神経興奮性は他の組み合わせと比較して有意に低値をみせた.〔結語〕これらの強度と時間の組み合わせでの圧迫は,ヒラメ筋の痙縮抑制の効果を持つ.
著者
三浦 奈都子
出版者
岩手県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

静脈注射を行っていく上で少なからず経験するであろう点滴漏れに対するケアは冷罨法や温罨法と様々であり,統一性がないのが現状である.本研究では,点滴漏れ時のケアを確立することを目的に,実験動物(ラット)を用いて抗生物質製剤を中心とする基礎的研究を実施した.静脈注射を行っていく上で少なからず経験するであろう点滴漏れに対するケアは冷罨法や温罨法と様々であり,統一性がないのが現状である.本研究では,点滴漏れ時のケアを確立することを目的に,実験動物(ラット)を用いて抗生物質製剤を中心とする基礎的研究を実施した.その結果,パンスポリン^<【○!R】>(セフェム系抗生物質製剤,pH5.7〜7.2,浸透圧比1)が漏れた直後に冷罨法(16〜20℃)を30分間施行すると,皮下組織への炎症性細胞の浸潤が抑制され,温罨法(40〜43℃)を30分間施行すると,炎症性細胞の組織浸潤,筋壊死が促進されることを明らかにした.また,パンスポリン^<【○!R】>が漏出した際の組織傷害の種類は,表皮の壊死を伴わない真皮層の炎症(以後,起炎症とする)であることが明らかとなった.次に,pHの違いによる組織傷害の程度と種類,罨法の効果を明らかにするために,異なる薬剤を用いた実験を行った.その結果,セフェム系抗生物質製剤であるファーストシン(8)(pH7.5〜9.0,浸透圧比1)とグリコペプチド系抗生物質製剤である塩酸バンコマイシン^<【○!R】>(pH2.5〜4.5,浸透圧比1)による組織傷害の程度に違いは認められなかったが,パンスポリン^<【○!R】>と同様,起炎症性の薬剤であることが明らかとなった.これらの薬剤が血管外に漏出した場合,温罨法を実施することにより,皮下組織の炎症性細胞の浸潤が促進されることを明らかにした.全ての実験において罨法を実施するために用いた素材は,吸水ポリマーを使用した凍結タイプの保冷剤であり,皮膚へ密着しにくい特徴があったため,現在不凍タイプの素材にて同様の実験を行い検討中である.また,薬剤漏出直後に実施する罨法の適切な継続時間を10分から60分の間で検討中である.
著者
千葉 美紀子 佐藤 貴美 三浦 悠理子 石戸谷 真帆 勝見 真琴 阿部 裕子 藤巻 慎一 藤原 亨
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.260-266, 2021

<p>Methicillin-resistant <i>Staphylococcus aureus</i>(MRSA)スクリーニング培地を用いての監視培養を導入する目的で,MDRS-K寒天培地(MDRS-K),X-MRSA寒天培地(X-MRSA),クロモアガーMRSAスクリーン培地(関東クロモ),CHROMager MRSA II(MRSA II)を比較検討し,検査フローを考察した。保存菌株を用いた評価では,栄養要求の高いMRSAは,48時間(h)培養で検出率を高められる可能性が示唆された。患者検体を用いた評価では,48 hのpositive predictive value(PPV)/negative predictive value(NPV)(%)は,MDRS-K,X-MRSA,関東クロモ,MRSA IIでそれぞれ100.0/80.0/42.9/100.0,100.0/94.9/75.0/100.0,100.0/89.7/60.0/100.0,93.3/95.9/78.0/98.9であった。夾雑菌の一部は,48 hでMRSA類似コロニーとして観察された。本検討により,スクリーニング培地を用いての監視培養検査は,48 hを最終判定とし,24 hではスクリーニング培地の発育有無のみで判定,48 hでは発色コロニーの同定を追加して判定することにより,低コストで正確性,迅速性に優れた検査が可能と考える。</p>
