著者
浦川 聖太郎
出版者
特定非営利活動法人日本スペースガード協会(スペースガード研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、口径8.2mのすばる望遠鏡に導入された新広視野カメラHyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム、HSC)を用いて、地球接近小惑星・ハンガリア領域小惑星・メインベルト小惑星のサイズ分布を求め、小惑星が受けた軌道進化や衝突機構を観測的に明らかにすることを目的としている。また、E-beltモデルに対する観測的な制約を与え、後期重爆撃期における小惑星サイズ分布の解明に迫る。平成29年度までにデータ解析環境の整備、HSC-pipelineを用いた画像解析を行なった。また、取得画像から小惑星を自動的に検出し位置測定と測光を行うするプログラムの開発を行なった。HSCは104枚のCCDチップからなるため、扱うデータ容量が膨大となり、プログラム実行にも時間がかかる問題がある。これを解決するために、プログラムの一部をCythonで記載することで効率化を行なった。一方で、ノイズを誤検出することや写りの淡い小惑星を自動検出できない問題点があった。平成30年度は、これらの問題を解決するために検出方法を一から見直し、取得画像数枚からマスク画像を作り、そのマスク画像を用いて恒星を取り除く処理の検討を行なった。この画像処理には、本研究課題と並行して行なっている木曽観測所Tomo-e Gozenカメラを用いた地球接近天体検出で得た知見が役になった。さらに、自動検出で見逃したものの人間の目には認識できるような非常に淡い小惑星を確認するためにGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を独自に開発することに取り組んだ。
著者
岡田 正則
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

第一に、civil概念について、それが近代国民国家の形成に理念的な基礎を提供する一方で、国家の構成員の法関係を非政治化・私化するという機能および隣国に対する国民国家形成を阻害する機能を果たしていたことを解明した。第二に、法継受について、translation studiesの視点を用いて、法関係のグローバル化という脈絡の中で法継受を分析する際の方法論的な課題を示した。第三に、日本の行政救済制度について、裁判所の機能不全の歴史的原因を行政権の出先機関というその出自および戦後改革の歪みにあることを示し、今後の改革の課題を考察した。
著者
小野 米一 原 卓志 菅 泰雄 仙波 光明 平井 松午
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

北海道には、室町期ごろから和人が定住し始め、江戸期を通して松前藩が置かれた。しかし、本格的な北海道開拓が進められるのは、明治以後である。北海道への移住者は東北地方出身者が多かったが、四国地方からの移住者も意外に多く、移住者全体の約8%を占める。本研究の研究者5名のうち4名(小野・仙波・平井・原)が徳島県に住んでおり、本研究では徳島県から北海道への移住者に限定して研究を進めた。対象地域が北海道であるため、北海道在住の研究者1名(菅)に参加してもらった。北海道内各地に徳島県出身関係者が住んでいるが、本研究では、北海道余市郡仁木町、旭川市永山、静内郡静内町、中川郡本別町、などで言語調査を行った。いずれも、徳島県からまとまった数の移住者が入植し、定着した地域である。とは言え、移住後100年以上(静内では130年ほど)経て、今は年輩の人でも2世はまれで、ほとんどが3世・4世である。1世によって持ち込まれたはずの徳島方言は相当に影を薄くし、いわば北海道方言が成立してきている。それでも"徳島方言"はそれなりに尾を引いている面もある。北海道に渡った徳島方言と対比するために、主として吉野川沿いの地域を中心に、地元の徳島方言を調査した。また、やや古い徳島方言の姿を知るために、文献による調査を試みた。その結果、たとえば、北海道仁木町には120年余を経過した今日でも3世には明らかに徳島方言の名残が認められ、4世になるとそれが希薄になる。旭川市永山では屯田入植者の3割近くを徳島県出身者が占めたものの3世への名残は仁木町より薄く、4世はいわゆる北海道方言と見なされることばになっている。徳島県から北海道への移住者とその後の動きについては、かなり具体的に把握することができた。
著者
村上 尚 宮本 忠幸 石村 和敬 桑島 正道 田中 敏博 年森 清隆
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

