著者
藤原 厚作 鈴木 俊洋
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.39-46, 2023 (Released:2023-06-30)

本稿の目的は、農薬の技術(薬剤と散布方法)の発展が、農薬と農業者との間の関係性にいかなる影響を与えたかについて考察し、現代において農薬について論じるときに何を念頭におくべきかを提示することである。そのために、技術哲学の枠組みを参照しながら、農薬についての倫理の実践がどのようにあるべきかを論じた後、フィールドワークによるインタビュー調査の結果について考察する。まず、考察の枠組みを確認するために、技術哲学で提唱されている「技術に同行する倫理学」という構想を参照して、個々の使用や設計の現場における倫理の実践、いわゆる「ボトムアップ型」の倫理の実践の重要性について論じる。ボトムアップ型の倫理の実践の具体例として、1970年代後半に福岡県で起こった減農薬運動について説明する。つぎに、戦後の日本の水稲作における農薬の技術の変遷について概観し、それが、薬剤の低毒化と散布方法の省力化という二つの方向性において発展してきたことを示す。その後、かつて減農薬運動に参加していた農業者を対象として実施したフィールドワークの調査結果を検討し、農薬技術における発展が、農薬と農業者との間の関係性の希薄化という派生的影響をもたらしたことを示す。最後に、以上の知見に基づいて、現代において、我々が農薬を論じるときに何に気をつけなければならないかを考察する。
著者
田中 徹 清水 勇夫 大﨑 大輔 山下 淳 矢木 一範
出版者
一般社団法人 色材協会
雑誌
色材協会誌 (ISSN:0010180X)
巻号頁・発行日
vol.96, no.6, pp.209-211, 2023-06-20 (Released:2023-06-30)
参考文献数
8

日焼け止めやメイクアップ化粧料において,マイクロプラスチックビーズは,感触改良剤として広く使用されている。しかし近年は,マイクロプラスチック(MP)の環境流出による海洋汚染が国際的な問題として注目されており,MPビーズの代替原料が求められている。そこでわれわれは,この問題を解決すべく,環境に優しい素材としてシリカに着目し,感触特性に優れる球状シリカを開発した。そして,この感触特性に優れたシリカ粒子に対してベヘニルアルコールとジステアリルジモニウムクロリドを併用した複合多層処理を施すことで,MPビーズに近い「柔らかさ」をもつ,表面処理球状シリカの開発に成功した。
著者
池上 知子
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、不本意な学歴アイデンティティが他者に対して抱く偏見や差別感情の形成にどのように影響するかを、社会的アイデンティティ理論に依拠しながら検討した。具体的には「所属大学に自己同一視できず不本意な社会的アイデンティティに甘んじている学生ほど、自大学からの離脱を願うがゆえに自大学を卑下し、かつ他の上位の大学の学生に強い羨望を抱くが、同時に不本意な自己の現状を合理化するために、下位の大学の学生を蔑視する」という研究仮説を立て実験的手法を用いてこれを検証した。併せて、研究対象を日本の大学生にすることにより学歴に対する日本の青年の意識構造を明らかにし、日本の学歴社会の抱える問題点を探った。本研究の成果は以下の4点に集約される。1.中庸レベルにある国立大学の学生を対象に他大学の学生に対するステレオタイプ・イメージを表出させたところ、多くの学生が内集団卑下の傾向を示した。この傾向は自身の学歴アイデンティティが顕現化すると緩和されたが、その一方で他の下位の大学の学生を蔑視する度合は強まった。2.大学同一視の低い学生は自大学の劣位が明らかになるような状況下でとりわけ防衛的になり、上位の大学の学生の評価を引き上げ、下位の大学の学生の評価を引き下げる傾向を示した。3.所属大学への同一視の高い学生は、自大学、他大学いずれの学生にも概して好意的な評価をすること、とりわけ、上位の大学の学生のとったポジティブな行動に対して好意的反応を示した。4.1から3で述べた現象には学歴社会の合理性や持続性にかかわる各学生の信念が少なからず関係していることが明らかとなり、不合理だと感じる社会構造の中で不本意な社会的アイデンティティに甘んじなければならない状況が他者に対する偏見や差別感情につながることが示された。

