著者
金山 和彦
出版者
新見公立短期大学
雑誌
新見公立短期大学紀要 (ISSN:13453599)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.45-52, 2002-12-25

具体美術協会とは1954年関西において吉原治良を中心に結成された前衛美術集団をいう。吉原の「オリジナル性」に着目した指導方針により,具体美術協会集団は,タブロー作品をはじめ,野外・舞台を用い,アクションやハプニングなどを実験的に引き起こし,激しい身体性・触角性・物質感・強い精神性を素養とする作品を発表した。その後,具体美術は,吉原の死をもって1972年に解散したが,初期メンバーの独創性や後期メンバーのテクノロジー的要素がそれぞれに評価され,分岐した形で今尚,具体美術協会は存在している。本稿においては,1950年代以降,このような具体美術協会メンバーの新規な表現作品が,当時のアメリカにおける抽象表現作品群と質を異にし,国内の幼児・児童美術から触発され,また影響を与えていたことについて言及したいと考えている。尚,幼児教育との接点については以下の調査項目を挙げた。[○!1]具体美術メンバーによる児童誌『きりん』へのコメント内容について[○!2]嶋本昭三氏の児童・障害児美術観[○!3]具体美術協会の作家が関与した幼稚園
著者
松河 秀哉 北村 智 永盛 祐介 久松 慎一 山内 祐平 中野 真依 金森 保智 宮下 直子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.307-316, 2007
被引用文献数
4

本研究では,高校生から得られたデータに基づいて,データマイニングを活用した学習方略フィードバックシステム「学習ナビ」を開発した.システムの試験運用をふまえ,(a)モデルの妥当性(b)学習ナビで利用したメタファの有効性(c)ユーザからの主観的評価の観点から評価を行い,以下の結果を得た.(a)モデルが仮定する学力差が評価モニタにもみられ,モデルの妥当性が示唆された.(b)学習方略の達成度を表す信号機メタファについて,解説画面の閲覧時間の差から有効性が確認された.学習方略の順序性を表す一本道メタファは,評価モニタの約半数の理解を得た.(c)一部のユーザからアニメーションの長さを指摘された以外は,システム全体として好意的な評価を得た.
著者
金澤 直志
出版者
奈良工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、Predictable Input/Outputの概念に基づく英語教育プログラムをコンピュータのオンライン上に開発し、その有効性を実証することである。Predictable Input/Outputに基づくコンピュータ上の英語教育教材を開発し、それを授業および家庭で実践することで英語に触れる時間が増し、教育現場が抱える「学生の学力差」を少しでも埋めることができればと考える。
著者
森岡 清志 安河内 恵子 江上 渉 金子 勇 浅川 達人 久保田 滋
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1.本研究の目的は,年賀状をデータベースとして事例調査を実施し,拡大パーソナルネットワーク(親しい人びとだけでなく知人とのネットワークを含むもの)を捉えること,また標本調査を実施し,親しい人びとのみに限定されたネットワークの内部構造を捉えることの二つである。平成11年度〜平成12年度にかけて事例調査と標本調査を実施し,その成果を報告書にまとめている。2.事例調査は,3地点でそれぞれ異なる研究課題のもとに実施された。三鷹市では,コミュニティ・センター運営委員を対象者として,地域社会への関与の様相と拡大パーソナルネットワークとの連関を捉えることに,福岡市では,中央区と西区の高齢者を対象者としてライフコースに伴う拡大パーソナルネットワークの変容過程を捉えることに課題がおかれ,かなりの達成をみた。徳島市では住民運動のリーダーを対象者として署名集めの資源としてのネットワークの動員過程を明らかにすることとし,多くの興味深い知見をえることができた。3.平成11年度に実施したプリテストの結果から,回答者の挙げる親しい人5名の相互関係を問う質問項目において,個別面接調査と郵送調査とで,回答の精度に差がみられないことが明らかとなった。そこで平成12年度は,東京都市区全域から8市区をランダムに抽出し,対象者総計2000名に対する郵送調査を実施した。8市区は,文京区・品川区・大田区・世田谷区・八王子市・青梅市・東村山市・多摩市であり,各市区の人口比にしたがって2000名を配分した。有効回収票は656票(回収率33.2%)であった。データクリーング後,集計解析を実施し,ネットワーク構造を規定する要因群の析出,地位達成とネットワーク構造との関連などをテーマとして報告書を作成した。報告書のI部はこの成果が,II部は事例調査の成果が載せられている。
著者
金 鮮美 寺井 弘高 山下 太郎 猪股 邦宏
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.12, pp.805-810, 2022-12-05 (Released:2022-12-05)
参考文献数
32

