著者
吉田 昌弘 笠原 敏史 田辺 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.129, 2003

【はじめに】スポーツ・リハビリテーションの中で受傷部位の回復を評価するにあたって,機能レベルのテスト項目のほかに,10M走や垂直跳び,反復横跳びなどの能力レベル(いわゆるパフォーマンス)のテスト項目も行われる.中でも,垂直跳びの能力はジャンプ競技(バレーボールやバスケットボールなど)の重要な要素である.これまでのジャンプ研究の報告から,垂直跳び動作は下肢および上肢や体幹の運動を使った全身運動であると言われている.下肢傷害の機能回復を垂直跳びの結果より判断する場合,上肢や体幹運動を考慮して実施する必要がある.しかし,上肢の運動が垂直跳びに影響を及ぼすことは知られているが,どのような上肢運動が垂直跳びの成績や力学的な要素に関与しているのか十分に明らかにされていない.本研究はこの点を解明するために調査を行い,若干の知見を得たので報告する.【対象と方法】対象は健常男子名(平均年齢21±1[SD]歳,身長173±5cm,体重58±5kg,BMI19±1).「垂直跳び」は助走なくその場で出来るだけ高く飛び,壁面に設置した垂直跳び計測用ボードにあらかじめチョークの粉をつけた指先をつけるよう指示し測定した.対象は,肩関節屈曲0度(T1),肩関節屈曲90°(T2),肩関節屈曲180度から伸展運動させ(T3),続いて屈曲運動を行わせた.肩関節屈曲30度(T4),肩関節120度(T5)から屈曲運動のみ行わせた.これらと,肩関節180度で固定(T6)して行ったときとを比較した.各課題5回ずつ行わせ,うち最高と最低値を除く3回のデータを用いた.なお,各運動課題はランダムに行った.さらに,同時に,床反力計を使って垂直方向の力も計測した.【結果】垂直跳びの成績はT1=58±6cm, T2=56±7cm,T3=55±8cm,T4=55±7cm,T5=51±7cm,T6=49±7cmであった.フォースプレートからZ方向の大きさは,各被検者ごとの差を取り除くため,ノーマライズを行い,各被検者の体重を引き,体重で除したものを用いた.その結果,T1=14.4±0.3,T2=13.9±0.4,T3=14.3±0.3,T4=13.4±1.2,T5=12.9±0.3,T6=13.1±0.5であった.【考察】本研究では,垂直跳びにおける上肢の振りの関与について,上肢運動に条件を設定して行った.T1からT3は上肢を振り下ろす運動範囲に条件をつけて行い,上肢を固定した場合に比べ,垂直とびの高さは大きく,z方向の力成分も大きかった.このことから,上肢を振り下ろす運動により,床からの反力を得ている可能性がある.T4とT5は上肢を振り上げる運動範囲に条件をつけ,運動範囲が小さい場合,垂直跳びの高さが減少し,z方向の力成分も減少していた.同様に,上肢を振りあげるも高く飛ぶために必要な床からの反力を得ているものと考える.
著者
井上 清 向山 美雄 辻 啓介 田辺 伸和 樽井 庄一 阿部 士朗 高橋 誠
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.263-271, 1995
被引用文献数
9

麹菌に <i>Monascus pilosus</i> (IFO4520) を用いて調製した紅麹は, SHRに対して血圧降下作用を示している。そこで, 高血圧症者に対する効果を調べるために, 軽症ないし境界域本態性高血圧症者に対し, 紅麹入りドリンクを摂取させる3種の試験を行った。<br>(1) 入院高血圧患者12人に対し, シングルブラインド法で1日当たり紅麹0g, 9g, 18g, 27g相当のエキスが入ったドリンクを2週間摂取させた用量依存性試験, (2) 通院高血圧患者12人に (1) と同様に紅麹ドリンクを1か月間摂取させた用量依存性試験, (3) 高血圧の通院患者7人に対し9g/日の紅麹相当のエキスを6か月摂取させた長期摂取試験。<br>入院患者の2週間摂取試験では, 紅麹ドリンク3本/日 (紅麹27g相当) を摂取した場合に, 157±11/91±10mmHgから141±10/81±6mmHgへと, 収縮期圧, 拡張期圧ともに明らかな降下が観察された (<i>p</i><0.05)。また, 通院患者への1か月間の紅麹ドリンク摂取試験においては, 紅麹ドリンク3本/日の摂取で154±9/92±6mmHgから147±10/81±5mmHgと明らかな血圧降下作用が観察された。<br>7人の高血圧症を有する通院患者に対し, 6か月間紅麹ドリンクを摂取した試験では, 紅麹ドリンク1本/日 (紅麹9g相当) の摂取で164±9/99±6mmHgから154±14/88±5mmHgへとともに血圧の降下が観察された。更に, 228±42mg/dlから184±27mg/dlと血清総コレステロール値の低下も認められたが, 紅麹ドリンクを与えないで6か月観察した5人では, これらの効果はみられなかった。<br>以上の結果から, 紅麹エキスの摂取により, 高血圧症者で血圧と血清コレステロールの改善作用が判明した。
著者
荒川 泰彦 野澤 朋宏 田辺 克明
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.81, no.7, pp.585-588, 2012-07-10 (Released:2019-09-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1

