著者
岩永 誠 森 数馬
出版者
日本音楽知覚認知学会
雑誌
音楽知覚認知研究 (ISSN:1342856X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.57-68, 2017 (Released:2022-01-05)
参考文献数
57

本論文は,音楽聴取時の自律神経反応についてレビューし,特に用いられることの多い心拍数(HR)の測定と分析について概説したものである。音楽聴取時の自律神経系反応は,音楽の持つ感情価の覚醒次元に関連して変化する。刺激的な音楽では交感神経活動が活性化し,鎮静的な音楽では副交感神経活動が活性化する傾向にある。また鳥肌感といった強い感情には交感神経活動が関係している。音楽聴取研究で用いられることの多い自律神経系指標であるHR は,反応水準や時系列変化,心拍変動(HRV)による分析がなされている。本論文では,特にHRV の周波数領域解析と時間領域解析の指標化について概説した。研究の目的に応じて指標を選択し,分析することが大切である。
著者
小森 一輝 城阪 早紀 八木 智生
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.7, no.s2, pp.s150-s153, 2023 (Released:2023-10-20)
参考文献数
9

本発表は古典教育において、古典本文と絵画資料の比較検討という、デジタルアーカイブコンテンツの活用モデルを提案するものである。従来、デジタルアーカイブの教育活用においては、教育内容とコンテンツとの紐づけが課題となっていたが、発表者らが実践した古典の授業モデルでは、コンテンツと教育内容との紐づけが比較的容易で汎用性があることを示す。さらに、この数年でICT環境が急速に整備されたことにより、学習者が自身の端末でコンテンツを操作したり編集したりと、コンテンツを教材として活用しやすくなった。このようなコンテンツの積極的活用は、学習者のデジタルメディアリテラシーを向上させるだけでなく、学習者が古典に関するコンテンツを享受し、それを発展させていく継承者としての態度や技能を育成するためにも有効であると考える。
著者
森田 琢雅 溝上 章志 中村 嘉明
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.I_993-I_1001, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

近年,地方では公共交通利用者数の減少による事業者の赤字経営が問題となっている.また多くの利用がある都市部の公共交通でも,渋滞緩和や乗換の待ち時間調整などの課題は尽きない.より正確で詳細な公共交通の利用実態の把握,問題の原因発見や運行の見直しが必要とされている.本研究では熊本市電を対象に,ICカードデータを利用して,利用者特性分析と実績ダイヤの作成・分析を行った,具体的には,クラスター分析による利用者の分類と定期券購入前後での利用変動の分析,ダイヤ編成支援システムとの結合による実績ダイヤの作成,問題点の考察を行った.
著者
森本 元
出版者
一般社団法人 色材協会
雑誌
色材協会誌 (ISSN:0010180X)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.184-190, 2016-06-20 (Released:2016-09-20)
参考文献数
42
被引用文献数
1

地球上に生息する生物は,さまざまな色彩を有する。中でも鳥類は,色が多様な生物群と考えられている。地球の自然環境で,生物は互いに相互関係の中で生きており,そこには色が社会的信号として機能している。例として,捕食-被食関係における隠蔽色や,雄の鮮やかさに対する雌の選り好みといった性選択がこれにあたる。いずれも,生物における進化のメカニズムがその背景にある。本稿では,鳥類の羽毛の発色様式の違いや,生態における機能とその背景,鳥類の視覚,さらにそれらを応用したバイオミメティクスといった,鳥学において色にまつわるテーマを包括的に概説する。
著者
森 禎徳
出版者
日本医学哲学・倫理学会
雑誌
医学哲学 医学倫理 (ISSN:02896427)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.81-90, 2007-10-18 (Released:2018-02-01)

