著者
加藤 浩介 榊原 健一 川井 敬二
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、音場が歌唱に与える影響に着目し、歌唱時における体性感覚・聴感印象および発声された歌声の音響的特徴に対して音場が及ぼす影響を検証した。その結果、次の3点が示された。1)残響条件によって、異なる聴感的印象の歌声が発声される。2)残響条件によって、歌唱者が異なる体性感覚・異なる聴感的印象を感じながら発声を行う。3)残響条件によって、異なる声帯振動が起こり、異なる音響的特徴の歌声が発声される。
著者
榊 惠子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.24-33, 2004-05-31

この研究の目的は、アルコール専門病棟での患者と看護師の関係及び看護師の体験の特徴を考察することである。7ヶ月にわたる民間精神病院のアルコール専門病棟のグループワークを中心としたAlcoholism Rehabilitation Programでの参加観察および看護師へのグループインタビューで得たデータを質的に分析した。24時間、患者とともに過ごす看護師は、患者の人間物語を目の当たりにすることで、自分自身との対面を迫られていた。それにより、両者の心理的壁は紙一重と言ってよいほど薄くなっていた。さらには「自分1人では断酒できない」患者の無力感を前にして、看護師自身も無力感に陥っていた。看護師はそうした感情を回避するために、患者と距離を取ろうとしたり、「持ちつ持たれつ」の関係を作り出していた。しかし、病棟生活では患者の悲惨な死の話題ももたらされるので、両者の傷つきは非常に深かった。両者は、そうした患者の死を悼む者同士として、夜間に患者の死を知らせあうなど、互いにつながりを作ることで「喪の作業」を行っていた。
著者
木村 圭一 岩崎 哲也 山田 拓哉 岩崎 竜一朗 榊原 祐子 中水流 正一 石田 永 山口 真二郎 尾下 正秀 三田 英治
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.1420-1425, 2016 (Released:2016-09-20)
参考文献数
13

89歳,女性.腹痛,嘔吐の精査加療目的で入院となった.CT検査で小腸異物による食餌性イレウスが疑われた.イレウス管挿入を行い減圧を図ったが異物の自然排出は認めず,ダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行し異物(梅の種子)を回収した.その後,偶発症なく退院となった.イレウス管併用ダブルバルーン小腸内視鏡検査はトリプルバルーンメソッドとして報告されている.今回,トリプルバルーンメソッドにて食餌性イレウスを加療し得た症例を経験した.
著者
小林 豊 飯干 茜 渡邉 博文 井出 和希 堀内 祐希 手島 麻美子 中川 喜文 山口 安乃 小林 伸一郎 谷口 幹太 関 泰 榊間 昌哲 鈴木 豊秀
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.347-355, 2021 (Released:2021-12-29)
参考文献数
12

CKDシールは、腎機能情報共有により患者に有効かつ安全な薬物療法を提供することを目的に各地で検討されている。CKDシールに対する病院・薬局薬剤師のニーズに関する調査は存在するものの、患者が腎機能情報共有の必要性をどのように理解しているかは不明である。静岡県富士宮市でCKDシール貼付システムを構築するとともに、富士宮市立病院でシールを貼付した患者のニーズと、同地域における腎機能情報共有の現状と課題を調査した。2019年7月10日からの3か月間にお薬手帳にCKDシールの貼付を提案した228名の患者全員より同意を得た。医師と作成したプロトコルに基づく貼付を行った患者は62名(27%)であった。アンケートは入院患者、腎臓病教室受講患者、維持透析患者74名中67名(G3b/G4/G5/G5D=7/12/11/37、回答率91%)及び、腎臓病薬物療法の研修会に参加した薬局薬剤師20名中19名(回答率95%)から回答を得た。保険薬局で薬を貰った経験は患者51名(76%)が有したが、51名のうち腎機能を伝えた患者は10名(20%)のみであり、薬局薬剤師から腎機能を聞かれた患者は15名(29%)のみであった。一方、薬局薬剤師16名(84%)は検査値を入手できた時にのみ腎機能を確認していた。腎機能により薬を調節することへの患者の認知度は29名(43%)と低く、CKDシール貼付開始を全ての患者と薬局薬剤師が期待すると回答した。薬局薬剤師のCKDシール活用方法は用法用量等の確認だけでなく、患者とのコミュニケーションや生活指導が挙げられた。患者は薬局薬剤師に腎機能情報が必要との認識が低く、腎機能の共有はされていなかった。CKDシールが薬物療法適正化につながるだけでなく、腎機能情報共有の意義を患者に説明し理解を得ることで、CKDシールが貼られたお薬手帳の活用と薬剤師による腎臓病療養指導につながる可能性が示唆された。
著者
掛谷 雅之 大津 史子 矢野 玲子 榊原 仁作 後藤 伸之
出版者
Japanese Society of Drug Informatics
雑誌
医薬品情報学 (ISSN:13451464)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.70-80, 2014 (Released:2014-09-06)
参考文献数
23