著者
青山 佐喜子 橘 ゆかり 三浦 加代子 川原? 淑子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.23, pp.128, 2011

【<B>目的</B>】平成21・22年度日本調理科学会特別研究として実施された「行事食」の調査結果のうち、昨年度の本大会において年末年始の現状を親子間の伝承の観点から報告した。さらに本年度は年末年始、上巳、彼岸、端午、盂蘭盆、七夕、土用の丑、重陽、月見、冬至、クリスマス、祭りの認知・経験を世代間比較し、行事と行事食の現状と世代間の伝承について明らかにすることを目的とした。<BR>【<B>方法</B>】平成21・22年度日本調理科学会特別研究の全国統一様式の調査用紙を用いた。対象は和歌山県に10年以上在住している大学生・短大生とその親、また和歌山県福祉保健部、教育委員会ならびに関係機関の協力を得、食生活改善推進協議会会員を中心に食育関係団体会員、地域の研修会等に参加した市民とした。若年層(20歳未満・20歳代)182名:Y群、中年層(40・50歳代)240名:M群、高齢者層(60歳以上)266名:O群に分けて分析し、SPSS(Ver.18)でχ<SUP>2</SUP>検定を行った。<BR>【<B>結果と考察</B>】三世代とも認知度の高い行事(90%以上)は正月、節分、上巳、端午、月見、クリスマス、大晦日であった。行事食で三世代とも高い喫食経験であるのは正月の雑煮、黒豆、かまぼこ、節分の巻き寿司、月見団子、冬至のかぼちゃ、クリスマスのケーキ、大晦日の年越しそばであり、行事の認知と経験だけでなく、それぞれの行事食が若年層(Y群)にも伝承されていることがうかがえた。一方、三世代とも認知度の低い行事(50%以下)は重陽と春祭りであり、特に重陽の経験は少なかった。Y群の認知度が低い行事は彼岸・盂蘭盆・冬至・祭りであり、Y群は盂蘭盆の行事食の経験が低く、核家族化が進み、先祖に対する仏事や地域の祭りが伝承されていないことがうかがえた。
著者
三浦 真弘 内野 哲哉 髙橋 明弘
出版者
三輪書店
巻号頁・発行日
pp.694-703, 2015-08-25

はじめに 脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)は,頭蓋-脊柱管内においてくも膜と軟膜の間すなわちくも膜下腔と,上衣層に囲まれた脳室および脊髄中心管を満たす無色透明な液体である.正常では脳脊髄液の細胞数は5個/mm3以下である.CSFの全量は成人で常時100〜150mlに保たれている.CSFの1日の産生量が400〜600ml(0.35ml/min)であることを考えると,1日に3〜4回生理的吸収路を介してCSFは入れ替わる計算になる39). CSFの存在意義については,古くから諸説が論じられている.その中で,脳脊髄は外面も内面(脳室)もCSFに完全に浸る状況から,生じた浮力により自重を効果的に減少させる役割(神経根・硬膜の緊張緩和)36),また頭蓋脊椎への機械的刺激に対するクッション材的役割が重要とされる.一方,最近ではCSFに含まれる物質の分子レベルの働きについても研究が進んでおり,CSFに流入した脳実質の細胞外液ならびに上衣細胞・脈絡上衣などに由来する種々のサイトカインや物質が,呼吸や動脈性拍動15),そして上衣細胞の繊毛運動などで生じるCSF流を利用して反発性軸索ガイダンス因子,増殖因子などの物質の運搬・交換そして拡散,さらには免疫反応防御システム,脈管新生など脳の栄養・代謝に深く関わることが明らかにされている21,22).すなわち,CSFはその組成を調節することで脳の健康維持にも欠かせない存在となっている17). 通常CSFは,産生,循環,吸収が相互に連関して機能することで一定量が保たれている.成人のCSF総量を約140mlとすると,その内訳は脳室に30ml,脳くも膜下腔に80ml,脊髄くも膜下腔に30mlと推測される35).ちなみに,中枢神経系(central nervous system:CNS)の間質液(interstitial fluid:ISF)は280ml存在する.