著者
渡辺 慶一郎 苗村 育郎 水田 一郎 佐々木 司 丸田 伯子 金子 稔 布施 泰子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

複数大学で一般的な学生を対象に,発達障害のスクリーニングである質問紙調査を実施した.質問紙にはAQ-J(Autism-Spectrum Quotient Japanese version)を中心に3種類を採用した.調査結果を発達障害学生のデータと比較し,カットオフ値を検討したところ,先行研究とは異なる結果であった.同様に複数大学の協力を得て一般的な大学生を対象に認知機能検査であるWAIS-Ⅲ(Wechsler Adult Intelligence Scale 3rd)を実施した.この結果を,修学支援や就労支援を受けた発達障害学生と比較したところ,両者のプロフィールが異なることが示された.
著者
西本 寮子
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本年度は、大庭賢兼の事跡のうち、まず「詠百首和歌」について再検討を行うこととし、翻字の見直し作業から着手した。ついで、『伊勢物語』諸注集成について、情報を収集に努めた。さらに『太平記』の書き入れについて確認作業を進めた。吉川本太平記について、入手ずみの写真版の確認作業を進めた。固有名詞を中心に線引があることはよく知られているところであるが、その記主及び、本文を利用したのが誰であるのかは明らかにされてこなかったことから、何らかの手がかりが得られるのではないかと考えて作業を進めている。しかしながら、現時点では有力な手がかりは見いだせていない。これについては次のような見通しを立てている。毛利氏周辺にはいくつかの『太平記』伝本が伝わっており、伝本の中には元就の側近が関与したと思われるものもある。元就自身は吉川元春が書写した吉川家本の目録を記してているが、元就の孫の輝元所用本の注記には側近の名が認められる。吉川本は元春が書写したあと、元長や広家などが歴史や教養を身につけるために利用した可能性が高い。吉川家文書の元長自筆書状からは、元長が『太平記』に通じていたと考えられる文書の存在が確認できるからである。急成長を遂げた同一文化圏の中で、『太平記』がどのような意味を持っていたのか、検討を深めることができそうであるとの感触を得ている。また、大庭賢兼と元長の間には親交があったことから、元長の教養形成に賢兼が大きな意味を持っていたといえる。これらについて手がかりを求めて引き続き調査を続ける。なお、29年度は、毛利元就を始発点とする文化活動の広がりを考察するのに有益な資料を入手した。慶長三年二月十日興業の賦何木連歌一巻である。毛利元康が発句を詠じ、玄仲、晶叱、紹巴、景敏、友詮ら毛利家周辺で活躍した人物や連歌師等が参加している。時代は下るが毛利氏の文化活動の広がりの考察に利用したい。
著者
五箇 公一 立田 晴記 今藤 夏子 国武 陽子
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本産およびアジア諸国産のヒラタクワガタ地域系統の系統関係がミトコンドリアDNA分析によって明らかにされ、アジアの大陸分化プロセスにあわせてヒラタクワガタ地域系統の種分化が進行したことが示された。交雑実験により、ヒラタクワガタ系統間の交雑は遺伝的距離が大きいほど交雑和合性が高い傾向が示された。楕円フーリエ解析による大顎形態分析の結果、雑種個体雄成虫は親系統雄の形態とは異なる大顎形態を示すが、雌親系統の形態的特徴が強く示される傾向があることが示され、ヒラタクワガタの大顎形態には母性効果があることが判明した。生殖操作に関与するWolbachiaの感染は、調査した個体すべてから検出はされなかった。
著者
横内 由紀恵 (森 由紀恵)
出版者
日本女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は王家の御産・御悩の御祈を分析することで日本中世成立期の宗教の政治的機能の特色と変遷を明らかにすることにある。最終年度である平成24年度は2年目までのデータベース作成・史料調査を継続し(下記1)、その成果を研究報告や論文の形で発表し(下記2)、本研究課題の解明をめざした。1.データベース作成・史料調査:本研究課題の中心史料『覚禅鈔』の年号・書名索引は、前年度に入力作業が終了したため、本年度は校正作業を行い、精度を高めた。その過程で不明確な箇所は東京大学史料編纂所の写真帳・高野山大学図書館の原本などで追加調査を行い『大正新脩大蔵経』の底本である勧修寺本よりも情報量が多い諸本を確認した。これにより仏教史・政治史・外交史など多分野から注目されている『覚禅鈔』の情報を補填することができた。また御悩の御祈の対象ともなる内侍所神鏡について聖教類・日記史料の蒐集・調査を行った。2.調査結果の考察・発表:『覚禅鈔』データベースをもとに考察を進めた結果、『覚禅鈔』には真言宗・天台宗・大陸・神道関係の教義が反映されていること、その情報収集の方法には独特の傾向があることが判明し、論文執筆を進めた。また、1での史料蒐集・調査から、12世紀後半に政治と宗教の関係が変化する可能性があると考え、奈良女子大学古代学学術研究センター研究会「福原の時代」で「福原遷都と伊勢」と題して発表した。この研究発表の一部を論文「中世成立期の平安京と内侍所神鏡」と題して執筆し雑誌『奈良歴史研究』への掲載が許可された。拙稿では、アマテラスを正体とする内侍所神鏡・平安京・天皇との関係性の変化を整理して福原遷都を機に内侍所神鏡=アマテラスが平安京と空間的に結びつくことで「万代の都」平安京の言説化が進展することを明らかにし、中世成立期の宗教の政治的機能を都市史・政治史と関連させて説明することができた。
著者
宮 信明 飯島 満
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

