著者
小林 光一
出版者
武蔵工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は「ジカチオン性二鎖型LB膜の作製とその吸着特性」を中心に系統的に行われたものである。以上研究費補助期間中に得られた結果を以下に要約する。モノジカチオン性アルキルアンモニウム塩(SAC,DAC,DSACとTSAC),ジカチオン性アルキルアンモニウム塩(XSAC)および第1級アルキルアミン(ODA)の膜形成能について検討した。これらの物質のうちで、二つあるいは三つアルキル基を持つDSAC,TSACおよびXSACは安定な単分子膜を形成することが明らかにされた。また、ODAはpH10以上で安定な単分子膜を形成することが分った。一方、MOやNO水溶液上でのπ-A等温線の測定から、TSAC,XSACおよびODAの単分子膜は下層水中のNOやMOイオンと強く相互作用することがわかった。作製されたTSAC,XSACおよびODAのLB膜はカチオン性の性質を保持しており、NOやMOなどの色素イオンに対して高い吸着特性を示した。これらの吸着挙動はLB膜中の炭化水素鎖の充填状態やpHによって影響することが分かった。また、これらの色素の吸着は静電的な相互作用によって化学量論的に起ることもわかった。さらに、カチオン性LB膜中のNOやMOの吸着状態には差異があることが明らかになった。すなわち、MO分子は膜表面に対してほぼ垂直な配置を取り、一方NO分子はLB膜表面に横たわった配置を取る。これはMOとNOの分子構造の違いに起因するものと考えられる。この研究で得られた分子配置についての情報はカチオン性LB膜へのいろいろな吸着質の吸着挙動を理解するのに役立つことが期待される。
著者
岡田 羊祐 林 秀弥 大橋 弘 岡室 博之 松島 法明 武田 邦宣 中川 晶比兒
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、独禁法違反事件に係る審判決を素材として、日本の判例法的展開を、経済学の一分野である産業組織論の視点から分析・評価したものである。日本では、米国・EUと比較して、独禁法の判例研究が経済分析を刺激するプロセスが十分に機能してこなかった。そのため、経済合理性の視点からみて特異な判断が採用されてきたこともあった。この空隙を埋めるべく、経済学者と法学者が共同して独禁法の審判決の違法性判断基準を理論的・実証的に分析した。その結果、近年、日本の独禁法審判決は、一部の行為類型、特にカルテル・談合、企業合併などの分野において、徐々に経済学的にみて合理的な判断基準が採用されつつあることが明らかとなった。
著者
林 健一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.205-211, 1966-12-25

光利用効率を, 群落が光をまず受けとめる効率(Ei)と, 受けとめた光を利用して光合成により乾物として固定する効率(Eu)とに分解すると, 乾物生産量=投下エネルギー×Ei×Eu という関係が成り立つ. 水稲中生5品種を, 粗・中・密の栽植密度で圃場栽培し, 一方, 群落内外の光の強さを連続測定して, これらの効率と乾物生産, 収量との関係をしらべて次の結果を得た. 1) 繁茂度の低い生育前期の乾物生産は主としてEiにより, 繁茂度の高い中後期は主としてEuにより決定され, 特に出穂後の乾物生産とEuとは密接な直線的関係を示した. 2) 全生育期間の平均Eiは45〜66%, 平均Euは1.5〜2.1%, 投下全エネルギーに対する乾物生産平均効率 (Ec=Ei×Eu) は0.7〜1.4%であつた. 3) 栽植密度増加とともにEi, Euも相伴つて上昇すれば乾物生産も増加したが, Eiの上昇がEuの下降によつて相殺されると, 乾物生産も増加しなかつた. 4) Euは生育後半期の(乾物増加量)/(葉積)と密接な直線的関係を示し, Euが群落の光合成能率により規定されることを示唆した. 5) 収量=全乾物重×収穫指数(harvest index)とすると, 栽植密度増加による収穫指数の低下程度には品種間差異があつた. 6) 栽植密度増加とともに, Euが低下して大巾な乾物生産増加の可能性は低いが, 収穫指数が比較的に安定しているために多収な農林29号型と, Euがさらに増加して乾物生産が大巾に増加し, 収穫指数の低下を補うために多収な金南風型との, ニつの型を類別できた.
著者
朴 相俊 岩岡 正博 酒井 秀夫 小林 洋司
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.92, pp.p175-197, 1994-12

