著者
櫻谷 あすか 津野 香奈美 井上 彰臣 大塚 泰正 江口 尚 渡辺 和広 荒川 裕貴 川上 憲人 小林 由佳
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2022-015-E, (Released:2023-07-15)

目的:近年,質の高い産業保健活動を展開するために,産業保健専門職がリーダーシップを発揮することが求められている.本研究では,産業保健専門職が権限によらないリーダーシップを発揮するために必要な準備状態を測定するチェックリスト(The University of Tokyo Occupational Mental Health [TOMH] Leadership Checklist: TLC)を開発し,TLCの信頼性・妥当性を統計的に検証することを目的とした.対象と方法:文献レビューおよび産業保健専門職を対象としたインタビューに基づき,6因子54項目(自己理解10項目,状況把握10項目,ビジョン9項目,心構え12項目,業務遂行3項目,人間関係構築10項目)から構成される尺度のドラフト版を作成した.次に,産業保健専門職(人事労務,安全衛生,健康管理のいずれかの部門に所属する者)300名を対象に,webによる横断調査を実施し,信頼性・妥当性を検証した.結果:主因子法・プロマックス回転を用いた探索的因子分析を実施した結果,5因子51項目が得られた(自己理解8項目,状況把握10項目,ビジョン9項目,心構え12項目,業務遂行12項目).次に,確認的因子分析を行った結果,適合度指標はCFI = 0.877,SRMR = 0.050,およびRMSEA = 0.072となった.また,TLCの5つの下位尺度のCronbach’α 係数は,0.93~0.96となった.TLCの合計および下位尺度はいずれも,ワーク・エンゲイジメント,職務満足度,および自己効力感との間に有意な正の相関が認められた(p < .05).一方,心理的ストレス反応との間に有意な負の相関が認められた(p < .05).加えて,「権限によらないリーダーシップを発揮したことはあるか」という質問に対して「はい」と回答した群は,「いいえ」と回答した群に比べて,TLCの合計得点および下位尺度得点が有意に高かった(p < .001).考察と結論:本研究で産業保健専門職向けに新たに開発したTLCは一定の内的一貫性,構造的妥当性,構成概念妥当性(収束的妥当性および既知集団妥当性)を有することが示唆された.
著者
川上 和人 益子 美由希
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.31, pp.41-48, 2008-03

小笠原諸島では、無人島を含めたいくつかの島でネコが野生化している。一般に海洋島の動物は、捕食性哺乳類が不在の環境で進化してきているため、移入捕食者により個体群が大きな影響を受けることが少なくない。そこで、小笠原諸島においてネコが在来生態系に与える影響を評価する基礎資料とするため、母島において野外で採集したネコの糞分析を行った。その結果、ネズミ類が食物の大きな割合を占めているが、海鳥の繁殖地周辺では同頻度で海鳥を捕食していることが明らかになった。また、絶滅危惧IB類であるオガサワラカワラヒワを含め、トカゲ類や昆虫類、甲殻類など、多様な動物を採食していることが明らかとなった。母島南部はオガサワラカワラヒワの島内における主要な生息地であり、また海鳥繁殖地もあることから、特にこの地域で野生化したネコを積極的に管理する必要がある。
著者
川上 貴代 平松 智子 田淵 真愉美 我如古 菜月 山本 沙也加 秋山 花衣 岸本(重信) 妙子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.32-39, 2022-02-01 (Released:2022-03-12)
参考文献数
14

