著者
小野 恭靖
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 (0xF9C1)人文科学 (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.p133-147, 1993-02

ここに紹介する『朗詠要抄』は、その奥書の署名から円珠本と呼ばれる朗詠九三首を収録する譜本である。これは、魚山と称される天台声明の中心地大原に伝えられた朗詠譜本という点で貴重であるが、そればかりでなく、その奥書により原本は法深房(藤原孝時)所持本であったことから、藤家流朗詠の流れを伝える一本としても重要な位置を占めている。一方、本書は既に活字本や写真版本として提供されている後崇光院本『朗詠九十首抄』、流布本『朗詠九十首抄』、『朗詠要集』、因空本『朗詠要抄』、陽明文庫本『郢曲』などとともに朗詠古譜として著名であるにもかかわらず、従来まったく本文が公刊されていない。本稿は円珠本『朗詠要抄』の中でも、最善本と目される京都大原三千院円融蔵本を底本として翻刻し、伴せて解題を試みるものである。
著者
中野 晋 小野 悟 冨永 数男 村上 仁士
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
海岸工学論文集 (ISSN:09167897)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.1331-1335, 2005

2004年9月5日に発生した紀伊半島沖地震, 東海道沖地震の2回の地震の際の自治体の対応状況をまとめた. 徳島県では概ね震度3, 高知県東部では震度2程度, 来襲した津波高も室戸港で最大0.5m程度であり, 被害は発生していない. しかし, 職員の非常参集体制, 情報収集と伝達方法, 海面監視の方法などの点で検討すべき事項が見出された. これを契機に複数の自治体で津波注意報発令時の配備動員体制を再検討するなど津波防災体制の見直しが行われつつある.
著者
小野 佐和子
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.395-398, 1996-03-28 (Released:2011-07-19)
参考文献数
23

駿河原宿植松家の帯笑園の訪問者の内, 高家大名等身分ある人々の訪問の具体的な有り様を, 植松家に残された日記と立ち寄り記録により明らかにした。彼らにとり帯笑園は, 園内の植物と共に, 富士の眺めや書画のコレクションが魅力であり, 植木好きの訪問者には, 植物や栽培法の知識を得情報を交換し, 珍しい植物を手に入れる場であったこと, さらに, 植松家は訪問者を通じて書画の収集を行っており, 身分ある人々の訪問は, 植松家にとって, 書画を集める有効な機会であったとする知見を得た。
著者
藤原 愛作 小野 秀幸 山野 薫
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.13-18, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
20

〔目的〕妊娠期から育児期における女性のセラピストの健康管理や労務管理に関する諸問題を明らかにすることである.〔対象と方法〕次世代育成支援対策推進法に基づいて子育てサポート企業の認定を受けた医療・介護施設の中で,リハビリテーション科を標榜している九州圏域の24施設を対象に,郵送による質問紙法を実施した.〔結果〕調査票の回収率は62.5%であり,妊娠期のトラブルは約半数の施設で発生していた.また,妊娠期のマイナートラブルなどの諸問題について職員教育が不足していた.〔結語〕今後,心身の不調に対応できる多様な勤務体制の整備と職員教育を行うことは,妊娠期から育児期における女性療法士が勤務しやすい風土を作るために重要といえる.
著者
植田 義夫 小野寺 建英 大谷 康弘 鈴木 晃 中田 節也
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.175-185, 2001-08-30
被引用文献数
1

