著者
感本 広文 河村 庄造
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

自動車衝突事故は大きな社会問題となっている.事故後の車両停止位置と事故現場の状況から事故前の車両速度等を求める問題は,結果から原因を推定する逆問題である.本研究では車両衝突事故の逆解析手法を構築する事を目的としてニューラルネットワークによる車両衝突事故の逆解析を行い,以下の知見を得た.1.衝突後の車両運動の逆解析と車両衝突の逆解析を組み合わせる事により,二車両の直角側面衝突に対して車両停止位置から衝突初速度を求める逆解析を行った.その結果,実用的に良好と思われる精度で車両の衝突初速度を求める事ができた.今回は時間の都合上,直角側面衝突のみを扱ったが他の衝突形態についても逆解析を行ってニューラルネットワークによる車両衝突事故再現の再現精度と適用範囲を調査していく必要がある.2.本研究でニューラルネットワークの教師データ作成に用いた衝突後の車両運動解析は比較的詳細な車両モデルによって精度の高いシミュレーションが行われていると考えられる.一方,車両衝突解析は剛体衝突理論によるものであり,衝突前後の二車両の運動量は保存され,物理的には合理的な結果を与えるが,車両の変形形状や衝突中の車両移動等の詳細は考慮されない.したがって現段階では例えば本手法を詳細推定の第一次近似として用いる等,使用法を適切に選択すれば合理的かつ効率的な事故再現の有効な補助手段になり得る.3.本研究では剛体衝突理論ならびに車両運動シミュレーションによってニューラルネットワークの教師データを作成したが,他の手法あるいは実際の事故データによって,系統的で信頼性の高い教師データが利用できれば,本研究で述べた逆解析の枠組みは同様の手法で適用する事ができる.
著者
藤野 陽三 SONG Myung-Kwan SONG MYUNG-KWAN
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究では,超高速Maglev列車・ガイドウェイ相互作用を考慮した新しい完全3次元有限要素解析モデルを提案し,単径間単純支持PC Box girder橋梁に対して数値例題解析を行い,考察して,次のような結論を得た.1)本解析システムは,3次元ガイドウェイ構造物の模型化,入力及びコンピューターによる計算において,多くの時間を必要とするが,詳細な動的挙動分析が可能である.NFSシェル要素を使用して,模型化することで,ガイドウェイの側壁はりと,下部構造物との連結部に対する効率的な模型化が可能になり,ガイドウェイ構造物を構成する具体的な構造要素等の動的挙動に対する正確な有限要素解析が可能になった.2)既存の3次元皇族鉄道橋梁・列車相互作用解析方法においては,時間領域での橋梁と列車間の相互作用力を考慮した解析が,反復解析なしで行うことが可能となった.3)単純支持PC Box girder橋梁の解析結果から,移動荷重としてのみ扱うによる解析結果と超高速Maglev列車・ガイドウェイの相互作用を考慮した解析結果は,有意な差があることが示された.今後,超高速Maglev列車のガイドウェイ構造物の架設時に,本研究で開発された有限要素解析システムを適用すれば,架設する橋梁の動的挙動の特性,把握,使用性,及び安全性などの分析,疲労寿命の分析などを遂行することができる有力なシステムと考えられる。
著者
田辺 誠 小宮 聖司
出版者
神奈川工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

地震時に鉄道車両が軌道構造上を高速走行すると、車両と軌道構造間で激しい連成振動・衝撃現象が生じる。本研究では、地震時の高速走行車両と軌道構造間の連成振動・衝撃現象を、有限要素法とMultibody Dynamicsを用いて数値的に解くためのシンプルで効果的な力学モデルと数値計算法が提案される。具体的には、地震時の車体、台車、輪軸間の衝撃現象を考慮した車両の運動方程式、地震時の繰り返し荷重によってひずみ-応力関係が履歴依存となる軌道構造の力学モデル、および高速走行車輪のレール上での飛び上がり、接触衝撃や脱輪の現象を表現する車輪とレール間の接触衝撃の力学モデル等が明らかにされ、地震時での軌道上の高速走行解析で必要となる,大規模な車両と軌道構造の非線形運動方程式を効果的に解くための数値計算法が開発された。また本研究で得られた力学モデルと、連結車両と軌道構造の非線形運動方程式を効果的に解くための数値計算法にもとづき、地震時の高速走行連結車両と軌道構造間の連成振動・衝撃解析のシミュレーションプログラムが開発され、実際の地震波を入力して、高速走行連結車両と軌道構造間の連成振動・衝撃解析を行い、与える地震波や走行速度によって生じる、車輪のレール上の飛び上がり、接触衝撃、脱輪や、軌道構造損傷の発生・発展のメカニズムが数値的に解明された。
著者
