著者
馬場 存
出版者
日本音楽医療研究会
雑誌
音楽医療研究 (ISSN:18832547)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.14-26, 2011 (Released:2011-12-21)
参考文献数
29

緊迫感と自閉の強い統合失調症3 例に対し、1 ~2 週に1 回、数年にわたり個人音楽療法を施行した。既成曲の歌唱・聴取の形で音楽に没入する時期を経て緊迫感と自閉が軽減したことから(1)音楽体験への没入、(2)それが患者の好む既成曲であること、に意義が見出せた。(1)はイントラ・フェストゥム(木村)や意識野の解体(Ey H)に照合可能で、Ey H のいう急性精神病の病像に近縁の状態をもたらして自閉を緩和し、将来がわからず不安・緊張をもたらす状態に正統な解決を与える構造(Meyer LB)をなす(2)の音楽がアンテ・フェストム的意識などに基づく不安や緊張を解決して、自閉的でない心的態勢に移行させるという機序が想定された。
著者
八木 こずえ 鈴木 麻記子 坂井 美加子 北村 育子 阿保 順子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.12-23, 2008 (Released:2017-07-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本研究は、地域生活を営む初発の統合失調症患者に対して、自我強化に焦点をあてた看護面接を実施し、寛解期以降の生きにくさの本質と、看護面接の構造を明らかにすることを目的とした。対象は青年期の初発の患者3名である。面接は精神科看護経験3年以上の面接者3名が、生活体験を自我にフィードバックすることを主眼に行った。面接記録から生きにくさの本質と面接方法を質的に抽出し、カテゴリー化した。その結果、対象の生きにくさとは、【病気の本態に関連する生きにくさ】に対して【病気である自分に対する思い】と日々格闘しながら【他者との間で葛藤】し、【日常生活の制約】を強いられるという相互関係があった。またそれが、自己を確かな者と感じることを妨げており、その【不確かな自己】がさらに生きにくさを助長する構造をなしていた。面接者は迷いや限界、自分の傾向性をはじめ、患者の可能性に気づく体験をしており、最終的には【患者の鏡になる】役割を果たしていた。
著者
木村 千夏
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.253-264, 2020-10-10 (Released:2020-10-15)
参考文献数
17
被引用文献数
1

初等中等教育において情報の発信者を意識させる取り組みが行われているにもかかわらず,その教育を受けたはずの大学生の多くがインターネットニュースの発信者を意識しない.その原因の1つは,インターネットニュースの発信者を漠然と捉えている大学生が少なくないことにあるのではないかと考えた.そこで,本研究では,その可能性を想定し大学生にインターネットニュースの発信者を意識させる授業をデザインした.インターネットニュースの発信者の構成は情報の発信者の構成を反映しており類似関係にある.本授業は,大学生にこの類似関係に気づかせ,初等中等教育での情報の発信者についての学習経験から類推させて,「インターネットニュースの発信者も意識するとよい」という解を生成させようとするものである.2大学で授業実践した結果,発信者を意識させることができるよう授業デザインされていることが確認され,前述の想定を裏づける傾向も示された.
著者
孫 英英 矢守 克也 谷澤 亮也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.75-87, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
9
被引用文献数
4 4

本研究は,行政や専門家が防災・減災に関わる際の基本スタンスを問い直し,防災・減災活動における当事者の主体性の回復をはかったアクションリサーチである。研究する主体となる行政や専門家とその客体的対象となる地域住民との間に一線を画す自然科学的な研究スタンスが,行政や専門家の過度にパターナリスティックな関与と地域住民の主体性の喪失との間に見られる悪循環が生じているとの考えに立って,両者の共同的実践を中核に据えたアクションリサーチを導入した。具体的には,津波リスクがきわめて高い高知県沿岸のある地域社会において,個別避難訓練を提案し実施した。訓練結果に基づき,当事者の主体性の回復という観点において注目すべき3つの事例を取り上げて考察を行った。第1は,どのような避難訓練を行うか,その計画・立案における主体性が回復された事例,第2は,避難訓練を地域内でより活発に推進・展開するための活動において主体性が回復された事例,第3は,個別避難訓練の実施を通じて,訓練そのもの,あるいは防災・減災活動という限定された側面における狭義の主体性ではなく,こうした活動が地域社会やそこに暮らす人びとに対してもつ意味や大義を根底から問い直す点において,当事者が主体性を発揮した事例であった。
著者
入谷 信彦 滝野 吉雄 谷沢 久之
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.87, no.9, pp.1128-1131, 1967-09-25 (Released:2008-05-30)
参考文献数
11

4-Iodothymol was reduced with zinc dust in acetic acid and iodide ion produced was titrated with potassium iodate standard solution in the presence of hydrogen cyanide. By the visual titration, 20∼100 mg. of 4-iodothymol was determined using chloroform as an indicator and 2∼20 mg. was determined by the dead stop end point titration. Results obtained show that both methods are found to be enough accurate and precise for the determination. The determination had no interference by thymol and surface active agents contained in anthelminthic preparations of 4-iodothymol.
著者
武田 和樹
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.20-23, 2021-12-15

