著者
杉浦 勉
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.280-293, 2005 (Released:2022-07-15)
参考文献数
15

財政の自立性が限定されているイギリス地方自治体にとって,民間事業者を活用できるPFI(Private Finance Initiative)は非常に魅力的な公共サービス調達手段である。財政資金の投入が必要であった社会資本整備を,資本調達を含めて民間事業者に任せ,これを管理統制することを通じて,地方自治体は公共サービスを提供する責任を国民に対して果たすことができるからである。 その一方で,PFIのこうした特質は,これを導入する地方自治体の在り方を変革していくことになった。PFIを活用しようとすれば,地方自治体は従来のような公共サービスを提供する主体と言うよりは,民間事業者に公共サービスを提供させるための条件を整備する統括者といった存在にならなければならない。また,PFI事業で民間事業者を統括するためには,地方自治体が中央省庁の下部組織ではなく,地域住民の要求を実現する機関として直接に民間事業者と対峙できる立場になる必要がある。このようにPFIは社会資本整備における改革であると同時に,地方自治体の役割を改革していく側面をもっているのである。 しかし,PFIが地方自治体に導入されていく過程は,良質な公共サービスを提供するというPFIの規範的目的が実現していったことを必ずしも意味したのではなかった。事態はむしろ,PFIに対して強力な批判がなされているのである。PFIが期待通りの成果を上げていないにもかかわらず,その導入に合わせて地方自治体の位置づけが変革されていく。これが地方自治体におけるPFIの実情であり,また,今後におけるPFIの活用に向けた取組みの出発点である。
著者
杉浦 芳夫
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-46, 2020-03-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
217

Christaller は1933 年に『南ドイツの中心地』を出版した直後に,ドイツの行政領域再編を論じた論文を親ナチ的地理学雑誌に発表した.そして1934 年以降,ベルリン大学において国家学・歴史地理学を専門とする急進的民族主義者Walther Vogel の「ドイツ帝国歴史アトラス」作製プロジェクトに加わる一方で,ナチスに協力的な同大学自治体学研究所でも研究に携わった.これらの経験を踏まえて,Christaller はナチスの教育行政方針と親和性がある自治体地理学(Kommunalgeographie)を提唱するに至る.自治体地理学の実証研究事例が,後にフライブルク大学において教授資格請求論文として認定された,1937 年出版の『ドイツ帝国における農村集落様式といち場ばまち(=その自治体組織との関連性』であった.Christaller はこの著書において,市町M 段階中心地)を核とする 市場統一体に基づく農村自治体再編論を展開し,実際に市場統一体シェーマに沿った大規模な農村集落建設を実現し得る場は,入植地確保の点から見て東欧などの国外にしかないことを暗に認めている.さらに,市場統一体の幾何学的模式図(=農村集落システム理念図)にはドイツ農村に特徴的な集落や農地,林地といった景観的要素が描き加えられており,この景観への配慮はChristaller を抜擢した東方占領地総合計画(Generalplan Ost)の統括責任者Konrad Meyer が目論んだドイツ景観の東方地域への移植計画と符合するものであった.
著者
杉浦 郁子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.148-160, 2013-10-31 (Released:2015-09-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

本稿では,性別違和感のある人々の経験の多様性が顕在化したことを背景に,「性同一性障害であること」の基準として「周囲の理解」が参照されるようになった可能性を指摘する.また「性同一性障害」がそのように理解されるようになったとき,性別違和感のある子とその親にどんな経験をもたらしうるのかを考察する.まず,1980年代後半から90年代前半に生まれた若者へのインタビュー・データを用いて,「周囲の理解」という診断基準が出現したプロセスについて分析する.次いで,「性同一性障害」の治療を進めようとする20代の事例を取り上げ,医師も患者も「親の理解」を重視していることを示す.そのうえで,親との関係調整の努力を要請する「性同一性障害」という概念が,親子にどのような経験を呼び込むのかを論じる.
著者
杉浦 崇夫 的場 秀樹 村上 悳
出版者
The Japanese Society of Physical Fitness and Sports Medicine
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.17-24, 1983-02-01 (Released:2010-12-10)
参考文献数
32