1 0 0 0 壬申政表

著者
太政官政表課編
出版者
日本統計協会
巻号頁・発行日
1962
著者
[杉亨二講演] 世良太一[編]
出版者
横山雅男
巻号頁・発行日
1902

1 0 0 0 辛未政表

著者
杉亨二編
出版者
北畠茂兵衛等 (発売)
巻号頁・発行日
1872
著者
渡邊 智也 小野塚 若菜 野澤 雄樹 泰山 裕
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.155-176, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
29

平成29年告示の中学校学習指導要領の要諦のひとつである「思考力・判断力・表現力等」(以下,思考力とする)の育成は,各教科等のみならず,教科等横断的に身につけていく力とを相互に関連付けながら行う必要があるとされている。本研究は,教科横断的に育成される思考力の学習達成を測定する総括的アセスメント開発に向けた環境整備を目的とし,第一に教科共通の「思考スキル」という理論的枠組みを用いて具体化した,思考力の学習到達の目標である思考力Can-do Statementsに基づき,アセスメントの測定対象領域を整理した。第二に,問題項目の試作版を開発した。第三に,そのアセスメントの受検対象者となる中学生の解答時の発話プロトコルデータによる項目分析,および量的な解答データによる項目分析の結果に基づき,項目の妥当性の証拠および項目を改善するための手がかりの収集を試みた。
著者
中國 正祥
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.142-146, 2022 (Released:2022-02-01)
参考文献数
6

遺伝子治療は難治性疾患の治療法として世界各国で臨床開発が進んでおり,我が国でも脊髄性筋萎縮症に対する遺伝子治療用製品や血液腫瘍に対するキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法などが臨床応用されている.遺伝子治療の臨床開発が進む一方で,遺伝子治療特有の安全性評価,法規制の遵守や製品管理など,従来の薬物療法とは異なる対応が医療側に求められており,治療実施には円滑な多職種連携の体制構築が必要となる.本稿では遺伝子治療の概要を示し,当センターの事例をもとに治療実施に向けた医療側の対応について概説する.
著者
Naoki HIRAIWA Mai BANDO Shinji HOKAMOTO
出版者
International Symposium on Space Technology and Science
雑誌
Journal of Evolving Space Activities (ISSN:27581802)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.48, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
23

This paper proposes an algorithm to systematically search for a good sequence and the number of intermediate orbits in order to design the low-thrust minimum-fuel halo-to-halo transfer. The proposed algorithm applies successive convex optimization for the optimal transfer design, and initial guesses for the optimization are generated by beam search. In the beam search process, intermediate halo orbits that construct the initial guesses are chosen from a family of halo orbits so that they are located between the initial and final halo orbits. By determining the appropriate evaluation index for the intermediate orbit design, the proposed algorithm can collect local optimal solutions with a reasonable computational time. The obtained optimal transfers provide several options for the total △V and time of flight, which helps to find the suitable solution based on mission requirements.
著者
横田 渉 大淵 康成
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 41.12 映像表現&コンピュータグラフィックス (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
pp.261-264, 2021 (Released:2021-07-07)
参考文献数
4

不可視部情報の判別を行う方法として、打音検査に代表されるような、音響信号を用いる方法が存在する。そのような音響分類の例として、本論文では硬貨の落下音の分類を扱う。従来の硬貨判別の研究では、単一の特徴量を人間が分析を行っていた。この分析方法では複数の特徴量を正確に分析することは難しいと思われる。大量の特徴量を正確に分析することが必要だと考える。音響信号を用いた分析に機械学習を組み合わせることで大量の特徴量を使用した分析をより正確に行うことが出来ると思われる。そのため、日常生活において使用されている五円硬貨と十円硬貨を様々な素材に落下させた際の音に対して機械学習を用いて分析を行った。
著者
Dongmei Qiu Takeo Tanihata Hitoshi Aoyama Toshiharu Fujita Yutaka Inaba Masumi Minowa
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.254-257, 2002 (Released:2007-11-30)
参考文献数
15
被引用文献数
18 19

