著者
大江 猛
出版者
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ナイロン繊維を段ボール箱などのケースに長期間保存すると、木材や紙に含まれる芳香族アルデヒド類とポリマー末端のアミノ基が反応することによって、繊維が黄変することが知られている。そこで、本研究では、シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドの代替として、より安全な糖類との反応を利用したナイロン繊維の黄変防止技術の開発に取り組んだ。その結果、有機溶媒あるいはハイドロサルファイトを含む水溶液中で、還元糖とナイロン繊維の末端アミノ基を反応させることによって、副反応で生成するメラノイジンによる着色を防ぎながら、ナイロン繊維へ黄変防止機能を付与することができた。
著者
柴田 伊津子
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

Rho-kinase阻害薬ファスジルが虚血再灌流障害の一つである心筋スタニングに対する心筋保護効果について検討した。ファスジルの虚血前投与、及び虚血再灌流直後の投与は心筋スタニングからの回復を改善したが虚血再灌流30分後からの投与では改善しなかった。ファスジルは心筋スタニングに対して保護作用があり、その保護作用は心筋への直接作用ではなく、薬理学的プレもしくはポストコンディショニング効果であることが証明された。
著者
古本 淳一
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

気温を高い時間分解能で観測できるレーダーリモートセンシング技術であるRASS(Radio Acoustic Sounding System)の性能を向上させ従来観測できなかったより微細な気温観測を可能とした。複数のレーダー周波数観測により鉛直分解能を向上させる周波数領域干渉計映像法をRASS観測に応用する新アルゴリズムを開発しMUレーダーを用いて従来150mに留まっていた鉛直分解能を60mまで向上させることに成功した。また、沖縄におけるRASSの自動連続観測の実現や、従来観測が難しかった接地境界層領域への展開を進めた。
著者
川合 將義 渡辺 精一 粉川 博之 川崎 亮 長谷川 晃 栗下 裕明 菊地 賢司 義家 敏正 神山 崇 原 信義 山村 力 二川 正敏 深堀 智生 斎藤 滋 前川 克廣 伊藤 高啓 後藤 琢也 佐藤 紘一 橋本 敏 寺澤 倫孝 渡辺 幸信 徐 超男 石野 栞 柴山 環樹 坂口 紀史 島川 聡司 直江 崇 岩瀬 宏 兼子 佳久 岸田 逸平 竹中 信幸 仲井 清眞
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2007

高エネルギー高強度陽子ビーム場の材料は、強烈な熱衝撃や放射線によって損傷を受ける。衝撃損傷過程と影響を実験的に調べ、その緩和法を導いた。また放射線損傷を理論的に評価するコードを開発した。さらに、損傷に強い材料として従来の材料に比べて強度の4倍高く室温で延性を持つタングステン材と耐食性が4倍高いステンレス鋼を開発した。衝撃実験における応力発光材を用いた定量的な方法を考案し、実用化の目処を得た。
著者
吉本 貴宣
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究により1)アルドステロン(Aldo)負荷高血圧ラット(Aldoラット)での高血圧、血管炎症の発症機序の一部にはミネラロコルチコイド受容体(MR)活性化によりアンジオテンシン変換酵素(ACE)の発現増加が生じ、心血管局所でのAng II産生と作用の増加が関与する。この、“局所レニン・アンジオテンシン系"の活性化が血管壁での各種向炎症性遺伝子群mRNAの発現増加および酸化ストレス増加を介してAldoによる心血管障害に関与することが明らかとなった。2)ラット大動脈由来初代培養血管内皮細胞を用いた検討で、AldoはMRを介した低分子量蛋白Raclの活性化によりNAD (P) H oxidaseを介してO_2^-産生を誘導することが明らかとなった。3)内皮保護作用を示す抗血小板薬のシロスタゾール投与がAldoラットでの血中酸化ストレスマーカーの低下、尿中NO排泄量の増加、および血管壁でのNADPHオキシダーゼや向炎症性因子の遺伝発現減少を伴った"Aldo誘導性血管炎"の改善効果を示すことを明らかにした4) Aldoによる糸球体障害機序としてメサンジウム細胞でのMRを介したSGK-1とNFkB活性化経路が関与することを明らかとした。以上の研究成果によりAldoが心血管および腎組織に直接作用して臓器障害に至る分子機構の一端が解明された。