したがって,CNSに関わる水の動態を考える場合,ISFについても詳細に検討する必要がある.特に,CNSは唯一リンパ系が存在しない組織であることから,ISFにおける水の収支バランスに密接に働く脳動脈周囲の血管周囲腔(perivascular space:PVS)を介する特別な排導機序は,リンパ系に相当するシステムを代償する.これは,脳白質血管周囲のアストログリア終足に高発現する膜輸送タンパク質水チャンネル(aquaporin channel:AQP)33)を基軸にした実質から可溶性タンパク質・代謝産物などを血管にスムーズに排除するシステムで,睡眠中に稼働するglymphatic system14)またはglymphatic clearance pathway16)と呼ばれる.同システムに関する基礎研究2,14,16)は,脳アミロイド血管症やアルツハイマー病などの発症機序との関連解明を受けて,臨床研究として現在大きな期待が寄せられている.なお,PVSは細動脈でVirchow-Robin腔と交通する. 一方,CSFの収支バランスを考える場合,従来からその吸収首座とされる脳硬膜くも膜顆粒の本態解明は緊喫の課題である44).また,CSFのリンパ系吸収路については,頭蓋底領域とは別に脊髄硬膜外レベルでの作動確認20,24)もCSF循環にとって検証すべき課題とされている.著者らは,CH40微粒子活性炭,indigocarmine,およびindocyanine green(ICG)を新しいCSFトレーサーとしてヒト組織を含む注入実験に用いることで,CSF経リンパ吸収路の構造的特徴とその吸収動態について検討をこれまで試みてきた24,28).特に,脊髄領域でのCSF吸収とリンパ管系との関係については,硬膜-神経根周囲の髄膜に局在する篩状斑を介する脈管外通液路(extravascular fluid pathway)19,29,30)ならびに硬膜外リンパ系(epidural lymphatic system:EDLS)4,25)との連関機能の重要性,さらに両者の組織学的特徴を明らかにしたことで,CSFがいかにして髄膜バリア(図1)を生理的逸脱して硬膜外リンパ管に吸収されるか,という長年の疑問に対して髄膜脈管外液路30)の存在証明で1つの答えを示した.他方,近年YamadaはCSF動態をMRIで画像化するTime-SLIP法を応用したCSF dynamics imaging45)を開発し,特に古典的なCSF循環概念,すなわちCSFが産生部位から吸収部分に向かって川のように流れる第3循環説が事実と異なることを実証した臨床的意義は大きい43,45). CNSの細胞外液や脳室系のCSFの生理的量的バランスを保つために必要なシステムのいずれかの構造・機能が破綻すると,CSFでは過剰な貯留状態を呈して水頭症,逆にそれが減少ないしは異常な漏出状態を呈すれば低髄圧症候群(脳脊髄液減少症)・脳脊髄液漏出症,一方ISFでは,血管周囲腔での通過障害として脳浮腫やアルツハイマー病,遺伝性脳小血管病(cerebral small vessel disease〔SVD〕)34)などの病態がそれぞれ引き起こされると考えられている14,16,42). 最近,これらの病態解明に取り組む関連学会においてCSF循環の再考が叫ばれる中,第14回日本正常圧水頭症学会(2013)の特別講演での佐藤修東海大学名誉教授の提言は注目された.佐藤は最新の研究成果7,32,33,43)に触れ,上矢状洞付近でのCSF吸収は定説とは異なり主経路でなく,むしろ頭蓋底部,鼻腔からのリンパ系吸収,また脊髄レベルからの吸収路のほうが重要であると結論づけ,大きな反響を呼んだ. 本稿では,正常状態でのCSF循環(産生,吸収)について最新の知見を踏まえて概説するが,特に脊髄膜に局在する前リンパ管通液路(prelymphatic channel:PLC)19,26,30)を介するCSF経リンパ吸収路について紹介する.また,自家所見から脳脊髄液減少症および特発性正常圧水頭症の発症機序についても最後に考察したい.