The Myojin-sho volcano is one of the active submarine volcanos in the northern part of the Izu-Ogasawara arc about 400 km south of Tokyo. This volcano is a somma edifice of the Myojin-sho caldera, 6.5 km×8 km in diameter and 1000 m deep. The topography, seismic profiler, magnetic and gravity surveys around the Myojin-sho caldera were conducted by the Hydrographic Department, Japan (JHD) in 1998 and 1999. The geophysical structures of the caldera were derived, and the possible cause of the caldera formation is discussed. The residual gravity anomalies were calculated from the observed free-air anomalies by subtracting the gravity effect of 2-layer subbottom model structure, which amounts to 10 m Gals in a localized zone from the caldera to the northern somma. Bouguer gravity anomalies with the assumed density of 2.0 and 2.4 g/cm^3 also show the positive anomaly over the same zone, which is accompanied by the acoustic and magnetic basement depression. Moreover, it seems that the sediment volume nearby Myojin-sho caldera cannot compensate the volume loss of caldera (20 to 41 km^3). These features insist that the Myojin-sho caldera is caused by the collapse of the pre-caldera edifice rather than the explosion. The origin of the high gravity caldera may be ascribed to the magma pocket causing the depression, instead of the high density erupted material filling the caldera floor. The magnetization intensity of 4.8-5.3 A/m at the Myojin-sho volcano is derived from the magnetic anomaly, which may claim that the Myojin-sho volcano consists of andesitic to basaltic rock rather than dacitic rock. On the other hand, magnetization of the central cone of Takane-sho volcano is estimated to be 1.1-1.9 A/m, which is consistent with the fact that dacite pumices were sampled.
著者
小野 文生
出版者
西田哲学会
雑誌
西田哲学会年報 (ISSN:21881995)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.57-77, 2012 (Released:2020-03-22)

In dieser Abhandlung wird versucht, zwei gleichnamige Texte, Martin Bubers Ich und Du(1923)und Kitarō Nishidas Watashi to Nanji[Ich und Du](1932), die sehr zeitnah zwischen den Weltkriegen in Deutschland und Japan, jedoch unter sehr verschiedenen Umständen und in unterschiedlichen Kontexten verfaßt wurden, miteinander vergleichend zu analysieren und dadurch die Spuren der ≫Logik der Vermittlung≪ bei diesen zwei Denkern zu verfolgen. Wenn hier von ≫Vermittlung≪ die Rede sein soll, soll der Begriff der ≫Grenzen≪ zur Sprache kommen. Die beiden Ich und Du Texte lassen sich als Antworten auf die Problematik der ≫Grenzen≪ lesen, die sich in beiden Gedanken verwirklichen, und daher kommt es darauf an, wie die beiden Denker über das dialektisch zwischen diesen ≫Grenzen≪ generierte „und“ philosophierten. Sie sollen in der Mitte des Strebens nach Entwicklung und Radikalisierung dieses „und“, nämlich in der gespannten Dynamik dieses „Interfaces“ gelesen werden, in dem die Konstellation einer Gruppe von verschiedenen Begriffe wie Vermittlung, Begegnung, Zwiefältigkeit, Dilemma, Widerspruch, Paradox, Antinomie und Dialektik konstituiert wird. Es ist nicht nur ins Auge zu fassen, dass Buber und Nishida gleichnamige Texte schrieben, sondern auch, dass sie beide aus ähnlichen Gründen kritisiert wurden. Ihnen wurde vorgeworfen, ihre Philosophien basierten nicht auf philosophischer Reflexion, sondern auf Mystik, deren Moment auf eine unlogisch-religiöse Unmittelbarkeit reduziert würde, wobei schließlich die dialektische Denkbewegung verlorenginge. Dagegen finden wir in ihren Philosophien vielmehr die Entwicklung des höchst dialektisch-mittelbaren Denkens, bzw. den Radikalismus der ≫Grenzen≪. Unser Interesse liegt aber nicht darin, zu beweisen, ob ihre Philosophien wirklich auf Dialektik beruhen, sondern wonach die beiden Philosophen in der angeblich- dialektischen Gedanken untersuchten. Während die Begegnung des Ich mit dem ewigen Du durch das konkrete Du bei Buber mit dem Begriff vom ≫Ort- Worin als Umgebung≪ bzw. vom ≫Ort des absoluten Nichts≪ bei Nishida verglichen wird, wird Bezug auf die verschiedenen, sich überlagernden Kontexte wie z.B. Meister Eckharts Gedanken von der Vollendung der Zeit, Mystische Schriften von Gustav Landauer, den Begriff des Kairos von Paul Tillich, die Gestaltspsychologie usw. genommen. Durch die Fokussierung auf ihre zeitliche Struktur, zeichnet sich deutlich die dialektische Logik beider Philosophien von Zeit ab. Unsere Untersuchung wird folgendermaßen vorgenommen: 1.Kitarō Nishida ≫und≪ Martin Buber. 2.Das Thema der Vermittlung: die Gründe der Kritik. 3.≫Grund≪ und ≫Grundwort≪. 4.Saum und Gestalt: Gegenwart und Ewigkeit. 5.Gegenwart und antinomisches Leben. 6.≫Selbstbestimmung des ewigen Jetzt≪ und ≫das ewige, das im Jetzt und Hier gegenwärtige Urphänomen ≪.
著者
江崎 秀男 小野崎 博通
出版者
JAPAN SOCIETY OF NUTRITION AND FOOD SCIENCE
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.161-167, 1980
被引用文献数
1 8