【目的】本研究は病院給食におけるハラール対応の現状を調査し,イスラーム教など宗教や食の信念をもつ患者の受け入れ体制の整備や対応の基礎資料とすることを目的とした。【方法】中国地方A県内の病院161施設に所属する管理栄養士を対象に,2019年12月,病院での個別対応食に関するアンケートを郵送し自己記入式アンケート調査で実施した。122施設(回収率75.8%)から回答を得てすべて解析に用いた。解析はχ2 検定,またはFisherの直接法で行った。【結果】宗教への個別対応の実施率は30.3%で病床数が多い病院ほど実施している傾向があった。ハラール対応経験のある割合は,調査対象全体の14.8%であり,既存献立の禁忌食品を除去・代替えして提供する病院が多かった。無効回答を除く120例のうちでハラールについて知っている,または聞いたことがあると回答した者は87.5%であり,ハラールを知っていると答えた者は全く知らないと答えた者と比較して,留意すべき食品として「豚肉」「アルコール飲料」「アルコール類」を選択する者が有意に高く,「醤油」については選択する者が高い傾向であった。【結論】今回,対象とした病院管理栄養士のハラールの認知度は高い一方で,給食における対応経験のある病院は少なかった。ハラール対応の具体的方法に関して,施設間での情報共有や学習の機会を持つことが重要と考えられた。
著者
川口 真帆 小野 亜佳莉 神谷 万里子 水上 修作 向井 英史 川上 茂
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【目的】mRNA封入脂質ナノ粒子(mRNA-loaded Lipid Nanoparticle; mRNA/LNP)は、新型コロナウイルスのワクチンとして筋肉内投与により世界的に使用されている。mRNA/LNPは生体内で分解されやすいmRNAを安定に保持し細胞質まで送達できるという利点があり、その機能性はmRNA/LNPの脂質構成に起因する。一方で、LNPは肝への集積、高いタンパク発現が知られており、肝毒性が懸念される。これは、筋肉内投与されたLNPが筋肉から肝臓へ到達するまで血中で安定な状態であるためと考えられる。そこでLNP構成脂質のうち、脂質膜の安定性に寄与するコレステロールの含有量を減らすことでLNPを不安定化し、筋肉から肝臓へ到達する前に崩壊させることができるのではないかと仮説を立てた。本研究では、コレステロール含有量を減少させたmRNA/LNPを作製し、細胞およびマウス筋肉内に投与後、タンパク発現を比較検討した。【方法】脂質組成のうちコレステロール含有量を60, 40, 20, 10 mol%としたluciferase mRNA/LNPを作製し、その物性について粒子径とmRNA封入率の評価を行った。作製したLNPをmRNAが0.1 µg/wellとなるようにHepG2細胞に添加し、luciferase発現を評価した。次に、ddY雄性マウス右大腿部筋肉に2 µgのmRNA/LNP投与し、4.5時間後に筋肉と肝臓を摘出し、luciferase発現を評価した。【結果】Luciferase活性測定の結果から、細胞ではコレステロール含有量の異なるmRNA/LNP間でluciferase発現は同程度であった。一方、マウスではコレステロール含有量の低いmRNA/LNPにおいて、肝臓での遺伝子発現と相対的に比較して、投与部位である筋肉でluciferase発現が有意に高かった。【結論】LNPの脂質組成のうちコレステロール含有量を減少させると、肝臓におけるluciferase発現を抑えられることが示唆された。本結果は、今後のmRNA/LNPの製剤設計において有益な基礎的知見となることが期待される。
著者
中本 恵理 川上 和宜 今田 洋司 式部 さあ里 杉田 一男 篠崎 英司 末永 光邦 松阪 諭 水沼 信之 濱 敏弘
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.403-409, 2011 (Released:2012-08-30)
参考文献数
16
被引用文献数
1 3

Cetuximab, a therapeutic agent for metastatic colorectal cancer, is a chimeric monoclonal antibody that binds and inhibits the epidermal growth factor receptor (EGFR). Adverse events associated with cetuximab include skin disorders, which occur at a high incidence, infusion reactions, and electrolyte disorders, such as hypomagnesemia. The incidence and time of onset of hypomagnesemia following the start of cetuximab treatment were investigated retrospectively. The efficacy of oral magnesium preparations in preventing hypomagnesemia was also examined.At The Cancer Institute Hospital of Japanese Foundation For Cancer Research, the incidence of hypomagnesemia in patients treated with cetuximab was 39.3%. However, there was no clear trend in the time of onset. In addition, there was no difference in the incidence of hypomagnesemia as a function of whether oral magnesium preparations were administered (p=0.097). Some patients developed severe hypomagnesemia and an intravenous magnesium preparation was not very effective in bringing about recovery, necessitating discontinuation of cetuximab therapy.Mild hypomagnesemia may be overlooked because subjective symptoms are not readily apparent. However, if it worsens, hypomagnesemia may lead to serious adverse events, such as arrhythmias, which would require discontinuation of cetuximab treatment. In pa tients receiving cetuximab, therefore, serum magnesium levels must be monitored regularly since early detection and treatment of hypomagnesemia are very important.
著者
川上 明孝
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.22-33, 1991-03-31 (Released:2017-05-22)