Under the banner of "structural reform without sanctuaries", the government is attempting to promote the introduction of market principles into the medical care system. Although the primary purpose of this reform is to reduce the total national medical expenses, it is also expected that the market mechanism will contribute to the improvement of medical services. However, if we consider the managed care system in America, it is clearly evident that the deregulation of the medical care system produces numerous adverse effects and that the market mechanism does not work as expected. From an ethical point of view, the most serious problem is that excessive deregulation leads to the corruption of medical quality and "social exclusion" of the vulnerable; this is because market principles, by definition, do not include any ethical norms in the regulation of the market itself. Considering the supposed nature of the medical care system, we should control the power of market principles. The national medical care system must be considered as a public issue, and not as a matter of "self-interest"; therefore, it requires the higher principle of "fairness" as its moral foundation.
著者
森澤 紀彦 大瀧 佑平 菅野 直希 奥野 憲司 卯津羅 雅彦 三井 理華 遣田 美貴 武田 聡 横尾 隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.315-320, 2017 (Released:2017-05-28)
参考文献数
22

リチウム中毒は双極性障害の治療に用いられるが, 有効血中濃度領域は比較的狭く中毒域が近いこと, 多岐にわたる中毒症状が注意点としてあげられる. 今回われわれは, 炭酸リチウム24gを内服し, 意識障害およびQT延長をきたした急性リチウム中毒を経験したので報告する. 症例は26歳女性, 希死念慮を認め, 炭酸リチウム24gを過量服薬した. 意識障害を呈したため当院救急搬送され, 過量服薬後1時間程度で胃洗浄を施行, 心電図で軽度のQT延長を認め, 急性リチウム中毒を疑い, 持続的血液透析を開始した. 開始後, 症状改善し, 血中リチウム濃度の再上昇を認めず, 経過良好にて第7病日に退院となった. リチウムは非常に透析性の高い物質であり, 循環動態が不安定な場合には持続的血液透析が望ましい. 急性中毒に対して早期の血液透析開始により, 血中リチウム濃度を低下させ, 脳内および各組織におけるリチウム濃度の上昇抑制が可能となることが示唆された.
著者
村上 哲明 綿野 泰行 角川 洋子 山本 薫 堀 清鷹 森 恵里菜 松本 めぐみ
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

無配生殖(無性生殖の一型)を行うシダ植物の種は近縁な有性生殖種と容易に交雑すること、それらの間の雑種個体からは高頻度で減数した子孫が生じることを我々は明らかにしていた。 そこで本研究では、3倍体無配生殖種のオニヤブソテツ(オシダ科)と、それに非常に近縁な2倍体有性生殖型のヒメオニヤブソテツあるいはムニンオニヤブソテツの間に生じた4倍体雑種個体に生じた胞子を寒天培地上で培養し、F2世代の子孫における無配生殖型と有性生殖型の分離比を調べた。その結果、両生殖型がほぼ1:1で生じ、無配生殖型がただ一つの遺伝的領域(無配生殖遺伝子)によって支配されていることが強く示唆された。
著者
太田 経介 萬井 大規 坂野 康介 中城 雄一 森若 文雄 宮田 一弘
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.215-223, 2020 (Released:2020-06-19)
参考文献数
45
被引用文献数
1

【目的】脊髄小脳変性症の歩行重症度の評価に,Mini-Balance Evaluation SystemTest(以下,Mini-BESTest)とBerg Balance Scale(以下,BBS)が適応可能か検討すること,歩行自立度の判別精度を検討することとした。【方法】脊髄小脳変性症患者30 名を対象に,重症度分類を用いて3 群に分類した。Mini-BESTest とBBS の得点分布,および群間比較を行った。FIM 点数よりROC 曲線を用い歩行自立度の判別精度の検討とカットオフ値を算出した。【結果】Mini-BESTest とBBS は歩行重症化にしたがい低値を示した。Mini-BESTest とBBS はArea under the curve(以下,AUC),感度,特異度が高値であった。BBS は天井効果を認めた。【結論】Mini-BESTest は高いAUC,感度,特異度を有し,歩行自立度の判別精度に有用性の高い指標であることが示唆される。
著者
大森 信
出版者
日本経営学会
雑誌
日本経営学会誌 (ISSN:18820271)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.27-39, 2019 (Released:2020-03-26)
参考文献数
29