1) 青首宮重大根 (2.5kg) から, その辛味成分であるトランス-4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアナートをチオウレア誘導体として結晶100mgを単離, 同定した。<BR>2) チオウレア化合物の呈色試薬であるグロート試薬組成中の各種試薬の濃度を検討し, 原液を水で25倍希釈して改良グロート試薬とした。<BR>3) 比色定量のための標準物質として市販アリルイソチオシアナートより調製したアリルチオウレアおよび前記トランス-4-メチルチオ-3-ブテニルチオウレアを用いて改良グロート試薬による呈色の条件を検討し, 37℃で45分間インキュベートした後, 600nmにおける吸光度を測定した。これによってトランス-4-メチルチオ-3-ブテニルチオウレアの場合, 20μg/mlから200μg/ml範囲にわたって濃度と吸光度との間に直線関係が認められた。<BR>4) ここに新しく提案された大根辛味成分イソチオシアナートの定量法は次のとおりである。大根磨砕搾汁液5mlを30℃で30分間放置した後, これにエタノール: アンモニア水混液20mlを加え, 60分後, 50%酢酸1mlを加え, 濾過を行なう。濾液1mlに改良グロート試薬4mlを加え, 37℃で45分間インキュベートした後, 600nmにおける吸光度を測定し, あらかじめ作成した標準曲線よりトランス-4-メチルチオ-3-ブテニルチオウレア量を求め, これからトランス-4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアナート量に換算する。<BR>5) 前記定量法により大根の品種, 部位および生長時期と辛味成分量との関係をしらべた. 品種別においては, 同じ秋大根でも品種によって辛味成分量に差がみられた。部位別においては, 根部の先端に近くなるほど辛味成分量の増加が認められた. 生長時期との関係については, 大根中の辛味成分含量は生長とともに減少し, 収穫時期の大根100gより得られた磨砕搾汁液中には12mgのイソチオシアナート量が測定された。
著者
石田 智子 小沼 守 小野 貞治 村上 彬祥 佐野 忠士
出版者
獣医麻酔外科学会
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.7-12, 2014 (Released:2014-10-29)