速記や点取り(覚書)、草双紙などの文字テクストを比較考察することで、正本芝居噺・素噺それぞれの特徴(話法や演出、様式など)を正確に把握した。また現在、正本芝居噺のほぼ唯一の継承者である林家正雀師による正本芝居噺映像記録会を、東京文化財研究所において開催。正本芝居噺と素噺を比較するための基礎資料を作成しえたことは、本研究の大きな成果である。記録会の一般への公開は、芸能を記録するという側面からも、成果を広く発信するという観点からも、非常に意義深い試みであったと言えよう。さらに、三遊亭円朝以降の正本芝居噺の系譜についてオーラル・ヒストリーを収集し、文字資料の空白を埋めた。
著者
熊谷 隆 杉浦 誠 千代延 大造 尾畑 伸明 市原 完治
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

1。本研究を遂行する中で、有限分岐的フラクタル上の確率過程についての新たな知見が得られた。P.c.f.self-similar setと呼ばれる自己相似性を持った有限分岐的フラクタルの上にレジスタンスメトリックという距離を入れたとき、この上の拡散過程の熱核(基本解)の精密な評価が一般に可能であるという結果である。これまでに、図形に強い対称性がある場合には熱核のアーロンソン型の評価が得られていたが、今回の研究により、一般にはアーロンソン型の評価は成り立たないことがわかり、さらにショーティストパスの挙動との関連が詳しく調べられた。この結果を熊谷は共著の論文にまとめ、J.London Math.Soc.に掲載予定である。2。インフィニット、ラミファイド(無限分岐的)フラクタルについては、ランダムシェルピンスキーカーペットに於ける拡散過程の熱核の研究を行い、サンプルとなるカーペットごとの熱核の詳しい評価が得られ、ランダムネスに強いエルゴード性の条件が課せられる時には、この評価からさらに確率1で成り立つ評価が導かれることが分かった。図形が高次元の場合、バーロー・バス達によるカップリングの方法を用いることによりハルナック不等式を証明することが議論の一つの鍵となった。この結果を熊谷は共著の論文にまとめ、投稿予定である。3。ユークリッド空間での現象とのつながり、特にホモジナイゼーションについては、楠岡氏との共同研究以来くりこみ不変な点の安定性が問題になっている。本研究の中で、海外の学会等で関連した研究を行っている研究者達と議論を行い彼等のプレプリントを読むことによりいくつかの新たな手法、視点を得ることが出来たが、それを我々の範疇に適応するには依然いくつかの技術的困難が残っている。これは今後の課題である。
著者
加藤 隆弘
出版者
九州大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