This paper attempts to historically reveal why Japanese companies have long emphasized cleaning, sorting, and organizing activities. Simultaneously, we explained theoretical significances in Japanese companies' valuing these activities from a management perspective. We have studied the relevance of cleaning, sorting, and organizing in Japanese companies by retrospect, through older documents, articles, or companies' in-house publications. We have also described how Japanese companies have historically solved their problems through cleaning, sorting, and organizing in their growth processes or continuing their business when facing various business issues, as they rename such activities as either 3S or 5S. Specifically, we studied the history of Japanese companies as private companies were initiated, and had to compel large numbers of employees who lacked discipline to work diligently. These companies had to decrease expenses after a major economic depression, improve worksite safety after work accidents and deaths often occurred, and improve productivity under harsh international competition with European and American companies. This paper has demonstrated that Japanese companies' managerial perspectives have incorporated a means-based management, which values cleaning, sorting, and organizing as a social practice. This management perspective has focused on specific measures toward cleaning, sorting, and organizing; for example, companies may discover new goals to foster the means, or solve their problems by utilizing such means according to their economic situation or current trends. We illustrated a meansbased management perspective contrary to the dominant perspective, which involves deciding the goal first and subsequently choosing from various means to achieve it. These two concepts contrast one another, yet are neither mutually exclusive nor opposing; rather, we would point out they are mutually complementary. Under stable circumstances, in which purposes can be easily decided in advance, purpose-based management ―which is dominant today― would be more effective and efficient. However, means-based management, based on social practice beyond time or location, would be highly effective in critical situations, or under highly uncertain circumstances. We would like to highlight, in other words, the danger of over-emphasizing either purpose-based or meansbased management.
著者
森 豪大 籔谷 祐介 春木 孝之
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.640-647, 2023-10-25 (Released:2023-10-25)
参考文献数
27

シビックプライドとは、都市に対する市民の誇り定義され、地域を良くしようという当事者意識に基づくものである。人口減少が進む日本では、Uターン人口増加の手がかりとしてシビックプライドが注目されている。そこで、地元に対するシビックプライドと、環境要因に対する意識が、Uターン意向の形成にどのような影響を与えるかを調査した。ランダムフォレストの結果、大学生のUターン意向形成には、第1に地元に希望する仕事があること、第2に地元に住み続けたいという意識、第3に地元にいる家族や友人の存在が影響を与えることがわかった。
著者
森本 果歩 中川 嵩章 真田 純子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.961-968, 2023-10-25 (Released:2023-10-25)
参考文献数
15

路線的商業地域は、戦前期に行われたほとんどの都市計画で採用されたが、計画意図や指定後の土地利用変化は明らかになっていない。この研究は、道路の規模や沿道の土地利用といった特徴からみた計画意図の変遷と,指定後の土地利用変化を把握し,戦前期の東京都市計画における路線的商業地域の性質を明らかにすることを目的とする。東京都市計画の指定の状況と指定時の議論を分析すると、戦前期では、路線的商業地域は主に住居地域内で使われていた。①計画街路の商業発展を補助する ②計画街路が完成するまでの間、既に商業発展している路線を代替商業中心地にする ③商業地を路線的に連続させる 上記の3つの計画意図がみられ、沿道の用途面と体裁面が考えられていた。指定後の沿道の土地利用変化をみると、効果がみられた路線もあればそうでない路線もあるが、都市を商業的に発展させる手段としての汎用性があったことが,戦前期に全国的に広まった理由と考えられる。
著者
田島 怜路 三輪 富生 鶴見 直樹 森川 高行
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.23-00044, 2023 (Released:2023-10-20)
参考文献数
12