著者
坂本 真士
出版者
大妻女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本年度は昨年度の成果をもとに、抑うつ的な自己注目のあり方と適応的な自己注目のあり方をモデル化した(この成果については、本年度の日本心理臨床学会および日本心理学会にて発表した)。そして、適応的な自己注目のあり方の指導を取り入れた、抑うつ予防のためのプログラムを作成し、女子大学生(1年生、社会心理学専攻)21名を対象に実施した。実施期間は平成13年4月から7月であった。本研究で1年生前期において実施としたのは、大学における適応・不適応を考える上で、入学直後から1年次前半が特に重要な時期だからである。この時期、生活リズムの変化、新しい人間関係づくり、勉学の問題など様々な変化に新入生はさらされている。自分について振り返る時間が増えた分、不適応的な自己注目のために抑うつなどの問題を発生させる可能性も高いと考えられる。申請者らは、本年度前期に週1回の割合で心理教育予防プログラムを実施した。実施は授業の単位とは全く関係のない「自主ゼミ」という形で行い、ボランティアで参加者を募った。前半では、参加者同士知り合うためのグループワークを積極的に取り入れた。また、自分を知るために様々な心理テストを実施した。実施した心理テストについては実施の翌週に申請者が解説した。これによって客観的に自己をとらえるようにした。また、ホームワークを課して、事態に対する認知の仕方を明確にした。後半では、認知療法的なパースペクティブから、自己に関するネガティブに歪んだ認知の修正、自己のポジティブな側面に対する注目などについて指導した。10月に実施した事後アンケートから、この予防プログラムは一定の成果を収めていることがわかった。
著者
小倉 裕司 杉本 壽 鍬方 安行 松本 直也
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、熱中症時にみられる血管内皮傷害に対する再生応答を評価し、熱中症モデルにおいて血管内細胞移植(骨髄間質細胞)の有効性を検討することである。熱中症にともない、肺を中心とする多臓器に血管内皮障害、臓器障害が認められた。骨髄間質細胞移植が抗炎症効果、血管内皮保護作用を発揮して生存率を有意に改善し、新たな治療戦略となりうるか検討を加えた。
著者
原 三紀子 小長谷 百絵 海老澤 睦 寺町 優子 水野 敏子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

【目的】神経難病患者の心のケアについて、看護師がどのように思い、取り組んでいるかの実態を明らかにし、より良いケアのあり方を検討していくこと。【方法】対象:神経難病患者への看護経験のある看護師20名。調査期間:2004年5月〜2005年3月。調査方法:半構成的面接によるインタビューを行い、質的帰納的に分析した。【結果・考察】対象者は女性19名、男性1名で、平均年齢29.5歳(SD6.03)、臨床平均年数7.5年(SD6.25)であった。大カテゴリー20、中カテゴリー65、小カテゴリー146が抽出された。大カテゴリーは「看護師が思う心のケア」「看護師の心を支えるもの」「心のケアの取り組みを阻むもの」の3つに分類された。「看護師が思う心のケア」は【病気をもちながらも本来の人生の意味を再確認できるような働きかけ】で、【患者がリフレッシュできるような働きかけ】【苦悩の軽減】【告知後の患者の心理状態のフォロー】などに努めることが重要と考えていた。