量子ドットは,単接合型半導体太陽電池に対して新たな設計自由度を与え,高効率化をもたらす可能性を有している.本稿では,多中間バンドの導入により,理論変換効率が80%近くまで達しえることを示すとともに,開放電圧の劣化のない量子ドット太陽電池やフレキシブル量子ドット太陽電池の実現などについて論じる.さらに,太陽電池の超高効率がもたらすコスト競争からの脱却に向けたパラダイムシフトや,今後取り組むべき課題についても言及する.
著者
杉崎 正志 鈴木 公仁子 伊介 昭弘 田辺 晴康 加藤 征
出版者
特定非営利活動法人 日本口腔科学会
雑誌
日本口腔科学会雑誌 (ISSN:00290297)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.52-63, 1990-01-10 (Released:2011-09-07)
参考文献数
39
被引用文献数
6

908 Japanese dry skulls (3-84y) were investigated its masticatory parts about sex dimorphism. They were not cured their caries and defect of teeth.ResultsMale condylar breadth and M. masseter origin length were wider than these of female in over 20 years old groups, and were caused by their functional discrimination. Edentulous group reduced their breadth and length, especially in condylar breadth. Old edentulous group indicated morphological non-sexual dimorphism. Male number of loss of teeth were same as female. Attrition showed functional discrimination between male and female, but we could not clearly that of causes. Bite relation of anterior teeth were pointed out their sex differences, and results of attrition were under consideration, we thought that the teeth application or use differed between male and female. It was caused by functional decline and effect of sex hormones that old female edentulous showed reduction of condylar breadth and M. masseter origin length.
著者
千代田 路子 藤村 亮太郎 田辺 聖子 右田 京子 山形 徳光 重松 康彦
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1059, 2009

<BR>【目的】日本では少子高齢化が進み、核家族化、女性の社会進出、単身生活者の増大に伴い、調理の簡便化や省力化の傾向が見られ、カット野菜に対する消費者のニーズが高まってきている。カット野菜は微生物制御を目的に次亜塩素酸ナトリウム溶液による浸漬処理が広く行われており、微生物的な安全面や生理的・化学的変化について多くの報告がなされているが、栄養成分についての研究はあまり進んでいない。そこでカット野菜として需要が高いレタスについて、次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄殺菌処理と水道水による洗浄処理がカットレタスの栄養成分に与える影響を明らかにすることを目的に本実験を行った。<BR>【方法】レタスの外葉及び芯を除去した後、包丁にて4cm四方にカットしたレタスを試料とし、次亜塩素酸ナトリウム溶液(200ppm)浸漬による洗浄殺菌処理と水道水による洗浄処理(1分間、20分間)を行った。その後、調製したカットレタスの各栄養成分[ビタミンC及びミネラル類(カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄)]について定量分析を行った。実験期間は栄養素の季節変動を考慮し、季節ごとに年4回(2007年秋~2008年夏)と設定した。<BR>【結果】調製したカットレタスの栄養成分データについて比較した結果、いずれの栄養成分においても各調製試料間に有意な差は確認されなかった。以上の結果より、洗浄方法の違いによってカットレタスのビタミンC及びミネラル類(カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄)に有意な損失はないことが示唆された。また、季節ごとの栄養素の変動について一定の規則性は確認されなかった。
著者
田辺 新一 中野 淳太 森井 健志 宇留野 恵 後藤 悠 坂本 圭司
出版者
公益社団法人 空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集 平成17年 (ISSN:18803806)
巻号頁・発行日
pp.901-904, 2005-07-25 (Released:2017-08-31)

