著者
高沢 研丞 梅澤 和夫 関 知子 守田 誠司 中川 儀英 山本 五十年 猪口 貞樹
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.5, pp.185-189, 2004-05-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
14

A 62-year-old woman was transferred to our hospital complaining of nausea, vomiting and acute abdominal pain four hours after the ingestion of wild grass. Her initial systolic blood pressure was 60mmHg and her heart rate was 40beats/min. Her vital signs improved following the administration of atropine sulfate and dopamine. Since the species of the ingested plant was not known at the time of admission, hemoperfusion and hemodialysis appeared to be the best methods of treatment. On the next day, her vital signs stabilized and her complaints were alleviated. The plant was later revealed to be Veratrum album. Veratrum album is a toxic wild plant that is frequently encountered in Japan and is often mistaken for Hosta sieboldiana. Since acute intoxication by veratrum alkaloids may cause severe parasympathetic symptoms, including profound hypotension and bradycardia, early recognition and treatment are required.
著者
井上 桂輔 沼沢 祥行 山本 一樹 須藤 聡 箱守 正樹 豊田 和典 冨滿 弘之 関屋 曻
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.614-619, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
26

【目的】急性期脳梗塞患者の注意障害を定量的に示して歩行自立判定を検討したものは見あたらない。本研究では,BBS に加えてMARS およびSWWT を用いて,急性期脳梗塞患者の病棟内歩行自立判定に関連する要因を明らかにすることを目的とした。【方法】発症から2 週間以内の急性期脳梗塞患者の病棟内歩行自立判定におけるROC 曲線から算出したBBS のカットオフ値による判別と,多重ロジスティック回帰分析から算出した判別スコアによる判別の精度を比較した。【結果】多重ロジスティック回帰分析ではBBS,MARS,SWWT が採択され,判別スコアを用いた方がBBS 単独での判別よりも精度が高かった。【結論】急性期脳梗塞患者の歩行練習開始時点における病棟内歩行自立判別はBBS だけでなく,MARS,SWWT を用いることで精度が高まる可能性がある。
著者
篠崎 史郎 松沢 幸範 須沢 和美 山口 伸二 岡田 和義 早野 敏英 吉川 佐知子 藤本 佳作 小林 俊夫 関口 守衛
出版者
The Japanese Respiratory Society
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.1034-1039, 1993-08-25 (Released:2010-02-23)
参考文献数
14
被引用文献数
1

症例は37歳の男性. 昼間の傾眠および家人に睡眠時呼吸停止を指摘され, 精査目的で入院した. 終夜睡眠ポリグラフの結果無呼吸指数 (Apnea Index, AI) は57.5と高値を示し, 混合型と閉塞型無呼吸が優位の上部気道閉塞型の睡眠時無呼吸症候群 (SAS) と診断された. 背臥位と側臥位における体位別の検討を行った結果, AIは背臥位82.4に比べ, 側臥位では5.9と著明に低く, 無呼吸時間, SaO2の最低値, 睡眠の質はいずれも側臥位で著明に改善していた. 7kgの減量後の終夜ポリグラフの再検の結果, AIは33.2と著明な改善を示した. しかし体位別には背臥位77.3側臥位3.8とそれぞれ軽度の改善にとどまっており, AIのみかけ上の改善は側臥位睡眠時間が相対的に増加したための結果と考えられた. 上部気道閉塞型のSASには, その診断および治療効果判定に, 睡眠体位を考慮すべき症例が存在すること, また側臥位睡眠そのものが治療の一つになり得る可能性を示す重要な症例と考えられる.
著者
関根 由可里 中島 敬祐 大竹 景子 瀧沢 岳 杉山 淳一 向井 大誠 柿澤 恭史 倉橋 節也
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.B-MA6_1-11, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
32

