著者
Toshiki Fukuzaki
出版者
Tottori University Medical Press
雑誌
Yonago Acta Medica (ISSN:13468049)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.306-310, 2023 (Released:2023-05-25)
参考文献数
24

Positive thinking is one of the psychological skills that mental training programs aim to help athletes cultivate in order to enhance performance. It has been noted, however, that some athletes do not find positive thinking effective for that purpose. This case report describes a fencing athlete who used positive thinking to cope with negative ruminations prior to a competition and then stopped using positive thinking and engaged in mindfulness. As a result of applying mindfulness, the patient developed the ability to take part in competitions without obsessing and without negative ruminations. These findings show the importance of assessing, in detail, how the psychological skills training used with athletes is affecting their cognition, behavior, and performance and of implementing appropriate interventions based on these assessments.
著者
神山 進 高木 修
出版者
一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
雑誌
繊維製品消費科学 (ISSN:00372072)
巻号頁・発行日
vol.31, no.10, pp.488-496, 1990-10-25 (Released:2010-09-30)
参考文献数
7

人々の主観に基づく危険性の評価のことをリスク知覚と呼び, また主観に基づく利益・恩恵の評価のことをベネフィット知覚と呼ぶ.本研究では, 特に流行に敏感な商品の購入時に知覚されるベネフィットやリスク (すなわち‘知覚されたファッション・ベネフィット’や‘知覚されたファッション・リスク’) について, それらの内容や両者の関連性などが, 衣服の購入事態を通して検討された.得られた結果は, 次のごとくであった.1) 購入衣服に対して消費者が期待する利益・恩恵の中で, 特に顕著なものは, 値段が手頃・似合っている・他の服と組合せやすい・着こなしやすい, などであった.2) ‘知覚されたファッション・ベネフィット’は, 「品質・性能期待」, 「流行性・他者承認期待」, 「似合い・着こなし期待」, 「自己の顕示・解放期待」から構成された.3) ‘知覚されたファッション・リスク’は, 「品質・性能懸念」, 「服装規範からの逸脱懸念」, 「流行性懸念」, 「自己顕示懸念」, 「似合い・着こなし懸念」から構成された.4) ‘知覚されたファッション・ベネフィット’と‘知覚されたファッション・リスク’との間には, 正の関連性が認められた.しかしベネフィットとリスクのそれぞれの成分の間には, 相互に効果を打ち消し合うように作用するものもあった.特に, 「服装規範からの逸脱懸念」と「自己の顕示・解放期待」との間の負の関係は顕著であった.5) ‘知覚されたファッション・ベネフィット’と‘知覚されたファッション・リスク’との間の心理的取引の様式に基づいて, 被調査者が4群に分割された.すなわち「自己顕示型」, 「精力消費型」, 「機能尊重型」, 「規範固執型」, である.6) 以上4つの被調査者群のそれぞれを, 性別と社会心理学的特性によって特徴づけることが出来た.
著者
篠原未歩 石井英里子 星野祐子 山田光穗
出版者
特定非営利活動法人 パーソナルコンピュータ利用技術学会
雑誌
パーソナルコンピュータ利用技術学会論文誌 (ISSN:18817998)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.40-55, 2021 (Released:2022-03-18)

映像視聴が人にもたらす効果の研究では,主観評価や眼球運動計測を用いる研究が多く行われているが,生体信号を軸とした研究事例が少ないのが現状である.また,「癒やし効果」に関しては評価基準が難しく,明確な研究報告が行われていない.そこで,本研究では「癒やし効果」に着目し,主観に左右されない生体信号を用いることで高精細映像がもたらす効果を明らかにする.癒やし効果の評価にはリラックスに関連する副交感神経の影響を評価することが最適だと判断し,計測する生体信号は心拍数,呼吸数,脳血流動態,皮膚温度とした.さら に,映像品質に関する重要な要素である解像度と色域 ・輝度に着目し, ,2種類の実験を行うことで,より詳細に高精細映像が人にもたらす癒やし効果を解析・検討した. 本研究結果では,高解像度・広色域・高輝度の自然映像に 大きな 効果が見られた.このことから,高品質な映像条件で視聴することによって,実際に見る景色に近づき,自然の中にいる時と同等の癒やし効果を得られる可能性が高いことを示した.
著者
鎌田 美希子 中尾 総一 阿部 建太 岩崎 寛
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.63-68, 2021-08-31 (Released:2021-12-29)
参考文献数
10
被引用文献数
1