また、【心と体は関連がある】と心身をトータルに捉えることや、【患者の気持ちを察知できるようアンテナを張る】感覚を持つことなどが重要と考えていた。「看護師の心を支えるもの」は【ケアの方法に患者固有の工夫を見つけ出すことが難病看護の醍醐味】と感じたり、【退院に向けて患者・家族と協働する】ことなどであった。また、【難病患者への思い込みが覆されたことによる驚き】によって神経難病患者へのステレオタイプ化した見方が除かれ、患者の理解を深めていた。「心のケアの取り組みを阻むもの」は【身の回りの世話に追われている】【独特なコミュニケーション方法が存在する】【難病看護は期待通りの成果が得られない】など看護体制や神経難病の病態の特性などが抽出された。また、【心のケアに対する苦手意識】【患者の気持ちに触れることが不安なので関わらない】【信頼関係は心のケアの基盤という思い込み】などの看護師自身の思いや、患者の話を【聴きだす技術の不足】が心のケアの取り組みを困難にしていると捉えていた。したがって、心のケアを行うためには神経難病の疾患特性の理解、看護体制の整備に加え、看護師が抱える問題の解決を考慮に入れた看護教育プログラムの開発の必要性が示唆された。
著者
宮下 晃一
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

中学校の技術科において生徒が機械的な動く仕組みを製作して動かす実習を通して様々な機構に触れて学ぶことができる,組立て式の機構学習キットの開発を行った。キットは回転軸と無給油ブッシュ,プーリー,歯車,スライダー,リンク等数サイズから構成されている。機構学習キットの教育的効果を評価するために研究授業を行った。研究授業は、講義と実例紹介による従来型の授業と、機構学習キットを用いた授業を行い,それぞれの授業後に生徒たちを対象としてアンケート調査を実施した。その結果,機構学習に本キットを用いることによって,生徒は高い関心を持って授業を受けることができ,身近な機械の仕組みをよく理解することができたことが分かった。
著者
浅井 冨雄 松野 太郎 光田 寧 元田 雄四郎 武田 喬男 菊地 勝弘
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

(1)1988年度は観測期間を2週間とし、1988年7月6日〜7月19日まで初年度とほぼ同じラジオゾンデ観測網を展開した。本年度は目標(2)にも重点を置いて、レーダー観測網の展開をはかった。即ち、名大・水圏研は福江、北大・理は西彼杵半島北大・低温研は熊本、九大・農は福岡でそれぞれレーダー観測を実施した。2週間の観測期間を通常観測(12時間毎の高層観測と定時レーダー観測)と強化観測(6時間〜3時間毎の高層観測と連続レーダー観測)に分け、研究者代表者の指示によりそれぞれ実施した。観測中前半は梅雨明けの状況となったが、後半には、特に16〜19日にはかなりの豪雨が観測され、目標(2)の研究が可能な観測資料が得られた。現在、各分担者がそれぞれの資料を整理し、解析しつつある。(2)1987年7月の特別強化観測期間中は降水現象は殆ど観測されなかったが、その前後にはかなりの降水が見られるので、7月の1カ月間について総観的解析をその期間の中間規模擾乱に焦点を合わせて行いつつある。7月上旬の降水の特徴と中旬のそれとの間には顕著な差異が見出された。前者は比較的広域に一様な降水、後者は狭い範囲へはの集中豪雨的な特徴を示した。後者については中間規模低気圧とそれに伴うクラウドクラスターと降水系の南側に下層ジェットが見出され、その生成機構が水蒸気凝結潜熱の解放による中間規模低気圧の発達に伴うものであることが示された。(3)数値モデルの研究では(a)特別観測を含む梅雨期間中について微細格子モデルを用いて中間規模低気の予報実験を行い、モデルの改良を試みつつある。(b)現在開発中の積乱雲数値モデルに地形効果を導入して本年度の観測資料等と対比しながら、豪雨生成に関与する対流雲の組織化、移動、停滞などの機構を調べるためにモデルを改良しつつある。
著者
堺 正紘
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

