著者
河島 克久 和泉 薫 卜部 厚志
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、水文気象学、水文地質学および雪氷学的観点から雪泥流の発生過程と始動メカニズムを解明することを自的として、雪泥流多発河川である南魚沼市の水無川を対象として現地調査・観測を行ったものである。その結果得られた主な研究成果は次のとおりである。1.地下構造の特徴と河床積雪の形成扇頂部において岩盤が急激に落ち込むという水無川扇状地の特徴的な地下構造が、扇央・扇端部における渇水時の地下水位面の低下と表面水流の完全伏没をもたらしている。この特徴的な地下構造が河床上に河川外とほぼ同量の積雪の堆積を可能としている。ただし、著しい暖冬少雪の場合には、河床積雪の形成が見られない。2.積雪期の降雨流出南魚沼地域では例年、厳冬期から融雪初期にかけて、河床積雪が存在する条件下で日本海低気圧の東進に伴う急激な気温上昇と短時間強雨が複数回ある。同地域の積雪は融雪等の影響で厳冬期でもざらめ化が進行しているため、低気圧によってもたらされた降雨は速やかに地中へ流出する。この降雨イベント前までに地下水位がある程度回復していれば、10〜20mm程度の短時間降雨によって雨水は扇央部において表面水を形成して流出する。3.雪泥流の始動メカニズム降雨によって形成された表面水は、積雪によって流下が妨げらるため、扇央部において積雪全体を数分〜数十分で飽和させる。飽和後は積雪表面上に水流が形成される。水飽和状態となった積雪はその強度が急激に低下するため、局所的な構造的弱听を起点として雪泥流が始動する。水無川では、雪泥流は河床積雪の形成開始地点(魚野川との合流点から約5km地点)から始動するものと考えられる。
著者
菊地 勝弘 太田 昌秀 遠藤 辰雄 上田 博 谷口 恭
出版者
北海道大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1987

今日まで研究代表者によって報告された低温型雪結晶は, ー25℃以下の比較的低温下で成長し, その頻度は, 時には結晶数全体の10%を占めることが明らかにされたが, これらの結晶形は, 複雑多岐で, まだ, 十分分類もされておらず, 「御幣型」や「かもめ型」は便宜上名付けられたもので, 正式の名称はない.一方, 極域のエアロゾルはその季節変化, 化学成分に注意が払われてきてはいるが, 降水粒子の核としての性質, つまり低温型雪結晶の結晶形, 成長との関連については全く注目されていない. この研究では, 低温型雪結晶を極域エアロゾルの性質を加味して総合的に研究し, 低温型雪結晶の成長機構を行らかにしようとするものである.昭和62年12月17日成田を出発した一行は, オスロで機材の通関を行い, ノールウェイ極地研究所で研究計画の打合せを行った後, 12月22日アルタおよびカウトケイノの研究観測予定地に機材と同時に到着した. 両観測地点共, 翌12月23日より観測を開発した. 第1図に観測地の地図を示した.今冬のヨーロッパは, ノールウェイを含め暖冬で, 観測期間中気温がプラスになったり, みぞれが降ることもあり, 必ずしも低温型雪結晶の観測に恵まれた条件とは言えなかったが, 以下に示すような膨大な試料を得ることができ, 必ずしも低温型雪結晶の観測に恵まれた条件とは言えなかったが, 以下に示すような膨大な試料を得ることができ, 成功であった. 得られたデータは次のようなものである. 偏光顕微鏡写真35ミリカラーフィルム65本, 35ミリモノクロームフィルム:2本, レプリカスライドグラス:340枚, 電顕用レプリカフィルム:205枚, ミリポアフィルターによるエアロゾル捕集:110枚, テフロンフィルターによるエアロゾル捕集:40枚, 降雪試料瓶:60本.この内, 低温型雪結晶を110個観測することができた. 特に今回は, 低温型雪結晶の「御幣型」に特徴的な成長がみられた. 即ち, 結晶成長の初期の段階であると考えられている凍結雲粒が1対の双晶構造をもって凍結し, それから両側に御幣成長したと思われる結晶が数多く発見された. 第2図はアルタで, 第3図はカウトケイノで今回新らたに観測された御幣型の雪結晶である. 更に地上気温が高かったためであろうか, それぞれのスクロール(渦巻状)から板状成長しているものも認められた.極域エアロゾルに関するアルタの観測では, 南側の内陸からの風系で直径0.3μm以上の粒子濃度は10個/cm^3であったが, 強風の場合は1個/cm^3まで減少し, カナダ北極圏よりやや少な目であった(第4図). 一方, 北側の海からの風系では, 1μm以上の粒子が増加した. これらの風系に対するエアロゾルと低温型雪結晶の中心核との関係については, 昭和63年度の調査総括により解析され, 明らかにされるであろう.
