著者
上田 厚 二塚 信 上田 忠子 有松 徳樹 上野 達郎 永野 恵 野村 茂
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.32-44, 1984-01-20
被引用文献数
2

い草農民は,収穫期に短期間ながら高濃度,以後の畳表製織工程により年間を通じ比較的低濃度の染土じん暴露を受ける.染土は,遊離けい酸含量15〜25%の粘土性の粉体で,収穫時にい草泥染として用いられる.い草農民には,約20年間の作業によりその20%にじん肺所見が認められるようになるが,そのX線写真上の症度や肺機能障害の程度は比較的軽度の者が多く,一般に,い草作業者のじん肺は比較的予後の良いものとされている.このことは,染土の生体作用に関する実験的研究によっても裏付けられているが,作業環境の改善はこの10年間でようやく着手された段階であり,作業者が裸手にて発じん源たる乾燥束を取り扱う作業形態よりみて,い草農民の染土じん吸入量は相当量に達しているものと思われ,今後の作業の状況如何ではより重篤な症例の出現する可能性は否定できない.また,かかる緩徐な線維形成をきたす粉体の吸入によるじん肺について長期にわたって追跡した例はほとんどみられない.かかる見地より,著者らは,1970年に調査されたい草農民の対象者を,1980年に再び健診し,この10年間の胸部X線写真所見およびその他の呼吸器所見の変化の様態を観察し,それが作業者の粉じん暴露の実態といかなる関連を持つかを検討した.対象者は男子51名(58.6±5.3歳),女子37名(54.4±38歳)で,前回と同様,胸部X線直接撮影,BMRCによる問診,肺機能検査,その他の内科的検査で,胸部X線像については,同一対象者の前回と今回の写真をともに,1978年版じん肺標準写真(労働省)を参照して同時に読影した.1980年のX線像では,12階尺度1/0以上が,男子49.0%,女子62.2%に認められ,1970年(男子25.5%,女子21.6%)に比し有意な増加を示した(p<0.01).所見は,小粒状影を混えるが不整形陰影を主とし,中下肺野に強く認められた.また,尺度の進展例は男子62.7%,女子67.6%であった.呼吸器自覚症状の有症率は,男子43.1%,女子41.4%で,前回と今回で有意な差異をみないが,男女ともにぜい鳴の有症率が増加の傾向にあった.肺機能検査では,男子19.6%,女子18.9%に一秒率の低下をみ,より深部気管支領域の障害を示す%MMFの低下(80%以下)を,男子51.0%,女子40.5%に認めた.X線写真有所見者やその進展例に,必ずしも,肺機能異常や呼吸器自覚症状有症率が高い傾向は認められないが,これらのおのおのの検査の有所見者は,正常者に比し,い草経営面積,年間畳表生産量あるいは染土じん暴露指数〔Exposure Index=(い草面積×年数)+1/5(年間畳表生産枚数×年数)〕が高値を示し,有症率と作業量との関連か認められた.これらの成績よりみて,以下の3点がい草農民のじん肺に関し重要であると思われる.1)い草作業者のじん肺の本態は,染土じんの吸入,沈着に伴う,とくに細気管支領域および肺胞壁の炎症性病変を主とするもので,さらに,い草自体の有機じんとしての関与も無視しえないものがある.2)い草作業者のじん肺の進展性はそれほど著しいものではないが,作業者には,X線写真上のじん肺所見のみならず,肺機能低下や呼吸器自覚症状が広範に出現し,さらに,それらの有症率には染土じん吸入量との関連が認められる.3)一般に,い草作業者の呼吸器障害の程度や頻度は,女子に高い傾向を認めるが,これは,とくにこの10年間のい草労働に占める女子の労働配分の相対的な上昇に対応している.したがって,本研究により,い草農民のじん肺所見は,畳表製品化作業に伴う長期の染土じん吸入に起因するものであり,今後とも,定期的なじん肺健診と適切な粉じん環境の衛生工学的改善が必要とすることが示唆された.
著者
三浦 剛史 松本 常男 野村 敏 田中 伸幸 清水 建策 粟屋 ひとみ 塚本 勝彦 松永 尚文
出版者
日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.361-367, 1999-08-20
被引用文献数
4

当科に入院したIII,IV期肺癌患者73例に対する病状説明の過去2年間の内容を検討した.肺癌であるということは全体の71%で患者本人に伝えられていたが,予後について説明されたのは11%に過ぎなかった.入院時のアンケート調査では患者本人の91%が告知希望であったが,52%の家族は反対していた.患者,家族ともに告知を希望していた群では全例で病名が伝えられていた。本人の希望はあるものの当初は告知に反対であった家族の59%で説得に成功して病名告知がなされた,非告知の症例では腺癌およびPS2以上の症例が比較的多かった.
著者
平岩 真一 阿倍 博信 小高 俊之 野村 恭彦 横山 光男 松下 温
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.40, pp.777-778, 1990-03-14

現在のデータベースでは、情報が要求に対してマッチしているか否かの2値的な判断のみを行っているため、あいまいな概念(大きいとか、かっこいいなど)を含んだ要求を処理することが、非常に困難である。そのため、近年、あいまいさを含んだ検索要求が可能な、ファジィ理論を用いたデータベースがいくつか提案されている。しかし、何かを選んだり、買ったりするような場合には、より抽象的な概念による検索項目が必要となる。こうしたあいまいな検索要求に応えるため、本稿では、従来のファジィデータベースにおけるand、orの見直しと、検索項目の生成について提案する。
著者
野村 恭彦 片山 貴嗣 斉藤研一郎 岡田 謙一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌データベース(TOD) (ISSN:18827799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.8, pp.72-81, 2005-06-15
被引用文献数
1

