著者
大曽根 眞也 森口 直彦 今井 剛 篠田 邦大 伊藤 剛 岡田 恵子 三木 瑞香 田内 久道 佐藤 篤 堀 浩樹 小田 慈
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.127-132, 2015 (Released:2015-08-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1

L-アスパラギナーゼ(ASP)による血栓症は重大な治療関連合併症だが,本邦における発症実態は不明であり有効な発症予防法は未確立である.そこでASP血栓症の発症頻度と発症例の詳細,ASPを投与中に行われる凝固検査や血栓予防法の現状を知るために,JACLSに加盟している96施設を対象にアンケート調査で後方視的に検討した.47施設(49%)から回答を得た.2002年~2011年の10年間にASPを使用した1,586例中,8例(0.50%)で血栓症を認め,うち7例は寛解導入療法中に生じ,このうち6例では中枢神経系に生じていた.血栓症を発症した時,全例でステロイドを併用しており4例は発熱していた.血栓症発症時のアンチトロンビン(AT)活性は中央値71%,フィブリノゲン同93 mg/dL,D-ダイマー同2.2 μg/mLであった.血栓症を発症する前に4例でAT製剤を,1例で新鮮凍結血漿(FFP)を使用していた.血栓症で1例が死亡し1例で後遺症が残った.有効回答のあった45施設中,寛解導入療法でASPを投与する時に40施設がAT活性を週2~3回測定し,43施設がATを補充し,21施設がFFPを補充すると回答した.本邦でのASP血栓症の発症頻度は国外より低かったが,現在の凝固検査でASP血栓症の発症を正確に予測することは難しい.ASP血栓症を予測する新たな指標や適切な血栓予防法の確立が望まれる.
著者
伊藤 建一
出版者
日本シミュレーション学会
雑誌
日本シミュレーション学会論文誌 (ISSN:18835031)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-10, 2021 (Released:2021-01-29)
参考文献数
18

This study evaluated the signal transmission characteristics, the electromagnetic field distributions in and around the human body, and the biosafety criteria of magnetically coupled intra-body communication through computer simulation. The analyzed magnetic couplings were a normal inductive coupling (non-resonant coupling) and two types of resonant couplings. The target evaluation regions were the forearm and upper body, and we analyzed up to an inter-coil distance of 100 cm, which is considered to be the assumed human body communication range. The results of the frequency characteristics of the signal path loss, which were the same as before, revealed that the amount of signal loss for the inductive coupling was minimized between 2 and 3 MHz at each coil distance; one of the resonant couplings could improve the signal path loss by approximately 20 dB at a resonant frequency of 2 MHz. Furthermore, when the signal voltage was 1 V, the electric field strength in the body was smaller than the general environmental limit value by more than two orders of magnitude. The local specific absorption rate was smaller by approximately four orders of magnitude; thus, it was concluded that the magnetic field method is very safe for the living body.
著者
小坂 悠登 伊藤 毅志
雑誌
研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:21888736)
巻号頁・発行日
vol.2019-GI-41, no.15, pp.1-7, 2019-03-01

本研究では従来チェスや将棋.オセロといった二人完全情報確定零和ゲームで行われてきたゲームAIを利用した棋力推定のアプローチを囲碁に応用する手法について検討した.他のゲームと囲碁AIの大きな違いはベースとなっているアルゴリズムがミニマックス探索ではなく,モンテカルロ木探索(MCTS)である点である.そのため,従来の手法で用いられてきたミニマックス探索でいうところの「評価値」の代わりに,本研究ではMCTSが導き出す局面評価に相当する概念である「勝率」という指標を用いることにした.棋譜の評価においては,MCTSのみ用いた囲碁プログラムと,Alpha Goの探索手法に倣ってDNN(Deep Neural Network)を用いた囲碁プラグラムの両者を用いて実験結果の比較検証を行った.さらに,これらの手法を合議で組み合わせることによって,さらに飛躍的に棋力推定の精度を高めることができた.
著者
伊藤 明良 青山 朋樹 山口 将希 秋山 治彦 黒木 裕士
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.307-313, 2012-08-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
31