著者
堀口 薫 水野 悠紀子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

着氷力の評価としては、半世紀以上もの間、低い温度(例えば-5℃や-10℃)での付着面のセン断凍着力が採用されてきた。そして、水との接触角の大きい物質がセン断着氷力が小さいことから、難着雪氷材料として撥水性材料の開発研究が行われ、現在接触角が150度以上の塗料が存在する。我々は氷が付着するメカニズムを解明するために、セン断着氷力の温度依存性を詳しく調べた。その結果、次のことが明らかになった:(1) 撥水性材料(テフロン)の場合、氷の付着面でのセン断着氷力は、温度が高くなると僅かに減少するが、付着面での破壊の型はbrittle failureであった。(2) 親水性材料(ガラス)の場合、撥水性材料に比べて、セン断着氷力の温度依存性は大きく、破壊の型は低温領域(マイナス数度以下)ではbrittle failureであるが、マイナス数度以上の温度領域では破壊はviscou failureであった。(3) セン断着氷力の値自身は、低温領域ではテフロンの方がガラスよりも小さかった。しかし、高温領域では逆にガラスの方がテフロンよりも小さかった。(4) 界面での破壊に必要なエネルギーは、同じ温度では、viscous failureの方がbrittle failureよりも多い。以上の結果から、着氷力のメカニズムは材料と温度に依って異なることが分かった。したがって、着氷防止対策も状況に合わせて異なる。例えば、融点に近い温度での着雪氷の除去を例に取ると、小さな力で除去したいときには親水性材料を用いた方が経済的であるが、少ないエネルギーで除去したいのであれば撥水性材料を用いた方がより経済的であることが分かった。
著者
若浜 五郎 小林 俊一 成田 英器 和泉 薫 本山 秀明 山田 知充
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

温潤積雪の高速圧密氷化過程は、野外観測と実験室における定荷重圧縮実験によって研究した。野外観測では、温潤な平地積雪と雪渓の帯水層に長期間浸っている積雪とに着目して、その圧密状態や過程を観測した。その結果融雪開始時期から全層濡れ雪になるまでの時期に、積雪は急激に圧密されてその密度を増し、2mを超えない自然積雪では、およそ濡れ密度0.46ー0.5g/cm^3に達した後、消雪までの間この密度に保たれることが分かった。雪渓下部帯水層の水に浸った積雪は、そのすぐ上部の濡れ雪に比べると圧密速度が約3倍も大きいこと、帯水層に長期にわたって大きな上載荷重がかかっているため、最終的には乾き密度の0.75g/cm^3濡れ密度にして、0.83g/cm^3以上にまで圧密され、これが初冬の寒気により凍結し氷化することが明かとなった。定荷重圧縮実験は、水に浸った積雪について集中的に実施した。圧力は温暖氷河や雪渓の帯水層内の積雪に、実際に作用している0.1ー2kg/cm^2の範囲を用いた。実験の結果、歪速度は積雪の粒径にほとんど依存しないこと、圧力の増加と共に増加し、圧力が1kgf/cm^2を越えると急激に圧密され易くなることなどが定量的に明かとなった。歪速度の対数と密度の間には直線関係が成り立ち、かつ、直線には乾き雪の定荷重圧縮実験と同様、ある密度に達した時点で折れ曲がりが認められた。氷化密度0.83g/cm^3に達するまでに用する時間は、簡単な理論的考察から、上載荷重を与えることにより推定可能となった。実験結果をいくつかの経験式にまとめると共に、実験結果から、氷河や雪渓の帯水層における圧密氷化機構を説明出来るようになった。圧密機構のより詳細な理解のために、圧密過程を圧密に進行に伴う積雪内部構造の変化と関連付ける計画である。また相対的に実験の困難な濡れ雪の圧密特性の研究は今後に残されている。
著者
永井 和