統合失調症の病態治療機序はいまだ解明されていないが、近年酸化ストレスの関与が示唆されている。脳内酸化ストレス機序にはミクログリア由来のフリーラジカルが重要な役割を果たしている。研究者は近年精神疾患におけるミクログリア仮説を提唱しており、本研究では、培養ミクログリア細胞を用いた、invitro系を樹立し、その機序の一端を探った。統合失調症治療薬である抗精神病薬、特に、ユニークな非定型抗精神病薬であるアリピプラゾールに、ミクログリア活性化抑制を介した抗酸化作用を見出した。さらに、神経一ミクログリア細胞との共培養システムを用いた実験によって、アリピプラゾールには抗酸化作用を介した神経保護作用があることを見出した。これらの成果は、国際誌等で発表している。Among various antipsychotics, only aripiprazole inhibited the' 02 generation from PMA-stimulated microglia. Aripiprazole proved to inhibit the' 02 generation through the cascade of protein kinase C(PKC) activation, intracellular Ca2+ regulation and NADPH oxidase activation via cytosolic p4iphox translocation to the plasma/phagosomal membranes. Formation of neuritic beading, induced by PMA-stimulated microglia, was attenuated by pretreatment of aripiprazole.
著者
北脇 知己
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

この研究では、自転車ペダリング動作を評価するための指標を確立することを目的として、クランクとペダルの回転変動状態を正確に計測し、その変動成分を解析して自転車ペダリング動作中の筋活動状態を推定することで、自転車ペダリング動作スキルを計測可能なデバイスを構築するとともに評価指標について研究を行います。さらに、この新しいスキル指標を用いて高スキルペダリング技術の習得法についても検討し明らかにします。
著者
小野 正人
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

真社会性昆虫を代表するグループであるマルハナバチ類、スズメバチ類、ミツバチ類が、個体間のコミュニケーション手段として利用している情報機能をもつ物質群にフォーカスを合わせ、その実態の解明を行った。各々のハチ類が、さまざまな揮発性の化学物質を防衛行動、配偶行動、採餌行動に利用していることが明らかとなり、物質の特定もなされた。さらに、それらの情報機能をもつ物質を応用面で活用する試みがなされた。
著者
森田 裕介 下郡 啓夫 辻 宏子 竹中 真希子 瀬戸崎 典夫 江草 遼平 大谷 忠 北澤 武 木村 優里 齊藤 智樹
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究課題では,探究と課題解決・デザイン活動を融合したSTEAM教育カリキュラムの考案,ならびに,STEAM教育教材の開発を行う.そして,DBR(Design Based Research)による実践授業と評価を行う.考案するSTEAM教育カリキュラムは,幼稚園,小学校,中学校,高校,高等専門学校,大学を対象とし,教科横断型でかつ文理融合的に統合した学びのフレームワークである.「探究型」の学びである理数系(理学系)科目,「課題解決型」の学びである技術・情報系(工学部系)科目,「デザイン型」の学びであるアート・ものづくり系(芸術系)科目を融合し,STEAM教育プログラムの事例を作成する.
著者
玉田 敦子 安藤 隆穂 石井 洋二郎 深貝 保則 坂本 貴志 隠岐 さや香 畠山 達 三枝 大修 井関 麻帆 飯田 賢穂
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

18世紀ヨーロッパにおいては各国の覇権争いが苛烈になる中で古典古代の表象が積極的に利用された。 本研究では研究課題の核心をなす学術的「問い」として(I)「近代とは何か?」、(II)「近代国家の形成、特にその文化的アイデンティティの形成において、古典古代の表象は如何なる役割を果たしたのか?」という2点を設定し、代表者、分担者のこれまでの文献研究を発展させる形で展開していく。
著者
竹本 幹夫 山中 玲子 小林 健二 落合 博志 大谷 節子 三宅 晶子 天野 文雄 石井 倫子 稲田 秀雄 表 きよし 樹下 文隆 西村 聡 松岡 心平 三宅 晶子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