著者
山下 尚志 高橋 岳浩 遠山 哲夫 谷口 隆志 吉崎 歩 Trojanowska Maria 佐藤 伸一 浅野 善英 赤股 要 宮川 卓也 平林 恵 中村 洸樹 三浦 俊介 三枝 良輔 市村 洋平
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.381b, 2016

<p>  全身性強皮症は免疫異常,血管障害,線維化を主要3病態とする原因不明の膠原病である.本症の病態理解・治療開発が遅れている理由の一つとして,その病態を忠実に再現した動物モデルが存在しなかったことが挙げられるが,最近我々は転写因子Fli1の恒常的発現低下により線維芽細胞,血管内皮細胞,マクロファージにおいて強皮症特有の形質が誘導できることを示し,さらに血管内皮細胞特異的<i>Fli1</i>欠失(<i>Fli1</i> ECKO)マウスでは強皮症の血管障害に特徴的な血管の構造異常と機能異常が再現できることを明らかにした.強皮症の血管障害に対しては肺動脈性肺高血圧症治療薬が有用であり,特にボセンタン(エンドセリン受容体拮抗薬)は皮膚潰瘍の新規発症を予防する効果が2つの良質な臨床試験により証明されている.また,明確なエビデンスはないが,bFGF製剤は強皮症に伴う難治性皮膚潰瘍の治療に有用であり,実臨床において広く使用されている.しかしながら,これらの薬剤が強皮症の血管障害に及ぼす影響とその分子メカニズムは未だ不明な点が多い.そこで今回我々は,<i>Fli1</i> ECKOマウスの創傷治癒異常の分子メカニズム,およびボセンタンとbFGFがその異常に及ぼす影響について検討した.一連の研究結果により,<i>Fli1</i> ECKOマウスにおける創傷治癒異常の分子メカニズム,およびボセンタンとbFGFがFli1欠失血管内皮細胞の動態に及ぼす影響が明らかとなったので,その詳細を報告する.</p>
著者
三浦 正幸
出版者
建築史学会
雑誌
建築史学 (ISSN:02892839)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.46-68, 1985 (Released:2019-01-24)
著者
馬場 亮 小暮 啓介 山地 七菜子 川崎 茉里奈 川田 学 酒巻 江里 三浦 紫陽子 藤田 理恵子 藤田 桂一 山本 幸成 荒川 祐一 戸野倉 雅美 松木薗 麻里子 高橋 香 鴇田 真弓 市橋 弘章 伊藤 寛恵 文原 千尋 藤野 浩子
出版者
動物臨床医学会
雑誌
動物臨床医学 (ISSN:13446991)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.93-96, 2016

<p>歯周病をはじめ,犬の歯科疾患の中には,抜歯をせざるを得ないことも少なくない。歯科治療中は超音波スケーラーによる歯石除去やバーによる歯の分割,歯槽骨の切削時に頻繁に冷水を歯面や口腔粘膜に接触させる。そのため,生体はより熱を失いやすくなり,術中に低体温症をしばしば発症する。今回,動物用歯科ユニット(オーラルベットⅡ,発売元 モリタ製作所 製造販売元 モリタ東京製作所)内の洗浄水を加温し,その温水を歯科処置中に使用することによって,術中の低体温症に対する予防効果を検討した。症例は体重,体格(BCS),年齢を揃えて,温水群と冷水群の2群に区分した。術中に体温が36.9℃に達するまでの体温低下の速度の違いを2群間で比較検討した。2群間において,36.9℃までの体温の低下速度に有意な差は認められなかった。しかしながら,復温後の体温の上昇速度では,温水群は冷水群に比較して有意に速いことが示された。</p>