Field survey on thermal environment and questionnaire survey were conducted over three seasons at three train stations, and thermal comfort was quantitatively evaluated. Moreover, usage patterns and passengers' attitude towards the station environment were investigated in order to comprehensively identify the thermal environment required for train stations. Environmental control of the entire station by air-conditioning would not be energy efficient due to its open structure, and task-ambient air-conditioning strategy is proposed.
著者
村上 達哉 奥出 潤 大滝 憲二 大場 淳一 郷 一知 松居 喜郎 酒井 圭輔 田辺 達三
出版者
一般社団法人 日本人工臓器学会
雑誌
人工臓器 (ISSN:03000818)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.1121-1124, 1988

先天性心疾患における右室-肺動脈間の再建に使用する目的で、グルタルアルデヒド処理ウマ心膜(Xenomedica&reg;)を用いたvalved conduitを自作し、その水力学的特性についてin-vitroで実験を行なった。一尖弁・二尖弁・三尖弁を持った三種のconduitを作成し、これを補助人工心臓ポンプを中心とした実験回路に装着して実験を行なった。心拍数・駆動圧を種々に変化させるとともに、弁部分に対する圧迫や偏平化による弁機能への影響についても検討を加えた。三種のconduitのうち、一尖弁conduitは全般的に逆流が多く変形にも弱かった。また三尖弁conduitは逆流は少ないが、圧迫変形によって弁抵抗が増加した。これに対して、二尖弁conduitは各種条件下で比較的安定した性能を示し、圧迫に対しても弁機能が大きく損なわれることがなかった。したがって、本conduitは胸骨と心臓の間で圧迫されるような臨床例でも十分に機能を発揮しうると考えられた。
著者
田辺 文也
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会 年会・大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.348, 2008

JCO臨界事故は、臨界質量制限値を大幅に超える量の製品硝酸ウラニル溶液の均一化工程を実施するにあたって、形状制限によって臨界管理されている純硝酸ウラニル溶液貯塔に替えて形状制限されていない沈殿槽を使用したことにより発生したが、原因のひとつとして、この作業手順変更が職制上の上司である職場長の許可を求めることなく現場作業チームにより計画、実行されたことがあげられる。これは主に、JCOで長年に亘って実施された改善提案制度において、現場作業員に対して実施済改善提案の提出が原則である旨が徹底的に指導され、かつそれがより高い褒賞内容にも結びついていたこともあり、職制上の上司の許可なく手順を変更して作業を実行することが常態化し、改善提案制度衰退後もその風潮が維持されたところからきたものである。
著者
木野 孔司 杉崎 正志 羽毛田 匡 高岡 美智子 太田 武信 渋谷 寿久 佐藤 文明 儀武 啓幸 石川 高行 田辺 晴康 吉田 奈穂子 来間 恵里 成田 紀之
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
TMJ : journal of Japanese Society for Temporomandibular Joint : 日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.210-217, 2007-12-20
参考文献数
22
被引用文献数
4

ここ10年ほどの間にわれわれの顎関節症への保存治療は大きく変化した。個々の患者がもつ行動学的, 精神的寄与因子の管理・是正指導と同時に, 病態への積極的訓練療法を取り入れている。その結果, 改善効果割合の増大と通院期間の短縮がみられた。この効果を確認し, 今後の治療方法改善に向けた検討を目的として, 2003年に実施した治療結果を1993年に報告した保存治療成績と比較した。対象は1993年が382例, 2003年は363例である。治療方法の比較では, 1993年はほぼ病態治療のみであり, 鎮痛薬投与, スプリント療法, 訓練療法, 関節円板徒手整復術などが行われていた。2003年では患者から抽出した個々の行動学的寄与因子の是正指導, 局麻下での徒手的可動化, 抗不安薬や抗うつ薬投与, 心療内科との対診が新たに取り入れられ, 訓練療法, 鎮痛薬投与が多くなり, 逆にスプリント療法, 関節円板徒手整復術は減少した。1993年調査で用いた効果判定基準に従うと, 1993年 (39.8%) に比べ2003年 (61.0%) の著効割合は有意に大きかった (p<0.001), 有効まで含めた改善効果も2003年が有意に大きかった (p=0.001)。逆に通院期間は中央値11.5週から8週と有意に減少した (p=0.030)。これらの結果から, 個々の寄与因子是正指導および訓練療法の効果を前向きに検討する必要性を確認した。
著者
田辺 篤史 関 雅樹 松浦 章夫
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
構造工学論文集 A
巻号頁・発行日
no.57, pp.780-787, 2011