Objective: The present study investigated risk factors and subjective symptoms associated with drug-induced thrombocytopenia.Methods: We selected 361 patients with drug-induced thrombocytopenia from the Case Reports of Adverse Drug Reactions and Poisoning Information System (CARPIS) database of over 65,000 case reports of adverse drug reactions and assigned these patients to a case group.  We also randomly selected 794 cases of adverse drug reactions not associated with thrombocytopenia as a control group.Results: Data were compared between the case and control groups, and results were analyzed using logistic regression analysis.  We identified type of infection (non-viral) and renal failure as risk factors for drug-induced thrombocytopenia.  In addition, administration of carbamazepine, methotrexate, interferon alpha, ticlopidine or valproic acid significantly increased the risk of drug-induced thrombocytopenia.  Significant associations were also found between drug-induced thrombocytopenia and purpura, fever, and mucosal bleeding.Conclusion: These findings provide helpful information for early detection and prevention of thrombocytopenia as a serious adverse drug reaction.
著者
村本 勇貴 岩本 航 我妻 浩二 田中 直樹 榊原 加奈 村上 純一 石渕 重充 松橋 朝也 笠間 あゆみ 岡田 尚之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1286, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】青少年期のスポーツ選手において,腰痛はスポーツ活動の障害因子となっている。本研究の目的は,当院で行った中学生サッカー選手に対するメディカルチェックから,腰痛のある選手の身体特性を調査することである。【方法】男子中学生サッカー選手21名(平均年齢13.0±0.5歳)を対象とした。事前に身体状態に関するアンケート調査を行い,群分け(腰痛群・非腰痛群)を行った。メディカルチェック項目は,下肢伸展拳上(以下,SLR)・殿踵距離(以下,HBD)・ディープスクワット(以下,DS)・ホップテスト(以下,Hop)とした。疼痛のためメディカルチェックを遂行できない者は除外した。統計処理は群間比較にはSLR,HBD,Hopについては対応の無いt検定を用い,DSについてはマンホイットニーU検定を用いた。有意水準は5%とした。【結果】腰痛を有する選手は21名中5名(23.8%)であった。腰痛群は(身長:159.9±0.7cm,体重:45.8±5.4kg,BMI:17.9±1.3,SLR(右:60.0±7.1°,左:57.5±5.0°),HBD(右:10.5±3.9cm,左:10.3±3.8cm),Hop(右:7.7±1.8秒,左:7.7±0.5秒),DS:2.2±0.5点)という結果であった。非腰痛群は(身長:157.2±0.7,体重:44.1±7.3kg,BMI:17.7±2.0,SLR(右:62.9±9.0°,左:62.4±7.7°),HBD(右:4.9±4.2cm,左:4.0±3.1cm),Hop(右:7.3±0.5秒,左:7.4±0.7秒),DS:2.4±0.7点)という結果であった。HBDは腰痛群で有意に大きかった(右:p=0.05,左:p=0.03)。その他の項目では腰痛群と非腰痛群で有意差は認められなかった。【結論】我々のメディカルチェックの結果では,腰痛群のHBDが有意に大きかった。HBDは股関節伸展位で行う膝屈曲テストであるため,今回の結果は大腿四頭筋の中でも2関節筋である大腿直筋の柔軟性低下による影響が考えられる。先行研究では腰痛を有する青年期のスポーツ選手は股関節屈曲筋の柔軟性が低下すると報告されている。またサッカー競技では,股関節伸展を腰椎の伸展で代償する選手で腰椎に加わるストレスが増加すると報告されている。以上のことから,サッカー選手における股関節屈曲筋群の柔軟性低下と腰痛とは関連があるものと考えられ,本研究での腰痛群でHBDが有意に増加したものと推測された。本研究の結果,HBDが大きいサッカー選手は腰痛が生じやすいことが示唆された。今後は,腰痛を有するサッカー選手に対してHBD改善の介入が有効であるか検証する必要があると考えられる。
著者
岡田 只士 榊 利之 橘高 敦史
出版者
富山県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