木材の流通・利用をめぐる状況の変化の中で、すなわち(1)住宅供給形態の変化(企業の進出やプレカットシステムの増加)、(2)冷暖房の普及や遮音・断熱性に対する要求の向上、(3)大型木造建築物の増加、(4)伐出産生の機械化や原木市売市場の発達等による木材の生産・流通構造の変化、などに伴って木材の乾燥問題がクロ-ズアップされるようになった。しかし、1987年の乾燥木材の生産量は945m^3で、製材工場の製材品出荷量の3.1%を占めるに過ぎない。しかも大半が造作材、フロ-リングや集成材の原板、家具用材、梱包用材等であり、柱角のような建築用構造用材は29%に過ぎない。本研究では、建築用木材の分野での乾燥木材の生産・流通の最適シストムを明らかにすることを目的に、製材工場(1989年度)とプレカット工場(1990年度)の木材乾燥に対するアンケ-ト調査並びに原木乾燥に関する産地調査(1991年度)を実施した。木材乾燥は原木の天然乾燥と製材品の天然及び人工乾燥との効果的な組合せが課題であるが、スギ材産地の製材工場では、製品の天然乾燥(1ヶ月以上)は39%、人工乾燥は22%、原木天然乾燥(1ヶ月以上)でも48%が行っている過ぎない。これは乾燥木材と生材との価格差が小さく乾燥コストが償えないからであるが、木材乾燥による材質や商品管理上のメリットについては多くの製材工場が認めている。プレカットは在来木造建築の分野では顕著な伸びが続いているが、プレカット工場の木材品質に対する要求は一般工務店よりも厳格である。部材の含水率管理の現状はまだ甘いが、それは乾燥木材供給量の絶対的な不足によるところが大きい。葉枯らし等による乾燥原木の生産量は688千m^3、国有林230千m_3、民有林458千m^3であり、民有林では奈良県を中心とする近畿地区に36%が集中する等地域性が大きい。またマニュアルの見直しを求める声も強い。
著者
山口 幸代
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究課題は、企業の社会的責任、という近年その重要性が注目されている問題について、会社法制という視点からのアプローチを試みるというものであった。企業をとりまく利害関係者の中で、企業が社会的責任を果たすべき対象として今回焦点を当てたのは企業の労働力を担う従業員である。具体的なアプローチの手法としては、会社との関係で従業員にもたらされた損害に対しては会社だけでなく役員にも責任を負わせることで、健全な企業運営を担うことに対する経営者の責任意識を高めることにつながることが期待できると考えられる。
著者
平井 啓久
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

(1)ヒト第2染色体形成メカニズムを再検討する目的で、ヒト第2染色体ペイントDNAおよびα-サテライトDNAをプローブとして、ヒト、チンパンジー、およびゴリラの染色体に蛍光in situsハイブリダイゼーション(FISH)を行った。その結果、ペイントDNAは、従来の見解(ヒト第2染色体はチンパンジー第12・13染色体の末端融合によって形成された)を、確認した。α-サテライトDNAは、厳しい条件下で、ヒト第2染色体、チンパンジー第12染色体および小型メタセントリック(未同定)、およびゴリラ第11染色体のセントロメアに対してポジティブな反応を示した。今回のデータからでは、ヒト第2染色体の形成メカニズムに新しい知見を加える事はできなかったが、チンパンジーに、共通セントロメアを有する2対の染色体が存在する事は、その2対の染色体が共通の染色体から派生した可能性を示唆している。そこで、現在、染色体顕微切断法を用いて、チンパンジー第13染色体のセントロメアのDNA採取およびそれを用いてのFISHを行っている。また、チンパンジーの染色体分化の解明のための新戦略を検討中である。(2)シロテテナガザル、アジルテナガザル、ミューラーテナガザル、クロッステナガザル、およびワウワウテナガザルの染色体をC-バンド染色で観察したところ、従来発表されているパターンと異なるデータが得られた。腕内介在バンド、末端バンド、短腕全ヘテロクロマティン等を有する染色体が多く観察された。また、G-バンド染色で従来観察されていた第8染色体の逆位多型も、以前とは異なる状況で観察された。現在、染色体44本型テナガザル類の染色体分化のメカニズムを、今回観察した事実を基に、従来とは異なる方向から検討している。さらに、そのデータを基に、染色体変異ネットワークおよび核グラフ法を用いて数量的に解析中である。