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成16年度から倉富日記の一部翻刻を進めてきたが、1919年〜21年までの日記についてはすでに翻刻が終わっており、一部を下記Webサイトにて限定公開した。本報告書には、その一部(1920年の1月1日から7月9日まで)を印刷掲載した。翻刻した倉富日記は図書として2009年から公刊する予定であり、すでに国書刊行会との間で出版契約が成立している。倉富家の御遺族からも刊行について内諾を得た。印刷刊行が決まったので、Webサイトでの翻刻日記の限定公開は中途で停止した。研究成果としては、まず第一に、東京控訴院検事長時代の倉富日記を材料に、日比谷焼打事件裁判における検察当局と司法省の動向を明らかにしたことがあげられる。これは、日比谷焼打事件の研究において従来まったく不明とされてきた問題であり、一次資料を用いてはじめて解明したものである。また、倉富の伝記的研究としては、韓国政府顧問として渡韓するにいたった事情のうち、Push要因というべきものを、ほぼ完壁に明らかにすることができた。これについては、先行学説がすでに存在している(平沼・三谷説)が、それを一次資料を用いて裏づけるとともに、その経緯をさらに詳細に明らかにした点で意義がある。第二の成果は、田中義一内閣時代の朝鮮総督府官制改定問題を分析することで、天皇・内閣総理大臣・朝鮮総督三者の権力関係について厳密な考察をおこない。朝鮮総督は各省大臣と同格の存在として内閣の外部に位置づけられていたが、同時に内閣総理大臣のもつ機務奏宣権によって、その行政統制権のもとにおかれていたことを明らかにした。なお研究計画では、日記の翻刻とあわせて、1920年代の宮中問題の研究を主とする予定であったが、同時並行させていた倉富勇三郎と植民地朝鮮の研究(国際日本文化研究センター松田利彦准教授主宰の共同研究「日本の朝鮮・台湾支配と植民地官僚」での分担テーマ)に時間をとられ、宮中問題については具体的な成果を発表するまでにいたらなかった、しかし、すでに研究は進んでいるので、しかるべき時に追加発表する予定である。
著者
多賀谷 光男 福井 俊郎
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

神経伝達物質はV型ATPaseによって形成されたpH差によって分泌顆粒内に蓄積されることはわかっているが、蓄積された化合物の開口分泌の機構はよくわかっていない。NSF(N-ethylmaleimide-sensitire factor)は最初ゴルジ体内小胞輸送に関与するタンパク質として発見され、さらに小胞体からゴルジ体へのタンパク質輸送、エンドリーム融合にも必要なことが明らかにされたタンパク質である。NSFの開口分泌への関与を調べるためにNSFが分泌顆粒の一種であるシナプス小胞に存在するかどうかを調べた。シナプス小胞を精製後、抗NSF抗体を用いてウエスタンブロッティングを行ったところ抗体と反応しNSFと分子量の同じタンパク質の存在を確認した。さらに、ケイ光抗体法と免疫電顕を用いてこのタンパク質が確かにシナプス小胞に結合していることを確かめた。NSFはMg・ATPによってゴルジ膜から遊離するが、このタンパク質は同様な処理でシナプス小胞から遊離せず、なんらかの機構でシナプス小胞膜に強く結合していると考えられた。NSFがシナプス小胞に存在することから、現在ヒト脳のNSFのクローニングを進めている。CHO細胞のNSFのCDNAの断片を用いてヒト脳のCDNAライブラリィをスクリーニングし、いくつかのポジティブクローンを得た。クローンをサブクローニングし、末端の構造解析を行った結果、おそらく全領域をカバーするクローンが得られたものと思われる。現在全塩基配列の決定を行っている。
著者
長友 和彦 森山 新 史 傑 藤井 久美子
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本年度の計画に基づき研究を進め、マルチリンガリズム研究会(http://jsl-server.li.ocha.ac.jp/multilinualism/index.html)(本科研のメンバーで設立)で、研究成果の一部を公表するとともに、主な研究成果をスイス・フリブールで開催の「The Fourth International Conference on Third Language Acquisition and Multilingualism」(http://www.irdp.ch/13/linkse.htm)で発表した。この国際学会では、本科研グループで、個別発表とともに「Multilingualism in Japan」というコロッキアを主宰し、日本社会における多言語習得の実態およびそこにおける課題に関する議論を展開した。研究の主なテーマは以下の通りである。1.中国語・韓国語・日本語話者によるコードスイッチングとターンテイキング2.中国語・韓国語話者による第三言語としての日本語の習得3.One Person-One Language and One environment-One Language仮説検証4.韓国語・日本語・英語話者における言語転移5.マルチリンガル児童のアイデンティティの発達6.多言語話者による言語管理7.環境の違いが多言語能力へ与える影響このような多角的な観点からの研究によって、日本社会における多言語習得の実態の解明に迫った。本研究の成果は報告書にまとめられる予定である。