近森 高明
出版者
日本女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では、1920年代東京における地下鉄の導入過程について、テクノロジーに内在化される論理と都市の多重的リアリティとの接合という観点から考察した。(1)早川徳次の構想が高速鉄道網の策定と結びつく経緯、(2)路面電車の導入過程との比較、(3)デパートとの連携と地下鉄ストアの設立、という三点の検討をつうじて、統計的都市のリアリティに準拠する一連の知と想像力が地下鉄の構想と連接し、新たな都市的現実が生み出されてゆく動態を照らしだした。
著者
宮本 昌幸 高原 英明
出版者
明星大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

昨年度に引き続き以下を行った。1.資料調査・データベースの構築 2.聞き取り調査 新幹線の技術開発にあたった当事者、関係者に5分野のインタビューを行い、証言記録として整理した。3.データ分析 聞き取り調査の結果と資料調査の結果について、整合性をとるための検証作業を行い、新幹線を完成させるために必要であった個々の要素技術を分析し整理した。最終年度なので以上得られた成果をまとめて以下の目次の報告書(300頁)を70部作成し、関係箇所に配布した。1.はじめに2.研究の目的3.研究の方法4.東海道新幹線の経緯4.1東海道新幹線以前の技術動向4.2東海道新幹線計画の具体化4.3東海道新幹線の着工から完成まで5.東海道新幹線の技術系譜5.1計画5.2軌道5.3分岐器5.4土木5.5車両5.6電力5.7集電5.8信号5.9その他5.10まとめ6.聞き取り調査記録6.1全体・車両:田中眞一氏6.2軌道:渡辺偕年氏6.3車両:石澤應彦氏6.4信号:遊佐 滉氏6.5電力:三浦梓氏6.6集電:織田修氏・滝澤伸一氏6.7土木:仁杉 巌氏6.8分岐器:佐藤泰生氏7.日本の技術開発7.1技術者に望まれること7.2世界との関連7.3現場の技術力の重要性7.4他分野技術の応用8.あとがき参考文献、新幹線関連雑誌記事調査リスト
著者
森本 裕二 MARSOLEK Ingo
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

人工呼吸に特化している医療法人井上病院におけるリスクマネージメントの現況の人間工学的分析を行った。トップダウン式の管理方法ではなく、ボトムアップ方式による安全管理が行われているかどうかを検討した。スタッフレベルによる勤務交代ごとの人工呼吸器チェックリストによる確認の徹底、インシデント・アクシデント発生時の速やかなレポートとその提出頻度を調査した。チェックリストマニュアルに従った点検は守られており、リスクマネージメント会議における、インシデント・アクシデントレポートの提出数も20-30/月と、約60床の人工呼吸器病棟からの提出頻度としては高いものと考えられた。また、インシデント・アクシデントレポートの情報も会議および院内LANにより情報開示されていた。人工呼吸関連肺炎を予防するための、気管吸引マニュアルの整備、積極的監視培養(active surveillance culture)がスタッフレベルで実施されていた。標準感染予防策(standard precaution)の徹底は医師・看護師のみならず患者介護に関与する看護助手にも浸透していた。業務プロセスの改善に関しては業務改善委員会を通じて、温度板の大幅な改訂が行われ、看護師の記録記載業務の効率化が図られると同時に、物品請求業務と連動し、請求漏れの防止効果も見られた。この温度板改訂も委員会で作成したプロトタイプを現場の病棟スタッフが実際に試用し、意見を委員会にフィードバックし、改訂を重ねるボトムアップ方式が取られていた。MRSA・多剤耐性緑膿菌の保菌患者は3年前に比べ減少していた。抗生物質の使用量も減少しており、ボトムアップ方式の感染管理が効果を挙げていると考えられた。北海道大学病院においては麻酔科による術前評価外来でのプロセス分析を施行した。外科系病棟から術前外来への患者・資料の流れは必ずしも効率的とは言えず、時間分析において不要な待ち時間が多いことが判明した。今後、北海道大学病院での改善材料となるものと思われた。
著者
丸山 喜久
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,人工的に盛土・切土された改変地(人工改変地形)が地震動強さやそれに伴う構造物被害に与える影響を定量的に評価することを目的としている.2007年に発生した新潟県中越沖地震で被害を受けた新潟県柏崎市を対象に,空撮画像を用いた写真測量を行い地震前後の数値表層モデルを作成するなどの検討を行った.さらに,1995年兵庫県南部地震の際に多大な被害を受けた兵庫県西宮市の上水道管被害に関しても同様の検討を行い,人工改変地形と地震被害の関係性を検討した.
