著者
辻 正二 中村 彰治 原田 規章 坪郷 英彦 松野 浩嗣 石田 成則 高野 和良 速水 聖子 鍋山 祥子 林 寛子 高橋 征仁
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

現在の高度産業社会には、これまで人類の歴史が経験したことのない新しい時間問題が生まれている。これまで人類は、進化の中で身につけた生命的時間と人間が自ら形成した社会的時間をうまく調和させてきたが、今日のグローバル化と情報通信技術の進展によって生じたハイスピード化社会は、社会的時間を大きく変化させて、人類の時間構造に歪みを増幅させて、生命的時間に慢性的時差ボケを生みつつある。今回の時間意識の調査研究ではハイスピード化によって社会的時間の変化が生じており、これが生命的時間との間でズレを生んでいることがある程度明らかになった。調査データの分析からは、ハイスピード化が生命的時間に負の影響をもたらし、青年や高齢者に身体の不調(疲労やイライラ度や不眠や生理不順など)や社会病理の原因を生んでいることが明らかになった。
著者
角本 法子
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

造血幹細胞移植を受ける小児を対象として3DSを応用した口腔除菌プログラムを開発し適用したところ,口腔内の細菌数を減少させ,それを維持することができた。また口腔粘膜の状態にも改善が見られたことから, 3DSが患児の全身的感染予防とQOLの向上に寄与できる可能性が示された。
著者
柴田 重信 堀川 和政 工藤 崇
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

スケルトン同調のメカニズムを明らかにする目的で、本年度は薬物の噴霧装置や給餌装置を利用して、Bmall-lucのレポーターのトランスゼニックマウスに対してまず、デキサメサゾンの15分間の噴霧吸入および給餌を朝夕の12時間おき(12:12)にした。これらの対照実験としては、光照射を15分間、朝夕12時間おき(12:12)にした。これらの処置を7日間行い、Bmall-lucのレポーター発現リズムの振幅と位相を肝臓、肺で調べた。明暗環境を逆転、新しい明暗環境に慣れるのに最低7日間を有することから、上記の条件飼育を7日間とした。本実験から、視交叉上核を介した末梢時計の同調の様式と末梢時計が直接同調されたときの様式が同じか、否かがわかる。まず朝夕に刺激をおこなうスケルトン同調を行った動物ではいずれの場合でも、肝臓・肺での生物発光リズムのピークは一つであった。さらに、デキサメサゾンでは肝臓より肺に対して強力な作用をもたらす可能性が示唆された。また、餌を朝夕に与えるというスケジュールは、自由に餌をとれるというスケジュールに比較して、位相が前進する傾向が認められた。餌の同調刺激は光のそれより強力であることがわかった。また1日2回の給餌により、夜間の最初の給餌がより強力な同調因子となるために、位相が前進したものと思われる。以上の結果、(1)スケルトン同調でも末梢臓器の時計発現は一峰性である。(2)デキサメサゾンなどの副腎皮質ステロイドや給餌の同調刺激は強力である。(3)スケルトン刺激でも十分同調が可能であるので、人の体内時計の位相維持のためにも、朝夕の同調刺激を受けるようにすることを強く示唆した。
著者
梅澤 秋久
出版者
帝京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

本研究は,ステイクホルダーと教員の双方向コミュニケーションが体育授業改善およびアカウンタビリティにどのような影響を与えるのかを検討した.その結果,次のような知見が得られた.授業改善に資する要因としては,同僚性に基づく学び合いや研究者からのアドバイス,専門書による高度な知識の獲得に加え,自身の実践を省察する力量形成が挙げられる.また,教員がステイクホルダーの要望に応じる姿勢を有し,専門性を生かしたインフォームドコンセントを行うことで,ステイクホルダーとの合意調達と協働関係を構築した民主的アカウンタビリティに繋げることが可能になる.
著者
井土 愼二
出版者
愛知県立芸術大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究を通して得られたタジク語音声とウズベク語音声の分析によって、両言語の接触地域において母音音素体系の収束がおそらく起こっていること、そしてこの収束がおそらくタジク語の母音連鎖推移に干渉していることが明らかになった。
著者
岡田 美穂
出版者
福原学園九州女子大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