ウサギ160症例における麻酔関連偶発死亡症例を調査した。American Society of Anesthesiologists Physical Status(ASA)分類に必要であった検査のうち、ASA分類ⅠでもX線検査で4.7%(2/43)、ASA分類IIの血液検査で22.6%(12/53)、画像診断で30%(15/50)に異常が認められたため、積極的な術前検査によりできるだけ信頼度の高いASA分類をする必要性があると考えられた。避妊手術や去勢手術では麻酔関連偶発死亡例はいなかったが、子宮疾患や尿路結石、消化管閉塞の症例のうち、麻酔危険度の高いASA分類III以上(ASA分類III1例;ASA分類IV2例)で麻酔関連偶発死亡例が各1例あった。麻酔関連偶発死亡症例は全体で1.9%(3/160)となったが、すべて24時間以内(手術開始1時間後2例、18時間後1例)に心停止で死亡した。今回の結果から、ASA分類III以上のウサギでは、麻酔関連偶発死亡率が高くなるため、手術開始から24時間以内は十分なモニタリングには行うべきであると考えられた。
著者
小野 拓也 森 純一郎
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第34回全国大会(2020)
巻号頁・発行日
pp.2K1ES205, 2020 (Released:2020-06-19)

画像に含まれる異常データを認識・検出することはコンピュータビジョンの分野で重要な技術である。近年ディープラーニングにより異常検知を解決する方法が主流となっており、従来の手法よりも精度が高いことで知られる。異常検知問題はその性質上、異常データが極めて少数であり、データセットが著しい不均衡になっているケースが多い。そのため、教師あり学習を適用することは難しく、教師なし・半教師あり学習による解決が期待される。本論文では、画像データに対して半教師あり学習(AnoGAN, 畳み込みオートエンコーダーなど)及びクラスラベルを用いる距離学習(AdaCos, L2 softmaxなど)を用いた深層異常検知手法で最先端の手法の再現実装を行い、その有効性を評価した。結果としては、現状の深層異常検知手法では期待される性能を満たすことは難しく、改善の余地があるとの結論が得られた。最後にこれらの手法の問題点と、現状の研究課題について示した。
著者
西脇 友紀 阿曽沼 早苗 小野 峰子 仲村 永江 田中 恵津子
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.277-285, 2014 (Released:2015-03-19)
参考文献数
9

【目的】視能訓練士の拡大鏡選定状況に関するアンケート調査の結果を報告する。【対象及び方法】2013年5月、ロービジョン(LV)対応医療機関に勤務している視能訓練士(日本LV学会員)を対象に拡大鏡選定に関するアンケートを郵送で行った。【結果】86名の視能訓練士から回答を得た。回答者の82.6%は、月あたり平均拡大鏡選定数が3つ以下であった。拡大鏡選定時に必要拡大率の計算・算定をしている者は72.1%で、視力値から計算する方法が最も多く用いられていた。方法を学んだ場所・機会について視能訓練士養成校と回答した割合は低く、養成校修了後に習得したと思われる回答が多かった。その方法を用いている理由の多くは効率性や正確性などで、計算・算定方法により違いがみられた。計算・算定をしていない場合の理由は「患者に任せている」との回答が多かった。計算・算定していると回答した者はほぼ全員が拡大鏡使用法の指導もしていると回答していた。【結論】LV対応医療機関に勤務している視能訓練士の拡大鏡選定状況の概要がわかった。現状では全体的に拡大鏡の選定数は少なかったが、今後、LVケアの需要は高まり視能訓練士が拡大鏡選定に携わる機会が増えることが予想される。視能訓練士はLVケアの主たる担い手として、その中核となる拡大鏡選定を適切に行えるように技術を高める必要がある。
著者
塩谷 信喜 柴田 繁啓 今井 聡子 小野寺 誠 藤野 靖久 井上 義博 遠藤 重厚
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.282-292, 2010-06-15 (Released:2010-08-13)
参考文献数
38
被引用文献数
1