【目的】低出力超音波パルス療法(low-intensity pulsed ultrasound : 以下,LIPUS)の強度の違いが関節軟骨代謝に与える即時的な影響を遺伝子発現解析によってあきらかにすることを目的とした。【方法】ラット膝関節から軟骨細胞を採取し,変形性関節症(以下,OA)の擬似病態を惹起させるため0,100,1000 pg/ml濃度のインターロイキン-1β(以下,IL-1β)を添加し,LIPUSを0,7.5,30,120 mW/cm2強度で20分間刺激後,遺伝子発現解析を行った。【結果】100 pg/ml濃度のIL-1βで惹起された軟骨破壊因子であるマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase : 以下,MMP)-13のmRNA発現はLIPUS刺激強度依存性に抑制された。主要関節軟骨基質成分であるII型コラーゲン(type 2 collagen : 以下,Col2)やアグリカン(aggrecan : 以下,ACAN)のmRNA発現は,LIPUS刺激により抑制される傾向を示した。【結論】LIPUSは軟骨破壊因子であるMMP13 mRNA発現を強度依存性に抑制することによる,関節軟骨保護作用を有する可能性が示唆された。
著者
伊藤 裕才
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

軟体動物頭足類(イカやタコ)の表皮色素胞は黄色から紫色までの様々な色素を含んでいる。これらの色素は着色料として利用できる可能性があるが、色素成分はオンモクローム類であること以外は不明である。そこで主にスルメイカを対象に表皮から色素を抽出し、それら全成分を分析するHPLC分析法を開発した。分析の結果、黄色、赤色、紫色といった複数の色素の観測に成功した。さらにスルメイカ抽出液から紫色色素をクロマトグラフィーによって単離精製した。組成分析の結果、紫色素は硫黄原子を含んでいることが強く示唆された。
著者
伊藤 瑠里子
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究目的】自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder : ASD)における性別違和の特徴を明らかにする検査指標を開発することを前提とし, ASD者の性別違和についてジェンダー・アイデンティティ尺度を用いてコントロール群と比較検討して特徴を明らかにすることを目的とした.【研究方法】愛媛大学医学部附属病院精神科を受診したASD患者をASD群, 一般公募にて参加した対象者をコントロール群としてジェンダー・アイデンティティ尺度と成人用自閉スペクトラム指数日本語版(Autism-Spectrum Quotient : AQ)を実施した. 対象年齢は社会との繋がりを認識し始め, 性別違和を自覚する15歳以上30歳未満とした. コントロール群は, AQの得点がカットオフ値以上の事例は除外した.【研究成果】ASD群6名(M:F=4:2, 平均21.5±3.77歳)と, コントロール群21名(M:F=7:14, 平均24.38±2.21歳)を対象として統計的分析を行った。① ジェンダー・アイデンティティ尺度内の低次4因子及び高次2因子についての2群間比較・低次4因子の一つである, 自己の性別が社会とつながりを持てている感覚である“社会現実的性同一性”はASD群が有意に低値で, 自己の性別が他者と一致しているという感覚である“他者一致的性同一性”では, 有意に低値であった(<.01). 自己の性別が一貫しているという感覚である“自己一貫的性同一性”においてもASD群が有意に低値である傾向がみられた(<.05).・自己の性別での展望性が認識できているという感覚である“展望的性同一性”, “社会現実的性同一性”の高次因子の一つである現実展望的性同一性の総得点平均はASD群が有意に高かった(>.05).②AQ総点とジェンダー・アイデンティティ尺度間の相関・ジェンダー・アイデンティティ尺度の高次2因子, 低次4因子に対してAQの総得点の相関を調べた. ASD群では, AQ総点と, 現実展望的性同一性, 展望的性同一性が負の相関がみられた(>.05). また, 一致一貫的性同一性, 自己一貫的性同一性において正の相関がみられた(>.05). コントロール群では相関はみられなかった.【考察】ASD者は, 自己のジェンダー・アイデンティティと他者の認識が一致していないと感じている. また, 自己のジェンダー・アイデンティティを生かした社会生活の展望が曖昧であり, ASD者の中でもより強い特性を持つ者は, その傾向が強まることが示唆された.
著者
伊藤 泰介
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

円形脱毛症病変部の毛包周囲には著明なリンパ球浸潤が観察される。今回の実験を通して、その機序がTh1細胞、Tc1細胞の集合を誘引させるケモカインであるCXCL10が毛包周囲に強く発現し、また円形脱毛症ではそれに対する細胞走化性が亢進していることが明らかになった。急性期のみならず慢性期でもCD8陽性Tc1細胞が持続的に浸潤していた。この走化性を阻害することが治療につながると考えられるが、治療ガイドラインにて推奨されている抗ヒスタミン薬にその阻害効果がみられることがわかった。
著者
伊藤 輝代 秋野 恵美 平松 啓一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.130-135, 1997-02-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
11
被引用文献数
25 26

