著者
橋壁 道雄 大塚 俊 原 典昭 山蔭 明生 山崎 雙次
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.296-302, 2001-06-01 (Released:2010-09-02)
参考文献数
23

当科における全身性強皮症(以下SSc)患者62例に閉口時および最大開口時に顎関節単純X線検査を行い,関節可動域を見ることにより開口障害の有無について検討を行い,SSc 62例中24例(38.7%)に開口障害を認めた。病型別,検査所見などにっいては,diffuse type,抗Topoisomerase I抗体(以下Topo I)陽性例,開口度40mm未満の症例,橋本病合併例に有意に開口障害を伴うことが多く,また,pitting scar(+)例に開口障害を伴う割合が高い傾向がみられた。開口障害(+)例は開口障害(-)例に比べ有意に顔面のスキンスコアが高値であり,トータルスキンスコア高値,罹病期間長期,血漿エンドセリン高値,血清トロンボモジュリンが高値の傾向であった。SSc患者に顎関節単純X線検査を行うことは,関節可動域や下顎頭の形態変化を観察でき,SScの重症度を評価する上で有用な方法であると思われた。
著者
稲垣 優 田辺 俊介 吉田 亮介 有木 則文 常光 洋輔 大塚 眞哉 三好 和也 大崎 俊英 淵本 定儀 湯村 正仁 堀 圭介 友田 純
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.653-657, 2005 (Released:2006-11-24)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

患者は67歳女性. 主訴は呼吸困難. C型肝硬変症にて当院内科にて治療中, 胸腹水貯留にて入院. 胸水に対し胸腔ドレーンを挿入したが, 1.5l/dayの胸水を認め, ドレーンクランプにて呼吸困難を生じ, 胸水コントロールのため, 当科紹介となった. Child-Pugh score9点Bであった. CTにて右胸腔内に著明な胸水貯留を認め, 肺実質は虚脱していたが, 腹水は少量であった. 以上より, 胸腔静脈シャントの手術を行った. 手術は腹腔静脈シャント用のDenver shuntシステムを用いた. 術後経過は当初300回/dayでポンプを押していたが, 胸水の改善が見られず, 回数を増やすと共に胸水穿刺を適時行うことにより, 胸腔内で肺の再膨張が見られるようになり, 患者の呼吸状態も改善し, 現在ポンプのみにて平衡状態が保たれている. 末期肝硬変患者で腹水が少量で, 難治性胸水を認める症例では積極的に胸腔静脈シャントを留置することにより, 患者の状態が改善できると考えられた.
著者
才藤 栄一 横田 元実 平野 明日香 大塚 圭 園田 茂
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.87-92, 2012-04-01 (Released:2014-01-15)
参考文献数
10
被引用文献数
2
著者
大塚 生美 立花 敏 餅田 治之
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.41-50, 2008-07-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
9
被引用文献数
2

1980年代半ば以降アメリカでは,年金基金や職員組合の退職金基金などの巨大投資ファンドを背景とした林地投資経営組織(TIMO)や,不動産投資信託(REIT)等によって林産会社の社有林が買収され,これまで見られなかった新たな大規模森林所有が形成されている。この林業を巡るアメリカの新たな動きは,アメリカ固有の特徴的な動きであるというばかりでなく,林業経営の世界史的な流れの中で捉えるべき育林経営の新たな段階の到来を示唆しているのではないかと我々は考えている。本稿では,それを明らかにするため,(1)アメリカにおける大規模育林経営の収益性,(2)林地評価額の上昇による林地売却の有利性,(3)不動産投資信託に対する税の優遇措置,の3つの課題を考察した。その結果,育林経営の内部収益率は概ね6%であることから,米国債や銀行利回りより高いリターンが期待できること,林産会社の所有林は,長い間産業備林として所有されていたため,今日の実勢価格はそれよりはるかに高く,林地評価額の上昇がもたらした林地売却に有利性があること,REITの経営によって得られた収益に対しては,二重課税を回避するため支払配当控除ができる税の優遇措置があることがわかった。
著者
中村 宗和 赤沼 耕一 大塚 啓一 鈴木 羚至
出版者
The Japan Petroleum Institute
雑誌
石油学会誌 (ISSN:05824664)
巻号頁・発行日
vol.16, no.7, pp.572-577, 1973-07-01 (Released:2009-01-30)
参考文献数
15

