著者
佐藤 文香
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.37-50, 2016

<p>本稿は、軍隊を魅力化する資源として「平等」と「多様性」が用いられるという動向を批判的に吟味するものである。近代国民国家は「国民皆兵」を原則として誕生したが、実際にはこの「国民」は人種化・ジェンダー化・セックス化されたものだった。国民国家が市民権と兵役をセットにすることで、軍隊に参与できる者を頂点に「国民」は序列化されたのである。人種、ジェンダー、セクシュアリティを理由に軍隊から周縁化された人々はこのヒエラルキーの下位におかれ、それゆえ、軍への完全なる包摂を主張してゆくこととなった。</p><p>本稿ではアメリカをとりあげ、第一節で、軍への包摂を求めた黒人、女性、LBGT の歩みを概観する。包摂を求めて闘ってきた人々の歴史は「勝利」のように見えるが、一方で、彼らの運動は「軍事化」されたということもできる。</p><p>このような視点にたって、第二節では米軍における現状を批判的に検討する。今や各軍のウェブサイトは「多様性」と「機会均等」を言祝ぐ言説であふれかえっている。だが米軍は、貧しい若者や先住民、市民権を欲する移民たちからおおむねなりたっており、彼らのアイデンティティをアメリカ人ではない発展途上国出身の民間軍事安全保障会社の低賃金労働者たちが支えているという実態がある。</p><p>こうした米軍の事例を手がかりとして、最後に日本の現状に対するささやかな示唆を提示する。2015 年の女性活躍推進法成立を受けて、防衛省は戦闘機パイロットの配置を女性に開放することを決定した。わたしたちはこの決定を、現政権のおしすすめるジェンダー化された政治の文脈のなかで考えてみる必要がある。「平等」と「多様性」を活用しながら社会の軍事化がひそやかに進行していくというこの事態は、今まさにわたしたちの足元で進行中の出来事でもあるのだ。</p><p></p>
著者
佐藤 穏子
雑誌
奥羽大学歯学誌 (ISSN:09162313)
巻号頁・発行日
vol.36巻, no.4号, pp.129-138, 2009-12

ポリプロピレン製ポイントとしてフレックスポイント(FP)の安全性を調べる目的で、ラットの皮下結合組織への埋入試験、細胞毒性試験、根管充填材からの無機成分溶出試験を行い、ガッタパーチャポイント(GP)と比較検討した。その結果、ラット背部皮下結合組織への埋入試験では、炎症性反応はFPのスコアはGPより有意に低く、7日以降の被包形成においてもFPのスコアは有意に低く、FPはGPより組織への親和性が高いと考えられた。細胞毒性試験ではFPは対照群に比較して有意差が認められず、細胞増殖を阻害する成分がポイントから溶出していないと考えられた。無機質溶出試験ではFPから亜鉛の溶出は認めず、バリウムの溶出は認められたがGPに比較して有意に少なく、ビスマス・鉄・マグネシウムの溶出も非常に微量であり、FPはGPに比較し溶出される無機質の量は少なかった。以上より、FPはGPに比較して、生体に対してより組織親和性のある安全な根管充填材であることが示唆された。
著者
稲盛 和夫 馬 雲 佐藤 吉哉
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1465, pp.98-103, 2008-11-10

百年に1度と言われる未曾有の金融危機と、世界同時不況への不安。先の見えない混迷の時代に、トップはいかに行動し、社員を導くべきか。日本を代表する哲人経営者、稲盛和夫・京セラ名誉会長と、中国最大のインターネット企業グループを率いる馬雲・アリババ会長兼CEO(最高経営責任者)が、来るべき不況への心構えから人間中心の経営まで、神髄を語り合った。
著者
竹井 真理 柳田 紀之 佐藤 さくら 海老澤 元宏
出版者
日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.22-26, 2018 (Released:2018-03-31)
参考文献数
16

2008年に二重抗原曝露仮説が提唱され, 抗原に対する感作経路および食物アレルギー発症経路として炎症のある皮膚面, つまり湿疹の存在が重要視されるようになった. 乳児期の湿疹・アトピー性皮膚炎の存在は食物アレルギー発症のリスク因子であることはすでに報告されている. われわれが行った乳児湿疹を認める生後1か月児のコホート研究の中間解析結果からは, 乳児期早期発症の湿疹は食物アレルギー発症のリスク因子であり, 特に持続する湿疹病変, 皮膚バリア機能異常の存在が食物アレルギー発症にかかわる重要な因子であることが示唆された. 皮膚バリア機能を念頭においた乳児の湿疹に対する早期介入が食物アレルギーの発症予防につながる可能性が示唆されるが, 今後の前向き研究での検証が期待される. また湿疹病変がなくても食物アレルギーを発症している児がいることは事実であり, 感作経路や発症経路の解明も含め, まだ検討されるべき課題は多い.
著者
神津 博幸 王 政 王 在天 中嶋 光敏 Neves Marcos A. 植村 邦彦 佐藤 誠吾 小林 功 市川 創作
出版者
Japan Society for Food Engineering
雑誌
日本食品工学会誌 (ISSN:13457942)
巻号頁・発行日
pp.17505, (Released:2018-05-19)
参考文献数
29
被引用文献数
1 3