著者
長舩 哲齊 長谷 榮二 角田 修次
出版者
東京医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

Euglena細胞は前培養条件を適切に選べば、葉緑体形成の初期暗過程が観察できることを見いだし暗所で起こる現象と、光照射によって初めて誘導される現象とを区別して追究することを可能にした。本報告はこの実験系を用いて、葉緑体形成の初期にみられる光合成酵素RuBisCOおよび光化学系IIのLHCP IIの細胞内局在性を連続切片疫電顕法で経時的に追跡したものである。暗所で継代培養したEuglenaを有機栄養培地中で静置培養すると細胞質内にパラミロンと共に脂質の蓄積がみられる。このような細胞を暗所で無機培地に移しCO_2を通気する。144時間後の細胞に、照度3ftーcの弱光又は強光150ftーcを照射した。弱光条件下で形成されたチラコイド膜は方向性を欠いたカ-リ-型になる。一方、強光条件下では48時間後にピレノイドが葉緑体の中央部に移動し、正常な葉緑体構造が完成された。免疫電顕法により、RuBisCOの細胞局在性を追跡するとRuBisCOは細胞核およびCOS構造、次いでプロピレノイド及びストロ-マに見られた。次に、弱光3ftーcを照射すると、従来の実験系においては弱光条件下では合成されないとされてきたLHCP IIの合成、照度3ftーcでも起こることが免疫電顕法により初めて確かめられた。すなわちLHCP IIは弱光照射2時間後、核およびCOS構造、その後ゴルジ体、次にプラスチドに観察された。その結果、細胞質で合成されたLHCP IIがゴルジ体を経由し、葉緑体に運ばれることを最初に見いだした。
著者
波潟 剛
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

1920年代から1930年代に刊行された辞書類や文芸雑誌等での「エロ」「グロ」「ナンセンス」といった語彙のあらわれ方を分析した。その結果、東アジアにおいてモダニズムが生成する際の相互関係の重要性が明らかになり、欧米からの文化翻訳に加えて、東アジア間の文化翻訳について研究する必要性があることを指摘した。また、日本のモダニズム文学とスポーツとの関わりについても今後検討課題となりうる資料を見つけ分析を加えた。
著者
長友 和彦 森山 新 史 傑 藤井 久美子
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本科研グループが設立した「マルチリンガリズム研究会」などを通して、研究を進め、その成果を雑誌や国際学会で発表するとともに、その成果に基づいた「多言語同時学習支援」の国際シンポジウムや試行プログラムも実施し、「多言語併用環境における日本語の習得、教育、及び支援」に関する全体の研究実績を報告書にまとめた。主な研究実績の概要は以下の通り。1.幼児から成人までを対象に、(1)1人1言語・3.実際に試行的な「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援プログラム」を実施し、多言語併用環境での日本語の教育や支援、そのための日本語教員養成に関する基礎的なデータを得た。環境1言語仮説(2)思考言語と優越言語(3)言語環境の変化(4)品詞(5)言語選択(6)アイデンティティ(7)場所格(8)テンス・アスペクト等の観点から、タガログ語・英語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語・中国語等の多言語併用環境における日本語習得の実態が解明された。(これらの主な成果は、スイスでの国際学会「The fourth International Conference on Third Language Acquisition and Multilingualism」のProceedings(CD-ROM版)として出版。)2.国際シンポジウム「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援」をマルチリンガリズム研究会と日本語教員養成機関(大学院>とで共催し、3力国(+台湾)での多言語学習・習得の実態の報告を受け、多言語同時学習支援プログラムと多言語併用環境での日本語の教育や支援のできる日本語教員養成プログラムの研究・開発に着手できた。3.実際に試行的な「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援プログラム」を実施し、多言語併用環境での日本語の教育や支援、そのための日本語教員養成に関する基礎的なデータを得た。