1.研究目的本研究は、存在場所ニ格の習得における日本語学習者の辿る発達順序で、存在場所ニ格と動作場所デ格との混同によるニ格の誤りが見られる発達過程の次には、どのような発達過程あるのかを明らかにすることを目的として、JSL環境、JFL環境の「中位レベル」の中国語を母語とする学習者を対象に調査を行った。2.研究実施計画(1)研究内容・方法文献研究によって第2言語習得としての格助詞習得研究、認知言語学の観点を取り入れた研究、国語学における格助詞研究について把握した(図書購入)。(2)調査JSL環境では福岡市の九州産業大学、JFL環境では九州大学との協定校である中国の大連外国語大学を訪問し日本語教員の協力を得て調査を実施した。また、学習者がどのような基準で格助詞を用いているかについてインタビューを行った(日中辞書購入)。(3)分析・結果調査票のデータをパソコン(購入)に入力し分析を行った(データ入力人件費、統計処理関係図書購入)。JSL、JFLの「中位レベル」に、存在場所ニ格を誤ってデ格とした誤答率と範囲限定デ格の正答率との間に正の有意な相関関係が見られたことから、学習者のニ格の習得において、存在場所ニ格と範囲限定デ格との混同によるニ格の誤りが見られる発達過程がある可能性があることが分かった。(4)研究成果の発表研究の成果は、2012年2月10日に韓国の仁川大学の「東アジア日本語・日本文化フォーラム」、同年2月18日に東京のお茶の水大学の「第二言語習得研究会関東大会」で発表した。このような研究を重ね、今後もしも格助詞の発達過程の法則性が明らかにされ、その法則性を使った格助詞教授のより効率的なアプローチが開発されれば、日本語教育者の一助になると確信する。
著者
牧口 祐也
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

魚類の心拍変動は、代謝を最適化するために外部刺激や内的変化に対応し自律神経系により高度に制御されている。数種の動物において振動や視覚刺激により、一時的に徐脈が引き起こされ心停止が起こることが報告されている。Makiguchiら(2009)によってシロザケ(Oncorhynchus keta)が産卵の瞬間、雌で7秒、雄で5秒間心停止し、これに副交感神経が関与していることが報告された。しかし、産卵の瞬間に心停止が起こる機構に関してはほとんど明らかとなっていない。本研究ではECG(Electrocardiogram)およびDT(Depth Temperature)ロガーを用いた行動観察および自律神経系アンタゴニストを用いた薬理学的実験により、シロザケの産卵の瞬間における心停止機構を明らかにする目的で実験を行った。標津川河口で捕獲されたシロザケ雌10尾の背部にECGロガー(W400-ECG:リトルレオナルド社)、腹腔内の圧力変化を調べるためにDTロガー(M190-DT:リトルレオナルド社)を挿入し、交感神経および副交感神経の薬理的遮断効果のあるソタロール(2.7mg/kg:N=3)およびアトロピン(1.2mg/kg:N=2)、さらにコントロールとしてサーモンリンガー(N=5)を投与し、産卵行動をビデオカメラで記録し観察した。産卵行動観察終了後に、産卵床を掘り起こし、放卵された卵の数を計数した。アトロピンを投与した個体以外のすべての個体で産卵の瞬間に心停止が観察され、この結果は従来の報告と同様であった。産卵の瞬間に腹腔内の圧力は産卵前後に比べて上昇していたが、投与した薬によって腹腔内の圧力は変化しなかった。また、放卵数も投与した薬によって変化しなかった。つまり、心停止は産卵の瞬間における放卵に伴った圧力変化とは関係がない可能性が示された。
著者
北村 京子
出版者
三重県立盲学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

今回は、前回の奨励研究「重度の知的障がいを併せ持つ肢体不自由児のためのワンクリック教材開発と授業実践」の次の段階として、対象児を5名に増やしカスタマイズの有効性を明らかにすると共に、ワンクリック教材の研修会を実施し教員のICT機器の活用を広げることを目的とした。対象児は、知的障がいを併せもつ肢体不自由の子どもたちである。ワンクリック教材のカスタマイズは、以下のように行い授業実践を行った。小学部4年生のKさんは、触る位置を定位置から異なる位置に変化させ、集中力を養う。中学部3年生のRさんは、扱う言葉を身近な人の名前から行動を表す言葉や色の名前などに広げ、語彙を増す。小学部5年生のCさんは、触る部分の面積を徐々に小さくし、ランダムに位置を変化させ注視力を高める。小学部4年生のMさんは、利き手の操作から反対側の手の操作や左右ランダムな手の操作へと難易度を高め、操作力を高める。小学部5年生のIさんは、新たに開発した教材「九九マスター☆」を活用し九九を暗唱できるようにする。夏期休業中に研修会を実施した。電子黒板等の機器の紹介や作成した「カスタマイズマニュアル」を使用し、カスタマイズの仕方の講義とワンクリック教材の作成演習を行った。本研究の成果は、以下の通りである。(1)対象児全員がワンクリック教材を意欲的に集中して取り組み、各自の目標を達成することができ、カスタマイズの有効性が得られた。(2)「ICT機器は敬遠されている」と予想していたが、参加人数や「機器を使ってみたかったが、使い方がわからず使えなかった」という声の多かったアンケート結果から、研修会の意義を感じた。今後の課題は、研修会を増やすことである。自分自身も学校業務を抱えているため、時間を上手く活用し、研修会を設定できるようにする。ICT機器の活用を広げ、一人でも多くの子どもたちに合わせたワンクリック教材を提供してきたい。
著者
山岸 俊男 坂上 雅道 清成 透子 高橋 伸幸 高岸 治人 品田 瑞穂
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-05-31