著者
野崎 京子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

二酸化炭素は炭素化合物の燃焼最終生成物であり,熱力学的に安定な,不活性な化合物である.一方で,二酸化炭素は安価で豊富な炭素資源であり,その有効利用は科学的興味に留まらず,社会的にも大きなインパクトをもつ.二酸化炭素を活性化し有機合成にもちいるには,より安定な結合を生成する系を選び,かつ反応の活性化エネルギーを下げる触媒を開発しなければならない.本研究では,二酸化炭素の活性化を鍵とする以下の二つの反応について,新規9族金属錯体の開発に重点をおき触媒開発に取り組み、以下の成果を挙げた。1)二酸化炭素還元反応の高活性化と可逆性の検討われわれが開発したピンサー配位子をもつイリジウム錯体は,水酸化カリウム存在下での二酸化炭素と水素の反応で,これまでで最高の活性を示した.この塩基をトリエタノールアミンに変更することで逆反応であるギ酸の分解も行えることを示した。水素の安定的な貯蔵方法としてギ酸を用いる可能性を拓いた。2)エポキシドと二酸化炭素の交互共重合反応の触媒開発これまでの研究で最も高い活性を示していたクロムやコバルトのサレン錯体に代えて、チタンやゲルマニウムなどの錯体が触媒作用を示すことを明らかにした。クロムやコバルトが3価の金属であり、サレンがジアニオン配位子だったのを、チタンやゲルマニウムなどの4価金属に変更した際、配位子もトリアニオン性にしてトータルの電荷を保ったことが成功の鍵である。より低毒性の金属を用いられるようになったことで、生成物の利用範囲が格段に広がった。
著者
石崎 公庸
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、植物における栄養生殖の分子メカニズムを解明することを目標とし、タイ類ゼニゴケをモデルとして解析を行った。前年度までの研究成果から、ゼニゴケにおける栄養生殖器官である杯状体の基底部で、オーキシン生合成系の発現上昇とそれに伴うオーキシンの蓄積が観察されており、栄養生殖器官の発生プロセスにおいてオーキシンが何らかの役割を持つことが示唆されている。本年度、オーキシン低感受性株の解析から単離されたオーキシンシグナル伝達系の主要転写因子MpARF1の機能欠損変異体について、栄養生殖プロセスにおける表現形を詳細に解析した。その結果MpARF1の機能欠損変異体では、無性芽発生における分裂組織の発生と機能に異常が確認された。さらに別のオーキシン低感受性株mt37について、カルボキシペプチダーゼをコードするALTERED MERISTEM PROGRAM1(AMP1)の相同遺伝子MpAMP1の機能欠損変異体であることを明らかにした。mt37についても無性芽発生における分裂組織の発生と機能に異常が確認された。現在、これらの変異体の表現型や原因遺伝子の機能について詳細な解析を進めている。単離された複数のオーキシン低感受性変異体において、無性芽の分裂組織形成に異常が確認されたことから、杯状体底部におけるオーキシン応答が無性芽の分裂組織形成において重要な役割を持つと考えられる。
著者
安井 夏生 松浦 哲也 二川 健 西良 浩一
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