Das literarische Kunstwerk scheint desto mehr uns die Wahrheit zu sagen, als es ein Meisterwerk ist. Die Welt des Werks aber ist nicht eine wirkliche, sondern nur eine von den Wortern erdichtete, also eine fiktionale Welt. Ist es nun moglich, dass eine Fiktion die Wahrheit sage? Und wenn es moglich ist, wie sagt sie die Wahrheit? Ich versuche dieses Problem durch die Kritik an zwei Abhandlungen Ingardens zu losen. Im ersten Kapitel skizziere ich Ingardens Theorie des Quasi-Urteils. Im zweiten korrigiere ich sie vom pragmatischen Gesichtspunkt aus. Im dritten demonstriere ich, wie die fiktionalen Satze die Wahrheit in der Weise sagen konnen, dass sie die wahre Gestalt des dargestellten Gegentandes sehen lassen. Im vierten und funften Kapitel prufe ich den Wahrheitswert allgemeiner Satze, die sich oft im literarischen Kunstwerk finden, im Vergleich mit wissenschaftlichen Satzen. Meine Schlussfolgerung ist, dass die Wahrheit des literarischen Kunstwerks nicht fur die Relationswahrheit, die zwischen dem Satz und dem Realen besteht, sondern fur die Entdeckungswahrheit im heideggerschen Sinne, die die Relationswahrheit begrundet, zu halten ist.
著者
川上 尚恵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.144-158, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
22

本稿では,北京近代科学図書館で編纂発行された日本語教科書『初級日文模範教科書』と『日本語入門篇』の分析を行い,編纂背景をふまえ,占領初期の華北における日本語教育の一側面を明らかにした。『初級日文模範教科書』は,国定国語教科書と内容が重なる部分と例文・会話文の部分からなっていた。教科書に付された「教授参考」では,対訳的ではない中国語を利用した教授が提唱されており,日本語の学習過程をふまえた学習者への配慮が見られた。しかし,それを入門用教科書として再編纂した『日本語入門篇』では,中国語での説明が増加し,「読書的な対訳法」に近づいた教科書となった。両者の編纂には日本人図書館職員・中国人日本語講師が関わっていたが,特に『日本語入門篇』には中国人の伝統的日本語学習法が強く反映していた。今後の中国人の日本語学習・教育史をふまえた研究の必要性を指摘した。
著者
大田尾 浩 八谷 瑞紀 村田 伸 小野 武也 梅井 凡子 金井 秀作 長谷川 正哉 溝上 昭宏 川上 照彦
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.359-363, 2011 (Released:2011-07-21)
参考文献数
21
被引用文献数
1

〔目的〕脳卒中片麻痺患者の屋内車いす駆動の可否に影響を及ぼす要因を検討した.〔対象〕脳卒中片麻痺患者59名(男性35名,女性24名)とした.〔方法〕候補となる要因をBrunnstrom stage,立位バランス,座位バランス,握力,腹筋力,非麻痺側・麻痺側の下肢筋力,および認知機能とし,これらの要因と車いす駆動能力を評価した.車いす駆動能力に影響する要因をロジステック回帰により分析した.〔結果〕車いす駆動の可否に影響を及ぼす要因は,立位バランスと腹筋力が選択された.〔結語〕脳卒中片麻痺患者が屋内での車いす駆動能力を獲得するには,立位バランスと腹筋力が重要であることが示された.
著者
内田 明彦 川上 泰 加藤 茂 村田 義彦
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.115-119, 1999-02-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

