著者
沖潮(原田) 満里子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.125-136, 2016 (Released:2018-06-20)
参考文献数
29
被引用文献数
2

本研究は,障害者のきょうだいである筆者による自己エスノグラフィを通して,障害のある妹との関係や社会との関わりを明らかにした上で,障害者のきょうだいを生きることの内在的な本質を探ることを試みている。また,対話的な自己エスノグラフィという従来の自己エスノグラフィの批判を乗り越え得る方法を適用したことから,自己エスノグラフィにおける対話の可能性についても検討を行なった。筆者が妹の発達を感じるという判断がこれまで生きてきたどのような文脈の中で起きたのかという研究設問に対して,筆者の自己物語をデータとし,さらに分析に関する対話者との対話もまたデータとし,円環的にデータ収集と分析を繰り返した。結果では,筆者の妹の発達の捉え方の変化が時系列に整理された。次いで,妹の発達を期待していなかった自分自身の発見という筆者の物語から,障害者のきょうだいが,存在するだけで価値があるという家族的な価値観と,経済的な活動等ができることに意味がある社会的な価値観の狭間で揺らぐさまが明らかになった。さらに,筆者が望んでいた妹との切り離しに対して疑問を抱くようになった姿がみられた。このことから,青年期の発達課題でもあり社会的言説でもある,人は自立して生きていく,つまり障害者もそのきょうだいも別々に生きていくというストーリーへの追従と,それへの抵抗の間に揺らぐという点が障害者のきょうだいの心理的特徴として明らかになった。
著者
原田 拓真 猪島 綾子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.6, pp.306-318, 2018 (Released:2018-12-08)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

パルボシクリブは世界で最初のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4および6阻害薬であり,CDK4または6とサイクリンDから成る複合体の活性を阻害することで細胞周期の進行を停止させ,腫瘍の増殖を抑制すると考えられる.非臨床モデルを用いた検討でパルボシクリブに感受性を示す細胞株の多くがエストロゲン受容体(ER)陽性であることが確認され,パルボシクリブが抗腫瘍効果を示すには網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)の発現が必要であることが確認された.また,ER陽性ヒト乳がん細胞株を用いた試験から,抗エストロゲン薬との併用投与による抗腫瘍作用の増強が確認された.これらの非臨床試験データに基づき,ホルモン受容体陽性・ヒト上皮増殖因子受容体2陰性(HR+/HER2-)の進行・再発乳がんに対し抗エストロゲン薬との併用を行う臨床試験を行った.進行乳がんに対する全身抗がん療法歴のないER+/HER2-の閉経後進行乳がん女性患者を対象としてパルボシクリブ+レトロゾール併用投与の効果をレトロゾール単独投与と比較したPALOMA-2試験では,パルボシクリブ併用投与群で主要評価項目である無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)の有意な延長が認められた.抗エストロゲン薬を用いた内分泌療法に抵抗性を示したHR+/HER2-の進行乳がん女性患者を対象とし,パルボシクリブ+フルベストラント併用投与の効果をフルベストラント単独投与と比較したPALOMA-3試験では,中間解析において主要評価項目であるPFSに統計学的に有意な延長が認められたため,試験は有効中止となった.また,これらいずれの試験でも,パルボシクリブ投与群において有害事象による減量または休薬の割合は高かったものの,投与中止の割合はプラセボ投与群と大きく変わるものではなかった.
著者
川村 潤子 / 原田 忠直
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = The Journal of Economic Studies (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.59-81, 2018-09-30

本論は,「子ども」を保育園などに預けることなく,母親たちの相互扶助システムのもと,新たな働き方を模索するNPO 法人マザーズライフサポーターの成立経緯や諸活動を紹介する.その上で,マザーズライフサポーターの運営方法(とくに経済活動)と中国の「包」的営みとの類似性から,その活動の社会的な意義を問い,「家族」にいかなる影響を与えるのかを考察する.
著者
立石 欣也 吉越 恆 山本 晴彦 岩谷 潔 金子 奈々恵 山本 実則 原田 陽子
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.19-28, 2012 (Released:2017-02-28)

本研究では、2004年に世界遺産に登録された和歌山県の「熊野参詣道」を対象として、小型で安価な焦電型人感センサを用いて、観光客の動態を分析した。人感センサは、観光名所である大門坂および険しい山岳ルートに位置する円座石に設置した。調査は、2010年4月23日から2011年6月16日に実施した。実測値との比較を行い、人感センサによるカウント値を補正した値を、通過人数とした。大門坂は円座石に比べ、通過人数が多く、大型観光バス等を利用して、気軽に世界遺産の雰囲気を楽しむ観光客が多いことが分かった。このように、人感センサは小型で安価であるため、多数の設置が可能であり、地域的な観光客の動態の把握が可能である。
著者
原田 悦子
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.322-336, 2017 (Released:2019-03-22)
参考文献数
28
被引用文献数
1