Recently it was found that a large wheel load exceeding twice of static one occurred by high speed train passage. This study is aiming to grasp the mechanism of large wheel loads by using measured data obtained by the examination train. Then, the effects of the large wheel load on steel bridges were evaluated by using field measurement data. Statistical method revealed that the frequency of larger wheel load increases by train speed and that the track type has less effect. Two scenarios of large wheel load were found. Rail joints may cause high frequency vibration and it results large wheel load, but it has no effect on steel bridges because it dissipates rapidly. Uplift of sleeper produces large wheel load with low frequency and it could increase stress range at the upper flange of girder bridges by 10-20%.
著者
田辺 敦
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2016-03-15

【背景と目的】 近年、筆者らはC型肝炎ウイルスのゲノム複製に寄与する新規のRNAヘリカーゼ遺伝子として、YTH domain containing 2 (YTHDC2)を同定した。ヒトの正常組織および様々な癌細胞株を用いてYTHDC2遺伝子の発現を調べた結果、正常組織では発現が低いが、一方で多くの癌細胞株では発現が高いことが明らかになった[参考論文(B), 3 ; Morohashi, Tanabe (9th author) et al., PLoS one, 6, e18285, 2011]。また、これまでの研究で、様々なRNAヘリカーゼが癌遺伝子の翻訳を促進することで癌細胞の悪性化に寄与していることが報告されている。そこで本研究では、癌化に伴って発現が亢進するYTHDC2の転写制御機構および癌細胞の主要な悪性形質の一つである癌転移におけるYTHDC2の役割について解析した。第1章:YTHDC2の転写制御機構解析 はじめに、YTHDC2の転写開始に重要なプロモーター領域を同定するために、ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。ヒト肝癌細胞株Huh-7を用いて実験した結果、転写開始点より−261から+159塩基の領域が重要であることが示唆された。データベースによる解析により、その領域内にはcAMP Response Element(CRE)、GATA、AP-1の3種類の転写因子結合サイトが含まれていることがわかった。そこで、それぞれの結合サイトに変異を導入して、再度ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った結果、CREサイトに変異を導入したときのみプロモーターの活性が低下したため、このCREサイトがYTHDC2遺伝子の転写に重要であることが示唆された。次にこのCREサイトに結合する転写因子を同定するためにクロマチン免疫沈降法(ChIP)を行った。Huh-7細胞を用いて実験した結果、このCREサイトには転写因子c-Jun, ATF2が結合することが明らかになった。また、これらの転写因子は炎症性サイトカインTNFαで刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し、YTHDC2の転写に寄与していることが示唆された(参考論文(A), 1; Tanabe et al., Gene, 535, 24-32, 2014)。第2章:YTHDC2の転移促進効果についての解析 YTHDC2における癌化形質、特に癌細胞転移への役割を調べるために、ヒト大腸癌細胞株HCT116においてRNA干渉法によるYTHDC2遺伝子発現が持続的抑制された細胞株の作出を試みた。まずは既知のヒト遺伝子を標的としていないshRNA (non-target shRNA)とYTHDC2を標的とするshRNA (YTHDC2-shRNA)をそれぞれ形質導入した。その結果、YTHDC2のmRNA発現量が野生型のHCT116細胞とほとんど変わらないコントロールHCT116細胞株(sh-cont細胞)とYTHDC2のmRNA発現量が野生型のHCT116細胞に比べて約80%低下したYTHDC2ノックダウン細胞株(Y2-KD細胞)を樹立した。樹立した細胞株の運動能力をWound HealingアッセイとTranswellアッセイによって解析した。Wound Healingアッセイは、高密度で培養されている細胞が人工的に作った新しいスペース(Wound)に移動する量を調べることで二次元的な細胞運動能力を測定する方法である。Transwellアッセイは、細胞がTranswellのメンブレンに開いている8μmの穴を通り抜けて反対側に移動した量を調べることで三次元的な運動能力を測定する方法である。