近年,全国各地で高性能林業機械を導入して新たな林業を展開している。今回はそのなかで地形が急峻な山岳林における間伐材搬出等の集材作業仕組みとして評価が高い,タワーヤーダによる間伐作業における適切な作業システムと適正路網密度について調査し,結果を得た。即ち,間伐では単木材積が大きいほど能率的であり,またクランプ式搬器によって集材作業功程が高くなり,横取り作業の効率も3倍程度向上することが分かった。タワーヤーダによる集材作業システムを前提にした適正路網密度は40m/ha以上の高密度となった。Recentry, high quality forest machines like harvesters, feller-bunchers, processors and mobile tower-yarders have been used in Japanese forest since several years ago in order to improve its difficult forest operational conditions. In this paper we introduce an outline and results of thinning operation systems with a mobile tower-yader and a profitable forestroad density, that were performed in Tokyo University Forest at Chichibu and Chiba. A profitable forest-road density is over 40 m/ha for thinning operation systems with a mobile tower-yarder in study area A, B.
著者
大石 由起子 木戸 久美子 林 典子 稲永 努
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学社会福祉学部紀要 (ISSN:1341044X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.107-121, 2007-03-20
被引用文献数
8

Peer Support is a support system that utilizes the peer relationship. Usually counseling is done by a professional counselor who is educated in psycho therapy. However, in Peer Counseling the counselor is a peer of the person receiving counseling, one who stands in the same position or has the same disorder or the same experience as the person being counseled. There are two merits to using peer counseling at universities and colleges. First, it can help students who are having some problems in their campus life. Second, the peer counselors who volunteer to participate can experience some growth in themselves as well. In this paper we reviewed selected recent articles on peer support or peer counseling in Japan in the fields of welfare, health and student counseling. These articles are reviewed from the following four points : 1) start and structure of peer counseling (peer support); 2) programs of peer counselor education; 3) reports of peer counseling practice; 4) maturing or changing of students in peer counselor training.
著者
冬木 真吾 小林 幸夫 石川 智冶 宮原 誠
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EA, 応用音響
巻号頁・発行日
vol.97, no.602, pp.9-16, 1998-03-13
被引用文献数
22

高度感性情報の再現に重点をおき、ディジタル音響機器を見直した結果、CD Playerの電源極性が"空気感"の再現に影響を与えることを発見した。この事実を定量的に解析するために、CD Playerの電源極性の違いのみによる差分信号を測定した。その結果、CD Player出力信号(アナログ)に時間軸方向の伸び縮み歪みが140ns(以内)〜700nsec存在し、この歪みが大きいと"空気感"の再現が悪いことを明らかにした。
著者
布袋屋 智朗 林 英司 長山 勝 柳 久美子 林 良夫
出版者
Japanese Society of Oral and Maxillofacial Surgeons
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.840-842, 1997-11-20
参考文献数
13
被引用文献数
9 2

Vascular leiomyoma is a benign tumor of smooth muscle that mainly occurs in the hands and legs. However, it rarely occurs in the oral cavity.<BR>A case of vascular leiomyoma of the buccal mucosa is reported. A 73-year-old woman visited our department because of a swelling in the buccal mucosa. CT examination revealed a smooth tumorous lesion in the left buccal mucosa. The clinical diagnosis was a benign tumor, and enucleation of the tumor was performed. The histopathological diagnosis was vascular leiomyoma.
著者
佐藤 文昭 見上 彪 林 正信 喜田 宏 桑原 幹典 小沼 操 遠藤 大二 児玉 洋 久保 周一郎
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1987