著者
原 美弥子 林 陸郎 鈴木 牧彦 飯田 苗恵 小林 万里子
出版者
群馬県立県民健康科学大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は1)在宅心臓病患者を対象に気功(採気体操)・太極拳による運動プログラム介入の安全性および有効性を検証する、2)地域支援型心臓リハビリテーション展開の基盤として運動継続の場を地域に設定することを目的とした。目的1)では調査研究機関の前橋赤十字病院研究倫理委員会において研究許可を得て、調査を開始したところである。研究対象者は急性心筋梗塞で、入院期間に不整脈等の合併症がなく200m歩行負荷を終了した患者を選定基準とした。退院後12週間の介入前後に心循環応答、ホルター24時間心電図による自律神経活動、包括的健康度(健康関連QOL尺度:SF-36)等を評価する。平成21年5月現在、研究協力者1名(68歳、男性)を調査介入中である。今後の研究継続により研究参加数を増やし、非監視型心臓リハビリテーションとして本研究運動プロブラムの有用性を明らかにしていく。目的2)では群馬県立県民健康大学および前橋市商工会議所との共同企画事業の一環として平成19年より地域住民を対象に「気功・太極拳教室」を開始した。平成20年は12回開催し、その教室卒業者を母体に地域住民が主体的に気功・太極拳を行う場を地域の自治会館内に設定し、グループ活動(1回90分/週)を開始した(平成20年7月発足)。その中で研究協力者16名に採気体操ビデオ(DVD)を配布し自宅での12週間継続状況を調査した。研究協力者は平均年齢64.9歳、男2名、女14名、服薬加療中は8名(高血圧・心臓病・糖尿病・高脂血症・メニエール病)、運動習慣ある5名、運動習慣ない11名であった。グループ活動中断者2名(腰痛悪化、仕事の都合)を除く参加者14名の体操実施は84日に対して平均36.4日実施率43%で、100%、98%実施者が各1名だった。今後は実施率の低い者に対する認知行動科学的介入方法を検討する必要がある。
著者
藤目 ゆき 大越 愛子 南田 みどり 古沢 希代子 今岡 良子 津田 守 深尾 葉子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

四カ年を通して、北はモンゴルから南は東ティモールにいたる北東及び東南アジアの全域を射程として、現代女性史に関する調査・研究を実施した。日本国内はもとよりモンゴル、中国(大陸)、台湾、韓国、ベトナム、カンボジア、タイ、ビルマ、フィリピン、インドネシア、東ティモールにおいてフィールドワークを行い、資料を収集した。軍事主義が女性に与えて影響を明らかにするための研究計画に基づいて、戦争・軍事政権・外国軍隊の駐留のインパクトを調査した。第一に朝鮮戦争・ベトナム戦争、またベトナムとカンボジアの紛争、カンボジア内戦・フィリピン内戦といった戦争下における女性の経験、第二にタイ・ビルマ・インドネシア・台湾などの軍事政権が女性に与えた影響、第三に駐韓米軍・在日米軍・米比一時駐留協定・モンゴルにおけるPKO訓練基地をめぐる地域女性史に焦点をあてた。これらの調査を通して、戦争・軍事政権・外国軍隊の駐留といった状況が女性に対する性暴力を構造化させ、人身売買・性的搾取構造を確立させていった過程を明らかにした。また、このような軍事主義的・暴力的構造に対してアジアの女性たちがんなる受動的な被害者であったのではなく、果敢に抵抗し、人権と平和が尊重される秩序を構築するために力を発揮したことをも明らかにした。このような研究成果を発表するために研究代表者・研究分担者はそれぞれに機会あるごとに学会における発表、学術誌への投稿、図書の刊行などに取り組み、また研究組織として『アジア現代女性史』全十巻の刊行に取り組むとともに、年報『アジア現代女性史』を日本語版・英語版で創刊し、それぞれ四号まで発行した。
著者
高槻 成紀 三浦 慎吾 玉手 英利
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

