著者
原山 浩介
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

占領期の闇取引・闇市には、行政上の様々な意図が作用する。ひとつは、石橋湛山に象徴されるような、戦後インフレを一過性のものと見る立場からの闇市合法化論、あるいは戦時における統制の破綻に根ざした統制廃止論がある。また少し違った角度から、財産税課税のための資産補足を免れるために、手持ち通貨を換物しようとする動きが起こり、これが闇取引とインフレを助長していることに対する懸念があった。そして勿論、闇市・闇取引を、経済秩序の混乱をもたらすもの、あるいは犯罪の温床とみる立場からの、闇市・闇取引撲滅論も存在した。しかし全体としては、GHQ/SCAPの一貫した闇市・闇取引取締りの方針に突き動かされる形で、全体としては規制・廃止が基調となる。一方、実際にこの闇市・闇取引を自らの生業としながら生きた人びとにとっては、行政による取締りは、その振れ幅にも関わらず、概して脅威と捉えられていた。また、そこに生きた人びとのタイプは実に様々で、あぶく銭を手にして放蕩する者、日々を生き抜くための仕事として取り組む者、あるいは闇市での経験がベースになって後に小売業等に邁進する者など様々であった。こうした現実は、闇市・闇取引が、単なる時代のあだ花とするには余りある、生活との連関がある。また、闇市・闇取引が当時の物流・配給の手段として重要な意味を持っていたのも事実である。そうしたことは、現場に近い行政機関の関知するところでもあり、地方行政レベルでは露店の集約を事業化するなどの動きが見られ、また警察は闇市・闇取引に対する過剰な取締りを行わないという方向性を打ち出していた。以上の諸点に鑑みたとき、闇市・闇取引を、そこを生きた人びとの感覚に一面的に依拠しながら、「解放空間」ないしは「闇社会」と規定するのは誤りであり、占領期という歴史的に特異な時期に現出した生活世界として把握することが必要になると言える。
著者
長坂 翔吾 谷口 忠大
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.25, 2011

階層 Pitman-Yor 言語モデルでは入力文書より言語モデルを解析することにより、未知語を含む文書であっても教師なし形態素解析により単語分割を行うことができる。 この手法を動作解析に適用することで、教師なし学習によって非文節運動系列から動作の抽出を行う。
著者
植木 朝子
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

中世前期の今様、および中世後期の小歌を取り上げて、同時代の絵画・意匠と比較検討し、それぞれの歌謡の持つ特質を明らかにした。また、意匠・文様の背景にある歌謡の詞章を丁寧に読み解くことで、当該の意匠・文様にどのような意味が込められているのかを考察した。
著者
齋藤 満
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

研究成果の概要(和文):我々は腎代償性肥大(片腎摘除後に残腎が腫大し腎機能が亢進する現象)を起こす生体腎移植ドナーから摘出された移植腎機能は、代償性肥大がないドナーから摘出されたそれと比較してその移植腎機能は有意に良好、という結果を得ている(Saito M et al,American Transplant Congress 2007)。この結果からIGF-1やGHといった組織増殖因子(やその受容体)の遺伝子多型が、ドナーの残腎代償性肥大発生に関与するかどうか、そしてそれらが移植腎機能や生着率に与える影響などについて解析を行った。またドナーの予後調査も行い、残腎代償性肥大発生がドナーの腎機能や生命予後に与える影響などについても併せて検討した。結果的には、今回我々が調査した組織増殖因子(やその受容体)の遺伝子多型と、ドナーの残腎代償性肥大発生、移植腎機能、移植腎生着率などとの関連性は見いだせなかった。またドナー腎摘出後の腎生検標本における、組織増殖因子(とその受容体)の免疫染色では、ほとんどの標本が陰性であり解析不能であった。ドナーの予後調査については、ほぼ全てのドナーにおいて残腎機能は良好のままであった。腎機能が悪化した、あるい他因死したドナーと残腎代償性肥大発生との明らかな関連はみられなかった。
著者
菊池 吉晃
出版者
東京都立保健科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