近年、血中ビタミンD(VD)濃度が炎症性腸疾患(IBD)症状の悪性化リスクと強く関連することが報告されている。本研究ではVDとIBDとの関係性を、動物モデルを使用して広く解析し、VDをIBDの治療や予防に活用することを目的とする。具体的には、①腸炎モデルにVDを投与し、VDの IBDに対する治療効果や医薬品応用への可能性を検討する、②VD欠乏モデルの消化管病態を解析し、IBD病態とVDとの関りを理解する、という二つの視点から研究を遂行する。 上記の研究を通して、食事やサプリメントによるVD摂取をIBDの治療や予防に繋げ ることを最終目標に本研究を推進する。
著者
榊原 保志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.287-296, 1993-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
6

The air temperature distributions along the Hibiya Line were observed 86 times by the train traverse observation method with a thermister thermometer from 26 April 1987 to 1 January 1991. Two observation methods were used. One was to observe air temperatures every 10 seconds to determine the temperature distribution along the subway line. The other was to read the air temperature when the train reached the platform, and use that value to represent the air temperature on the platform. The results obtained are summarized as follows; (1) Air temperatures on the platforms are higher than those in tunnels. (2) Air temperatures at Hibiya station and Ginza station are higher than at other stations in seasons when air-conditioning is not required. Air temperatures on air-conditioned platforms and tunnels are relatively low in the season when air-conditioning is required. (3) The air temperatures around the subway platforms have smaller diurnal variation than outside air temperatures. (4) Air temperatures rise in proportion to the outside air temperatures, with small gradients. (5) The gradients of regression of air temperatures on the platform to outside air temperatures range from 0.35 to 0.55. (6) In most stations the equilibrium temperature T*, at which air temperatures on platforms are equal to the outside air temperatures, is higher than the warmest monthly average normal air temperature (26.7°C) at Otemachi, Tokyo.
著者
本多 裕一 榊 英一 吉塚 久記 永尾 泰司
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.961-965, 2015 (Released:2016-01-09)
参考文献数
6

〔目的〕脚長差出現時のstrategyとしての伸び上がりに着目し,関与する筋の活動量の変化を明らかにすることとした.〔対象〕脚長差のない健常人10名とした.〔方法〕足底に補高することで人為的な脚長差歩行を行い,表面筋電図計を用いて測定される伸び上がりに関与すると考えられる下肢筋の活動量を正常歩行時と比較した.〔結果〕補高3cmで前脛骨筋の,4cmで大腿直筋,前脛骨筋,腓腹筋の活動量に有意な増加がみられた.〔結語〕脚長差出現による伸び上がりに伴うと考えられる筋の過活動が認められたことから,この歩容変化と,さらに機能障害が発生する可能性を推察することは,脚長差に対する理学療法介入において有益である.
著者
齋藤 佳敬 山田 武宏 小林 正紀 榊原 純 品川 尚文 木下 一郎 秋田 弘俊 井関 健
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.139, no.12, pp.1601-1608, 2019-12-01 (Released:2019-12-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1

Paclitaxel (PTX)-associated acute pain syndrome (P-APS) is characterized by disabling but transient arthralgia and myalgia in up to 80% of patients administered with PTX. Non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) are widely administered to patients with cancer who have pain or fever, and are mainly used to manage P-APS. In this study, we investigated how P-APS appear in the patients who were administered NSAIDs prior to PTX injection. The incidence or severity and duration of P-APS in patients previously administered NSAIDs were compared to those of patients who were not administered NSAIDs. The relationship between previously administered NSAIDs and rescue administration for the relief of P-APS was also evaluated. It was revealed that the incidence and duration of P-APS were 72% and 4.67±2.30 d, respectively, in the control group and 84% and 6.19±3.30 d, respectively, in the NSAIDs group. There was no significant difference in the incidence and duration and the severity of P-APS between the two groups. Patients who were previously administered NSAIDs tended to obtain less pain relief from NSAIDs administered as rescue medications, and needed other medication. Univariate and multivariate analysis revealed no correlation between previously administered NSAIDs or patient characteristics and the incidence of P-APS. In this study, it was found that clinical condition that needs NSAIDs and previously administered NSAIDs prior to PTX injection do not affect the incidence, severity, and duration of P-APS. These results will help in educating patients about their medications and will contribute to the management of P-APS.
著者
伊藤 詩乃 田中 佑岳 狩野 芳伸 榊原 康文
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.AI30-G_1-9, 2016-11-01 (Released:2016-11-22)
参考文献数
22

