著者
野村 民也 二宮 敬虔 風間 三郎 道野 敏雄 熊坂 武雄
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京大学宇宙航空研究所報告 (ISSN:05638100)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.450-463, 1974-07

スピン安定型の人工衛星で地球に近い軌道を周回するものについて,その姿勢変化を解明しまた制御するためには,衛星の磁気的な諸特性を打上げ瑕前に把握する必要がある.これに関連して今般,科学衛星の磁気的なスピンダンピングトルクを飛しょう前に予知すること,およびスピン速度制御装置の動作試験を行なうことを主目的とする微小トルク測定装置を開発し,今後打上げを予定されている科学衛星に対して実用に供することになった.そこで本報告では,スピンダンピングトルクの測定の観点から本装置を説明する.本装置は微少トルクを微少回転角に変換して測定する方式を採用している.即ち,披測定物をベンディクス社製の十字バネ(cross-spring flexural pivots)で保持し,スピンを模擬するための回転磁界をこれに印加し,発生する(渦電流および磁気ヒステリシス損による)トルクにより生ずるバネの微少回転角を,ヒルガーワット社製のオートコリメータを用いて遠隔計測する.軌道上で衛星に発生するスピンダンピングトルクぱ極めて小さいため,本装置では回転磁界強度およびその回転速度を実際条件より増大することによって,発生トルクを拡大した上で0.1秒角分解能のオートコリメータにて計測できるようになっている. 本装置全体はエアライドにより支えられた除雪今上に乗せられ,また追風ついたてにより空気流動の影響を排除されている.バネ定数の校正は空心コイルまたぱ永久磁石による標準磁気モーメントにより得られる標準トルクによるか,標準畳匪モーメントを持つ物体を装着したときの自由振動周期測定によるかのいずれかの方法で行なわれる.本装置はまた,磁気的トルク以外のトルク測定や慣性モーメントの測定にも使用できる.テストモデルを使用した試験の結果,望ましい条件下では,10dyne-cmに近い微少トルクまで測定可能であることがわかった.以下では,本装置の動作原理,構成,得られた伜匪等について説明する.
著者
伊﨑 祥子 田中 覚 田島 孝士 中道 一生 西條 政幸 野村 恭一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.345-348, 2015 (Released:2015-05-30)
参考文献数
9
被引用文献数
4 6

症例は77歳,女性.6ヵ月にわたって緩徐に進行する小脳性運動失調を主訴に受診した.頭部MRIで左橋上部背側と両側の中小脳脚から小脳白質にかけて鍬型に異常信号をみとめた.本例は,非HIVであり,膠原病や免疫抑制剤を使用するような基礎疾患をみとめなかった.髄液中にJCウイルス(JCV)のDNAを検出したことから,小脳症状で発症したまれな小脳・脳幹型の進行性多巣性白質脳症と診断した.また入院後の検査でCD4+リンパ球減少症をみとめた.メフロキン単独による治療で髄液JCVは陰転化し,神経症候の改善をみとめた症例を経験した.
著者
武井 由紀子 野村 直子 壷内 鉄郎 飯島 康仁 石戸 岳仁 塩野 理 矢野 実裕子 水木 信久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.913-918, 2017-06-15

要約 目的:受傷7日目の外傷性視神経症に対し視神経管開放術が有効であった1例の報告。 症例:39歳の男性が自転車走行中に乗用車と接触して転倒。頭蓋骨骨折による気脳症のため総合病院脳神経外科入院。受傷7日目に当科受診。初診時の左矯正視力0.01,左眼の相対的求心性瞳孔障害陽性,左眼瞼外方に受傷痕を認めた。左眼視野は鼻側周辺のみであった。頭部CTで左視神経管上壁陥凹を認め,同日内視鏡下経鼻的視神経管開放術を施行し,術翌日よりステロイドパルス療法を併用した。左眼の中心暗点は術翌日より消失した。治療開始後37日目に左視力1.0となった。 結論:受傷1週間が経過した外傷性視神経症に対して外科療法およびステロイド全身投与を行い良好な経過を得た。
著者
鈴木 知華 野村 昌代 奥富 幸
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.139-147, 2021-10-25 (Released:2021-11-02)
参考文献数
14
被引用文献数
1

愛玩動物用飼料中の無機砒素の濃度測定について,液体クロマトグラフ-誘導結合プラズマ質量分析計(LC-ICPMS)を用いた定量法を開発した.2 w/v%TMAH溶液を試料に添加後,加熱抽出し,試料溶液をpH調整しLCICP-MSに注入した.共同試験は,5種類の愛玩動物用飼料を用い9試験室で実施した.ドライ製品及び素材乾燥ジャーキーに2 mg/kg相当量を,ウェット製品に0.5 mg/kg相当量を,成型ジャーキーに1 mg/kg相当量を,ビスケットに0.2 mg/kg相当量のAs (III)を添加した.その結果,平均回収率,繰返し精度及び室間再現精度の相対標準偏差(RSDr及びRSDR)並びにHorRatは,それぞれ95.4%から98.3%,2.9%以下及び9.1%以下並びに0.51以下であった.
著者
野村 勝彦 渡辺 健一 藤井 辰義 谷 到 江本 克也 鮄川 哲二 沖 修一 荒木 攻
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.444-450, 2011 (Released:2011-07-27)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