金華山では1966年以降初期は断続的に、最近10数年は毎年ニホンジカの個体数調査がおこなわれている。戦後減少していた個体数は1960年代までには500頭前後にまで回復し、安定状態にあったが、1984年に厳冬の影響で約半数が死亡した。これは密度非依存的な減少であるが、しかい半数は残ったので爆発崩壊型の変動パターンとも違う。1997年にも大量死亡が起きたが、このときは厳冬ではなかった。現一在は500頭前後で再び安定している。また一部の人慣れした集団は過去15年間、完全な個体識別により、全個体の年齢と母子関係がわかり、この間に死亡した個体の年齢も明らかになった。また全個体は原則として毎年春と秋に体重、外部計測などをおこなっている。またほとんどの個体は採血をすることによりDNA情報も確保されている。これらをもとに、いくつかの解析をおこなった。食性はイネ科に依存的で、最近ではシバへの依存度が高くなっている。全体に栄養不足であり体重は本土個体に比較して30-40%も少なく、骨格も小型化している。オスは5,6歳まで成長し、このうち20%がナワバリをもった。優位ではあるがナワバリをもてないのが10%、残りの70%は劣位であった。ナワバリオスは交尾の67%を独占した。メスは初産が4歳までずれこみ(通常は2歳)、60%は4歳までに死亡した。出産はほぼ隔年で妊娠率は50%であった(健康な集団では80%以上)。育児年の夏は体重が増加できなかった。父親が特定できた子の父親は交尾回数と対応して、半数以上がナワバリオス約1割が優位オスであった。遺伝子頻度の変動はおおむね機会的であり、選択は働いていないようである。
著者
阪東 恭子 BRAVO SUAREZ Juan Jose
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

平成18年度は、分子状酸素を利用した選択酸化反応に高い活性を示す担持Au触媒に関して、(1)プロピレン(PE)選択酸化によるプロピレンオキシド(PO)合成に高い活性を示すことが分かったAu-Ba/Si-TUD(メソポーラスアモルファスチタノシリケート担持Ba添加Au触媒)について、in-situ UV, XAFSを用いた反応速度論的解析を行い、反応機構を解明するとともに、(2)平成17年度に開発した新規プロパン選択酸化反応用触媒の更なる高性能化の検討を行った。(1)水素(H_2)と酸素(O_2)を用いたPEの選択酸化によるPO合成反応に高い活性を示すAu-Ba/Si-TUDにおいて、反応条件下でUVを測定すると、チタンサイト上の過酸化物(Ti-OOH)に帰属させる吸収が見られることをH17に見いだしているが、この吸着種が本当に反応中間体であるかどうか確かめるため、PE存在下と、PEなしの水素/酸素のみの条件下でのin-situ UV, XAFS測定を行い検討した。その結果、UVより、Ti-OOH種はH_2+O_2反応後PEの導入により速やかに反応し、消費されること、XAFSにより見られる4配位構造に帰属されるプリエッジピークの反応初期の減少速度から推定される反応速度が、PO合成の見かけの反応速度にほぼ等しいことから、Ti-OOH種は反応中間体であり、しかも、Ti-OOHとPEの反応によるPO生成過程が律速段階であることが分かった。(2)水素(H_2)と酸素(O_2)を用いた、プロパンの選択酸化についてさらに検討を行った結果、担体の種類によって生成物選択性が大きく変化することを見いだした。しかも、それらの反応が200℃以下の低温で効率よく進行することをさせることが可能であることを見いだし、より低環境負荷型の新しい選択酸化反応プロセス構築への知見を得ることができた。
著者
黒川 勲
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

交付申請書の「研究の目的・研究計画」に対応した研究実績の概要は以下の通りである。1.ホッブスの物体論とスピノザのコナトゥス論との比較を通して,コナトゥスに関してホッブスがもっぱら位置の移動としての運動の意義を見いだすのに対して,スピノザはものの本質として包括的・有機的に運動を説明する方向性が見いだせる。2.デカルトの物体的世界とスピノザの物体的世界の構成に関する比較を通して,デカルトの物体論は物体の本質を不完全性のもとに位置づける伝統的な把握であるが,スピノザの物体論は延長に無限性・完全性を認める特徴的なものであることが明らかになった。3.スピノザのコナトゥス論の中世哲学との連関の検証については,関連する文献・先行研究の資料収集に努めるとともに,『Suarez Opera Omnia』の物体論・運動論及びヘールボールド『Meletemata philosophica』の著作における「原因性」・「実体性」に関する該当箇所の翻訳を試みた。4.スピノザのコナトゥス論及び物体的世界の構成に基づき,スピノザ哲学の頂点である「最高善」・「第三種の認識」について検証を行った。すなわち,最高善とは「コナトゥスの自覚化」において見いだされるものであり,第三種の認識は人間存在全体の統合的本質である「コナトゥスの認識」に他ならないのことが明らかになった。