In order to describe the relationship between mortality rate and extreme heat during the summer of 1999 in Hokkaido, we calculated the monthly age-adjusted death rates, average monthly mean temperature and average monthly high temperature for the years 1995 to 1999 in Hokkaido.The materials were derived from Statistics and Information Department, Minister's Secretariat, Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan, Statistical Bureau Management and Coordination Agency Government of Japan and the Japan Meteorological Agency.Trends in the monthly age-adjusted death rates and temperature changes in the same period were analyzed. The highest average monthly high temperature for August and September (28.8°C and 23.8°C, respectively) occurred in 1999;the similar trend was observed in the highest average monthly mean temperature.In August 1999, there were 14 days with highest temperatures of 30°C and over.The age-adjusted rate in August 1999 was significantly higher compared with those for the years 1995 to 1998 (p<0.01).We concluded that an unusually hot spell in 1999 was followed by a high mortality rate in Hokkaido.J Epidemiol, 2002;12:254-257
著者
上野 美香
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.156, pp.1-15, 2013 (Released:2017-03-21)
参考文献数
19

EPA(経済連携協定)に基づく介護福祉士候補者の日本語をめぐる問題は,日本語研修の成果と課題,国家試験に関する調査や分析等を中心に議論が重ねられてきた。一方,受入れ現場や就労場面に焦点を当てた研究は数が限られており,成果が待たれる状況にあると言える。 そこで筆者は,介護現場でフィールドワークを行い,日本人介護職員の視点からインドネシア人候補者の日本語をめぐる諸問題を明らかにすることとした。参与観察とインタビュー調査によって得られたデータを分析した結果,専門用語,リフレーズ,介護場面での日本語運用という側面から日本人介護職員の問題意識が浮き彫りにされた。本稿では,これらの問題についてデータを引用しながら実証的に論じ,受入れ現場からの知見に照らして,候補者を対象とした日本語教育および日本人介護職員への働きかけの方途を探り,課題を提起した。
著者
波多野 和夫 広瀬 秀一 中西 雅夫 濱中 淑彦
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.140-145, 1994 (Released:2006-06-06)
参考文献数
13
被引用文献数
5 2

反復性発話あるいは常同性発話の概念を整理し,さまざまな特徴を取り上げて,それによる分類を試みた。本稿では,この概念は可能な限り広く設定されており,反復言語,滞続言語のみならず,反響言語,再帰性発話などをも包含している。このような現象論としての症状学に立って,吃音症状,CV再帰性発話,部分型反響言語,音節性反復言語,語間代を含む音節レベルの反復性発話をまとめて検討した。特に,このうちの語間代 (Logoklonie) の問題に焦点を当て,自験症例の報告を通じて,その成立に関与する要因を検討することにより,発現機制に関する考察を試みた。
著者
御厨 貴 牧原 出 手塚 洋輔 佐藤 信 飯尾 潤
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

政治主導が高まる中で,多様な政策分野で活用されつつある有識者会議に注目し,その現代的変容を解析した。その成果として,(1)災害復興や皇室政策といった個別領域における有識者会議の作動について研究した。(2)聞き取りの方法論に関しても,近年の動向を踏まえて,整理と提起を行った。(3)現代的な変容の一つとして,同種のテーマで繰り返し有識者会議が設置され,しかも同一の委員が長期にわたって参画するという新しい傾向を指摘できる。
著者
河合 佑亮 西田 修
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3-4, pp.377-387, 2022-08-15 (Released:2022-08-15)
参考文献数
33