With the spread of COVID-19, the risk of droplet infection has been studied through interdisciplinary research. However, there is little information on the spread of the pathogen through human contact behavior. In this paper, we focus on the home, which is the private space of people, and propose a model to visualize the risk of contact infection to a family when people return home by combining calculation of contact behavior after returning home and study of virus transfer efficiency. First, from the contact behavior data for the first 30 minutes after returning home, we calculated the probability of flow line, the distribution of the number of contacts, the probability of initial action and the probability of contact behavior transmission. Next, we obtained the transfer efficiency between the substrate representing the household goods surface and the model skin, and the rate of change of the viral transfer efficiency when people continuously contact the household goods surface. According to these probabilities, we reproduced the state in which the virus attached to the hand or household goods surface by probabilistically performing the agent’s movement and contact behavior after returning home. This result shows that when agents return home with viruses attached to their hands, the viruses are widely confirmed on household goods surfaces. Furthermore, by simulating the combination and timing of hygienic actions such as handwashing and disinfection, it was possible to visualize their effects on the risk of re-contact and care effects.
著者
木原 令夫 足立 哲也 藤永 秀子 小川 隆一 小関 隆 姫野 友美 牧野 荘平
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.609-617, 1995-06-30 (Released:2017-02-10)
参考文献数
16
被引用文献数
2

伊豆大島住民のうち15歳以上の4673名を対象としてスギ花粉症のアンケート調査を行ったところ回収率は22.3%であり, 春先 (2月中旬から3月中旬) に鼻症状を有する例は8.9%, 眼症状例は5.7%, 皮膚症状例は8.1%であった. 有症状例に行ったスクラッチテストで13.8%の例がスギ抗原陽性であり, IgE RAST score 2以上の例は33.3%であった. 平成2年2月から4月までの最高スギ花粉飛散数は北部診療所で3月7日に118個/cm^2, 南部診療所では2月28日に271個/cm^2であった. 全住民に対するスギ花粉症患者を推定すべく再度アンケート調査を行ったところ (回収率53.1%) 鼻症状3項目以上と眼症状2項目とを同時に有する例は4.7%であり, 未回答者のうちランダムに選んだ100名に対する電話での調査結果と合わせて頻度を検討すると, 全住民のうち5.64%にスギ花粉症を疑わせる例が見出された.
著者
石黒 大樹 尾関 智子
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第36回 (2022)
巻号頁・発行日
pp.3F3GS901, 2022 (Released:2022-07-11)

本研究では,単眼RGBカメラより得られた入力画像からハンドジェスチャを認識しWebアプリケーションの操作を可能とする非接触ユーザインタフェースを実現する.操作デバイスに触れずに対象を操作するUIの先行事例として赤外線センサやモーションセンサを活用したものがあるが,単眼RGBカメラのみを利用することで汎用的なモバイルデバイスでも簡易に操作可能なジェスチャ操作システムの実現を目指す.研究の手法として,まず機械学習ライブラリであるMediaPipeによって検出した手の各関節の座標点を学習データとして収集し,深層学習によっていくつかのジェスチャへと分類する.さらに,認識したハンドジェスチャを反映させる形でアプリ上に表示された地図を操作する.また,MLP,CNN,LSTMといった異なるネットワークを用いて学習をおこない,それぞれの精度の検証および最も適したネットワークを選定した.最終的に,LSTMによる94%の精度でのジェスチャ分類を可能としモバイルデバイスで利用可能なNUIシステムを構築した.
著者
沼田 宗純 高津 諭 山内 康英 中井 佳絵 目黒 公郎 伊藤 哲朗 平松 進 伊妻 伸之 赤津 善正 佐藤 勝治 二上 洋介 大関 将広 土井 祐司 田中 朝子
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.471-480, 2016-11-01 (Released:2016-11-29)
参考文献数
3

本研究は,石巻市における避難訓練の結果を報告するものである.2015 年11 月15 日(日曜日,天候:雨)に石巻市総合防災訓練において,各避難所と災害対策本部の情報共有を支援し,効率的な避難所運営を実施することを目的として避難所情報共有システムCOCOA を用いた検証を行った.COCOA は沼田研究室が開発している避難所情報共有システムである.本訓練により,各避難所における避難者数をリアルタイムに把握でき,効率的に避難者名簿も作成されるため要配慮者の把握も容易にできるなど,時系列的な状況変化に応じた効率的な避難所運営が実施できることが確認できた.
著者
新関 久一 齊藤 直 知久 幸之介
出版者
自動制御連合講演会
雑誌
自動制御連合講演会講演論文集 第51回自動制御連合講演会
巻号頁・発行日
pp.161, 2008 (Released:2009-04-14)
被引用文献数
1