著者
黒川 勲
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

交付申請書の「研究の目的・研究計画」に対応した研究実績の概要は以下の通りである。1.ホッブスの物体論とスピノザの物体論との比較,及びコナトゥスの意義の抽出については,ホッブスの物体論の精査と文献・先行研究の資料収集に努め,一方スピノザ哲学の成立史に関係する文献・先行研究を網羅的に収集した。コナトゥスに関してホッブスがもっぱら位置の移動としての運動の意義を見いだすのに対して,スピノザはものの本質として包括的・有機的に運動を説明する方向性が見いだせる。2.デカルトの物体的世界とスピノザの物体的世界の構成に関する比較,及びコナトゥスの位置付けについては,その結果,デカルトの物体論は物体の本質を不完全性のもとに位置づける伝統的な把握であるが,スピノザの物体論は延長に無限性・実体性を認める特徴的なものであることが明らかになった。3.スピノザの物体論の中世哲学との連関の検証については,関連する文献・先行研究の資料収集に努めるとともに,スアレス『Disputationes Metaphysicae』及びヘールボールド『Meletemata philosophica』の著作における「完全性」・「無限性」の該当箇所の翻訳を行った。4.スピノザの物体論の核心は,無限性を中心とする特徴的な神理解にあり,その根幹は実体性であることが明らかになった。
著者
荻野 弘之 大橋 容一郎 田中 裕 渡部 清 勝西 良典 谷口 薫
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

過去4年間の研究を集約して以下のようなまとめを得た。(1)西洋古代哲学の領域では、実践的推論の結論を字際の行為に媒介する「同意」の概念から派生した「意志」に相当する「われわれのうちにあるもの(如意)」(epi hemin)に関して、後期ストア派、特にエビクテトスとマルクス・アウレリウスにおける展開が跡づけられた。これについては07年度末までに、単行本として成果の一端を刊行する予定。(2)アウグスティヌスの内面的倫理思想の分析として、正戦論の祖とされる聖書解釈の検討により、中世盛期スコラ学の自然法思想との相違が明らかになった。これらについては単行本の形ですでに刊行された。(3)同時にこの概念が、仏教的な「如意」の思想として近代日本思想史に接続する状況を跡づけた。その結果、西川哲学を、孤立した(独創的な)日本独自の思想としてのみならず、明治期の西洋哲学の受容史のうちに置き据えることにより、これまで仏教、特に禅との比較でのみ論じられがちであった西田哲学を、キリスト教の受容史の視点から読み直すという新しい視座を獲得しつつある。これについては渡部によって引き続き研究が継続される。西田に関しては新カント派を経由するかたちで大橋によって、また東西の比較霊性史の見地から田中によっても積極的な提題があり、とりわけ「自覚」と「意識」「人格」の概念的な結びつきが改めて問われることになった。清沢満之の新しい全集の刊行もあって、今後はストア倫理学と仏教思想、キリスト教修道思想の微妙な関係を歴史的、構造的に問題にしていく可能性が開かれつつあることは大きな前進といえよう。(4)残された課題も依然として多い。そのうちでも、近年英米圏の哲学において「後悔」「自信(自負)」といった感情の分析が、モラル・サイコロジーの手法によって、また哲学史研究としても隆盛を見せている、こうした研究動向を睨みながら、従来の思想史の読み直しがどういった可能かについては、今後の課題でもある。
著者
長谷川 聖修 衣笠 隆 木塚 朝博 本谷 聡 檜皮 貴子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

