著者
横松 宗太 湧川 勝巳 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.24-42, 2008

自然災害により家財を喪失した家計は,復旧のために自己資金以外に外部資金を調達することが必要となる場合がある.しかし,家計が金融機関から借入れができないという流動性制約に直面する場合,家財の復旧過程が遅延することによる被害が発生する.本研究では,流動性制約下における家計による家財の復旧行動をモデル化し,家財が低い水準に止まることや,復旧過程が遅延することにより発生する流動性被害について分析する.そして,防災投資が「期待被害額の減少効果」のみならず,低所得層の家計に対して「期待部分復旧被害額の減少効果」や「期待復旧遅延被害額の減少効果」をもたらすことを明らかにする.また,災害保険や政府による復旧資金の貸付制度というリスクファイナンス手段が,家計の復旧過程に及ぼす機能について考察する.
著者
小林 久泰
出版者
Japanese Association of Indian and Buddhist Studies
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.1078-1084, 2013-03-25 (Released:2017-09-01)

ティミラ眼病とは一体何なのか.この問題について,かつて金沢篤氏が極めて詳細な研究(金沢1987)を発表された.この金沢1987に対して二つの疑問を提示することができる.第一に,インド医学の伝統においてティミラ眼病と「華」は全く無関係であったと断言することは可能か.第二に,瞳の第四膜に到達した病素をティミラとみなす大地原訳を「明らかな誤訳」と呼ぶことは可能か.この二つの疑問を出発点として,本稿では以下のことを明らかにした.第一の疑問点に関して,『アシュタ・アンガ・フリダヤ・サンヒター』にカパ性のティミラ眼病患者に見えるものとして,ジャスミンの花やスイレンが挙げられていることを明らかにした.但し,それは『スシュルタ・サンヒター』の異なる文脈にある二つの文章を一緒にしたために起こった,いわば副産物に過ぎないことも指摘した.第二の疑問点に関しては,『バーヴァ・プラカーシャ』に大地原流の解釈を挙げるインドの伝統も存在することを指摘し,当該個所に関して,大地原訳を「明らかな誤訳」と言うことは困難であることを明らかにした.その一方で,金沢氏の主張を支持する記述が『スシュルタ・サンヒター』自体に見られることも指摘し,それがサートヤキの伝統に従ったものであることを明らかにした.最後に,ティミラを瞳の第一・第二膜の病気と捉える『アシュタ・アンガ』の伝統とは異なり,『スシュルタ・サンヒター』作者があえて瞳の最外膜である第四膜の解説の中でティミラを持ち出すのは,彼がこの語の原義である「暗闇」というニュアンスに力点を置いたからではないか,ということを指摘した.ティミラ眼病とは,最終的に完全失明,すなわち「暗闇」に到る恐ろしい病に他ならないのである.
著者
中村 太一 斎藤 聡 池田 健次 小林 正宏 鈴木 義之 坪田 昭人 鯉田 勲 荒瀬 康司 茶山 一彰 村島 直哉 熊田 博光
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.94, no.3, pp.157-162, 1997-03-05 (Released:2011-06-17)
参考文献数
12

従来より肝性脳症合併肝硬変症例では頭部MRIT1強調画像にて淡蒼球に高信号域を認めるとされる. 今回各種慢性肝疾患で頭部MRIを施行し若干の知見を得た. T1強調画像の淡蒼球の高信号は慢性肝炎では21例中1例 (4.8%), 肝硬変では41例中32例 (78%) に出現し, Child分類別ではA59%, B78%, C100%であり, 出現率は肝機能と相関がみられた.この所見は経過観察により不可逆性であった.さらに脂肪抑制画像では高信号域はより明瞭となり, その原因が脂肪沈着でないことが示唆された. MRIの所見は慢性肝炎ではほとんどみられず, 肝硬変では脳症を発症する以前より病変を認め, 慢性肝疾患の重症度の予測に役立つと考えられた.
著者
小林 武
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は2年を期間としたもので、第1年度たる平成13年度においては、基礎をなす作業にとりくみ、まず直接民主政にかんする研究文献に検討を加え、またスイスに赴いて、その直接民主主義制度を調査した。これをふまえて、第2年度の平成14年度においては、文献の研究を深め、また、アメリカ合衆国カリフォルニア州の直接民主政、とくに住民投票について調査した。こうした研究の進行の中で、大韓民国において憲法上定められている重要政策についての国民投票をも検討対象とし、その調査のためにソウル市に赴いた。わが国で、この間に直接民主政にかんして顕著な動向がみられたのは、住民投票、とりわけ市町村合併についてのそれである。市町村合併は、住民生活の場のありようを決定する基本的な問題であるだけに、住民投票の動きが全国各地で生じており、直接民主政研究にとっての重要テーマである。そこで、関係の自治体に赴いて実態にふれ、調査した。併せ、国立国会図書舘等で文献研究を進めた。以上の作業をとおして、平成14年には、スイスの国家緊急法制および政治過程を扱った各研究、またわが国の民主主義を立憲主義との関係で論したものとを公にした。ついで、平成15年には、憲法改正手続および首相公選構想における国民投票と、市町村合併等における住民投票にかんする論稿を発表した。『研究成果報告書』は、これらを軸にしたものであり、そして、今後できるだけ早い時期に、本研究の包括的成果を一書にして上様したいと考えている。
著者
大内 一成 小林 大祐 中洲 俊信 青木 義満
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 B (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.J100-B, no.12, pp.941-951, 2017-12-01