歩行運動などのリズミック運動時に運動リズムと心拍リズム間の位相シンクロが発生し,この現象が運動筋への血流確保と関連していることが示唆されている。本研究ではトレッドミル歩行運動時に呼吸と運動リズムの随意的な同期により,心拍リズムと運動リズム間の位相シンクロを自発的に誘発させ,酸素摂取量や換気効率,筋組織酸素動態等から身体システムにおけるシンクロ現象の生理的意義を検討した。
著者
下関 正義 村井 忠史 藤沼 平一
出版者
Japan Society of Spring Engineers
雑誌
ばね論文集 (ISSN:03856917)
巻号頁・発行日
vol.1979, no.24, pp.46-58, 1979-03-25 (Released:2010-02-26)
参考文献数
8
被引用文献数
2
著者
國石 洋 関口 正幸 山田 光彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.156, no.2, pp.62-65, 2021 (Released:2021-03-01)
参考文献数
32

慢性的なストレスへの暴露は,シナプス伝達といった脳の情報処理機構に様々な影響を与える.特に,前頭前皮質と扁桃体など情動処理に関与する脳領域に対し,ストレスが与える影響やその詳細なメカニズムを理解することは,ストレス関連精神疾患に対する新しい治療標的の探索のために重要である.近年,うつ病などのストレス関連精神疾患の症状を引き起こす責任部位として,前頭葉の腹側領域である眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex:OFC)が注目されている.OFCは扁桃体などの辺縁系領域や,腹側被蓋野など報酬系といった情動に関与する様々な領域に神経投射を送っており,特にOFC外側領域は負の情動処理に重要な機能を持つと推測される.本稿では,OFCの機能とストレス関連疾患への寄与を示すこれまでの知見を記述しつつ,マウスの外側OFCから扁桃体基底外側核(basolateral amygdala:BLA)へ投射するシナプス伝達を光遺伝学的に単離計測し,ストレス負荷が与える影響と負情動行動への寄与を明らかにした,我々の研究について紹介する.

1 0 0 0 OA 宇宙服

著者
関口 千春
出版者
The Society of Fiber Science and Technology, Japan
雑誌
繊維学会誌 (ISSN:00379875)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.P175-P180, 1986-05-10 (Released:2008-11-28)
著者
山口 直文 滝 俊文 関口 智寛
出版者
日本堆積学会
雑誌
堆積学研究 (ISSN:1342310X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1-2, pp.3-9, 2022-02-28 (Released:2023-01-20)
参考文献数
16

ウェーブリップルの形状への堆積物供給の影響を調べるための造波水路実験を行った.実験では,水理条件がほぼ同一で,上方より降らせる堆積物供給の速度のみを3段階に変化させることでその影響を調べた.堆積物供給速度が比較的小さい実験では,ウェーブリップルの形状は維持されたまま積み重なっていた.堆積物供給速度が大きくなるにつれてウェーブリップルは平坦化され,その領域は広くなった.今回の実験の水理条件および堆積物の条件(水深:0.3 m,波の周期:1.0 s,波の平均波高:76-78 mm,堆積物粒径:0.20 mm)の下では,砂床上昇速度が32 mm/min以上の実験でウェーブリップルの平坦化が観察された.今回の実験は,ウェーブリップル形状は堆積物供給の影響を受けないというこれまでのウェーブリップル葉理形成モデルにおける仮定が,堆積物供給速度が大きい場合には必ずしも成り立たないことを示唆している.
著者
槙山 和秀 中井川 昇 村上 貴之 林 成彦 佐野 太 河原 崇司 関口 善吉 窪田 吉信
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.721-725, 2010 (Released:2012-03-16)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