オステオアクチビンは膜結合型の糖タンパクで、細胞外ドメインと膜貫通ドメインをもつ。我々はスペースシャトルで無重力を体験したラットの筋肉にオステオアクチビンが高発現していることを報告した。オステオアクチビンは機械的ストレスの感知機構に何らかの役割をはたしていると考えられてきたが、延長仮骨における発現は現在まで調べられていない。本研究ではマウス下腿延長中にオステオアクチビンがタンパクレベルでも遺伝子レベルでも過剰発現していることがわかった。またオステオアクチビンの細胞外ドメインは延長仮骨には多数存在するが、延長を行わない骨切り部には存在しないことが明らかとなった。延長仮骨においてはMMP-3も高発現していたが、これはオステオアクチビンの細胞外ドメインに誘導された結果と考えられた。さらにオステオアクチビンは延長仮骨における骨吸収を抑制している可能性が示唆された。最近、我々はオステオアクチビンのトランスジェニックマウスの作成に成功し、徳島大学動物実験委員会に届け出た上で交配・繁殖させてきた。このマウスを用いて下腿延長術を行い正常マウスと比較した。予想されたとおりオステオアクチビンのトランスジェニックマウスではMM-Pが過剰発現しており、同時に延長仮骨の吸収が著明に抑制されていることがわかった。
著者
神吉 博 安達 和彦 川西 通裕
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

スペースシャトルやH II-Aロケットエンジンをはじめ超高圧蒸気タービン等軸流タービンの不安定振動問題や、石油、天然ガスの効率的な取出しに不可欠な超高圧リインジェクションコンプレッサー等の不安定振動問題の解決は、我が国の情報産業やエネルギー問題の解決に必要不可欠な課題である。そしてこの種の技術の高さが世界における日本の立場を支配する重要なポイントとなっている。本研究では軸流タービンに起こる不安定振動と遠心コンプレッサーで発生する不安定振動を統一的に見直し、現象解明を行うとともに、それぞれに適した防止対策を考慮し、これを理論的、実験的に検証することを目的とする。昨年までの研究で軸流タービンの不安定振動の解明と対策案の検証を完了し、新しく遠心圧縮機の不安定振動解明のための、独特の実験装置の開発を完了した。今年度はこの実験装置による実験を実施した。回転数と流量をパラメータにして新しい実験装置を運転し、各条件で運転中加振テストを実施し、不安定振動発生の傾向を調査した。現在の運転条件では、不安定振動は発生していないが、回転数上昇に伴い、減衰比の低下が見られた。さらに回転数を上げることにより、不安定振動を発生することができると考えられる。またベースとなっている減衰の要因の1つである。上部軸受部をよりスムーズに動かせて、振動再現性を良くする対策として、深溝玉軸受を自動調心軸受に改良した。今後さらに実験を続け、現象解明を推進する予定である。
著者
藏田 伸雄 石原 孝二 新田 孝彦 杉山 滋郎 調 麻佐志 黒田 光太郎 柏葉 武秀
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究ではまず、科学技術に関するリスク-便益分析の方法について批判的に検討し、リスク論に社会的公平性を組み込む可能性について検討した。第二に、ナノテクノロジー、遺伝子組換え農作物等の科学技術倫理の諸問題をリスク評価とリスクコミュニケーションの観点から分析した。第三に、リスク論に関して理論的な研究を行った。さらにリスク論と民主主義的意思決定について検討した。第四に、技術者倫理教育の中にリスク評価の方法を導入することを試みた。まず費用便益分析に基づくリスク論は、懸念を伴う科学技術を正当化するための手段として用いられることがあることを、内分泌攪乱物質等を例として確認した。また研究分担者の黒田はナノテクノロジーの社会的意味に関する海外の資料の調査を行い、アスベスト被害との類似性等について検討した。また藏田は遺伝子組換え農作物に関わる倫理問題について検討し、科学外の要因が遺伝子組換え農作物に関する議論の中で重要な役割を果たすことを確認した。そしてリスク論に関する理論的研究として、まず予防原則の哲学的・倫理学的・社会的・政治的意味について検討し、その多面性を明らかにした。他に企業におけるリスク管理(内部統制)に関する調査も行った。リスク論に関する哲学的研究としては、確率論とベイズ主義の哲学的含意に関する研究と、リスク論の科学哲学的含意の検討、リスク下における合理的な意思決定に関する研究を行った。またリスク評価と民主主義的な意思決定に際して、参加型テクノロジーアセスメントや、双方向型のコミュニケーションによって、リスクに関する民主主義的決定モデルが可能となることを確認した。また技術者倫理教育に関して、研究分担者の間で情報交換を行い、上記の成果を技術者倫理教育に導入することを試みた。
