著者
矢野 真沙代 橋本 英樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.811-818, 2020-11-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
29

目的 高齢運転者による交通事故を防止するべく,免許の“自主”返納をめぐる議論が進んでいる。しかし,“自主”返納の意思決定プロセスやだれがそれに関わっているのかについて現状では情報が乏しい。本研究では,高齢による運転免許の“自主”返納を経験した高齢者を中心に,それを取り巻く人々や環境との間の関係,高齢者の身体認識の変化に注目しつつ,意思決定のプロセスと“自主”の意味を明らかにすることを目的とした。方法 探索的目的を鑑み質的研究法を選択した。日常生活で自動車運転の頻度が高く,自主返納率が全国に比し低い茨城県に着目した。同県A市の一般医療機関を受診中の高齢者のうち,配偶者と暮らしており,運転免許を返納ないし返納を検討中の男性8人を対象に半構造化面接を行った。個別インタビューにて免許取得・返納時期,生活内での運転の意義,免許返納に至る過程と相談者の有無,免許返納後の生活等を尋ねた。インタビュー結果を録音し逐語録に起こしたのち,グラウンデッド・セオリー・アプローチに基づき分析した。結果 当事者は,運転中や日常生活において自分の意思に身体が伴わない《身体の乖離》を経験することで,これまで《身体》は《自分》に内在化され意識していなかった状態から,《身体》を操作する《自分》を日常的に意識しなくてはならないことに戸惑っていた。家族や周囲からの運転技能に対する疑念,運転事故のリスクをめぐるやり取りは,意識化された《自分》にどう対峙するかによって,異なる形で《自主》返納のプロセスにつながっていた。《自分》が事故リスクを抱えた《身体》として内在化された場合,《自分》は喪失され《自主》返納は周囲の意見に折れる形で決定されていた。一方《自分》を過去の人生経験に照らして《再評価》した場合,《自分》を社会のなかで実現する手段として《自主》返納は選択・実行に移されていた。いずれも返納後に生じる《不便》は生じていたが,《自分》の《再評価》がなされたケースでは,返納の判断を積極的に意味づけることができていた。結論 高齢による運転免許返納の意思決定過程は障害の受容過程と近似しており,《自主》返納は,加齢をきっかけとした,《自分》と《身体》,そして社会との関係性の断絶事象であると考えられた。以上から,自分・身体・社会の関係性の再構築を促すことが“自主”返納による心理的影響を緩和するうえで必要であることが示唆された。
著者
橋本 摂子
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.123-142, 1999-05-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
14
被引用文献数
4 1

This paper aims to clarify the dynamic process in “ijime” situations, focusing on the practical role of bystanders in group dynamics.In “ijime” studies, bystanders have been identified as the key persons who influence the seriousness of the “ijime” situation. However, the practical effects of bystanders on the “ijime” situation isnot clear. Since the structure of an “ijime” group is presumed to be static, and the change of the “ijime” situation has been overlooked in previous studies. In this study, we attempt to show the different effects causedby the various roles bystanders play in the process of “ijime”.Through interviews conducted on 62 students at the university and high school level, we were able to classify their experiences inelementary school or in junior high school on the subject of “ijime”. There is a remarkable difference between the “ijime” situation in elementary school and in junior high school. Depending the role of the bystander in any given “ijime” situation, three patterns of “ijime” in elementary school and two patterns in junior high school were identified. These differences can be attributed to the varying attitude that bystanders have toward a particular “ijime” situation.In elementary school, bystanders act either as an audience or remain silent for personal safety reasons, thus allowing the “ijime” to attract more attention by adults. In junior high school, however, bystanders are no longer concerned with the role of “ijime” because they have lost interest in the “ijime” behavior. In this case, bystanders detract attention away from the “ijime” in such a way that the assailants behavior become more serious. Then the situation turns for the worst with the possibility that a victim will emerge.It is during the freshman and sophomore year in junior highschool that incidents of “ijime” can become most serious. This fact has been explained with the increase in the number of bystanders in previous studies.
著者
谷川 緑野 安榮 良悟 泉 直人 橋爪 明 藤田 力 橋本 政明 上山 博康
出版者
一般社団法人 日本脳卒中の外科学会
雑誌
脳卒中の外科 (ISSN:09145508)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.433-438, 1999-11-30 (Released:2012-10-29)
参考文献数
26
被引用文献数
15 18