本研究の主眼は有用な動物用リコンビナント多価ワクチンの作出に必要な基磯実験の実施にある。リコンビナント多価ワクチンはベ-スとなるベクタ-ウイルスとワクチンの決定抗原遺伝子を結合することにより作出される。ベクタ-ウイルスとしてはマレック病ウイルス(MDV)と鶏痘ウイルスに着目し、それらのチミジンキナ-ゼ遺伝子中に挿入部位を設定した。また同時に、MDVの感染から発病の過程に関る種々の抗原遺伝子の解折とクロ-ニングを行った。すなわち、ワクシニアウイルスをベ-スとしてNDVのHN蛋白遺伝子を組み込んだリコンビナントワクシニアウイルスを作出し、NDV感染防御におけるHN蛋白に対する免疫応答が感染防御に重要な役割を果たすことを明かにした。加えて、インフルエンザウイルスおよびニュ-カッスル病ウイルスの感染防御に関る抗原遺伝子の解折により、抗原遺伝子群の変異を検討した。続けて上記のウイルスベクタ-に外来遺伝子を組み込み、リコンビナント多価ワクチン実用化への可能性を検討した。すなわち、ニュ-カッスル病ウイルス(NDV)のヘマグルチニンーノイラミニダ-ゼ蛋白(HN蛋白)とマレック病ウイルスのA抗原の遺伝子をバキュロウイルスベクタ-に組み込み、生物活性と抗原性をほぼ完全に保持した蛋白を得ることができ、ワクチンとしての使用に有望な結果を得た。MDVの単純ヘルペスウイルス(HSV)のB糖蛋白類以蛋白遺伝子をバキュロウイルスベクタ-へ組み込み、高純度の蛋白を得た。さらに、本研究では、将来非常に有用なワクチンを作出するための基磯的な知見とリコンビナント多価ワクチンの実用化を近年中に可能にする実験結果も含むといえる。これらの有用な知見により、本研究は初期の目的を達成したばかりではなく、リコンビナントワクチン実用化への次の目標である野外試験による効用の証明のためにも一助となったといえる。
著者
益田 忠雄 林 清史
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.45-54, 1956

1) 葱頭の開花は5月31日に始まつて6月28日に終り,従つて開花期間は29日間であつた. 2) その中で開花数の多かつたのは,6月8日から22日の15日間で全開花数の84.9%であつた. 3) 開花は開花前日及び開花当日の日照量によつて影響されるものの如くである. 4) 1花球に於て最も多く咲いた花数雄842で平均は291であつた. 5) 1花球当りの開花数の多いものは,開花始めも早く,開花期間も長い. 1) 葱頭の花柱の伸長竝に雌蘂の授精力保有期間について実験した. 2) 葱頭の花柱は開花後徐々に伸長するが,その伸長は変異があり,一定の傾向は見られなかつた.最大の長さに達するのは,開花の翌日以後であつて,又葯が全部開葯してからであつた. 3) 雌蘂の授精力は開花2日目より生じ,6日目に終つた. 4) 結局,形態的にも,機能的にも葱頽の雌蘂は開花当日には成熟していなくて,雄蘂先熟の性質をもつていた。
著者
安江 政一 加藤 義成 林 玉美 榊原 仁作
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
藥學雜誌 (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.88, no.6, pp.738-741, 1968-06-25
被引用文献数
1