The dehydrogenation of 2, 3-dimethylbutane, 3-methylpentane and methylcyclopentane over Pt-C catalyst was studied at low conversion levels and temperatures ranging from 400 to 480°C, under the hydrogen atmospheric pressure.The dehydrogenated products included all possible alkenes and cycloalkenes possessing the same skeletal structures as raw materials and were approximately in thermodynamic equilibrium at conversions as low as 8%. The compositions of these product mixtures observed at 460°C were: 43% 2, 3-dimethyl-1-butene and 57% 2, 3-dimethyl-2-butene; 9% 3-methyl-1-pentene, 11% 2-ethyl-1-butene, 31% 3-methyl-cis-2-pentene and 49% 3-methyl-trans-2-pentene; 68% 1-methylcyclopentene, 20% 3-methylcyclopentene, 10% 4-methylcyclopentene and 2% methylenecyclopentane in each skeletal hydrocarbons, respectively.At the initial step of the reaction, however, it was shown that 2, 3-dimethyl-1-butene, 3-methyl-1-pentene and 3-methylcyclopentene were formed beyond their thermodynamic equilibrium compositions, respectively.It was found that the rate of the dehydrogenation was influenced by the ratio of hydrogen to hydrocarbon and that in the absence of hydrogen the reaction did not proceed at all. The reaction rate increased with the molar ratios, being constant at the molar ratio of one and above.These results suggested that the hydrogen played an important role on the dehydrogenation mechanism over Pt catalyst used in the present study.
著者
高澤 千智 藤田 真敬 小林 朝夫 大塚 康民 鳥畑 厚志 大類 伸浩 高田 邦夫 立花 正一 柏崎 利昌 別宮 愼也
出版者
航空医学実験隊
雑誌
航空医学実験隊報告 (ISSN:00232858)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.67-77, 2016 (Released:2020-04-11)
参考文献数
45
被引用文献数
1

It has been issued that many accidents are caused by impaired driving or impaired flying due to side effects of medications. In 2013, US Federal Aviation Agency (FAA) warned about aircraft accidents due to side effects of medications. Japan Ministry of Internal Affairs and Communications (JMIAC) also made recommendations to Japan Ministry of Health, Labor and Welfare (JMHLW) to confirm notification about driving ban in the patient package insert. The aviators who use an impairing medication are required to wait an appropriate periods after last medications before flying. FAA defines a waiting time from last medications to flight as five times of pharmaceutical half-lives. Japan Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism (JMLIT) also defines as two times the dosing interval. The dosing interval is generally determined by pharmaceutical half-lives. Considering above situations, Japan Air Self-Defense Force, Aeromedical Laboratory (JASDF AML), recommends a waiting time from last medications to flight as five times of pharmaceutical half-lives. Newly marketed medications are monitored through post-marketing surveillance and reviewed qualification for aviators. Monitoring periods are three years or more in US Air Force, but one year in FAA, JMLIT and JASDF. We review aeromedical decision making for the safe flight with medicated aviators and related articles.
著者
横田 賀英子 渡邉 和美 和智 妙子 大塚 祐輔 平間 一樹 島田 貴仁
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.1-11, 2023 (Released:2023-04-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1

The aim of the current study was to examine the psychological responses of victims during sexual assault, focusing on tonic immobility (TI). TI is characterized by immobility in situations involving the threat of death or a threat to one’s physical integrity. In the current study, 143 sexual assault victims consented to participate in the survey and completed the questionnaires. An exploratory categorical factor analysis revealed that the psychological responses of victims during sexual assaults comprised two factors: TI and fear. Results of structural equation modeling indicated that victims’ fear during the sexual assault increased their TI responses. Furthermore, the high variation of violence, which was influenced by prior relationships between victims and offenders, increased fear and TI responses.
著者
大塚 康二 桂 一憲 三谷 尚弘 野添 大輔 田上 和麿 前川 絢子 菅原 登 加賀 敬子 平野 拓司
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.153-158, 2023 (Released:2023-05-25)
参考文献数
15

悪性腫瘍に伴う悪性消化管閉塞(malignancy bowel obstruction: MBO)に対する治療としては,手術療法,消化管ステント留置,経鼻胃管や経皮内視鏡的胃瘻造設術,薬物療法などが知られている.酢酸オクトレオチドなどの薬物治療を行う場合は経口摂取ができなくなり,かつ持続点滴静注が必要となることから,患者のQuality of Life(QOL)を著しく低下させる.今回外科および緩和医療科を含めた多職種カンファレンスを行い慎重に検討を重ね,酢酸オクトレオチド持続投与中で低栄養のMBOの患者に対し審査腹腔鏡手術を行い,MBOの重症度や進行状況を把握することで緩和手術として小腸瘻造設術を選択し施行することができた.その結果,一時的に経口摂取が可能となり患者のQOLを改善させることができた.
著者
大塚 初重
出版者
明治大学考古学博物館
雑誌
明治大学考古学博物館館報 (ISSN:09124373)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.37-39, 1986-03-25
著者
山口 昌也 大塚 裕子
雑誌
情報処理学会論文誌教育とコンピュータ(TCE) (ISSN:21884234)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.25-37, 2021-02-22