本稿では,京都大学の学習支援システム(LMS)「PandA」を快適に使うために開発した「Comfortable PandA」について紹介する.京都大学では2020年5月からオンライン授業が展開され,LMSを用いた授業や課題の提出等が行われるようになった.LMS上では履修しているすべての講義についての課題一覧を見ることができず,学生の負担になっていた.Comfortable PandAは,ブラウザの拡張機能を利用して課題の一覧を表示するなど,学生にとって便利な機能を実装した.さらに本稿では,大学と連携し本拡張機能が認定を受けたことや今後の展望についても紹介する.
著者
河合 翔
出版者
人体科学会
雑誌
人体科学 (ISSN:09182489)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.31-40, 2014-05-30 (Released:2018-03-01)

The purpose of this paper is to consider Cerebral Palsy as an experience of a body lived in the world, but not as a "lesion" that should be cure. A person with cerebral palsy can not articulate each muscle and region of his/her body, thus tonus on one part of muscle causes hyperkinesia of all part of a body. This paper uses phenomenology as a analytical frame work. This paper specifically uses the concept of "actual layer" and "potential layer" in a body defined by Merleau-Ponty. According to Merleau-Ponty, in order to make an intentional action of body actual, a body needs to make axis of the body that support it' s intentional action potential. From this point of view, potential layer stands out on the front of a body movement for cerebral palsy, while it goes down to the background of a body movement for a non-disability. The tremble and blur on a body of cerebral palsy is a the TIME gap from when a body tries to articulate its actual body like he/she raises his/her foot along with the stable course of movement. By this gap, a body try to swell out potential layer in body-space and create the Ground. The Ground supports organic synthesis in body-space that has been organized before it is articulated. It implies a body with cerebral palsy closes down toward the axis of a body and then tries to install the stable Ground in a body-space because potential layer presses a body-space.
著者
Koji HARADA Saori KANEMITSU Kohei AKIOKA Kazunari FUJITA Yasunobu NISHI Yasuho TAURA Naoki SASAKI
出版者
Japanese Society of Equine Science
雑誌
Journal of Equine Science (ISSN:13403516)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.7-12, 2022 (Released:2022-04-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1

Fifty-four slaughtered horses were classified into groups having adipose tissue in the crest of the neck with or without hemorrhage (AH and NH groups, respectively). Blood biochemical tests (Alb, TP, T-bil, GOT, GPT, LDH, T-cho, and BUN) and an epidemiological survey (age, gender, weight, origin, breed, BCS, CNS, and hoof disease) were performed. T-bil tended to be high, while the other parameters were normal. Weight, BCS, and CNS were higher in the AH group (P<0.05). GOT was lower in the AH group (P<0.05). It was suspected that the horses in the AH group had lipomatosis. It was assumed that the adipose tissue of the horses in the AH group contained damaged capillaries, and inflammation was confirmed based on evidence of macrophages and lymphocytes.
著者
小林 悠 飯田 樹里 坂田 秀勝 松林 圭二 佐藤 進一郎 生田 克哉 紀野 修一
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.740-747, 2021-10-25 (Released:2021-10-25)
参考文献数
24