微小油滴を包括させたエマルションハイドロゲルは,その力学特性と組成が容易に調整できることから,モデル食品として使われている.著者らが開発してきたヒト胃消化シミュレーター(Gastric Digestion Simulator; GDS)は,胃のぜん動運動を模擬可能であり,消化中の食品の崩壊過程の再現と観察をすることができる.本研究では,GDSを用い,様々な力学特性を有するエマルションハイドロゲルの胃消化挙動について検討することを目的とした.微小油滴(大豆油)を包括させたエマルションハイドロゲルを,次の4種類のゲル化剤の組合せで調製した:寒天(AG),寒天+ネイティブ型ジェランガム(AG-NGG),脱アシル型ジェランガム(DGG),脱アシル型ジェランガム+ネイティブ型ジェランガム(DGG-NGG).GDSを利用したin vitro消化試験において,DGGとDGG-NGGのエマルションハイドロゲルは,ぜん動運動により発生微小油滴が放出されることなくゲル粒子が収縮した.一方,AGとAG-NGGのエマルションハイドロゲルでは,ゲル粒子が崩壊し,微小油滴が放出された.また,AGと比較してAG-NGGの方が,崩壊率と放出率が共に低くなることがわかり,崩壊率と放出率には線形の相関関係があることが明らかになった.これら2つのエマルションハイドロゲルでは,破断応力と破断歪率がそれぞれ異なっていた.本研究の結果により,ヒトの胃において,脂質の含有量を変えることなく,ゲル粒子からの脂質放出量を制御できる可能性が示唆された.
著者
井上 優 原田 和宏 佐藤 ゆかり 樋野 稔夫
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.158-159, 2016 (Released:2016-04-20)
参考文献数
4

本研究の目的は,二重課題処理能力,転倒リスク,転倒発生率に対する二重課題トレーニング(Dual-task training:以下,DTT)の効果に与える脳機能障害の影響を検証することである。本研究に参加した脳卒中患者は18 名で,DTT 実施後,Dynamic gait index(以下,DGI)得点は有意に改善し,転倒リスクが軽減する傾向が示された。前頭葉機能はFrontal assessment battery,注意機能はTrail making test part A とpart B の差分により評価し,DGI 得点変化量との関連性を相関分析により検証した。その結果,両者ともに有意な相関関係は示さなかった。この結果は,加齢や脳の損傷により生じた脳機能障害の程度に影響を受けずDTT の効果が得られることを示唆するものであり,DTT 導入に対する基礎資料として有用な結果と推察された。
著者
太幡 直也 佐藤 広英
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
pp.27.1.12, (Released:2018-05-18)
参考文献数
17

情報プライバシーは,インターネット(以下,ネット)上での不特定多数の他者への自己情報公開と負の関連がみられることが報告されている。本研究では,ネット上での未知の他者への自己情報公開を測定し,情報プライバシーと自己情報公開との関連を,対面の予期を操作して検討した。大学生に対し,ネット上で未知の大学生とチャットをするように告げた。対面の予期あり条件の実験参加者には,チャットをする相手と後日会ってもらう予定であると伝えた。一方,なし条件の実験参加者には,そのように伝えなかった。チャットをする前に,実験参加者に,相手に示すプロフィールを作成するように求めた。その結果,なし条件では,識別情報へのプライバシーが低い者ほど,プロフィール上で自己に関する事柄を多く表出していた。一方,あり条件では,情報プライバシーとプロフィール上の自己情報公開には関連はみられず,コミュニケーション動機が高い者ほど,プロフィール上の情報入力数が多く,また,プロフィール上で自己に関する事柄を多く表出していた。
著者
櫻井 弘道 山本 正伸 関 宰 大森 貴之 佐藤 友徳
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

北海道は、東アジアモンスーン影響下の北端に位置しており、夏季モンスーンが強く吹くと、北海道に太平洋からの湿った空気が運ばれる。本研究では、別寒辺牛高層湿原から採取した 約 4mの泥炭コアに含まれるミズゴケなどの植物のセルロースの酸素同位体比を分析し、夏季東アジアモンスーンの古気候復元を試みた。ミズゴケの酸素同位体比は、ツルコケモモやチシマノガリヤスといった高等植物の酸素同位体比よりも、常に低かった。ミズゴケの酸素同位体比は降水の酸素同位体比を直接的に反映しているが、高等植物の酸素同位体比は蒸散によって高くなっているのである。よって、このミズゴケと高等植物の酸素同位体比の差は、相対湿度のプロキシとなる可能性がある。ミズゴケの酸素同位体比の変動は、約1500年前に低下し、約1100年前に上昇しており、これは暗黒寒冷期と中世温暖期に該当すると考えられる。これは、夏季モンスーンによる降水量が約1500年前に少なく、約1100年前に多いということを示唆する。また、高等植物とミズゴケの酸素同位体比の差は、ミズゴケの酸素同位体比と負の相関を持つ。これは、夏の降水量が多いときに相対湿度が高くなっていたことを示唆しており、梅雨前線の活動によって夏の北海道に長雨が降る「蝦夷梅雨」という現象に似ている。蝦夷梅雨は、夏季東アジアモンスーンが強い時に起きる典型的な現象である。したがって、約1100年前の暖かく湿った気候は、夏季東アジアモンスーンの活動が強くなったことによって、夏に頻繁に蝦夷梅雨が起きていたことを反映していると考えられる。
著者
多田 幸雄 数野 秀樹 佐藤 勉 鈴木 則彦 江村 智弘 矢野 伸吾
出版者
Chem-Bio Informatics Society
雑誌
Chem-Bio Informatics Journal (ISSN:13476297)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.19-29, 2017-03-24 (Released:2017-03-24)
参考文献数
33