著者
三友 仁志 樋口 清秀 太田 耕史郎 実積 寿也 フィリップ 須貝 大塚 時雄 鬼木 甫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、地球環境問題を軽減するための方策として、情報通信ネットワークの活用の可能性への着目し、その方向性を見出すことを目的とする。直接的な規制や経済学的な方法に加え、情報を適切に提供することによって人々を啓蒙し、より環境にやさしい行動をとることが可能となる。他方、これによって環境問題を認知するものの、行動に移らない可能性も指摘される。本研究では以下の3つのプロセスを通じて、かかる課題の解決を試みた:(1)情報通信の普及効果を把握するための評価モデルの確立;(2)情報通信の普及段階に応じた環境対応型産業政策とそれに呼応した企業戦略の明示;(3)従来の経済理論分析の下では十分に探索されてこなかった問題の検討。
著者
田村 均
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の継続期間中に8篇の論文を公表した。最初の論文は、行為の演技論的説明によって自己犠牲的行為を説明するものであった。自己犠牲への関心は期間中のすべての論文に関わっている。第二の論文では、実験哲学の手法により、行為説明の比較文化論的な考察を行なった。そして、日本的な行為説明がしばしば行為者と周辺環境の協同による結果として行為を説明するものであることを見出した。残る6篇の論文は、周辺環境の要因を行為のためのシナリオと見なす立場をとり、自己犠牲のように見かけ上は不合理な行為でも、シナリオによって与えられる虚構空間において合理的説明が与えられるということを見出した。
著者
木鎌 耕一郎
出版者
八戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成17年度は、平成16年度に得られた知見に基づき、第二バチカン公会議以降のカトリックとユダヤ教の関係史の中にエディット・シュタイン列聖問題を位置付け、その特殊性と歴史的意義を探った。第二バチカン公会議公文書『キリスト教以外の諸宗教に対する教会の態度についての宣言』(Nostra Aetate)第4項の内容と成立経緯を検討した。さらに、ヨハネ・パウロ二世在位以降を同公文書の理念の具現化の時代と捉え、その言動を重点的に検証した。また合衆国における両宗教間の対話の展開に着目し、その中で見出された対話に介在する問題点を指摘し、その問題点が平成16年度で検討したユダヤ人のアイデンティティにおける問題と密接な繋がりにあることを見出した。また、エディット・シュタインに関する家族が描く、カトリック側からのエディット・シュタイン観とは異なる聖者の人間的な側面に着目し、そうした情報が本件に及ぼす影響や意味について考察した。さらに、2003年2月に公開されたエディット・シュタインがピオ十一世に宛てた手紙に関して、これをホロコーストの時代におけるカトリック教会の政治的姿勢と関連づける解釈の存在を指摘した上で、ユダヤ人問題の政治的解決を「非本質的」と考えていた1933年春時点のエディットの内的状況をテキストに即して明らかにした。研究目的のひとつであった本件が現代の宗教間対話の理論的側面に与える問題提起を明らかにする点については、十分に果たすことができなかった。
著者
木鎌 耕一郎
出版者
八戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

1933 年春にエディット・シュタインが教皇ピオ11 世に宛てて記したとされる手紙が、2003年に公開されたことを受けて、カトリックとユダヤ教の間で展開された論争について調査した。関連文献の収集、研究を通して、「手紙」執筆の内的動機を探るとともに、エディット・シュタインの自己理解に見られるユダヤ人としてのアイデンティティとユダヤ民族との連帯感の特性、カルメル修道会の霊性に基づく「殉教」への意志の特性について考察した。