超伝導量子ビットは,電子や原子,イオンや光子といった微視的粒子からなる量子ビットとは異なり,巨視的な電気回路上に発現する量子力学的重ね合わせ状態やエンタングルメントの制御を可能とした「人工原子」の一種である.これは主にアルミニウム(Al)ベースのジョセフソン接合により構成され,回路設計の改良や作製プロセスの改善・工夫など様々な研究を経て,コヒーレンス時間は20年程かけて当初のそれよりも約5桁向上した.しかしながら,超伝導量子ビットの心臓部であるジョセフソン接合には,酸化絶縁膜として非晶質酸化アルミニウム(AlOx)が含まれるため,そこに存在する欠陥二準位系がデコヒーレンス源として作用することが懸念されている.したがって,さらなるコヒーレンス時間の改善に向け,ジョセフソン接合材料の改良が必要不可欠と考えられる.このようなジョセフソン接合材料の筆頭候補となり得るのが,窒化物系超伝導体である窒化ニオブ(NbN)と絶縁膜となる窒化アルミニウム(AlN)の組み合わせである.エピタキシャル成長技術によって作製される全窒化物NbN/AlN/NbNジョセフソン接合では,絶縁膜として機能するAlNも結晶化しているため,非晶質AlOx中に存在するような欠陥二準位系に起因するデコヒーレンスの抑制が期待される.また,NbNの超伝導転移温度は約16 Kであり,Alのそれ(約1 K)と比較して一桁高いことから,Alベースの超伝導量子ビットよりも高温動作が期待できること,さらに,デコヒーレンス源の一つである準粒子の励起に高いエネルギーが必要となるため,その要因となる熱や赤外光に対する外乱に強固になると予想され,より安定動作可能な超伝導量子ビットの実現が期待できる.異種材料間におけるエピタキシャル成膜技術では,格子定数がほぼ等しいという条件が前提となる.つまり,NbN/AlN/ NbN接合を基板上にエピタキシャル成長させるためには,NbNとほぼ同じ格子定数を持つ酸化マグネシウム(MgO)基板を用いることがこれまでの定石であった.ところが,MgOは高周波領域における誘電損失が大きく,MgO基板上のNbN/AlN/NbN接合を用いた超伝導量子ビットでは,コヒーレンス時間が0.5 μs程度とMgO基板の誘電損失に大きく制限される結果となっていた.我々は,今回,この問題を解決するためにTiNバッファー層を用いることでシリコン基板上に全窒化物NbN/AlN/NbN接合からなる超伝導量子ビットを実現し,平均値としてエネルギー緩和時間(T1)16.3 μs,位相緩和時間(T2)21.5 μsのコヒーレンス時間を達成した.これはMgO基板上に作製された従来の全窒化物超伝導量子ビットと比較して,T1は約32倍,T2は約43倍と一桁以上の飛躍的な改善を示す結果である.窒化物系超伝導体薄膜のエピタキシャル成長技術と積層型ジョセフソン接合作製プロセスは,斜め蒸着によるAlベースのジョセフソン接合作製プロセスでは実現不可能な三次元積層構造も比較的容易に作製可能となり,高度な半導体プロセスとの相性も良いことから,量子回路の設計に大きな自由度と可能性をもたらすことが期待される.
著者
田村 朝子 加藤 みゆき 大森 正司 難波 敦子 宮川 金二郎
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.1095-1101, 1994-12-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
13
被引用文献数
2

