著者
古田 亮 木島 隆康 薩摩 雅登 岡本 明子 下東 佳那 田中 圭子 黒田 和士
出版者
東京藝術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

web上で全資料のリストを公開し、全資料を検索可能なデータベースを公開した。あわせて全資料の総目録を作成した。また本研究の成果発表として、2015年12月に東京藝術大学大学美術館展示室において、「藤田嗣治資料公開展示」を行い、資料群の中から、藤田の生涯を通覧できる写真資料を展示したほか、本資料に特徴的なものを特に選出し、展示した。また、観覧者の理解の助けとするためのリーフレットを作成し、展示室で配布した。藤田の日記などをもとに藤田の詳細な年譜を作成した。この年譜は2017年に刊行予定である。
著者
皿井 舞 塚本 麿充 神居 文彰 早川 泰弘 城野 誠冶
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2019年度は、鳳凰堂内の修理事業の計画のうち天井の建造材の剥落止め作業が行われたことから、鳳凰堂母屋正面(東面)の天井、東面の4本の柱絵、及び、それまで足場の長さが足りず十分に届かなかった南面の柱等の調査を行う予定であった。6月11日に、事前調査として、足場最上層にのぼり格子天井や大虹梁ほかの彩色の状態を確認した。8月3日~4日、鳳凰堂内の目視調査を実施、従来、確認できていなかった柱絵の図容を調査した。また阿弥陀如来像が堂内で安置場所から移動するのにともない、10月14日~15日、像、光背などの撮影、調査をおこなった。その後、年度末に来迎柱の絵様帯に描かれた各モチーフの彩色材料につき科学調査を実施する予定であったが、新型コロナウィルス感染症による緊急事態宣言発出のため、実施ができなかった。この点については、鳳凰堂の空間彩色の問題を解決する糸口となる重要な調査であるため早期の実施をはかりたい。
著者
横谷 明徳 渡辺 立子 秋光 信佳 岡 壽崇 鵜飼 正敏 福永 久典 藤井 健太郎 服部 佑哉 野口 実穂 泉 雄大 Hervé du Penhoat Marie-Anne
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

X線照射したEGFPプラスミドを“非照射”の細胞導入し、ライブセル観察によりEGFP蛍光の発現速度の低下から難修復性のクラスターDNA損傷が生じていることを示した。また軟X線を照射しながら水和デオキシリボース(dR)からの脱離イオンを測定し、水分子が分子の激しい分解を抑制すること、またその理由がdRから配位水への高速のプロトン移動によることを分子動力学計算により示した。さらに放射線トラックエンドで生じる多数の低速2次電子は、発生位置から数nm以上離れたところに塩基損傷を誘発し、修復過程を経てDNAの2本鎖切断に変換され得るクラスター損傷を生成することを示した。
著者
横谷 明徳 黒川 悠索 鵜飼 正敏
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

突然変異等など放射線による遺伝的変異の主要な要因であるDNAの分子損傷のメカニズムを、物理化学的観点から解明する。このため、DNAの電子状態に焦点を当て、ミクロな世界を支配する量子的性質と分子損傷の相関を実験と理論の両面から探る。特にハロゲンなど重い元素をDNAに取り込ませた生体に現れる高い放射線感受性のメカニズムを解明し、量子的観点から放射線増感剤の効果を制御するための技術開発に資する知見を得る。
著者
三辺 義雄 森 則夫 武井 教使 中村 和彦 豊田 隆雄
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