本論文では,大学生を対象にした話し合い能力向上のためのトレーニングプログラムである「自律型対話プログラム」におけるディスカッション練習とリフレクション活動に観察支援システムFishWatchrを導入する方法を提案する.提案手法では,ビデオ収録したディスカッションをメンバ各自がFishWatchrでビデオアノテーションにより観察したうえで,全メンバの結果を参照しつつ,リフレクションを行う.提案手法を用いた実践は32名の大学生が参加した15コマの集中授業の一環として実施した.実践結果の評価として,(1)フィッシュボウルによる手法と提案手法とを観察とリフレクションの観点から定性的に分析し,提案手法の長所を明らかにしたうえで,(2)受講者へのアンケートとアノテーション結果により,長所が受講者に認識されたか,また,実践で活用されたかどうかを検証する.検証の結果,定性的分析により,提案手法の長所が「アノテーション結果の利用」「自己観察」「実シーンの参照」であることを示した.そして,(a)これらの長所が受講者の93.7%のアンケート結果で指摘されていること,(b)受講者の84.4%が自己観察として自分に対するアノテーションを実際に行っていたこと,(c)アノテーション結果が「他メンバの理解」「シーン理解」「リフレクション時の利便性向上」に活用されうることを確認した.
著者
大塚 雄作
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.65-78, 2013-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本論では,日本高等教育学会と大学教育学会を比較することを通して,両学会の研究連携のあり方について展望した.高等教育を研究対象とするマクロなアプローチを中心とする日本高等教育学会に対して,大学教育学会は,授業担当者が自らの授業の改善のために,自らの授業を研究対象とするミクロなアプローチを中心としてきた.しかし,この10~15年の間に,両学会に同時に属する会員の割合も多くなり,両者の境界は必ずしも明確ではなくなってきた.教育実践は,それぞれのローカリティにおける「個別性」が問われるが,その「個別性」の表現に,教育の文脈や背景,学生の多様性の記述などとともに,社会・文化・歴史・制度といった「普遍性」ある分類が的確に含まれる必要がある.そのような形で,実践と理論の橋渡しを試みていくことが,今後,日本高等教育学会と大学教育学会の両学会に求められていくであろう.
著者
髙木 美紀 中埜 粛 大塚 寿子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.190-199, 2022-04-25 (Released:2022-06-02)
参考文献数
22

目的:インスリン療法中の患者を特定施設入居者生活介護対象軽費老人ホームで受け入れる際の問題点を明らかにする.方法:特定施設入居者生活介護対象軽費老人ホームで初めてインスリン療法中の糖尿病患者を受け入れる際に職員の糖尿病に対する意識アンケートを行った.患者受け入れ後,回答を参考に職員対象糖尿病教室を開催するなど現場の要望に応じた受け入れ体制の整備を行った.6カ月後にアンケートを実施し受け入れに対する職員の意識を再度確認した.結果:受け入れ前の初回アンケートで看護師は受け入れに消極的,介護士は積極的であった.患者は入居後低血糖や虚血性心疾患を疑わせる多様な訴えを頻発し対応に難渋した.患者の快適な生活を実現するために職員の糖尿病知識教育が必要と考えられたため介護士対象に糖尿病専門医による糖尿病教室を行ったところ,徐々に適切な生活介護が可能となり施設内の医療介護連携体制が整えられた.入居6カ月後に行ったアンケートでは,介護士の根拠なき過度な楽観的意見は減少したが,看護師は受け入れに消極的で介護士が積極的であるという傾向は初回同様に認められた.結論:介護施設のインスリン療法中患者受け入れに対する看護師と介護士の認識の差異が明らかになった.患者が安心して施設生活を送れる支援を実現するためにはこの差異を埋め,患者の安全を確保する必要がある.本症例では糖尿病専門医による介護士対象の医学知識教育がある程度有効であったが,依然として両者の認識の差異は大きかった.対策として,介護施設での糖尿病教育制度を設けること,教育を受けた介護士の血糖測定を可能にすること,各施設で対応可能な治療方針の患者を適正に選定すること,入居後の医師による医療指示を単純化すること,施設内コミュニケーションを促進してよりよい医療介護連携体制を構築することを提案する.
著者
大塚 雅和 桑原 義典 本村 秀樹
雑誌
第55回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2019-04-26

