- 著者
-
土屋 純
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会秋季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.140, 2010 (Released:2010-11-22)
本発表では「商品」の持つ意味に着目し,都市研究と流通システム研究との新たな融合を試みたいと考える.比較的古くから存在する商品であり,近年では流通チャネルの多様化が進んでいる「化粧品」に着目していきたい.
流通システム研究における「商品」の取り扱い
地理学における流通システムに着目した都市研究は,(1)都市空間における商業の集積・分布パターンを検討した研究,(2)商品フローに着目した流通システム研究,(3)都市社会と消費との関係に着目した研究,の3つに大別できると考える.流通システムを取り扱っている以上,商品について少なからず考察が行われていると考えられるが,では3つの分野ではどのように「商品」を取り扱ってきたのであろうか.
まず,(1)の分野では,商品への着目は概して少なかったといえよう.ベリーの中心地研究を引用しつつ,店舗の集積や分布状況について検討し,商業と都市構造との関係について検討してきた.
(2)の分野では,商品のフローに着目し,主にチェーンストアなどを題材として,地理的に広がる市場に対してどのように商品が配送されているのか,配送コストに着目して分析してきた.その際の商品の取り扱いは,大量販売としての商品の「量」,配送コストなどの「コスト面」への着目である.こうした研究では,流通システムの経営的,経済的仕組みを解明することに主眼が置かれていることから,流通の最終段階である「消費」に対する考察が十分に行われていなかった.その結果,商品の質的側面について検討してこなかったといえよう.
都市研究における消費への着目
では,(3)の分野では商品はどのように取り扱っているのであろうか.注目したいのは,アメリカの諸都市におけるジェントリフィケーション研究における消費への着目である.
例えば,Smith(1996)は,スターバックスコーヒーに着目し,ジェントリフィケーションとの関わりを検討するために,スターバックスにおける店舗デザイン,商品開発,サービスを考察している.(1)都市のインナーシティにおける再開発地域という環境が,1990年代中頃までにスターバックスの営業戦略を形作り,(2)シアトル系コーヒーという商品文化がチェーン展開によって様々な地域に展開していったこと,を指摘している.ジェントリフィケーション研究では,新中間層の消費に着目して,新たな食文化を題材として場所の意味について考察しているのである.
他にも(3)の分野では,ショッピングセンターの建造環境や,グローバルな商品連鎖と消費,など様々な側面に着目した研究が行われており,欧米諸国の都市社会を舞台に議論が進んでいる.
化粧品流通から日本の都市を捉える
本発表では,日本における化粧品の流通システムについて検討し,都市空間,消費との関わりについて捉えることを試みる.欧米のように日本の都市社会でも階層分化が進行し,消費が多様化していると考えられるが,(1)化粧品流通はどのように進化しているのか,(2)都市空間の中でどのように再編成されているのか,の2点ついて検討できればと考える.
化粧品とは,基礎化粧品とメークアップ化粧品といった顔につけるものから,ボディ用商品など多岐にわたる.化粧品の流通システムは,百貨店のインショップでのメーカーの直接販売だけでなく,コンビニやドラッグストアでの大量販売も行われ,近年ではインターネットやテレビなどの通信販売も発展している.また,@コスメなどインターネットの書き込みサイトも登場し,新たな社会ネットワークも発達している.
参考文献
Michael, D. Smith. 1996. The empire filters back: consumption, production, and the politics of Starbucks coffee. Urban Geography 17: 502-525.