Spontaneous dissection of the anterior cerebral artery (ACA) is an unusual condition, and the natural history of the intracranial arterial dissection is not well known. We report our surgical strategy for the dissection of ACA. In our series of ACA dissections, 5 cases presented an ischemia and 1 showed an SAH. Case 1 showed the dissection of the A2 portion of the ACA presenting weakness of the right lower extremity. According to Yonas et al., the dissection between the internal elastica and the media causes a cerebral ischemia and the dissection between the media and the adventitia causes an SAH. In Case 1, the pathological study revealed a dissection between the media and the adventitia in spite of a cerebral ischemia. Case 3 after initial headache showed a mild paresis of the right leg and the dissection of A2, A3 portion of ACA in the repeated angiography. The pericallosal-pericallosal side-to-side anastomosis and callosomarginal artery-callosomarginal artery side-to-side anastomosis with the ligation of the proximal A2 portion was performed. The pseudo lumen was detected in the anterior internal frontal artery after the arteriostomy. Preoperative left CAG did not reveal a double lumen sign but mild stenosis of the anterior internal frontal artery. This is the first report of intraoperative detection of intracranial arterial dissecting pseudo lumen. Obliteration of the dissecting entry in the surgical treatment of arterial dissection is essential. Therefore, it is considered that the trapping of the dissection and the revascularization of the ACA is necessary to prevent postoperative infarction and future rupture of the dissection. The pressure in the true lumen of the dissecting vessels is elevated by producing A3-A3 anastomosis, and the increasing pressure of the true lumen will compress the pseudo lumen after the blocking of the entry. We conclude that the occlusion of the entry and revascularization for the dissecting arteries might be the first choice in the surgical treatment for the patients of ACA dissection.
著者
平野 祐也 橋本 直
雑誌
研究報告エンタテインメントコンピューティング(EC) (ISSN:21888914)
巻号頁・発行日
vol.2020-EC-55, no.14, pp.1-8, 2020-03-11

本研究では,剣撃体験に主眼を置いた VR アクションゲームにおいてユーザに身体能力の限界以上の速度で行動していると知覚させることを目的に,ユーザの高速な動作に同期した剣の透明化と時間スケール変換を行う手法を提案する.上空から落下するオブジェクトを剣で斬る実験において,剣の透明化の有無,時間スケール変換の有無,効果の発動条件などを比較した結果,発動条件に関わらず時間スケール変換を行うことで,爽快感や剣を速く振っている感覚が向上することが明らかになった.また剣の透明化によって,ユーザが無意識に爽快感や剣の振りやすさを感じる場合があることを確認した.
著者
山口 宣夫 橋本 英樹 荒井 松男 高田 外司 河田 奈都子 多留 淳文 李 愛麗 泉 久子 杉山 清
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.199-206, 2002 (Released:2010-04-30)
参考文献数
15
被引用文献数
2

To evaluate the effects of acupuncture on the immune system, the leukocyte, monocytes, lymphocyte and lymphocyte surface markers, CD2, CD4, CD8, CD11b, CD16, CD19 and CD56 in the peripheral blood of seventeen healthy volunteers were counted. The leukocyte above CD+ cell counts significantly increased after acupuncture. The results indicate that acupuncture may regulate the immune system and can increase the activity of cellular and humoral immunity and NK cell.According to the percentage of lymphocytes or granulocytes, volunteers were divided into two types, those with more than 70% of granulocyte were recognized as G type and those with more than 40% of lymphocyte were divided into L type. Interestingly, before and after the treatment of acupuncture, the number of granulocytes and lymphocytes had a negative relationships. Namely we found an increase in the lymphocytes as well as a decrease in the granulocytes in the G type. On the other hand in the L type, we found an increase in the granulocytes and a decrease in the lymphocytes. Therefore we suggest that acupuncture can enhance the activity that maintains the balance of the immune function.
著者
橋本 すみれ 地野 充時 来村 昌紀 王子 剛 小川 恵子 大野 賢二 平崎 能郎 林 克美 笠原 裕司 関矢 信康 並木 隆雄 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.171-175, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

線維筋痛症による全身の疼痛に対し,白虎湯加味方が有効であった症例を経験した。症例は65歳女性。自覚症状として,夏場に,あるいは入浴などで身体が温まると増悪する全身の疼痛および口渇,多飲があり,身熱の甚だしい状態と考えて,白虎湯加味方を使用したところ全身の疼痛が消失した。線維筋痛症に対する漢方治療は,附子剤や柴胡剤が処方される症例が多いが,温熱刺激により全身の疼痛が悪化する症例には白虎湯類が有効である可能性が示唆された。
著者
加納 靖之 橋本 雄太 中西 一郎 大邑 潤三 天野 たま 久葉 智代 酒井 春乃 伊藤 和行 小田木 洋子 西川 真樹子 堀川 晴央 水島 和哉 安国 良一 山本 宗尚
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