Juvenile Visceral Steatosis(JVS)mouseにはカルニチン輸送担体の活性がない(BBRC223:283,1996)。即ち、ヒトのprimary carnitine deficiencyのanimal modelである。このマウスのオスでは妊よう性の低下があるので、その原因を検索した。研究実績の概要は以下のとおりである。1.原因遺伝子の同定JVSマウスは常染色体劣性の遺伝形式をもつ、単一遺伝子疾患である。原因遺伝子は、第11番染色体上に局在することを、1996年に報告していた。1998年にhuman OCTN2(Na^+dependent carnitine transporter)が報告されたので、mouseOCTN2をclonigし、その第6trnsmembrane domainにあるcodon352のCTG(Leu)が、JVSマウスではCGC(Arg)に変異していることを見い出した。2.精巣の分析JVSマウスのオスは生殖能が極めて悪く、その原因を知る目的で組織学的分析を行った。その結果、精巣上体の体部と尾部の間で、閉塞(6例中5例が完全、1例が不完全)し、完全閉塞の場合、尾部には精子が見られなかった。精巣上体は精子を通過させながら、成熟させていく極めて大切なorganであり、JVSマウスがヒトの閉塞性無精子症のanimal modelになりうる可能性を示した。3..カルニチン輸送に対する阻害剤の発見3-〈2,2,2-trimethylhydrazinium)propionateがカルニチン輸送に対する阻害剤であることを見い出した。将来本研究を推進させるのに有力な武器になりうると考えられた。
著者
星野 光男 藤田 尚昌 阿部 弘樹 古賀 寛尚
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

代数幾何学におけるセール双対の理論をネター多元環の場合に拡張し、この概念を用いて、ネター多元環のゴレンシュタイン性の特徴付けを与え、かつ、ゴレンシュタイン多元環上の与えられた傾斜鎖複体に対して、その準同型多元環がまたゴレンシュタイン多元環になるための必要十分条件を与えた。ここで、ネター多元環とは可換ネター環上の多元環で加群として有限生成のものを指し、ゴレンシュタイン多元環とは可換ゴレンシュタイン環上のネター多元環で導来圏における基礎環上の双対が射影的生成素を移動したものと同型になるものを指す。
著者
西谷 祐子 高杉 直
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本計画研究は,インターネット上での著作権侵害について,国際裁判管轄及び準拠法のルールのあり方について検討することを目的としていた。本研究においては,まず第一に,アメリカ合衆国及び欧州の判例及び学説の動向について研究を行った。アメリカについては,特にインターネット上での音楽ファイル交換に関するプロバイダー及びプログラム開発者の責任をめぐる連邦最高裁判決について考察した。欧州については,特にドイツの判例及び学説,欧州司法裁判所の判例,そしてスイスの学説について検討をした。また,欧州共同体については,国際裁判管轄及び外国判決の承認に関する一般的なルールである2000年ブリュッセルI規則及び2004年欧州債務名義規則について検討を進めたほか,契約債務の準拠法決定に関するローマI規則,そして契約外債務の準拠法決定に関するローマII規則の制定に向けた欧州委員会及び欧州理事会・欧州議会の動向について丹念にフォローアップした。第二に,アメリカ法律協会(ALI)及びマックス・プランク無体財産法及び競争法研究所(MPI:ミュンヘン)は,各々数年前から国際知的財産法に関する国際裁判管轄及び準拠法決定の原則案(Principles)について検討を進めており,近いうちにルールとして公表する予定である。特にALIルールは,アメリカ抵触法のアプローチを色濃く反映した柔軟なルールで,知的財産権に関する属地主義を緩和するものであり,MPIルールと比較検討することで,非常に有益な示唆を得ることができた。また,MPIミュンヘンとマックス・プランク外国私法及び国際私法研究所(MPI:ハンブルク)は,2007年2月23日に共同で国際裁判管轄に関するブリュッセルI規則及び契約準拠法に関するローマI規則提案について知的財産権の取り扱いに関する意見書を提出しており(http://www.mpipriv.de/ww/de/pub/aktuelles/content3075.htm),本計画研究を終了する直前にまとまった意見書に接し,総合的な検討を行うことが出来たのは有益であった。そのほか,研究全体と関係する論点として,国際私法固有のアプローチの検討のみならず,実質法上のソフトローの形成とそれによる紛争処理の可能性についても考察をした。
著者
中島 紀 川良 公明
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究のテーマは、褐色矮星、近赤外ディープサーベイの星状天体の解釈及びスペースイメージング赤外干渉計の感度の計算に大別される。若い褐色矮星の研究からは、褐色矮星が、星のように単独でも、伴星としても検出されることがわかった。スペースミッションは、多数の冷たい褐色矮星を検出する可能性を持つが、地上観測は、暖かい褐色矮星にしか感度をもたない。低温褐色矮星SDSS 1624+00の時間分解されたスペクトルの変動を調べることで、褐色矮星の気象の研究を行った。観測時間は、80分と短かったが僅かな変動がみられた。狭い領域のディープサーベイは、限界等級を深くしていったときどのような宇宙が見えてくるかを知る目的で、広域サーベイと相補的な役割を持つ。また、そこからスターカウントモデルを構築することで、サーベイ一般がどのような数の星や褐色矮星を見つける可能性を持つのかを予言することができる。我々が構築したスターカウントモデルは、UKIRT Wide Field Surveyの褐色矮星検出効率を予想し、Next Generation Space Telescopeがみる究極の銀河系の姿を描きだした。サーベイにより検出された天体を高い空間分解能でフォローアップするための究極の装置は、スペース干渉計である。また遠赤外線においてコンフュージョンをさけてディープサーベイを行い銀河カウントを行えるのも、スペース干渉計である。まず我々は、スペース干渉計の感度の公式を導いた。そしてその公式を現在計画されているTerrestrial Planet FinderやDarwinに応用した。そして、冷やさない干渉計が冷やした望遠鏡よりも感度が良いこと、冷やした干渉計は、宇宙論的に意味のある観測が可能でるあることを見出した。
著者
田村 隆 折茂 克哉 高山 みさと
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