後発酵茶の一種である阿波番茶, 碁石茶, 石鎚黒茶それぞれの, 各製造工程から微生物を分離し, 同定を行った.(1) 阿波番茶, 碁石茶, 石鎚黒茶から嫌気性菌, 好気性菌, カビがそれぞれ分離され, その形状, 諸性質より Lactobacillus, Streptococcus, Bacillus, Pseudomonasなどの存在が明らかとなった.(2) 阿波番茶, 碁石茶からの分離菌株 Pseudomonas aeruginosa および P.cePaciaを用いて至適温度, 至適pH, 耐熱性試験を行った.その結果至適温度はそれぞれ40℃, 37℃, 至適pHは5.5, 5.0~7.0, 耐熱性は70℃および80℃までそれぞれ増殖が可能であった.
著者
江島 泰志 稲石 佳子 金子 陽一
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10992, (Released:2022-05-18)
参考文献数
20

【目的】覚醒剤乱用後に発症した脳血管障害の2例を経験したので,文献的考察を加え報告する.【症例1】36歳男性.数年来の覚醒剤常用者.覚醒剤を加熱吸引後,しばらくして突然右上下肢脱力が出現した.来院時は昏睡状態で,頭部CTで左大脳半球に巨大出血を認めた.来院3時間後には心呼吸停止状態となり,入院69日目に死亡した.【症例2】57歳男性.20代から覚醒剤を常用.覚醒剤静注後から倦怠感と体動困難を訴え始めた.2日後,意識障害と発熱(38.7°C)で入院.尿トライエージ検査は,アンフェタミン陽性だった.頭部MRIでは,小脳と脳幹に多発性梗塞を認めた.敗血症および菌塊塞栓による脳梗塞と診断され,抗菌薬治療を行った.しかし,全身状態は徐々に悪化し,入院10日目に死亡した.【結論】年齢が若く,高血圧や糖尿病等の基礎疾患のない脳血管障害症例では,覚醒剤乱用が原因となった可能性を考慮する必要がある.
著者
荒井 弘和 榎本 恭介 栗林 千聡 金澤 潤一郎 深町 花子 宅 香菜子
出版者
Japan Society of Sports Industry
雑誌
スポーツ産業学研究 (ISSN:13430688)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.4_281-4_293, 2023-10-01 (Released:2023-10-18)
参考文献数
30

The four aims of this study were: (1) Qualitative data were used to identify the diverse content of values expressed by university student-athletes in their own words. (2) Gender differences in value–related factors were examined. (3) The relationship between value–related factors and well–being (subjective well–being and interdependent happiness) was examined. (4) The effects of value–related factors and gender on well–being (subjective and cooperative well–being) were examined. The participants of this study were athletes who were members of university athletics departments. Three measures of values were used in this study: the Personal Values Questionnaire–II, the Values Clarification Questionnaire, and the Japanese version of the Valuing Questionnaire. First, the analysis showed that 90 different values were obtained from the content of the open–ended statements. Second, differences between men and women were found in two value–related factors. Third, the relationship between value–related factors and well–being was examined, but overall, no significant differences were found between men and women. Moreover fourth, subjective well–being was influenced by perceptions of ‘Progress’ and ‘Awareness of Reinforcement,’ such as feeling more energized when acting towards that value.
著者
金井 壽宏 髙橋 潔
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.4-15, 2008-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
51
被引用文献数
1

経営学における組織行動論は,心理学にベースを置き,しばしば社会学からも影響を受けてきた.心理学の影響で感情の機能が扱われ,社会学に依拠して感情にまつわる労働が注目され,ようやく経営における感情の研究が姿を現しつつある.その姿を,まず感情の定義,機能,種類,そして感情と行動との関係を踏まえ,トピックとしては,文化に規制される感情の表示規則,感情労働などに見る感情のマネジメント,経営層(マネジメント)の抱く不安などの感情,リーダーシップに伴う感情過程,カリスマの言説,ポジティブ組織行動における感情の扱いなどの論点について試論的にとりあげて,組織理論における感情研究のおおまかな地図を提示する.
著者
米山 裕子 佐藤 啓造 九島 巳樹 栗原 竜也 藤城 雅也 水野 駿 金 成彌 佐藤 淳一 根本 紀子 李 暁鵬 福地 麗 澤口 聡子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.326-339, 2016 (Released:2017-02-21)
参考文献数
24