番外曲を中心に、カ行までの170番1020本ほどを翻刻した。また代表者・分担者・連携研究者はそれぞれ別記の論考を発表した。研究成果として発表した謡本以外にも、全国の謡本資料を博捜して、『国書総目録』未収の謡本を多数発見、デジタル化した。それらはハードディスクに複写して連携研究者以上の研究参加者がそれぞれ保管し、今後の作業のために役立てる。また竹本が監修し、分担者等の内、三宅晶子・山中玲子が中心となり、落合博志・大谷節子が補佐して編集実務に当たる形で、『現代謡曲集成』全6巻を企画し、勉誠出版より刊行の予定である。これについてはすでに第1巻が本年度中に刊行の予定で、数年以内に全巻刊行の後、別途全謡曲本文を網羅した『謡曲大成』を刊行の予定である。また分担者の内、大谷節子が、別記の著書『世阿弥の中世』により、2008年度角川源義賞を受賞したことも申し添えたい。
著者
Nelson Steven
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本で古代から中世にかけて盛んに演奏されたものの、後に伝承が途絶えてしまった琵琶の独奏曲、すなわち琵琶の「撥合」(かきあわせ)と「手」(て)について、その全貌を明らかにするべく、現存楽譜の翻刻と五線譜化を行った。琵琶奏者、中村かほる氏の協力を得て舞台での復元試演を行い、秘曲として重視された4曲を含め、代表的な撥合と手を録音し、後の発信に備えた。調絃を確かめるための小曲である撥合には、主要音の同音反復の音型が多く、調性は日本化された音階理論に基づいている。一方、手は伝来当初の諸特徴がよく保持され、調性については撥合と同様の変容は見られない。
著者
小島 俊彰 小林 正史 久世 建二
出版者
金沢美術工芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

以下の点で「野焼き方法は土器の形、大きさ、作りに応じた工夫が施されている」ことが明らかにされた。(1) 弥生時代の甕棺の野焼き方法: 縄文・弥生時代において最も大型であり、高度な製作技術が要求される甕棺について、福岡県小郡市の津古空前遺跡(弥生中期前半)と横隈狐塚遺跡(中期中葉〜後半)の黒斑を詳細に観察し、2回の野焼き実験を行った結果、前者では丸太を芯にした粘土円柱の支え棒を用いて野焼き時に土器を斜めに立ち上げて設置していたのに対し、後者では横倒しに設置するように変化したことが明らかにされた。この変化の理由として、「円筒形に近い形の前者では内面下部まで燃焼ガスがゆき渡るように角度を付けて土器を設置したのに対し、寸胴形に変化した後者ではその必要がなくなったため、簡便な横倒しの設置になった」という仮説が提示された。(2) 弥生時代の赤塗土器の野焼き方法: 赤塗土器が最も盛行する北部九州の弥生中期土器と長野地方の弥生後期土器(松原遺跡)の黒斑を観察した結果、1)弥生時代の赤塗土器は黒斑が少ない、2)松原遺跡では、赤塗土器の盛行に伴い土器を横倒しにし、薪燃料を多用する(側面と上部に薪を立てかける、その上を草燃料で覆う)号焼き宣法に変化する、3)縄文時代の赤塗は全て焼成後なのに対し、弥生時代の赤塗は全て焼成前に施されるようになる、などの点が明らかにされた。そして、電気窯による赤塗粘土板の焼成実験により、1)薪を多用するのは赤塗の定着度を高めるためである、2)赤塗土器に黒斑が少ないのは、ベンガラのために炭素が酸化しやすいためである、3)弥生時代の焼式前赤塗は、野焼き時に黒斑を付けないで焼くことが可能な「覆い形野焼き」に対応したものである、の3点が示された。(3) 縄文土器の野焼き方法: 4回の野焼き実験と東北地方の縄文土器(前・中期の三内丸山・板留(2)・滝の沢遺跡、および縄文晩期の九年橋遺跡)の黒斑を観察し、「内面に薪を入れて直立した状態で野焼きし、底部を加熱するため後半段階で横倒しにする」という野焼き方法を明らかにした。外面黒色化(褐色化)手法が縄文時代に盛行するが弥生時代にはほぼ消失する理由として、「一度全体を明色に焼き上げた後に、有機物を掛けて炭素を吸着させる黒色土器は、上述の開放型野焼きには適するが、弥生時代の覆い型野焼きには適さない」ことを明らかにした。
著者
小林 和人
出版者
福島県立医科大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