研究の目的は、JPクッション・ソフトジム・Gボール・バランスボードなど、動的なバランス運動「遊び」に関するブログラムを開発し、高齢者の動的バランス能力や不安定な環境時の身体動作の改善を目指すことであった。高齢女性26名を対象に6ヶ月間にわたる転倒予防教室を実施した。各種体力測定を実施した結果、動的なバランス能力に改善が認められた。また、アンバランスな状態からの回避動作に改善傾向が示唆された。
著者
岡田 謙一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

近年,世界的に様々な分野においてデジタルデータの圧縮技術や伝送技術の進歩により,情報のデジタル化が進んでいる.放送業界においてもデジタル化が進展しており,放送の主流はアナログ放送からデジタル放送へと移行しつつある.一方,大学内の情報環境においては数百Mbpsの高速LAN環境やPCの普及などデジタル情報を取得するための通信基盤が整っている.実際に,大学ホームページでの学内行事などさまざまな情報を取得できるだけでなく,Web上での履修申告というのが主流になっている.しかし,大学内放送ではアナログの音声放送のみであり,しかも授業の妨げになるという理由からあまり頻繁に利用されていないのが現状である.そこで,本研究では次世代のデジタル校内放送を想定した情報配信プラットフォームを提案する.この次世代の校内放送では音声放送のみならず,現在の掲示板に貼られている情報,学事課や図書館からの配布情報などさまざまなコンテンツを対象とすることを想定する.また,コンテンツの形式においても静止画のみならず,動画の作成技術の進歩に伴い動画形式のコンテンツも増加することが予測されるため動画も対象とする.このような想定環境において,以下のような特徴を持つ提案を行った.(1)通信の信頼性を確保できるユニキャストの利点、そしてデータ受信者数が増加してもデータ配信のコストがそれほど変化しないため,クライアント数が非常に多い場合に通信品質を落とすことなく情報配信ができるブロードキャストの利点の双方を生かした通信方式,(2)ユーザ全員が放送することができる自由な放送を可能にすること,(3)放送場所,放送対象,放送チャンネル,放送重要度,有効期間という属性を付加することによる柔軟な放送,(4)静止画の再生時間,繰り返し放送間隔を設定し,コンテンツの属性である放送重要度と有効期間から決定される放送スケジュール.
著者
生越 重章 秦 正治 吉田 彰顕 西 正博
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)伝搬損失距離特性市街地(岡山・広島)、郊外地(高松・岡山)、丘陵地(広島・岡山・高松)を自動車で走行しながら、UHFテレビ放送波の受信レベルを測定し、伝搬損失距離特性を求めた。(1)市街地では、平均建物高と送信アンテナ高との関連で見通伝搬の影響が大きく、伝搬損失は、奥村-秦式より10dB程度小さい。伝搬定数は、奥村-秦式の値2.8とほぼ一致する。(2)郊外地では見通伝搬が顕著であり、伝搬損失は奥村-秦式より10dB程度小さい。高松では、変動幅が10〜20dB程度と大きい。伝搬定数は、奥村-秦式の値より大きい。(3)丘陵地では、伝搬損失は奥村-秦式とほぼ一致する。伝搬損失の変動幅は20〜30dB程度と大きい。伝搬定数は、広島では奥村-秦式の値とほぼ一致し、岡山、高松では奥村-秦式の値より大きい。これから、固定送信・固定受信を前提としたUHFテレビ放送帯を用いた通信・放送融合型情報ネットワークの構築においては、上記結果を考慮したシステム設計を行う必要があることを明らかにした。ダイバーシティ受信時にも見通伝搬が顕著であることが示された。具体的な改善効果については今後の検討を待たなければならない。(2)システム関連事項(1)通信放送融合システムの形態下りにテレビ放送、上りに移動通信システムの適用を前提として、セル構成と周波数割当について検討した。overlapped法とsuperimposed法の特性について比較した。(2)サービスエリア評価走行受信を前提としたシステムのサービスエリアを評価した。受信レベル変動幅が大きいことにより、デジタル放送では、従来のアナログ放送エリアの35〜55%に減少する可能性があることを指摘した。(3)情報配信アルゴリズム利用者のアクセス頻度、データサイズ、リンク伝送速度などに基づいて、次のフェーズに配信するデータを適切なリンクに割り振る方法について有効性を明らかにした。
著者
