- 著者
-
永井 亜貴子
李 怡然
藤澤 空見子
武藤 香織
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- pp.21-111, (Released:2022-05-12)
- 参考文献数
- 24
目的 厚生労働省は,都道府県と保健所設置市への事務連絡で,新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)を含む感染症法上の一類感染症以外の感染症に関わる情報公表について,「一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針」(以下,基本方針)を踏まえ,適切な情報公表に努めるよう求めているが,自治体が公表した情報を発端として生じた感染者へのスティグマへの懸念が指摘されている。本研究では,都道府県・保健所設置市・特別区におけるCOVID-19の感染者に関する情報公表の実態を明らかにする。方法 47都道府県,保健所設置市(87市),特別区(23区)の公式ウェブサイトで公表されているCOVID-19の感染者に関する情報を収集した。2020年2月27日以前,基本方針に関する事務連絡後(3月1~31日),緊急事態宣言期間中(4月8~30日),8月の各時期で最も早い日にちに公表された情報を分析対象とし,基本方針で公表・非公表とされている情報の有無や,公表内容に感染者の特定につながる可能性がある情報が含まれていないかを確認した。結果 個別の感染者に関して情報公表を行っていたのは,都道府県では全自治体,保健所設置市等では84自治体であった。自治体が公表していた感染者に関する情報は,自治体間で項目や内容にばらつきが見られ,公表時期によっても異なっていた。基本方針で非公表と示されている感染者の国籍,居住市区町村,職業を公表している自治体があり,居住市区町村と職業は,感染拡大初期の1~3月に比べて,4月以降で公表する自治体が増加していた。一部では,感染者の勤務先名称や,感染者の家族の続柄・年代・居住市区町村などの情報が公表されていた。結論 自治体が行ったCOVID-19感染者に関する情報公表を調査した結果,自治体間や公表時期によって情報公表に用いられる様式や公表内容に違いがみられ,一部に感染者の個人特定につながりうる情報が含まれている事例があることが明らかとなった。COVID-19の疾患の特徴や感染経路などが明らかになってきた現状において,感染者の個人情報やプライバシーを保護しつつ,感染症のまん延防止に資する情報公表のあり方について,再検討が必要と考えられる。さらに,再検討を経て決定した情報公表の方法や内容について市民や報道機関に丁寧に説明し,理解を得る必要があると考えられる。