【背景】アナフィラキシーは,抗原の暴露後に急速に進行する全身性の致死的反応である。当センターは,岩手県中央部の救急医療の中心的な役割を担っており,アナフィラキシー症例を経験する機会も多い。そこで地域におけるアナフィラキシーの実態を明らかにすることを目的に自験例を分析したので報告する。【対象と方法】当センター開設1980 年11 月から2009 年10 月の29 年間にアナフィラキシー症状を呈した302 例を対象とした。原因,年齢・性別,症状について,診療録により後方視的に検討した。【結果】平均年齢は48.0 歳で,男性に多い傾向がみられた。アナフィラキシーショックは193例(63.9%)で,8例(2.7%)が心肺停止となり,4 例が死亡に至った。アナフィラキシーの主要原因は,ハチ毒148 例(49.0%),薬物89 例(29.4%),食物58 例(19.2%),食物依存性運動誘発アナフィラキシー3 例(1.0%),その他4 例(1.3%)であった。ハチ毒では,スズメバチ,アシナガバチによる被害が多く,薬物では,非ステロイド性解熱鎮痛薬,抗菌薬,食物では,海産物とソバが多く認められた。最も多い初期症状は,心血管症状(65.9%),皮膚粘膜症状(42.1%)であった。【結語】主要原因はハチ毒が多く,薬剤,食物と続いた。食物は,全国調査とは異なり,海産物(46%)とソバ(6.9%)が多くを占めた。ハチによる被害の背景には,岩手県は広大な山林面積を有し農林就業者が多いことが考えられた。海産物は地域住民の消費動向によるもの,ソバによる被害は県外の旅行者に関係していると考えられた。アナフィラキシーの原因に占めるハチ毒や食物の割合は,地域による産業別就業や食文化の違いにより影響される。
著者
佐藤 善輝 小野 映介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.270-287, 2013-05-01 (Released:2017-12-05)
参考文献数
46

鳥取平野北西部に位置する湖山池南岸の高住低地を主な対象として,完新世後期の地形環境変遷を明らかにした.高住低地ではK-Ahテフラ降灰以前に縄文海進に伴って低地の奥深くまで海域が拡大し,沿岸部に砂質干潟が形成された.また,K-Ahテフラの降灰直前には砂質干潟から淡水湿地へと堆積環境が変化した.その後,湿地堆積物や河川からの洪水堆積物などによって湿地の埋積が進行し,5,200 calBP頃までには陸域となって森林が広がった.一方,埋積の及ばなかった低地の北部では5,800 calBP頃までに内湾環境が形成された.以後,内湾は河川堆積物による埋積によって汽水湖沼へ変化し,4,600 calBP頃に淡水湖沼化した.湖山池沿岸部では縄文時代後期までに内湾から淡水湿地への環境変化が生じたことが共通して認められ,閉塞湖沼としての湖山池の原型はおよそ4,000~4,600 calBP頃までに完成したと推定される.
著者
山中 勤 三谷 克之輔 小野寺 真一 開發 一郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.113-125, 2005-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
12
被引用文献数
3 4

遊休農林地の放牧地への転換が,瀬戸内海や流域圏地下水の水質環境に及ぼす影響を予測するための基礎資料として,風化花崗岩を母材とした貧栄養土壌から成る牧草地において,年間の水・熱・物質収支を実測値に基づいて評価した.年降水量1,262mmに対して,地下水涵養量はおよそ4割の523mmであったが,その半分近くは1999年9月の豪雨時に生じていた.水の下方移動速度は年平均で約7mm/day,豪雨期を除くとおよそ3mm/dayであった.蒸発散量は年降水量のおよそ6割を占め,それによる消費エネルギーは年間正味放射量(2,712MJ/m2)の約3分の2に相当した.蒸発散量は日射量の季節変化や植生の状態に強く規定されていた.元素ごとにみた溶脱フラックスは,大気降下フラックスのおよそ2倍から9倍程度であり,施肥およびそれに付随する土壌中のイオン交換反応に依存していたが,窒素の溶脱率は7%未満とかなり小さかった.すなわち,硝酸性窒素汚染や水域の富栄養化といった観点からは,牧草地における適度な施肥は大きな問題とならないことが確認された.ただし,植生状態の管理や施肥のスケジューリングなどによって溶脱率が変化する可能性があることには注意を要する.