腸管出血性大腸菌O157感染症患者に投与する最も適切な抗菌剤を検討するため, MIC及び抗菌剤存在下でのベロ毒素の放出を測定した. 供試薬剤として経口剤ABPC, CCL, CFDN, FOM, NFLX, NA, KM, MINO, DOXY, TCを用いた. 11株中2株が, ABPC, TC耐性であったほかは, いずれの薬剤にも感受性を示し, MIC値の上では, 殆どすべての薬剤が有効であった. 薬剤存在下でのベロ毒素の放出を測定した所, 薬剤の添加により毒素の著しい放出をもたらすグループ (ABPC, CCL, CFDN, FOM, NFLX, NA) と, 殆ど無添加の場合と変わらないグループ (KM, MINO, DOXY, TC) に大別された. 細胞壁合成阻害剤 (ABPC, CCL, CFDN, FOM) の場合は殺菌に伴ってVT1, VT2ともに菌体より放出された. キノロン系薬剤 (NFLX及びNA) の場合は, VT2のみ菌体より放出された. これに対して蛋白合成阻害剤 (KM, MINO, DOXY, TC) の場合は, VT1は薬剤無添加の場合と同様に, 測定に用いた逆受身ラテックス凝集反応の検出限界以下であり, VT2も薬剤無添加の場合と同等, あるいはそれ以下であった. この結果は, 蛋白合成阻害剤を使用すれば, 腸管出血性大腸菌O157感染症に於て, 毒素を放出させることなく, 殺菌あるいは増殖を抑制することができることを示唆している
著者
山田 広幸 伊藤 耕介 坪木 和久 篠田 太郎 大東 忠保 山口 宗彦 中澤 哲夫 長浜 則夫 清水 健作
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1297-1327, 2021 (Released:2021-10-31)
参考文献数
97
被引用文献数
11

2017年台風第21号(ラン)対する上部対流圏の航空機観測を、新たに開発したドロップゾンデシステムを備えた民間ジェット機を用いて行った。これは、日本の研究グループがドロップゾンデを用いて非常に強い台風の内部コアを観測した初めての事例である。本論文では、目の暖気核構造と、それに関連するアイウォールの熱力学的および運動学的特徴について記述する。この台風は観測の2日間において、鉛直シアーが強まる環境で最大の強度を維持した。ドロップゾンデにより、この期間に対流圏中層と上層に温位偏差の極大をもつ二重暖気核構造が維持されたことが捉えられた。この2つの暖気核は相当温位が10 K以上異なり、起源が異なることが示唆された。飽和点分析により、上部暖気核の空気はアイウォールから流入したことが示唆された。鉛直シアーベクトルの左半円側におけるアイウォール上昇気流は、台風の中心側で相当温位が高く絶対角運動量が低い2層の構造を持っていた。飽和点とパーセル法の分析から、この中心側の上昇気流で相当温位が370Kを超える暖かい空気が目の境界層から流入し、最終的に上部暖気核に輸送されることが示唆された。これらの結果から、目の境界層を起源とする高い相当温位の空気の鉛直輸送が、鉛直シアーによる台風強度への負の影響に対抗して、上部対流圏の目の継続的な昇温に寄与するという仮説が導かれた。この研究は、相当温位の計算に必要な温度と湿度の測定が、ドロップゾンデのような消耗型の機器でしか行えない現状において、アイウォール貫通型の上部対流圏航空機観測が暖気核構造の監視に重要であることを示している。
著者
久保 栞 全 邦釘 伊藤 克雄
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
AI・データサイエンス論文集 (ISSN:24359262)
巻号頁・発行日
vol.2, no.J2, pp.87-96, 2021 (Released:2021-11-17)
参考文献数
24