近年,スポーツ界ではICTを活用したトレーニング,戦術分析の導入が進んでおり,画像認識技術を用いた試みも行われているが,ラグビーでは試合に出場する選手の数が1チーム15人と多く,接触/密集プレーが頻繁に発生するため,画像による分析は技術的にハードルが高く,これまで積極的に取り組まれていない.筆者らは,特徴量設計方式によるボール検出/追跡と,ディープラーニング方式による選手検出/追跡を行うハイブリッド型映像解析により,一つのカメラ映像からボール/選手の移動軌跡を精度良く二次元フィールド上にマッピングする技術を開発した.また,ディープラーニングによる自動的なプレー分類を行い,これまで人手で行われていた主要プレーのタグ付け作業の自動化を検討した.本技術は,ラグビーに限らず様々なスポーツへの活用が可能である.
著者
野口 聡子 駿河 康平 中井 久美子 村嶋 章宏 木村 泰裕 小林 昭雄
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.156-162, 2018-12-01 (Released:2019-01-21)
参考文献数
13
被引用文献数
2

【目的】オカラを食用微生物であるテンペ菌で発酵させた発酵オカラ(OT)にバナナを加えたオカラ発酵素材(OTB)を開発した。本研究ではヒトにおいて血糖とインスリンに対するOTB粉末の影響を探索的に検討した。【方法】研究デザイン:単群試験。健常ボランティア17名を対象とし,OTB粉末を 10 g添加したヨーグルト(OTB試験食),糖質を同等量とするためにグルコースを 6 g添加したヨーグルト(対照食)をそれぞれ別の日に摂取させ,食前,食後30分,60分,120分の血糖値と血清インスリン値を比較した。【結果】 OTB試験食と対照食のいずれにおいても血糖値と血清インスリン値の上昇は小さかった。OTB試験食と対照食の摂取後を比較すると,食後血糖値の上昇には有意な差はなかった(30分値:対照群 92.8±11.6 mg/dl vs OTB群 91.1±11.5 mg/dl)が,30分後のインスリン値がOTB試験食群で対照食と比べ有意に低かった(30分値:30.6±15.3 μU/ml vs 22.1±13.8 μU/ml,p<0.01)。【結論】 本研究で実施したOTB試験食と対照食のいずれにおいても十分な血糖と血清インスリン上昇をきたさなかったため,OTB粉末がヒトにおける糖代謝改善効果を有するかどうか明確な結果を得ることは出来なかった。食後インスリン値が低いにもかかわらず血糖値が同程度であった点について検証するために,本研究結果を踏まえてプロトコールを再検討した上で実施する必要がある。
著者
秋吉 澄子 小林 康子 柴田 文 原田 香 川上 育代 中嶋 名菜 北野 直子 戸次 元子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2017

【目的】地域に残されている特徴ある家庭料理を、聞き書き調査により地域の暮らしの背景とともに記録し、各地域の家庭料理研究の基礎資料、家庭・教育現場での資料、次世代へ伝え継ぐ資料などとして活用することを目的とし、(一社)日本調理科学会の特別研究「次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理」が実施された。<br /><br />【方法】熊本県内を6地区(阿蘇、県北、熊本近郊、県南、天草、球磨)に分類し、11名の協力者を対象に聞き書き調査を行った。その調査結果や参考文献を基に、おやつの特徴を検討した。<br /><br />【結果】おやつは農繁期の小昼(こびる=熊本弁でおやつのこと)としてよく食べられ、小麦粉を使用したものが多かった。熊本近郊では小麦粉の団子に大豆を混ぜた「豆だご」や、輪切りにしたからいもを包んだ「いきなり団子」が挙げられた。県北ではその土地で採れる里芋や栗を小麦粉の団子で包んだ「里芋団子」や「栗団子」、米の粉にゆずの皮、味噌、砂糖、水を加えて練り、竹の皮に包んで蒸した「ゆべし」があった。県南では夏場に「みょうがまんじゅう」が作られ、八代地区では神社の祭りで「雪もち」が食べられていた。天草では特産であるからいもを使った「こっぱ餅」や﨑津名物の「杉ようかん」があった。球磨では3月の神社の祭りで作られる「お嶽まんじゅう」や、からいもともち米を一緒に炊いてついた「ねったんぼ」が食べられていた。その他、小麦粉を使って簡単にできるおやつとして「あんこかし」や「べろだご」、「焼きだご」が県内各地で作られていた。
著者
鈴木 由紀乃 小林 康江
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.251-260, 2009 (Released:2010-04-06)
参考文献数
23
被引用文献数
6 10