動物は、環境の変化に適合し、自らの行動を柔軟に変換する。この行動の柔軟性には、前頭前野皮質と線条体を連関する神経回路が重要な役割を持つと考えられている。また、前頭前野皮質―線条体神経回路の機能異常は、統合失調症などのさまざまな精神・神経疾患の病態に深く関与することも知られている。本研究では、前頭前野皮質から背内側線条体 (dorsomedial striatum/DMS) への直接入力および線条体介在ニューロンの役割に注目し、行動の柔軟性を生み出す脳内神経機構の解明に取り組む。本年度は、内側前頭前野皮質(medial prefrontal cortex/mPFC)あるいは眼窩上皮質(orbitofrontal cortex/OFC)からDMSに入力する神経路の選択的な除去のために、Cre遺伝子をコードする神経細胞特異的逆行性遺伝子導入(NeuRet)ベクターをマウスのDMSに注入し、その後、mPFCあるいはOFCにloxP/変異型loxP配列で隣接された逆位のヒトインターロイキン-2受容体αサブユニット(IL-2R)遺伝子を持つアデノ随伴型ウイルスベクターを注入することによって、特定の経路においてIL-2R遺伝子の発現を誘導した。この動物のPFCにイムノトキシンを注入することによってmPFC-DMS路の中程度の除去を誘導し、空間認識に基づく迷路学習課題を行った。mPFC-DMS路を欠損するマウスは空間認識に基づく逆転学習において正常なパフォーマンスを示し、本経路は逆転学習に関与しないことが示唆された。第二に、low-threshold spiking (LTS)介在ニューロンタイプの行動生理学的な役割を解明するために、NPY遺伝子プロモーターに依存してIL-2Rを選択的に発現するラットを作製した。このラットのDMSにイムノトキシンを注入し、LTSニューロンの選択的な除去を誘導した。この除去モデルは空間認識に基づく逆転学習の顕著な低下を示した。
著者
横川 哲朗
出版者
福島県立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

呼気検査の心不全患者における有用性について検討した。非虚血性心不全患者102名を対象として、呼気中のアセトン濃度を測定した。その結果、呼気アセトン濃度が右心カテーテル検査における血行動態と関連していた。また、35名の心不全のある糖尿病患者と20名の心不全のない糖尿病患者の呼気アセトン濃度を比較したところ、糖尿病患者においても心不全で呼気アセトン濃度が上昇していることが分かった。さらに急性心不全においても、呼気アセトン濃度が治療後に低下することを示した。心不全に対する呼気低分子化合物の中でも、呼気アセトン濃度が有用な非侵襲的バイオマーカーとなる可能性が示唆された。
著者
三田村 敏正 松木 伸浩 吉岡 明良 田渕 研
出版者
福島県農業総合センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