in vitroにおける2種類の運動能力測定法により、Y2-KD細胞の運動能力がsh-cont細胞に比べて大きく低下していることがわかった。また、Y2-KD細胞にYTHDC2遺伝子を再発現させることで細胞の運動能力が回復するか否かをTranswellアッセイによって解析した。その結果、YTHDC2遺伝子を再発現させたY2-KD細胞の運動能力は、sh-cont細胞と同程度まで回復した。 さらに、in vivoにおけるY2-KD細胞の転移能力を調べるために、ヌードマウスの脾臓にY2-KD細胞を移植し、肝臓に転移するか否かを調べた。その結果、sh-cont細胞の移植を移植したマウスでは全例で肝臓への転移が見られたが、Y2-KD細胞を移植したマウスでは、5例中2例だけにしか肝臓への転移が見られなかった。以上の結果から、YTHDC2は大腸癌細胞の転移に寄与していることが示唆された。 サイクロスポリンA(CsA)にはYTHDC2の分子機能を阻害する効果が認められている[参考論文(B), 3 ; Morohashi, Tanabe (9th author) et al., PLoS one, 6, e18285, 2011]。そこで、先の野生型HCT116細胞を移植した肝転移モデルマウスにCsAを投与すると、やはり転移が抑制された。以上の結果からCsAがYTHDC2の分子機能を阻害し、大腸癌細胞の転移を抑制したことが示唆された。 次に、YTHDC2の作用が実際にヒト大腸癌の進行度に関連しているのか否かを外科病理学的に調べた。ヒト大腸癌患者由来の72例の病理組織標本(札幌医科大学医学部・消化器外科講座との共同研究)を当研究室で作製した抗YTHDC2モノクローナル抗体を用い、免疫組織化学染色を行った。その結果、YTHDC2の発現レベルと癌の進行度(Stage)およびリンパ節転移の間に有意な正の相関が認められ、臨床的にもYTHDC2が転移を伴う大腸癌の進行に重要な役割を持つことが示唆された。(参考論文(A), 2; Tanabe et al., Cancer Letters, in press)第3章:YTHDC2によるHIF-1αの翻訳促進機構の解析 固形癌における癌細胞転移では、固形癌内部の低酸素環境が引き金となって、上皮間葉系転換が誘導されて癌細胞が転移能力を獲得することが知られている。そこで筆者は、低酸素環境下において重要な役割を果たしている低酸素誘導因子1α (Hypoxia Inducible Factor-1α:HIF-1α)とYTHDC2との相互作用について解析した。HIF-1αは正常酸素環境では、ユビキチン-プロテアソーム経路を介してタンパク質分解されるため、タンパク質の発現量が減少しているが、低酸素環境では、ユビキチン化が阻害されるのでタンパク質の発現量が増加する。そこでまず始めにsh-cont細胞とY2-KD細胞を酸素濃度1%の低酸素環境で培養し、HIF-1αの発現量を調べた。その結果、低酸素環境におけるHIF-1αのmRNA発現量にはsh-cont細胞とY2-KD細胞の間で有意な差がなかった。しかしながら、HIF-1αタンパク質発現量はsh-cont細胞では大きく増加しているが、Y2-KD細胞では増加していなかった。これらの結果から、低酸素環境においてYTHDC2はHIF-1αの翻訳を促進していることが示唆された。 RNAヘリカーゼは遺伝子mRNAの5末端非翻訳領域(5’UTR)の二次構造を解くことで翻訳を促進することが知られている。データベースによる解析により、HIF-1α mRNAの5’UTR は平均的なmRNAの5’UTRに比べて、複雑な二次構造を形成しやすいことが示された。そこで、YTHDC2がHIF-1α mRNAの5’UTRの二次構造を解くことで翻訳を促進しているか否かを解析するため、ルシフェラーゼレポーターアッセイを応用して次の実験を行った。まず、ホタルルシフェラーゼ発現ベクターのプロモーター領域とホタルルシフェラーゼ遺伝子領域の間にHIF-1α mRNAの5’UTRを挿入した。このベクターからホタルルシフェラーゼ遺伝子のmRNAが転写されると、HIF-1α mRNAの5’UTRと同じ二次構造が形成される。したがって、YTHDC2が5’UTRの二次構造を解くことで翻訳を促進するならば、Y2-KD細胞ではこの二次構造が解けないので、sh-cont細胞と比べてホタルルシフェラーゼ活性が低下すると予想される。ルシフェラーゼレポーターアッセイの結果、Y2-KD細胞ではsh-cont細胞と比べてホタルルシフェラーゼの活性が有意に低下した。この結果からHIF-1αの翻訳にはYTHDC2が必要とされていることが示唆された。 HIF-1αは低酸素環境で、上皮間葉系転換形質に関わる遺伝子群の転写に必要であるとされ、転移に重要な働きを持つ遺伝子である。YTHDC2がそれを標的としていることは、YTHDC2の転移促進作用の結果を強く支持するものであった。これらの結果から、RNAヘリカーゼYTHDC2がHIF-1αの翻訳を促進することで大腸癌細胞の転移に寄与すること、そしてYTHDC2が癌治療の予後予測因子や治療標的遺伝子になり得ることが示唆された。(参考論文(A), 2; Tanabe et al., Cancer Letters, in press)
著者
徳村 朋子 高橋 祐樹 桑山 絹子 和田 一樹 黒木 友裕 高橋 幹雄 秋山 幸穂 高橋 秀介 篠田 純 中川 純 田辺 新一
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会環境系論文集 (ISSN:13480685)
巻号頁・発行日
vol.86, no.783, pp.441-450, 2021-05-30 (Released:2021-05-30)
参考文献数
19
被引用文献数
6