覚醒剤の乱用者数は世界中で増加している。覚醒剤の使用により、幻覚妄想状態、うつ状態、攻撃性の亢進など、様々な精神症状が惹起されることが知られている。さらに、これらの症状は覚醒剤の使用中止後もしばしば遷延することが報告されている。これまでの動物実験により、覚醒剤はセロトニン神経に対する傷害作用を有することがわかっている。そこで我々はポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET)を用いることにより、セロトニン・トランスポーター(5-HTT)密度を測定し、これらの変化と臨床的特徴との関連について検討した。なお、本研究は浜松医科大学倫理委員会で承認を得ており、研究の詳細を説明した後に文書による同意を得た者のみを対象とした。対象は覚醒剤使用者12名及び健常者12名である。精神症状評価には、攻撃性評価尺度、ハミルトンうつ病評価尺度、ハミルトン不安評価尺度、簡易精神症状評価尺度(BPRS)を用いた。トレーサは、5-HTTへの選択性の高い[^<11>C](+)McN5652を用いた。動脈血漿及び脳内から得られた時間放射能曲線を用いて[^<11>C](+)McN5652 distribution volumeイメージを作成し、これらのイメージをもとにvoxel-based SPM全脳解析を行った。覚醒剤使用者では、健常者と比較して、脳内の広範囲における5-HTT密度が有意に低下していた。また、眼窩前頭前野、側頭葉、前帯状回皮質における5-HTT密度の低下が攻撃性の増強と密接な関連があることが明らかとなった。これらの結果とこれまでの動物実験の結果とを勘案すると、覚醒剤使用者ではセロトニン神経が傷害されている可能性があることが示唆された。セロトニン神経は攻撃性や衝動性を抑制する働きを担っていると考えられている。覚醒剤使用者では、セロトニン神経が傷害された結果、セロトニン神経の機能障害が生じ、攻撃性が亢進するものと考えられる。現在この結果は論文受理された。さらにproton MRS studyでは、トルエン患者の基底核の膜代謝異常が、患者の精神症状の程度と相関していることを見出し、論文発表した。
著者
池谷 真 上谷 大介 趙 成珠
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

腱・靭帯は再性能に乏しい組織であるため、障害が起こると放置しても治らない。iPS細胞などの幹細胞から腱・靭帯組織を誘導し、損傷部位を補填する方法が1つの手段として考えられるが、これまで腱・靭帯細胞を誘導するロバストな方法は存在しなかった。申請者らは2018年に、世界で初めてヒトiPS細胞から靭帯細胞の前段階の細胞である靱帯節細胞を誘導するプロトコールの開発に成功した。本研究は、この細胞を将来の再生医療に応用するため、目的外細胞の混入、誘導過程での動物由来成分の使用、生体内機能の証明といった課題を、科学的に克服する。
著者
越智 貢 岡野 治子 山内 廣隆 松井 富美男 後藤 弘志 衛藤 吉則 畠中 和生 濱井 潤也 野村 卓史 石崎 嘉彦 石田 三千雄 硲 智樹 手代木 陽 眞嶋 俊造
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、平和実現のための実践的で総合的な理論モデルを提示することである。とりわけ、その特徴は、「平和」の問題を、現実生活の諸相が織りなす「和解」の問題として再構成する点にある。研究期間を通じて、応用倫理学(生命、環境、教育、政治、社会)的アプローチによって上記の課題を追求した。本研究の結果、異質な者に対する排他性、闘争性とその連鎖という根源的な問題に、「和解」のプロセスを示すことができた。
著者
橋本 祐一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本課題では、疾病増悪因子たる機能性タンパク質を標的とし、その (1)活性の直接制御、ならびに (2)分解/消失/安定性/細胞内局在の制御、を行うリガンド群を創製した。代表的な成果は、各種核内受容体やいくつかのエピジェネティック因子に対する新規リガンド(作動薬/拮抗薬/ダウンレギュレーター)の創製、ハンチントン病の原因となる変異ハンチンチンをはじめとするβシート構造型凝集性タンパク質の包括的分解誘導剤の創製、ニーマン・ピック病C型の原因となる変異NPC1の異常細胞内局在を修正する薬理シャペロンの創製、脂質代謝のホメオステーシス維持に関わる酵素の安定性を制御するリガンドの解析、が挙げられる。
著者
森田 明理 前田 晃
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