突然死の原因疾患は心疾患や脳血管疾患の頻度が高く,感染症による急死は比較的少ないこともあり,内因性急死としての感染症について剖検例をもとに詳細に検討した報告は少ない.特に,心疾患による突然死と比較・検討した報告は見当たらない.本研究では当教室で経験した感染症突然死15例と心臓突然死45例について事歴や解剖所見を比較・検討した.感染症の死因は肺炎9例,肺結核4例,胆嚢炎1例,膀胱炎1例であり,性別は男8例,女7例であった.心臓突然死では虚血性心疾患23例,アルコール性心筋症11例,その他の心疾患11例であった.感染症突然死と心臓突然死について単変量解析を行うと,有意な因子として,性別 (男性:女性,感染症8:7,心臓38:7),るい痩 (感染症9/15,心臓13/45),眼結膜蒼白 (感染症12/15,心臓9/45),心肥大 (感染症3/15,心臓34/45),心拡張 (感染症1/15,心臓23/45),豚脂様凝血 (感染症14/15,心臓10/45),暗赤色流動性心臓血 (感染症11/15,心臓44/45),心筋内線維化巣 (感染症4/15,心臓37/45),肺門リンパ節腫脹 (感染症13/15,心臓10/45),諸臓器うっ血 (感染症6/15,心臓36/45),胆嚢膨隆 (感染症11/15,心臓15/45),胃内空虚 (感染症11/15,心臓16/45),感染脾 (感染症8/15,心臓1/45)が抽出された.有意差がなかった項目は,肥満,死斑の程度,諸臓器溢血点,卵円孔開存,肺水腫,脂肪肝,副腎菲薄,動脈硬化,胃粘膜出血,腎硬化であった.多変量解析では,眼結膜蒼白,豚脂様凝血,心筋内線維化巣,心肥大の4因子が感染症突然死と心臓突然死とを区別する有意因子として抽出された.眼結膜蒼白,豚脂様凝血の2項目が感染症突然死に,心筋内線維化巣,心肥大の2項目が心臓突然死に特徴的な所見であると考えられた.死に至る際,血液循環が悪くなると眼結膜にうっ血が生じるが,心臓突然死の場合はうっ血状態がそのまま観察できるのに対し,感染症による突然死では慢性感染症の持続による消耗性貧血を伴う場合があり,うっ血しても貧血様に見える可能性がある.豚脂様凝血は消耗性疾患や死戦期の長い死亡の際に見られることが多い血液の凝固である.死後には血管内で徐々に血液凝固が進行し,暗赤色の軟凝血様となり,血球成分と血漿成分に分離し,その上層部には豚脂様凝血が見られる.剖検時に眼結膜蒼白,豚脂様凝血の所見があれば感染症による突然死を疑い,感染症の病巣の検索とその病巣の所見を詳細に報告すべきと考えられた.感染症突然死では,るい痩が高頻度に見られたので,感染症突然死防止のためには日頃からの十分な栄養摂取が必要と考えられた.また,感染症突然死と心臓突然死両方で副腎菲薄が見られたので,突然死防止のためには3次元コンピュータ連動断層撮影(computed tomography:CT)による副腎の容積測定を健診で行い,副腎が菲薄な人では感染症の早期治療が肝要であることが示唆された.
著者
金 希相
出版者
Japan Association for Urban Sociology
雑誌
日本都市社会学会年報 (ISSN:13414585)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.40, pp.93-108, 2022-09-05 (Released:2023-09-16)
参考文献数
26