1995~1997年に神奈川および静岡県内の河川に生息, あるいは養殖されるアユ, アマゴ, イワナ, ニジマスなどについて横川吸虫メタセルカリアの感染状況を調査した. 神奈川県内の河川から採取したアユの感染率は73.7~87.1%で, 1匹当たりのメタセルカリア数は12~348個体であった. 早川, 酒勾川で採取されたウグイは濃厚に感染 (87.0~100%) し, 1匹当たりのメタセルカリア数は27~1, 247個体であった. 早川, 藤木川産ニジマスには感染がみられなかった. 静岡県内 (狩野川本流とその支流) ではアユ (感染率80%, 寄生数25~428), ウグイ (93.8~100%, 36~1, 257), オイカワ (46.6~56.7%, 16~269), カワムツ (76.3%, 24~198) およびタカハヤ (100%, 49~165) の5種に感染がみられたが, ニゴイ, イワナ, ニジマス, アマゴからは検出されなかった. 井戸水飼育の養殖アユ212匹中3匹 (1.4%), 河川水利用の養殖アユでは223匹中142匹 (63.7%) からメタセルカリアが検出され, 感染率および1匹当たりのメタセルカリア数は晩秋に向けて増加した. しかし, 養殖ニジマス, イワナ, アマゴからはメタセルカリアは検出されなかった. 各種魚類から得られたメタセルカリアを猫に感染して得た成虫は, 形態変異がみられたが, すべて横川吸虫と同定された.
著者
中根 俊成 池田 徳典 佐藤 伸一 田村 直人 樋口 理 鈴木 隆二 坪井 洋人 伊原 栄吉 宋 文杰 川上 純 佐藤 和貴郎
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

自己免疫性自律神経節障害は自律神経系が免疫異常の標的となる比較的新しい疾患概念である.本症では抗自律神経節アセチルコリン受容体抗体は病原性自己抗体として病態の鍵となる役割を果たす.自己免疫性自律神経節障害は自律神経系外の症候や膠原病などの併存,小児症例が存在する.こういった「多様性」が本症の診断しにくさ,難治化につながっている.本研究では1)自己抗体の病原性検証,2)病態モデル開発,3)小児症例,膠原病症例における臨床的特徴の解析,を遂行する.「複雑な病態と臨床像=多様性」への多角的アプローチが自己免疫性自律神経節障害の診断基準作成,治療ストラテジーの確立に貢献すると考えられる.
著者
早川 尚男 九後 太一 川上 則雄
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.493-499, 2012-07-05 (Released:2018-03-02)
参考文献数
40

We briefly review the birth of the Progress of Theoretical Physics (PTP) and its relationship with Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ). We also trace the development of PTP and the route to rebirth as Progress of Theoretical and Experimental Physics (PTEP). Furthermore, we introduce some milestone papers of PTP in both fields of particle physics and condensed matter physics.
著者
川上 裕司 関根 嘉香 木村 桂大 戸高 惣史 小田 尚幸
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.19-30, 2018
被引用文献数
3

自分自身が皮膚から放散する化学物質によって,周囲の他人に対してくしゃみ,鼻水,咳,目の痒みや充血などのアレルギー反応を引き起こさせる体質について,海外ではPATM(People Allergic to Me)と呼ばれ,一般にも少しずつ知られてきている。しかしながら,日本では殆ど一般に認知されておらず,学術論文誌上での報告も見当たらない。著者らはPATMの男性患者(被験者)から相談を受け,聞き取り調査,皮膚ガス測定,着用した肌着からの揮発性化学物質測定,鼻腔内の微生物検査を実施した。その結果,被験者の皮膚ガスからトルエンやキシレンなどの化学物質が対照者と比べて多く検出された。また,被験者の皮膚から比較的高い放散量が認められたヘキサン,プロピオンアルデヒド,トルエンなどが着用後の肌着からも検出された。被験者の鼻腔内から分離された微生物の大半は皮膚の常在菌として知られている表皮ブドウ球菌(<i>Staphylococcus epidermidis</i>)であった。分離培地上でドブ臭い悪臭を放つ放線菌(<i>Arthrobacter phenanthrenivorans</i>)が分離されたことはPATMと何か関連性があるかもしれない。また,浴室や洗面所の赤い水垢の起因真菌として知られている赤色酵母(<i>Rhodotorula mucilaginosa</i>)がヒトの鼻腔内から分離されたことは新たな知見である。この結果から,PATMは被験者の思い込みのような精神的なものではなく,皮膚から放散される化学物質が関与する未解明の疾病の可能性が示唆された。