大規模分子疫学的調査:人種差による環境因子(喫煙、紫外線、大気汚染)に対する皮膚老化の差違(ドイツ・デュッセルドルフ大学環境医学研究所との共同研究)-JAGE project(JAGE=Study of extrinsic skin ageing of Japanese and German women)の疫学調査をすすめ、解析をすすめた。ドイツ人では早期にしわができやすく、日本人ではしみができやすいこと、しみに関しては大気汚染との関連が統計上明らかとなった。また、喫煙としわの関係が明らかとなった。JAGE2として、都市と郡部での皮膚老化に対する違いを検討する予定である。また、喫煙者のTH17が末梢血中に多いことが明らかとなり、乾癬、掌蹠膿疱症でTH17が末梢血中で上昇していることが明らかとなり、タバコ煙抽出液でTh17が誘導されることが明らかとなった。さらに、タバコの煙には3800以上の成分があるともいわれ、水溶性以外に水不溶性の成分が含まれる。その中には、Aryl hydrocarbon receptor(AhR)のシグナル伝達経路を活性化するものが含まれていることが推定されている。タバコ煙抽出液の水不溶性成分とAhRの関係を分析するために、ヘキサンに溶解するタバコの煙抽出液(ヘキサン抽出液)を作成し、培養人繊維芽細胞を使用した。ヘキサン抽出液は、AhRのシグナル伝達経路であることを示すチトクロームP1B1(CYP1B1)発現を有意に上昇させ、また有意にMMP-1発現誘導した。また、AhRノックダウンした細胞では、タバコ煙抽出液の添加で、MMP-1の上昇はなく、AhR経路の活性化によってMMP-1表現を誘導することを明らかとなった。このことは、タバコ煙がAhR経路を活性化することを示しただけでなく、AhR経路が、環境因子による皮膚老化に関与することを示唆するものである。
著者
伊沢 紘生 斉藤 千映美 杉浦 秀樹
出版者
宮城教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