京都大学古地震研究会では,2017年1月に「みんなで翻刻【地震史料】」を公開した(https://honkoku.org/).「みんなで翻刻」は,Web上で歴史史料を翻刻するためのアプリケーションであり,これを利用した翻刻プロジェクトである.ここで,「みんなで」は,Webでつながる人々(研究者だけでなく一般の方をふくむ)をさしており,「翻刻」は,くずし字等で書かれている史料(古文書等)を,一字ずつ活字(テキスト)に起こしていく作業のことである.古地震(歴史地震)の研究においては,伝来している史料を翻刻し,地震学的な情報(地震発生の日時や場所,規模など)を抽出するための基礎データとする.これまでに地震や地震に関わる諸現象についての記録が多数収集され,その翻刻をまとめた地震史料集(たとえば,『大日本地震史料』,『新収日本地震史料』など)が刊行され,活用されてきた.いっぽうで,過去の人々が残した膨大な文字記録のうち,活字(テキスト)になってデータとして活用しやすい状態になっている史料は,割合としてはそれほど大きくはない.未翻刻の史料に重要な情報が含まれている可能性もあるが,研究者だけですべてを翻刻するのは現実的ではない.このような状況のなか,「みんなで翻刻【地震史料】」では,翻刻の対象とする史料を,地震に関する史料とし,東京大学地震研究所図書室が所蔵する石本コレクションから,114冊を選んだ.このコレクションを利用したのは,既に画像が公開されており権利関係がはっきりしていること,部分的には翻刻され公刊されているが,全部ではないこと,システム開発にあたって手頃なボリュームであること,過去の地震や災害に関係する史料なので興味をもってもらえる可能性があること,が主な理由である.「みんなで翻刻【地震史料】」で翻刻できる史料のうち一部は,既刊の地震史料集にも翻刻が収録されている.しかし,ページ数の都合などにより省略されている部分も多い.「みんなで翻刻【地震史料】」によって,114冊の史料の全文の翻刻がそろうことにより,これまで見過ごされてきた情報を抽出できるようになる可能性がある.石本文庫には,内容の類似した史料が含まれていることが知られているが,全文の翻刻により,史料間の異同の検討などにより,これまでより正確に記載内容を理解できるようになるだろう.「みんなで翻刻」では,ブラウザ上で動作する縦書きエディタを開発・採用して,オンラインでの翻刻をスムーズにおこなう環境を構築したほか,翻刻した文字数がランキング形式で表示されるなど,楽しみながら翻刻できるような工夫をしている.また.利用者どうしが,編集履歴や掲示板機能によって,翻刻内容について議論することができる.さらに,くずし字学習支援アプリKuLAと連携している.正式公開後3週間の時点で,全史料114点中29点の翻刻がひととおり完了している.画像単位では3193枚中867枚(全体の27.2%)の翻刻がひととり完了している.総入力文字数は約70万字である.未翻刻の文書を翻刻することがプロジェクトの主たる目的である.これに加えて,Web上で活動することにより,ふだん古文書や地域の歴史,災害史などに興味をもっていない層の方々が,古地震や古災害,地域の歴史に関する情報を届けるきっかけになると考えている.謝辞:「みんなで翻刻【地震史料】」では,東京大学地震研究所所蔵の石本文庫の画像データを利用した.
著者
橋本 萌
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育學研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.26-38, 2013-03-31
被引用文献数
1

本稿は日本の戦前期に活性化する小学校児童の伊勢参宮旅行(以下、参宮旅行)の普及の要因を1930年代の東京府(東京市)の動向に焦点をあてて明らかにするものである。東京府の参宮旅行の拡大は、区会による補助や鉄道運賃割引を求めて教育会が行った運動が要因として挙げられる。教育会による運動に応じて鉄道省は伊勢神宮参拝を含む小学生の旅行に対してのみ参加人員の2割を無賃とする制度を成立させる。東京市では、割引率が決定した後も全児童を対象とした特別な運賃割引制度実現へ努力を継続していた。
著者
加藤 真司 桑沢 保夫 石井 儀光 樋野 公宏 橋本 剛 池田 今日子
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.39-44, 2012 (Released:2013-04-16)
参考文献数
11
被引用文献数
3 4

集合住宅における緑のカーテンによる夏季の室内の温熱環境改善効果を明らかにするため,独立行政法人都市再生機構が所有する集合住宅を使用して,様々な条件設定をした複数の住戸の室内温熱環境改善効果を比較測定したものである。比較条件は,緑のカーテンの設置量の違いと,代替手法である簾との比較である。室内温熱環境の実測の結果,緑のカーテンによる室温の低下が確認できたとともに,簾よりもより大きな室温低下傾向が確認できた。また,この結果をもとに緑のカーテンの節電効果を算定した。さらに,戸窓の開放時においては,通風性と日射遮蔽性を併せ持つ緑のカーテンの特徴から,体感温度においても簾と比べて緑のカーテンの有利性が確認できた。
著者
橋本 英樹 徳永 睦
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.61-70, 2021-07-08 (Released:2021-07-13)
参考文献数
17