近年,オフィス勤務者のコミュニケーション円滑化やストレス対策として,休憩室を設置する会社が見られる。一方,オフィス緑化が勤務者のストレスを緩和するという報告があり,休憩室の緑化はストレス対策として有効であると考えられる。しかし休憩室の緑化については継続的な利用での効果検証が求められるが,そうした研究はほとんど見られない。そこで本研究では緑化休憩室内で休憩した際の効果の把握を目的とし,長期間にわたり生理・心理的指標の測定を試みた。その結果,緑化休憩室での休憩が負の感情状態を改善し,仕事・職場に対する評価を改善することなどが明らかとなり,緑化休憩室での休憩が勤務者の心理に有用であることが示された。
著者
宮崎 由樹 井上 葉子 益尾 建志
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.68-73, 2020-04-15 (Released:2021-06-23)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本研究の目的は,作業環境・作業後の休憩場所が作業者の精神的疲労感に及ぼす影響を検討することであった.実験の被験者は,まず屋内あるいは屋上いずれかの実験環境で負荷課題(文章の書き写し)を行った.精神的疲労感は課題の前後で心理尺度(Profile of Mood States-2nd Edition)を用いて測った.被験者は,屋内ないし屋上で5分間の休憩を取得した後で,先ほどとは異なる,もう一方の実験環境で同一の負荷課題を行った.実験の結果,負荷課題前にくらべた負荷課題後の精神的疲労感の上昇の程度は屋内でも屋上でも変わらなかった.一方,5分間の休憩を取得することによる疲労感低減効果は,屋内にくらべて屋上の方が大きかった.これらの結果は,屋内にくらべて,作業後の休憩を屋上で取得することは疲労感解消に効果的であることを示唆する.
著者
木口 大輔 坂根 照文 田内 秀樹 首藤 貴 吉野 一弘 片木 祐志 渡辺 好隆 門田 詩織
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1203, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】暗い色が明るい色に比べ重く感じるという重さ判断に及ぼす色の違いは様々な分野で述べられているが、報告されている先行研究は少ない。そこで、リハビリテーションで使用されている重錘バンドの色に着目し検討した。【方法】参加者:2006年9月から2006年10月の間に当院に入院し、リハビリテーションを受けた患者22名とした。男性9名、女性13名、平均年齢63.8±16.0歳であった。手続き:OG技研社製1kgの重錘バンドで通常販売品のGF-115黄色と、同社製で特別注文品である濃紺色で1kgの重錘バンドを使用した。重錘バンドは長さ435mm×幅120mmであった。当院で行なわれている通常のリハビリテーションの一環として下記の実験を行なった。実験は午前10時頃から開始された。まず、参加者に現在の下肢の疲労感を尋ねた。疲労感は、「非常に疲れている」、「かなり疲れている」、「やや疲れている」、「あまり疲れていない」、「全然疲れていない」の内から1つ選択させた。次に参加者を端座位にさせ、両側下腿遠位部に重錘バンドを巻き、膝関節完全伸展位を左右の足で交互に5秒間ずつ保持させた。これを10分間行なわせた。このリハビリテーション終了直後に、下肢の疲労感をリハビリテーション開始前に行なわせたのと同じ評定用紙に回答させた。続いて、リハビリテーションで使用した重錘バンドの重さの印象を「かなり重い」、「やや重い」、「どちらともいえない」、「やや軽い」、「かなり軽い」の内から1つ選択させた。このリハビリテーションを4日間行なった。黄色と濃紺色の2種類の重錘バンドを、交互に使用した。参加者の半数については黄色の重錘バンドでリハビリテーションを始め、次の日には濃紺色の重錘バンドでリハビリテーションを行なった。残り半数の参加者は濃紺色の重錘バンドでリハビリテーションを始め、次の日には黄色の重錘バンドでリハビリテーションを行なった。【結果】下肢の疲労感は、「かなり疲れている」から「全然疲れていない」の5段階尺度を、それぞれ5点から1点と得点化し、リハビリテーション開始前と終了直後の差を求め、Wilcoxonの符号付順位検定を行った。その結果、重錘バンドの色の違いの効果はp>.05で、有意ではなかった。リハビリテーション後での疲労感に色の違いは影響しなかった。重錘バンドの重さ判断は、「かなり重い」から「かなり軽い」の5段階尺度を、それぞれ5点から1点と得点化し、Wilcoxonの符号付順位検定を行った。その結果、重錘バンドの色の違いの効果はp<.05で有意であった。暗い色がより重く感じられた。【考察】リハビリテーションにおける重錘バンドを利用した筋力トレーニング場面において、重錘バンドの色の違いは、下肢の疲労感には影響がないが、重さの印象に影響があった。一般的に重錘バンドは、重量別に色分けされ販売されていることが多いが、明度の高い色の使用が望ましいことが示唆された。
著者
湯木 洋一 Yoichi Yuki
雑誌
神学研究 (ISSN:05598478)
巻号頁・発行日
no.40, pp.203-218, 1993-03-30
著者
和久田 未来 臼井 晴信 西田 裕介
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.67, 2012 (Released:2013-01-10)