知識の共有・活用は企業の重要課題となっており,そのための情報の蓄積・検索のメカニズムや,掲示板を活用したQ&A メカニズムが提案されてきた.しかし,多くのナレッジ・マネジメントの実践を通して,知識を必要とする人と,その知識を持つ人の間の相互理解や信頼関係がなければ,知識がうまく流れないことが明らかになってきた.本論文では,今は知らない相手でも,出会ったときに「持ちつ持たれつ」あるいは「尊敬しあえる関係」になれる人同士の関係を「潜在ソシアルネットワーク」と呼び,その探索手法の提案を行う.提案手法は,各ユーザの回答可能な知識領域と,各ユーザの持つ知識ニーズを管理し,状況に応じて互恵関係を検索・提示する.プロトタイプを構築し,「私はあなたを助けられるし,あなたは私を助けられる」という関係を提示することが,パブリックに質問を投げて回答を期待する手法に比べ,回答獲得可能性が高く,質問に回答する人の多様性が増すことを示す.Sharing and utilization of knowledge is an important issue among companies. Mechanisms of information retrieval and Q&A by utilizing bulletin board were proposed for such issue. However, it was discovered through number of knowledge management practices, that successful flow of knowledge is difficult if there are no mutual understanding and relationship of trust between those who need the knowledge and those who have such knowledge. In this report, we call "potential social network" which describes the situation where strangers meet each other for the first time and can have relationship of "give and take" or "mutual trust" and will propose its method to search. This method is to manage each user's possible response of knowledge domain and their knowledge needs and search reciprocal relationship according to the condition. Compared to the method that questions the public and wait for their answers, the method that creates prototype and presents the relationship of "I can help you and you can help me," will i crease the possibility of obtaining the response as well as the diversity of the respondents.
著者
奥村 慎吾 初田 健 須永 智 佐藤 真一 野村 勝
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SAT, 衛星通信 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.189, pp.7-10, 2005-07-14

近年、Ku帯(14/12GHz)を用いたVSAT(超小型アンテナ端末)局によるデータ伝送などのサービスが多く用いられている。10GHzを超える周波数帯においては、降雨、降雪による衛星からの信号減衰が大きな問題となっている。特に、降雪によるアンテナ鏡面への着雪は、シャープなアンテナビームをずらす結果となり、大きな減衰が生ずる。これを回避するための無着雪アンテナを衛星ネットワーク(株)で試作し、降雪の多い北海道工業大学に設置して特性測定を行った。この結果、降雪時において、着雪がほとんど無いことを確認でき、無着雪アンテナ機能のついていないアンテナと比較して、信号劣化量の統計値のデータが獲得することができ。さらに、機械的強度の面では、2004年9月の台風18号の風速52m/sにも耐えることを確認でき、実用的なアンテナであることを証明できた。
著者
長板 光男 野村 正彦
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.25-30, 2006-02-28
被引用文献数
1

現代社会で青少年の置かれた状況は,物質的に豊かになった反面,ストレスと戦いながら生きていくことが求められる。また一方では,夜型社会の到来で生活が不規則になりがちである。本研究において,大学生を被験者として睡眠と疲労感に関する実態調査を行なったところ,朝の疲労感や意欲のなさを訴える姿が浮かび上がってきた。筆者らはこの実態をふまえ,内分泌ホルモンである唾液中コルチゾール,メラトニンの生理的指標からELISA法でサーカディアンリズム障害の分析方法の確立をめざした。サンプル数は少なかったが,本研究で開発したプロトコールで十分分析できることが確認された。さらに生理的指標のみならず心理的指標との組み合わせでリズム障害を判別する方法を提起した。いずれにしても身体のリズム性に留意し,朝の疲労感のない生活がストレスへの対処上も重要であると思われる。
著者
山本 映子 野村 幸子 中村 百合子 北川 明 竹下 比登美 北川 早苗 近喰 ふじ子
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.45-56, 2006-03

近年,思春期の児童生徒による他者への攻撃性は,いじめや暴力,稀には殺人といった形で表出し,大きな社会問題となっている。本研究は,県内の公立小・中学校3校の協力を得て,小学5・6年生及び中学2年生の計452名を対象として,子どもの持つ攻撃性を早期に発見し,行動化する前に予防するための対応策を探索することを目的とした調査報告である。方法として,彼らの心身の健康状態と心を理解することが重要と考え,健康調査と攻撃性質問紙,心理テスト(エゴグラム)及び自己投影法であるコラージュ法を用いた。攻撃性については表出性,不表出性攻撃性をコラージュ作品との関連でみた。結果は,思春期の特性や集団力動など作品への影響因子が推測され,必ずしも関連しなかったが,攻撃的アイテムを示唆する傾向が得られた。コラージュ制作後の心身健康状態では,症状個数は有意に減少し,精神面では肯定的変化を得た。コラージュの自己治癒力,カタルシス効果が考えられ,攻撃性予防対策に応用の可能性が示唆された。