東京大学駒場図書館所蔵の狩野亨吉文書の書簡に関するデータ入力を約半数終了した。手紙内容の分析により、例えば旧制一高医学部の千葉大学移管にへの関与など、これまで知られてこなかった教育分野における狩野の功績などが徐々に明らかになってきている。また、東北大学や九州大学に所蔵される狩野文庫の多くの書物は、蔵書家としての狩野亨吉の姿を証するが、一方で駒場図書館の狩野亨吉文書からは、上述のように旧制高等学校もしくは京都帝国大学の教員としての狩野亨吉の姿が浮かび上がる。狩野は入学式の祝辞等のメモも几帳面に保存しており、研究メンバーはそれぞれの問題関心にしたがって特に一高校長時代の狩野亨吉について研究を進めてきた。また、昨年度は狩野亨吉の故郷である秋田県大館市で碑文調査および博物館の方々との意見交換や資料蒐集などを行い、知見を深めた。
著者
渡部 昭男
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

高等教育費負担を巡り、日韓はともに家族負担主義、高授業料・低補助の国に分類されてきたが、転換しつつある。両国は、共通した国際人権法(A規約13条:教育への権利、漸進的無償化義務)、類似した憲法(能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利)等を法規範として有する。独自開発した「漸進的無償化プログラム(高等教育版)2017」の枠組みを用いて、経済的負担軽減及び修学支援に係る制度・行財政(国家政策・地方施策)を把握し、その意思決定過程を分析する。その上で、日韓の政策転換の特徴(共通性・相違点)を明らかにするとともに、法規範を源泉とみる「法規範⇒意思決定⇒制度・行財政=政策転換」という「問い」を検証する。
著者
片岡 清臣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