Dried leaves of Acanthopanax sciadophylloides FRANCH. et SAV. were extracted with methanol and the water-soluble part of the extract was treated successively with solutions of lead acetate, basic lead acetate, and ammoniacal alkaline lead salt, as shown in Chart 1. myo-inositol, scyllitol, kaempferitrin, and antoside were isolated and identified. The constituents of these leaves were somewhat different according to the district where the materials came from. Utkin had suggested the structure of antoside as quercetin 3 (7)-glucosido-7 (3)-rhamnoside. Relative positions of glucose and rhamnose in the antoside molecule were now determined by enzymatic cleavage of rhamnose to give quercetin 3-glucoside (isoquercitrin) (Chart 2).
著者
太田 成男 小林 悟 武藤 あきら 渡辺 公綱 渡辺 嘉典 岡田 典弘
出版者
日本医科大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1997

ミトコンドリアtRNA病の発症機序の分子機構解明とそれを基礎とした治療法の開発が行われた。太田と渡辺公綱は共同で、ミトコンドリア病の原因である変異ミトコンドリアtRNAを精製し、修飾塩基を含む構造解析をし、ミトコンドリア病のふたつの病型(MELASとMERRF)の原因の3種類の変異ミトコンドリアtRNA(tRNA-LysとtRNA-Leu(UUR))では共通にアンチコドンの塩基修飾が欠損していることを明らかにした。さらに、渡辺はこの塩基の修飾にはタウリンが結合していることを明らかにした。すなわち、3つの変異tRNAには共通にアンチコドンにタウリンが結合していない。この塩基修飾の欠損によって、mRNAのコドンへの親和性が低下してミトコンドリア内の蛋白合成が停止することによって発症することを明らかにした。変異tRNAの構造解析、機能解析を基礎として疾患の治療法の基礎が開発されたので、一連の研究の社会的意義はきわめて大きい。小林はミトコンドリアrRNAが生殖細胞の形成に普遍的に必要であること、生殖細胞形成期の細胞ではミトコンドリアrRNAを含むミトコンドリア型(原核細胞型)のリボソームが形成されていることを明らかにした。この研究によって、ミトコンドリア型の翻訳系が生殖細胞の形成に必要であるという独創的な概念を提出した。この概念は、類する研究がないほど新しい分野をきりひらいたという意味で極めて重要である。渡辺嘉典は減数分裂に必要なRNAであるmeiRNAの機能を明らかにした。すなわち、meiRNA結合蛋白が核と細胞質をシャトルさせるためにRNAが必要であるという新しい概念を打ち立て、証明した。武藤はmRNAとtRNAの双方として機能するmtRNAの役割ドメインを決定し、その分子機構を解明した。
著者
小林 一行
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

パーソナルEV知能化のためのJAUSコンポーネントの製作とその実装を行った.2010年度から2012年度までの間に行った研究は,主にJAUSを用いたローカルコンポーネントの開発および実験,既存のセンサをJAUSコンポーネントとして扱うことができるJAUSProtocolConverterの開発とJAUSシステムの統合に関する研究および実験を行った。そのJAUS準拠EVコンポーネントの実証実験およびデモンストレーションの場として,(1)米国で開催されたIGVC大会、(2)日本で開催されたつくばチャレンジへの参加出場、(3)第25回国際計量計測展のアカデミックプラザに出展し、JAUSProtocolConverterの試作モデルの展示を行った。
著者
神宮 浩之 豊田 恵美子 小林 信之 工藤 宏一郎
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR TUBERCULOSIS
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.397-400, 2004-06-15
被引用文献数
6