Sex difference in enzyme activities of the skeletal muscle were examined in rats aged 10 and 35 weeks. At 10 and 35 weeks of age, animals were anesthetized with ether and weighed. M, gastrocnemius, m.extensor digitorum longus and m.soleus were removed from both legs under pentobarbital anethesia and weighed. These muscles were used for the determination of myosin ATPase activity, phosphofruktokinase (PFK) activity, succinate dehydrogenase (SDH) activity and non-collagenous protein (NCP) content.The results were summarized as follows:1) Thirty-five week-old rats had heavier body and muscle weights than 10-weekold rats in both sexes and males had significantly heavier body and muscle weights than females at both 10 and 35 weeks of age.2) Similar tendency was observed with regard to total NCP content. Furthermore, it was found that total NCP content was positively correrated to muscle weight (r=0.871, r=0.909 and r=0.871 in m. gastrocnemius, m.extensor digitorum longus and m.soleus, respectively) . However, no significant difference in NCP content per wet weight was found between both sexes and between different age groups.3) Myosin ATPase activity tended to be lower at 35 weeks of age than at 10 weeks of age, the tendency being the most prominent in the gastrocnemius muscle of male rat (p<0.05) . However, no significant sex difference in myosin ATPase activity was observed in three muscle examined in both age groups.4) Although not statistically significant, mean PFK activity was slightly lower in 35-week-old rats than in 10-week-old rats, and there was no sex difference in PFK activity at both weeks of age.5) SDH activity was significantly lower in 35-week-old rats than in 10-week-old rats except that there was no significant age difference in the gastrocnemius muscle of males. There was no significant sex difference in SDH activity in both age groups with an exception of the extensor digitorum longus muscle from 35-week-old rats, where males had significantly higher SDH activity than females.
著者
松井 照明 田島 巌 牧野 篤司 内藤 宙大 森山 達哉 渡邊 弥一郎 北村 勝誠 高里 良宏 杉浦 至郎 和泉 秀彦 伊藤 浩明
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.234-240, 2022-08-20 (Released:2022-08-22)
参考文献数
19

目的:ボンラクトⓇ iの原料である酵素分解分離大豆たんぱく(酵素分解SPI)は,熱処理と酵素処理により低アレルゲン化されている可能性があり,そのアレルゲン性を確認することを目的とした.方法:1.酵素分解SPI及びその原料のSPIのポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)及び免疫ブロッティングを行った.2.大豆アレルギー患者に対して皮膚プリックテスト(SPT),豆腐または豆乳とボンラクトⓇ iの経口負荷試験(OFC)の比較を行った.結果:1.SDS-PAGEではSPIよりも酵素分解SPIで全体に低分子化されたバンドが確認され,免疫ブロッティングではGly m Bd 28K及び30Kに特異的なバンドが検出されづらくなった.2.2/3例で,大豆と比較して酵素分解SPIのSPT膨疹径が小さかった.OFCでは3/4例でボンラクトⓇ iの症状誘発閾値たんぱく量が多く,全例で重症度が低かった.結語:ボンラクトⓇ iは低分子化されており,アレルゲン性が低いことが示唆された.
著者
桑田 百代 杉浦 徳美
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
家政学雑誌 (ISSN:04499069)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.406-411, 1970-11-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
7
被引用文献数
2

全身、上肢、下肢を含む筋作業で、R.M.R.と心搏増加率との間に高い相関がみられ、その相関は作業終了前15秒間がより高いことを知った。さらに、種々の家事労働を任意の時間の長さで実験した結果についても、作業終了前30秒間、15秒間に高い相関が得られ、両者ともr=0.90からそれ以上になり、作業終了に近づくほどその相関が高くなる。以上のことから、作業時間の長さにかかわらず作業終了直前の心搏数を測定すればR, M.R.の一応の推定が可能であるとの結論に達した。また家事労働の測定にも活用できることがわかった。
著者
杉浦 省三 高橋 克幸 小林 佳瑚
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.503-505, 2019-09-15 (Released:2019-09-28)
参考文献数
13

ウナギ代替フィレの開発を目的として,外来ナマズ2種(クララ,カイヤン)に肥育飼料を給餌して養殖した。これを,養殖業者から購入したニホンウナギとあわせて,化学分析と食味試験(蒲焼)によって比較・評価した。両種とも,肥育飼料を給餌することで,フィレの脂質含量が増加した。食味試験では,ウナギとクララの肉質(固さ)が同等の評価となった。「脂濃さ」では,カイヤンの腹肉がウナギよりも高い評点となった。一方「うなぎらしさ」で,クララが最も高い評点となった。
著者
森 俊夫 淺海 真弓 野口 雅子 杉浦 愛子 日下部 信幸
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.485-490, 2007 (Released:2010-07-29)
参考文献数
5

The colored shadow phenomenon of polka-dotted patterns is investigated by applying image analysis. The purpose of our study is to evaluate how the achromatic color of polka-dots is perceived as having a slightly yellow hue which is the complementary color of blue when placed in a blue background. RGB images are converted to lightness (L*) images. Each pixel of L* image is assigned a gray-level value from 0 for black to 255 for white. The co-occurrence contrast (CON) is calculated for L* images. CON as a parameter for lightness contrast effect increases with the increase of the difference of lightness between the polka-dotted pattern (the test field) and the background (the inducing field), regardless of whether the lightness of the figure becomes higher or lower than that of the background. The degree of colored shadow of 30 kinds of polka-dotted patterns is evaluated by sensory evaluation, according to the rating-scale method, and the relation between their sensory-evaluation values and CON is examined. It is concluded that the colored shadow of polka-dotted patterns is enhanced with the decrease of the lightness contrast effect.
著者
竹中 裕人 杉浦 英志 西浜 かすり 鈴木 惇也 伊藤 敦貴 花村 俊太朗 神谷 光広
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.337-346, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
40
被引用文献数
1