解析的線形偏微分方程式系に対しては初期値・境界値混合問題の座標不変かつ代数解析的な定式化,すなわちD-加群に対する定式化に成功した.同時に佐藤超関数解の境界に沿う解析的特異性伝播など超局所解析的性質を導くための主要道具となる正則関数解の層複体の柏原正樹・P. Schapiraの意味のマイクロ台の評価定理を得た.非線形方程式系については円周上を動き,弱い結合をもつ多数の振動子の共振の数理モデルである蔵本モデルに関する予想の証明に成功した千葉逸人の理論の数学的な不備を発見し修正に取り組んだ.特に主要なアイデアであり鍵となる線形作用素の一般化固有関数展開の意味を正確に与え証明した.
著者
中村 光宏
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

調音動作の制御と声道形態の個人差との関係を調査するために、有声歯茎側面接近音 (英語L)の調音動作の空間的・時間的動態を調査・分析した。先行研究では、英語Lは歯茎部との接触状態に基づき、舌尖調音と舌端調音に大別されるが、2種類の調音動作を時間的制御の観点から検討した研究はほとんど無い。更に、2種類の調音動作は独特の舌全体の形状を生成するが、その生成プロセスは十分に理解されていない。本調査分析では、リアルタイムMRIデータベースを使用し、歯茎部における完全閉鎖の形成過程、舌全体の形状の形成過程、舌尖・舌端調音と舌背調音との協調タイミングを観測し、調音動作の構成性の観点から考察した。3つの主要な結果が得られた。①構音時の正中矢状面画像の分析により、10名の被験者のうち8名が舌尖調音、2名が舌端調音であることが分かった。②舌尖調音による完全閉鎖形成過程は3段階に分れる。(a)正中矢状面において舌前方に「くぼみ」が形成され、(b)舌尖が歯茎部方向に伸長して完全閉鎖が実現し、舌全体は凹面状(concave)になる。そして、(c)舌背が咽頭壁方向に後退する。くぼみの形成は、母音化Lにも観察されたが、舌端調音には観察されなかった。舌尖調音に独特のくぼみの形成は、歯茎部に対する舌尖動作の接近角度(orientation angle)調整のための準備動作であるとともに、舌尖調音の開始動作でもあり、完全閉鎖形成時に、凹面の舌形状を生成すると考えられる。③音節頭/l/における協調タイミングは、舌尖・舌端調音が舌背調音に先行するパタンが観測され、音節末/l/では逆のパタンが観察された。この協調タイミングに関する結果は先行研究のものと一致する。このような結果は、調音動作の構成性には個人差が認められることを示唆する一方、それぞれの調音動作と音響的特徴との対応関係を検討する必要性を提示している。
著者
瀬野 裕美
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