著者
川上 紳一
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,国際宇宙ステーションなどの人工衛星を活用した科学教育プログラムの開発である.これまでに科学研究を目的とした明るい人工衛星の飛行経路や到来時刻を予報したホームページを公開し,運用を続けている.今年度は「人工衛星観測ナビゲータ」に掲載されている人工衛星の明るさを観測し、予測式を導いて、予報値を公開するためのプログラム開発を行った.また、米国の情報セキュリティ強化にともなって、従来のような人工衛星軌道情報の取得が困難になり、軌道情報自動更新ソフトを新たに開発する必要が生じたため、ソフトの開発を行った.国際宇宙ステーションから見た地球のシミュレーションソフトについては,平成16年度に静止画版を公開したが,本研究では,3D動画配信版の開発に関する技術的検討を行った.このソフトの開発には,MatrixEngineというゲームエンジンが有効であり,このソフトで表示するための3D地球オブジェクトの開発が必要であることを明らかにした.これらのソフト開発についても本研究と密接に関連するプロジェクトとして進め,2005年9月の段階で,試作版をweb公開した.このソフトをさらに魅力的なものにするには、気象衛星の雲画像を取得して一定時間ごとに更新するようなシステム開発が望まれる.この課題についても,気象衛星画像の入手方法について調査を行い,複数の気象衛星の画像からコンポジット画像を合成して表示することは技術的に可能であることを明らかにした.一方,こうしたソフトを活用した天体観察会についても実施し,星空のなかを飛行する国際宇宙ステーションが,児童・生徒の学習の動機づけとして有効であるというデータを取得した.このように,本研究は当初の予定を上回る成果を挙げることができた。科学教育プログラムとしての完成のためには,当初想定していなかった雲画像の表示ならびに更新システム開発、地球情報とのリンクの確立など,新たな課題が明確にできた.
著者
藤木 篤
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、技術者倫理の成立した背景とわが国でのこれまでの歩みに焦点をあてながら、昨年度に引き続き専門家としての技術者の責任に関する研究を行った。主要な業績は以下の二点である。1.「工学倫理の教科書の変遷」では、日米それぞれの主要教科書の内容を検討し、その傾向について分析を加えた。技術者倫理の教科書を網羅的に扱った先行研究としては、石原の論考(2003)が挙げられるが、以降の趨勢の変化を反映したものとしては本研究が現時点で唯一のものであり、その点において一定の意義が認められる。アメリカの教科書は従来より技術者倫理におけるプロフェッショナリズムの重要性を強調しており、近年に至ってますますその論調を強めている。本稿では、こうした論調の変化をどのように受け止めるかが、わが国の技術者倫理の今後を考える上で非常に重要な鍵となる、という点を指摘した。2.『21世紀倫理創成研究』に掲載された「工学倫理の国際普及における外的要因:技術者資格と技術者教育認定制度の国際化」では、アメリカで興った工学倫理が、わが国を含め世界中でなぜこれほどまでに急速に広まったかという理由について技術者資格と技術者教育認定制度の国際化という観点から詳述した。これらの研究活動の他に、優秀若手研究者海外派遣事業により、平成22年6月から翌23年3月まで、派遣先機関であるコロラド鉱山大学にて資料の収集を行った。具体的には、同大学附属のアーサーレイク図書館に所蔵されている、鉱業関連企業の会社報告書コレクションの内、アスベスト取扱企業に関する資料を収集した。また同館が所蔵する、アスベスト使用・規制の歴史に関する資料も併せて複写した。