ニホンザルは母系血縁の複雄複雌群で暮らすサルで、群れの社会構造やメスの生活史に関しては膨大な研究成果がすでに蓄積されている。一方、群れを出て独自に行動し、他群に加入する「群れ外オス」の生活史については、野生状態での知見がほとんどない。本研究は母系社会を外側から支える群れ外オスの生活史を明らかにし、ニホンザルの社会構造の闇の部分に迫ろうと計画された。四年間の研究成果は概略以下の通りである。(1)群れ外オスの社会的存在様式としては、群れに追随するオスと追随しないオスの二通りがある。(2)非追随オスはさらに、単独で暮らすハナレオスとオスグループを作って暮らすグループオスの二通りがある。(3)閉鎖環境(金華山)ではオトナとワカモノのオスで、群れオス、追随オス、非追随オスの割合は2対3対3であった。(4)群れ外オスのうち、若年のオス(4〜10歳)はメンバーシップの安定した持続的なオスグループを作り、老齢のオス(15歳以上)はごく一時的なオスグループは作るが通常ハナレオスとして生活している。(5)持続性のあるオスグループは特定の群れの同年齢か同世代の若いオスたちが核となって形成される。(6)オスグループの中で最高齢になったオスから順に、交尾期にオスグループを離れて追随オスになる。(7)オスグループの最低齢のオスはしばらく出自群を往き来する。(8)最低齢のオスが群れオス(出自オス)を群れから連れ出し、それがオスの群れ離脱の大きな引き金になっている。(9)金華山では群れ離脱は4〜6歳で高頻度に生起する。(10)新たに群れに加入したオスの群れ滞在期間は1年から8年とばらつきが多い。(11)オスは一生の間にいくつもの群れを渡り歩くのではなく1群か多くて2群である。これらの新しい発見から、オスの生活史を描き上げることが可能になった。
著者
大橋 幸泰 清水 有子 平岡 隆二 岸本 恵実 折井 善果 牧野 元紀
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2019年度も前年度に引き続き、世界各地に散在しているキリシタン関係史料の調査を進め、科研メンバーの研究課題に有益な成果が得られた。ポルトガルのアジュダ図書館・エヴォラ公共図書館における調査では、キリシタンが殉教者として認定されるために必要とされた情報・証言の史料や、イエズス会日本管区代表プロクラドールの関係史料を見いだした。スペインの王立アカデミー図書館における調査では、「鎖国」へ向かう時期の日本の殉教報告、教皇への書翰の作成に関する史料、ヨーロッパで日本布教をめぐる主導権争いの史料などを発見した。国内では、国立公文書館のほか、高知・長崎・大分・天草などで調査を行い、キリシタン禁制関係の史料を採集した。これにより、キリシタン禁制政策を維持する宗門改・類族改の実情を明らかにできる。ただし、年が明け新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年3月の調査が不可能になった。そのため、一部の予算を2020年度に繰り越し、調査予定を繰り延べた。一方、2019年度で特筆するべき点は、6月22日にシンポジウム「近世東アジアにおけるキリシタンの受容と弾圧」を早稲田大学で開催したことである。清水有子「日本におけるキリシタン禁令の成立過程―正親町天皇の永禄8年京都追放令を中心に―」、マルタン・ノゲラ・ラモス「失われたキリシタン民衆の声を求めて―島原天草一揆後の排耶書を中心に―」、ピエール・エマニュエル・ルー「日本から中国までの禁教―清代の絵踏を中心に―」、牧野元紀「近世ベトナムにおけるキリシタンの受容と弾圧」の4本の報告と、三野行徳「支配・統治の仕組みとしてのキリシタン禁制・弾圧を考える」の1本のコメントを用意し、近世東アジアのキリシタンをめぐる対応について、共通点・差異点を議論した。50人以上の参加者を得て、有意義な討論ができたと思う。
著者
倉林 敦 太田 英利 田辺 秀之 森 哲 米澤 隆弘 松田 洋一
出版者
長浜バイオ大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、ヘビからカエルに水平伝播したLINEレトロトランスポゾン(ここではTE-X表記)について、(1)水平伝播時期と地域の解明、(2)水平伝播遺伝子の視覚化、(3)爬虫類・両生類以外のマダガスカル産脊椎動物にもTE-Xの水平伝播が生じているかの解明、(4)水平伝播を媒介した寄生虫・ウィルスの探索、(5)南アジア原産のブラーミニメクラヘビが、マダガスカルのヘビタイプのTE-Xを持っている理由の解明を目的としている。本年度は、(1)分岐年代推定と水平伝播発生地域の推定を行った。(2)シマヘビと、ネガティブコントロールのツメガエルに対して染色体FISHを行なったところ、前者では強いシグナルが出たが、後者ではシグナルが得られなかった。これにより、FISHによる染色体上のTE-X検出系が確立できた。(4)蛇の体組織からウィルス核酸抽出方の確立を試みた。現在までに行なった実験系では、ウィルス核酸よりも細菌由来核酸の出現率の方が高かった。(5)バングラデシュとスリランカにおいて、現地共同研究者により、メクラヘビの採取が進んでいる。現時点で、バングラデシュでは30個体、スリランカでは19個体のサンプルが得られている。さらに、インドでは、30個体以上のメクラヘビが収集され、そのうち1個体がブラーミニメクラヘビであったが、残りは別種のヘビであった。そのうち1種は、異種間交雑起源のブラーミニメクラヘビの父方系統に属する種である可能性が高いことが分かった。さらに、インドのブラーミニメクラヘビについては、Hi-Seq NGS によりシークエンスが行われ、130 Gbp のアウトプットが得られた。また沖縄産個体について、MinION NGSによるシークエンスを行い、40 Gbpのアウトプットを得た。南アジアにマダガスカルヘビタイプのTE-Xを運んだベクター蛇の可能性が高いスナヘビが収集できた。
著者
畑 恵子 渡部 奈々 近田 亮平 松久 玲子 尾尻 希和 磯田 沙織
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では文化的同質性が高いにもかかわらず、LGBTの法的権利保障において異なったレベルにあるラテンアメリカ主要6カ国を対象とし、地域横断的な比較分析を行う。政党、カトリック教会・宗教組織、市民組織・当事者団体、ジェンダー・セクシュアリティ研究者等をこの問題に関わる主要なアクターと捉えて、資料調査・聞き取り調査を通して、単なる個別研究の寄せ集めとならないよう配慮しながら、ラテンアメリカ諸国に共通する促進/阻害要因と各国固有の要因を析出する。その成果は積極的な発信に努め、学術的貢献にとどまらず、多様性と寛容さの保障を求められている日本社会への提言へとつなげる。
著者
岩城 卓二 平岡 隆二 東野 将伸 鎌谷 かおる 久留島 浩 武井 弘一 小林 准士 瀬戸口 明久
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、石見銀山附幕領では銀山・銅山・鉄山の三つを結節点に、幕領内の農村・山村・海村などが有機的に連関する広域的な「幕領社会」が形成されていたという視点から、とくに研究が手薄な銅山・鉄山の支配・社会構造の解明を通じて、非農業世界からみた「幕領社会」論の構築をめざすものである。具体的課題は、銅山師堀家文書の研究、鉄山の研究、幕領村の研究、鉱山の開発・操業技術の科学史的位置付けと、操業にともなう自然環境変化の研究である。また、研究者と地域住民が一つの史料群を囲んで地域の歴史を考え、地域住民が主体となった文化財保存・活用の場を創造する。
著者
黒田 潤一郎 吉村 寿紘 太田 雄貴
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では,ちきゅうNGHP-02航海にてベンガル湾西部の大陸斜面で掘削・回収されたコアに挟在する火山灰層の地質学的,地球化学的検討を行ってその火山灰層の特定を行い,その前後での気候変動について検討した.浮遊性有孔虫の酸素同位体から,火山灰層の年代がおよそ7万年~7万4000年前であることが判明し,火山灰層から分離した火山ガラスの主要元素,微量元素組成,およびSr, Nd, Pb同位体分析から,この火山灰層がインドネシア・スマトラ島で約7万年前に噴火したトバ火山の新期噴火のテフラであることが判明した.このテフラの直上直下の層準からアルケノンを抽出し古水温を測定して古環境変動を検討した.
著者
熊木 俊朗 大貫 静夫 佐藤 宏之 設楽 博己 國木田 大 夏木 大吾 福田 正宏 笹田 朋孝 佐野 雄三 守屋 豊人 山田 哲 中村 雄紀 守屋 亮
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