E型肝炎ウイルス(HEV)はE型肝炎の原因ウイルスであり,本邦では遺伝子型3型と4型が検出されている。北海道では高病原性である4型が他地域よりも高率に検出されるため,われわれは3型と4型を迅速に鑑別可能なマルチプレックスreal-time RT-PCR法(鑑別PCR)を開発した。今回,遺伝子型およびHEV RNA濃度既知の献血者由来検体を対象に,リアルタイムPCR試薬であるQuantiTect Probe RT-PCR Kit(従来試薬)およびReliance One-step Multiplex RT-qPCR Supermix(BIO-RAD,A試薬)を用いて,鑑別PCRにおいて感度などに変化があるかを検討した。各遺伝子型のリニアダイナミックレンジは,3型に対しては同等で,4型に対してはA試薬が従来試薬よりも線形区間が10倍広範囲であった。PCR効率は,3型で109.9% vs. 108.3%,4型で89.7% vs. 97.1%であり,血漿1,000 μL使用時の検出感度は,3型で20 IU/mL vs. 19 IU/mL,4型で66 IU/mL vs. 16 IU/mLであった(いずれも従来試薬vs. A試薬)。A試薬により4型に対するPCR効率および検出感度は向上し,高病原性である4型の感染者において遺伝子型情報をより早期に提供可能であり,その後の治療に有用と考えられた。
著者
仁平 典宏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本課題の目的は、日本の市民社会組織の「ビジネスライク化」と呼ばれる変化に焦点を当てて、そのメカニズムや諸帰結を明らかにすることである。本年度は、企業や助成団体への聞き取り調査については、コロナウイルスの感染拡大のために調査を断られるなど、十分に進まなかった。その代わりに、市民社会に関する言説分析を進めた。具体的には「NPO」に関する新聞記事のコーパスを用い、計量テキスト分析を行った。ビジネスライク化の仮説では、それらの言葉の強い連関を持つ言葉群が、政治・運動的なものから、経営・事業的なものへと、経年的に変化することが想定されているが、その妥当性をDictionary-based approachとCorrelational approachを併用しつつ検証した。分析の結果、仮説通りのトレンドが見いだされた。具体的には、1990年代から2010年代後半までの間に「運動」「政治」「市民」とコード化される記事は減少したが、「経営」に関する記事の割合は変わらなかった。また経営に関連して「不正」の関係する記事の割合は増加していた。このような変化がNPOに対する人々の不信感につながっている可能性について、計量データの二次分析によって、明らかにした。その知見の一端はNPO学会のシンポジウムで報告した他、論文にまとめ、NPO学会の学会誌である『ノンプロフィット・レビュー』に査読を経て掲載されることになった。その他、前年に実施した「首都圏の市民活動団体に関する調査」の分析結果をNPO学会で報告した。さらに、東日本大震災の市民活動の経年変化に関する分析を日本社会学会で発表し、その知見が収録された共著書が出版された。オリンピックのビジネス化にボランティアが動員されるプロセスの分析を行った論文が収録された共著書も刊行された。
著者
高木 寛之
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.61-81, 2009-06-01 (Released:2019-10-10)
参考文献数
32
被引用文献数
1

ボランティアをめぐる議論は,活動者の増加や関心の高まりの一方で,受け入れ側からは活動者の確保の困難性という見解が提示されている本稿では,ボランティアをめぐる楽観論と悲観論を読み解く上で,従来とは異なるボランティアが出現しつつあることに着目し「エピソディック・ボランティア」という概念を用いて整理した.そして,社会福祉協議会設置のボランティアセンターへの聞き取りを行い,このような外部環境の変化に対して, どのように認識し対応をしているのかを明らかにし,対応の妥当性について検討した.エピソディック・ボランティアは,①文化,②組織,活動分野,活動の選択,③参加の期間と量,④受益者との関係において,従来型のボランティアとは異なると指摘されている.そして,自己実現を目的に組織への短期的な参加を好むが,個人の中では連続性を持った活動となる.このような外部環境の変化に対しての支援は,その方向性は示されていても十分に確立されているとは言い難いことが確認された.特に,ボランティアの自由意志と継続の困難性には,継続性を意識した活動支援だけでなく連続性を意識した支援が求められる.そのため,今後は単独組織を基盤にするのではなく,地域社会を基盤に複数の組織とボランティアをも巻き込んだ協創の視点による支援が必要となる.そして,社協ボランティアセンターには協創の取り組みの中核組織としての役割が期待される.
著者
山上 孝司
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.255-262, 2022-03-10 (Released:2022-04-20)
参考文献数
10

遺伝性疾患として単一遺伝子病と多因子疾患の例を取り上げ、現在における遺伝子検査の現状、今後の課題について述べた。単一遺伝子病の中の遺伝性乳がん卵巣がん症候群については、BRCA1/2遺伝子の変異を持っている場合についての対策と、必要と思われる人にはこの遺伝子の検査を勧めて行くことが今後求められる。多因子疾患における遺伝要因の解析方法であるGWASの説明と、その1つの活用法であるPRSについて説明した。今後は、日本人のゲノムを使って各疾患ごとのGWASの解析とPRSの作成を行っていくことにより、日本人特有の遺伝要因の解析が進んでいくと思われる。 多因子疾患のうちのアルツハイマー病については、今後APOE遺伝子のアレルを調べる人が増えると思われ、リスクの高い人に対する生活上の注意点について述べた。冠動脈疾患については、たとえGWASやPRSによってリスクが高いと判定されても、生活習慣を望ましくすることで発症リスクを下げられることを受診者に話す必要がある。 多因子疾患の遺伝要因を説明するためには、ゲノムの構造だけでなくエピゲノムの変化も大事である。エピゲノムの変化は運動や喫煙、ストレスなどの生活習慣要因によって起こることを受診者に理解してもらい、行動変容に結び付けてもらうことが必要である。 総合健診に従事するものとして、家族歴、GWAS、PRSなどの結果から遺伝要因が強いと思われる受診者に対しては、その疾患の早期発見につながる検査を受診することを奨励するとともに、遺伝要因が強くても生活習慣の改善によって疾病の先送りが可能であることをよく説明して、環境整備やナッジも行使して、望ましい生活習慣の実践を後押しし、遺伝子関連検査が受診者にとってよいものとなるように常に研鑽を積む必要がある。