In recent years, the digitization of medical and health data including clinical data, health diagnostic data, medication log data have been made rapidly. One potential application using electronic medical and health information is to develop a system to make a medical diagnosis according to the contents recorded in the electronic medical data and the appropriate patient information. The task of understanding the condition of the patient and making precisely the diagnosis is hard to be automated and requires the high degree of expertise. Toward a final goal to construct a medical diagnostic support system, as its pilot study, we attempt to build a question-answering program that automatically answers the medical licensing examination. The national medical licensing examination is the form of multiple-choice test and contains a wide variety of problems. There is a type of problems to answer the appropriate disease name among multiple choices given the patient information and test results as a problem statement. We aimed to develop the program to answer this type of questions. By the development of such question-answering program that automatically answers the medical licensing examination, we revealed the fundamental issues and essential difficulties in the information processing of the medical data, and finally constructed the foundation for conducting disease diagnosis support with patient information. In this paper, we developed a question-answering program and actually performed the answering for some problems in 107th and 108th out of national medical licensing examination. We carefully examined and analyzed the results and problems that could be answered correctly and problems that were given incorrect answers, and proposed the improvements to build a more accurate program.
著者
榊原 彩子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.485-496, 2004-12
被引用文献数
3

絶対音感の発達には臨界期が存在し, 6歳を超えると絶対音感習得が困難であることが指摘されている。加齢にともなう変化が絶対音感の習得可能性を減じていると考えられるが, 本研究では年齢の異なる幼児(2歳児4名, 5歳児4名)に対し, 同一の和音判別訓練法による絶対音感習得訓練を実践して彼らの絶対音感習得過程を縦断的に明らかにし, 年齢によって習得過程の様相も異なるのか調べることで, 加齢にともなう変化を検討した。音高という属性に「ハイト」と「クロマ」の2次元があるという考えに従えば, 絶対音感とはクロマの特定能力であり, その習得とはクロマの参照枠形成とみなせる。訓練課題のエラーから聴取傾向を記述すると, 習得過程中, 年少児は早い段階でクロマに着目し, 全体的にクロマ次元を重視した聴取傾向を示したのに対し, 年長児はクロマ次元の利用が少なく, 一貫してハイト次元に依存した聴取傾向を強く示した。加齢にともなう変化として, クロマ次元に依存する傾向が減じ, 逆にハイト次元に依存する傾向が増すという変化が示唆され, クロマの参照枠形成である絶対音感習得が, 加齢により不利になる様が示された。
著者
石原 正仁 藤吉 康志 田畑 明 榊原 均 赤枝 健冶 岡村 博文
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.139-163, 1995-04-25
参考文献数
42
被引用文献数
19