本研究は、人類に特有とされている高度な向社会性を、向社会行動をとることが自らの適応性の上昇をもたらす社会のしくみを作り出すことで形成され維持されているとする社会的ニッチ構築理論に基づき、一連の経済ゲーム実験、脳撮像実験、遺伝子多型分析を通して,一方では現代の人々がもつ心の文化差が、人々が集合的に作り出している社会的ニッチの違いを反映していることを示す証拠を提出すると同時に、もう一方では、現代社会に暮らす人々の向社会性のあり方の違いが、そうした違いを適応的にしている社会的ニッチの違いを反映していることを示す証拠を提供している。
著者
谷池 俊明
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

不均一系Ziegler-Natta触媒を用いたオレフィン重合の化学を完全解明すべく、TiCl_3/MgCl_2モデル触媒を主体とする実験科学と密度汎関数計算に基づく計算科学を相乗的に組み合わせた網羅的検討を行った。本研究の結果、鍵成分であるドナー化合物の活性点への作用機構を描写する「共吸着モデル」という、高性能触媒の設計指針を分子レベルで与える新規モデルの提案に成功した。
著者
吉田 正夫
出版者
岡山大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1983

1.8種類のウニ(タワシウニ、コシダカウニ、エゾバフンウニ、タコノマクラ、アカウニ、バフンウニ、ムラサキウニ、サンショウウニ)の幼生および稚ウニの飼育を試み、理学部付属臨海実験所レベルの小規模施設における稚ウニ生産技術の確立をめざした。2.タコノマクラを除き、大規模な飼育設備を持たない施設においても、数千個の稚ウニを生産できることが判明し、実験の性質を限れば、研究者にある程度安定的にウニを供給できる目途がついた。3.海水の汚染状況は各地で異なるため一概には言えないが、適当な濾過装置を用いれば幼生飼育可能な海水を得ることができる。4.幼生飼育の餌としては、珪藻Chaetoceros gracilisが最適である。5.変態前の幼生は、30リットルパンライト容器中で、1mlあたり6個体の密度で飼育した。飼育液中に繊毛虫が発生してきたら換水した。6.幼生が8腕期に達し、ウニ原基が十分に発達したら変態誘導をおこなった。予め器壁に付着珪藻を付けておいた500リットルパンライト容器中に、プラスチックの波板を組合わせて作ったコレクターを設置し、変態直前の幼生を入れると直ちに変態を開始した。7.20°Cで飼育して、変態誘導までに要した時間は、アカウニ、21日、バフンウニ、18日、ムラサキウニ、12日、サンショウウニ、9日であった。8.変態後の稚ウニは、アナアオサやモクを餌として与えて飼育し、殻径が5mm〜1cmに達したら海へ放流した。9.500lパンライト容器で生産可能な稚ウニの数は、最大1万であろう。
著者
鎌倉 哲史
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の当初の目的はオンラインゲームを用いた小学校における効果的な情報モラル教育を実践することであった。しかし昨年度までの取り組みの中で、「子ども達はネット上の追跡可能性を知らないためにネットいじめ等の問題を起こす」という研究の前提に大きな見落としがあることが判明した。具体的には、小学生の子ども達は確かに「技術的には」追跡可能性を把握していないことが多いが、ネット上でプロフィールを紹介している人が多いことを根拠として「実際上は」追跡可能であると考えている可能性が明らかとなった。そこで平成24年度は、こうした「プロフィール主義」と呼ぶべき考えがどの年齢層にどの程度広がっているのか、小・中・高・大学生各200名程度の計787名を対象とした中規模質問紙調査によって検討しだ。その結果、プロフィール主義が各学校段階において10%前後存在すること,小学生では教育的言説の伝聞が,中・高校生ではネット利用頻度が,大学生では追跡関連知識がプロフィール主義の最大の規定要因であることが示された。また、本研究で得られたプロフィールの公開率やプロフィール公開の場、プロフィールに基づく追跡可能性の推定値の平均値と分散といった単純集計データは、これまで実証的に検討されてこなかったものが多く含まれる。その点でも、単にこれまでの仮説がデータで裏付けられたという以上に、本研究領域における初めての実態調査としての資料的価値が認められると考えられる。
著者
山本 貴富喜
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本年度は,昨年度までに開発したマイクロ灌流培養デバイス内でヒト由来の小腸と肝臓,2臓器細胞の共培養を実現し,薬物動態における吸収(小腸)と代謝(肝臓)のモデル系構築の評価を行った。具体的には2つのコンパートメントからなるマイクロ細胞培養チャンバを構成し,内臓したポンプで培養液の灌流を行いつつ,小腸から肝臓へ向かう代謝経路をテストするためにカフェインとパラコートの2種類の試薬を小腸側に添加した際の肝臓の機能を,細胞形態とアルブミン産生量などから評価した。その結果,本デバイスを用いた共培養系により,化学物質の傾向摂取を想定した体内で起こりうる毒性評価を再現可能であることがわかった。
著者
田中 良明
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