著者
佐藤 政良 佐久間 泰一 石井 敦 塩沢 昌 吉田 貢士
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

灌漑用水の管理に関して,世界で潮流となっている参加型水管理(PIM)について,その現状と成功の共通原理を探るため,日本とアジア諸国の農業用水管理を調査,比較分析した。日本での成功は,灌概事業における全段階,全側面における農民参加の制度的保証によっており,一方韓国における公的管理強化は複雑な農村の政治経済的背景から起こり,タイなどにおけるPIM導入の困難は,政府の強い保護的姿勢と制度の未確立によるものと判断された。
著者
大槻 和夫 山元 隆春 牧戸 章 植山 俊宏 位藤 紀美子 吉田 裕久
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本科研の最終年度である平成8年度は,本プロジェクトの集約をめざして、本調査およびその分析に取り組んだ。また,新たに国語能力全体の発達に関わる総合モデルが提出され,プロジェクト全体の研究仮説とするための理論的整備が進められた。これまで取り組んできた説明的文章班,文学作品班,文章表現班,音声表現班の4領域による本調査の計画・実施・分析を行った。その際,予備調査の結果を分析・考察した結果得られた研究仮説を整備し,本調査の調査仮説とした。それをもとに大規模・広域の本調査を計画し,実施した。本調査は,おおむね平成8年末から9年初頭という年度末に行われたため,現時点で集計・分析は継続中である。本年度の研究成果を大きくまとめると次の2点に集約される。1.前年度までの調査研究によって明らかになった各領域における国語能力の発達の諸特徴を,より多くのデータをもとに確かめることができた。2.予備調査・本調査を通じて,各領域班ごとに取り組んできた研究の成果を,「統合モデル」というというかたちで,仮説の域を出ないながらもまとめることができた。本調査についての精細な考察は今後を待たねばならないが,本調査設計時に設定した研究仮説との照合を中心に得られた研究成果を研究成果報告書にまとめている。また,一部の領域班では,集計・分析の所要時間の都合上,収集したデータ全体のうち一部分を取り上げて集計・分析し,その後全体に広げていく方法を採っている。
著者
須賀 健雄
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

安定かつ迅速な電荷授受能を有するラジカルと電荷補償能を果たすイオン対を、(1)TEMPO/イオン置換ブロック共重合体、(2)汎用ブロック共重合体へのTEMPO-イオン液体の選択的集積化、の2つの手法でミクロ相分離ドメインに精密に組み込み、相分離構造(スフィア、シリンダーなど)、およびその配向性により有機薄膜素子でのメモリ特性の発現、調節の創り分けが可能であることを明らかにした。
著者
山邊 時雄 田中 一義
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本研究は、特異な磁気物性、特に強磁性あるいは反強磁性を示す有機高分子の分子設計ならびに電子状態の理論的解明などを目的として実施したもので、その研究実績の概要は以下のようである。(1)安定な強磁性有機高分子として期待できるポリ(m-アニリン)の分子設計を行い、併せてその電子状態、特にスピン状態の解析を非制限ハートリー・フォック法に法づく結晶軌道法によって行った。その結果、本ポリマーの適当な酸化により、主として窒素原子上に強磁性的スピン相関を示す電子状態をとりうることが明らかとなった。またポリマー鎖中のフェニル基への適当な置換基導入により、スピン状態の制御を行いうることも明らかとなった。(2)有機強磁性体としての潜在的可能性を有する、何種類かのポリ(フェニルニトレン)の電子状態および磁気的性質についての解析俎、非制限ハートリー・フォック法に基づく結晶軌道法によって行った。その結果、π性スピンはベンゼン環中をスピン分極を伴いながら非局在化しており、長距離磁気的秩序配列が可能であることが明らかとなった。一方、σスピンは1価の窒素上に比較的局在化していることも明らかとなった。以上により、ポリ(フェニルニトレン)はポリ(mーフェニルカルベン)と同様に、強磁性ポリマーの有効な候補でありうることが結論された。(3)3回対称性を有する非ケクレ有機分子に対して、非経験的分子軌道法を用いてその高スピン状態の理論的解析を行った。1,3,5ートリメチレンベンゼン及び1,3,5ートリアミノベンゼンのトリカチオンは、ほぼ縮退した3つの非結合軌道を持ち、4重項状態はヤーン・テラー変形した2重項状態より安定で、基底4重項であることが明らかとなった。これは別途得られている実験結果ともよく一致している。