(目的) 腹腔鏡下膀胱全摘除術(LRC)は従来の開腹膀胱全摘除術(ORC)と比較し,周術期にメリットがあるか否か検討した. (対象と方法) 横浜市立大学付属病院で膀胱全摘除術を施行した連続した22例を対象とした.2008年2月から2009年5月に施行したLRC 11例と,2006年10月から2009年4月に施行したORC 11例の周術期成績を比較した. (結果) 平均手術時間はLRC 521分,ORC 428分で有意にLRCが長かった(p=0.00794).平均出血量はLRC 801ml,ORC 2,156mlでLRCが有意に少なかった(p=0.0014).術後食事開始日の平均はLRC 4.6日目,ORC 9.3日目で有意にLRCが早期に食事開始できた(p=0.0142).術後最大C反応性蛋白(CRP)の平均はLRC 10.8mg/dl,ORC 16.6mg/dlで有意にLRCが低かった(p=0.0124).合併症発生率はLRC 27%,ORC 45%で有意な差はなかった(p=0.375).平均郭清リンパ節数はLRC 10.9個,ORC 13.7個で有意な差はなかった(p=0.262). (結論) LRCはORCに比べて,有意に手術時間は長いが,出血量は少なく,食事開始時期が早く,術後CRPのピークは低い.したがって,LRCはより低侵襲であり,術後早期にはメリットのある術式である.
著者
関口 安義
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 = Bulletin of The Faculty of Language and Literature (ISSN:09145969)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.196-165, 2005-09-01

成瀬正一は一高・東大時代の芥川龍之介の友人である。二人に久米正雄・松岡譲・菊池寛を加えての同人誌が、文学史上名高い第四次『新思潮』である。成瀬正一は第一次世界大戦中に、戦火のパリを経て、ジュネーヴからレマン湖畔のヴェルヌーヴに滞在中のロマン・ロランを訪ね、戦争や平和の問題、さらにはアジアやアメリカの問題を真剣に議論している。わたしはかつて『評伝成瀬正一』を刊行し、ロマン・ロランとの会見の様子も簡単に記した。 が、研究は日進月歩である。冷戦後のボスニア紛争をはじめとする民族間の争いを考える時、洋の東西、民族、人種、年齢を超えた二人の語らいは、二十一世紀のこんにち、新しい角度から評価される面をもって、わたしたちの前にあるのに気づく。新世紀を迎えた時点で成瀬正一の道程、今回は特にロマン・ロランとのかかわりに、いま一度光を当てようというのが本稿での試みである。これまた、わたしの芥川研究の一環である。
著者
奥寺 俊暉 関本 英弘
出版者
一般社団法人 資源・素材学会
雑誌
Journal of MMIJ (ISSN:18816118)
巻号頁・発行日
vol.139, no.1, pp.1-9, 2023-01-31 (Released:2023-01-31)
参考文献数
34

Surface morphology of lead deposits from H2SiF6-PbSiF6 electrolyte containing an animal glue was investigated by means of the periodic galvanostatic electrolysis and SEM-EDS observation. The weight average molecular weight of the glue was also determined with the static light scattering measurement. The temporal changes of the overpotential and the weight average molecular weight were discussed in terms of the elapsed time after preparing the electrolyte which contained 100 g∙L−1 of H2SiF6 and 100 g∙L−1 of Pb(II) and in which the initial concentration of the glue (Cglue) was 0–10.0 g∙L−1. The dendritic growth of lead deposits was observed from the electrolyte of Cglue = 0 g∙L−1 in the galvanostatic electrolysis where the cathodic current density and the electrolyte temperature was −150 A∙m−2 and 40 ℃, respectively. Smooth and dense lead deposits were obtained in the electrolyte of Cglue = 0.5–5.0 g∙L−1 when the elapsed time τ = 0 d. The surface of the deposits gradually became rough with increasing τ in the electrolyte of Cglue = 0.1–1.0 g∙L−1. On the other hand, nodules or bearded deposits were observed on the deposits obtained in the electrolyte of Cglue = 5.0 g∙L−1 when τ = 1–2 d. After this, the surface became smooth with the further increase of τ. The change of the weight average molecular weight of the glue (Mr,w) with τ was described with the equation, 1/(Mr,w)τ = 1/(Mr,w)0 + k′τ, in the electrolyte containing 100 g∙L−1 of free H2SiF6 and 100 g∙L−1 of Pb(II) at 40 ℃. The k′ value was evaluated to be 5 × 10−9 min−1 in the electrolyte of Cglue = 1.0 g∙L−1 and 6 × 10−9 min−1 in the electrolyte of Cglue = 10.0 g∙L−1.
著者
関口 智
出版者
会計検査院
雑誌
会計検査研究 (ISSN:0915521X)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.13-38, 2021-09-22 (Released:2021-09-28)
参考文献数
68