Making artefacts more friendly and usable is now becoming an important issue in many fields, where either cognitive psychology or cognitive science can contribute, and such contributions are being recognized as an international standard (ISO 13470 or ISO 9241-210). Even though research or methodologies/skills in psychology are useful in these areas, a standard career and employment in psychology for this purpose has not been established. In this paper, we introduce some examples of the contributions of psychology to design areas, and discuss the reasons for the lack of jobs/careers in this area for people who study psychology.
著者
原田 大 北村 正樹
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.679-683, 2014 (Released:2016-09-17)
参考文献数
22

「朝起きて,コーヒーを片手に朝食をとり,いつもの薬を飲んで,タバコを一服…」.そんな何気ない日常の行動が,時として有害事象の原因となる場合がある.現在まで,食事や嗜好品と薬には,注意しなければならない組み合わせとして知られるものが幾つかある.それによって薬の効果が減弱してしまうこともあれば,逆に増強することもある.ここでは,主な食品や嗜好品と薬剤との相互作用について述べていきたい.
著者
原田 昌博 Masahiro HARADA
出版者
鳴門教育大学
雑誌
鳴門教育大学研究紀要 = Research bulletin of Naruto University of Education (ISSN:18807194)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.217-236, 2019-03-11

Das Ziel dieser Abhandlung ist es, der Forschungsgeschichte über die politische Gewalt in Großstädten wie Berlin in den Phasen der relativen Stabilisierung und der Auflösung der Weimarer Republik (1924-1933) zu folgen, die Diskussionspunkte in der Forschung aufzuklären und auf die darausfolgenden Aufgaben hinzuweisen. Das Thema wurde zuerst in den 1960er Jahren haupusächlich durch Organisationsanalysen der politischen Parteien und Kampfbünden gemacht. Diese spielten in den Straßenkämpfen die Rolle als Subjekte der Gewalt. In den1980er Jahren hatten die Historiker/-in im angloamerikanischen Raum ,,die Sozialgeschichte der politischen Gewalt“ eingeleitet und dabei insbesondere die Situation in Berlin als Gegenstand der Forschung entdeckt. Erst seit den 1990er Jahren sind ähnliche wichtige Monografien auch im deutschsprachigen Raum veröffentlicht worden. Die Sozialgeschichte der politischen Gewalt hat das Augenmerk auf die ,,Orten der Gewalt“ wie Nachbarschaft, Straßen und Plätze, oder Kneipen und Lokalen im Arbeiterviertel gelegt und versucht, die wirklichen Sachlagen der politischen Gewalt im Alltag zu erfassen. Von nun an muss man sie vor allem unter den Gesichtspunkten wie ,,Paramilitarismus“, ,,politische Kultur“ oder ,,Propaganda“ weiter analysieren, indem man mehrere historische Quellen wie z.B. Polizeiakten oder Gerichtsakten analysiert. Die Vertiefung dieser Forschung kann nicht nur zu einem Erklärungsfaktor, mit dem man den Übergang von der Weimarer Republik zur nationalsozialistischen Herrschaft auslegen kann, führen. Darüber hinaus sollte auch Material, aus dem man an ,,Gewalt in der Bürgergesellschaft” denken kann, untersucht werden.
著者
中川 静紀 政本 浩二 住吉 博道 原田 浩
出版者
The Japanese Society of Toxicology
雑誌
The Journal of Toxicological Sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.57-60, 1984-02-25 (Released:2008-02-21)
参考文献数
5
被引用文献数
25 36

The acute toxicity test of garlic extract was studied in Wistar rats and ddY mice. The LD<50> values of garlic extract by P.O., I.P. and S.C. administration were estimated over 30 ml/kg respectively in male and female of both rodents. In 30 ml/kg of I.P. group, five of ten in male rats and one of ten in female rats were died within a day after administration, however no specific signs due to garlic extract were observed in survivals for 7 days.
著者
原田 優美 馬渡 一諭 下畑 隆明 中橋 睦美
出版者
徳島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では近年明らかとなった、酸化傷害によるカンピロバクターの病原性(運動性、侵入性)抑制機構を参考に、UVA照射による酸化傷害も、菌の病原性を抑制し、食肉への拡散・侵入防止に役立つと考えその有用性について検討した。(1)カンピロバクターはUVA紫外線に強い感受性を示し、強い殺菌効果を示すことが明らかとなった。(2) またUVA紫外線照射により酸化傷害が引き起こされており、さらに(3)菌の宿主細胞への侵入性が低下することも明らかとなった。以上の結果からUVA紫外線照射は、その殺菌効果に留まらず、酸化傷害を介した病原性低下も引き起こすため、食中毒予防の新しいシステムとして有効性が示された。
著者
原田 幹生 宇野 智洋 佐々木 淳也 村 成幸 高木 理彰
出版者
一般社団法人 日本整形外科スポーツ医学会
雑誌
日本整形外科スポーツ医学会雑誌 (ISSN:13408577)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.22-26, 2022 (Released:2022-03-31)
参考文献数
9