我々の施設では2008年1月から2010年12月の3年間に入院時MRI拡散強調画像において内包後脚に可逆性の異常高信号を呈する低血糖脳症を2例経験した.この2例はいずれも両側の内包後脚に異常高信号を有し,受診までの経過あるいは受診時に四肢脱力の左右差があり脳血管障害を疑われた.1例は血糖補正後に速やかな神経学的所見の改善と画像の正常化を認めたが,低血糖症状が遷延した1例においては2回目のMRI拡散強調画像にて内包後脚の病変に加えて放線冠にも異常高信号が観察された.受診時の低血糖や意識障害の程度に関わらず,低血糖に対する初期対応の違いがその後の2症例の臨床経過の違いに影響を与えたと推測された.神経学的所見や画像所見にて急性期脳梗塞が疑われた症例であっても常に低血糖脳症の存在を考慮に入れた十分な初期対応と経過観察を行うことが重要であると考えられた.
著者
橋本 洋輔 中川 健司 角南 北斗 齊藤 真美 布尾 勝一郎 野村 愛
出版者
日本語教育方法研究会
雑誌
日本語教育方法研究会誌 (ISSN:18813968)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.24-25, 2017 (Released:2017-07-10)
参考文献数
2

While teaching a class is the foremost task of an instructor, whether class preparation also counts as part of that duty have been unclearly defined. Yet recently, the Labor Standards Inspection Office issued a recommendation toward major educational institutions to recognize class preparation as labor entitled to payment. This, however, raises course management questions regarding what and how much instructors should actually prepare. Utilizing a various data, this paper discusses how much time is required for Japanese language instructors to conduct effective class preparation.
著者
永尾 麻紀 佐中 眞由実 手納 信一 野村 馨 肥塚 直美 岩本 安彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 = Journal of the Japan Diabetes Society (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.275-278, 2006-04-30
参考文献数
7
被引用文献数
1

症例は26歳,女性.8歳発症の1型糖尿病患者で妊娠5週に当センターを紹介され初診.HbA<sub>1</sub>c 7.7%でありコントロールのため入院.糖尿病合併症は認められず,血糖コントロール改善したため退院.妊娠11週頃からHbA<sub>1</sub>c 5%台にもかかわらず,口渇,1日4~5<i>l</i>の多飲および多尿が出現.ADH-アルギニンバソプレシン(以下,AVP)0.15 pg/m<i>l</i>と低値であったため,尿崩症の合併が疑われ,妊娠15週に精査のため入院.DDAVP(デスモプレシン)10 &mu;gの試験的投与にて中枢性尿崩症と診断.DDAVP開始後,自覚症状は改善し尿量も約2<i>l</i>/日に減少した.妊娠38週2日,自然分娩にて3,440 gの女児を出産.児は新生児低血糖を認めたが,他の合併症は認めなかった.授乳終了後に行った頭部MRIでは,下垂体後葉のhigh intensity areaの消失が認められた.妊娠中に尿崩症を発症した1型糖尿病合併妊婦の稀有な症例を試験したので報告する.
著者
紙谷 博子 梅垣 宏行 岡本 和士 神田 茂 浅井 真嗣 下島 卓弥 野村 秀樹 服部 文子 木股 貴哉 鈴木 裕介 大島 浩子 葛谷 雅文
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.98-105, 2018-01-25 (Released:2018-03-05)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

目的:認知症患者のQOL(quality of life)について,本人による評価と介護者による代理評価との一致に関する研究はあるが,在宅療養患者のためのQOL評価票をもちいて検討したものはない.本研究の目的は,主介護者などの代理人に回答を求めるQOL評価票の作成と,本人の回答との一致性について検討することとした.方法:この研究は在宅患者の観察研究である.我々が開発した,4つの質問からなるQOL評価票であるQOL-HC(QOL for patients receiving home-based medical care)(本人用)に基づいて,QOL-HC(介護者用)を作成した.また,QOL-HC(本人用)とQOL-HC(介護者用)を用いて,患者本人と主介護者から回答を求め,それぞれの質問への回答の一致率についてクロス集計表を用いて考察した.また,合計得点についてはSpearmanの順位相関係数を求めた.結果:質問1「おだやかな気持ちで過ごしていますか.」,質問2「現在まで充実した人生だった,と感じていますか.」,質問3「話し相手になる人がいますか.」,質問4「介護に関するサービスに満足していますか.」について,本人と介護者の回答の一致率は,それぞれ52.3%,52.3%,79.5%,81.8%であった.また,QOL-HC(本人用)合計点とQOL-HC(介護者用)合計点について有意な弱い相関を認めた(Spearmanのρ=0.364*,p=0.015).結論:本人と介護者による評価とに50%以上の一致率をみとめ,合計点について有意な相関をみとめた.介護者による評価を参考にできる可能性はあるが,評価のかい離の要因およびQOL-HC(介護者用)の信頼性の検討が必要である.
著者
野村 典康
出版者
国際組織細胞学会
雑誌
Archivum histologicum japonicum (ISSN:00040681)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.355-370, 1955