隠れた福祉国家とされるアメリカの賃貸住宅政策の特徴の1 つは,連邦政府,州政府,地方政府,「民間支援住宅」供給組織等へと,委任関係が外延化している点にある。現在,「民間支援住宅」の3 分の1 を,非営利組織が所有している住宅政策の非営利組織への責任の委任は,特に1980 年代以降に活発化したが,それは保守派の「小さな政府」による支出削減等への要求と,リベラル派の「大きな政府」によるアフォーダブル住宅供給増等の要求とを,同時に満たそうとするものでもあった。 ニューヨーク市で低所得層向け賃貸住宅を供給する巨大非営利組織BRC グループの事例では,通常利用される税務申告書(単体)に加えて,財務書類(結合グループ)を組み合わせること等により,以下の点を明らかにした。第一に,非営利組織による住宅支援は,「公営住宅」とは異なり,政府部門のバランスシートから切り離されているが,フロー(政府補助金や租税支出等)とストック(住宅債務等)の両面で,政府部門の関与が埋め込まれていること,第二に,非営利組織への政府部門の関与は,住宅支援を担当するニューヨーク市の財産税軽減,補助金支援,金融支援だけでなく,連邦政府,ニューヨーク州による財政・金融面での支援も絡む,重層的なものであること,第三に,そのような財政・金融面の支援を背景に,連邦政府,ニューヨーク州,ニューヨーク市が,非営利組織に対して独立監査人による監査を義務付けていること,第四に,非営利組織が,営利企業によって商品化されている民間賃貸住宅を「脱商品化」し,低所得層の居住の権利(社会権)を保障することで,「公営住宅」の代替的機能を果たしていること,第五に,低所得層向け住宅サービスと医療サービスとを連携させようとしていること等である。 これらの低所得層向け賃貸住宅サービスの非営利組織等への委託は,連邦・州・地方政府の厳しい財源制約等の中で行われており,「重度な住宅問題」を抱えている人々のニーズを必ずしも十分には満たしきれていないでいる。
著者
関本 征史 伊是名 皆人 石坂 真知子 中野 和彦 松井 久実 伊藤 彰英
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-34, 2018 (Released:2018-08-10)

【背景】近年、環境基準が定められていない化学物質による河川の潜在的な汚染が報告されており、ヒトや野生生物に対する生体影響が懸念されている。共同研究者の伊藤らは、天白川(愛知県)や境川(東京都)などの都市部河川において、MRI造影剤に使用される希土類元素ガドリニウム(Gd)の河川中濃度が増加していることを見いだしている(Bull. Chem. Soc. Jpn., 77, 1835(2004)、Chem. Lett., 46, 1327(2017))。本研究では、Gd造影剤の水生生物に対する毒性影響を把握する基礎実験として、水生生物由来培養細胞に対する致死毒性の有無を検討した。【背景】ティラピア肝由来Hepa-T1細胞およびアフリカツメガエルの肝由来A8細胞は理研バイオリソースセンターより入手した。両細胞をそれぞれの培養条件で24時間前培養した後、有害重金属(Cd、Cr、Hg)およびGd無機塩、あるいはGd造影剤(Gd-DOTA、Gd-DTPAおよびGd-DTPA-BMA)を最大濃度100 µMで24時間または72時間曝露し、Alamer Blue Assayにより細胞毒性を評価した。【結果】Hepa-T1細胞に対してHg、CdおよびCrはいずれも強い細胞毒性(生存率20%以下)を示した。一方A8 細胞に対してHgは強い細胞毒性を、Crは弱い細胞毒性(生存率 50%以下)を示したが、Cd は24時間処理では全く毒性を示さなかった。72時間処理では、100 µM Cd 処理によりA8細胞での細胞死が認められた。なお、Gd およびGd造影剤処理による細胞毒性はどちらの細胞株においても観察されなかった。【考察】本研究より、現在の河川中濃度レベルのGd造影剤は細胞死を引き起こさす可能性は小さいものと思われた。また、水生生物由来細胞の間でいくつかの環境汚染重金属の毒性影響が異なることが示された。これは、用いた細胞間での「重金属の取込・排泄」「重金属毒性発現に関わる細胞内因子」の相違に起因することが考えられた。現在、分子レベルでの毒性影響について、遺伝子発現変動を指標とした検討を進めている。