多チャンネル脳磁界計測システムから計測される同時多発的な神経活動を高時間分解能で複数の発生源を推定できる解析システムを開発した。同システムを用いて、脳内作動記憶(working memory)に関する課題のうち、サルなど人間以外の動物を対象にしては困難なメンタルローテーション(mental rotation)の神経機構について検討した。2種類のメンタルローテーション課題を設定した。ひとつは手の線画を提示し、提示された手が被験者自身の右手であるか左手であるかを判断してもらう課題。もうひとつは、アルファベット文字を提示し、それが鏡像文字か否かの判断をさせる課題であった。いずれも、被験者の左視野に視覚刺激が提示された。両課題とも、刺激提示からおよそ100msec〜200msecにおいて視覚皮質(外側後頭皮質)や後頭-側頭皮質基底部、さらに下側頭皮質において神経活動が認められた。一方、時間的に遅い高次機能の活動部位には違いが認められた。手の心的回転課題では、刺激提示からおよそ200msec〜300msecにおいて右下頭頂小葉での活動が認められた。一方、アルファベット課題の時は、およそ300msecにおいて左上側頭領域の活動が認められた。さらに、両課題においてメンタルローテーションに深く関与すると思われる下頭頂小葉-運動前野の同時的神経活動が認められた。特に、手のメンタルローテーション課題では、運動前野の左半球優位性が観測された。それに対して、アルファベットのメンタルローテーションについてはこのような優位差はなかった。
著者
七澤 朱音
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,教育実習前の大学における効果的なカリキュラムを検討・実践するとともに,一貫性のある大学と実習校との指導体制を検討することを目的とした.大学のマイクロティーチングでは,教師役学生の指導言が,複合状態から短文に整理される様子や相互作用行動の向上が見られ,説明における"質問機会の提供"と"明確な課題提供"が有意に向上した.教育実習簿と指導教官の指導内容の分析からは,実習生が「教材研究」「技能下位生徒への適切な相互作用」に課題を残すことが明らかになった.
著者
寺崎 秀一郎
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

2003年度、2004年度にホンジュラス共和国コパン県に位置するロス・イゴス遣跡、エル・アブラ遺跡、エル・プエンテ遺跡の3遺跡において発掘調査をおこなった。本研究における発掘調査の目的は、古典期(AD250〜AD900)に南東マヤ地域最大のセンターであるコパン遺跡の周縁部において、地方センターがどのようなプロセスを経て形成されていくのかを明らかにすることである。上記3遺跡は、コパン遺跡北東約60kmに位置するラ・エントラーダ地域に分布する8箇所の地方センターの一部であるが、発掘調査の結果、少なくともフロリダ谷に位置するエル・アブラ遺跡とエル・プエンテ遺跡の起源はほぼ同時期と考えられる資料を得た。一方、ロス・イゴス遺跡は斜面を利用して構築されていることから層位学的に良好なサンプルを得ることができなかったが、二次堆積層から原古典期の年代を示す放射性炭素年代測定結果が得られている。本年度は、現地において、出土土器資料の予備分類を現地スタッフを中心に進めた。予備分類については、メソアメリカ地域の考古学研究で広く採用されているタイプ・ヴァラエティ・システムに準じておこなうが、適宜、周辺地域では唯一土器編年が整備されているレネ・ヴィエルによるコパン編年を参考にしている。また、図面も現地スタッフの協力の下、データ化を進行中である。これらの成果の一部は、2005年12月に開催された古代アメリカ学会第10回研究大会において報告した。本研究では、地方センターの起源に重点を置いた発掘方法を採用したが、より詳細な都市形成過程の解明には建造物のシークエンス研究が必要不可欠であり、そのための集中的な調査が望まれる。本年度はこうした視点も含め、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所所長リカルド・アグルシア氏と本研究が対象とするラ・エントラーダ地域での今後の考古学調査研究の展開についても協議をおこなった。
著者
河崎 善一郎 牛尾 知雄 森本 健志 高木 伸之 王 道洪 中島 映至 林 修吾 ARTHUR Jim MAY Peter CHRISTIAN Hugh WILLIAMS Earle HOELLER Hartmut
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、オーストラリア・ダーウィン地域において、雷嵐観測網を構築し観測を実施した。稠密と広域観測装置を併用した観測網を展開し、豪気象局とも連携して、雷放電開始位置とその領域に存在する降水粒子の分布が時々刻々得られ、正負両極性の電荷が蓄積される領域の境界付近に放電開始点が多く分布し、更に稠密観測からその放電路が境界を沿うように進展し、やがて落雷に至る様子が再現された。中和電荷量推定も行い、積乱雲が世界で他に例を見ないほど高くまで成長する巨大積乱雲ヘクターにおいて、ヘクターの成長と共に中和される電荷の位置も上昇する現象が確認された。
著者
菅 磨志保
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