目 的 出産後から産後4ヶ月間の母親としての自信を得るプロセスを明らかにすること。対象と方法 産後4ヶ月の初めての育児をしている母親10名を対象に半構成的面接によりデータ収集を行った。得られたデータは,逐語録化し,データ収集と分析を平行して行う継続比較分析を行った。母親の「子どもの求めることがわかるようになった」「子どもの求めることに対応できるようになった」という体験を中心に,母親としての自信を得るプロセスに関連があると思われるデータを抽象化しカテゴリーを導き出し,カテゴリー間の関係を検討した。結 果 母親としての自信を得るプロセスを構成する5つのカテゴリー【試行錯誤しながら子どもと自分に合わせた育児方法を確立する】【子どもの成長と自分の成長の実感を得る】【この子の母親であるという実感を得る】【育児優先の生活に家事を組み込み生活を新たに構える】【自分に確証を得るための拠り所を求める】が抽出された。産後4ヶ月間の母親としての自信を得るプロセスは,試行錯誤しながら自分なりの育児方法を確立していく中で,子どもの成長とその子どもの母親であることを実感しながら,家事と育児を両立させ,生活を再構していくプロセスであり,それらは他者からの確証を得ることで支えられていた。結 論 母親は試行錯誤する育児の中で,子どもの成長を実感することから,自分自身の成長と母親であることを認識するようになる。また,育児中心の生活から家事も行えるようになるという行動範囲の拡大から自己の成長の実感は強まる。母親としての自信を得るプロセスの援助として,育児技術の獲得に対する支援だけではなく,子どもの成長や母親自身の成長の変化を気付かせる関わりの重要性が示唆された。
著者
若松 美貴代 中村 雅之 春日井 基文 肝付 洋 小林 裕明
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学医学部保健学科紀要 = Bulletin of the School of Health Sciences, Faculty of Medicine, Kagoshima University (ISSN:13462180)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.21-30, 2018-03-31

近年,妊産褥婦の自殺,子どもの虐待の問題から周産期メンタルヘルスの重要性が注目されるようになった。より細やかな支援のためには妊娠早期から関わることが必要である。そのため2017年に母子保健法改正が行われた。妊娠早期から産後うつ病を予測できる質問紙が求められ開発が行われているが,日本で使用できるものは少ない。諸外国で広く用いられているPostpartum Depression Predictors Inventory-Revised(PDPI-R)が有効と考えられる。日本語へ翻訳し,信頼性,妥当性と産前産後のカットオフ値の検討も行われている。PDPI-Rは妊娠期から産後うつ病を予測できるだけでなく,妊産褥婦の背景を多角的に把握でき,支援する際のアプローチの手がかりにもなりうる。今後,本調査票が広く用いられ,産後うつ病,虐待,ボンディング障害の関係性についても明らかになることが期待される。In recent years, the issues of suicide and child abuse committed by pregnant and postpartum woman have focused attention on perinatal mental health. Three questionnaires for use after childbirth have been found to identify mothers at risk for postpartum depression and child abuse. However, for detailed assistance it is necessary to provide support early in the pregnancy. Therefore, the Maternal and Child Health Law was revised in 2017.A questionnaire that can predict postpartum depression from early pregnancy is required and some candidates have been developed. However, no such questionnaire has been validated for use in Japan. The Postpartum Depression Predictors Inventory-Revised (PDPI-R), which is widely used in other countries, is considered to be effective for predicting postpartum depression. Therefore, we translated the PDPI-R into Japanese and examined its reliability, validity, and cut-off values during pregnancy and postpartum.The PDPI-R could not only predict postpartum depression during pregnancy, but also provided a multifaceted understanding of the backgrounds of perinatal woman. We hope that this questionnaire will be widely used in the future. It is expected that the use of the PDPI-R will help clarify the relationships among postpartum depression, child abuse, and bonding disorder.