This paper examines how immigrants in metropolitan areas are assimilated into the local housing market. Most work on racial/ethnic disparities in homeownership draw from two different frameworks, spatial assimilation model and place stratification model, both of which were developed in the United States based on the relationship between social and spatial mobility. In Japan, however, it is said that immigrants move up the stratification ladder through homeownership rather than through migration, such as that to a higherquality location like the suburbs. Building on this perspective, this paper explores various factors that account for the ethnic inequality in homeownership and advances migration studies in Japan by dividing housing tenure into four categories–high– and low-quality owner–occupied, high– and low-quality rental–and presents alternative frameworks about housing trajectories, housing assimilation model, and stratified housing model. Analysis of anonymized census data for 2000 and 2010 indicates that the socioeconomic and life-cycle characteristics are associated with homeownership, showing a similar pattern of housing consumption between Japanese and immigrant group. However, for immigrant group, the education level does not account for the probability of attaining low-quality owner-occupied housing, presumably due to the low transfer of human capital in dual labor market in Japan. Marital status also has a large effect on homeownership, while the impact of intermarriage on homeownership attainment varies by head of household's nationality and housing tenure, revealing that an intermarriage premium in the housing market is higher for intermarried families with a native head of household. These findings suggest that there is indeed a homeownership hierarchy in Japan that are partly attributable to institutional barriers in housing and mortgage markets, although immigrants tend to be moderately assimilated into the housing market.
著者
徳田 温子 児玉 由紀 菅野 知佳 後藤 智子 山田 直史 山下 理絵 土井 宏太郎 金子 政時 鮫島 浩
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.538-543, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
9

梅毒は未だに最もよくみられる先天感染であり,未治療母体では胎児感染が懸念される.近年米国だけでなく,本邦でも梅毒患者数が増加し,先天梅毒の報告数が増えている.先天梅毒は適切な治療により予防可能であることから,妊娠中の梅毒の早期発見と早期治療が重要である.今回,先天梅毒を合併し異なる経過をとった極低出生体重児2症例を報告する.いずれも妊娠20週以降で判明した母体梅毒であったが,抗菌薬治療10日間後に出生した1例は軽快退院した.抗菌薬1回治療後に,胎児機能不全のため出生し,新生児死亡した症例の胎盤と全身臓器には多数のTreponema pallidumが認められ,抗菌薬治療の限界と考えられた.
著者
金子 邦彦 古澤 力
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.137-145, 2019-03-05 (Released:2019-08-16)
参考文献数
28

シュレーディンガーは,70年ほど前に著書『生命とは何か』で,情報を担う分子としてのDNAの性質を予言しました.これは分子生物学の興隆への大きな一石となり,以降,生物内の個々の分子の性質は調べあげられてきました.しかし,それら分子の集まった「生きている状態とは何か」の答えには至っていません.物理学は安定した平衡状態に限定することで,マクロシステムをとらえる「熱力学」をつくることにかつて成功しました.もちろん,生命は平衡状態にはありません.しかし生命システム,具体的には細胞は,膨大な成分を有し,その組成を維持して複製でき,外界に適応し進化するという共通特性を持っています.では,こうしたシステムの普遍的性質を記述する状態論を構築できないでしょうか.そこで,熱力学にならって,まずは定常的に成長する細胞状態に対象を限り,さらに進化によって発展してきた状態は摂動に対する安定性を有していることに着目します.これをふまえて,適応と進化に関して,以下のような普遍法則が見出されてきました.(1)様々な外界の環境変化に対し,細胞内の全成分(数千成分)の変化は互いに比例していて,その比例係数は細胞成長速度というマクロ変数で表される.(2)このような短期的適応変化と,長期的進化の間に対しても,全成分(表現型)変化の間に共通比例変化則が成り立つ.(3)こうした外部変化に対する応答と,ノイズによる揺らぎの間には統計力学での揺動応答関係と類似した比例関係が成り立つ.(4)各成分の揺らぎに関しても,ノイズによる短時間スケールでの分散と遺伝子変異による長時間スケールでの分散の間に全成分にわたる比例関係が成り立つ.(5)進化的安定性により細胞の高次元なミクロ状態が低次元なマクロ状態へと次元圧縮されることがこれらの法則の背後にあると考えられる.以上のことは,大腸菌進化実験とトランスクリプトーム解析などによる高次元の表現型解析,細胞モデルの計算機シミュレーション,現象論的理論で確証され,普遍的な法則となることが期待されます.また,この結果から遺伝的変異はランダムに起きても表現型の進化には決定論的な方向性があることも示唆されます.