「共助」の中身は、支援者-受援者が取り結ぶ関係も含めて、単純に分解できるものではなく、現場の活動実践で重視されている価値観を尊重しながら、そこから汲みだされた概念をうまく活動実践に組み込んでいくことで、無理のない自然な関係に基づく支援関係が形成されることが分かった。また、将来志向の社会学的研究の方法論の提案として、活動実績データの分析という手法の標準化を試み、次のように整理した。(1)災害社会学の時間軸と社会的単位の枠組の設定、(2)個人のレベルと事業のレベルに分けて活動実績を整理、(3)それぞれのアウトプットと相互の関係性を分析する。
著者
吉崎 静夫
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.107-115, 2002-12-20
参考文献数
32
被引用文献数
2
著者
石井 秀明
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,サーチエンジンにおける検索結果を的確にランク付けするページランク(PageRank)アルゴリズムに着目し,より効率的な計算手法の確立を目指した.とくにマルチエージェント系の協調制御の観点から,分散型確率アルゴリズムを構築した.エージェント間の通信制約を考慮した場合やグラフの集約化に基づく場合等,アルゴリズムの高速化・ロバスト化を図った.他方,一般的な有効グラフ上の平均合意問題に対しても成果を得た.
著者
安藤 知子
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.1-11, 2010-02-28

近年、教育改革が多様に展開しているが、学校と改革諸施策の提案者の間での意味形成過程の相違にはほとんど関心が向けられずにきた。本稿の目的は、学校内部の視線で教育改革が浸透していく過程を描き出すことである。そのために、志木市立A中学校で観察調査を実施した。観察結果をPolanyi.の暗黙知の理論における意味の創発の考え方に依拠して分析した結果、学校内部からの「教育改革」への意味付与過程には4つの段階があると考えられた。それは、(1)新たな試みがこれまでの実践を支える理念の枠組みの中に位置付くように考えら、うまく位置付かない場合には、別のものとして扱われる段階、(2)多くの具体的諸細目が教員にとって切実な課題となり、それらの課題を解決するために焦点的に感知される段階、(3)複数の諸細目が、カテゴリー化され包括的に意味づけられる段階、(4)包括的に意味づけられた諸細目が、さらに上位レベルの意味から全体従属的に感知される段階の4つである。以上から、短期間での数値化された政策実施評価だけではなく、長期間にわたる学校での教育実践の意味変容、行動変容に着目する質的な評価も重要であることが指摘される。
著者
中尾 敏彦 ガメール アブシイ 大沢 健司 中田 健 森好 政晴 河田 啓一郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.791-794, 1997-09-25
参考文献数
10

乳牛の難産および胎盤停滞例 (異常例) の胎子娩出後の子宮修復における内因性のPGF_<2α>の関与の有無を明らかにするとともに, 活性持続型のPGF_<2α>類似体であるフェンプロスタレンの投与が子宮修復と繁殖成績の向上に有効かどうかを明らかにするために試験を行なった. 異常例では分娩正常例に比べ血中PGF_<2α>代謝産物 (PGFM) 濃度の著しい上昇が認められたが, 高濃度の持続期間は短かった. 異常例ではPGFMの高濃度持続日数と子宮修復日数との間に明らかな相関は認められなかったが, 正常例では, PGFM高濃度持続期間が長いもののほうが短いものよりも子宮修復日数が短かった (P<0.01). フェンプロスタレンを異常例では胎子娩出後7-10日, 分娩後子宮内膜炎例では14-28日に投与することにより, 子宮修復と卵巣機能の回復が促され, 繁殖成績が向上することがわかった. このように, 異常例においては短期間に大量のPGF_<2α>が分泌されるものの, これは子宮修復にはあまり関与しておらず, 外因性のPGF_<2α>の投与がこれらの例の子宮修復の促進と繁殖成績の向上に有効であることが示唆された.