マップマッチングとは,位置測位誤差を含むプローブカーデータから,その車両の走行経路を特定する技術である.マップマッチングはプローブカーを活用した交通状況調査の前処理に位置づけられ,マップマッチングによって得たリンク旅行時間等は,交通情報として活用されている.本研究では,過去のプローブカーデータのマップマッチングから得られたリンク旅行時間情報を活用し,以降のマッチング候補経路の探索及び選択を行う.トリップごとにマップマッチングと蓄積情報の更新を繰り返すことで,蓄積データベースやマップマッチング精度の変化を分析する.分析の結果,混合ガウスモデルの考え方を援用した複数経路への情報の蓄積によって,交通情報が効率的に蓄積できる可能性が示された.
著者
吉岡 美佐子 沖田 学 佐々木 克尚 森垣 浩一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Bf0848, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに】 顔面神経麻痺後遺症のなかで病的共同運動は頻度が多く,難治性である.病的共同運動は,顔面神経の過誤あるいは迷入再生に伴って,同じ側の顔面神経支配筋が同期して収縮する顔面筋の運動である.顔面神経麻痺の治療法として,従来から顔面筋の粗大筋力訓練,低周波治療などが用いられてきた.しかし,H.Diels(1998)によれば,それらの運動が病的共同運動を増悪させることから用いないとされている.今回,脳梗塞により中枢性顔面神経麻痺を呈した症例に対し,顔面筋の病的共同運動の抑制を目的に,口角部の求心情報に着目して認知運動療法を行った結果,改善が認められたため報告する.【症例紹介】 症例は,右脳梗塞により左下肢の脱力感,左口角の麻痺を訴え当院に入院となった90歳代の男性である.発症から2日後の初期評価では,Br. stageは全てstage6,額のしわ寄せは可能であったが患側口角の低下がみられ,中枢性顔面神経麻痺が認められた.顔面神経麻痺の評価として,Sunnybrook Facial Grading System(SFGS)が72/100点,Yanagihara40点法(Y法)が26/40点であり,いずれも上歯を見せる,口笛を吹くといった口の運動時に口角部の部分麻痺がみられた.ADL面では食事の際,患側口角部から水分の流涎があり,それを防ごうと頚部伸展位で嚥下を行い,その結果むせ込みが認められた.主訴として口が動きにくいと訴えがあり,安静時に左右口角の位置の違いや,患側の口輪筋部の触圧覚が「わかりづらい」と述べていた.また,安静時,運動時ともに左右の口角,口輪筋へ注意を向けることが可能だが促さないと自ら注意を向けることが困難であった.【説明と同意】 対象者及び家族には,本研究の主旨を口頭で説明し書面にて同意を得た。【経過】 本症例は患側口角部の感覚が不明瞭で,顔面を動かした際の口角部の感覚フィードバックが不十分なため,過剰努力によって粗大な運動になる可能性が考えられた.この病態に対し,2週間後の目標を患側口角部に自ら注意を向けることが出来る,6週間後の目標を患側口角部の求心情報を正確に判断し,安静時,開口時ともに左右口角部の対称性を獲得することを目標に,二つの課題を40日間実施した.一つ目の課題は,求心情報を正確に判断するとともに口角部への注意を促すことを目的に,閉眼下にて左右口角部への硬度識別課題と,素材の識別課題を行った.方法として,硬度が異なる4種類のスポンジと,柔らかい素材,キメが粗いザラザラとした素材,キメが細かいザラザラとした素材の3種類を用いて,閉眼にて硬度の識別と,素材の識別を行った.経過に応じて段階的に(1)健側での触覚,圧覚のイメージを患側へ移すこと,(2)左右口角部へ触覚・圧覚刺激を加え,左右の触覚・圧覚の違いを識別すること,(3)患側での2種類の触覚・圧覚の違いを意識するように教示を行った.二つ目の課題では,実際の運動と運動感覚の一致を目的に,小さくゆっくりとした運動を行い,鏡を用いてのフィードバック課題を治療介入当初から実施した.その結果,発症から約40日後の最終評価では,SFGSが91/100点,Y法が32/40点と,特に口輪筋部の麻痺の改善が認められ,安静時や開口時の口角部が左右対称となった.また,最終評価では患側口角部の感覚が「やわらかくて沈み込んでくる感じ」などと述べており,内省の変化もみられた.さらに,初期評価では安静時,運動時ともに促しがなければ左右の口角,口輪筋へ注意を向けることが困難であったが,最終評価では促しがなくても,自ら注意を向けることが可能となった.さらに食事場面においては,ゆっくりとした口角部の運動であれば患側口角部からの流涎もなく,むせ込みも認められなかった.【考察】 今回,病的共同運動を軽減させるために求心情報に注意を向け運動プログラムの再構築を図った.患側の口輪筋部の求心情報を正しく判断し,努力性収縮を制限した結果,異常な病的共同運動の抑制が可能となり,顔面の対称性の獲得へと繋がったと考えられた.【理学療法学研究としての意義】 四肢に対するリハビリテーションは既に,運動学習の原理に沿ったかたちで求心情報に注意を向け,運動プログラムの再構築を図っていくことが臨床展開されている.顔面神経麻痺の回復過程も構造的特殊性はあるものの,それらを含えたアプローチが重要と考えた.
著者
松森 晶子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-17, 2019-04-01 (Released:2019-10-01)
参考文献数
19