高度経済成長期に建設されたインフラ構造物の老朽化に伴い,膨大な維持管理コストが必要となっている.導水路トンネルにおいては,大型機械の投入が困難である点や点検時に断水を伴う点を鑑み,AI技術を活用した維持管理の効率化が望まれる.本研究では,そのような状況を考慮し,トンネル内壁面における変状箇所やその状態を効率よく把握することを目的として,YOLOv5を用いたチョーキング箇所の検出を行った.その結果,データ数が多く,チョーキング箇所が明瞭である場合には,高精度で検出可能であることを確認した.さらに,IoUが低い場合であっても,チョーキング箇所の一部を捉えられているため,検出結果から劣化状況やその分布を把握することで,劣化原因の究明や劣化状況に合わせた補修計画の立案が可能となろう.
著者
佐藤 秀樹 伊藤 理紗 小野 はるか 畑 琴音 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本健康心理学会
雑誌
Journal of Health Psychology Research (ISSN:21898790)
巻号頁・発行日
pp.210902165, (Released:2022-08-23)
参考文献数
37

The deterioration of workers’ mental health and the resulting decline in their work performance have become significant contemporary problems. This study examined the relationship between reinforcement sensitivity (i.e., the behavioral inhibition/activation systems), rumination, depression, and the decline in work performance among local government employees. All the regular and non-regular employees in a local government aged 20 years or older, working over 29 hours per week, responded to a self-administered, anonymous questionnaire survey. We analyzed the responses of 2,223 employees. The results of structural equation modeling indicated that depression was positively associated with a decline in work performance. Also, the behavioral inhibition system was positively associated with depression, partially mediated by rumination. In contrast, the behavioral activation system was negatively associated with depression, which was not mediated by rumination. These results are meaningful for developing a psychological model of depression related to local government employees’ work performance decline.
著者
松井 照明 田島 巌 牧野 篤司 内藤 宙大 森山 達哉 渡邊 弥一郎 北村 勝誠 高里 良宏 杉浦 至郎 和泉 秀彦 伊藤 浩明
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.234-240, 2022-08-20 (Released:2022-08-22)
参考文献数
19

目的:ボンラクトⓇ iの原料である酵素分解分離大豆たんぱく(酵素分解SPI)は,熱処理と酵素処理により低アレルゲン化されている可能性があり,そのアレルゲン性を確認することを目的とした.方法:1.酵素分解SPI及びその原料のSPIのポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)及び免疫ブロッティングを行った.2.大豆アレルギー患者に対して皮膚プリックテスト(SPT),豆腐または豆乳とボンラクトⓇ iの経口負荷試験(OFC)の比較を行った.結果:1.SDS-PAGEではSPIよりも酵素分解SPIで全体に低分子化されたバンドが確認され,免疫ブロッティングではGly m Bd 28K及び30Kに特異的なバンドが検出されづらくなった.2.2/3例で,大豆と比較して酵素分解SPIのSPT膨疹径が小さかった.OFCでは3/4例でボンラクトⓇ iの症状誘発閾値たんぱく量が多く,全例で重症度が低かった.結語:ボンラクトⓇ iは低分子化されており,アレルゲン性が低いことが示唆された.
著者
伊藤 尚弘 安冨 素子 村井 宏生 森岡 茂己 石原 靖紀 小倉 一将 谷口 義弘 大嶋 勇成
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.217-223, 2022-08-20 (Released:2022-08-22)
参考文献数
10

【目的】福井県では医療圏によって専門医への受診が困難であり,専門的診療を行う施設は限られる.今回,アレルギー診療の均霑化を進めるため実施しているオンライン勉強会の有用性と問題点を検証した.【方法】アレルギーの勉強会はオンライン会議システムを利用し,平日夕方に月1回開催した.勉強会に参加したことがある医師22名と小児アレルギーエデュケーター5名に対し,アンケートを行った.【結果】アレルギー専門医9名,非専門医10名,小児アレルギーエデュケーター4名から回答が得られた.参加した医師の73.7%が診療内容を変えたと回答した.大学病院への紹介に変化があったと解答したのは26.3%であった.従来現地開催で実施していた日本小児科学会福井県地方会と比較して女性医師の参加割合は有意に多かった.【結論】オンライン勉強会は子育て世代の女性医師にとっても参加しやすく,参加者の診療内容に変化をもたらしており,アレルギー診療の均霑化に繋がることが示唆された.
著者
伊藤 宗彦 長内 厚 松本 陽一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.37-49, 2009-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
14

本稿は,製品事業のサプライ・チェーンにおける位置取り競争に直面した企業が,本業の製品事業に付随するサービスの提供によって優位性を獲得していることを示し,製品とサービスの融合による企業の競争優位構築の可能性について検討する.本稿では台湾の半導体製造企業であるTSMC社とフランスの家電量販店であるFNAC社の事例をもとにこれらの議論を行う.我が国の産業が,依然としてものづくりの強み持ちながら十分な収益を獲得できない現状に対して,製品・サービスの一貫した取り組みによる価値獲得の方策を示唆する.
著者
山田 幸三 伊藤 博之
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.89-99, 2008-12-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
25