鈴木 治
出版者
鳥羽商船高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、アナログ放送にかわるデジタル放送を船舶で受信し、船舶でも家庭用の受信装置と市販のアンテナでハイビジョン放送が受信可能であることを確認した。日本のデジタル放送は、十分な電界強度を得られれば、陸上と同じ画質を得られることがわかった。しかし、既存の無指向性アンテナを使用する場合、アナログ放送に比べると、受信可能範囲が狭く、本研究で開発した受信系のシステムが必要となることがわかった。
著者
本城 凡夫 島田 秀昭 大嶋 雄治
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、有明海の有機スズ(TBT)等化学物質の汚染、および二枚貝の繁殖に及ぼすTBTの影響について実施した結果、以下の点が明らかとなり、化学物質が貝類の激減に関与していることが示唆された。1)有明海の化学物質汚染:1998年と2001年に有明海で採取した二枚貝のサンプルについてTBT濃度を調べたところ,すべての試料からTBTが検出され,アサリでは1998年が0.062-0.125μg/gおよび2001年が0.008-0.033μg/gであった。さらにタイラギでは2001年採取分が0.009-0.095μg/gであった。本研究よりTBTの使用規制後も,沿岸域においてTBT汚染が続いていることが明らかになった。また、重金属(水銀、銅、カドミウム)については顕著な汚染は認められなかったが、農薬については2003年8月に有明海筑後川河口3地点より海水を採取して,567種農薬の一斉分析を行った結果、3地点から計12種類の農薬が検出され、有明海の生物に影響を与えている可能性が考えられた。2)二枚貝繁殖試験:TBTをアコヤガイおよびアサリの親貝に暴露し、繁殖への影響を調べた結果、アコヤガイでは、生殖腺のTBT濃度が0.088μg/gで次世代の初期発生が阻害され、アサリでは体内TBT濃度が0.099μg/gで卵の発生が20%阻害されることが明らかになった。よって、有明海における貝類激減の原因のひとつとしてTBTの関与が推定された。また、本研究室で単離した付着珪藻(Cylindrotheca closterium)-海産自由生活性線虫(Prochromadorella sp.1)のバイオアッセイ系に対してTBTを暴露した結果、3.26μg/Lの濃度では線虫の成長が若干阻害され、32.6μg/Lで付着珪藻および線虫が斃死した。
著者
塩見 浩人 中村 明弘 田村 豊
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度〜平成16年度の2年間、「ハムスターの冬眠制御機構解明と低温負荷による生体侵襲に対する保護因子の同定」に関する研究を遂行し、以下の成果を得た。1.導入期の体温下降は、adenosineが前視床下部を中心とした内側視床下部のadenosine A1受容体を介し熱産生を抑制することにより惹起されることを明らかにした。Adenosine系による冬眠時の体温制御は体温下降開始27時間から30時間の間にopioid系に切り替わることも明らかにした。2.維持期(体温下降開始30時間以降)の低体温はμ1-opioid受容体を介する中枢opioid系により制御されていることを明らかにした。3.覚醒期の体温上昇はTRHが視索前野、背内側核を中心とした内側視床下部のTRH type-1受容体を介し、交感神経系を活性化することにより褐色脂肪組織における熱産生を亢進させて惹起されることを明らかにした。4.ラット初代培養大脳皮質ニューロンにおいて、低温処置によりアポトーシス様の神経細胞死が誘発されることを明らかにした。5.低温で処置すると冬眠動物のハムスターにおいても神経細胞死が発現した。6.アデノシンはA1、A2両受容体サブタイプを介して低温処置により誘発される神経細胞死に対して保護作用を発現することを明らかにした。7.モルヒネはμ、δ及びκ受容体を介して低温処置により誘発される神経細胞死に対して保護作用を発現することを明らかにした。8.ヒスタミンはH1受容体サブタイプを介して低温処置により誘発される神経細胞死に対して保護作用を発現することを明らかにした。9.セロトニンは低温処置により誘発される神経細胞死に対して保護作用を発現することを明らかにした。