諸鈍方言における「k'uˑp(首), Ɂusaˑk(兎)」の語末の閉音節、「kutuːba(言葉), waɾaːbï(子供)」の語中の長音節、「ɸuk'ɾu(袋), Ɂapɾa(油)」の語中の閉音節に代表されるように、奄美大島南部の瀬戸内町の諸方言には、重音節が頻出する。本稿では、これら重音節構造の発生の原因についての通時的考察を行い、その考察を通して、この地域に生じたいくつかの音変化の相対年代についての提案を行う。まず本稿では、これら重音節の生起は、この地域に過去に生じたアクセントの変化と切り離して説明することはできないことを論じる。また、どのような条件のもとでこれらの重音節構造が生じたのかの理解には、半狭母音の狭母音化(*o>u, *e>ï)との相対年代をも考慮に入れる必要があることも論じる。本稿では、瀬戸内町を中心とする奄美大島南部の諸方言では、これら重音節の発生を動機づけた変化よりも、狭母音化のほうが後に起こったと想定されることを論じる。
著者
鮎澤 諭志 森川 英明
出版者
日本シルク学会
雑誌
日本シルク学会誌 (ISSN:18808204)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.41-52, 2023 (Released:2023-10-19)
参考文献数
22

本研究では,明治,大正,昭和期における68点の技術資料を精査して煮繭・繰糸温度の変遷および原料繭の特性のパラメータの解析を行い,各時代における改変要因の分析を行った.その結果,煮繭・繰糸温度は,明治前半期に大きなばらつき幅がみられ,1900年頃以降は高温に収束し,総じて上昇傾向で推移していた.ばらつき幅が生じた要因は,明治前半期の原料繭は繭層が薄弱で品質が低く,繭乾燥技術等も未発達であったため,官営富岡製糸場の起点温度より低温煮繭・低温繰糸の3象限に多く分布し,高温煮繭(若煮),浮繰り繰糸を行う1象限と4象限にも一定数が分布したことにあった.1900年頃以降は繭乾燥技術の進展等によって高品質繭の割合が増加した一方,低品質繭等も高い割合が維持されたため,能率に特化した生産目的が継続され,大正期には原料繭の品質向上によって品位重視に転換した.その結果,高温煮繭(1・4象限)への収束がみられたと推察した.
著者
服部 夏実 森中 遥香 光本(貝崎) 明日香 沼澤 聡
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-180, 2018 (Released:2018-08-10)

【目的】オランザピンに代表される多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)は、神経学的な副作用が少ないことから、統合失調症の治療薬として広く使用されているが、体重増加や高血糖等の副作用を生じることが問題となっている。体重増加は、主に5-HT2CやH1受容体の遮断作用が食欲増進ペプチドであるグレリンの分泌を促すと説明されている。一方、最近、視床下部領域における酸化ストレスが、インスリンやレプチンの作用を減弱させ、肥満や糖尿病を引き起こすという説が提唱された。そこで本研究では、オランザピンが視床下部に酸化ストレスを引き起こすことにより体重増加や高血糖を招くという実験的仮説を立て、これを検証した。【方法】Balb/c雄性マウスにオランザピン(25 mg/kg, i.p.)を投与し、3, 6, 12, 16時間後に視床下部を採取した。また、オランザピン(5~50 mg/kg, i.p.)を投与し、3時間後に視床下部、海馬、皮質を採取した。酸化ストレスの指標として、Heme oxygenase-1 (HO-1)発現レベルをRT-PCR法で検討した。【結果・考察】オランザピン(25 mg/kg)投与3, 6時間後において、有意なHO-1発現レベルの上昇が認められた。このようなHO-1誘導は、高血糖・糖耐性を生じることが明らかになっている用量(10 mg/kg)でも認められた。同様の条件下、海馬および皮質のHO-1レベルは変化しなかった。このことから、オランザピンは視床下部特異的に酸化ストレスを生じることが示唆された。今後、オランザピンが酸化ストレスを生じるメカニズムについて検討を進める。