感染症の伝染ダイナミクスの基本モデルとして幅広い応用の基礎になっている常微分方程式系による連続時間モデルに対して,確率過程を応用した数理モデリングの手法を用いた新しい非線形差分方程式系による数理モデルを構成し,その数学的な性質の解析を行った。さらに,自然に定義される感染個体の期待再生産数に関する基本的な結果をまとめた。
著者
岩本 美砂子
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究にあたり、比較研究の基礎となる日本の現状の先行研究が無に等しいことに直面した。そこで日本における女性の政治的リクルートの歴史と現状を把握するべく、女性国会議員およびOGへの面接調査と政党の機関誌紙の調査を行った。1980年代後半の「マドンナ・ブーム」に関して、社会党の従来の労組兼務議員のリクルートが困難になったことから、女性候補が注目された点を解明した。しかし党内で女性候補抜擢が組織的になったのではなく、マスメディアによる「土井ブーム」という風が女性候補を後押ししたのだった。が、このブームは、「女性にとって政治は遠い」という既成概念を崩し、その後の女性候補の進出に資した。また同時期、共産党・公明党も女性候補抜擢に着手していた。さらに、1999年4月の統一地方選挙を中心に、女性の進出の背景について全国調査を行った。全国レベルで、無党派を中心とした「女性を議会へ送る」市民活動が活発化している。「ネット」運動も女性議員を増やしている。既成政党については、特に公明・共産両党が女性候補擁立に熱心であるが、党内部での候補者選抜過程は外部からは捉えがたい。アメリカの選挙は候補者中心であり、政党は女性候補に対して特別の後援を行っていないが、かつてのように女性の立候補(予備選挙における選抜)を妨害することはなくなった。英国では若い女性票が政権の帰趨を制するという見通しの元、労働党が候補者選抜過程で女性比率を維持する仕組みを制度化した。ドイツでは緑の党による候補の女性を半数にする動きが、社民党を刺激し、後者の40%が女性というクウォータを実現させた。フランスでは厚い現職の壁に対して、新設の欧州議会や地域圏議会に女性が進出しており、社会党が熱心に女性候補を選抜している。2000年制定のパリテ法(男女衡平法)により、2001年統一地方選挙にむけ、各党が女性候補発掘に追われている。
著者
宮崎 謙一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本,中国,ポーランド,ドイツ,アメリカの音楽専攻大学生を対象にして,絶対音感と相対音感のテストを行った。参加者は,絶対音感テストでは5オクターブにわたって提示された60音の個々の音の音高名を答えた。相対音感テストでは,調性を確定する2つの和音に続いて提示された2つのピアノ音の音程名,または最後の音の階名を答えた。日本の参加者は,絶対音感テストのスコアは優れていたが,相対音感テストのスコアは低かった。対照的にヨーロッパとアメリカの参加者では,絶対音感を持つものはほとんどいなかったが,相対音感テストでは高いスコアを上げるものが多かった。この結果は,日本における音楽教育の問題を示唆する。
著者
沖 英次 園田 英人 佐伯 浩司
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

申請者らの研究グループはこれまでに、イヌの嗅覚応答を用いる(がん探知犬)ことで、大腸がんを感度・精度ともに高く診断可能であることを見出してきた。このように非侵襲にて採取可能な生体サンプルを用いた高感度・高精度ながん早期発見技術の確立は、まさに患者に優しいがん診断法となる。我々は、がんの匂いを利用して尿1滴でのがん検査を可能としがん検診の受診率と正診率の向上、健康寿命の増進に貢献し穏やかで健やかな社会の形成に資する。がんの発生は複数のがん関連遺伝子の変化に起因することが知られている。尿中代謝物によるがん細胞の発生の検知は、当該代謝物による遺伝子変異の検知の可能性を示していると考えられる。したがって私達は、尿代謝物でのがん遺伝子変異の特定の可能性を探ってきた。バイオマーカーとしての安定性と存在量を考慮して、中程度~難揮発性成分に着目し、乳がん細胞(MCF-7)培養液から直接カラム回収することで、中~難揮発性成分を網羅的に回収し、特定の中鎖不飽和脂肪酸群が乳がん細胞に特徴的な難揮発性代謝物であることを世界で初めて見出している(特願2018-53010、論文投稿準備中)。具体的には、乳がん細胞株MCF-7培養液中より、正常線維芽細胞株KMST-6培養液中にはほとんど存在しない特徴的な2種の低揮発性化合物(がん細胞特異的脂肪酸代謝中間物である中鎖不飽和脂肪酸類)をGC-MS分析により同定した。今後はこれを利用した癌の早期発見システムの開発が可能であるのか検討する。
著者
千艘 秋男
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、室町時代前半における飛鳥井雅世の動静および和歌を中心とした文芸活動を総合的に研究するための基礎的な文献資料を整理することである。今回の研究対象は、雅世の人物像の考察と和歌資料の整理とに絞った。本研究の期間は、平成13・14年度の二年間である。平成13年度は、雅世の年譜考証の基礎資料を整備するために、南北朝・室町前期の『吉田家日次記』『教言卿記』『満済准后日記』などの日記、内裏や仙洞御所で開催された歌会の記録類を調査した。雅世の和歌作品と、公家や武家との交際、官界・歌壇での動静に関する記事とに注目し、その資料を収集・整理をして、先覚が作成した基礎文献の補足と訂正とを試みた。その結果、平成13年度の成果として、雅世の1〜25歳までの動静を対象とした記録類を収集し、考証を試みて「飛鳥井雅世年譜稿(一)」を作成することができた。平成14年度は、主に次の二つの作業に従事した。一つは、13年度の継続作業である雅縁・雅世父子の年譜考証のための基礎資料の整理である。もう一つは、家集「雅世集」と定数歌を整理し、『宋雅集』『飛鳥井雅世歌集』『雅世卿集』『飛鳥井雅世集』『入道大納言雅世卿百首』などの本文整理を行った。特に、『雅世卿集』『飛鳥井雅世集』『入道大納言雅世卿百首』の三作品は底本を決定し、それぞれ他本との校合を行い、校本を作成した。これらは、将来『飛鳥井雅世全集 本文篇』(仮称)に、雅世の詠歌(歌集)の一部として収める予定である。また、平成13・14年度の二年間に、雅縁並びに雅世の自筆および他筆懐紙・短冊・詠草、関連資料を収集することができた。これらの資料は、将来『飛鳥井雅世全集 資料篇』(仮称)に、可能な範囲で図版掲載の予定である。
著者
北 一郎 西島 壮
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