膜炎を合併した非結核性抗酸菌症の報告は稀であり, 今回私たちは胸水貯留を認めた肺M.kansasii症の1例を経験したので報告する。症例は60歳男性。数ヵ月前より続く全身倦怠感, 右肩凝り, 発熱を主訴に近医受診。胸部X線上, 右上葉の浸潤影を指摘され, 肺炎の診断で一般抗生剤の投与を受けるも改善せず, 肺結核疑いで平成15年5月7日当科入院となった。入院時, 右胸水を認め, 胸腔穿刺を行ったところ滲出性胸水でAdenosinedeaminase(IADA) は66.1U/lと高値を示した。また, ツベルクリン反応が強陽性であったことより肺結核を疑い, 気管支鏡検査を施行した。右B1aおよびB2aより行った経気管支肺生検では, 類上皮細胞肉芽腫病変を認め, 気管内吸引痰, 気管支擦過浮遊液, 気管支洗浄液のいずれの検体からも培養検査で <I>M.kansasii</I> が検出された。国立療養所非定型抗酸菌症共同研究班の診断基準より肺 <I>M.kansasii</I> 症と診断し, RFPを含む3剤の治療を行った。以後, 胸水再貯留は認めず, 全身状態良好で6月6日退院となった。
著者
山田拓人 鈴木一徳 和良品友大 林隆史
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, no.1, pp.635-637, 2011-03-02

近年、Hadoopなどの大規模のデータを分散処理するフレームワークが<br />普及したことにより、蓄積された大量のデータを分析する<br />データマイニングが盛んに行われている。<br /><br />しかしながら、複数の異なる種類のデータを組み合わせた分析では、<br />各々のデータフォーマットが異なるため、分析処理が複雑になってしまう。<br /><br />そこで我々は異なる種類のデータを組み合わせた分析を容易にするために、<br />様々なデータをある一定の形式に変換可能な情報基盤を構築した。<br />具体的には、すべてのデータを分析処理が容易なXML<br />または構造を持ったテキスト形式に変換する。<br /><br />構築した基盤を用いて、<br />各種センサー・医療用データ・天候データ<br />を組み合わせたデータマイニングの結果も含めて報告する。
著者
冨永 達 小林 央往 植木 邦和
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.273-279, 1989-12-25
被引用文献数
1

チガヤ(Imperata cylindrica var. koenigii)は防除が困難なイネ科の多年生雑草である。本研究では和歌山県紀伊大島におけるチガヤの集団間および集団内変異を明らかにしようとした。 紀伊大島内の路傍、放棄畑、果樹園、芝地および海岸前線砂丘のチガヤ11集団(Fig.1)について、1982年から1984年にかけて自生地における結実率を調査した。また、11集団から5クローンずつ、1クローンあたり5ラミートを任意に選び、1983年6月10日に直径20cm、深さ19cmの素焼鉢に1ラミートずつ移植した。11月上旬に植物体を掘り取り、草丈、分株数、根茎数、根茎の直径および長さ、器官別乾物重を測定した。また、琶穎の長さ、菊の大きさ、自殖率および100粒重も調査した。移植実験は京都大学農学部附属亜熱帯植物実験所(紀伊大島)で行った。 自生地における結実率は、集団および年次の違いにより大きく異なった(Table 3)。海岸前線砂丘のチガヤは、花粉粒がほとんど認められず、雄性不稔であり、その結実率は、0.46%以下と著しく低かった。他の10集団では、菊の形状や花粉稔性に異常は認められず、1.05%から59.07%におよぶ結実率の幅広い変異は集団の大きさや出穂個体の密度によるものと推察された。また、移植実験におけるクローンの自殖率は0.35%以下であり、100粒重は11.07〜13.15mgであった(Table 4)。草丈、全乾重、分株数、総根茎長、根茎の単位長さ当りの重さ、菊の幅および根茎への乾物分配率について分散分析を行った結果、集団間には有意な差異が認められたが、集団内クローン間には有意な差異は認められなかった(Table 1)。この結果から、集団間にはこれらの形質について差異が存在するが、集団内では変異が少ないことが推定された。 海岸前線砂丘由来のクローンでは、他の生育地由来のクローンと比較して、分株数、根茎数および総根茎長が大であり、集団内のクローン間変異は小さかった(Table 2)。また、琶頼長と各クローンの採集地から海岸までの距離との間には、有意な負の相関が認められ、海岸前線砂丘由来のクローンの菅穎は著しく長かった(Fig.2)。