トリフルオロチミジン(TFT)は抗腫瘍活性を有するが、チミジンホスホリラーゼ(TP)により不活性なチミンに容易に代謝されるので、TFT単独では臨床で満足な抗腫瘍活性を示すことができない。ヒトのTP (HTP) はヒトのピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼの主な酵素である。従って、TFTの抗腫瘍活性を維持するにはHTP阻害薬を開発する必要があった。ここでは、SBDDとclassical QSARによるHTP阻害薬のドラッグデザインのプロセスを示す。チミンをシード化合物、5-クロロウラシル(3)をリード化合物として選択した。リード化合物(3)のC6位にイミノ基の導入は阻害活性を向上した。結果として5-chloro-6-[1-(2-iminopyrrolidinyl) methyl] uracil hydrochloride (TPI)を臨床試験候補化合物とした。そして、TAS-102(配合モル比 TFT:TPI = 1: 0.5)はトリフルリジン/チピラシル(ロンサーフ)として日本、欧州、米国で転移性直腸がんの治療薬として認可された。
著者
佐藤 朱美 牧田 佳巳
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
海岸工学論文集 (ISSN:09167897)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.1276-1280, 2007 (Released:2010-06-04)
参考文献数
9

The disposal of a large amount of scallop shell becomes a problem in Hokkaido. Authors developed the artificial reef that used the scallop shell as a measure ofwater pollution and sediment contamination in ports and harbors. Experimental reefs were installed at a port, then the species swarming the reefs were identify, counted and analyzed. In this study, the organic removal capacity of detritivorous organisms and their purification rates in the area were estimated. The organic removal capacity per 1-gram biota was found to be 20.0 mg-C/gDW/day for organic carbon and 0.327mg-N/gDW/day for organic nitrogen. It can be explained thatthe reef creates the biotope for the species to the space between the shells andthat it is useful for the removal of organism in the port.
著者
佐藤 良一
出版者
経済理論学会
雑誌
季刊経済理論 (ISSN:18825184)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.20-30, 2013-10-20 (Released:2017-04-25)

The difference of the idea in economics stems from the approach to the question: how to answer the mechanism of a market. The financial crisis in 2008 could be interpreted as the end of 'Market fundamentalism', however, the situations has been almost the same before the crisis. The 'market' is still the subject when businessmen talk about the economic problems. We have to tackle with the fundamental question: what is the core for ordinary people who sell labor-power for their subsistence. This paper consists as follows. In section I the argument of 'How market crowd out morals' by Sandel, the critics by Bowels and Gintis, and the reply to them are introduced. Needless to say, the fundamental unit, which organizes a society, should be a human being. The hypothesis on its behavior is indispensable for an economic theory. Neoclassical theory adopts the assumption of so-called homo-economicus. An alternative to this is 'Reciprocans', which is presented by US radicals. The distinction between these two is examined in the section II. When we try to present an alternative to the status quo from the viewpoint of 'a harmonious society', the development of the situation must be confirmed correctly. The recent change of the wage share in the US shows the severe conditions for working people. Assuming the capitalist way of management, the fundamental relations between capital and labor cannot be harmonious but conflict. As a Keynes model teaches us, the real wage rate must be reduced when the capitalist increase the employment. Profit maximization can be satisfied when the real wage rate is equal to the marginal product of labor. According to this condition, the inverse relation between an employment and real wage holds. Regrettably new prospects for an alternative won't be opened unless we could succeed in making some drastic change. If we pursue the harmony among people, the point is the feasibility of an alternative and the potential path to a 'new society'. For the present, we have to take a realist view of 'capitalist' economy. This means that we have to change the capitalist way of management step by step(section III).
著者
河辺 誠弥 谷口 秀夫 佐藤 将也
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2018-OS-142, no.2, pp.1-8, 2018-02-20

不揮発性メモリを有効利用するソフトウェア技術が研究されている.プログラムの実行を高速化する方式として,揮発性メモリと不揮発性メモリが混載された計算機を対象に,新しい実行プログラムのファイル形式 (OFF2F) が提案されている.OFF2F は,プログラムをメモリ上で実行するときのアクセス形態に着目し,2 つのファイルからなる実行ファイル形式である.本稿では,FreeBSD 11.0-RELEASE の初期化処理における OFF2F の効果予測を示す.