著者
山邊 時雄 立花 明知 田中 一義
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究において実施したものは以下に記するように、実験の部と理論の部に大別される。その大要と実績を併せて記載する。1.本研究における実験の部では、熱処理法・熱CVD法および有機合成法によって種々の有機磁性体材料を調製し、併せてそれらの磁気物性を中心とする固体物性の測定・解析を行った。まず熱処理法で調製したアルキレン・アロマティック系樹脂の磁気物性として、3重項以上のスピン配列を示すことが磁化曲線ならびに電子スピン共鳴の測定より得られた。これらのことより、部分的ではあるが強磁性的なスピン相関が現われることが結論づけられた。さらに熱CVD法によりアダマンタンを炭素化させた材料では、より明確な強磁性的スピン相関の存在が結論づけられ、超常磁性との関係の議論も行っている。なおポリ(mーアニソン)については以下の部であわせて述べる。2.上記の実験的研究と並行して,理論の部では強磁性的スピン配列を示す高分子材料の分子設計・磁気的性質の予測などを実施した。計算法としては非制限的ハ-トレ-・フォック法に基く結晶軌道法解析プログラムを新たに開発した。これによりポリ(mーフェニルカルベン)の強磁性発現が確認された。さらに強磁性を示すと期待できるポリジフェニルカルベンのスタッキング配向性,ポリパラシクロファンの強磁性発現の可能性などについての解析も実施し、特に前者では特別な配向ピッチ角において単量体間の強磁性的相互作用が、発現することが明らかとなり分子設計上、有用な示唆を与えた。一方、ポリ(mーアニソン)の酸化あるいは脱水素状態が強磁性を有することを新たに予測し、あわせてこの高分子の実際の合成を開始し、所期の物質を得ることに成功した。その磁気物性の測定もあわせて実施しており、この高分子において特異的な強磁性相関の存在することを明らかにした。
著者
馬場 俊秀 小野 嘉夫 鈴木 栄一 馬場 俊秀
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

1)アニリンとシラン化合物との反応フッ化カリウムをアルミナに担持した触媒では,アニリンとトリメチルシリアルセチレンとの反応によって,対応するアミノシランが得られる。その収率は45℃,20時間で67%であった。アニリンとトリエチルシランとの反応も進行して,50℃,20時間で47%の収率で対応するアミノシランが生成した。また,アミンとしてn-ブチルアミンやt-ブチルアミンでもトリエチエルシラントとの反応が進行し,それぞれの収率は,27%,と9%であった。2)ベンズアルデヒドとフェニルアセチレンとの反応アルミナ担持アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属酸化物を触媒として,上記反応を行なうとカルコンが生成した。なかでも水酸化セシウムを担持した触媒が最も高い活性を示し,90℃,20時間でカルコンの収率は65%であった。反応時間を40時間にすると,その収率は87%に達した。フェニルアセチレンはフルフラ-ルとも反応を起こし,1-フリル-3-フェニル-2-プロペン-1-オンが生成した。その収率は,90℃,20時間の反応条件下で45%であった。しかし,他のアルデヒドとフェニルアセチレンでは反応が進行しなかった。カルコンはフェニルエチニルベンジルアルコールの異性化反応によっても生成した。炭酸セシウムをアルミナに担持した触媒で反応を行なうと,90℃,20時間でカルコンの収率は95%であった。フェニルアセチレンはシクロヘキサノンなどのケトンと反応して,対応するアルコールが生成した。この反応にはアルミナ担持カリウムアミド触媒が有効であった。例えば,フェニルアセチレンとシクロヘキサノンとの反応では,1-(フェニルエチニル)シクロヘキサン-1-オールが,90℃,20時間で収率85%で生成した。