- 著者
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田辺 裕
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.1, pp.120-132, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 23
- 被引用文献数
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従来,都市と都市住民や市民などの概念は,夜間人口に基礎をおいてきた。しかし都心行政区における夜間人口の減少と郊外市町村における遠距離通勤・通学者の増加は,この古典的概念を根底から覆しつつある。従来,都市とは居住し,働き,家族生活を営む場であったが,その主要な担い手であった都心住民は,職住分離によって郊外に転出しつつある。他方,遠い郊外からの通勤者は,都市行政と都市計画に参画すべき,公法的な権利を奪われ,しかも家族生活の場である都市に所属する意識を失いつつある。またここには生活圏の2重の分裂が見られる。 第一の分裂は通勤者相互間にある。これは旧都心に通勤する人々を除いて,多くの通勤者が家庭生活の場としての郊外と,労働の場としての新都心(副都心)群の一つとを焦点とした楕円状の分都市圏とも呼ぶべき生活圏に所属し,その圏域外の他の新都心とは精神的にほとんど無関係に生活していることである。いいかえれば,住民相互に共有する市民意識が失われていることである。第二の分裂は同一家族の構成員相互間にあって,都心方向に遠距離通勤する父,近くの郊外都市に通学する年長の子供,ごく近距離通学の低学年の子供,家に残る母や老人,それぞれの生活圏が分裂し居住市区町村への帰属意識にもずれが生じていることである。 このような都市住民を,参加度と要求度によって,伝統型,無関心型,要求型,近代型と4分類してみると,都心や農村に見られた,居住し,働き,しかも家族とともにある伝統型は減少し,郊外には職住分離した,都市行政に参加しない無関心型や要求型が増加して,他方市民意識を持とうにも住民ではない近代型が現れている。