【目的】 疲労感は、発熱や疼痛などと共に身体の異常を認知する重要なアラームの1つであり、理学療法士は個々の疲労を客観的に評価し、疲労の程度に応じて理学療法を変更する必要がある。しかし現在、疲労を客観的に評価する方法としてはfMRIを用いたり、疲労の結果生じるパフォーマンスの低下を評価したりするものが一般的であり、これらの評価方法では、理学療法士が臨床場面で簡便に個々の疲労を評価することは困難である。慢性疲労は自律神経機能障害と関連しているという報告から、疲労感を自律神経活動で評価することができると考えられる。そこで本検討では、一症例の疲労感と自律神経活動の経時的な変化から、疲労感と自律神経活動との関係性について症例検討を行った。【方法】 〔患者情報〕 本症例は70代女性(身長152.5㎝、体重54㎏)で、H24年3月27日に転倒して左大腿骨頚部骨折と診断され、人工骨頭置換術を施行している。本症例は疲労の訴えが強く、疲労感が強い日は理学療法介入の阻害因子となった。〔測定方法〕 測定期間はH24年5月20日から29日までの9日間で、疲労感と自律神経活動の経時的変化を測定した。疲労感の指標にはVisual analog scale(以下VAS)を使用した。自律神経活動は、心拍計(POLAR RS800CX Polar社製)を使用して背臥位でのRR間隔を5分間測定し、心拍変動解析から副交感神経活動の指標であるRMSSDとHF、交感神経活動の指標であるLF/HFを得た。統計学的分析は、疲労感のVASと自律神経活動との関係性はPearsonの積率相関係数を用いて検討した。さらに、疲労感のVASを従属変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行い、自律神経活動が疲労感へ与える影響を検討した。有意水準は危険率5%未満とした。本検討はヘルシンキ宣言に従い、症例に対して目的を説明して同意を得て実施した。【結果】 疲労感のVASと副交感神経活動(RMSSD、HF)の経時的変化では、鏡像現象が観察でき、疲労感のVASと副交感神経活動との間には有意な負の相関関係が認められた(RMSSD:r=-0.71 p<0.05、HF:r=-0.74 p<0.05)。交感神経活動(LF/HF)においては有意な正の相関関係が認められた(r=0.68 p<0.05)。分散分析表の結果は有意で、独立変数のうちHFのみが採択され、寄与率は54%であった(偏回帰係数:0.74、95%信頼区間:[7.48-10.29])。【考察】 疲労感は主観的なものであるため、不定愁訴として捉えられがちであったが、本検討より主観的な疲労感の強さは副交感神経活動の退縮によって生じていることが示唆された。慢性疲労の原因は、自律神経の調整に関与する前帯状回でのアセチルカルニチンの代謝異常であると報告されている。アセチルカルニチンはアセチルコリン産生を促進する物質であることから、副交感神経活動と疲労感に強い因果関係が生じたと考えられる。【まとめ】 本検討より、副交感神経活動の指標の中でもHFの変動を経時的に評価することで、個人間の疲労感を客観的に評価できる可能性が示唆された。理学療法士が疲労感を評価して、疲労の程度に応じた運動介入やプログラムの変更により、慢性疲労患者のパフォーマンスの向上に寄与できると考えられる。
著者
中川 威 安元 佐織 樺山 舞 松田 謙一 権藤 恭之 神出 計 池邉 一典
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PR-013, 2021 (Released:2022-03-30)

疲労感は加齢の兆候として知られる。睡眠不足は疲労感を生じさせるが,過眠と疲労感の関連は明らかではない。そこで本研究では,地域在住高齢者を対象に日誌調査を行い,今夜の睡眠と翌日の疲労感の関連を検討した。ベースラインで,年齢,性別,居住形態,精神的健康,身体的健康を尋ねた。7日間にわたり,起床後に,就寝時刻,起床時刻,睡眠の質を,就寝前に,1日に経験した疲労感,ポジティブ感情,ネガティブ感情を尋ねた。分析対象者は1日以上回答した58名(年齢82-86歳;女性37.9 %)である。調査参加者は,朝に平均6.8回(SD=1.0),晩に平均6.9回(SD=0.7)回答した。睡眠時間は平均8.0時間(SD=1.0)で,2.0時間少ない日も2.4時間多い日もあった。マルチレベルモデルを推定した結果,個人間レベルでは,睡眠時間が多い人と少ない人では,疲労感に差は認められなかった。個人内レベルでは,睡眠時間の二乗項と疲労感の関連が統計的に有意であり,睡眠時間が少ない日と多い日では,平均的な日に比べ,疲労感が高い傾向が示された。高齢者では,睡眠不足に加えて過眠もまた疲労感を生じさせることが示唆された。
著者
森井 沙衣子 坂本 薫 白杉(片岡) 直子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成28年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.139, 2016 (Released:2016-08-28)