小中学野球選手の睡眠を調べ,肩肘痛や投球パフォーマンスとの関係を検討した.野球肘検診に参加した小中学野球選手80名を対象として,アンケートを用いて,投球時の肩肘痛,投球パフォーマンス(KJOCスコア),および睡眠を調べた.肩肘痛を41名(51%)に認め,KJOCスコアは平均91点(38~100)であった.肩肘痛は,睡眠の質がとても良い選手(29%)に比べ,それ以外の選手(63%)で有意に多かった(p<0.05).睡眠において,就眠中の寒さ暑さ,睡眠時間が7時間以内,眠気による授業の支障,および起床時のすっきり感がKJOCスコアの低下と関連していた(いずれもp<0.05).適切な睡眠により,肩肘痛の予防や投球パフォーマンス低下の予防に繋がる可能性がある.
著者
中出 美代 川田 尚弘 井成 真由子 原田 哲夫 杉山 由佳 松島 佳子 竹内 日登美
出版者
東海公衆衛生学会
雑誌
東海公衆衛生雑誌 (ISSN:2187736X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.131-137, 2021-07-03 (Released:2021-08-04)
参考文献数
34

目的 大学生アスリートを対象に,競技力によって食習慣や食意識,睡眠習慣など生活習慣の管理に差異が見られるかについて,競技力の異なるチームに属する学生の間で比較検討を行った。方法 2016年12月,大学生サッカー部部員を対象に自記式質問紙調査を実施し,18~23歳の111名 (男性) から回答を得た (回収率100%)。調査内容は,食習慣,食意識,健康感,睡眠習慣,朝型・夜型質問紙 (Torsval&Åkerstedt (1980) 版) などである。①朝食摂取頻度,食事の規則性 (②朝食・③夕食),主食・主菜・副菜を揃えた食事の頻度 (④朝食・⑤夕食),⑥睡眠時間,⑦概日タイプ度の7項目について,良好を1として合計点 (1~7点) を算出し生活管理能力得点とした。分析は,競技力の高いAチームと控えチーム (B,C,D) に分け,競技力による食習慣の乱れや食意識と睡眠習慣の差異について,χ2検定およびMann-Whitney U-testなどによって検討した。結果 食習慣では,競技力の高いAチームの方が朝食を定時にとる割合が有意に高く (p = 0.010),主食・主菜・副菜を揃えた食事をとる頻度も高かった。また食意識についても,競技力の高いチームの方が,食事状況や栄養摂取についての評価が高かった。平日の平均睡眠時間は,Aチームが7時間40分,控えチームが6時間52分と50分ほどの開きがあり (p < 0.001),睡眠時間の充足度もAチームの方が高かった。概日タイプ度では,Aチームの方が朝型の傾向を示した。生活管理能力得点の平均得点は,Aチーム4.20点 (公式試合のスターティングメンバーのみでは5.27点),控えチーム2.40点であった。生活管理能力得点と食意識,健康感の間で,生活管理ができているほど食意識が高く,かつ健康と感じているという有意な相関がみられた。結論 競技力の高いチームの方が総じて生活管理能力が高かった。食や健康に対する意識の高さが自己管理能力の高さにつながり,実際に健康感も高まると思われる。食意識を高めるような啓発活動と,基本的な食習慣・生活習慣の改善が,学生アスリートの競技力向上に有効である可能性が示唆された。
著者
原田 康平 真木 康隆 石栗 航太郎 奥村 正弘 古賀 進一郎
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
交通・物流部門大会講演論文集 2018.27 (ISSN:24243175)
巻号頁・発行日
pp.2103, 2018 (Released:2019-06-25)

The train positioning system by means of the ATS beacon used in the pendulum car requires sorting out the ATS beacon and updating the in-vehicle database according to the relocation of ATS beacons. Under the method proposed, track curvature data calculated by means of dividing the yaw rate of the carbody by the running speed are held as the on-board database, and the position of the train is detected based on the comparison with the track curvature data during running. In this case, applying a spatial filter improves detection accuracy and reduces database updating frequency. This paper presents the outline of the system and the detection accuracy.
著者
平 朝彦 飯島 耕一 五十嵐 智秋 坂井 三郎 阪口 秀 坂口 有人 木川 栄一 金松 敏也 山本 由弦 東 垣 田中 智行 西村 征洋 鈴木 孝弘 木戸 芳樹 渡邊 直人 奥野 稔 井上 武 黛 廣志 小田 友也 濱田 泰治 室山 拓生 伊能 隆男 高階 實雄 勝又 英信 原田 直 西田 文明 南川 浩幸 金高 良尚
出版者
The Geological Society of Japan
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.7, pp.410-418, 2012
被引用文献数
5

東北地方太平洋沖地震において関東地方を中心に前例のない広域的な液状化被害が報告されている.都市地盤における液状化現象を理解し,その対策を立てるには,液状化が地下のどこで起ったのかを同定することが極めて重要である.本報告では,千葉県浦安市舞浜3丁目のボーリングコア試料に対して,X線CTスキャン解析を実施し,非常に鮮明な地層のイメージの取得に成功した.この結果,地面下13 mまでの地層を5つのユニットに区分することができ,その中で6.15 mから8.85 mまでの間で地層のオリジナルな構造が破壊されており,液状化した層であると判定した.この手法は,今後の液状化研究に関して,大きな貢献が期待できる.