現在のインターネットは通信品質が一定していないが,安定した品質が必要なことも多い.これに応える方法として差別化サービスがある.差別化サービスにおいては,品質の差に応じて料金にも差を付けることになる.本研究では,現在のインターネットトラヒックの解析を行って,その性質を明らかにした上で,料金要素の導入を行って理論を構築し,それに基づいたトラヒックの制御法やサービス提供法などの提案を行った.
著者
大久保 寛
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

地震の発生をいち早く検知するにはどのような方法が有効だろうか。本研究では,地震発生をこれまでよりも数秒早く知るための新しい地震検知技術とその検知を実現するための超高感度な地球磁場(地磁気)センシングシステムの研究開発を検討している。いわき観測点における高温超電導SQUID(HTS-SQUID)磁力計システムによる高感度地磁気観測を実施した。HTS-SQUID磁力計によって観測された地球磁場信号の波形を評価した。世界初のHTS-SQUID磁力計による野外地球磁場計測が成功している。
著者
天谷 健一
出版者
信州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

スピン三重項超伝導体Sr2RuO4において,磁場を[001]軸に垂直に印加した場合に1K以下の温度領域で上部臨界磁場直下の磁場で生じる新たな「低温高磁場超伝導相」の起源を調べるために,[001]軸に垂直に磁場を印加して精密比熱測定や一軸応力下での比熱測定を行い,比熱のとびの大きさ,潜熱の有無などを詳細に調べ,この転移の次数を確定させる予定であったが,精密な磁気トルク測定から,転移の詳細を調べることができることがわかったので,現在実験方針を変更し,磁気トルク測定を中心に調べた.得られた磁気トルク曲線を磁場で割ることにより,超伝導磁化の磁場に垂直な成分が得られる.この垂直磁化の磁場依存性を解析することにより,低温高磁場相への転移の詳細を調べた.0.5K以下の温度領域での,1.1 Tから1.3 Tにわたる超伝導混合状態から「低温高磁場超伝導相」への転移が起こる磁場近傍に,垂直磁化が磁場の上げ下げによって異なる値をとる「ヒステリシス」が見られ,さらに,増磁過程での転移磁場と減磁過程での転移磁場が異なることが明らかとなったことから,超伝導混合状態から「低温高磁場超伝導相」への転移は1次相転移の可能性が強いことがわかった.一方,上部臨界磁場での「低温高磁場超伝導相」から常伝導状態への転移については,増磁過程での転移磁場と減磁過程での転移磁場には測定の精度内で差は見られず,次数を明確にすることはできなかった.
著者
岡村 智教 上島 弘嗣 門脇 崇 森山 ゆり
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