東北地方太平洋沖地震とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、営農中断し、その後再開した水田において、生物相の変化を明らかにするため、営農中断し表土剥ぎおよび客土を実施、営農中断し、表土剥ぎなし、営農中断なし、のほ場を平野部と山間部、さらには栽培方法として、直播と移植に分け、16地区42枚の調査ほ場を設定した。調査は「農業に有用な生物多様性の指標生物調査・評価マニュアル」により、ダルマガエル類、アカネ類・イトトンボ類、水生昆虫類、アシナガグモ類について行った。ダルマガエル類は小高区金谷で、営農再開後3年目でニホンアカガエルが初確認された。また、トウキョウダルマガエルは、営農を中断した地域で少ない傾向であった。アカネ類羽化殻は富岡町以外のすべての調査地で確認された。アカネ類の羽化時期は地域によって差がみられた。イトトンボ類は6種が確認され、アジアイトトンボが最も多かった。水生昆虫は営農中断ありでは21種、営農中断なしは13種が確認され、営農中断ありが多い傾向であった。。キイロヒラタガムシ、コミズムシ属、ヒメアメンボは前年同様、多くのほ場で、また、ヒメゲンゴロウ、ホソセスジゲンゴロウ、マメガムシ、トゲバゴマフガムシ、ミズカマキリ、メミズムシは営農中断ありのほ場でのみ確認された。アシナガグモ類ではほとんどがアシナガグモ属5種であった。トガリアシナガグモとヤサガタアシナガグモは営農を中断した地域で少なく、ハラビロアシナガグモは山間部で多い傾向であった。また、2019年度は装置の基盤に結露の影響を受けにくいような処理を施し防水性を高めるとともに、秋季には昨年度より1地区増やした6地区の水田に合計18台の自動撮影装置を設置して、自動撮影枚数と見取り調査によるアカネ類密度との相関を検討した。その結果、昨年度同様にアカネ類の自動撮影枚数と見取り調査によるアカネ類密度には正の相関が見られた。
著者
北村 義浩
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、(+)一本鎖RNAをゲノムとして有するレトロウイルスである。レセプターを介し標的細胞に進入した後、感染細胞の細胞質でゲノムRNAは逆転写酵素(RT)によって線状2本鎖DNAに変換される。この相補DNA分子はHIVの組み込み酵素(IN)を含む様々なタンパク質とともに巨大な核酸・タンパク質複合体(組み込み前複合体PIC)を形成する。しかし、この構造について、相補DNA、RT,INが含まれること以外はほとんど分かっていない。PICにVpr、MA、などウイルスタンパク質の他、さらに、宿主のHMG-I (Y)タンパク質などが共存しているという報告が散見されるもののその報告者とは異なる研究者による厳密な検証はなされていない。メカニズムは不明であるが、PICは細胞質から細胞核に移行し、細胞核内で宿主ゲノムDNAに組み込みを起こしてプロウイルスとなる。逆転写反応以降のステップのメカニズムを明らかにし、これをベクター開発に応用することを目的とし研究を行った。HIVのウイルス中央多プリン配列(cPPT)を挿入したHIVベクターの遺伝子導入効率はそのcPPTの長さあるいは、cPPTの近傍領域の配列に依存する場合があることを示した。従来の定説ではcPPTは核移行効率に関わるとされていたが、そうではなく核移行後のなんらかのステップに重要であることを明らかにした。cPPTの近傍領域にはHIVベクターのRNA量を低下させる働きのあることも明らかにした。
著者
倉林 敦 熊澤 慶伯 森 哲 土岐田 昌和 澤田 均
出版者
長浜バイオ大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

フクラガエル属(Breviceps)は、皮膚から分泌する糊によって雌雄が体を接着して交尾する、奇妙な四足動物である。我々は、発見以来60年間謎のままであったフクラガエル糊について、その物理的特徴と、構成蛋白質、およびその候補遺伝子を明らかにしつつある。本研究では、アフリカにおいてフィールドワークを行い、生殖用の糊という形質の、起源・要因・過程など、適応進化の実体を生態学・系統学・分子遺伝学の側面から解明する。この過程で、生態学・形態学的解析、新種記載、人工繁殖研究などもあわせて実施し、謎の多いフクラガエルとその近縁属の自然史について新たな知見を加えることを目的としている。本年度は、11月に南アフリカの西ケープ州、および、東ケープ州においてフクラガエル類の観察、採取を行なった。西ケープ州では、ジャイアントフクラガエル・ローズフクラガエルに加え、昨年採取はできたものの、実験前に死亡したクロフクラガエルを採取した。さらに、ケープタウンから30 kmほどの地点で、ナマクワフクラガエルを採取した。本種の分布はケープタウンから300kmほど北からと考えられていたため、これは本種の新産地の発見となった。東ケープ州では、ヘイゲンフクラガエルの採取を試みたが、成功しなかった。また、北ケープ州に分布するサバクフクラガエルを現地共同研究者に採取していただき、実験に供した。各種の糊分泌物を採取し、その強度を測定した。その結果、上記のうち1種(特許申請の関係で公表しない)は、極めて接着力の強い糊を持ち、その接着力は、アロンアルファなどの市販の接着剤を上回ることさえあった。また、フクラガエルの糊の接着力は、1)体の体積(重量)に比例して強くなる、生息地の土壌の硬さに比例して強くなる、という2つの仮説があったが、本年の研究からはそのどちらの仮説も否定された。