運動は脳の機能構造的変化を引き起こし、うつ病や不安障害などのストレス関連精神疾患の発症予防に貢献することが示唆されている。しかし、その脳内神経機構や有効な運動条件については依然として解明されていない。本研究では、運動の抗うつ・抗不安作用、関連脳部位に及ぼす影響及び有効な運動条件について明らかにしようとした。本研究の結果から、運動による抗うつ・抗不安作用の神経機序として、セロトニン神経系の活性化、HPA軸(CRF神経)活性の正常化、海馬神経新生の増加が考えられ、これらの脳神経系は適切な運動条件を設定することで、より効果的に変化し、抗うつ・抗不安作用をもたらすことが示唆された。
著者
友竹 浩之
出版者
飯田女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、蚕サナギの栄養価、生理活性成分および糖質分解酵素阻害活性について調べた。蚕サナギ粉末の熱水抽出物はアンギオテンシン変換酵素、糖質分解酵素、そしてラットの血糖上昇を阻害した。また、蚕サナギ粉末のリン酸緩衝液抽出物は、DPPHラジカル補足活性を示した。さらに、蚕サナギ粉末のメタノール抽出物は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用を示した。これらの結果により、蚕サナギは糖質分解酵素阻害作用およびその他の生理活性を有する新規素材となることが示唆された。
著者
森川 茂 朴 ウンシル
出版者
岡山理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome; SFTS)は、フェニュイウイルス科フレボウイルス属に分類されるマダニ媒介性のSFTSウイルス(SFTSV)による急性ウイルス感染症で、高熱、血小板減少、白血球減少、肝機能低下、出血、多臓器不全などを主徴とする。SFTSの致死率はヒトで約17%、ネコで約50%と極めて高い。ネコのSFTSには有効な特異的治療法もなく、獣医医療従事者や飼育者が発症動物から感染して発症した例も報告されている。One Health及び人獣共通感染症の観点からネコ及びヒトのSFTSの予防に寄与する。本研究ではネコに有効なSFTSワクチンを開発する。
著者
久岡 朋子 森川 吉博 北村 俊雄 小森 忠祐
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

自閉症リスク遺伝子として知られているKirrel3遺伝子の欠損マウスを作成し、その行動解析を行った結果、自閉症様の行動に加えて、多動(ADHD様行動)を伴うことを見いだした。さらにKirrel3欠損マウスにおいて、小脳や副嗅球のシナプス部の構造異常を見いだした。これらの結果から、Kirrel3遺伝子欠損による小脳や嗅覚神経回路・シナプス回路の形成異常は、ADHDを伴う自閉症様行動の発現に関与している可能性が考えられた。ADHDを伴う治療抵抗性の自閉症患者で異常となる脳領域・神経回路に関しては不明であり、本研究結果はADHDを伴う自閉症の病態解明につながる重要な知見を提供すると考えられる。