「集中豪雨のメカニズムと予測に関する研究」の一環として1988年の梅雨期に九州北部を中心として実施された特別観測期間中に、梅雨前線に沿ってメソスケール降雨帯が発生し、最大総降水量178mmの大雨が発生した。2台のドップラーレーダーによる観測結果をもとに、この降雨帯のレーダーエコーと循環の3次元構造を解析し、その構造と維持過程を中心に議論する。降雨帯は1988年7月17日に発生し、7時間維持された。発生環境を見ると、大気下層の水平温度傾度が大きくはなく、熱力学的不安定度は熱帯と中緯度の中間であった。降雨帯の長さは170kmに達し、内部は対流性領域と層状性領域から構成されていた。降雨帯の走向は北西-南東であり、大気中層と下層の間の風の鉛直シヤーとほぼ平行であった。対流性領域にある既存の対流セルは降雨帯の走向に沿って移動し、周囲の南西風が入り込む降雨帯の南西端に新しい対流セルが次々と発生した。降雨帯の中には次のような特徴的な流れが確認された。:1)降雨帯の前部にある対流規模上昇流、2)降雨が最も強い領域にある対流性下降流、3)後部中層のエコーのノッチ(切れ目)からの乾燥空気の流入、4)この後部流入に接続するメソ下降流、5)対流規模下降流の下の大気最下層の前方と後方に進む発散流。これら最下層の発散流は周囲より4℃程度低温の寒気プールを作り、この寒気プールと降雨帯前方の暖湿な南西流との間にガストフロントが作られた。降雨帯後方にあった中層の総観規模の乾燥域は、最下層の暖湿気流とともに、降雨帯を維持するために重要な役割を果たした。高層データによると、雨滴の蒸発冷却によると思われる低温域が対流規模下降流とメソ下降流の中に存在した。後部流入にともなう乾燥空気は対流性領域の最下層まで達していた。こうした熱力学特徴は、ドップラーレーダー解析から得られた運動学的構造とよく適合した。降雨帯は中緯度の前線帯に発生したとはいえ、対流圏下層に限れば降雨帯の前後の熱力学的条件の差異は非常に小さかった。この降雨帯は、西ヨーロッパや北米太平洋岸の寒帯前線にともなって観測されるメソ対流システムよりも、熱帯や中緯度のスコールラインのような「自立型対流システム」に属するであろう。
著者
井上 啓子 清水 和栄 平賀 恵子 吉川 妙子 梅村 聡美 大瀧 香織 高橋 恵理香 徳永 千賀 古田 久美子 若山 真規子 水野 晴代 松村 香里 高井 千佳 加藤 静香 宇野 千晴 出口 香菜子 榊原 知世 高橋 宏 伊藤 恭彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.493-501, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
20

維持血液透析患者のprotein-energy wasting (PEW) の実態とPEWとの関連因子を検討した. 透析導入後6か月以上409例の合併症, 身体計測値, 血液検査, 食事摂取量を調査. 国際腎疾患栄養代謝学会による区分に従いPEWを判定し, Logistic回帰分析により関連因子を求めた. 年齢64±11歳, 透析歴8 (3~14) 年, 高血圧合併74.3%, BMI 21.1±3.4kg/m2, 血清Alb 3.7±0.3g/dL, エネルギー30±6kcal/kg IBW, たんぱく質1.01±0.22g/kg IBWであった. PEWは3項目以上該当17.1%, 年齢, 透析歴, 高血圧がPEWとの独立した背景因子であった. 食品群別摂取量との関連は, 肉類, 魚介類, 砂糖類摂取量が独立因子となった. さらにROC解析によるカットオフ値 (肉類46.7g, 魚介類41.7g, 砂糖類9.0g) 未満の摂取のオッズ比は肉類2.74 (95%CI 1.55-4.85, p=0.001), 魚介類2.04 (95%CI 1.16-3.61, p=0.014), 砂糖類1.88 (95%CI 1.05-3.37, p=0.033) であった. 通院患者の17.1%がPEWであり, 肉類, 魚介類, 砂糖類の摂取不足とPEW発症との関連が示唆された.
著者
榊原 博樹 廣瀬 邦彦 松下 兼弘 中村 慎吾 佐藤 元彦 加古 恵子 末次 勸
出版者
The Japanese Respiratory Society
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.395-402, 1995-04-25 (Released:2010-02-23)
参考文献数
20

気管支喘息患者10名にエイコサペンタエン酸エチルエステル (EPA-E) 製剤 (MND-21) を1日2.7g, 12週間投与した. この間, 喘息症状, 血清の脂肪酸濃度, および calcium ionophore A23187で刺激された白血球のロイコトリエン (LT) 産生能を測定した. コントロールとして, EPA-Eを内服していない39名の気管支喘息患者から得られた白血球を使用した. LT産生量は逆相高速液体クロマトグラフィーにより測定した. EPA-Eの内服で血清中のEPA濃度は3.3倍に増加した. EPA-E内服4週間後の白血球のLTC4およびLTB4産生量 (それぞれ53.5±23.3ng/107cellsと24.9±12.4ng/ao7cells) はコントロール (それぞれ124.4±91.6ng/107cellsと58.3±34.8ng/107cells) と比べて有意に減少した. 4週間のEPA-E内服で有意なLTC5, およびLTB5の産生が認められたが僅かであった (それぞれ6.5±1.9ng/107cellsと4.6±2.7ng/107cells). 臨床症状の改善はEPA-E投与2ヵ月後に認められたが, その効果は一時的であった.