【背景】鋳型気管支炎(Plastic Bronchitis:PB)は気管支内で形成された樹枝状の鋳型をした粘液栓(cast)により気道閉塞から呼吸不全を呈し時に致死的となることがある疾患である。Fontan術後だけでなく気管支喘息や呼吸器感染などでも発症する。今回、Fontan手術11年後でマイコプラズマ感染による気管支喘息発作時にPBを発症した症例を経験したので報告する。【症例】PA-IVSの14歳女児。生後2ヶ月でBTシャント、BAS、9ヶ月にGlenn手術、1歳にcoil塞栓(内胸動脈collateral)、3歳にTCPC(EC)を施行。3歳、4歳で肺炎のため入院既往あり。外来で気管支喘息もフォロー中(FP吸入、LTRA内服)。3年前の心臓カテーテル検査ではCVP9mmHgで良好なFontan循環だった。数日前より咳嗽があり、入院当日に39℃まで発熱し呼吸苦、胸痛も出現した。SpO2 84%(通常95%)でサルブタモール吸入したが改善せず、胸部レントゲンで肺炎があり入院した。酸素投与、抗菌薬AZM投与、PSL全身投与を開始した。入院翌日から断続的にcastの喀出がありPBと診断。Castの喀出で呼吸状態は徐々に改善した。入院11日目より呼吸理学療法を開始すると、さらにcastが排出され、入院16日目に退院した。なお、マイコプラズマ抗体PA法320倍であった。【考察・結語】PBは気管支疾患に多い1型(inflammatory type)と先天性心疾患術後に多い2型(acellular type)に分類される。高い静脈圧、慢性的な高リンパ圧などがFontan術後cast形成に関係する因子とされるが、今回の症例は良好なFontan循環であった。本症例のcastは1型、2型の要素を含んでおり、良好なFontan循環でも気管支喘息発作、肺炎によりPBを発症する可能性がある。PBに確立された治療はないが、呼吸理学療法を積極的に導入し排痰を促すことも重要であると考えられた。
著者
大塚 敏之 石谷 雅宏
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 C編 (ISSN:03875024)
巻号頁・発行日
vol.66, no.652, pp.3962-3969, 2000-12-25 (Released:2008-02-26)
参考文献数
9
被引用文献数
1

This study applies differential game theory to simplified four-wheeled vehicle models. We describe the motions of two four-wheeled vehicles on plane as nonlinear systems and formulate receding-horizon differential game problems. Performance indexes of the differential games have a moving performance interval. The game optimal solution (minimax solution) is calculated by applying a real-time algorithm without successive approximation. Numerical results of pursuit-evasion and overtaking are reported and discussed.
著者
飯尾 耕治 後藤 和義 萩谷 英大 小川 寛人 三好 諒 大塚 文男 東影 明人
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.248-255, 2023-04-25 (Released:2023-04-25)
参考文献数
19

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的パンデミックにより,医療機関において新興感染症に対する検査体制を整備することの重要性が再認識された。特に短期間で変異を繰り返すSARS-CoV-2のモニタリングとして,次世代シークエンス(NGS)解析が非常に有効なツールであることが立証された。国内におけるCOVID-19に対するPCR検査体制は,迅速かつ操作性が簡便な自動PCR装置の普及により,早期診断と迅速な感染対策が可能となったものの,ゲノム解析実施数は世界的に見ても少なく,積極的疫学調査が十分行えているとは言えない。今後COVID-19を含めた新興感染症の流行を正確に把握し適切な感染対策を講じるためには,変異の発生や頻度を可能な限り早期に把握するため,ゲノム解析を通じたウイルス変異株の同定と分析を迅速に行う体制整備が求められている。今回,我々は院内臨床検査室でも実施可能な全ゲノム解析アプローチの手法を構築することを目的として,高性能でありながら低コスト・簡便性の特徴を持つOxford Nanopore社のMinIONを用いて,日常業務において実践可能な全ゲノム解析のためのプロトコール作成に取り組んだ。実験材料の入手や感染症遺伝子検査に精通した人材の育成などの課題はあるものの,臨床検査室の日常業務にシーケンシング技術を取り込むことにより,新興感染症の疫学解析に貢献するのみならず,細菌の同定や薬剤耐性菌の遺伝子学的解析など今後さらなる臨床微生物学への応用が期待される。
著者
亀谷 学 大塚 修 松本 隆志
出版者
弘前大学人文社会科学部
雑誌
人文社会科学論叢 (ISSN:24323519)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.123-154, 2020-02-28

本稿は西暦9 世紀(ヒジュラ暦3 世紀)の後半に著作活動を行ったイブン・ワーディフ・ヤアクービーの著書『歴史al-Ta’rīkh』の日本語訳注である。連載の第一回となる今回については、解題にて著者および彼の著した『歴史』についての解説、そして、その第一部にあたる古代史部分のうち、アダムからノアとその子孫に至る人々の記述の訳注となる。なお、解題については亀谷が、第一回の日本語訳注部分については大塚が、それぞれ元となる原稿の作成を担当し、それをメンバー三人によって修正を加えたものである。