勤務者男性約250人の上下肢血圧比(ABI)、上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)を測定した。同時に血中の直接的・間接的抗酸化ビタミンであるα-トコフェロール、葉酸、ビタミンB12、炎症反応指標であるCRP(C反応性蛋白)、喫煙や飲酒などの生活習慣を測定し、ABI、baPWVとの関連を検討した。各血液検査指標の平均値は、α-トコフェロール;38.9μmol/、葉酸;15.4nmol/L、ビタミンB12;295pmol/L、CRP(geometric mean);0.47mg/Lであった。下肢の動脈閉塞症が示唆されるABI0.9未満の者は3名に過ぎず統計学的な解析は不可能であった。baPWVは年齢によって大きな差があるため、対象者のうち50歳代で循環器疾患の既往歴がなく、ABIが正常かつCRPの上昇を伴う急性・慢性炎症を持つ者を除外した178名を解析対象とした。baPWVの平均値は1468cm/sec(標準偏差;221)であり、単変量解析では、年齢、CRP、収縮期と拡張期の血圧値、心拍数、空腹時血糖値がPWVと有意な正の関連を示し、逆に血清脂質、BMI、葉酸、ビタミンB12、α-トコフェロール、喫煙、飲酒は関連を示さなかった。線形重回帰分析で危険因子相互の関連を調整すると、年齢、血圧値(収縮期または拡張期)、心拍数、CRPのみがbaPWVと有意な正の関連を示した。共分散分析で他の危険因子を調整した場合、CRP四分位別のbaPWVは、1431、1436、1507、1508cm/secであった。baPWVの増加は大動脈の早期の動脈硬化性病変の存在を示唆していると考えられるため、CRPの測定は動脈硬化の早期発見に有用と考えられた。一方、抗酸化ビタミンはbaPWVとは関連せず、より進行した動脈硬化プラークの形成抑制等に関連している可能性がある。
著者
小西 弘江
出版者
兵庫医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

文書により研究同意を得た健常人ボランティアより毛根を20本程度採取して、total RNAを抽出した。精製後、マイクロチップ電気泳動システム(コスモアイ)を用いてRNAの分解がないことを確認後、逆転写反応とCy3標識反応を行い、試料に含まれる全てのmRNAからCy3標識されたアミノアリルaRNAを増幅・合成した。この増幅産物をDNAマイクロアレイチップをもちいて、ハイブリダイゼーションをおこない、毛根に発現する遺伝子のスクリーニングを行った。スクリーニングの結果、ケラチン17、ケラチン10、トランスグルタミナーゼ1、SPINK5等の遺伝性皮膚疾患の原因遺伝子の発現が確認された。しかし、ケラチン1など発現が確認されない遺伝性皮膚疾患関連遺伝子も存在した。文書により研究同意を得た健常人ボランティアの毛根より、total RNAを抽出し、high fidelityのポリメラーゼを用いたRT-PCRを種々の条件のもとでおこなった。その結果、翻訳領域を全て含んだケラチン17、ケラチン10、トランスグルタミナーゼ1、SPINK5のcDNAを増幅することができた。このPCR産物はシーケンスすることにより目的とする遺伝子が増幅されていることを確認した。これらのプロトコールは今後の臨床における先天性皮膚疾患の確定診断に役立てていく予定である。一連の実験により、ケラチン17、ケラチン10、トランスグルタミナーゼ1、SPINK5は毛根をもちいた遺伝子解析が確定診断に使用できることが分かった。
著者
山部 こころ
出版者
国立療養所大島青松園
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

等温遺伝子増幅法の一つであるLAMP (loop-mediated isothermal amplification)法を応用して、日和見感染菌(metallo-β-lactamase保有緑膿菌、バンコマイシン耐性腸球菌:VRE)の検査法を確立することを目的として研究を行い、以下の成果を得た。1.vanAならびにvanB遺伝子増幅のためのLAMPプライマーの設計薬剤耐性遺伝子(vanA, vanB)を標的として、LAMP反応に必要な4種類のプライマーをPrimer Explorer (Fujitsu : version 4)を用いて設計した。2.検出感度試験設計したLAMPプライマーを使用したLAMP反応によってvanAならびにvanB遺伝子の検出感度を調べた。その結果、LAMP法による両遺伝子の検出感度は既報のPCR法よりも高いことが明らかとなった(10 cells/tube)。また、遺伝子増幅に要する時間は40分であり、PCR法に比べて、大幅に検査時間を短縮できる可能性が示された。さらに、遺伝子の増幅を目視によって簡易判定できることが示された。3.特異度試験設計したプライマーの特異性はVREの臨床分離株80株と、関連細菌18種を使用して行った。この結果、LAMP法は従来のPCR法と同レベルの特異性をもつことが明かとなった。以上の結果からLAMP法をVREの検出、遺伝子型検査に臨床応用した場合、検出感度、特異性、迅速性と簡便性に優れた検査となる可能性が示された。4.LAMP法によるmetallo-β-lactamase遺伝子の増幅VIMならびにIMP遺伝子についてLAMPプライマーを設計し、遺伝子の増幅を試みた。その結果VIMについては遺伝子増幅を確認することができたが、IMPについては遺伝子が増幅しなかった。IMP遺伝子は多型性があり、プライマーの設計を再考する必要性がある。