【目的】腰部脊柱管狭窄症術後の患者立脚型アウトカムと運動機能の術後経過を明らかにすること。【方法】LSS 術後1,3,6 ヵ月で評価できた78 症例を対象とした(最大12 ヵ月追跡)。固定術37 例(68.4 ± 10.5 歳)と除圧術41 例(68.9 ± 7.8 歳)であった。JOABPEQ,腰痛・下肢痛・下肢しびれのVAS,6 分間歩行テストと体幹屈曲・伸展筋力を評価した。【結果】固定術,除圧術ともJOABPEQ の4 つの項目,腰痛,下肢痛,下肢しびれのVAS と6 分間歩行距離は,術後1 ヵ月から改善した。一方,JOABPEQ の腰椎機能障害は術後6 ヵ月から改善した。また,体幹筋力は,除圧術が術後3 ヵ月から改善した。【結論】本研究で明らかになったJOABPEQ と運動機能の経過は,手術の説明や術後経過の目標値として役立つと考えられる。
著者
中尾 聡志 上野 将之 野村 卓生 池田 幸雄 末廣 正 公文 義雄 杉浦 哲郎
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.116-117, 2010-04-20 (Released:2018-08-25)

本研究の目的は,有酸素運動が実施困難な糖尿病患者に対し実施可能,かつ糖代謝改善に有効な理学療法(物理療法)を検討することであり,その基礎的研究として,健常成人の安静時・神経筋電気刺激後の血糖値およびインスリン値を比較検討することである。対象は健常成人20名とした。方法は連続した2日間にて安静時・神経筋電気刺激時の2条件において75gのブドウ糖を経口摂取し糖負荷後0分・30分・60分・90分・120分時の血糖値・インスリン値を測定した。結果より神経筋電気刺激群は糖負荷後30分時の血糖値・60分時のインスリン値が安静群と比較し有意に低下しており,神経筋電気刺激による血糖上昇抑制効果が認められた。本研究結果より健常人において神経筋電気刺激により血糖上昇抑制効果が期待できることが示された。今後,糖尿病患者において有効性を検討する必要がある。
著者
前田 洋枝 杉浦 淳吉 安藤 香織
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.12-23, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
34

環境政策に関する科目において,Covid-19の流行により2020・2021年度に説得納得ゲームをZoomのブレイクアウトルームを使用してオンラインで実践し,2019年度の対面授業での実践と比較した.2020年度は説得納得ゲーム相互観察版を参考にしつつ,独自の改変点として説得者が被説得者に説得を行う説得セッションと観察者が説得者・被説得者に対して気づいた点をフィードバックするフィードバックセッションを交互に行うなどした.2021年度は説得者1名・被説得者2~3名とし,説得者が複数の被説得者に説得できるようにするなどした.最後にオンラインでの実践の成果・長所と課題・展望について,2021年度のゲーム後のアンケートの結果も提示しながら,参加者はオンラインでのゲーム体験からも説得が成功した時の喜びや達成感を感じ,環境配慮行動への理解を深めたことや,ブレイクアウトルームの自動割当機能を使用する利点やアイデアカードの活用について論じた.
著者
野波 寛 杉浦 淳吉 大沼 進 山川 肇 広瀬 幸雄
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.264-271, 1997-10-28 (Released:2010-07-16)
参考文献数
14
被引用文献数
44 19

This study researched the effects of cognitive variables on recycling behavior, as well as effects of various media of influence on the cognition and behavior. According to Hirose (1994), the decision making process for recycling consists of two steps. The first leads to goal intention of an ecological lifestyle. The second is related to behavior intention of recycling in line with the goal intention. Mass media, such as newspaper and TV, are thought to influence beliefs about environmental problems, including three determinants of goal intention: perception of seriousness, responsibility, and effectiveness. Personal media, such as personal contacts with pro-environmental activists, are thought to influence evaluation of behavior, including three determinants of behavior intention: evaluation of feasibility, cost and benefits, and social norms. Local media, such as municipal announcement and circular, are hypothesized to have a mixed effect of the two. Path analysis indicated that goal intention affected recycling behavior through behavior intention. Effects of the three media of influence on the cognitive variables were also consistent with the hypothesis.