有田焼と京焼の陶磁器産地を比較事例とし,産地の分業構造を事業システムの概念に依拠して捉えて形成メカニズムを探る.有田では中核となる窯元が技能や伝統を伝承して産地を方向付けする責任を果たし,産地のヘゲモニーをもってきた.一方,京都では生産者の窯元,顧客,問屋が「顔の見える」関係にある.両地域とも窯元は他者の真似をしないという不文律があった.産地の分業構造は人材育成の仕組みを基盤とする競争の不文律に支えられてきたことを主張する.
著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.37-48, 2020 (Released:2021-01-31)
参考文献数
20

昨今目にする水害の現場には,例外なく散乱・滞積する土砂と雑草バイオマスごみが残されている.雑草と豪雨災害の一連の事象との関係について,因果関係をはっきりさせ問題点をしっかり把握・共有し,雑草管理の視点から何が提言できるのかが求められる.そこで,雑草が豪雨被害の発生要因にどのように関わっているのかを検証するために,雑草ウオッチャーによる情報収集を行った.回答総数152の53%が豪雨前に目にする雑草の繁茂状況に関するものであった.河床や堤防には必ずと言ってもよいほどに雑草の繁茂がみられ,川幅の2/3や3/4を雑草が占めている光景から.用水・排水・放水路の内側や両サイド,とくにグレーチングで守られた排水溝を埋め尽くす雑草など,それらの機能が大きく損なわれている様子がうかがわれた. 次いで回答総数の32%が豪雨後の雑草ごみに関わるものであった.ここでは掃流雑草木による橋桁崩壊や護岸工作物崩落の助長,雑草ごみによる排水・放水機能の阻害,土砂・雑草バイオマスごみ量と処理費用,雑草ごみの散乱と景観の悪化などが指摘された.この他鉄道,道路,太陽光発電施設では,斜面崩壊,土砂崩れなど斜面雑草が関わる被害が寄せられた.これらの雑草害は,河川管理,用水・排水路管理,斜面植生管理に関わることであるが,雑草問題は1)河川敷・道路敷・鉄道敷における雑草の異常繁茂,2)豪雨による土砂と雑草繁殖体の流出・拡散,3)雑草バイオマスの増加と雑草管理の欠如,4)雑草害の軽視による豪雨被害の助長,5)豪雨後の土砂・雑草ゴミの清掃に整理することができる.以上の結果から,今後,生活圏のインフラ維持の現場で豪雨災害と雑草害の負のスパイラル拡大を止めるには,雑草対策を優先して取り組む必要性が明らかになった.
著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.27-36, 2017 (Released:2018-02-15)

近年,雑草に起因する様々な社会・環境・経済的問題が頻発しています.そこでNPO法人緑地雑草科学研究所が中心になって,市民科学集団“雑草ウオッチャー”を立上げ,様々な問題を市民の目でウオッチしています.今回の報告は,生活圏において人々を傷つける雑草,いわゆる「傷害雑草」についてです.55件の報告内容は,傷害雑草・雑木は27種類,このうちトゲ(あるいは鉤毛)をもつ種は23種で,とくに多かったのは,ワルナスビの7件、アメリカオニアザミ,ノイバラの5件、メリケントキンソウの4件でした.全体として,分類群ではキク科,ナス科,バラ科,タデ科,ウリ科,ユリ科,ヒユ科,マメ科,イラクサ科,グミ科に,生活史では一年生草本,多年生草本,木本と多岐にわたっていましたが.挙げられたトゲ雑草の大半が近年分布を広げている外来種であることは注目すべき点です.傷害雑草の部位としては,茎が最も多く,果実,茎葉,葉,葉腋の順で,葉・茎・花・果実すべてが傷害部位であるのはアメリカオニアザミ1種でした.トゲ以外に負傷の原因になる部分は,鋭い葉縁,長く横走する蔓,硬い切断部,衣服付着果実,刈取り時の粉末(揮発性物質の吸引が原因か)が挙げられました.最もトゲの危険性(ケガの大きさ・痛さの程度)の高い種類は,アメリカオニアザミ,ニセアカシヤ,サルトリイバラ,ノイバラかと思われます.