実験的に白血球増加を起させられた動物 (死化膿菌を静注された二十日鼠, ドクダミ草を経口投与されたハムスター, 超音波をかけられた二十日鼠), 白血病にかかっている人, 寄生虫を有する牛と犬の血液で, 輪状核を持つ白血球の数が観察された. 大孔輪状核を有する特殊球は未熟な核を持つ特殊球が多い血液中に多く見られる. 同じ規則が好酸球に就いても云える. 白血球増加の全期を通じ未熟な特殊球中の大孔輪状核や成熟した特殊球中の分節輪状核の率は殆ど一定であった. 人の血液で大孔輪状核を持つ好塩基球が見付けられたので, 大孔輪状核は特殊球, 好酸球, 好塩基球のいずれにも出現し得ることが分った.<br>超音波がかけられた二十日鼠の皮下結合組織中に曝振12時間-1日後に線組球と組織球が増えるが, 大孔輪状核を有する細胞は殆ど増えない. 曝振中身体部分が水中にあると, 皮下の細胞の変化が著しい.
著者
野村 康弘 倉本 宣
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.528, 2004 (Released:2004-07-30)

カワラバッタEusphingonotus japonicus (Saussure)は、砂礫質河原という植生がまばらな河原に特異的に生息する昆虫である。近年各地で減少が著しく、東京都では絶滅の危機が増大している種と選定されており、一刻も早い対策が求められている。本種は主に被植度の少ない砂礫質河原に好んで生息することが先行研究により報告されているが、それ以外の保全に関する情報は今のところ報告されていない。そこで、多摩川における本種の分布域、個体群の規模、産卵地選好性を明らかにし、保全に関する基礎的知見を得ることを目的とし、研究を行った。 多摩川の砂礫質河原を踏査した分布調査により、河口から47-57kmの範囲で個体群を確認した。また、標識再捕獲法による個体数推定では一つの個体群の平均が371±174(95%信頼区間)個体で、調査を行った場所の全体(6箇所)としては2,296±978個体と推定された。砂礫質河原面積と個体数で回帰分析を行ったところ、正の相関関係(r2=0.85)が認められた。本種の個体数には砂礫質河原面積が影響していることが示唆された。産卵地選好性の研究では飼育箱に本種を20匹放し、6つの異なる環境を設定して行った。環境条件は砂礫構成を1.透かし礫層、2.礫間にマトリックスがあるパターン、3.表層細粒土層があるパターンとし、下層の粒度分布を粗砂、細砂の2つを設定した。卵鞘は合計で23個産卵され、全体で最も多く産卵された環境は、透かし礫層で粗砂の環境であり、全体の43.5%を占めた。さらに、砂礫構成だけでみてみると透かし礫層が最も多く69.6%を占め、下層粒度だけでは粗砂のほうが多く69.6%を占めた。このことから、地面と礫または礫と礫の間に多くの空間が構成され、植生がほとんどない下層の礫径が大きい環境を好むことが推察された。
著者
野村 周平 田淵 貴大 橋爪 真弘 大田 えりか 渋谷 健司 坂元 晴香 鈴木 基 齋藤 英子 米岡 大輔 井上 真奈美 宮田 裕章 西浦 博
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、with/postコロナ時代の保健医療政策の課題に対する実証的分析に疾病負荷を活用する我が国で初めての試みである。具体的には、新型コロナウイルス感染症の疾病負荷および関連するリスク要因の寄与割合の推定(将来予測含む)、新型コロナ含む傷病別の疾病負荷の将来シナリオ分析、新型コロナウイルス感染拡大による保健医療ニーズ・保健システムへの影響(健康格差・医療費)の推定を行う。
著者
野村 玄
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.719-747, 2010-11

本稿は、天和・貞享期の綱吉政権による対天皇政策について、従来必ずしも論証されてこなかった同政権の政策実施目的の解明を目指した。その結果、天和期の綱吉は、廃一宮により傷ついた皇位継承行為の権威回復を図り、その一環として立太子節会の再興を容認していたことが判明した。また、貞享期の綱吉は、京都所司代と宮中との必要以上の接近による幕府の威光の減退を恐れ、京都所司代・稲葉正往を更迭し、宮中の奢移抑制及び霊元天皇の素行是正と、次代の東山天皇への悪影響防止のため、霊元天皇の譲位の早期実現を目指したこと、その過程で霊元天皇から示された大嘗会再興の要望も、譲位の早期実現の観点から容認していたことが明らかとなった。綱吉は「武家之天下」の主宰者として、幕府の威光と外聞を意識し、皇位とその担い手の皇族を慎重に管理しようとしたが、儀式の再興は、将軍綱吉の皇位管理政策を実現させる一つの手段であったこと等を指摘した。