As a measure to prevent the spread of COVID-19, telecommuting has been recommended by many companies since March 2020 in Japan. Even after the COVID-19 pandemic is over, the telecommuting implementation rate, including working from home, may continue to increase.The purpose of this study is to clarify the impact of working from home on the individual satisfaction and productivity of workers in companies that introduced the telecommuting system from April 2020 as a countermeasure against COVID-19.Questionnaire surveys of workers who normally work at an activity-based working office were conducted in order to compare the effects of working from home and at the office. The survey targets were workers of a research and development institute located in Chiba Prefecture, Japan. Approximately 210 employees work in the facility, of which 85% are researchers and 15% are in clerical positions. In this study, the results of three questionnaire surveys are described. We conducted a survey of “conventional office work period” in February 2020, a survey of “recommended work from home period” in April 2020, and a survey of “combined work from home and at the office period” in July 2020 where workers could choose to go to work or work from home.From the survey results, it was found that the working environment at home had large individual differences, and the illuminance and CO2 concentration levels often deviated from the standards of the “Ordinance on Health Standards in the Office”. Despite the environment with large differences, the satisfaction level of the thermal environment, air quality and sound was significantly higher at home. It was also found that when working from home, self-efficacy regarding control of the indoor environment increases. This is considered to be one of the reasons for the increase in satisfaction of environmental qualities at home.As an advantage of working from home, most office workers chose “reduction of coronavirus infection risk”. Next, more than half of the respondents chose “having no commuting stress” and “having a reduced dress code” as advantages. On the other hand, “lack of face-to-face communication” became the highest disadvantage of working from home. The degree of satisfaction with interpersonal communication was significantly lower at home than at work. In particular, the decrease in the satisfaction of informal communication was large.Compared to the period when workers could only work at the office or at home, the period with relative freedom to choose between both options showed a great increase in the satisfaction with the work environment and a decrease in the difficulty of performing office activities.In addition, a high correlation was found between the frequency of working from home and commuting time. Workers with longer commuting hours tended to work at home more frequently. Furthermore, it was confirmed that the higher the frequency of working from home, the higher the degree of satisfaction with the working environment at home.The most common response to the ideal rate of working from home was two times a week, but the actual rate was only 25% in the survey conducted in July. It is presumed that there were many situations in which employees chose to come to the office in order to proceed with their work duties more efficiently.
著者
祓川 摩有 田辺 里枝子 曽我部 夏子 山田 麻子 五関‐曽根 正江
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.271-277, 2015 (Released:2015-12-18)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

高脂肪食にビタミンK2 (メナキノン) を添加し, アルカリホスファターゼ (ALP) への影響について検討を行った。7週齢のSD系雌ラットを対照 (C) 群, メナキノン-4 (MK-4) を添加したビタミンK食 (600 mg/kg diet) (K) 群, 高脂肪食 (F) 群, 高脂肪食にMK-4を添加した高脂肪ビタミンK食 (600 mg/kg diet) (FK) 群の4群に分けた。実験食開始83日後において, 十二指腸のALP比活性はK群がC群に比べて有意な高値を示し, FK群がF群に比べて有意な高値を示した。また, 大腿骨のALP比活性において, K群がC群に比べて有意な高値を示し, FK群はF群に比べて有意な高値を示した。以上の結果より, 高脂肪食摂取時においてもビタミンK摂取により, 小腸および大腿骨のALP活性が上昇することが明らかになった。