擦文文化期における地域間交流や社会変化の様相を解明するため、北見市大島2遺跡にて擦文文化の竪穴住居跡の発掘調査を実施した。大島2遺跡は標高の高い尾根上というやや特異な環境下にあり、低地や砂丘上にある他の集落とは異なる性格を有することが予想されたが、発掘調査の結果、海獣狩猟や動物儀礼、住居の廃絶儀礼、建築木材の選択、木製品の様相などに、オホーツク文化やトビニタイ文化との関連を思わせるような特徴が認められることが明らかになった。
著者
田邊 靖博 赤津 隆 宮内 博之
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

実用衝撃負荷速度域において、建物が衝突による衝撃負荷を受けることを想定した研究を行い、繊維の荷重保持力(強度×断面積の大きな繊維)が大きいほど耐衝撃抵抗性が高いこと、マトリックスが延性であるほど破片が大きくなること、破壊靱性値が大きいほど欠損体積が小さくなること、を明らかにした。さらに、繊維の機械的特性によっても破壊現象が大きく変わることを明らかにした。高強度コンクリート、繊維とモルタルの密着性制御、ならびに高強度繊維を組み合わせることで、飛翔体の衝突で材料中に大きな欠損が生じさせない、あるいは、飛翔体の運動エネルギー吸収能が高い、新たな繊維強化モルタルあるいはセメントの作製に有効な設計指針を明らかにした。
著者
中村 徹 林 一六 田村 憲司 上條 隆志 荒木 眞之
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