高齢・人口減少社会の持続可能性を議論する際,費用抑制の議論が優先される中,公的皆保険制度の最大の目的である家計破綻の回避と,負担公平性をいかに図るかについての議論を科学的に行う必要が強まっている。しかし近年の状況に関するエビデンスが不足している。本稿では先行研究などに倣い全国消費実態調査2014個票データを用いて,公的医療保険と介護保険の自己負担,より広い保健医療消費支出による家計破綻的影響(catastrophic payment)の状況と,医療費・介護費の負担が世帯の貢献能力を鑑みて公平性が担保されているかどうかを検証することを目的とした。その結果,狭義の医療保険の自己負担が及ぼす家計破綻的影響は限定的ではあるが,より広い保健医療消費支出や介護自己負担を含めた場合,特に支払能力の低い高齢者・要介護世帯では家計破綻的支払は17%程度の世帯に見られることを確認した。また公的医療保険・介護保険の負担公平性は直接税による貢献の累進性が近年回復したことを受けて,公平性は比較的担保されていることを確認した。しかし,自己負担・社会保険料負担の逆進性が強まっている可能性が示唆されたことから,今後高齢世帯などでの自己負担率引き上げや,コロナ禍における消費低迷による間接税貢献の逆進性の増加が及ぼす影響を慎重に考慮する必要があると思われた。
著者
的場 周一郎 沢田 寿仁 戸田 重夫 森山 仁 横山 剛 橋本 雅司
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.2580-2584, 2008 (Released:2009-04-07)
参考文献数
21
被引用文献数
4 4

患者は62歳,女性.主訴は心窩部不快感.平成某年10月頃より心窩部不快感が出現,翌年1月当院内科受診し,貧血,便潜血反応陽性を認めた.上部,下部消化管内視鏡を行うも異常は認めず,小腸造影検査を行ったところ,回腸に約6cmの憩室と,その内部に約3cm大の隆起性病変を認めた.腹腔鏡補助下に手術を行った.手術所見では回腸に憩室を認め,小切開を置き,憩室のみ切除した.術中迅速診断にて高分化型腺癌と診断され,リンパ節郭清を伴う回腸部分切除を行った.病理検査では,リンパ節転移を認めず,Meckel憩室の異所性胃粘膜から発生した癌であった.
著者
端詰 勝敬 竹内 武昭 橋本 和明
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.671-674, 2020 (Released:2021-05-27)
参考文献数
10

Central sensitization is a neurophysiological state in which the central nervous system is overexcited in response to stimuli. It is thought to be associated with painful diseases such as migraine and fibromyalgia, as well as conditions that cause functional physical symptoms. In our study, we found that those with chronic headache had higher central sensitization and higher levels of central sensitization have been shown to reduce quality of life.
著者
山本 哲 山本 定光 久保 武美 本間 哲夫 橋本 浩司 鈴木 一彦 池田 久實 竹内 次雄
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.173-177, 2011 (Released:2011-07-27)
参考文献数
6

北海道函館赤十字血液センター(以下函館センター)の製剤部門は2006年に北海道赤十字血液センター(以下札幌センター)に集約され,管内供給は北海道ブロックの需給コントロールによって管理されることとなった.製剤部門の集約は,在庫量の少ない血小板製剤に影響が現れやすいと考えられたので,同製剤の緊急需要(当日受注)に対する供給実態について,受注から配送に至る経過に焦点をあて回顧的に調査した.当日受注で,在庫分に由来すると思われる配送所要時間が2時間未満の血小板製剤の割合は集約直後の2006年度で減少したものの,在庫見直し後の2009年度は2005年度並みに回復した.在庫分がなく札幌からの需給調整に由来すると思われる所要時間6時間以上の割合は2005年,2006年に比べ,2009年度では半減した.時間外発注で1時間以内に配送した割合も在庫見直し後の2009年度に有意に増加し88.5%に達した.製剤部門の存在は,血小板製剤の緊急需要に対し,一時的な在庫量の増加をもたらすものの安定供給の主要な要因とはならず,適正な在庫管理が最も重要な要因であることがわかった.血小板の緊急需要に対しては,通常の需要量を基礎にして在庫量を設定すること,需要量の変化に応じてそれを見なおすことにより対応が可能であった.供給規模が小さく,在庫管理の難しい地方血液センターでは,血小板製剤の広域の需給調整を活発にすることで経済効率を保ちつつ医療機関の需要に応えるべきと考える.