【目的】浸漬温度が異なる米の吸水率について検討したところ,温水浸漬と低温浸漬では,吸水曲線が交差する現象が観察され,平衡状態まで吸水させた場合では,温水浸漬よりも低温浸漬の米の吸水率が高くなることをすでに明らかにした。本研究では,さらに品種および搗精度が異なる米の吸水率について,同様に吸水曲線が交差する現象が観察されるかどうかを明らかにすることを目的とし,実験を行った。 【方法】試料米はキヌヒカリ,ササニシキ,ハツシモの3品種とし,玄米および93%または91%搗精米を用いた。浸漬温度は5,20,40℃とし,それぞれ10,20,30,40,50,60,90,120,240,480分間,さらに吸水率が平衡にならなかった場合は平衡になるまで各設定温度の水に浸漬させた。浸漬後,小型遠心分離機を用いて3,000 rpmで5分間遠心脱水を行い,米の吸水量から吸水率を求めた。 【結果】91,93%各搗精米の吸水率は品種に関わらず,浸漬30分までは浸漬温度40℃で最も高値を示したが,60分後には20℃での吸水率が高くなった。さらに浸漬時間を長くすると5℃浸漬米の吸水率も40℃浸漬米よりも高くなったことから品種にかかわらず,5,20℃浸漬と40℃浸漬では,吸水曲線が交差することを観察した。また品種によって吸水率に差は見られるものの,91,93%各搗精米を平衡状態まで吸水させた場合,5℃浸漬米の吸水率が高くなる傾向が見られた。玄米においても短時間の浸漬では40℃浸漬米の吸水率が高値を示したが,長時間浸漬させると,5,20℃各浸漬米の吸水率は40℃浸漬米とほぼ同等の吸水率となるか,もしくは搗精米と同様に吸水曲線の交差が起こることが明らかとなった。
著者
伊波 慶洋 入江 徹 金城 春野
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.87, no.802, pp.2364-2372, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)
参考文献数
13

Cement roof-tile in Okinawa had a great impact on the formation of the Okinawan landscape. This cement roof-tile was brought from Taiwan and produced mainly in Nago City, Okinawa, and spread widely throughout Okinawa. However, Currently, cement roof-tile is not being produced. The purpose of this study is to investigate the situation of cement roof-tile in Nago City and to clarify the vicissitudes of cement roof-tile and their uses in building components. The results of the survey showed that cement roof-tile use was on the decline. However, the survey also revealed that cement roof-tile is used in distinctive ways.
著者
岡谷 貴之 出口 光一郎
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.92-100, 2000-01-15

陰影から形状を復元する問題は1階の偏微分方程式として定式化される.解法には古典的な特性方程式による方法のほかに,等高線の発展によって解を計算する方法がある.従来のやり方ではランバート面が仮定されていた.本論文では,ランバート面に限らない一般の拡散反射を考慮する.等高線に基づく形状復元が可能になるために反射率分布図が満たすべき条件を示す.
著者
大久保 敏弘
出版者
公益財団法人 NIRA総合研究開発機構
雑誌
NIRAオピニオンペーパー (ISSN:24362212)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.1-10, 2023-03-03 (Released:2023-03-07)

コロナ禍を契機に、ネット経由で、単発・短時間のサービスを提供する「ギグワーク」への関心が高まっている。働く側にとっては、スキルや時間を活かして自由度の高い働き方を実現でき、発注側はニーズに応じたサービスを手ごろな価格で利用できる。一方、ギグワーカーは労働者としての権利や福利厚生が保障されていない。所得も不安定になりがちで、セーフティネットの脆弱性が課題だ。労働力不足が進む日本社会にとって、また、昨今の物価高騰が進む中、ギグエコノミーの重要性は増しており、新しい働き方を健全に発展させられるか、分水嶺に立っている。就業者実態調査の結果によると、副業・兼業としてのギグワークの経験がある就業者は全体の4%、日本全体で推定275万人程度いることがわかった。特に若年層、従業員のいない自営業主、専門技術職、管理職、テレワーク利用者ほどギグワークを行っている。内容は「データ入力作業」などホワイトカラー系の仕事が多く、隙間時間を使った本業の所得補填の色合いが強い「後ろ向きのギグワーク」が中心だ。従来期待されていた、組織に縛られず自らのアイデアやスキルで柔軟に効率よく働く「前向きのギグワーク」とは異なる。「前向きのギグワーク」を普及させるには、企業が副業に肯定的になり、従業員のスキルを正しく評価し十分な賃金を保障すること、マッチングプラットフォームの制度設計を改善していくことが不可欠だ。