ユーラシア大陸の北緯50度前後を、東西8,000キロに及ぶ大草原(ステップ)のベルトがある。このステップを平成15年から平成18年に生態調査した。調査項目は1)植物相調査、2)植物社会学的植生調査、3)ワク法による種組成と現存量の調査、4)土壌断面調査である。この結果,次のような新たな知見が得られた。1)植物相調査では、カザフスタン・モンゴル国境を境に、西側と東側とで植物相が大いに異なること、さらに、モンゴル・中国内蒙古と日本とを比較すると、草原では植物相が大きく異なるのに対し、湿地では類似している、ことが明らかになった。2)植物社会学的植生調査により、やはり、アルタイ・天山両山脈を境に、種組成に基づいた群落が大きく異なることが明らかになった。また、降水量などの気候条件と、人為の種類と強度によっても群落が異なる。3)ワク法による調査の結果、耕作などの放棄後の遷移系列を類推することができた。また、放棄後10年前後で種多様性が最大になること、および現存量は場所によって大きく異なり、450-1000kg/haの炭素が蓄積されていることなどが判明した。4)土壌断面調査では、各国数カ所ずつの土壌断面を作成した結果、やはり西側と東側とでステップの土壌が異なることが明らかになった。西側では、やや降水量が多いこともあり、色の黒いチェルノーゼムが主体であり、東側では色が薄く、カスタノーゼムが主体である。以上を総括すると、カザフスタン・モンゴル国境付近のアルタイ・天山両山脈を境界に、東と西とでは、植物相、植物群落、土壌が大きく異なる。この原因として、1)標高の高い山脈を植物が乗り越えられず、種の交流が少ないこと、2)東側は降水量がやや少なく乾燥に傾いているが、西側は逆に降水量がやや多いこと、3)人為の種類も、東側は放牧が中心であるのに対し、西側では耕作が主体であること、などがあげられる。
著者
尾崎 まみこ 針山 孝彦 永田 仁史 綾部 早穂 金山 尚裕 小早川 達 大坪 庸介
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-07-18

「赤ちゃんの匂いはいい匂い」とは、経験的によくいわれてきたが、これまで科学的に証明されたことはなかった。私たちは生後、数時間から数日の20名の新生児の頭部からストレスフリーで非侵襲な方法で採集し、そのうち19名の匂いを個別に分析した。19名のうち16名の匂いは相互によく似た成分構成を示し、残りの4名の匂いは、1,2の成分の含有量が他と異なっていた。この結果から、新生児の頭部の匂いには、“標準的な”化学成分構成が存在することが示唆された。化学分析結果をもとに、含有量の上位を占める20成分を使って19名の匂いを再現する調香品をそれぞれ作成した。それらの調香品の匂いについて、20名の学生(男女10名ずつ)から、匂いに関連する50のタームへの当てはまり度を回答する心理学的感覚評価の結果を得た。この回答のスコアに対する因子分析を行うため、スクリープロットから妥当と考えられる3因子解を求めた。得られた第1、第2、第3因子は、それぞれ、「快い情動を引き起こす匂い」に関与する因子、「快い質の匂い」に関与する因子、「不快な情動を引き起こす匂い」に関与する因子であり、寄与率は順に0.32、0.13、0.11であった。ちなみに「不快な質の匂い」に関係の深い13タームはいずれも極めて低いスコアしか獲得していなかったので、あらかじめ因子分析の対象から除外した。このように、本研究から、化学―心理学的な根拠を示すことにより、「赤ちゃんの匂いは快い情動を引き起こす匂いである」ことを、世界で初めて証明することができた。最後に、学生による調香品の匂いの評価と父母などによる本物の赤ちゃんの匂いの評価を同じ感覚評価テストで比較したところ、およそ矛盾の無い結果が得られた。