集中治療領域における短期の生命予後改善の一方で,集中治療後症候群(Post intensive care syndrome:以下,PICS)や,ICU滞在中の療養環境の調整,医療者・患者・家族のかかわりなどに関する課題が浮き彫りになりつつある。「Patient–and Family–Centered Care」は,患者と家族の精神に関連した内容,ICUにおける療養環境や意思決定支援などに関する内容を扱う領域と位置づけ,6つのCQで構成されている。CQ20–1:患者と家族に対する,PICSおよびPICS–Fに関する情報提供の方法は?CQ20–2:敗血症患者あるいは集中治療患者に対してICU日記をつけるか?CQ20–3:集中治療中の身体拘束(抑制)を避けるべきか?CQ20–4:睡眠ケアとして換気補助または非薬物学的睡眠管理を行うか?CQ20–5:ICUにおける家族の面会制限を緩和するべきか?CQ20–6:患者の価値観・考え方等を尊重した意思決定支援の方法は?これらはエビデンスに乏しい領域であるが,今後の敗血症診療,集中治療の質を向上し得る非常に重要な領域である。
著者
岩崎 利泰 冨田 雅典
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.668-673, 2009 (Released:2019-06-17)
参考文献数
6

放射線防護において,放射線が人に与える影響を表すためのモデルとして,しきい値なし直線(LNT)モデルがある。これは基準を安全側に考えるための管理目標値を示すためのものであるが,時として放射線はどんなに微量であっても量に応じた影響があるとの誤解の元となっている。電力中央研究所(電中研)では,低線量や低線量率のときに実際にどのような影響があるかを明らかにするため,生物学的な機構面から取り組んでいる。その概要について紹介する。
著者
Mai Iwanaga Mako Iida Natsu Sasaki Risa Kotake Yasuko Morita Hiroki Asaoka Kyosuke Nozawa Hiroo Iwanaga Norito Kawakami
出版者
Japan Society for Occupational Health
雑誌
Environmental and Occupational Health Practice (ISSN:24344931)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.2022-0026-RA, 2023 (Released:2023-06-25)
参考文献数
34

Objectives: Work-related subjective well-being (SWB) may be negatively affected by early-life adverse experiences, such as school bullying experience. This study aimed to identify the association between work-related SWB and school bullying experiences. Methods: A systematic review was conducted using five electronic databases to search for published observational studies from inception to May 5th, 2022. Eligibility criteria included the original papers in English, which measured school bullying experiences and work-related SWB (eg, satisfaction, engagement). Eight researchers independently conducted screening and a full-text review. We used the Risk of Bias Assessment tool for Non-randomized Studies to assess the certainty of the evidence. Narrative data were summarized. The study has been registered at UMIN-CTR (UMIN000040513). Results: A total of 6,842 studies were initially searched. We included two cross-sectional studies. Both studies were rated as high risk for bias in exposure measurements and incomplete outcome data. These studies showed conflicting results. One study reported that school bullying was negatively associated with job satisfaction among British lesbian, gay, or bisexual workers; on the other hand, another study reported that school bullying was positively associated with work engagement among Japanese workers. Conclusions: We found limited inconsistent evidence for the association between work-related SWB and school bullying experiences.
著者
稲垣 健太 落合 信靖 平岡 祐 伊勢 昇平 嶋田 洋平
出版者
日本肘関節学会
雑誌
日本肘関節学会雑誌 (ISSN:13497324)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.232-237, 2022 (Released:2022-12-16)
参考文献数
10

【目的】上腕骨外側上顆炎(LE)におけるECRB起始部,滑膜ひだのMRI所見について評価/分類すること.【方法】治療前MRIを撮影した191例210肘を対象とした.ECRB起始部をT2強調/脂肪抑制プロトン密度強調(PDFS)冠状断像にて評価し,信号変化の有無/範囲で分類した.滑膜ひだの有無をT2強調冠状断/矢状断像にて評価し,先端の形状と長さで分類した.MRI所見と臨床所見を比較した.【結果】ECRB起始部信号変化はPDFSで205肘(97.6%),T2強調像で170肘(81.0%)に認めた.滑膜ひだは188肘(89.5%)に認め,形状がdullなものが77肘(36.7%),長さが1/3以上のものが71肘(33.8%)であった.MRI所見と臨床所見に関連はなかった.【考察】LEでは高率にECRB起始部信号変化と滑膜ひだを認めるが臨床所見とは関連せず,MRI所見に捉われすぎない必要がある.